カーボンナノチューブから成る集合体および糸条体の製造方法
【課題】超音波噴霧法を用いて、糸条形成能を有する集合体を確実に形成できるカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法は、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器22の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、前記カーボンナノチューブを、縦型反応器22の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体40に成長させることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係るカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法は、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器22の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、前記カーボンナノチューブを、縦型反応器22の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体40に成長させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブから成る集合体および糸条体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブから成る繊維状体の製造方法については、下記特許文献1に提案されている。この製造方法では、図11に示す製造装置を用いている。図11に示す製造装置では、加熱炉100に囲まれている縦型の反応器102の上端部に設けられた注入口104から炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102内に注入し、カーボンナノチューブを生成する。生成したカーボンナノチューブを連結網状構造として、金属ワイヤから成る環状体106に捕集して種繊維(seeding fiber)とする。形成された種繊維には、カーボンナノチューブが凝集して繊維状体108を形成し、糸条体として巻取機110に巻取られる。尚、反応器102の上端部に注入口104から注入されたキャリアガスは、反応器102の下端側に流れ、出口112から系外に排出される。この特許文献1に提示されているカーボンナノチューブの製造方法は、炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102に供給するスプレー法と思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−536434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11に示す製造装置では、金属ワイヤから成る環状体106に捕集できるように、反応器102の上部で生成したカーボンナノチューブを連結網状構造とすることが必要である。このためには、炭素源と触媒とを反応器102の上部に大量に供給することを要する。
しかし、上記、従来のカーボンナノチューブの製造方法で汎用されている、炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102に供給するスプレー法(特許文献1以外には、例えば、特開2007−246316号公報、国際公開第2007/125923号パンフレット参照)では、炭素源と触媒との供給量を単に増加すると、スプレーノズルから反応器102内にスプレーされた炭素源等の液滴が大きくなって、カーボンナノチューブの形成反応が遅くなる。このため、スプレーノズルに供給するキャリガスを増加することを要し、スプレーされた炭素源と触媒との密度が低下し、連結網状構造を十分な量形成できず、十分な糸条形成能を有する繊維状体を確実に形成できないおそれがある。
【0005】
その他、カーボンナノチューブの形成方法としては、特開2007−261937号公報に示されている超音波噴霧法がある。この公報に示される超音波噴霧法は、キシレン、トルエン、ベンゼンを液体炭素源とし、アルゴン(90%)および水素(10%)をキャリアガスとし、超音波により噴霧化して、1000℃以下の温度に調整された反応器に供給するものである。しかし、この超音波噴霧法の温度条件等では、カーボンナノチューブの生成速度は小さく、またススや熱分解副生成物(タール状物質)が生成しやすく、30〜40nm(一般的には50nm程度)の太いカーボンナノチューブしか形成されず、糸条形成能を有する繊維状体(集合体)は形成できない。なお、この超音波噴霧法の例は、糸条形成能を有するカーボンナノチューブ集合体を得ることを課題とするものではない。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、超音波噴霧法を用いて、結晶性の高い、高導電性の糸条体を効率よく容易に生産可能な、糸条形成能を有する集合体を確実に形成できるカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法は、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、前記カーボンナノチューブを、前記縦型反応器の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体に成長させることを特徴とする。
超音波噴霧法によれば、超音波の強度や周波数の制御により、噴霧体の供給量、ミスト径を容易に制御でき、平均直径が30nm以下の糸条形成能を有する繊維状体を製造できる。
【0008】
前記集合体を、前記縦型反応器の他端側の出口近傍に目開き2mmの網体を配設したとき、前記網体に捕集できるように成長させるとよい。
前記縦型反応器の温度を1050℃〜1500℃、より好適には、1200℃〜1400℃にして反応を行わせると好適である。このように、比較的高温の生成条件にすることによって、細長い、糸条形成能を有する繊維状体が生成しやすくなる。
また、キャリアガスに水素もしくは水素リッチ(50vol%以上)なキャリアガスを用いると好適である。キャリアガスとして水素を用いることによって、ススやタールの生成が抑制され、純度の高いカーボンナノチューブが得られる。
【0009】
前記炭化水素化合物に、エタノール、メシチレンまたは2−ヘプタノンを用い、前記触媒含有化合物としてフェロセンを用いることができる。
第2炭素源として、一酸化炭素または熱分解により一酸化炭素を発生するメタノール等の炭素源を前記縦型反応器に導入することができる。一酸化炭素が、カーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素を除去する効果がある。
上記カーボンナノチューブから成る集合体の製造方法で製造された集合体から糸条体を好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、スプレー法ではなく、超音波噴霧法を用いることで、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に照射する超音波の強度や周波数の制御により、噴霧体の供給量、ミスト径を容易に制御でき、平均直径が30nm以下のカーボンナノチューブが集合した、糸条形成能を有する集合体を安定して、容易に、大量に製造できる。
また、この集合体からカーボンナノチューブから成る糸条体を好適に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カーボンナノチューブから成る繊維状体の製造装置の一例を説明する概略図である。
【図2】図1に示す製造装置を用いた実施例1で得られた集合体40のSEM写真である。
【図3】図2に示す集合体40のTEM写真である。
【図4】図1に示す製造装置を用いた実施例3で得られた集合体40のSEM写真である。
【図5】図4に示す集合体40のTEM写真である。
【図6】比較例で用いた製造装置について説明する概略図である。
【図7】図6に示す製造装置を用いて得られたカーボンナノチューブのSEM写真である。
【図8】カーボンナノチューブから成る集合体の製造装置の他の一例を説明する概略図である。
【図9】実施例12で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル図である。
【図10】実施例12で得られたカーボンナノチューブのTEM写真である。
【図11】従来の製造装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
本発明者等が提案したカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法では、図1に例示する製造装置を用いる。図1に示す製造装置では、底面に超音波発振装置12が装着されている水槽10中の水に、触媒を溶解した炭化水素溶液14が貯留されている容器16の底部が浸漬されている。この容器16の上端から延出された接続配管18の他端は、電気炉20に囲まれて、内部が1050℃〜1500℃に加熱された筒状の縦型反応器22の上端部に接続されている。かかる縦型反応器22の電気炉20から突出している下端部には、網体としての目開き2mmの金網24を取り付けた。
縦型反応器22内の温度は上記のように1050℃〜1500℃が好ましく、より好ましくは、1200℃〜1400℃の温度とする。
低温では、糸条形成能に必要な細長いカーボンナノチューブが生成しにくい。なお、あまり高温になると、触媒の鉄粒子が完全に融解し、カーボンナノチューブが生成しにくくなる。
【0013】
また、容器16には、流量コントローラ25によって所定流量に制御されたキャリアガスとしての水素ガスが配管26を経由して供給される。この配管26には、第2炭素源を容器16に供給する配管28が繋ぎ込まれている。
キャリアガスは水素がよい。他のガスと併用するとしても、水素リッチ(50vol%以上)なキャリアガスがよい。キャリアガスに水素を用いることで、ススやタールの生成を抑制し、純度の高いカーボンナノチューブが得られるようになる。
更に、縦型反応器22の上端部には、縦型反応器22の内壁面にカーボンナノチューブ等が付着しないように、内壁面に沿って水素ガスを供給する供給配管30が必要に応じて設けられている。容器16に供給されたキャリアガスは、接続配管18を通じて縦型反応器22に導入され、配管30を経由して供給された水素ガスと共に、縦型反応器22の下端部方向に流れる。
【0014】
図1に示す製造装置の容器16に貯留された、触媒含有化合物を溶解した炭化水素溶液14の炭化水素化合物は、第1炭素源として用いられている。かかる炭化水素化合物としては、常温で液体であって、低粘度で且つ低蒸気圧の炭化水素化合物が好ましい。後述する様に、炭化水素溶液14に超音波を照射したとき、炭化水素溶液14を容易に噴霧化できるからである。
この様な炭化水素化合物としては、超音波噴霧を容易にするために、20℃での粘度が3cP以下(好ましくは1cp以下)で且つ20℃での蒸気圧が15kPa以下(好ましくは1kPa以下)の炭化水素化合物を用いるとよい。具体的には、この様な炭化水素化合物としてエタノール、1−プロパノール、シクロヘキサノール、ヘキサナール、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレン、メシチレン、クメン、エチルベンゼン、1,4−ジオキサン、アニソール及びフィネトールを挙げることができる。特に、炭化水素化合物としては、メシチレン、エタノールまたは2−ヘプタノンを好適に用いることができる。
【0015】
かかる炭化水素溶液に第2炭素源を加えてもよい。第2炭素源は、反応雰囲気中の炭素濃度を制御し、得られるカーボンナノチューブの内径を制御するためである。第2炭素源としては、ガス状炭化水素、具体的にはメタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレンを用いることができる。
また特に第2炭素源として一酸化炭素、または熱分解により一酸化炭素を発生するもの(メタノールなどのアルコール類)を用いると好適である。一酸化炭素がカーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素を除去する効果があり、純度の高い、導電性に優れるカーボンナノチューブを提供できる。なお、第2炭素源が液体の場合には、第1炭素源とともに容器16に直接供給するようにする。
【0016】
また、触媒含有化合物としては、炭化水素化合物に溶解する鉄を含有する有機化合物を好ましく用いることができ、具体的には、フェロセン、酢酸鉄、アセチルフェロセンを挙げることができる。また、鉄以外の金属として、ニッケル、コバルト、モリブデンを含有する有機化合物、具体的には、ニッケロセン、コバルトセン、モリブデンヘキサカルボニルを触媒として用いることができる。かかる触媒としては、フェロセンが好適である。
【0017】
かかる触媒と共に、硫黄を含む化合物、リンを含む化合物、或いはホウ素を含む化合物を助触媒として用いることができる。この助触媒は、鉄含有の触媒を活性化するものと考えられる。
かかる助触媒は、炭化水素溶液14中に投下してもよく、気化してキャリアガスと共に縦型反応器22の上端部に供給してもよい。
ここで、硫黄を含む化合物としては、チオフェンやジメチルスルフィドを挙げることができ、チオフェンを好適に用いることができる。リンを含む化合物としては、トリフェニルホスフィン、リン酸或いはホスホン酸を挙げることができ、ホウ素を含む化合物としては、炭素源に溶解できるものがよく、ホウ酸、トリエチルホウ素或いはホウ酸トリイソプロピルを挙げることができる。
尚、助触媒として、ホウ素を含む化合物を用いることによって、得られたカーボンナノチューブの電気伝導性を向上できる。
【0018】
容器16に貯留した、触媒含有化合物を溶解した炭化水素溶液14に、水槽10の底面に装着した超音波発振装置12から水槽10の水を介して超音波を照射する。かかる超音波の照射によって、容器16の炭化水素溶液14は噴霧化される。
この噴霧化の程度は、超音波発振装置12から発振される超音波の周波数や強さ等を調整することによって調整できる。このため、配管26を経由して容器16に供給されるキャリアガスを増加させることなく、炭化水素溶液14の噴霧体を大量に発生できる。
ここで、超音波の周波数を調整することによって、炭化水素溶液14の液滴の大きさを調整できる。この超音波の周波数としては、10kHz〜10MHzの周波数を採用でき、好ましくは1〜5MHzの周波数を採用できる。数μmオーダの微細な液滴が得られるからである。更に、超音波の強さを調整することによって、炭化水素溶液14の噴霧量を調整できる。
超音波照射によって噴霧化された、触媒含有化合物が溶解された炭化水素溶液14の液滴は、容器16に供給されたキャリアガスによって、内部が1050℃〜1500℃に加熱されている縦型反応器22の上端部に導入される。
【0019】
縦型反応器22の上端部に導入された、触媒化合物を溶解した炭化水素溶液14の噴霧体は、高温に保持された縦型反応器22内で反応し、カーボンナノチューブが生成される。生成されたカーボンナノチューブは、容器16に供給されたキャリアガスと供給配管30から供給された水素ガスとに同伴して、縦型反応器22の上部から下部の方向に移動する。キャリアガスとして水素を用いることによって、前記のように、ススやタール等の不純物の発生を抑制できる。
その際に、縦型反応器22の上部で生成したカーボンナノチューブは、キャリアガスの流動方向に繊維状に成長しつつ集合して、カーボンナノチューブから成る集合体を形成する。かかる集合体は、縦型反応器22の下端部の出口に設けられた金網24に捕集できる。
【0020】
この様に、金網24に捕集できるカーボンナノチューブとしては、平均直径が30nm以下であることが好ましい。平均直径が30nmを超えるカーボンナノチューブでは、金網24にかかりやすい集合体が形成されない。平均直径が30nm以下の細いカーボンナノチューブの場合、集合体を形成し、金網24で捕集することが可能となる。
尚、縦型反応器22の内壁面には、上端部から供給配管30から供給された水素ガスが流れているため、カーボンナノチューブの付着は殆ど見られなかった。
目開き2mmの金網で捕集されることから、カーボンナノチューブ集合体40はこれ以上のサイズとなっていることがわかる。
【0021】
金網24に捕集された集合体40は、図1に示すように綿状(連結網状構造)であった。この綿状の集合体40は、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができる糸条形成能を有するものであった。
この様にして集合体40から得られた糸条は、高度の電気伝導性を呈することができ、電線素材として好適である。特に、平均直径が30nm以下で且つラマンスペクトルの1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5以下(ラマンの励起波長:785nm)の高結晶化のカーボンナノチューブから成る糸条は、電線素材用として優れている。
【0022】
ところで、カーボンナノチューブから成る集合体が糸条形成能を有するためには、1)カーボンナノチューブが細長いこと、2)カーボンナノチューブが直線状をなし配向性を有すること、3)カーボンナノチューブの空間中の密度(本数)が大きいという条件が必要である。
これまでの実験結果では、直径50nm程度の太いカーボンナノチューブでは撚り線が形成できないことがわかっている。また、直径10−20nm程度の細いカーボンナノチューブであっても、長さが3μm程度の短いカーボンナノチューブでは撚り線ができない(即ち、糸条形成能を有しない)。
カーボンナノチューブの直径が30nm以下となり、且つアスペクト比が高いと、単繊維同士の分子間力と絡まり合いにより糸条を形成しやすくなる(糸条形成能を有する)。
【0023】
本実施の形態では、炭化水素溶液に照射する超音波の周波数を調整することによって、前記のように、炭化水素溶液の液滴の大きさを調整でき、また、これにより、得られるカーボンナノチューブの太さも調整しやすくなり、直径が30nm以下のカーボンナノチューブも容易に生成できるようになった。
また、上記のように、カーボンナノチューブを、縦型反応器22内を上部から下方に流下させることによって、直線状の配向性のよい、長さが数十μm〜数百μmの細長いカーボンナノチューブの生成が可能となった。
さらに、超音波の照射によって、多量の炭化水素溶液の液滴を発生させ、縦型反応器22内に供給できることから、密度の高いカーボンナノチューブから成る集合体を得ることができる。
このように、本実施の形態により、糸条形成能の高い、カーボンナノチューブから成る集合体を得ることができる。
【0024】
集合体を糸条体に形成するには例えば次のようにする。
1)図1の製造装置に示すように、金網24で捕集した集合体40を取り出して、引っ張りつつ加撚する。
2)金網24上あるいは金網24以外の部位に捕集した集合体40を水や有機溶剤によって濡らして収縮させた後、加撚する。
3)後記する図8に示すような、軸心を中心とする回転体上に集合体を引っ張りつつ巻き取り、その後取り出して、別途加撚して糸条体とする。この場合、集合体を引っ張りつつ巻き取るので、配向性よく回収できる。
4)また、生成したカーボンナノチューブを縦型反応器22内を上部から下方へ流下させることで、配向させた状態で反応器下部内壁に付着させ、引っ張りつつ回収し、加撚して糸条とする。
5)縦型反応器22の出口をコーン状出口として(図8参照)、コーン状出口に捕集された集合体40を不活性ガス等によって回転して加撚して糸条とし、コーン状出口から取り出すようにする。
6)縦型反応器22の出口において、シリコーンコーティングしたテープを走行させ(図示せず)、このテープのシリコーンコート層表面上に、生成したカーボンナノチューブを付着させ、テープをロール状に巻き取ることによってカーボンナノチューブを回収する。回収後、テープ表面からカーボンナノチューブを剥離しつつ加撚して糸条に形成する。シリコーンコート層が介在することで、各層のカーボンナノチューブ同士が付着してしまうことがない。シリコーンコート層上からはカーボンナノチューブは容易に剥離できる。
【0025】
ところで、金網24等に捕集した集合体には、残留有機物、アモルファスカーボン
や触媒残渣等の不純物が付着しているため、金網24等から取り出した集合体40に精製処理を施すことが好ましい。かかる精製処理としては、熱処理、気相酸化熱処理、有機溶剤洗浄処理、酸洗浄のいずれか又はこれらを組み合わせて行うことができる。
ここで、熱処理は、アルゴンガス等の不活性ガス又は真空雰囲気中で300〜3000℃に熱処理する方法である(なお、カーボンナノチューブの燃焼温度以下であれば、空気中で熱処理してもよい)。
また、気相酸化熱処理は、表面改質をするものであって、空気等の酸化性ガスを含む雰囲気下で400〜700℃に加熱する方法である。更に、有機溶剤洗浄処理は、エタノールやアセトン等の溶剤によって洗浄する方法であり、酸洗浄は、塩酸、硝酸、硫酸等の酸水溶液で洗浄する方法である。
【0026】
かかる精製処理を施したカーボンナノチューブでは、精製処理を施す前のカーボンナノチューブに比較して、ラマンスペクトル(励起波長785nm)の1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5よりも更に低下する。
尚、かかる精製処理は、金網24等に捕集された集合体を糸条としてから施してもよい。
【0027】
また、カーボンナノチューブ集合体、またはカーボンナノチューブ糸条体を後処理でインターカレーション処理して導電率を向上させるようにすることができる。インターカレーション処理は、チューブ状の炭素網層間に他の物質を挿入する処理である。インターカレーションさせる化合物としては、FeCl3、CuCl2が安定性に優れており適している。
また、カーボンナノチューブ集合体、またはカーボンナノチューブ糸条体に、窒素原子をドープすることで導電率を向上できる。窒素原子をドープするには、窒素プラズマ処理を行うか、または、窒素やアンモニア雰囲気中で熱処理する方法がある。
【実施例1】
【0028】
図1に示す製造装置において、内径30mmで長さが1500mmのムライト製の縦型反応器22を、長さ800mmの電気炉20によって加熱して縦型反応器22の内温を1200℃に保持した。更に、容器16内に配管26を介してキャリアガスとしての水素ガスを10リットル/minの割合で供給した。
また、容器16内には、炭化水素化合物としてエタノール100モルに対して、触媒含有化合物としてフェロセン0.25モルとチオフェン0.25モルとを加えて溶解した炭化水素溶液14を加えた。
次いで、超音波発振器12から1.7MHzの超音波を3分間発振し、容器16内の炭化水素溶液14を噴霧化し、キャリガスによって縦型反応器22内に供給した。かかる超音波の照射によって、炭化水素溶液14は2g/minで噴霧化されていた。
また、 縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、カーボンナノチューブから成る集合体40が捕集されていた。この集合体40は、綿状であって、その重量は20mgであった。
この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって約20cmの糸条体を得ることができた。
糸条体の長さ、重量、抵抗値を計測し、また、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して、長さ、重量、比重値から糸条体の断面積を算出し、これら数値から、抵抗率を算出したところ、6×10−3Ω・cmであった。
【0029】
また、得られた集合体40のSEM写真を図2に示し、TEM写真を図3に示す。図2に示す写真から明らかなように、多数本のカーボンナノチューブが絡み合っている。更に、図2から明らかな様に、集合体40は、平均直径が20nm程度の直線状の多層カーボンナノチューブ(MWNT)によって形成されている。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5で結晶性が良好なものであった。
【実施例2】
【0030】
実施例1において、容器16に加えた炭化水素溶液14を、炭化水素化合物としてエタノール100モルに対して、触媒としてフェロセン0.25モルを加えて溶解した炭化水素溶液14とし、且つ超音波発振装置12からの超音波の発振時間を15分とした他は、実施例1と同様にして集合体40を得た。
縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、集合体40が5mg捕集されていた。得られた集合体40のSEM写真とTEM写真とから、平均直径が10nm程度の直線状の二層カーボンナノチューブ(DWNT)と単層カーボンナノチューブ(SWNT)とが混在しているものであった。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/20で結晶性が良好なものであった。
尚、この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができた。
また、実施例1と同様にして、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して、抵抗率を算出したところ、7×10−3Ω・cmであった。
【実施例3】
【0031】
実施例1において、容器16に加えた炭化水素溶液14を、炭化水素化合物としてメシチレン100モルに対して、触媒としてフェロセン2.25モルとチオフェン2.25モルとを加えて溶解した炭化水素溶液14とし、且つ超音波発振装置12からの超音波の発振時間を5分とした他は、実施例1と同様にして綿状の集合体40を得た。
縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、集合体40が200mg捕集されていた。この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができた。
また、得られた集合体40のSEM写真を図4に示し、TEM写真を図5に示す。図4に示す写真から明らかなように、多数本のカーボンナノチューブが絡み合っている。更に、図5から明らかな様に、集合体40は、平均直径が20nm程度の直線状の多層カーボンナノチューブ(MWNT)によって形成されている。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5で結晶性が良好なものであった。
さらに実施例1、2と同様にして抵抗率を算出したところ、8×10−3Ω・cmであった。
【比較例】
【0032】
図6に示す横型反応器200内に載置した基板204上に、触媒としてのガーネット粉末206を載置した。かかる横型反応器200内は、電気炉202によって850℃に保持した。
この横型反応器200の一端側から、炭素源としての都市ガス(メタン、エタン、プロパンの混合ガス)を60分間導入した。
ガーネット粉末206上にカーボンナノチューブが形成されていた。そのSEM写真を図7に示す。直線状のカーボンナノチューブは形成されていなかった。
【0033】
表1に実施例1〜3の実験データ表を示す。
(表1)
表1に示されるように、実施例1〜3いずれもほぼ同等な抵抗率を有する糸条体が得られた。なお、この抵抗率は、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して算出したものであり、絶対値ではなく、相対値である。実施例4〜16との比較の意味で、相対値ではあるが、抵抗率を算出した。
【0034】
以下の実施例4〜16では、図8に示す製造装置を用いた。図1に示す製造装置と同一のものは同一の符号をもって示し、説明を省略する。
図1に示す製造装置では、電気炉20の長さが800mmのものであるのに対し、図8に示すものでは500mmの長さの電気炉20となっている。また、図1に示すものでは、金網24上に集合体を捕集したが、図8のものでは、回転体32に集合体を巻き取るようにしている(なお、実際には、実施例4〜16では、縦型反応器22の下部内壁に付着した集合体を(シールガスを用いないので内壁に付着)、ピンセットでつまんで剥がして引っ張り出し、加撚して糸条体に形成した)。その他の構成は、図1に示すもの、図8に示すものとで基本的な差異はない。
また、実施例4〜16の超音波照射条件は、1.6MHzの超音波をいずれも5分間発振して、炭化水素溶液を噴霧化した。また、実施例4〜16において、抵抗率は、実施例1〜3と同様の方法により算出した。
【0035】
表2に実施例4〜6の実験データ値を示す。
(表2)
実施例4〜6では、合成温度をそれぞれ1200℃、1250℃、1300℃に設定した。その他の条件は同一である。
合成温度が高くなると抵抗率が下がり、電気伝導性が向上する傾向にある。これはカーボンナノチューブの長さが長くなったためと推測される。なお、実施例6におけるカーボンナノチューブの比表面積は250m2/gであった。
【0036】
表3に実施例7、8の実験データ表を示す。
(表3)
実施例7、8は、第1炭素源として、2−ヘプタノンを用い、合成温度をそれぞれ1200℃、1300℃に設定した実施例である。糸条化は可能であったが、抵抗率はあまりよくなかった。
【0037】
表4に、実施例4と実施例9の実験データの比較表を示す。
(表4)
実施例9では、助触媒としてホウ素を含む化合物TIPB(ホウ酸トリイソプロピル)を添加した実施例であり、実施例4のものに比較して抵抗率の低減が見られた。
【0038】
表5に、実施例6と実施例10の実験データの比較表を示す。
(表5)
実施例10は、第2炭素源としてメタノールを用いた実施例であり、メタノールを添加することによって抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
なお、回収量は減少した。これは、メタノールが熱分解して生じた一酸化炭素によって、カーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素が除去されたり、カーボンナノチューブ自体、若干酸化されたためと推測される。
【0039】
表6は、実施例10と実施例11の実験データの比較表である。
(表6)
実施例11に示すように、第2炭素源としてメタノールを添加した上に、合成温度を1400℃に上昇させたことによって、抵抗率がさらに低減し、電気伝導性が向上した。
【0040】
表7は、実施例11と実施例12の実験データの比較表を示す。
(表7)
実施例12は、実施例11のものにおいて、キャリアガスの流量を10L/minから25L/minに増加させたものであり、これによって、さらに抵抗率が下がり、電気伝導性が向上した。
なお、実施例12のものにおいては、図9のラマンスペクトル図に示すように、RBMピークが現れてきていることから、DWカーボンナノチューブとSWカーボンナノチューブが生じていることがわかる。なお、図10は、実施例12で得られたカーボンナノチューブのTEM写真である。
【0041】
表8は、実施例11と実施例13の実験データの比較表を示す。
(表8)
抵抗率はばらつきあるが、最も低いところでは 8×10-4 Ω・cm あった。実施例13では、助触媒としてホウ素を含む化合物TIPB(ホウ酸トリイソプロピル)を添加した実施例であり、実施例11のものに比較して抵抗率の低減が見られた。
【0042】
実施例14:
表9は、実施例14のデータ表を示す。実施例14は、実施例4で得られた糸条体に窒化処理を施して、炭素網層に窒素原子をドープした実施例である。
この窒素原子のドープは、プラズマ装置(図示せず)内において、試料を電極上にテープで固定し、プラズマ装置内に窒素ガスを流し込みながらプラズマ処理したものである。
(表9)
表9からわかるように、窒素原子をドープすることにより、抵抗率が低減し、電気伝導性が向上した。
【0043】
実施例15:
表10は、実施例15のデータ表を示す。実施例15は、実施例5で得られた糸条体におけるカーボンナノチューブのチューブ状の炭素網層間にFeCl3をインターカレーションしたものである。
このインターカレーションは、
1)窒素雰囲気にて、カーボンナノチューブ撚り線とFeCl3を金属反応器に封入。
2)反応器内を減圧して密閉。
3)280℃、27時間(断続的)保持。
4)冷却後、回収したものである。
(表10)
表10から明らかなように、FeCl3のインターカレーションにより抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
【0044】
実施例16:
表11は実施例16のデータ表を示す。
実施例15と同様の手法を実施例11のカーボンナノチューブ撚り線に適用した。
(表11)
実施例15と同様に、FeCl3のインターカレーションにより抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
【符号の説明】
【0045】
10 水槽
12 超音波発振装置
14 炭化水素溶液
16 容器
20 電気炉
22 縦型反応器
24 金網
25 流量コントローラ
40 集合体
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブから成る集合体および糸条体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブから成る繊維状体の製造方法については、下記特許文献1に提案されている。この製造方法では、図11に示す製造装置を用いている。図11に示す製造装置では、加熱炉100に囲まれている縦型の反応器102の上端部に設けられた注入口104から炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102内に注入し、カーボンナノチューブを生成する。生成したカーボンナノチューブを連結網状構造として、金属ワイヤから成る環状体106に捕集して種繊維(seeding fiber)とする。形成された種繊維には、カーボンナノチューブが凝集して繊維状体108を形成し、糸条体として巻取機110に巻取られる。尚、反応器102の上端部に注入口104から注入されたキャリアガスは、反応器102の下端側に流れ、出口112から系外に排出される。この特許文献1に提示されているカーボンナノチューブの製造方法は、炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102に供給するスプレー法と思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−536434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11に示す製造装置では、金属ワイヤから成る環状体106に捕集できるように、反応器102の上部で生成したカーボンナノチューブを連結網状構造とすることが必要である。このためには、炭素源と触媒とを反応器102の上部に大量に供給することを要する。
しかし、上記、従来のカーボンナノチューブの製造方法で汎用されている、炭素源と触媒とをキャリアガスと共に反応器102に供給するスプレー法(特許文献1以外には、例えば、特開2007−246316号公報、国際公開第2007/125923号パンフレット参照)では、炭素源と触媒との供給量を単に増加すると、スプレーノズルから反応器102内にスプレーされた炭素源等の液滴が大きくなって、カーボンナノチューブの形成反応が遅くなる。このため、スプレーノズルに供給するキャリガスを増加することを要し、スプレーされた炭素源と触媒との密度が低下し、連結網状構造を十分な量形成できず、十分な糸条形成能を有する繊維状体を確実に形成できないおそれがある。
【0005】
その他、カーボンナノチューブの形成方法としては、特開2007−261937号公報に示されている超音波噴霧法がある。この公報に示される超音波噴霧法は、キシレン、トルエン、ベンゼンを液体炭素源とし、アルゴン(90%)および水素(10%)をキャリアガスとし、超音波により噴霧化して、1000℃以下の温度に調整された反応器に供給するものである。しかし、この超音波噴霧法の温度条件等では、カーボンナノチューブの生成速度は小さく、またススや熱分解副生成物(タール状物質)が生成しやすく、30〜40nm(一般的には50nm程度)の太いカーボンナノチューブしか形成されず、糸条形成能を有する繊維状体(集合体)は形成できない。なお、この超音波噴霧法の例は、糸条形成能を有するカーボンナノチューブ集合体を得ることを課題とするものではない。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、超音波噴霧法を用いて、結晶性の高い、高導電性の糸条体を効率よく容易に生産可能な、糸条形成能を有する集合体を確実に形成できるカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法は、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、前記カーボンナノチューブを、前記縦型反応器の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体に成長させることを特徴とする。
超音波噴霧法によれば、超音波の強度や周波数の制御により、噴霧体の供給量、ミスト径を容易に制御でき、平均直径が30nm以下の糸条形成能を有する繊維状体を製造できる。
【0008】
前記集合体を、前記縦型反応器の他端側の出口近傍に目開き2mmの網体を配設したとき、前記網体に捕集できるように成長させるとよい。
前記縦型反応器の温度を1050℃〜1500℃、より好適には、1200℃〜1400℃にして反応を行わせると好適である。このように、比較的高温の生成条件にすることによって、細長い、糸条形成能を有する繊維状体が生成しやすくなる。
また、キャリアガスに水素もしくは水素リッチ(50vol%以上)なキャリアガスを用いると好適である。キャリアガスとして水素を用いることによって、ススやタールの生成が抑制され、純度の高いカーボンナノチューブが得られる。
【0009】
前記炭化水素化合物に、エタノール、メシチレンまたは2−ヘプタノンを用い、前記触媒含有化合物としてフェロセンを用いることができる。
第2炭素源として、一酸化炭素または熱分解により一酸化炭素を発生するメタノール等の炭素源を前記縦型反応器に導入することができる。一酸化炭素が、カーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素を除去する効果がある。
上記カーボンナノチューブから成る集合体の製造方法で製造された集合体から糸条体を好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、スプレー法ではなく、超音波噴霧法を用いることで、炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に照射する超音波の強度や周波数の制御により、噴霧体の供給量、ミスト径を容易に制御でき、平均直径が30nm以下のカーボンナノチューブが集合した、糸条形成能を有する集合体を安定して、容易に、大量に製造できる。
また、この集合体からカーボンナノチューブから成る糸条体を好適に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カーボンナノチューブから成る繊維状体の製造装置の一例を説明する概略図である。
【図2】図1に示す製造装置を用いた実施例1で得られた集合体40のSEM写真である。
【図3】図2に示す集合体40のTEM写真である。
【図4】図1に示す製造装置を用いた実施例3で得られた集合体40のSEM写真である。
【図5】図4に示す集合体40のTEM写真である。
【図6】比較例で用いた製造装置について説明する概略図である。
【図7】図6に示す製造装置を用いて得られたカーボンナノチューブのSEM写真である。
【図8】カーボンナノチューブから成る集合体の製造装置の他の一例を説明する概略図である。
【図9】実施例12で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル図である。
【図10】実施例12で得られたカーボンナノチューブのTEM写真である。
【図11】従来の製造装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
本発明者等が提案したカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法では、図1に例示する製造装置を用いる。図1に示す製造装置では、底面に超音波発振装置12が装着されている水槽10中の水に、触媒を溶解した炭化水素溶液14が貯留されている容器16の底部が浸漬されている。この容器16の上端から延出された接続配管18の他端は、電気炉20に囲まれて、内部が1050℃〜1500℃に加熱された筒状の縦型反応器22の上端部に接続されている。かかる縦型反応器22の電気炉20から突出している下端部には、網体としての目開き2mmの金網24を取り付けた。
縦型反応器22内の温度は上記のように1050℃〜1500℃が好ましく、より好ましくは、1200℃〜1400℃の温度とする。
低温では、糸条形成能に必要な細長いカーボンナノチューブが生成しにくい。なお、あまり高温になると、触媒の鉄粒子が完全に融解し、カーボンナノチューブが生成しにくくなる。
【0013】
また、容器16には、流量コントローラ25によって所定流量に制御されたキャリアガスとしての水素ガスが配管26を経由して供給される。この配管26には、第2炭素源を容器16に供給する配管28が繋ぎ込まれている。
キャリアガスは水素がよい。他のガスと併用するとしても、水素リッチ(50vol%以上)なキャリアガスがよい。キャリアガスに水素を用いることで、ススやタールの生成を抑制し、純度の高いカーボンナノチューブが得られるようになる。
更に、縦型反応器22の上端部には、縦型反応器22の内壁面にカーボンナノチューブ等が付着しないように、内壁面に沿って水素ガスを供給する供給配管30が必要に応じて設けられている。容器16に供給されたキャリアガスは、接続配管18を通じて縦型反応器22に導入され、配管30を経由して供給された水素ガスと共に、縦型反応器22の下端部方向に流れる。
【0014】
図1に示す製造装置の容器16に貯留された、触媒含有化合物を溶解した炭化水素溶液14の炭化水素化合物は、第1炭素源として用いられている。かかる炭化水素化合物としては、常温で液体であって、低粘度で且つ低蒸気圧の炭化水素化合物が好ましい。後述する様に、炭化水素溶液14に超音波を照射したとき、炭化水素溶液14を容易に噴霧化できるからである。
この様な炭化水素化合物としては、超音波噴霧を容易にするために、20℃での粘度が3cP以下(好ましくは1cp以下)で且つ20℃での蒸気圧が15kPa以下(好ましくは1kPa以下)の炭化水素化合物を用いるとよい。具体的には、この様な炭化水素化合物としてエタノール、1−プロパノール、シクロヘキサノール、ヘキサナール、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレン、メシチレン、クメン、エチルベンゼン、1,4−ジオキサン、アニソール及びフィネトールを挙げることができる。特に、炭化水素化合物としては、メシチレン、エタノールまたは2−ヘプタノンを好適に用いることができる。
【0015】
かかる炭化水素溶液に第2炭素源を加えてもよい。第2炭素源は、反応雰囲気中の炭素濃度を制御し、得られるカーボンナノチューブの内径を制御するためである。第2炭素源としては、ガス状炭化水素、具体的にはメタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレンを用いることができる。
また特に第2炭素源として一酸化炭素、または熱分解により一酸化炭素を発生するもの(メタノールなどのアルコール類)を用いると好適である。一酸化炭素がカーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素を除去する効果があり、純度の高い、導電性に優れるカーボンナノチューブを提供できる。なお、第2炭素源が液体の場合には、第1炭素源とともに容器16に直接供給するようにする。
【0016】
また、触媒含有化合物としては、炭化水素化合物に溶解する鉄を含有する有機化合物を好ましく用いることができ、具体的には、フェロセン、酢酸鉄、アセチルフェロセンを挙げることができる。また、鉄以外の金属として、ニッケル、コバルト、モリブデンを含有する有機化合物、具体的には、ニッケロセン、コバルトセン、モリブデンヘキサカルボニルを触媒として用いることができる。かかる触媒としては、フェロセンが好適である。
【0017】
かかる触媒と共に、硫黄を含む化合物、リンを含む化合物、或いはホウ素を含む化合物を助触媒として用いることができる。この助触媒は、鉄含有の触媒を活性化するものと考えられる。
かかる助触媒は、炭化水素溶液14中に投下してもよく、気化してキャリアガスと共に縦型反応器22の上端部に供給してもよい。
ここで、硫黄を含む化合物としては、チオフェンやジメチルスルフィドを挙げることができ、チオフェンを好適に用いることができる。リンを含む化合物としては、トリフェニルホスフィン、リン酸或いはホスホン酸を挙げることができ、ホウ素を含む化合物としては、炭素源に溶解できるものがよく、ホウ酸、トリエチルホウ素或いはホウ酸トリイソプロピルを挙げることができる。
尚、助触媒として、ホウ素を含む化合物を用いることによって、得られたカーボンナノチューブの電気伝導性を向上できる。
【0018】
容器16に貯留した、触媒含有化合物を溶解した炭化水素溶液14に、水槽10の底面に装着した超音波発振装置12から水槽10の水を介して超音波を照射する。かかる超音波の照射によって、容器16の炭化水素溶液14は噴霧化される。
この噴霧化の程度は、超音波発振装置12から発振される超音波の周波数や強さ等を調整することによって調整できる。このため、配管26を経由して容器16に供給されるキャリアガスを増加させることなく、炭化水素溶液14の噴霧体を大量に発生できる。
ここで、超音波の周波数を調整することによって、炭化水素溶液14の液滴の大きさを調整できる。この超音波の周波数としては、10kHz〜10MHzの周波数を採用でき、好ましくは1〜5MHzの周波数を採用できる。数μmオーダの微細な液滴が得られるからである。更に、超音波の強さを調整することによって、炭化水素溶液14の噴霧量を調整できる。
超音波照射によって噴霧化された、触媒含有化合物が溶解された炭化水素溶液14の液滴は、容器16に供給されたキャリアガスによって、内部が1050℃〜1500℃に加熱されている縦型反応器22の上端部に導入される。
【0019】
縦型反応器22の上端部に導入された、触媒化合物を溶解した炭化水素溶液14の噴霧体は、高温に保持された縦型反応器22内で反応し、カーボンナノチューブが生成される。生成されたカーボンナノチューブは、容器16に供給されたキャリアガスと供給配管30から供給された水素ガスとに同伴して、縦型反応器22の上部から下部の方向に移動する。キャリアガスとして水素を用いることによって、前記のように、ススやタール等の不純物の発生を抑制できる。
その際に、縦型反応器22の上部で生成したカーボンナノチューブは、キャリアガスの流動方向に繊維状に成長しつつ集合して、カーボンナノチューブから成る集合体を形成する。かかる集合体は、縦型反応器22の下端部の出口に設けられた金網24に捕集できる。
【0020】
この様に、金網24に捕集できるカーボンナノチューブとしては、平均直径が30nm以下であることが好ましい。平均直径が30nmを超えるカーボンナノチューブでは、金網24にかかりやすい集合体が形成されない。平均直径が30nm以下の細いカーボンナノチューブの場合、集合体を形成し、金網24で捕集することが可能となる。
尚、縦型反応器22の内壁面には、上端部から供給配管30から供給された水素ガスが流れているため、カーボンナノチューブの付着は殆ど見られなかった。
目開き2mmの金網で捕集されることから、カーボンナノチューブ集合体40はこれ以上のサイズとなっていることがわかる。
【0021】
金網24に捕集された集合体40は、図1に示すように綿状(連結網状構造)であった。この綿状の集合体40は、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができる糸条形成能を有するものであった。
この様にして集合体40から得られた糸条は、高度の電気伝導性を呈することができ、電線素材として好適である。特に、平均直径が30nm以下で且つラマンスペクトルの1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5以下(ラマンの励起波長:785nm)の高結晶化のカーボンナノチューブから成る糸条は、電線素材用として優れている。
【0022】
ところで、カーボンナノチューブから成る集合体が糸条形成能を有するためには、1)カーボンナノチューブが細長いこと、2)カーボンナノチューブが直線状をなし配向性を有すること、3)カーボンナノチューブの空間中の密度(本数)が大きいという条件が必要である。
これまでの実験結果では、直径50nm程度の太いカーボンナノチューブでは撚り線が形成できないことがわかっている。また、直径10−20nm程度の細いカーボンナノチューブであっても、長さが3μm程度の短いカーボンナノチューブでは撚り線ができない(即ち、糸条形成能を有しない)。
カーボンナノチューブの直径が30nm以下となり、且つアスペクト比が高いと、単繊維同士の分子間力と絡まり合いにより糸条を形成しやすくなる(糸条形成能を有する)。
【0023】
本実施の形態では、炭化水素溶液に照射する超音波の周波数を調整することによって、前記のように、炭化水素溶液の液滴の大きさを調整でき、また、これにより、得られるカーボンナノチューブの太さも調整しやすくなり、直径が30nm以下のカーボンナノチューブも容易に生成できるようになった。
また、上記のように、カーボンナノチューブを、縦型反応器22内を上部から下方に流下させることによって、直線状の配向性のよい、長さが数十μm〜数百μmの細長いカーボンナノチューブの生成が可能となった。
さらに、超音波の照射によって、多量の炭化水素溶液の液滴を発生させ、縦型反応器22内に供給できることから、密度の高いカーボンナノチューブから成る集合体を得ることができる。
このように、本実施の形態により、糸条形成能の高い、カーボンナノチューブから成る集合体を得ることができる。
【0024】
集合体を糸条体に形成するには例えば次のようにする。
1)図1の製造装置に示すように、金網24で捕集した集合体40を取り出して、引っ張りつつ加撚する。
2)金網24上あるいは金網24以外の部位に捕集した集合体40を水や有機溶剤によって濡らして収縮させた後、加撚する。
3)後記する図8に示すような、軸心を中心とする回転体上に集合体を引っ張りつつ巻き取り、その後取り出して、別途加撚して糸条体とする。この場合、集合体を引っ張りつつ巻き取るので、配向性よく回収できる。
4)また、生成したカーボンナノチューブを縦型反応器22内を上部から下方へ流下させることで、配向させた状態で反応器下部内壁に付着させ、引っ張りつつ回収し、加撚して糸条とする。
5)縦型反応器22の出口をコーン状出口として(図8参照)、コーン状出口に捕集された集合体40を不活性ガス等によって回転して加撚して糸条とし、コーン状出口から取り出すようにする。
6)縦型反応器22の出口において、シリコーンコーティングしたテープを走行させ(図示せず)、このテープのシリコーンコート層表面上に、生成したカーボンナノチューブを付着させ、テープをロール状に巻き取ることによってカーボンナノチューブを回収する。回収後、テープ表面からカーボンナノチューブを剥離しつつ加撚して糸条に形成する。シリコーンコート層が介在することで、各層のカーボンナノチューブ同士が付着してしまうことがない。シリコーンコート層上からはカーボンナノチューブは容易に剥離できる。
【0025】
ところで、金網24等に捕集した集合体には、残留有機物、アモルファスカーボン
や触媒残渣等の不純物が付着しているため、金網24等から取り出した集合体40に精製処理を施すことが好ましい。かかる精製処理としては、熱処理、気相酸化熱処理、有機溶剤洗浄処理、酸洗浄のいずれか又はこれらを組み合わせて行うことができる。
ここで、熱処理は、アルゴンガス等の不活性ガス又は真空雰囲気中で300〜3000℃に熱処理する方法である(なお、カーボンナノチューブの燃焼温度以下であれば、空気中で熱処理してもよい)。
また、気相酸化熱処理は、表面改質をするものであって、空気等の酸化性ガスを含む雰囲気下で400〜700℃に加熱する方法である。更に、有機溶剤洗浄処理は、エタノールやアセトン等の溶剤によって洗浄する方法であり、酸洗浄は、塩酸、硝酸、硫酸等の酸水溶液で洗浄する方法である。
【0026】
かかる精製処理を施したカーボンナノチューブでは、精製処理を施す前のカーボンナノチューブに比較して、ラマンスペクトル(励起波長785nm)の1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5よりも更に低下する。
尚、かかる精製処理は、金網24等に捕集された集合体を糸条としてから施してもよい。
【0027】
また、カーボンナノチューブ集合体、またはカーボンナノチューブ糸条体を後処理でインターカレーション処理して導電率を向上させるようにすることができる。インターカレーション処理は、チューブ状の炭素網層間に他の物質を挿入する処理である。インターカレーションさせる化合物としては、FeCl3、CuCl2が安定性に優れており適している。
また、カーボンナノチューブ集合体、またはカーボンナノチューブ糸条体に、窒素原子をドープすることで導電率を向上できる。窒素原子をドープするには、窒素プラズマ処理を行うか、または、窒素やアンモニア雰囲気中で熱処理する方法がある。
【実施例1】
【0028】
図1に示す製造装置において、内径30mmで長さが1500mmのムライト製の縦型反応器22を、長さ800mmの電気炉20によって加熱して縦型反応器22の内温を1200℃に保持した。更に、容器16内に配管26を介してキャリアガスとしての水素ガスを10リットル/minの割合で供給した。
また、容器16内には、炭化水素化合物としてエタノール100モルに対して、触媒含有化合物としてフェロセン0.25モルとチオフェン0.25モルとを加えて溶解した炭化水素溶液14を加えた。
次いで、超音波発振器12から1.7MHzの超音波を3分間発振し、容器16内の炭化水素溶液14を噴霧化し、キャリガスによって縦型反応器22内に供給した。かかる超音波の照射によって、炭化水素溶液14は2g/minで噴霧化されていた。
また、 縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、カーボンナノチューブから成る集合体40が捕集されていた。この集合体40は、綿状であって、その重量は20mgであった。
この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって約20cmの糸条体を得ることができた。
糸条体の長さ、重量、抵抗値を計測し、また、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して、長さ、重量、比重値から糸条体の断面積を算出し、これら数値から、抵抗率を算出したところ、6×10−3Ω・cmであった。
【0029】
また、得られた集合体40のSEM写真を図2に示し、TEM写真を図3に示す。図2に示す写真から明らかなように、多数本のカーボンナノチューブが絡み合っている。更に、図2から明らかな様に、集合体40は、平均直径が20nm程度の直線状の多層カーボンナノチューブ(MWNT)によって形成されている。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5で結晶性が良好なものであった。
【実施例2】
【0030】
実施例1において、容器16に加えた炭化水素溶液14を、炭化水素化合物としてエタノール100モルに対して、触媒としてフェロセン0.25モルを加えて溶解した炭化水素溶液14とし、且つ超音波発振装置12からの超音波の発振時間を15分とした他は、実施例1と同様にして集合体40を得た。
縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、集合体40が5mg捕集されていた。得られた集合体40のSEM写真とTEM写真とから、平均直径が10nm程度の直線状の二層カーボンナノチューブ(DWNT)と単層カーボンナノチューブ(SWNT)とが混在しているものであった。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/20で結晶性が良好なものであった。
尚、この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができた。
また、実施例1と同様にして、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して、抵抗率を算出したところ、7×10−3Ω・cmであった。
【実施例3】
【0031】
実施例1において、容器16に加えた炭化水素溶液14を、炭化水素化合物としてメシチレン100モルに対して、触媒としてフェロセン2.25モルとチオフェン2.25モルとを加えて溶解した炭化水素溶液14とし、且つ超音波発振装置12からの超音波の発振時間を5分とした他は、実施例1と同様にして綿状の集合体40を得た。
縦型反応器22の下端側の出口に配設した目開き2.5mm程度の金網上に、集合体40が200mg捕集されていた。この集合体40を取り出し、引張りつつ加撚することによって糸条を得ることができた。
また、得られた集合体40のSEM写真を図4に示し、TEM写真を図5に示す。図4に示す写真から明らかなように、多数本のカーボンナノチューブが絡み合っている。更に、図5から明らかな様に、集合体40は、平均直径が20nm程度の直線状の多層カーボンナノチューブ(MWNT)によって形成されている。
また、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長785nm)が、その1300cm−1付近の吸収ピークDと1600cm−1付近の吸収ピークGとの比(D/G)が1/5で結晶性が良好なものであった。
さらに実施例1、2と同様にして抵抗率を算出したところ、8×10−3Ω・cmであった。
【比較例】
【0032】
図6に示す横型反応器200内に載置した基板204上に、触媒としてのガーネット粉末206を載置した。かかる横型反応器200内は、電気炉202によって850℃に保持した。
この横型反応器200の一端側から、炭素源としての都市ガス(メタン、エタン、プロパンの混合ガス)を60分間導入した。
ガーネット粉末206上にカーボンナノチューブが形成されていた。そのSEM写真を図7に示す。直線状のカーボンナノチューブは形成されていなかった。
【0033】
表1に実施例1〜3の実験データ表を示す。
(表1)
表1に示されるように、実施例1〜3いずれもほぼ同等な抵抗率を有する糸条体が得られた。なお、この抵抗率は、糸条体の比重を1.0g/cm3と仮定して算出したものであり、絶対値ではなく、相対値である。実施例4〜16との比較の意味で、相対値ではあるが、抵抗率を算出した。
【0034】
以下の実施例4〜16では、図8に示す製造装置を用いた。図1に示す製造装置と同一のものは同一の符号をもって示し、説明を省略する。
図1に示す製造装置では、電気炉20の長さが800mmのものであるのに対し、図8に示すものでは500mmの長さの電気炉20となっている。また、図1に示すものでは、金網24上に集合体を捕集したが、図8のものでは、回転体32に集合体を巻き取るようにしている(なお、実際には、実施例4〜16では、縦型反応器22の下部内壁に付着した集合体を(シールガスを用いないので内壁に付着)、ピンセットでつまんで剥がして引っ張り出し、加撚して糸条体に形成した)。その他の構成は、図1に示すもの、図8に示すものとで基本的な差異はない。
また、実施例4〜16の超音波照射条件は、1.6MHzの超音波をいずれも5分間発振して、炭化水素溶液を噴霧化した。また、実施例4〜16において、抵抗率は、実施例1〜3と同様の方法により算出した。
【0035】
表2に実施例4〜6の実験データ値を示す。
(表2)
実施例4〜6では、合成温度をそれぞれ1200℃、1250℃、1300℃に設定した。その他の条件は同一である。
合成温度が高くなると抵抗率が下がり、電気伝導性が向上する傾向にある。これはカーボンナノチューブの長さが長くなったためと推測される。なお、実施例6におけるカーボンナノチューブの比表面積は250m2/gであった。
【0036】
表3に実施例7、8の実験データ表を示す。
(表3)
実施例7、8は、第1炭素源として、2−ヘプタノンを用い、合成温度をそれぞれ1200℃、1300℃に設定した実施例である。糸条化は可能であったが、抵抗率はあまりよくなかった。
【0037】
表4に、実施例4と実施例9の実験データの比較表を示す。
(表4)
実施例9では、助触媒としてホウ素を含む化合物TIPB(ホウ酸トリイソプロピル)を添加した実施例であり、実施例4のものに比較して抵抗率の低減が見られた。
【0038】
表5に、実施例6と実施例10の実験データの比較表を示す。
(表5)
実施例10は、第2炭素源としてメタノールを用いた実施例であり、メタノールを添加することによって抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
なお、回収量は減少した。これは、メタノールが熱分解して生じた一酸化炭素によって、カーボンナノチューブ表面の結晶性の悪い炭素が除去されたり、カーボンナノチューブ自体、若干酸化されたためと推測される。
【0039】
表6は、実施例10と実施例11の実験データの比較表である。
(表6)
実施例11に示すように、第2炭素源としてメタノールを添加した上に、合成温度を1400℃に上昇させたことによって、抵抗率がさらに低減し、電気伝導性が向上した。
【0040】
表7は、実施例11と実施例12の実験データの比較表を示す。
(表7)
実施例12は、実施例11のものにおいて、キャリアガスの流量を10L/minから25L/minに増加させたものであり、これによって、さらに抵抗率が下がり、電気伝導性が向上した。
なお、実施例12のものにおいては、図9のラマンスペクトル図に示すように、RBMピークが現れてきていることから、DWカーボンナノチューブとSWカーボンナノチューブが生じていることがわかる。なお、図10は、実施例12で得られたカーボンナノチューブのTEM写真である。
【0041】
表8は、実施例11と実施例13の実験データの比較表を示す。
(表8)
抵抗率はばらつきあるが、最も低いところでは 8×10-4 Ω・cm あった。実施例13では、助触媒としてホウ素を含む化合物TIPB(ホウ酸トリイソプロピル)を添加した実施例であり、実施例11のものに比較して抵抗率の低減が見られた。
【0042】
実施例14:
表9は、実施例14のデータ表を示す。実施例14は、実施例4で得られた糸条体に窒化処理を施して、炭素網層に窒素原子をドープした実施例である。
この窒素原子のドープは、プラズマ装置(図示せず)内において、試料を電極上にテープで固定し、プラズマ装置内に窒素ガスを流し込みながらプラズマ処理したものである。
(表9)
表9からわかるように、窒素原子をドープすることにより、抵抗率が低減し、電気伝導性が向上した。
【0043】
実施例15:
表10は、実施例15のデータ表を示す。実施例15は、実施例5で得られた糸条体におけるカーボンナノチューブのチューブ状の炭素網層間にFeCl3をインターカレーションしたものである。
このインターカレーションは、
1)窒素雰囲気にて、カーボンナノチューブ撚り線とFeCl3を金属反応器に封入。
2)反応器内を減圧して密閉。
3)280℃、27時間(断続的)保持。
4)冷却後、回収したものである。
(表10)
表10から明らかなように、FeCl3のインターカレーションにより抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
【0044】
実施例16:
表11は実施例16のデータ表を示す。
実施例15と同様の手法を実施例11のカーボンナノチューブ撚り線に適用した。
(表11)
実施例15と同様に、FeCl3のインターカレーションにより抵抗率が低減し、電気伝導性が向上している。
【符号の説明】
【0045】
10 水槽
12 超音波発振装置
14 炭化水素溶液
16 容器
20 電気炉
22 縦型反応器
24 金網
25 流量コントローラ
40 集合体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、
前記カーボンナノチューブを、前記縦型反応器の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体に成長させることを特徴とするカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項2】
前記集合体を、前記縦型反応器の他端側の出口近傍に目開き2mmの網体を配設したとき、前記網体に捕集できるように成長させることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項3】
前記縦型反応器の温度が1050℃〜1500℃であることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアガスに水素を用いることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素化合物に、エタノール、メシチレンまたは2−ヘプタノンを用い、前記触媒含有化合物としてフェロセンを用いることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項6】
第2炭素源として、一酸化炭素または熱分解により一酸化炭素を発生する炭素源を前記縦型反応器に導入することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項7】
前記第2炭素源にメタノールを用いることを特徴とする請求項6記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法で製造された集合体から糸条体を形成することを特徴とするカーボンナノチューブから成る糸条体の製造方法。
【請求項1】
炭素源としての炭化水素化合物と触媒含有化合物とが溶解された炭化水素溶液に超音波を照射して発生した炭化水素溶液の噴霧体を、キャリアガスに同伴して所定温度に加熱されている縦型反応器の一端側に導入して直径の平均が30nm以下のカーボンナノチューブを生成し、
前記カーボンナノチューブを、前記縦型反応器の一端側から他端側の方向に流れるキャリアガスに同伴して移動させ、集合させることにより糸条形成能を有する集合体に成長させることを特徴とするカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項2】
前記集合体を、前記縦型反応器の他端側の出口近傍に目開き2mmの網体を配設したとき、前記網体に捕集できるように成長させることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項3】
前記縦型反応器の温度が1050℃〜1500℃であることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアガスに水素を用いることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素化合物に、エタノール、メシチレンまたは2−ヘプタノンを用い、前記触媒含有化合物としてフェロセンを用いることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項6】
第2炭素源として、一酸化炭素または熱分解により一酸化炭素を発生する炭素源を前記縦型反応器に導入することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項7】
前記第2炭素源にメタノールを用いることを特徴とする請求項6記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載のカーボンナノチューブから成る集合体の製造方法で製造された集合体から糸条体を形成することを特徴とするカーボンナノチューブから成る糸条体の製造方法。
【図1】
【図6】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図6】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−148689(P2011−148689A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288742(P2010−288742)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/カーボンナノチューブを用いた革新的超軽量電線の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/カーボンナノチューブを用いた革新的超軽量電線の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]