説明

カーボンナノチューブの成長用基板

【課題】CVD法を用いてカーボンナノチューブを効率的に生成できる技術を提供する。
【解決手段】成長用基板100は、中空円筒状を有しており、カーボンナノチューブ生成層20と、発電層30とを備える。カーボンナノチューブ生成層20は、外表面にカーボンナノチューブの生成を促進させるための触媒が担持されている。発電層30は、カーボンナノチューブ生成層20の下層に配置され、固体電解質35と、固体電解質35の外面に設けられたアノード33と、固体電解質35の内面に設けられたカソード37とを有している。発電層30は、カーボンナノチューブの生成に際して、アノード33にカーボンナノチューブ生成層20から透過した副産物である水素と、カソード37に外部から供給された酸化ガスとを利用して発電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD法)が知られている(特許文献1等)。CVD法では、例えば、外表面にニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの触媒金属が担持されたシリコン基板をカーボンナノチューブの成長用基板として用いる。具体的には、この成長用基板を、反応容器である加熱炉内に配置し、700℃〜1300℃程度の高温に昇温し、炭化水素などの原料ガスを供給する。すると、成長用基板の触媒担持面において、原料ガスから熱分解された炭素原子が円筒状に連なるように合成され、触媒担持面から上方向に向かって多数の配列されたカーボンナノチューブが成長していく。成長したカーボンナノチューブは基板から採取されるとともに撚糸され、カーボンナノチューブの紡糸繊維を構成する。
【0003】
CVD法によるカーボンナノチューブの生成工程では、カーボンナノチューブが生成されるまで、加熱炉を上述した高温に維持するため、その工程におけるエネルギ効率を向上させることが好ましい。しかし、これまで、こうした要求に対して十分に工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−027947号公報
【特許文献2】特開2003−277031号公報
【特許文献3】特開2005−330175号公報
【特許文献4】特開2006−232607号公報
【特許文献5】特開平8−100328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CVD法を用いてカーボンナノチューブを効率的に生成できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
化学気相成長法において、加熱炉に収容されて、カーボンナノチューブの生成に供されるカーボンナノチューブの成長用基板であって、外表面にカーボンナノチューブの生成を促進させるための触媒が担持され、中空円筒状に形成された、水素を選択的に透過するカーボンナノチューブ生成層と、中空円筒状の固体電解質と、前記固体電解質の外面に設けられたアノードと、前記固体電解質の内面に設けられたカソードとを有し、前記カーボンナノチューブ生成層の下層に配置された発電層とを備え、前記発電層は、前記カーボンナノチューブの生成に際して、前記カーボンナノチューブの副産物として生成され前記カーボンナノチューブ生成層から前記アノードに透過した水素と、前記加熱炉の外部から前記カソードに供給された酸素を含む酸化ガスとを利用して発電する、カーボンナノチューブの成長用基板。
このカーボンナノチューブの成長用基板によれば、カーボンナノチューブの生成工程において、副産物(副生成物)である水素を反応場から除去することができるため、カーボンナノチューブの成長を促進させることができる。また、副生成物である水素を用いて発電を行うため、カーボンナノチューブの製造工程におけるエネルギ効率を向上させることができる。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、CVD法においてカーボンナノチューブを成長させるための成長用基板、その成長用基板を用いたカーボンナノチューブの製造方法および製造装置、それらの製造方法または製造装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】カーボンナノチューブの成長用基板の構成を示す概略図。
【図2】カーボンナノチューブ生成層および発電層の構成を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.実施形態:
図1は本発明の一実施形態としてのカーボンナノチューブの成長用基板の構成を示す概略図である。このカーボンナノチューブの成長用基板100は、CVD法によるカーボンナノチューブの生成に用いられる。なお、図1には、成長用基板100において成長するカーボンナノチューブ10が模式的に図示されている。
【0011】
成長用基板100は、中空部110を有するように円筒状に形成された多層構造の基板である。成長用基板100は、外側から順に、カーボンナノチューブ10を成長させるためのカーボンナノチューブ生成層20と、水素と酸素との電気化学反応によって発電する発電層30とが積層されている。
【0012】
図2は、成長用基板100のカーボンナノチューブ生成層20と、発電層30との構成を説明するための概略図であり、成長用基板100を積層方向に沿って切断したときの一部断面を拡大して示した図である。カーボンナノチューブ生成層20は、触媒層21と、水素を選択的に透過する水素分離膜層23とを有する。触媒層21は、水素分離膜層23の外表面に形成されており、カーボンナノチューブ10の生成を促進するための触媒金属の粒子が分散、担持されることにより形成されている。触媒金属としては、鉄(Fe)系触媒や、ニッケル系触媒を用いることができる。また、これらの他に、コバルトやパラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)などの遷移金属の単体や、これらの遷移金属が2種以上含まれる合金を用いることができる。一方、水素分離膜層23としては、例えば、パラジウム(Pd)や、パラジウム合金によって構成できる。
【0013】
発電層30は、水素拡散層31と、アノード33と、固体電解質層35と、カソード37とを有する。水素拡散層31は、熱伝導性および通気性を有する多孔質部材によって構成される。アノード33は、水素分子のプロトン化を促進する触媒活性を有することが好ましく、例えばパラジウムや白金(Pt)によって構成することができる。固体電解質層35は、プロトン伝導性を有する固体電解質によって構成され、例えば、BaCeO3系や、SrCeO3系、SrZrO3系のセラミックスプロトン伝導体を用いることができる。カソード37としては、例えば、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムクロマイト等の複合酸化物によって構成することができる。カソード37は、電気化学反応を促進する触媒活性を有する金属、例えば、パラジウムや白金等により形成することができる。
【0014】
成長用基板100は、例えば、以下のような製造工程によって製造することが可能である。
(i)基材として平板状の固体電解質層35を準備し、その2つの外表面に、スパッタ法によってアノード33およびカソード37を形成する。そして、アノード33の外表面に平板状の部材として準備された水素拡散層31を配置する。
(ii)水素拡散層31の外表面に、スパッタ法により水素分離膜層23を形成し、さらに、水素分離膜層23の外表面にスパッタ法により、触媒層21を形成するための触媒金属の薄膜を形成する。
(iii)上記工程(i),(ii)で形成された積層部材を中空の円筒形状に塑性加工する。
なお、上記工程(ii)において形成された触媒金属の薄膜は、カーボンナノチューブの生成工程の前に加熱される。これによって、触媒金属が粒子化して分散し、触媒層21が形成される。
【0015】
成長用基板100は、カーボンナノチューブの生成に際して、触媒を活性化するために、加熱炉に収容され、約700℃〜1300℃の温度範囲で加熱される。そして、成長用基板100の側面外側には、原料ガスが供給される。なお、図1および図2では、原料ガスの供給方向を、ハッチングを付した矢印によって図示してある。
【0016】
ここで、原料ガスとしては、メタン(CH4)や、アセチレン(C22)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)などの脂肪族炭化水素を用いることができる。また、ベンゼン(C66)などの芳香族環(6員環)を有する環式炭化水素や、これらの炭化水素ガスが2種以上混合された混合ガスを用いることができる。さらに、原料ガスとしては、上記の炭化水素に換えてエタノール(C25OH)などのアルコールを用いることも可能である。
【0017】
原料ガスが成長用基板100に供給されると、原料ガスから熱分解された炭素原子が、触媒層21を構成する触媒金属粒子の外表面において5員環や6員環を連続的に形成する。これによって、各触媒金属粒子を根本として、カーボンナノチューブ10が、触媒層21の外表面に対してほぼ垂直上方向に成長していく。即ち、カーボンナノチューブ10は、成長用基板100の側面において、略放射状に成長していく(図1)。
【0018】
ところで、カーボンナノチューブ10が成長するのに伴って、カーボンナノチューブ10の根本では、原料ガスに含まれる水素原子によって、副生成物として水素が生成される。一般に、カーボンナノチューブの根本(反応場)における原料ガスの濃度(以下、単に「原料ガス濃度」と呼ぶ)が著しく低下したときに、カーボンナノチューブの成長は停止する(参考文献:J.Phys.Chem.C,Vol.112,No.13,2008参照)。従って、カーボンナノチューブ10の生成反応をより長く成長させるためには、反応場における水素の濃度を低下させ、原料ガス濃度の低下を抑制することが好ましい。また、反応場における水素の濃度を低下させることにより、原料ガスからの水素の生成を促進することができるため、カーボンナノチューブ10の生成反応の速度を向上させることができる。
【0019】
そこで、この成長用基板100を用いたカーボンナノチューブの生成工程では、成長用基板100の側面外側に原料ガスを供給するとともに、中空部110に空気を供給する。なお、図1および図2では、空気の供給方向を、白抜きの矢印によって図示してある。中空部110に空気が供給されることにより、カーボンナノチューブ10とともに生成された水素が、発電層30において発電に供される。具体的には、触媒層21で生成された水素は、水素分離膜層23によって原料ガスと分離されて水素拡散層31へと移動し(図2の破線矢印)、水素拡散層31において、アノード33の全体に行き渡るように拡散する。さらに、水素は、アノード33においてプロトン化するとともに、カソード37に向かって固体電解質層35を伝導し、カソード37において、中空部110に供給された空気中の酸素との電気化学反応に供される。即ち、成長用基板100は、水素分離膜を備えた円筒状の固体電解質形燃料電池としても機能する。
【0020】
発電層30で発電された電力は、例えば、加熱炉のヒータ部(図示せず)に供給されるものとしても良く、成長用基板100に電気的に接続された他の外部負荷へと供給されるものとしても良い。また、発電層30の発電により生じた熱は、成長用基板100の外表面へと伝達され、反応場の昇温に供される。なお、カソード37において生成された水は、中空部110に供給された空気によって成長用基板100の外部へと排出される。
【0021】
ところで、本実施形態の成長用基板100では、固体電解質層35としてプロトン伝導性を有する固体電解質が用いられていたが、これに換えて、酸素イオンを伝導する固体電解質が用いられるものとしても良い。この場合の固体電解質層35としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、酸化セリウム(CeO2)系の酸化物によって構成することができる。このような構成であっても、発電層30において、副生成物である水素と、外部から供給する酸化ガスとを利用して発電することが可能である。
【0022】
このように、CVD法によるカーボンナノチューブの生成工程に、この成長用基板100を用いれば、副生成物である水素を原料ガスから分離して反応場から除去することができる。そのため、カーボンナノチューブ10の生成反応速度を向上させるとともに、生成されるカーボンナノチューブの長さを増大させることができる。従って、カーボンナノチューブ10の生成効率を向上させることができる。また、発電層30の発電において生じた電力や熱をカーボンナノチューブ10の生成に利用することができるため、カーボンナノチューブ10の生成工程におけるエネルギ効率を向上させることができる。
【0023】
さらに、成長用基板100は、円筒形状を有しているため、発電時における固体電解質層35の温度分布の不均一性が、平板状の固体電解質を用いた発電時に比較して改善される。従って、発電層30から反応場へと伝達される熱量の分布が不均一となることが抑制され、成長用基板100においてカーボンナノチューブ10の生成が不均一となることを抑制できる。また、発電時に成長用基板100内に生じる熱応力が緩和されるため、成長用基板100の劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0024】
10…カーボンナノチューブ
20…カーボンナノチューブ生成層
21…触媒層
23…水素分離膜層
30…発電層
31…水素拡散層
33…アノード
35…固体電解質層
37…カソード
100…成長用基板
110…中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法において、加熱炉に収容されて、カーボンナノチューブの生成に供されるカーボンナノチューブの成長用基板であって、
外表面にカーボンナノチューブの生成を促進させるための触媒が担持され、中空円筒状に形成された、水素を選択的に透過するカーボンナノチューブ生成層と、
中空円筒状の固体電解質と、前記固体電解質の外面に設けられたアノードと、前記固体電解質の内面に設けられたカソードとを有し、前記カーボンナノチューブ生成層の下層に配置された発電層と、
を備え、
前記発電層は、前記カーボンナノチューブの生成に際して、前記カーボンナノチューブの副産物として生成され前記カーボンナノチューブ生成層から前記アノードに透過した水素と、前記加熱炉の外部から前記カソードに供給された酸素を含む酸化ガスとを利用して発電する、カーボンナノチューブの成長用基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248007(P2010−248007A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96592(P2009−96592)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】