説明

カード

【課題】 エンボス加工性や使用時のカードの反りの問題を改善したカードを提供する。
【解決手段】 少なくともオーバーシート層およびコアシート層を有するカードであり、該オーバーシート層およびコアシート層から選ばれる少なくとも一層が、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、少なくとも前記ジオール構成単位の10〜60モル%が特定の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であるポリエステル樹脂を含む樹脂層からなり、マクベス濃度計によって計測したマクベス濃度が1.0〜5.0となることを特徴とするカード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂を使用したカードに関する。詳しくは、キャッシュカード、クレジットカード、IDカード、ETCカードに代表されるカードの中で、特に耐熱性を要求される用途において使用可能なカードである。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャッシュカード、クレジットカード、IDカード等の分野においては、カード素材として主にポリ塩化ビニル(PVC)樹脂や塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が用いられている。PVC樹脂は物理的な機械特性や文字部のエンボス適性などが優れており、カード素材として好適な材料として現在も広範に用いられている。
通常は、内側にコアシートと呼ばれる2枚の白色の厚いシートを、コアシートの表裏の外側にオーバーシートと呼ばれる2枚の透明シートを配置し、オーバーシート/コアシート/コアシート/オーバーシートからなる合計4枚のシートを互いに熱融着してカードを形成している。
【0003】
しかし、近年、カードの利用用途は、キャッシュカード、クレジットカード、IDカード等に留まらず、定期券やテレホンカード、免許証、ETC用車載カード等の各方面に利用されるようになってきている。従って、このようなカードに用いる素材は従来以上に屈曲性や、スクラッチ強度、引っ張り強度、耐熱特性、耐薬品性を含めた信頼性が求められている。また、PVC樹脂は使用後の廃棄において、特に焼却時に塩化水素ガスを発生させ焼却炉を傷める問題や、その関連性は明確化されていないがダイオキシン発生との関連が指摘されている。
【0004】
これらの事情から機械特性に優れ、廃棄時の問題を生じないカード材料として例えば、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の一部を1,4シクロヘキサンジメタノールで置換した、実質的に非結晶性ポリエステル樹脂(PETG)を使用したPETGカードが注目されている。PETGは、印刷、磁気テープ貼り、プレス融着等のカード加工において塩ビに近いカード加工適性を持ち、塩ビシートと同じ設備を用いてカード化できる利点がある。しかしながら、PETGのガラス転移温度は80℃前後であり、PETG材料のみのカードでは、エンボス文字の割れが生じ易いことと、エンボスが熱で変形し易いこと、また高温での使用時にカードがたわんでしまうという問題があった。
【0005】
キャッシュカード、クレジットカード等は近年、4行エンボスのように多数行の文字エンボスを行うことが多くなっているため、エンボス加工性やエンボス加工後のカードの反りの問題は特に顕著になってきている。また、車載用途において、夏時に車の中の温度は60℃前後になり、カードの歪みやカールを生じさせないためには、少なくとも70℃以上の耐熱性が必要である。
【0006】
そこで耐熱性改善のために、PETGとポリカーボネート(PC)とを多層化してカード表層のオーバーシートに用いること、また、PETGとPCをブレンドした樹脂をコアシートに用いることなどが考えられている(例えば特許文献1〜4)。
【0007】
しかしながら、PCはガラス転移温度が145℃と高く耐熱性は改善されるものの、シート成形性が悪くなったり、エンボス加工性は依然として不十分であるといった現状がある。すなわちPETGとPCとをブレンドして溶融混練すると、エステルカーボネート反応が起こり、容易にシートが発泡したり、シートが褐色に着色されたり、物性が低下してしまう。更に、PCの影響によりシートの引っ張り降伏強度が大きくなりすぎて、このシートから得られたカードにエンボスを施すと、カードが大きくカールしてしまい、後述するエンボスカールが規定内に収まらないという問題が発生する。
【0008】
一方、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂(例えば特許文献5、特許文献6)は、高い透明性を持ちながらポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)の耐熱性を改善したポリエステル樹脂であり、透明性と耐熱性が要求される用途での利用が可能である。
【特許文献1】特開2000−200329号公報
【特許文献2】特開2002−96440号公報
【特許文献3】特開2002−144511号公報
【特許文献4】特開2004−130742号公報
【特許文献5】特開2002−69165号公報
【特許文献6】特開2004−67830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記の如き状況に鑑み、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂をカード素材に用いることにより、エンボス加工性や使用時のカードの反りの問題を改善することができるカードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂をカード素材に用いることにより耐熱性が向上し、エンボス加工性や使用時のカードの反りの問題を改善することを見いだし、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は下記のカードである。
少なくともオーバーシート層およびコアシート層を有するカードであり、該オーバーシート層およびコアシート層から選ばれる少なくとも一層が下記のポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層からなり、マクベス濃度計によって計測したマクベス濃度が1.0〜5.0であることを特徴とするカード。
ポリエステル樹脂(A):ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、少なくとも前記ジオール構成単位の10〜60モル%が下記式(1)または(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であるポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【化2】

(式中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のカードは、使用する樹脂の耐熱性や成形性が良好であるため、エンボス加工時のエンボス割れや反りを防止でき、また車載等の高温において使用した場合の反りやたわみ等を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のカードは、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)をコアシート材料、及び/又はオーバーシート材料に用いることにより上記課題の解決を図るものである。
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明のカードは少なくともオーバーシート層およびコアシート層を有するカードである。本発明のカードはカードの表層となる2層のオーバーシート層を有する。本発明のカードは前記2層のオーバーシート層間に少なくとも一つのコアシート層を有する。本発明のカードはコアシート層を2層有することが好ましい。すなわち、オーバーシート/コアシート/コアシート/オーバーシートからなる合計4枚のシート層を有するカードであることが好ましい。コアシート及びオーバーシートの厚みは任意に選択できるが、一般的にコアシートに使用する隠蔽性シートの厚みは100μm〜1mm、オーバーシートに使用する透明シートの厚みは20μm〜200μmの間とすることが好ましい。
【0015】
本発明のカードに用いられるポリエステル樹脂(A)は、ジオール単位中に環状アセタール骨格を有するジオール単位を10〜60モル%含む。前記環状アセタール骨格を有するジオール単位は前記一般式(1)または(2)で表される化合物に由来する単位である。
一般式(1)及び(2)の化合物としては3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
【0016】
本発明のカードに用いられるポリエステル樹脂(A)は、ジオール単位中に環状アセタール骨格を有するジオール単位を10〜60モル%、好ましくは15〜55モル%、更に好ましくは20〜50モル%含む。該ジオール単位が10モル%未満の場合には、ポリエステル樹脂の耐熱性が十分でない場合が多く、更に結晶性が大きくなるために成形加工性が悪くなる。また60モル%より多い場合も結晶性が大きくなるために成形加工性が悪くなり、更にガラス転移温度が高くなりすぎるためにオーバーシートとコアシートとの熱融着時に高温が必要となってしまう問題がある。
【0017】
また、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。本発明のポリエステル樹脂(A)の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。例示したジオール単位は単独で使用する事もできるし、複数を併用する事もできる。
【0018】
また、本発明のポリエステル樹脂(A)に用いられるジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。本発明のポリエステル樹脂(A)の機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。例示したジカルボン酸は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は測定温度240℃、剪断速度100s-1で測定した際に700〜5000Pa・sの範囲であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲であると成形性に優れる。
【0020】
参考のためであるが、まず、従来のPETGカードの層構成を説明すると、コア材料としては厚み、0.28mm程度の白色PETGコアシートを使用し、オーバーシートとしては厚み、0.10mm程度の透明PETGシートを使用する。
コアシートを2枚使用するのは、カードには表面側と裏面側の印刷があり、1枚にすると、通常、ロスが増えることから両面印刷を採用しないか、表裏の印刷色数が異なるため、2枚にして表裏を分けて印刷するのが合理的であることによるが、1枚のコアシートに両面印刷するものであっても勿論構わない。あるいは、このコアシートと隠蔽層、絵柄層、OPニスを印刷したオーバーシートの積層体を一緒に重ねて鏡面板に挟んで熱圧プレスするものでもよい。
【0021】
本発明のカードは、表面に文字エンボスした際にエンボスカールが、JISX6301:1998が規定する「配布前のエンボスされたカードの凸側を上にして定盤に置いたとき、定盤の平面から凸側の表面の中でエンボスされていないあらゆる部分までの最大値が、そのカードの厚みを含めて2.5mmを超えてはならない」の条件を容易に満たすことができる。エンボス行が少ない場合、従来の塩ビカードでは、この規格を満たすが、4行エンボスのPETGカードでは、2.4mm程度となる。エンボス当初は規格値を満たすが耐熱試験を行う場合はカールが増大する可能性がある。
【0022】
本発明のカードの構成としては、コアシート、オーバーシート共に先述した環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)であることが望ましいが、この構成に限られたものではない。
【0023】
本発明に使用するコアシートには、先述した環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)や従来のPETG、更にはPETGとPCとのブレンド樹脂なども使用することができる。これらのシートには白色無機顔料がシート中、5重量%以上添加されていることが好ましい。添加量が5重量%未満では、JIS規格で定められているカードの光透過濃度を満たさなくなるからである。添加濃度の上限は特に限定されないが、添加濃度が高過ぎるとシートの物性や加工性が低下するので、その上限は概ね30重量%程度である。
【0024】
カードの光透過濃度は、マクベス濃度計で計測したマクベス濃度が1.0〜5.0の範囲となることが好ましい。さらに好ましくは1.5〜4.0、最も好ましくは2.0〜3.0の範囲である。マクベス濃度が1.0より低い場合、十分な隠蔽性が得られず、また5.0より大きいと白色無機顔料が多すぎることとなり、上記のようにシート物性や加工性が低下してしまう。また白色無機顔料の濃度が高いことによりシート表面に凝集物が析出してしまうという欠点も有する。
【0025】
本発明に使用するオーバーシートには、先述した環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)からなるシートを使用することができ、また従来のPETGシート単独やPETG/PC/PETGの3層構成からなる材料なども使用することもできる。
【0026】
これらのオーバーシートを使用すると、比較的低温条件(90°C〜120°C)でコアシートと熱融着でき、熱プレスの際、印刷した絵柄が歪むことがなく、プレス時に流動化して「空気溜まり跡」が生じることもないからである。PETG/PC/PETGの3層構成の層厚は、1:2:1程度が好ましい。これよりPCが薄くては、耐熱性が低下するからであり、厚くては磁気テープの埋め込み性が低下するからである。
【0027】
本発明に使用するコアシート、及び/又はオーバーシートには、先述した環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)と他の樹脂とをブレンドした樹脂を用いても良い。他の樹脂としては、これに限られたものではないが、PC、PETG、イソフタル酸変性PET、PET、PEN、ポリアリレート、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂および脂環式ポリオレフィン樹脂等である。これらのなかでも環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)との相溶性、透明性、耐熱性等の観点から、PCを用いるのが好ましい。コアシート、及び/又はオーバーシートに占める環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂(A)の割合は、特に制限はないが、30重量%以上が好ましく、更に好ましくは35重量%以上、最も好ましくは40重量%以上である。ポリエステル樹脂(A)が30重量%より少ないと、耐熱性、成形性、透明性、更には機械物性の低下、またこれらの両立が困難となる。
【0028】
本発明のカードでは、特に制限されることはないが、コアシートとオーバーシートとを先述したように比較的低温で熱融着することが可能であり、また接着剤や接着シート/フィルムを用いて両者を接着することも可能である。また、その厚み構成比率は、任意に選択することができるが、コアシート合計厚み:オーバーシート合計厚みは95:5〜50:50、好ましくは90:10〜55:45、更に好ましくは80:20〜60〜40の範囲である。
【0029】
本発明に使用するコアシート、及び/又はオーバーシートのシート化の方法は、溶融押出法、溶液流延法などが挙げられるが、本発明では経済性とフィルムの性能とのバランスから適宜選択すればよい。中でも溶融押出法を用いるのが好ましい。
【0030】
溶融押出法としては、Tダイ押出法、インフレーション法など挙げられるが、Tダイ押出法が望ましい。樹脂を溶融させる装置としては一般的に用いられる押出機を使用すればよく、単軸押出機でも多軸押出機でもよい。押出機は一つ以上のベント有していても良く、ベントを減圧にして溶融している樹脂から水分や低分子物質などを除去してもよい。また、押出機の先端あるいは下流側には必要に応じて金網フィルターや焼結フィルター、ギヤポンプを設けても良い。ダイは、Tダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイ、スタックプレートダイなどを用いることができる。
【0031】
押出温度は200〜300℃であることが好ましく、より好ましくは210〜280℃、特に好ましくは220〜270℃である。押出温度が上記範囲にある場合、平滑性、機械物性等のバランスに優れたシートが得られる。
【0032】
ダイから押出された溶融樹脂の冷却方法は公知の方法を用いることができる。一般的には冷却ドラムにて冷却することができる。本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は実質的に非晶性の樹脂であるため、冷却ドラムの温度は幅広く設定することが可能である。平滑性に優れたシートを得るには、冷却ドラムの温度は樹脂のガラス転移温度の上下30℃とするのが好ましく、さらに好ましくは樹脂のガラス転移温度の上下20℃、特に好ましくは樹脂のガラス転移温度の上下10℃である。平滑性や厚み精度が良好なシートを得るには、装置に応じて吐出速度、引き取り速度、冷却ドラムの温度をコントロールすることが好ましい。
【0033】
本発明のカードには、所望により通常に使用される添加剤、例えば安定剤、滑剤、可塑剤、艶消し剤、乾燥調整剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、着色剤、補色剤、表面平滑剤、硬化促進剤、補強剤、加工助剤、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、増粘剤、その他無機充填剤等、またはポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド、AS樹脂等の樹脂、オリゴマーを添加することもできる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0035】
本実施例及び比較例で使用した主原料を以下に示す。
・ PETG:イーストマンケミカル(株)製、商品名:PETG6763
・ ポリエチレンテレフタレート(PET):日本ユニペット(株)製、商品名:UNIPET RT553C
・ ポリカーボネート(PC):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンH−3000
・ ブレンド樹脂(B):下記ポリエステル樹脂(A1)とPCとを80:20(重量比)にてドライブレンドし二軸押出機にて溶融混練しペレット化した(ブレンド樹脂(B)。
・ ブレンド樹脂(C):下記ポリエステル樹脂(A1)とPCとを50:50(重量比)にてドライブレンドし二軸押出機にて溶融混練しペレット化した(ブレンド樹脂(C)。
・ ブレンド樹脂(D):下記ポリエステル樹脂(A1)とPCとを30:70(重量比)にてドライブレンドし二軸押出機にて溶融混練しペレット化した(ブレンド樹脂(D)。
・ ブレンド樹脂(E):PETGとPCとを60:40(重量比)にてドライブレンドし二軸押出機にて溶融混練しペレット化した(ブレンド樹脂(E))
【0036】
〔ポリエステル樹脂(A1)、(A2)の製造〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、攪拌機、過熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル樹脂製造装置に表1に記載量のテレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法にてエステル化反応を行った。得られたエステルに表1に記載量の解重合用エチレングリコールと、二酸化ゲルマニウムを加え、225℃、窒素気流下で解重合を行なった。生成する水を留去しつつ3時間反応を行った後、215℃、13.3kPaでエチレングリコールを留去した。得られたエステルに表1に記載量のテトラ−n−ブチルチタネート、酢酸カリウム、リン酸トリエチル、SPGを添加し、225℃13.3kPaで3時間反応を行った。得られたエステルを昇温、減圧し、最終的に270℃、高真空化(300Pa以下)で重縮合反応を行い、所定の溶融粘度となったところで反応を終了しポリエステル樹脂(A1)、(A2)を得た。
尚、表中の略記の意味は下記の通りである。
・PTA:テレフタル酸
・SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエテチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
・EG:エチレングリコール
・GeO2:二酸化ゲルマニウム
・TBT:テトラ−n−ブチルチタネート
・AcOK:酢酸カリウム
・TEP:リン酸トリエチル
【0037】
ポリエステル樹脂(A1)、(A2)の評価方法は以下の通りである。
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は、ポリエスエル樹脂20mgを1gの重クロロホルムに溶解し、H−NMR測定、ピーク面積比から算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(3)分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgを20gのクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMn、Mw/Mnとした。GPCは東ソー株式会社製TOSOH 8020に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/mnの流速で流し、UV検出器で測定した。
(4)溶融粘度
測定装置は東洋精機製 Capirograph 1C(キャピログラフ)を用い、温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)で測定を行った。
【0038】
〔シートの製造方法〕
ポリエステル樹脂(A1)、ブレンド樹脂(B)、(C)、(D)、PETG、PETそれぞれ100重量部に対して酸化チタン10重量部をドライブレンドし、65mm押出機を用いてTダイ押出法にて0.3mm、又は0.5mm厚のコアシートを作製した。また、同様にポリエステル樹脂(A1)、(A2)、PETG、ブレンド樹脂(E)を用いて0.1mm、又は0.15mm厚のオーバーシートを製造した。
【0039】
〔カードの作製〕
コアシートを2枚重ねた上下にオーバーシートを表裏それぞれに1枚ずつ重ね、プレス機を用いて110℃、10kgf/cm、加熱時間10分間の条件でプレスを行い、コアシートとオーバーシートとを熱融着で一体化してカード構成のシートを作製した。更に所定のカードサイズ(85.6mm×54.0mm)に打ち抜きカードとした。
【0040】
〔評価方法〕
次に本実施例及び比較例中の多層シートの評価方法は以下の通りである。
(1)エンボス
上記カードに対して手動式エンボッサーを使用して4行の文字エンボスを行った。そのカードの反り量(mm)をJIS X6301にしたがって測定し、また刻印文字を実体顕微鏡により20倍に拡大し、文字割れの有無を観察した。
○:文字割れがないもの
△:一部文字割れが生じたが使用できるレベルのもの
×:文字割れが生じたもの
(2)融着性
オーバーシートとコアシートを110℃で10分間プレスした後、切り込みを入れ2枚のシートが剥離してしまうかどうかを確認した。
○:シートが完全に融着して剥離が生じないもの
△:シートが一部剥離してしたが使用できるレベルのもの
×:シートが完全に剥離してしまったもの
(3)耐熱性
70℃の乾燥機にカードを立てかけ、カードがたわむかどうかを確認した。
○:たわまなかったもの
△:少したわむが使用できるレベルのもの
×:完全にたわむもの
(4)柔軟温度
カードを用いてJIS K6734準拠して測定を行った。
(5)マクベス濃度
カードのマクベス濃度は、マクベス社製マクベス濃度計(型式TR-924)を用いて測定した。
【0041】
【表1】

【0042】
〔実施例1〜7,比較例1〜3〕
評価結果を表2、3、4に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のカードは、耐熱性やエンボス加工性に優れており、キャッシュカード、クレジットカード、IDカード等の各種カード、特に耐熱性が必要とされる用途(例えば、車載用ETCカード)に用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともオーバーシート層およびコアシート層を有するカードであり、該オーバーシート層およびコアシート層から選ばれる少なくとも一層が下記のポリエステル樹脂(A)を含む樹脂層からなり、マクベス濃度計によって計測したマクベス濃度が1.0〜5.0であることを特徴とするカード。
ポリエステル樹脂(A):ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、少なくとも前記ジオール構成単位の10〜60モル%が下記式(1)または(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であるポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【化2】

(式中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【請求項2】
コアシート層の合計厚みとオーバーシート層の合計厚みとの比率が95:5〜50:50であることを特徴とする請求項1に記載のカード。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が80℃以上である請求項1または2に記載のカード。
【請求項4】
測定温度240℃、剪断速度100s-1で測定した際のポリエステル樹脂(A)の溶融粘度が700〜5000Pa・sの範囲である請求項1ないし請求項3に記載のカード。
【請求項5】
該環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である請求項1ないし請求項4に記載のカード。
【請求項6】
環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、主として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である請求項1ないし請求項5に記載のカード。
【請求項7】
該ジカルボン酸単位が、主として、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である請求項1ないし請求項6に記載のカード。

【公開番号】特開2009−148983(P2009−148983A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329160(P2007−329160)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】