説明

カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法

【課題】 高純度であり、かつ長さあるいは高さの飛躍的なラージスケール化を達成したカーボンナノチューブ・バルク構造体を提供する。
【解決手段】 触媒の薄膜の厚さによってカーボンナノチューブの層数を選択的に制御して単層カーボンナノチューブ及び、三層カーボンナノチューブ以上の多層カーボンナノチューブの少なくともいずれかと共存し、該共存割合が、50%以上を有する二層カーボンナノチューブを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは従来にない高純度化、ラージスケール化、パターニング化を達成したカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新しい電子デバイス材料や電子放出素子、光学素子材料、導電性材料、生体関連材料等として機能性材料の展開が期待されているカーボンナノチューブ(CNT)については、その収率、品質、用途、量産性、製造方法等の検討が精力的に進められている。
【0003】
これまでの研究開発によれば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)とともに多層構成のカーボンナノチューブ(MWCNT)の製造も可能とされてきている。
【0004】
しかしながら、このようなカーボンナノチューブ(CNT)のうちの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)については、その選択的な製造方法やそのバルク構成体の形成並びにそれらの応用のための技術開発はあまり進展していない。なかでも、最低層数の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)としての二層カーボンナノチューブ(DWCNT)は、耐久性、熱安定性、電子放出特性に優れ、大きな層間距離を有し、電子放出素子として、単層カーボンナノチューブ並みの低電圧での電子放出が可能で、かつ、多層カーボンナノチューブに匹敵する寿命を持つ等の理由から注目されているものの、上記のとおりの事情からその技術的展開は大きくないのが実情である。
【0005】
たとえば二層カーボンナノチューブ(DWCNT)の製造方法としては、いずれの場合も炭素化合物を炭素源とし、金属触媒を用いたアーク放電法や、ピーポッドアニール法、金属とともにMgOを触媒とするCCVD法、Al等の担体と金属触媒とを用いるCCVD法、さらには、Feフェロセン化合物を触媒とする気相流動法が代表的なものとして知られている。
【0006】
だが、従来のアーク放電法の場合には、触媒金属の混在、低収率、配向性がないこの、特に触媒調整での精密制御が難しいという根本的な問題があり、ピーポッドアニール法においては、低収率で配向性がなく、大量生産には適していないという大きな問題がある。また、従来のCCVD法の場合には、収率は比較的高いものの、触媒の混在が避けられず、配向性がなく、触媒の制御が難しいという問題がある。
【0007】
さらに気相流動法においては、収率が比較的高く、配向性制御が可能であるものの、触媒の混在が避けられず、制御が難しいという問題がある。
【0008】
以上のことから、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、特に二層カーボンナノチューブ(DWCNT)の製造においては、触媒の混在がなく、高純度であって、配向や成長の制御が容易であり、しかもバルク構成体の形成による成膜、さらにはマクロ構造体の形成も可能とする新しい方法の実現が強く求められていた。
【0009】
多層カーボンナノチューブ、特に二層カーボンナノチューブ(DWCNT)は、上記のとおりの優れた、電気的特性、及び熱的特性、電子放出特性、金属触媒担持能等のためナノ電子デバイスやナノ補強材、電子放出素子の材料として注目されていることからは、これを有効利用する場合には、配向した二層カーボンナノチューブが複数本集まった集合体の形態であるバルク構造体をなし、そのバルク構造体が電気・電子的等の機能性を発揮することが望ましい。また、これらのカーボンナノチューブ・バルク構造体はたとえば垂直配向のように特定の方向に配向していることが望ましく、また長さ(高さ)がラージスケールであることが望ましい。
【0010】
さらにまた、垂直配向した複数のカーボンナノチューブがバルク構造体となり、パターニング化されものは、上記のようなナノ電子デバイスや電子放出素子等への適用に非常に好適なものである。このような垂直配向した二層カーボンナノチューブ・バルク構造体が創製されれば、ナノ電子デバイス、電子放出素子等への応用が飛躍的に増大するものと予測される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この出願の発明は、以上のような背景から、従来にみられない高純度の、特に配向したカーボンナノチューブ・バルク構造体を提供することを課題としている。
【0012】
また、この出願の発明は、簡便な手段によって、金属等の触媒を混在させることなく、配向制御を可能とし、高い成長速度で効率的な、選択的に多層カーボンナノチューブ、特に二層カーボンナノチューブの成長を実現し、量産性にもすぐれた製造方法を提供することを課題としている。
【0013】
そしてまた、この出願の発明は、高純度であり、かつ長さあるいは高さの飛躍的なラージスケール化を達成した配向多層カーボンナノチューブ・バルク構造体、特に二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法を提供することを別の課題としている。
【0014】
さらに、この出願の発明は、パターニング化を達成した上記の配向カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法を提供することを別の課題としている。
【0015】
また、この出願の発明は、上記高純度のカーボンナノチューブおよび上記高純度、かつ長さあるいは高さの飛躍的なラージスケール化を達成した配向カーボンナノチューブ・バルク構造体さらには上記パターニング化を達成した配向カーボンナノチューブ・バルク構造体をナノ電子デバイス、電子放出素子等への応用を別の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この出願は、上記の課題を解決するものとして以下の発明を提供する。
【0017】
〔1〕触媒の薄膜の厚さによってカーボンナノチューブの層数を選択的に制御して単層カーボンナノチューブ及び、三層カーボンナノチューブ以上の多層カーボンナノチューブの少なくともいずれかと共存し、該共存割合が、50%以上を有する二層カーボンナノチューブを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
〔2〕前記金属触媒の薄膜を0.1〜100nmにすることを特徴とする上記〔1〕に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
〔3〕前記金属触媒の厚さを1.5〜2.0nmにして、単層カーボンナノチューブ及び、三層以上の多層カーボンナノチューブの割合を50%以上にすることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
〔4〕前記金属触媒の薄膜をパターニングすることを特徴とする上記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
〔5〕前記二層カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
【0018】
そして、この出願の発明は、上記のとおりの二層カーボンナノチューブもしくはそのバルク構造体のいずれかを用いた放熱体、伝熱体、導電体、強化材、電極材料、キャパシタまたはスーパーキャパシタ、電子放出素子、吸着体をも提供する。
【発明の効果】
【0019】
上記のとおりのこの出願の発明の二層カーボンナノチューブ、並びに二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、従来の二層カーボンナノチューブと比べて触媒や副生成物等の混入等が抑えられた、高純度化されたもので、ナノ電子デバイス、電子放出素子等への応用において極めて有用である。
【0020】
また、この出願の発明の方法によれば、触媒金属の微粒子粒径の制御、そしてこれを可能とする触媒金属薄膜の膜厚の制御、さらには、水蒸気などの酸化剤の反応系への存在という極めて簡便な手段によって、高選択的に、しかも高効率で二層カーボンナノチューブ並びにそのバルク構造体が製造することができることに加え、金属触媒の寿命を延長させ、高い成長速度でそれらの効率的な成長を実現し、量産化を図ることができる上、基板上で成長させたカーボンナノチューブは基板または触媒から容易に剥離することができるものとなる。
【0021】
そして、特に強調されることは、この出願の発明の製造方法によれば、触媒金属の粒径、さらには触媒金属の薄膜の制御によって、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と三層以上の多層カーボンナノチューブとが共存する二層カーボンにおいて、その成長にともなう存在割合を自在に選択制御できる。たとえば、二層カーボンナノチューブの割合を50%以上、80%以上、さらには85%以上等に選択的にコントロールできることになる。また一方、単層カーボンナノチューブ、あるいは三層以上の多層カーボンナノチューブの割合を増大させることも可能となる。このような制御によって、その応用の形態は大きく拡大されることになる。
【0022】
また、この出願の発明の配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体のうちパターニング化したものは、上記と同様にナノ電子デバイス等への適用の他、多様な応用が期待できる。
【0023】
さらに、この出願の発明によれば、放熱体、伝熱体、導電体、強化材、電極材料、電池、キャパシタあるいはスーパーキャパシタ、電子放出素子、吸着剤、光学素子等への適用の他、多様な応用が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0025】
まず、この出願の発明の二層カーボンナノチューブについて述べる。
【0026】
この出願の発明の二層カーボンナノチューブは、純度が98%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.9%以上であることを特徴とするものである。
【0027】
ここで、この明細書でいう純度とは、蛍光X線を用いた元素分析結果より計測された純度である。
【0028】
この二層カーボンナノチューブでは、精製処理を行わない場合には、成長直後(as−grown)での純度が最終品の純度となる。必要に応じて、精製処理を行ってもよい。
【0029】
また、この二層カーボンナノチューブは配向したものとすることができ、好ましくは基板上に垂直配向したものとすることができる。
【0030】
この出願の発明による垂直配向した二層カーボンナノチューブは、触媒や副生成物等の混入等が抑えられ、高純度化されたもので、最終製品としての純度はこれまでにないものである。
【0031】
そして、この出願の発明の配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、複数の配向二層カーボンナノチューブからなり、高さ0.1μm以上であることを特徴とするものである。
【0032】
この出願の明細書において「構造体」とは、配向した二層カーボンナノチューブが複数本集まったもので、電気・電子的、光学的等の機能性を発揮するものである。
【0033】
この配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体においても、その、純度は、98%以上、より好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。精製処理を行わない場合には、成長直後(as−grown)での純度が最終品の純度となる。必要に応じて、精製処理を行ってもよい。この配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は所定の配向したものとすることができ、好ましくは基板上に垂直配向したものとすることができる。
【0034】
この出願の発明の配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の高さ(長さ)については用途に応じてその好ましい範囲は異なるが、ラージスケール化したものとして用いる場合には、下限については好ましくは0.1μm、さらに好ましくは20μm、特に好ましくは50μmであり、上限については好ましくは2.5mm、さらに好ましくは1cm、特に好ましくは10cmである。
【0035】
このように、この出願の発明による配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、触媒や副生成物等の混入等を抑えられた、高純度化されたものであり、最終製品としての純度はこれまでにないものである。
【0036】
また、この出願の発明による配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、その高さも大幅にラージスケール化されたものであるので、後記するように、ナノ電子デバイス等への適用の他、多様な応用が期待できる。
【0037】
また、この出願の発明に係る配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、配向性を有することから、配向方向とそれに垂直な方向で光学的特性、電気的特性、機械的特性、磁気的特性および熱的異方性の少なくともいずれかにおいて異方性を示す。この二層カーボンナノチューブ・バルク構造体における配向方向とそれに垂直な方向の異方性の度合いは好ましくは1:3以上であり、より好ましくは1:5以上であり、特に好ましくは1:10以上である。その上限値は1:100程度である。このような大きな異方性は、たとえば異方性を利用した熱交換器、ヒートパイプ、強化材等の各種物品等への適用が可能となる。
【0038】
たとえば以上のような特徴を有するこの出願の発明の二層カーボンナノチューブ並びにそのバルク構造体は、CVD法により、反応系に金属触媒を存在させることによって製造する。このCVD法においては、原料炭素源としての炭素化合物としては、従来と同様に、炭化水素、なかでも低級炭化水素、たとえばメタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン等が好適なものとして使用可能とされる。これらは1種もしくは2種以上のものであってよく、反応の条件として許容されるのであれば、メタノール、エタノール等の低級アルコールやアセトン、一酸化炭素等の低炭素数の含酸素化合物の使用も考慮される。
【0039】
反応の雰囲気ガスは、カーボンナノチューブと反応せず、成長温度で不活性であれば、使用することができ、そのようなものとしては、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、ネオン、クリプトン、二酸化炭素、塩素等や、これらの混合気体が例示でき、特にヘリウム、アルゴン、水素、およびこれらの混合気体が好ましい。
【0040】
反応の雰囲気圧力は、これまでカーボンナノチューブが製造された圧力範囲であれば、適用することができ、10Pa以上10Pa(100大気圧)以下が好ましく、10Pa以上3×10Pa(3大気圧)以下がさらに好ましく、5×10Pa以上9×10Pa以下が特に好ましい。
【0041】
反応系には、前記のとおりの金属触媒を存在させるが、この触媒としては、これまでカーボンナノチューブの製造に使用されたものであれば、たとえば、鉄、モリブデン、コバルト、アルミニウム等の金属(合金を含む)の適宜のものを使用することができる。そして、この出願の発明の製造方法において特徴とされることは、これらの金属触媒の微粒子の粒径(サイズ)を制約し、これによって二層カーボンナノチューブ並びにそのバルク構造体の選択的成長を可能としていることである。この金属触媒微粒子の粒径の制御については、金属触媒の薄膜を加熱することで微粒子を生成させるに際し、薄膜の膜厚によって粒径制御を可能とすることができる。この特徴の概要を示したものが図1である。
【0042】
図1に示したように、たとえば、まず、基板上に厚さが厳密にコントロールされている金属触媒の薄膜を配設する。たとえば塩化鉄薄膜、スパッタで作製された鉄薄膜、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、アルミナ−鉄−モリブデン薄膜等を例示することができる。
【0043】
配設された薄膜を高温で加熱すると金属触媒の微粒子が生成され、その粒径は薄膜の厚みによって規定することができる。そして粒径の大きさによって、二層カーボンナノチューブの生成の選択性が高められる。また、複数の金属触媒微粒子の粒径の均一性によって、バルク構造体における二層カーボンナノチューブの存在割合が高められることになる。つまり、金属触媒の膜厚によって、生成されるカーボンナノチューブにおける二層カーボンナノチューブの選択性、存在割合が、他の単層カーボンナノチューブや三層以上の多層カーボンナノチューブに比べて高められることになる。実際、この出願の発明においては、二層カーボンナノチューブの割合は50%以上、さらには、80%以上、85%以上へと高めることができる。
【0044】
以上のことから、二層カーボンナノチューブ、そしてそのバルク構造体を製造するこの出願の発明の方法では、薄膜としての触媒の存在量としては、これまでにカーボンナノチューブが製造された量であればその範囲で使用することができ、たとえば鉄金属触媒を用いた場合には、薄膜の厚さが0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、1.5nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0045】
触媒の配置は、上記のような厚みで金属触媒を配置させる方法であればスパッタ蒸着等適宜の方法を用いることができる。また、後述する金属触媒のパターニングを利用して大量の二層カーボンナノチューブを同時に製造することもできる。
【0046】
CVD法における成長反応時の温度は、反応圧力、金属触媒、原料炭素源や酸化剤の種類等を考慮することにより適宜定められるが、酸化剤の添加の効果が十分発現するような温度範囲に設定しておくことが望ましい。最も望ましい温度範囲は、下限値を、触媒を失活させる副次生成物たとえばアモルファスカーボンやグラファイト層などが酸化剤により取り除かれる温度とし、上限値を、主たる生成物、例えばカーボンナノチューブが酸化剤により酸化されない温度とすることである。具体的には、水分の場合は、600℃以上1000℃以下とすることが好ましく、さらには650℃以上900℃以下とすることが有効である。また酸素の場合には、650℃以下より好ましくは550℃以下、二酸化炭素の場合には1200℃以下、より好ましくは1100℃以下とすることが有効である。
【0047】
そして、この出願の発明においての特徴の一つである酸化剤の存在は、CVD成長反応時に触媒の活性を高め、また活性寿命を延長させる効果がある。この相乗効果により、結果として、生成されるカーボンナノチューブが大幅に増加する。たとえば酸化剤としての(水分)水蒸気を存在させることにより、大幅に触媒の活性が高くなり、かつ、触媒の寿命が延長され。水分を存在させない場合には、触媒活性と、触媒寿命は定量的に評価することが著しく困難になるほど、減少する。
【0048】
また、酸化剤としての(水分)水蒸気を添加等により存在させることにより、垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の高さが大幅に増大することができる。これは酸化剤(水分)により、二層カーボンナノチューブがより効率的に生成されていることを示す。酸化剤(水分)により触媒の活性、触媒の寿命、そして結果としてその高さが著しく増大することがこの出願の発明の最大の特徴の一つである。酸化剤により、垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の高さが大幅に増加するという知見は、この出願前には全く知られていないことであり、この出願の発明者等によって初めて見出された画期的な事柄である。
【0049】
この出願の発明で添加する酸化剤の機能は、現時点では定かではないが、つぎのように考えられる。
【0050】
通常のカーボンナノチューブの成長過程では、成長中に触媒がアモルファスカーボンやグラファイト層などの成長中に発生する副次生成物で覆われ、触媒活性が低下し、寿命が短くなり、急速に失活する。発生する副次生成物に覆われている。副次生成物が触媒を覆うと触媒は失活する。しかし、酸化剤が存在すると、アモルファスカーボンやグラファイト層などの成長中に発生する副次生成物が酸化されてCOガスなどに変換され、触媒層から取り除かれ、このことにより、触媒の活性が高められ、触媒の寿命も延長し、結果として、カーボンナノチューブの成長が効率よく進行し、その高さが著しく増大した垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体が得られるものと推定している。
【0051】
酸化剤としては、水蒸気、酸素、オゾン、硫化水素、酸性ガス、また、エタノール、メタノール等の低級アルコール、一酸化炭素、二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物およびこれらの混合ガスも有効である。この中でも、水蒸気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素が好ましく、特に水蒸気が好ましく使用される。
【0052】
その添加量は特に制限はなく、微量であってよく、たとえば水蒸気の場合には、通常は、10ppm以上10000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上700ppm以下である。触媒の劣化防止と水蒸気添加による触媒活性の向上の観点から水蒸気の場合の添加量は上記のような範囲とするのが望ましい。
【0053】
この酸化剤の添加によって、従来では高々2分程度で終了するカーボンナノチューブの成長が数十分間持続し、成長速度は、従来に比べて100倍以上、さらには1000倍にも増大することになる。
【0054】
この出願の発明の方法においては、カーボンナノチューブ化学気相成長(CVD)装置として、酸化剤を供給する手段を備えることが望ましいが、その他のCVD法のための反応装置、反応炉の構成、構造については特に限定されることはなく、従来公知の、熱CVD炉、熱加熱炉、電気炉、乾燥炉、恒温槽、雰囲気炉、ガス置換炉、マッフル炉、オーブン、真空加熱炉、プラズマ反応炉、マイクロプラズマ反応炉、RFプラズマ反応炉、電磁波加熱反応炉、マイクロ波照射反応炉、赤外線照射加熱炉、紫外線加熱反応炉、MBE反応炉、MOCVD反応炉、レーザー加熱装置、等の装置が何れも使用できる。
【0055】
酸化剤を供給する手段の配置、構成については特に限定されることはなく、たとえばガスや混合ガスとして供給、酸化剤含有溶液を気化しての供給、酸化剤固体を気化・液化しての供給、酸化剤雰囲気ガスを使用しての供給、噴霧を利用した供給、高圧や、減圧を利用した供給、注入を利用した供給、ガス流を利用した供給、およびこちらの手法を複数合わせた供給、などが挙げられ、バブラーや気化器、混合器、攪拌器、希釈器、噴霧器、ノズル、ポンプ、注射器、コンプレッサー等や、これらの機器を複数組み合わせたシステムを使用して供給が採られる。
【0056】
また非常に微量の酸化剤を精度よく制御して、供給するために、装置には原料ガス・キャリアーガスからの酸化剤除去を行う純化装置を備えていてもよく、その場合、装置は、酸化剤を除去された原料ガス・キャリアーガスに後段で制御された量の酸化剤を上記のいずれかの手法で供給する。上記手法は原料ガス・キャリアーガスに酸化剤が微量含まれているときには有効である。
【0057】
さらには、酸化剤を精度よく制御して安定して供給するために、装置は酸化剤の濃度を計測する計測装置を装備していてもよく、その場合には、計測値を酸化剤流通調整手段にフィードバックして、より経時変化の少ない安定な酸化剤の供給を行うようにしてもよい。
【0058】
さらには、計測装置は、カーボンナノチューブの合成量を計測する装置であってもよく、また、酸化剤により発生する副次生成物を計測する装置であってもよい。
【0059】
さらには、大量のカーボンナノチューブを合成するために、反応炉は、基板を複数、もしくは連続的に供給・取り出しを行うシステムを装備していてもよい。
【0060】
この出願の発明の方法を実施するために好適に使用されるCVD装置の一例を模式的に図2から図6に示す。
【0061】
この出願の発明の方法では、触媒を基板上に配置して基板面に垂直に配向した二層カーボンナノチューブを成長させることができる。この場合、基板としては、これまでカーボンナノチューブが製造されたものであれば適宜のものが使用可能であるが、たとえば以下のようなものを挙げることができる。
【0062】
(1)鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、砒素、インジウム、燐、アンチモン等の金属・半導体;これらの合金;これらの金属および合金の酸化物
(2)上記した金属、合金、酸化物の薄膜、シート、板、パウダーおよび多孔質材料
(3)シリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、ダイアモンド)などの非金属、セラミックス;これらのウェハ、薄膜
この出願の発明の方法で製造される垂直配向二層カーボンナノチューブの高さ(長さ)は用途に応じてその好ましい範囲は異なるが、下限については好ましくは0.1μm、さらに好ましくは20μm、特に好ましくは50μmであり、上限については特に制限はないが、実使用の観点から、好ましくは2.5mm、さらに好ましくは1cm、特に好ましくは10cmである。
【0063】
基板上に成長させた場合には、基板または触媒から容易に剥離させることができる。
【0064】
二層カーボンナノチューブを剥離させる方法としては、物理的、化学的あるいは機械的に基板上から剥離する方法があり、たとえば電場、磁場、遠心力、表面張力を用いて剥離する方法;機械的に直接、基板より剥ぎ取る方法;圧力、熱を用いて基板より剥離する方法などが使用可能である。簡単な剥離法としては、ピンセットで直接基板より、つまみ、剥離させる方法がある。より好適には、カッターブレードなどの薄い刃物を使用して基板より切り離すこともできる。またさらには、真空ポンプ、掃除機を用い、基板上より吸引し、剥ぎ取ることも可能である。また、剥離後、触媒は基板上に残余し、新たにそれを利用して垂直配向した二層カーボンナノチューブを成長させることが可能となる。
【0065】
したがって、このような二層カーボンナノチューブは、ナノ電子デバイス、ナノ光学素子や電子放出素子等への応用において極めて有用である。
【0066】
なお、二層カーボンナノチューブを基板または触媒から剥離・分離する装置の代表例を模式的に図7および図8に示す。しかも基板上に成長させた場合には、基板または触媒から容易に剥離させることができる。二層カーボンナノチューブを剥離させる方法および装置としては、先に述べた方法が採用される。
【0067】
この出願の発明の方法で製造された二層カーボンナノチューブは、必要に応じて従来と同様の精製処理を施してもよい。
【0068】
また、この出願の発明の配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、その形状が所定形状にパターニング化されたものとすることができる。パターニング化の形状は、薄膜状の他、円柱状、角柱状、あるいは複雑な形状をしたもの等、種々の形状のものとすることができる。
【0069】
触媒のパターニング法としては、直接的または間接的に触媒金属をパターニングできる手法であれば適宜の手法を使用することができ、ウェットプロセスでもよくドライプロセスでもよく、たとえば、マスクを用いたパターニング、ナノインプリンティングを用いたパターニング、ソフトリソグラフィーを用いたパターニング、印刷を用いたパターニング、メッキを用いたパターニング、スクリーン印刷を用いたパターニング、リソグラフィーを用いたパターニングの他、上記のいずれかの手法を用いて、基板上に触媒が選択的に吸着する他の材料をパターニングさせ、他の材料に触媒を選択吸着させ、パターンを作成する方法でもよい。好適な手法は、リソグラフィーを用いたパターニング、マスクを用いた金属蒸着フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、マスクを用いた電子ビーム蒸着法による触媒金属パターニング、マスクを用いたスパッタ法による触媒金属パターニングである。
【0070】
この出願の発明の方法で製造される配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の高さ(長さ)は用途に応じてその好ましい範囲は異なるが、下限については好ましくは0.1μm、さらに好ましくは20μm、特に好ましくは50μmであり、上限は特に制限はないが、好ましくは2.5mm、さらに好ましくは1cm、特に好ましくは10cmである。
【0071】
また、この出願の発明の方法では、バルク構造体の形状を金属触媒のパターニングおよびカーボンナノチューブの成長により任意に制御することができる。その制御の仕方をモデル化した例を図9に示す。
【0072】
この例は、薄膜状のバルク構造体(カーボンナノチューブの径寸法に対して構造体は薄膜状であってもバルク状であるということができる)の例で、厚みが高さ、幅に比較して薄く、幅は触媒のパターニングにより任意の長さに制御可能であり、厚みも触媒のパターニングにより任意の厚さに制御可能であり、高さは構造体を構成する各垂直配向二層カーボンナノチューブの成長により制御可能となっている。図9において垂直配向二層カーボンナノチューブの配列は矢印で示すようになっている。
【0073】
もちろん、この出願の発明の方法で製造される配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の形状は薄膜状に限らず、円柱状、角柱状、あるいは複雑な形状をしたもの等、触媒のパターニングと成長の制御により種々の形状のものとすることができる。
【0074】
なお、この出願の発明の方法では、触媒を失活させて副次生成物、例えば、アモルファスカーボンやグラファイト層などを破壊する工程を組み合わせてもよい。
【0075】
破壊工程とは、カーボンナノチューブ製造工程の副次生産物で触媒を失活させる物質、例えば、例えば、アモルファスカーボンやグラファイト層などを適切に排除し、かつカーボンナノチューブ自体は排除しないプロセスを意味する。したがって、破壊工程には、カーボンナノチューブ製造工程の副次生産物で触媒を失活させる物質を排除するプロセスならば何れも採用することができ、そのような工程としては、酸化剤による酸化・燃焼、化学的なエッチング、プラズマ、イオンミリング、マイクロ波照射、紫外線照射、急冷破壊等が例示でき、酸化剤の使用が好ましく、特に水分の使用が好ましい。
【0076】
成長工程と破壊工程の組み合わせの態様としては成長工程と破壊工程を同時に行うこと、成長工程と破壊工程を交互に行うこと、もしくは成長工程を強調するモードと破壊工程を強調するモードの組み合わせることなどを挙げることができる。
【0077】
なお、この出願の発明の方法を実施するための装置としては、前記した装置がいずれも使用できる。
【0078】
このような工程の組み合わせにより、この出願の発明の方法においては、上記二層カーボンナノチューブを、触媒を長時間失活させることなく、高効率に製造することができ、しかも、酸化剤による酸化・燃焼のみならず、化学的なエッチング、プラズマ、イオンミリング、マイクロ波照射、紫外線照射、急冷破壊等の多種多様のプロセスを採用することができる上、気相、液相のいずれのプロセスも採用できることから、製造プロセスの選択自由度が高まるといった多大な利点を有する。
【0079】
この出願の発明に係る二層カーボンナノチューブ、複数の二層カーボンナノチューブからなり、高さが0.1μm以上の、形状が所定形状にパターニングされている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、超高純度、超熱伝導性、優れた電子放出特性、優れた電子・電気的特性、超機械的強度などの様々な物性・特性を有することから、種々の技術分野や用途へ応用することができる。特に、ラージスケール化された垂直配向バルク構造体およびパターニングされた垂直配向バルク構造体は、以下のような技術分野に応用することができる。
(A)放熱体(放熱特性)
放熱が要求される物品、たとえば電子物品のコンピュータの心臓部であるCPUの演算能力はさらなる高速・高集積化が要求されCPU自体からの熱発生度はますます高くなり、近い将来LSIの性能向上に限界が生じる可能性があると言われている。従来、このような熱発生密度を放熱する場合、放熱体として、ランダム配向のカーボンナノチューブをポリマーに埋設したものが知られているが、垂直方向への熱放出特性に欠けるといった問題があった。この出願の発明に係る上記ラージスケール化された垂直配向カーボンナノチューブ・バルク構造体は、高い熱放出特性を示し、しかも高密度でかつ長尺に垂直配向したものであるから、このものを放熱材として利用すると、従来品に比較して飛躍的に垂直方向への熱放出特性を高めることができる。
【0080】
なお、この出願の発明の放熱体は、電子部品に限らず、放熱が要求される他の種々の物品、たとえば、電気製品、光学製品および機械製品等の放熱体として利用することができる。
(B)伝熱体(伝熱特性)
この出願の発明の垂直配向カーボンナノチューブ・バルク構造体は良好な伝熱特性を有している。このような伝熱特性に優れた垂直配向カーボンナノチューブ・バルク構造体はこれを含有する複合材料である伝熱材とすることで、高熱伝導性材料を得ることができ、たとえば熱交換器、乾燥機、ヒートパイプ等に適用した場合、その性能向上を図ることができる。このような伝熱材を航空宇宙用熱交換器に適用した場合、熱交換性能の向上、重量・容積の低減化を図ることができる。また、このような伝熱材を燃料電池コージェネレーション、マイクロガスタービンに適用した場合、熱交換性能の向上および耐熱性を向上を図ることができる。
(C)導電体(導電性)
電子部品、たとえば、現在の集積されたLSIは何層もの構造をもつ。ビア配線とはLSI内部の縦層間の縦方向の配線のことを指し、現在では銅配線などが使用されている。しかしながら、微細化とともにエレクトロマイグレーション現象などにより、ビアの断線が問題となっている。銅配線に代えて、縦配線を、この発明に係る上記垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体、もしくは構造体の形状が所定形状にパターニング化されている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体に代えると、銅と比較して1000倍もの電流密度が流せ、また、エレクトロマイグレーション現象がないために、ビア配線のいっそうの微細化と安定化を図ることができる。
【0081】
また、この出願の発明の導電体あるいはこれを配線としたものは、導電性の要求される様々な物品、電気製品、電子製品、光学製品および機械製品の導電体や配線として利用することができる。
【0082】
たとえば、この出願の発明に係る上記垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体、もしくは構造体の形状が所定形状にパターニング化されている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は高導電性と機械的強度の優位性から、層中の銅横配線に代えてこのものを用いることにより微細化と安定化を図ることができる。
(D)光学素子(光学特性)
光学素子、たとえば、偏光子は、従来より方解石結晶が用いられているが、非常に大型でかつ高価な光学部品であり、また、次世代リソグラフィーにおいて重要な極短波長領域では有効に機能しないことから、これに代わる材料として単体の二層カーボンナノチューブが提案されている。しかしながら、この単体の二層カーボンナノチューブを高次に配向させ、かつ光透過性を有するマクロの配向膜構造体を作成する困難さといった問題点があった。この出願の発明に係る上記垂配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体、もしくは構造体の形状が所定形状にパターニング化されている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、超配向性を示し、配向薄膜の厚みは触媒のパターンを代えることでコントロールすることができ、厳密に薄膜光透過度を制御できるので、このものを偏光子として用いると極短波長領域から赤外まで広波長帯域で優れた偏光特性を示す。また、極薄カーボンナノチューブ配向膜が光学素子として機能するため偏光子を小型化することができる。
【0083】
なお、この出願の発明の光学素子は、偏光子に限らず、その光学特性を利用することにより他の光学素子として応用することができる。
(E)強度強化材(機械的特性)
従来より、炭素繊維強化材は、アルミウムと比較して50倍の強度を持ち、軽量でかつ強度を持つ部材として、広く航空機部品、スポーツ用品等で使われているが、更なる軽量化、高強度化が強く要請されている。この出願の発明に係る配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体、もしくは形状が所定形状にパターニング化されている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、従来の炭素繊維強化材と比較して、数十倍の強度を有することから、これらのバルク構造体を従来の炭素繊維強化材に代えて利用すると極めて高強度の製品を得ることができる。この強化材は軽量、高強度であるほかに、耐熱酸化性が高く(〜3000℃)、可撓性、電気伝導性・電波遮断性がある、耐薬品性・耐蝕性に優れる、疲労・クリープ特性が良い、耐摩耗性、耐振動減衰性に優れるなどの特性を有することから、航空機、スポーツ用品、自動車を始めとする、軽量かつ強度が必要とされる分野で活用することができる。
【0084】
なお、この発明の強化材は、金属、セラミックスまた樹脂などに基材に配合させて高強度の複合材料とすることもできる。
(F)スーパーキャパシタ、2次電池(電気特性)
スーパーキャパシタは電荷の移動によってエネルギーをためこむので、大電流を流すことができる、10万回を超える充放電に耐える、充電時間が短いなどの特徴を持つ。スーパーキャパシタとして大事な性能は、静電容量が大きいことと、内部抵抗が小さいことである。静電容量を決めるのはポア(孔)の大きさであり、メソポアと呼ばれる3〜5ナノメートル程度の時に最大となることが知られており、水分添加手法により合成された二層カーボンナノチューブのサイズと一致する。またこの出願の発明に係る配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体、もしくは構造体の形状が所定形状にパターニング化されている配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を用いた場合、すべての構成要素を並列的に最適化することができ、また、電極等の表面積の最大化を図ることができるので、内部抵抗を最小にすることが可能となることから、高性能のスーパーキャパシタを得ることができる。
【0085】
なお、この出願の発明に係る配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、スーパーキャパシタのみならず通常のスーパーキャパシタの構成材料さらには、リチウム電池などの二次電池の電極材料、燃料電池や空気電池等の電極(負極)材料として応用することができる。
(G)電子放出体
カーボンナノチューブは電子放出特性を示すことが知られている。そこで、この出願の発明に係る配向二層カーボンナノチューブは電子放出素子へ応用することが期待できる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によってこの出願の発明が限定されることはない。
【0087】
〔実施例1〕
以下の条件において、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させた。
【0088】
炭素化合物 :エチレン;供給速度200sccm
雰囲気(ガス)(Pa):ヘリウム、水素混合ガス;供給速度2000sccm
圧力:大気圧
水蒸気添加量(ppm):300ppm
反応温度(℃):750℃
反応時間(分):30分
金属触媒(存在量):鉄薄膜;厚さ1.69nm
基板:シリコンウェハー
なお、基板上への触媒の配置はスパッタ蒸着装置を用いて蒸着した。
【0089】
図10は、上記条件による成長で得られた垂直配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の外観を例示したものである。図中の手前は定規である。高さ2.2mmの垂直方向二層カーボンナノチューブ膜は下のシリコンウエハー上に成長している。この膜について、その頂点部のSEM像を示したものが図11である。二層カーボンナノチューブが超高密度で、矢印方向に垂直に配向していることがよくわかる。
【0090】
なお、水蒸気を添加しないこと以外は上記と同様にした場合には、数秒で触媒が活性を失い、2分後には成長が止まったのに対し、水蒸気を添加した実施例1の方法では、長時間成長が持続し、実際には30分以上の成長の継続が見られた。また、実施例1の方法の垂直配向二層カーボンナノチューブの成長速度は従来法のものの約100倍程度で極めて速いことがわかった。また、実施例1の方法の垂直配向二層カーボンナノチューブには触媒やアモルファスカーボンの混入は認められず、その純度は未精製で99.95%であった。一方、従来法で得られた垂直配向カーボンナノチューブはその純度が測定できるほどの量が得られなかった。
【0091】
〔実施例2〕
以下の条件において、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させた。
【0092】
炭素化合物 :エチレン;供給速度100sccm
雰囲気(ガス) :ヘリウム、水素混合ガス;供給速度1000sccm
圧力:大気圧
水蒸気添加量(ppm):300ppm
反応温度(℃):750℃
反応時間(分):10分
金属触媒(存在量):鉄薄膜;厚さ1.69nm
基板:シリコンウェハー
なお、基板上への触媒の配置はスパッタ蒸着を行った。
【0093】
図12から図14は、実施例2で作製した垂直配向二層カーボンナノチューブを基板からピンセットを用いて剥離し、溶液中に分散させたものを電子顕微鏡(TEM)のグリッドの上に乗せ、電子顕微鏡(TEM)で観察した写真像を示したものである。得られたカーボンナノチューブに、触媒やアモルファスカーボンが一切混入していないことがわかる。実施例2の二層カーボンナノチューブは未精製で99.95%であった。
【0094】
実施例2で作製した垂直配向二層カーボンナノチューブのラマンスペクトルと熱重量分析した結果を図15に示す。ラマンスペクトルによれば、鋭いピークを持つGバンドが1592カイザーで観察され、グラファイト結晶構造が存在することがわかる。また、Dバンド(1340カイザー)が小さいことより欠陥が少なく、高品質であることもわかる。そして低波長側のピークよりグラファイト層は二層カーボンナノチューブであることがわかる。
【0095】
また、熱分析の結果からは、低温での重量減少がなく、アモルファスカーボンが存在しないことがわかる。また、カーボンナノチューブの燃焼温度が高く、高品質(高純度)であることがわかる。
【0096】
図16は、剥離した垂直配向二層カーボンナノチューブの拡大した電子顕微鏡(TEM)写真像を示したものである。垂直配向二層カーボンナノチューブであることがわかる。
【0097】
〔実施例3〕
以下の条件において、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させた。
【0098】
炭素化合物 :エチレン;供給速度100sccm
雰囲気(ガス) :ヘリウム、水素混合ガス;供給速度1000sccm
圧力:大気圧
水蒸気添加量(ppm):300ppm
反応温度(℃):750℃
反応時間(分):10分
金属触媒(存在量):鉄薄膜;厚さ0.94,1.32,1.62,
1.65,1.69,1.77nm
基板:シリコンウェハー
なお、基板上への各々の厚みの触媒の配置はスパッタ蒸着により行った。
【0099】
各々の鉄膜厚とカーボンナノチューブにおける直径分布中心との関係を示したものが図17であり、単層、二層および三層以上の多層の割合(%)を示したものが次の表1である。
【0100】
【表1】

【0101】
表1からは鉄膜厚が1.5mm〜2.0nmの範囲において二層カーボンナノチューブの割合が50%以上を占めることが、また、1.69nmにおいて、85%の割合を占めていることがわかる。
【0102】
そして、図17および表1からは、図18に示したように、チューブ外形とチューブ分布に相関があり、この相関とナノチューブが有するガウス分布からの直径による二層ナノチューブ濃度の予想が可能となる。これを示したものが図19である。この図19は、ナノチューブが有する直径のガウス分布の半値幅を1.4と評価し、二層ナノチューブ濃度の直径相関から算出した、ある平均直径を有するときの二層ナノチューブの濃度を表わしている。
【0103】
これらから、触媒の成膜量(厚み)により、二層、単層、三層以上の多層の割合を制御し、デザイン可能であることがわかる。
【0104】
図20は、高濃度二層カーボンナノチューブの例を、チューブ外径とカウント数との関係として示したものである。
【0105】
〔参考例〕
薄膜状の金属触媒が加熱により微粒子化することを以下の事実により確認した。すなわち、実施例1に対応する薄膜状の触媒を二層カーボンナノチューブの成長と同等の熱履歴で微粒子化し、成長を行わずに冷却して原子間力顕微鏡により観察した。その観察の結果を図21に例示した。
【0106】
この図21より、金属薄膜触媒が直径数ナノメートル(高さで計測)(原子間力顕微鏡は横方向の分解能は数十ナノメートルしかないため触媒は大きくみえる)微粒子になっていることがわかる。
【0107】
〔実施例4〕
以下の条件において、CVD法により配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を成長させた。
【0108】
炭素化合物 :エチレン;供給速度100sccm
雰囲気(ガス) :ヘリウム、水素混合ガス;供給速度1000sccm
圧力:大気圧
水蒸気添加量(ppm):400ppm
反応温度(℃):750℃
反応時間(分):10分
金属触媒(存在量):鉄薄膜;厚さ1.69nm
基板:シリコンウェハー
なお、基板上への触媒の配置とチューブの成長は図22のプロセスの沿って次のように行った。
【0109】
電子ビーム露光用レジストZEP−520Aをスピンコーターを用い、4700rpmで60秒、シリコンウェハー上に薄く貼付し、200℃で3分ベーキングした。次に、電子ビーム露光装置を用い、上記現レジスト貼付基板上に、厚さ3〜1005μm、長さ375μm〜5mm、間隔10μm〜1mmのパターンを作成した。次に、スパッタ蒸着装置を用い、厚さ1.69nmの鉄金属を蒸着し、最後に、レジストを剥離液ZD−MACを用いて基板上から剥離し、触媒金属が任意にパターニングされたシリコンウェハー基板を作製した。
【0110】
図23から図27に、形成された配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の電子顕微鏡(SEM)写真像を示す。
【0111】
図25、図26は根元部を、図27は頭頂部のSEM像である。
【0112】
〔実施例5〕
実施例2において形成した高純度二層カーボンナノチューブについて、以下の表2の条件で窒素吸着等温線測定と比表面積評価を行った。
【0113】
【表2】

【0114】
その結果を図28に示す。
【0115】
BET比表面積は740m/gと判定される。
【0116】
〔実施例6〕(導電体)
実施例2で得た配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を1センチ×1センチ×高さ1ミリの形状とし、上側と下側に銅板を接触させ、カスタム社製デジタルテスタ(CDM−2000D)を用い、2端子法で電気抵抗を評価した。その結果、測定された抵抗値は4Ωであった。この抵抗値は配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を通しての伝導抵抗と、配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体と銅電極のコンタクト抵抗を二つ含むもので、配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体と金属電極を小さな接触抵抗で密着させることができることを示している。このことから、配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体は導電体としての利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】発明の製造方法を示した模式図である。
【図2】二層カーボンナノチューブまたは配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造装置の模式図である。
【図3】二層カーボンナノチューブまたは配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造装置の模式図である。
【図4】二層カーボンナノチューブまたは配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造装置の模式図である。
【図5】二層カーボンナノチューブまたは配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造装置の模式図である。
【図6】二層カーボンナノチューブまたは配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造装置の模式図である。
【図7】配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を基板または触媒から分離するために使用される分離装置の模式図である。
【図8】配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を基板または触媒から分離するために使用される分離装置の模式図である。
【図9】配向二層カーボンナノチューブ・バルク構造体を用いた放熱体およびこの放熱体を備えた電子部品の概略図である。
【図10】実施例1における二層カーボンナノチューブ膜の外観図である。
【図11】実施例1における頂点部のSEM像である。
【図12】実施例2における第1のTEM像である。
【図13】第2のTEM像である。
【図14】第3のTEM像である。
【図15】実施例2におけるラマンスペクトルと熱分析図である。
【図16】実施例2におけるTEM像である。
【図17】実施例における触媒鉄の膜厚とチューブ分布の中心外径との関係を示した図である。
【図18】チューブ外径とチューブ分布との関係を示した図である。
【図19】チューブ分布の中心外径と存在確率との予想関係を示した図である。
【図20】高濃度二層ナノチューブについてチューブ外径とカウント数との関係を例示した図である。
【図21】触媒の微粒子化の状態を例示した原子間力顕微鏡像である。
【図22】実施例4でのパターニング成長の工程を示した模式図である。
【図23】パターニングした二層ナノチューブの第1のSEM像である。
【図24】第2のSEM像である。
【図25】第3のSEM像である。
【図26】第4のSEM像である。
【図27】第5のSEM像である。
【図28】実施例5での窒素吸着温線とBET比表面積について示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の薄膜の厚さによってカーボンナノチューブの層数を選択的に制御して単層カーボンナノチューブ及び、三層カーボンナノチューブ以上の多層カーボンナノチューブの少なくともいずれかと共存し、該共存割合が、50%以上を有する二層カーボンナノチューブを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
【請求項2】
前記金属触媒の薄膜を0.1〜100nmにすることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
【請求項3】
前記金属触媒の厚さを1.5〜2.0nmにして、単層カーボンナノチューブ及び、三層以上の多層カーボンナノチューブの割合を50%以上にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
【請求項4】
前記金属触媒の薄膜をパターニングすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。
【請求項5】
前記二層カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図15】
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【図17】
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【図28】
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【図1】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−201774(P2011−201774A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153302(P2011−153302)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【分割の表示】特願2005−341099(P2005−341099)の分割
【原出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】