説明

カーペット用バッキング剤及び生分解性繊維使用カーペット

【課題】 少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの該生分解性繊維の脆化を防止して十分な耐久性を確保でき、カーペットの柔軟性や風合いを維持し、かつ十分な接着性を確保できるカーペット用バッキング剤を提供する。また、良好な柔軟性や風合い、十分な接着性と耐久性を備えた生分解性繊維使用カーペットを提供する。
【解決手段】 この発明のカーペット用バッキング剤は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有したエマルジョンからなり、pHが4〜7であることを特徴とする。この発明の生分解性繊維使用カーペットは、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層4の裏面に、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有したエマルジョンからなりpHが4〜7であるバッキング剤6を塗布、乾燥して得られたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの裏打ち用に用いられるバッキング剤及び生分解性繊維使用カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の社会的要請に応えるために様々な取り組みが行われている。カーペットの分野においても、地球環境保護の観点から、使用済みのカーペットをリサイクル利用する方法が種々提案されてはいるが、実用化には至っておらず、このために使用済みカーペットの殆どはリサイクルされることなく産業廃棄物として焼却または埋め立て処理されているのが実状である。このような状況の中、環境を保護するべく、カーペットを構成する材料を生分解性材料へ転換する試みが行われている。
【0003】
例えば、脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性繊維によって構成された基布に、脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性繊維からなるパイルが植設され、基布の裏面に脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性重合体からなるフィルムが熱圧着されて裏打樹脂層が形成された生分解性カーペットを用いることが提案されている(特許文献1参照)。即ち、カーペットを構成するパイル糸、1次基布、裏打樹脂層の全てを脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性樹脂で形成する技術が開示されている。
【0004】
また、ポリ乳酸繊維の不織布からなる基布に、ポリ乳酸マルチフィラメント嵩高捲縮糸からなる表糸をタフトし、前記基布の裏面に、ポリ乳酸繊維の不織布からなる2次基布を接着してなるマットが開示されている(特許文献2参照)。即ち、マットを構成する表糸、1次基布、2次基布をポリ乳酸(生分解性樹脂)で形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−248047号公報(請求項3)
【特許文献2】特開2003−189995号公報(請求項1、6、7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の生分解性カーペットでは、基布の裏面に脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性重合体からなるフィルムを熱圧着して裏打樹脂層を形成しているので、カーペットが硬くなってしまって柔軟性や風合いが損なわれるという問題があった。更に、このような生分解性重合体からなる裏打樹脂層では、パイル抜糸強度も十分に得られないという問題もあった。
【0006】
また、上記特許文献2では、基布の裏面に、ポリ乳酸繊維の不織布からなる2次基布を張り付けるに際し、どのような接着剤を用いるかについては何ら記載されていない。即ち、カーペットの柔軟性、風合い、接着性、耐久性等の各種性能を確保する上で、いかなる接着剤を用いて接着して裏打層を形成するのかということに関して何ら記載がない。例えば、従来公知のSBRラテックスエマルジョンを用いて接着して裏打層を形成すると、時間の経過とともにポリ乳酸繊維が脆化してしまって十分な耐久性が得られない。
【0007】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの該生分解性繊維の脆化を防止し得て十分な耐久性を確保できると共に、カーペットの柔軟性や風合いを損なうことがなく、かつ十分な接着性を確保できるカーペット用バッキング剤、及び良好な柔軟性や風合いを備えると共に十分な接着性と耐久性を備えた生分解性繊維使用カーペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明者は鋭意研究の結果、従来バッキング剤として一般的に用いられているSBRラテックスエマルジョン等のラテックスエマルジョンでは、エマルジョンの保存安定性を確保すべく液のpHが弱アルカリ性(例えばpH10程度)に調整されているのであるが、該エマルジョンによって形成された弱アルカリ性のバッキング剤層の存在によって脂肪族ポリエステル等からなる生分解性繊維が脆化することを明らかにした。しかして、このような生分解性繊維の脆化を防止できるバッキング剤を鋭意検討した結果、バッキング剤のpHを4〜7の範囲に設定することによって生分解性繊維の脆化を防止できることを見出すに至り、この発明を完成した。即ち、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの裏打ち用に用いられるバッキング剤であって、前記バッキング剤は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有したエマルジョンからなり、前記バッキング剤のpHが4〜7であることを特徴とするカーペット用バッキング剤。
【0010】
[2]前記バッキング剤のpHが6〜7である前項1に記載のカーペット用バッキング剤。
【0011】
[3]前記接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体として、共役ジエン系共重合体、アクリル系共重合体及びエチレン−酢酸ビニル系共重合体からなる群より選ばれる1種または2種以上の共重合体が用いられている前項1または2に記載のカーペット用バッキング剤。
【0012】
[4]前記接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体としてカルボキシ変性スチレンブタジエン系共重合体が用いられている前項1または2に記載のカーペット用バッキング剤。
【0013】
[5]前記バッキング剤は、さらに充填剤を含有している前項1〜4のいずれか1項に記載のカーペット用バッキング剤。
【0014】
[6]前記充填剤が、水酸化アルミニウム又は/及び水酸化マグネシウムである前項5に記載のカーペット用バッキング剤。
【0015】
[7]少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面に、前項1〜6のいずれか1項に記載のバッキング剤を塗布、乾燥して得られたことを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。
【0016】
[8]少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層を介して二次基布が積層一体化されてなり、前記バッキング剤層は、前項1〜6のいずれか1項に記載のバッキング剤の塗布、乾燥により形成されたものであることを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。
【0017】
[9]前記二次基布は、生分解性繊維を用いて構成されている前項8に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【0018】
[10]前記生分解性繊維として、脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性繊維が用いられている前項7〜9のいずれか一項に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【0019】
[11]前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である前項10に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【0020】
[12]少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層が積層されてなり、前記バッキング剤層は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有してなり、前記バッキング剤層のpHが4〜7であることを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。
【発明の効果】
【0021】
[1]の発明では、バッキング剤のpHが4〜7であるから、このバッキング剤を用いて、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されたカーペットの裏打ちを行えば、得られたカーペットの使用中に生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を備えた生分解性繊維使用カーペットの提供が可能となる。また、バッキング剤は、ゴム弾性を備えた重合体を含有しているから、得られたカーペットは良好な柔軟性及び風合いを備えたものとなる。
【0022】
[2]の発明では、バッキング剤のpHが6〜7であるから、バッキング剤自体の保存安定性が十分に確保される。
【0023】
[3]の発明では、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体として、共役ジエン系共重合体、アクリル系共重合体及びエチレン−酢酸ビニル系共重合体からなる群より選ばれる1種または2種以上の共重合体を用いているから、接着強度をさらに高めることができると共に、カーペットに十分な柔軟性や風合いを付与することができる。
【0024】
[4]の発明では、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体としてカルボキシ変性スチレンブタジエン系共重合体を用いているから、接着強度をさらに一層高めることができる。
【0025】
[5]の発明では、さらに充填剤を含有しているから、コストを低減できる。
【0026】
[6]の発明では、充填剤として、水酸化アルミニウム又は/及び水酸化マグネシウムを用いており、この水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを添加することでバッキング剤のpHを4〜7に容易に調整することができることから、pH調整のために添加するpH調整剤の添加量を低減できる。
【0027】
[7]の発明のカーペットは、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面に、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のバッキング剤を塗布、乾燥して得られたものであるから、カーペットの使用中に生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を備えたものとなる。また、表皮材層の少なくとも一部に生分解性繊維を用いており、該生分解性繊維は、土壌中や水中において時間が経過すると、微生物や酵素等の作用によって水と二酸化炭素に分解されるから、環境負荷が小さくて済む。更に、バッキング剤層は、ゴム弾性を備えた重合体を含有しているから、カーペットは良好な柔軟性及び風合いを備えたものとなる。
【0028】
[8]の発明のカーペットは、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層を介して二次基布が積層一体化されてなり、バッキング剤層は、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のバッキング剤の塗布、乾燥により形成されたものであるから、カーペットの使用中に生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を備えたものとなる。また、表皮材層の少なくとも一部に生分解性繊維を用いており、該生分解性繊維は、土壌中や水中において時間が経過すると、微生物や酵素等の作用によって水と二酸化炭素に分解されるから、環境負荷が小さくて済む。更に、バッキング剤層は、ゴム弾性を備えた重合体を含有しているから、カーペットは良好な柔軟性及び風合いを備えたものとなる。
【0029】
[9]の発明では、二次基布は、生分解性繊維を用いて構成されているので、環境負荷のより少ないカーペットを提供できる。
【0030】
[10]の発明では、生分解性繊維として、脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性繊維が用いられているから、より生分解されやすいものとなり、土壌中や水中において生分解されるまでの期間を短縮できる利点がある。
【0031】
[11]の発明では、前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であるから、紡糸性が向上するし、コストも低減できる。
【0032】
[12]の発明のカーペットは、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層が積層されてなり、バッキング剤層は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有してなり、バッキング剤層のpHが4〜7であることを特徴とするものであるから、カーペットの使用中に生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を備えている。また、表皮材層の少なくとも一部に生分解性繊維を用いており、該生分解性繊維は、土壌中や水中において時間が経過すると、微生物や酵素等の作用によって水と二酸化炭素に分解されるから、環境負荷が小さくて済む。更に、バッキング剤層は、ゴム弾性を備えた重合体を含有しているから、カーペットは良好な柔軟性及び風合いを備えたものとなる。なお、この[12]の発明では、バッキング剤層のpHが4〜7であることを規定した発明であり、従ってバッキング剤としてアンモニア等の揮発性アルカリ性物質を添加して中和したpH7を超える(例えばpH8〜9程度)バッキング剤を用い、これを塗布、乾燥することによって(揮発性のアルカリ性物質が揮発して)形成されたpH4〜7のバッキング剤層を備えた構成のカーペットも包含されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
この発明に係るカーペット用バッキング剤は、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの裏打ち用に用いられるバッキング剤であり、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有したエマルジョンからなり、該エマルジョンのpHが4〜7であることを特徴とする。
【0034】
上記バッキング剤は、pHが4〜7に設定されているから、このバッキング剤を用いて、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されたカーペットの裏打ちを行えば、得られたカーペットは、その使用中において生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を備えたものとなる。また、バッキング剤のpHが4以上であるので、保存中のバッキング剤の安定性が良好なものとなる。
【0035】
前記バッキング剤のpHは4〜7の範囲に設定される必要がある。pHが4未満では、バッキング剤の保存安定性及び機械的安定性が悪くなる。またpHが7を超えると、生分解性繊維の脆化が促進されて十分な耐久性を確保することができない。中でも、バッキング剤のpHは5〜7の範囲に設定されるのがより好ましく、特に好適な範囲はpH6〜7である。
【0036】
前記バッキング剤のpHを4〜7に調整するのは、ゴム弾性を備えた重合体のエマルジョンを安定化するために一般に使用されるpH調整剤(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ性物質)の添加をしないものとする、又は前記pH調整剤の添加を最小限に抑制することによって調整可能である。また、後述するようにバッキング剤に充填剤を含有せしめる場合には、充填剤の種類や添加量を調整することによりバッキング剤のpHを4〜7に調整することが可能である。更に、充填剤以外の各種添加剤をバッキング剤に含有せしめる場合においても、該添加剤の種類や添加量を調整することによりバッキング剤のpHを4〜7に調整することが可能である。
【0037】
なお、前記[12]の発明では、前述したように、バッキング剤としてアンモニア等の揮発性アルカリ性物質を添加して中和したpH7を超えるバッキング剤を用い、これを塗布、乾燥することによって揮発性アルカリ性物質が揮発して形成されたpH4〜7のバッキング剤層を備えた構成のカーペットも包含するものである。前記乾燥後に形成されたバッキング剤層のpHは、これを再度水溶液とすることによって容易に測定することが可能である。
【0038】
この発明のバッキング剤において、分散媒としては水を用いるのが好ましいが、メタノール等の水溶性溶媒や、トルエン等の有機溶媒を使用しても良い。また、この発明のバッキング剤の固形分含有量に特に制限はないが、固形分含有量は20〜80質量%であるのが好ましい。
【0039】
前記接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体としては、特に限定されるものではないが、共役ジエン系共重合体、アクリル系共重合体及びエチレン−酢酸ビニル系共重合体からなる群より選ばれる1種または2種以上の共重合体を用いるのが好ましい。この場合には、接着強度を高めることができるし、カーペットに優れた柔軟性や風合いを付与することができる。
【0040】
前記共役ジエン系共重合体としては、特に限定されるものではないが、例えばスチレン−ブタジエン系共重合体、メチルメタアクリレート−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体等が挙げられる。また、前記アクリル系共重合体としては、特に限定されるものではないが、例えば(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン−ブタジエン系共重合体を用いるのが好ましく、特に好適なのはカルボキシ変性スチレンブタジエン系共重合体である。
【0041】
前記バッキング剤は、さらに充填剤を含有しているのが好ましい。充填剤の含有によりコストを低減できる。前記充填剤としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、カオリンクレー等が挙げられる。中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを用いるのが好ましく、この場合にはバッキング剤のpHを4〜7に容易に調整することができるので、pH調整のために添加するpH調整剤の添加量を低減できる。
【0042】
前記充填剤の含有量は、前記バッキング剤の重合体100質量部に対して300質量部以下とするのが好ましい。
【0043】
この発明のバッキング剤には、必要に応じて、老化防止剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、難燃剤、撥水剤、防虫剤、抗菌剤、芳香剤、着色剤、増粘剤等の各種添加剤を添加しても良い。但し、混合後のバッキング剤のpHは4〜7に調整されている必要がある。
【0044】
次に、この発明に係る生分解性繊維使用カーペット(1)の一実施形態を図1に示す。このカーペット(1)は、少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層(4)の裏面にバッキング剤層(6)を介して2次基布(5)が積層一体化されてなるものであり、前記バッキング剤層(6)は、この発明のバッキング剤の塗布、乾燥により形成されたものである。本実施形態では、前記表皮材層(4)として、カーペット基材(1次基布)(3)の上面にパイル(2)が植設されてなるパイルカーペットが用いられている。
【0045】
上記生分解性繊維使用カーペット(1)では、バッキング剤層(6)は、pH4〜7のバッキング剤の塗布、乾燥により形成されているから、カーペットの使用中に生分解性繊維が脆化されることがなく、十分な耐久性を確保することができる。また、バッキング剤は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体からなるので、パイル(2)を1次基布(3)に強固に固着すると共に、下側の2次基布(5)を1次基布(3)に十分な接着強度で接着一体化することができる。即ち、十分なパイル抜糸強度を確保できると共に、十分な剥離強度(1次基布と2次基布の剥離強度)を確保することができる。更に、バッキング剤層(6)は、ゴム弾性を備えた重合体を含有しているから、カーペットは良好な柔軟性及び風合いを備えたものとなる。
【0046】
前記表皮材層(4)としては、その表面にパイル(2)を有していても良いし、パイルを有していなくともいずれであっても良く、特に限定されるものではないが、前者の例として例えばカーペット基材(1次基布)(3)の表面にパイル(2)が植設されたもの、タフテッドカーペット、織カーペット、編カーペット、電着カーペット等を例示でき、後者の例として例えばニードルパンチ不織布等を例示できる。
【0047】
前記カーペット基材(1次基布)(3)としては、例えば、糸を製編織した布地のほか、各種の繊維や糸を、ニードリング等により機械的に接結したり、あるいは接着剤等により化学的に接結した不織布等を使用できる。この1次基布(3)としては、環境負荷を低減する観点から、少なくとも一部が生分解性繊維で構成された基布を用いるのが好ましい。
【0048】
前記パイル層(2)の形成手段は、特に限定されるものではなく、例えばモケット等のように経パイル織、緯パイル織等の製織によりパイル層を形成する手段、タフティングマシン等によりパイル糸を植毛してパイル層を形成する手段、編機によりパイル層を形成する手段、接着剤を用いてパイル糸を接着してパイル層を形成する手段等を例示することができる。パイル形態も特に限定されず、カットパイル、ループパイル等いずれの形態であっても良い。このパイル(2)は、環境負荷を低減する観点から、少なくとも一部が生分解性繊維で構成されているのが好ましい。
【0049】
前記2次基布(5)としては、特に限定されるものではなく、例えばニードルパンチ不織布、スパンボンド不織布等が挙げられる。この2次基布(5)は、環境負荷を低減する観点から、少なくとも一部が生分解性繊維で構成されているのが好ましい。
【0050】
前記「生分解性繊維」は、土壌中や水中において時間が経過すると、微生物や酵素等の作用によって水と二酸化炭素に分解される繊維である。前記生分解性繊維としては、特に限定されるものではないが、脂肪族ポリエステルを主成分(50質量%以上含有)とする生分解性繊維を用いるのが好ましい。この場合には、生分解速度が速いので、土壌中や水中において生分解されるまでの期間を短縮できる。
【0051】
前記脂肪族ポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンアジペート、ポリエチレンスベレート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンセバケート、ポリエチレンデカメチレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリテトラメチレンサクシネート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート等の合成脂肪族ポリエステル、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−β−プロピオラクトンのようなポリ−ω−ヒドロキシアルカノエートからなる合成脂肪族ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸等のポリ−α−オキシ酸等が挙げられる。これらの中でも、ポリ乳酸を用いるのが好ましく、この場合には紡糸性を向上できるし、コストも低減できる。これら脂肪族ポリエステルと共重合またはブレンドする成分としては、例えば芳香族ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系ポリマー等が挙げられる。
【0052】
なお、前記パイル(2)、1次基布(3)、2次基布(5)には、必要に応じて、静電気防止剤、消臭剤、防炎剤、防虫剤、抗菌剤、芳香剤等の各種添加剤を添加しても良い。
【0053】
この発明において、前記表皮材層(4)の裏面にバッキング剤を塗布する手法は特に限定されない。バッキング剤の塗布手法としては、例えばロールコート法、スプレーコート法、ダイレクトコート法等が挙げられる。塗布後の乾燥温度は130℃以下に設定するのが好ましく、特に好適なのは100〜130℃である。なお、生分解性繊維を高温度条件下に長く保持すると、繊維強度が低下しやすく脆くなってしまうので、高温での乾燥は避けたほうが良い。
【0054】
前記バッキング剤の塗布量(付与量)は、重合体固形分換算で50〜800g/m2に設定するのが好ましい。50g/m2未満では十分な接着強度が得られ難くなるので好ましくない。また800g/m2を超えるとカーペットの柔軟性が低下するので好ましくない。
【実施例】
【0055】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0056】
<実施例1>
総繊度2800デシテックス(1400dtex/2p、撚り数60回/m)、単繊維繊度4.5デシテックスのポリ乳酸原着糸を、5/32インチゲージカットのタフティング機に仕掛け、該ポリ乳酸原着糸を、ポリ乳酸繊維製スパンボンド不織布(目付100g/m2 )からなる1次基布にタフトすることによって、ステッチ7.5/インチ、パイル長8mmのカットパイルカーペット表皮(表皮材層)を作成した。
【0057】
一方、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)と、水酸化アルミニウム300質量部と、pH調整剤として適量の水酸化ナトリウムと、適量の水(分散媒)を混合することによってpH6.5のバッキング剤(エマルジョン)を調製した。このバッキング剤の固形分含有量は70質量%であった。
【0058】
前記バッキング剤を、ロールコーター法により塗布量900g/m2 で前記カーペット表皮の裏面に塗布し、続いて目付100g/m2 のポリ乳酸繊維製ニードルパンチ不織布(2次基布)を貼合して積層した後、120℃で20分間乾燥させて、生分解性繊維使用カーペットを得た。
【0059】
<実施例2〜9、比較例1〜3>
共重合体ラテックスの種類と配合量、充填剤の種類と配合量、バッキング剤の固形分含有量及びバッキング剤のpHを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして生分解性繊維使用カーペットを得た。なお、実施例4、5及び比較例3については、バッキング剤をロールコーター法により塗布量500g/m2 でカーペット表皮の裏面に塗布し、2次基布を貼合することなく、120℃で20分間乾燥させて、生分解性繊維使用カーペットを得るものとした。
【0060】
<実施例10>
総繊度2800デシテックス(1400dtex/2p、撚り数60回/m)、単繊維繊度4.5デシテックスのポリグリコール酸原着糸を、5/32インチゲージカットのタフティング機に仕掛け、該ポリグリコール酸原着糸を、ポリグリコール酸繊維製スパンボンド不織布(目付100g/m2 )からなる1次基布にタフトすることによって、ステッチ7.5/インチ、パイル長8mmのカットパイルカーペット表皮(表皮材層)を作成した。
【0061】
一方、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)と、水酸化アルミニウム300質量部と、pH調整剤として適量の水酸化ナトリウムと、適量の水(分散媒)を混合することによってpH6.5のバッキング剤(エマルジョン)を調製した。このバッキング剤の固形分含有量は70質量%であった。
【0062】
前記バッキング剤を、ロールコーター法により塗布量900g/m2 で前記カーペット表皮の裏面に塗布し、続いて目付100g/m2 のポリグリコール酸繊維製ニードルパンチ不織布(2次基布)を貼合して積層した後、120℃で20分間乾燥させて、生分解性繊維使用カーペットを得た。
【0063】
上記のようにして得られた各カーペットに対し下記評価法に基づいて評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
<バッキング剤の保存安定性の評価>
バッキング剤調製直後の常温における粘度(直後粘度)および常温で1週間放置後の粘度(経時粘度)をBM粘度計で測定した。(経時粘度/直後粘度)×100で粘度の変化率を求めた。
(判定基準)
「◎」…粘度の変化率の絶対値が30%以下であるもの
「○」…粘度の変化率の絶対値が30%を超えて50%以下であるもの
「△」…粘度の変化率の絶対値が50%を超えて100%以下であるもの
「×」…粘度の変化率の絶対値が100%を超えるもの。
【0066】
<バッキング剤の機械的安定性の評価>
市販のマロン式機械的安定性試験器を用いて、試料であるバッキング剤50g(固形分30質量%に調整したもの)に、ローター回転数1000rpm、ローター荷重10kg、回転時間5分間の条件で機械的剪断を与えた後、発生した凝固物を100メッシュ金網で捕捉した。捕捉された凝固物を乾燥した後、元の固形分量に対する凝固物の割合を質量%で求めた。
(判定基準)
「◎」…発生凝固物の割合が0.1質量%以下であるもの
「○」…発生凝固物の割合が0.1質量%を超えて0.5質量%以下であるもの
「△」…発生凝固物の割合が0.5質量%を超えて1.0質量%以下であるもの
「×」…発生凝固物の割合が1.0質量%を超えるもの。
【0067】
<カーペットの耐久性の評価(カーペットの脆化試験)>
作成したカーペットを80℃、90%RHの環境下で240時間放置した後、カーペットの脆化状態をパイル糸の強度保持率(当初の強度に対する保持率)及びパイルの風合の硬化度で評価した。
(パイル糸の強度の判定基準)
「◎」…パイル糸の強度の保持率が90%を超えて100%以下である
「○」…パイル糸の強度の保持率が70%を超えて90%以下である
「△」…パイル糸の強度の保持率が50%を超えて70%以下である
「×」…パイル糸の強度の保持率が50%以下である
(パイルの風合の硬化の判定基準)
「◎」…当初の良好な風合を維持している
「○」…風合が僅かに硬化しているように感じられるがほぼ良好な風合いである(部分的に硬化感あり)
「△」…風合の硬化感がある(全体的に硬化感あり)
「×」…全体的に顕著に硬化している。
【0068】
表1から明らかなように、この発明に係る実施例1〜10のバッキング剤は、保存安定性及び機械的安定性に優れていた。また、この発明に係る生分解性繊維使用カーペットは、長期間使用してもパイル糸の強度保持率が良好であると共に当初の良好な風合をほぼ維持していて耐久性に優れていた。
【0069】
これに対し、比較例1、3のカーペットでは、長期間使用するとパイル糸の強度保持率の低下が大きい上に風合いも硬化しており耐久性に劣っていた。また、比較例2では、バッキング剤の保存安定性及び機械的安定性ともに悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の一実施形態に係る生分解性繊維使用カーペットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1…生分解性繊維使用カーペット
2…パイル
3…1次基布
4…表皮材層
5…2次基布
6…バッキング剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成されるカーペットの裏打ち用に用いられるバッキング剤であって、
前記バッキング剤は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有したエマルジョンからなり、前記バッキング剤のpHが4〜7であることを特徴とするカーペット用バッキング剤。
【請求項2】
前記バッキング剤のpHが6〜7である請求項1に記載のカーペット用バッキング剤。
【請求項3】
前記接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体として、共役ジエン系共重合体、アクリル系共重合体及びエチレン−酢酸ビニル系共重合体からなる群より選ばれる1種または2種以上の共重合体が用いられている請求項1または2に記載のカーペット用バッキング剤。
【請求項4】
前記接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体としてカルボキシ変性スチレンブタジエン系共重合体が用いられている請求項1または2に記載のカーペット用バッキング剤。
【請求項5】
前記バッキング剤は、さらに充填剤を含有している請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーペット用バッキング剤。
【請求項6】
前記充填剤が、水酸化アルミニウム又は/及び水酸化マグネシウムである請求項5に記載のカーペット用バッキング剤。
【請求項7】
少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッキング剤を塗布、乾燥して得られたことを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。
【請求項8】
少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層を介して二次基布が積層一体化されてなり、前記バッキング剤層は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバッキング剤の塗布、乾燥により形成されたものであることを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。
【請求項9】
前記二次基布は、生分解性繊維を用いて構成されている請求項8に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【請求項10】
前記生分解性繊維として、脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性繊維が用いられている請求項7〜9のいずれか一項に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【請求項11】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である請求項10に記載の生分解性繊維使用カーペット。
【請求項12】
少なくとも一部に生分解性繊維を用いて構成された表皮材層の裏面にバッキング剤層が積層されてなり、前記バッキング剤層は、接着性を有し且つゴム弾性を備えた重合体を含有してなり、前記バッキング剤層のpHが4〜7であることを特徴とする生分解性繊維使用カーペット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−97166(P2006−97166A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283324(P2004−283324)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】