説明

カーボンナノチューブ薄膜の製膜方法

【課題】配向性を低減し、ランダムな状態にあり、電極やセンサなどに有効に応用されるカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブを、塩基性高分子型分散剤を添加した非プロトン溶媒中に分散させ、この分散液中で被被覆材を陽極として交流電場を適用し、陽極材表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成せしめ、カーボンナノチューブ薄膜を製膜する。この方法によって製膜されたカーボンナノチューブ薄膜は、被被覆材面に沿った面配向状態を低減し、ランダムに無配向しているので、電気や熱の伝導が有効に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ薄膜の製膜方法に関する。さらに詳しくは、配向性を低減したカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、優れた電気伝導性と熱伝導性を有し、この特性を活かした様々な応用用途が期待されているが、通常はカーボンナノチューブ同士が複雑に絡み合った状態にあるため、薄膜形成が非常に困難であり、薄膜化が難しい材料である。一方で、カーボンナノチューブは高価な材料であるため、少量の使用により効果を発揮させることが求められているのが現状である。
【0003】
かかる要請から、本出願人は先に、カーボンナノチューブの薄膜化方法として、電場を利用してカーボンナノチューブを製膜することにより行う方法、具体的には、ジメチルホルムアミド溶媒中にカーボンナノチューブを分散させ、この分散溶媒中にて電極に電圧をかけ、陽極側にカーボンナノチューブを吸着させるという方法を提案している。この方法は、導通のある基材は勿論のこと、導通のない基材でも無電解メッキを施すことにより、基材表面への製膜が可能であるという特徴を有する。しかるに、かかる方法ではカーボンナノチューブの分散量が少ないため、結果的に吸着量が少ないといった解決すべき課題が残されている。
【特許文献1】特開2005−235425号公報
【0004】
本出願人はまた、カーボンナノチューブ等の炭素材料を、塩基性高分子型分散剤を添加した炭化水素溶媒中に分散させ、この溶媒中で被被覆材を陽極として電圧を印加し、陽極材表面上にカーボンナノチューブ等に炭素材料薄膜を形成せしめる方法を提案している(特願2004−354822号)。
【0005】
しかるに、通常のカーボンナノチューブはアスペクト比の非常に高い繊維構造を有しているため、この方法で製膜された薄膜中のカーボンナノチューブの多くは、基材である被被覆材面に沿った面配向の状態で吸着されている。カーボンナノチューブは、カーボンファイバーや金属線などと同様に、繊維軸に沿った方向に電気や熱を伝導することから、このような配向状態にあるカーボンナノチューブは、電気や熱の伝導の際異方性を示すことが予想される。電界放出型表示装置や配線などへの応用では、カーボンナノチューブが配向した状態にある方が好ましいが、電極やセンサなどへの応用では、カーボンナノチューブは無配向なランダムな状態にあることが好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、配向性を低減し、ランダムな状態にあり、電極やセンサなどに有効に応用されるカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、カーボンナノチューブを、塩基性高分子型分散剤を添加した非プロトン溶媒中に分散させ、この分散液中で被被覆材を陽極として交流電場を適用し、陽極材表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成せしめ、カーボンナノチューブ薄膜を製膜する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によって製膜されたカーボンナノチューブ薄膜は、被被覆材面に沿った面配向状態を低減し、ランダムに無配向しているので、電気や熱の伝導が有効に行われる。製膜されたカーボンナノチューブ薄膜は、このような良好な電気伝導性を応用して燃料電池用のセパレータや電極ガス拡散体、リチウム電池用電極、帯電防止材、電磁波シールド材、電界放出ディスプレーなどへ有効に使用することができ、また熱伝導性にもすぐれているという性質を応用して放熱材用途にも有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
塩基性高分子型分散剤としては、分子量が数千〜数万であり、エステルを有する構造のものであれば特に制限なく使用することができ、脂肪酸エステルなど、好ましくはポリエステル酸アマイドアミン塩が用いられる。実際には、市販品、例えば楠本化成製品ディスパロンDA-703-50、DA-705、DA-725、DA-234等が用いられる。この他、ポリエーテルリン酸エステルのアミン塩である同社製品ディスパロンDA-325等も用いられる。これらは、1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%の割合で、炭化水素系溶媒中に添加されて用いられる。この使用割合がこれ以下では、本発明の目的が達成されず、一方これ以上の割合で用いられると、形成した薄膜中に塩基性高分子型分散剤が多量に付着することとなり、好ましくない。
【0010】
塩基性高分子型分散剤を添加した非プロトン溶媒中に分散させたカーボンナノチューブは、単層または多層のいずれでもよく、その平均粒子径(湿式でのレーザー散乱法による50%粒子径)は、100〜1000nm、好ましくは500〜800nmに設定されることが好ましい。このような平均粒子径への調整は、ボールミルなどを用いても行われるが、好ましくは超音波ホモジナイザを用いて行われる。超音波ホモジナイザの代りに、超音波洗浄器を用いると、分散液中のカーボンナノチューブ凝集塊の平均粒子径は1000nm以上となり、またポット型ボールミルを用いると、カーボンナノチューブの破断などがみられることもある。
【0011】
非プロトン溶媒としては、芳香族炭化水素溶媒などが挙げられるが、好ましくはキシレンまたはトルエンが用いられる。これらの非プロトン溶媒は、カーボンナノチューブに対して一般に約100〜1000倍量程度用いられる。
【0012】
被被覆材陽極としては、導電性のものであれば特に制限なく、また導通のない基材でも無電解メッキを施したのもを使用することができ、例えば樹脂と黒鉛などからなる燃料電池用の電極のガス拡散体基材またはセパレータ基材、帯電防止基材、電磁波シールド基材、リチウム電池電極基材、電界放出ディスプレー基材、放熱基材などが用いられるが、好ましくはカーボンペーパー、カーボン不織布、カーボン織布などの多孔質炭素体であるカーボンシート基材が用いられる。
【0013】
本発明の原理は、カーボンナノチューブは製造時に用いる金属触媒の除去のため、加熱、酸処理等の精製が行われるが、この際、カーボンナノチューブに存在する欠陥箇所が酸化され、カルボニル基、水酸基等の官能性基が発生し、カーボンナノチューブは水中でアニオン電荷をもつと考えられる。そこで、カーボンナノチューブを分散させた溶液に電場をかければ、カーボンナノチューブは陽極である燃料電池セパレータ基材に移動し付着(吸着)し、また付着したカーボンナノチューブは凝集のし易さから繋がったネットワークを形成することとなる。
【0014】
そのため、カーボンナノチューブ薄膜の形成は、カーボンナノチューブを塩基性高分子型分散剤を添加した非プロトン溶媒中で、パルスファンクション発生器の如き交流電圧を制御する装置を用いて交流電場を適用し、上記陽極に電圧を印加して陽極材上にカーボンナノチューブを付着(吸着)させることにより行われる。ここで、印加される電圧は、約1〜100V、好ましくは約3V〜20V、特に好ましくは5V程度であり、周波数は約0.1〜1000Hz、好ましくは約1〜10Hzであり、また、印加時間は必要とする製膜量および電極間距離(一般に約3〜5mmに設定される)により異なるが、例えば10〜1000分、好ましくは20〜200分あるいは周期的に印加することも可能である。このとき、炭素材料の沈降を防ぐべく、分散溶液を攪拌しながら製膜することも行われる。また、製膜時にマスキングを行うことで、導電性が必要な部分にのみカーボンナノチューブを付着させることができる。
【0015】
表面にカーボンナノチューブ薄膜が製膜された陽極材は、分散溶液中から取り出した後、表面に製膜されたカーボンナノチューブ以外を取除くように洗浄され、乾燥される。
【実施例】
【0016】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0017】
実施例
キシレン90mlに、ポリエステル酸アマイドアミン塩(楠本化成製品ディスパロンDA-703-50;50%キシレン溶液)10mlを加え、この溶液に気相成長法多層カーボンナノチューブ(日機装製品;繊維径10〜30nm、平均繊維長1〜100μm)100mgを添加し、超音波ホモジナイザ(BRANSON SONIFIER 450)を用いて、出力300Wで12時間の照射分散処理を行い、多層カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0018】
次に電極としてITO電極を用い、PTFE製スペーサ(厚さ3mm)を電極間に挟み、電極間距離が3mmとなるように設置した。パルスファンクションジェネレータ(ヒューレットパッカード社製品8116A)を用い、5Vの電圧(-5V〜+5V)、周波数5Hzの条件下で120分間、端子とケーブルを通じてITO電極に交流電場を印加することにより、陽極材への製膜処理を行った。製膜後、ITO電極表面の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、厚さ約4μmのカーボンナノチューブ薄膜が確認された。
【0019】
製膜後、ITO電極の表面(倍率6000倍)および断面(倍率10000倍)の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、図1〜2のSEM写真に示されるように、比較的無配向な厚さ約4μmのカーボンナノチューブ薄膜が確認された。
【0020】
比較例
実施例において、電極としてITO電極を用い、ミニクランプを用いて電極間距離が30mmになるように設置し、直流電場として200Vの電圧を10分間印加することにより、陽極材への製膜処理を行った。製膜後、ITO電極の表面(倍率6000倍)および断面(倍率10000倍)の走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、図3〜4のSEM写真に示されるように、面配向した厚さ約4μmのカーボンナノチューブ薄膜が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例で得られたカーボンナノチューブ薄膜の表面のSEM写真である。
【図2】実施例で得られたカーボンナノチューブ薄膜の断面のSEM写真である。
【図3】比較例で得られたカーボンナノチューブ薄膜の表面のSEM写真である。
【図4】比較例で得られたカーボンナノチューブ薄膜の断面のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを、塩基性高分子型分散剤を添加した非プロトン溶媒中に分散させ、この分散液中で被被覆材を陽極として交流電場を適用し、陽極材表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成せしめることを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項2】
交流電場の適用が、電圧1〜200V、周波数0.1〜1000Hz、照射時間10〜1000分の条件下で行われる請求項1記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項3】
塩基性高分子型分散剤が、ポリエステル酸アマイドアミン塩である請求項1記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項4】
非プロトン性系溶媒が芳香族炭化水素溶媒である請求項1記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項5】
被被覆材陽極として燃料電池用の電極ガス拡散体基材またはセパレータ基材、帯電防止基材、電磁波シールド基材、リチウム電池電極基材、電界放出ディスプレー基材あるいは放熱基材が用いられる請求項1記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項6】
被被覆材陽極としてカーボンシート基材が用いられる請求項1記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項7】
カーボンシートがカーボンペーパー、カーボン不織布またはカーボン織布である請求項6記載のカーボンナノチューブ薄膜の製膜方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法により製膜されたカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項9】
被被覆材面に沿った面配向状態を低減し、ランダムに無配向している請求項8記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項10】
表面に請求項8または9記載のカーボンナノチューブ薄膜を形成させた燃料電池用の電極ガス拡散体またはセパレータ、帯電防止材、電磁波シールド材、リチウム電池電極、電界放出ディスプレーあるいは放熱材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−182356(P2007−182356A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2386(P2006−2386)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】