説明

カーボンナノファイバー集合体の製造方法

【課題】黒鉛粒子および触媒金属等の不純物の混入を抑制するとともに、安定して再現性よく基板から10mm以上の高さに成長し、かつ0.08g/cm3以上の嵩密度を有するCNF集合体の安定した製造方法の提供。
【解決手段】(1)基板上にカーボンナノファイバーの膜を形成させる工程と、(2)カーボンナノファイバーに触媒を担持させる工程と、(3)炭化水素と水素を含む原料ガスと触媒の原料を同時に供給する工程とを含むことを特徴とするカーボンナノファイバー集合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属や樹脂との複合化に適したブロック状のカーボンナノファイバー(以下、「CNF」ともいう)集合体の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、黒鉛粒子および触媒金属等の不純物の混入を抑制するとともに、安定して再現性よく基板から10mm以上の高さに成長し、かつ0.08g/cm3以上の嵩密度を持つCNF集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長炭素繊維は、遠藤らによって、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)の発見以前に研究されていた(たとえば、非特許文献1参照)。遠藤らは、800℃以上の温度で鉄等のナノ粒子を触媒としてベンゼン流通下で微細な繊維状炭素を形成し、続いて1000℃以上の温度域でベンゼンを流通することを含む方法によって、気相成長炭素繊維を製造した。この方法においては、微細な繊維状炭素が触媒の作用に関係なしに成長して数μmの直径を有する長繊維の気相成長炭素繊維が得られ、また、さらに高温域でベンゼンと反応させることにより繊維の直径方向に成長して数10μmの太い気相成長炭素繊維が得られた。
【0003】
この気相成長炭素繊維の製造方法は、現在研究が盛んなCNTおよびCNFと異なり、触媒である金属ナノ粒子は、初期の微細な繊維状炭素の形成にのみ関与し、繊維の成長には触媒を必要としないことが特徴である。また、得られる気相成長炭素繊維は、繊維径が数μmから数10μmと極めて太く1次元的な形状である。
【0004】
一方、近年では、数nmの直径を有するCNTおよびCNFについて研究が盛んである。特に、触媒を用いて製造するCNTおよびCNFの製造方法が、遠藤らが研究した気相成長炭素繊維の製造方法と異なるのは、繊維径の細さだけでなく、繊維の成長には金属ナノ粒子触媒が不可欠である点である。しかも、金属ナノ粒子触媒は、粒径が小さいために活性が高く、不純物や炭素によって触媒表面を覆われ失活しやすいという欠点がある。そのため、発見初期の段階では、ベンゼン等の炭化水素とフェロセン等の金属触媒原料を同時に供給して、数μmの繊維長のCNTおよびCNFの製造法が開発された。例えば、有機遷移金属化合物を500〜1000℃で熱分解し、分解ガスを1000〜1300℃の帯域に導き、有機化合物のガスを送入しながら、CNTを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、数10nmの直径で数μmの繊維長を有する多層CNTが製造される。ガス中で生成した多層CNTは、出口に設置したフィルターで回収されるとしている。
【0005】
また、触媒原料を含んだ炭素原料液をパルス状に吹き込んで、CNFを製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、触媒ナノ粒子が効果的に製造できることと、触媒活性が高い短時間(2〜3秒)にCNFを成長させることができることが利点であるとされている。この方法で得られるCNFは、20〜500nmの繊維径および1〜100μmの繊維長を有し、管壁または後部のフィルターに捕捉されて回収される。
【0006】
これらのCNTおよびCNFは粉末として得られる。しかし、粉末状のCNF類は、単独ではブロック状に成形することが困難であり、逆に溶液中に分散して使用することが一般的である。
【0007】
また、CNTは、電子源としての性能が注目されており、電極基板上にCNTを形成する技術が研究されるようになった。例えば、丸山らは、シリコン基板等にCo−Moアセテート水溶液をディップ法で塗布し、400℃〜800℃の温度で水素中で処理することにより1〜2nmのCoナノ粒子を形成し、このCoナノ粒子を触媒とすることにより単層CNTを基板上に垂直に成長させることに成功している(非特許文献2参照)。
【0008】
しかし、これらの製造方法では、CNTまたはCNFは数μm〜数100μmの繊維長であり、シート状の形態で得られる。この方法でブロック状のCNTまたはCNF集合体が得られないのは、触媒の寿命が原因である。すなわち、金属ナノ粒子の不活性化により、CNTまたはCNFの成長が終了するからである。
【0009】
ブロック状と言うには、数mm以上の高さを必要とする。ブロック状といえるCNT集合体の製造に成功したのは飯島らである。飯島らは、単層CNTの合成時に、極微量(約100ppm)の水蒸気を共存させることによって、触媒上への炭素の析出を抑えて、基板から数mmの高さまで単層CNT集合体を成長させている(非特許文献3参照)。しかし、通常、CNTの製造において、水蒸気の存在は、触媒の活性を低下させる効果が知られており、触媒表面の不活性化の要因となる。そのため、水蒸気は、多すぎると触媒が不活性化し、少なすぎると効果がないため、最適な濃度に制御することが重要であるが、100ppm前後の水蒸気濃度を制御することは極めて困難であり、装置を大型化するほど水蒸気濃度の制御には困難さが増す。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−78217号公報
【特許文献2】特開2004−360108号公報
【非特許文献1】応用物理,第42巻,第7号(1973),p.690〜696
【非特許文献2】第42回 日本伝熱シンポジウム講演論文集(2006−6)D212,p.237〜238
【非特許文献3】SCIENCE,vol.306(2004),p.1362
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
CNFを基板上に成長させた場合、特殊な触媒の劣化防止策を取らない限り、数100μmの高さで成長が止まってしまう。これは、金属触媒上に炭素が析出し、金属触媒が炭素の膜で覆われてしまうことが原因と考えられている。そのため、1mmを超える高さのCNFを合成することは困難となっている。
【0012】
本発明は、基板から10mmを超える高さを有し、0.08g/cm3以上の高い嵩密度を持ったCNF集合体の安定した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のCNF集合体の製造方法は、(1)基板上にCNFの膜を形成させる工程と、(2)CNFに触媒を担持させる工程と、(3)炭化水素と水素を含む原料ガスと触媒の原料を同時に供給する工程とを含むことを特徴とする。ここで、工程(3)を、500℃から700℃で実施してもよい。
【0014】
また、本発明のCNF集合体の製造方法は、工程(3)に続いて、(4)炭化水素と水素を含む原料ガスを供給して、CNF集合体を成長させる工程をさらに含んでもよい。ここで、工程(4)を、500℃から700℃で実施してもよい。
【0015】
上記の本発明のCNF集合体の製造方法において、工程(1)において形成するCNFが10μm以上の長さを有することが望ましい。また、工程(1)において形成したCNFの膜を基板よりはぎ取り、新しい基板上に張り付けて工程(2)以降を行ってもよい。さらに、工程(2)および(3)で形成された触媒が、50nmから200nmの粒子径であることが望ましい。また、前記炭化水素として、芳香族炭化水素を用いることができる。さらに、前記炭化水素の濃度を20容量%未満とすることが望ましい。一方、工程(2)における触媒としてはFeを用いることが望ましく、工程(3)における触媒の原料としてはフェロセンを用いることが望ましい。
【0016】
本発明のCNF集合体の製造方法によれば、プレートレット(platelet)構造またはヘリンボーン(herring-bone)構造を有するCNFで構成されるCNF集合体を得ることができる。そして、基板から10mm以上の高さに成長したCNF集合体を得ることができる。
【0017】
本発明のCNF集合体の別の製造方法は、(A)基板上にカーボンナノファイバーの膜を形成させる工程と、(B)炭化水素と水素を含む原料ガスを流しながら、触媒の原料を間隔を開けて供給する工程とを含むことを特徴とする。ここで、工程(B)を、触媒原料を供給した直後、炭化水素の供給を中断して水素ガスだけを流す期間を設けた後、再び炭化水素の供給を行う方法で実施してもよい。また、工程(B)を、500℃から700℃で実施してもよい。
【0018】
上記の方法において、工程(A)において形成するCNFが10μm以上の長さを有することが望ましい。また、工程(B)における炭化水素として、芳香族炭化水素を用いることができる。さらに、工程(B)における炭化水素の濃度を20容量%未満とすることが望ましい。一方、工程(B)における触媒としてはFeを用いることが望ましく、工程(B)における触媒の原料としてはフェロセンを用いることが望ましい。
【0019】
上記の製造方法によっても、プレートレット構造またはヘリンボーン構造を有するCNFで構成されるCNF集合体を得ることができる。そして、基板から10mm以上の高さに成長したCNF集合体を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のような構成をとることによって、本発明の製造方法は、種々の用途に有用なブロック形状のCNF集合体を与える。CNFは、構造強化材料、電気伝導体、熱伝導体として注目されている。本発明の方法によって得られる10mmを超える高さを有するCNF集合体は、不純物としての触媒の含有量が少なく高純度であり、ならびに樹脂または金属との複合材料形成において、長さ数μmのCNFよりも高密度の充填が可能となる。以上の性質から、本発明の方法によって得られるCNF集合体は、電気伝導性および熱電導性等において高い性能を発揮することが期待されている。加えて、本発明の方法によって得られるCNF集合体は、1500℃以上の温度で処理することにより、電気伝導性および熱電導性をさらに向上させることできる。以上の性質から、本発明の方法によって得られるCNF集合体は、そのブロック形状を維持したままで、樹脂または金属と複合化させることによって、種々の分野で利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明者が鋭意検討した結果、基板に成長した10μm以上の長さを有するCNF上に、新たに金属触媒を担持させることにより、電界や磁界を印加することなく、水蒸気を添加することもなく極めて容易に、基板から10mmを超える高さを有するCNF集合体の製造方法を見いだした。
【0022】
本発明のCNF集合体の製造方法は、基板上にCNFの膜を形成させる工程(1)と、基板上に形成したCNFに触媒を担持させる工程(2)と、CNF合成温度において原料ガス(炭化水素および水素を含む)と触媒原料とを同時に供給する工程(3)とを含むことを特徴とする。ここで、工程(3)に引き続いて、CNF合成温度において炭化水素と水素を含む原料ガスを供給してCNF集合体を成長させる工程(4)をさらに実施してもよい。
【0023】
最初に、工程(1)の基板上へのCNF膜の形成は、当該技術において知られている方法を用いて、基板上に10μm以上の長さのCNFを形成することによって実施することができる。たとえば、触媒を担持した基板に500℃から800℃の温度範囲で炭化水素原料を供給する方法を使用することができる。本工程に用いる基板は、CNFの合成に使用することが知られている任意の材料を用いることができ、たとえば、シリカ、アルミナ、SiC、シリコン等を用いることができる。基板への触媒の担持も、当該技術において知られている任意の方法で実施することができる。使用できる方法は、1)Fe、Co、Ni等の金属をスパッタ法で基板上に堆積させる方法;2)Fe、Co、Ni等の金属の硝酸塩または有機金属化合物などの水溶液またはアルコール溶液をスピンコートまたはディッピング法で基板上に塗布した後に、水素還元により金属ナノ粒子を基板上で形成する方法;3)有機金属錯体(たとえばFe、Co、Ni等の金属のアセチルアセトナート錯体またはシクロペンタジエニル錯体)の昇華ガスを分解温度以上に加熱して、基板上に金属ナノ粒子を形成する方法を含む。基板に触媒を担持させた後に、触媒となる金属(Fe、Co、Ni等)を水素気流下で還元し、500℃から800℃の温度範囲で炭化水素原料を触媒と接触させることによりCNFを成長させる。しかし、これらの既存の方法では、数10μmから数100μm程度の長さのCNFしか製造されない。
【0024】
工程(2)において、工程(1)で作製したCNFの膜に触媒を担持させる。このとき、CNFが触媒担体として機能する。CNFを触媒担体として使用するのは、繊維の広大な表面積を利用するためである。そのため、一定以上の繊維長、好ましくは10μm以上の繊維長が必要となる。工程(2)で形成される触媒は、粒径50nm〜200nmのナノ粒子であるため、粒子径の50倍以上の長さを必要とするのは妥当と思われる。工程(2)において、工程(1)で作製したCNF膜形成基板をそのまま使用してもよい。あるいはまた、工程(1)で作製したCNF膜を基板から剥離し、新たな基板上にCNF膜を張り付けたものを本工程で用いてもよい。
【0025】
触媒は、Fe、Co、Ni等のCNF合成用に使用される任意の金属種を含み、好ましくはFeである。本発明のCNF集合体を製造するためには、触媒である金属ナノ粒子の粒子径が重要である。CNFは、グラファイト層が繊維軸方向に対して垂直に積層している構造(プレートレット(platelet)構造)およびグラファイト層が繊維軸方向に対して傾斜している構造(ヘリンボーン(herring-bone)構造)が知られており、繊維径が50nm〜数100nmであることを特徴とする。本発明のCNF集合体も、これらのCNFを主体として形成されている。これらのCNFは、触媒ナノ粒子から粒子径と同じ繊維径で成長するため、触媒の粒径も50nm〜数100nmであることが重要である。したがって、CNF表面上に金属ナノ粒子を形成する場合、金属ナノ粒子の粒子径をCNFが最も成長しやすい50nm〜200nmの粒子径で形成することが望ましい。
【0026】
本工程における触媒の担持方法としては、スパッタ法、スピンコート法、ディッピング法等で触媒金属のナノ粒子をコーティングする方法を使用することができる。あるいはまた、Fe、Co、Ni等のアセチルアセトナート錯体またはペンタジエニル錯体等の触媒原料の昇華ガスを、それら触媒原料の分解温度以上に加熱したCNF膜に供給して、CNF表面に金属ナノ粒子を形成する方法を使用することができる。前述のように、粒子径を制御して触媒金属ナノ粒子を形成するためには、金属錯体の熱分解法を用いることが最も好適である。たとえば、金属錯体としてフェロセンを使用する場合、フェロセンを水素または不活性ガス中で昇華させてガス状とし、フェロセンの熱分解温度以上に加熱されたCNF膜に供給する。フェロセンが熱分解温度以上に加熱された温度域に到達すると、熱分解によりFeナノ粒子がCNF上に形成される。形成当初は、Feナノ粒子の粒径は数10nmであるが、フェロセンをさらに供給することによりFeナノ粒子が成長して、50nmから数100nmの粒径を有するFeナノ粒子が得られる。
【0027】
CNF表面上に担持させた金属ナノ粒子は、粒子表面が酸化等により不活性化されているため、水素還元により還元する必要がある。水素還元は、水素ガスを供給しつつ、500℃以上に加熱することで実施することができる。水素還元は、本工程(2)の後半または工程(3)の前半において行うことが好ましい。あるいはまた、本工程(2)において金属錯体の熱分解法を使用する場合には、昇華した金属錯体のキャリアガスとして水素を含むガスを使用することによって、水素還元を実施してもよい。
【0028】
工程(3)は、工程(2)で作製したCNF表面上の触媒ナノ粒子に炭素源である炭化水素を供給してCNFを成長させて、CNF集合体を形成する工程である。さらに、本工程(3)では、炭化水素と共に、触媒原料を一緒に供給する。本工程(3)は、10分以上にわたって継続して実施することが好ましい。
【0029】
本工程(3)において用いる炭素源は、芳香族炭化水素、メタン,アセチレン、エチレン、エタノール等の通常使用される炭化水素を含み、好ましくは芳香族炭化水素であり、特に好ましくはベンゼン、トルエン、またはキシレンである。CNF製造のための炭素源は、水素と混合して触媒を担持したCNFに供給する。室温でガス状の炭素源を使用する場合には、水素ガスおよびガス状炭素源の両方の流量を流量計で制御して触媒ナノ粒子に対して供給する。室温で液体状の炭素源を供給する方法はいくつかあるが、水素ガスまたはアルゴン等の不活性ガスでバブリングして炭素源をガス化して供給する方法が好ましい。室温で液体状の炭素源を使用する場合は、水素ガスまたはアルゴンガス等の流量、および液体状の炭素源の蒸気圧を制御すること(たとえば、恒温槽を用いて炭素源の温度を定温に維持すること)によって、その供給量を制御することができる。炭素源のガス化にアルゴン等の不活性ガスを用いる場合には、流量計によって流量を制御された水素ガスを別途供給する。供給ガス中の炭素源の濃度は、特に限定されるものではないが、20容量%以下が好ましい。炭素源の濃度が高すぎると、触媒の金属ナノ粒子に炭素源が析出して、CNFの成長が抑制される恐れがある。
【0030】
本工程(3)における触媒原料の供給は、Fe、Co、Ni等のアセチルアセトナート錯体またはペンタジエニル錯体の昇華ガスを供給する方法、あるいはFe、Co、Ni等の金属塩または金属錯体を炭素源の液体と一緒にスプレー方式で供給する方法を用いて実施することができる。好ましい方法は、金属錯体の昇華ガスを供給する方法であり、特に好ましくは、フェロセンの昇華ガスを供給する方法である。フェロセンは、安価であり、昇華ガス化しやすいという利点がある。金属錯体の昇華ガスを供給する際に、水素ガスまたはアルゴン等の不活性ガスをキャリアガスとして使用してもよい。
【0031】
本工程(3)において、CNFの合成温度、すなわち基板上のCNF膜の加熱温度は、500℃から700℃であることが好ましい。このような温度範囲内とすることによって、触媒作用による炭化水素の熱分解を促進すると同時に、触媒とは無関係の炭化水素の熱分解による炭素粒子生成を抑制することができる。したがって、本工程(3)が、CNFの大量製造に好適なものとなり、不純物である炭素粒子除去の必要性を排除することができる。
【0032】
本工程(3)において、炭素源である炭化水素および水素に加えて、触媒原料を一緒に供給することが、CNF集合体の製造に効果的である。触媒ナノ粒子の形成機構については未解明であるために理由は明確ではないが、炭素源および水素と共に、触媒金属原料であるフェロセンを供給することにより、CNF集合体を確実に合成することが可能となる。何らの理論に拘束されることを意図するものではないが、フェロセンを炭素源と一緒に供給する場合、フェロセンの熱分解によりFeナノ粒子が最初に気相で形成され、形成されたFeナノ粒子を核としてCNFが合成され、このCNFが基板上に形成されたCNF膜に付着して、CNF集合体の成長点となるものと考えている。このとき、工程(2)で形成したFeナノ粒子から成長したCNFへも、気相で合成されたCNFが付着して、CNF集合体の成長点となる。さらに、継続的に触媒原料が供給されて金属ナノ粒子が形成されることにより、CNFの成長点も継続的に供給されるため、CNFのネットワークが形成され、それが大きな集合体に成長してCNF集合体になると考えられる。
【0033】
以上の工程(1)〜(3)を含む方法を用いることにより、極めて簡便に基板上から10mm以上の高さを有し、0.08g/cm3以上の高い嵩密度を有するCNF集合体が得られる。
【0034】
任意選択的に行うことができる工程(4)は、工程(3)で形成されたCNF集合体をさらに成長させる工程である。工程(4)は、触媒原料を供給しないことを除いて工程(3)と同様に実施され、炭素源と水素を同時に供給される。供給される炭素源を利用して、工程(3)で形成されたCNFが成長する。工程(4)では、触媒ナノ粒子が供給されないこと、時間と共にCNFの収量が増加することから、CNFが成長していることは確実である。
【0035】
工程(1)から工程(4)で使用するCNF合成装置は、通常に使用されるCNF合成装置を使用してよい。使用できる合成装置の一例を図1に示した。ガス供給口5およびガス排出口6を有する管状のチャンバ2中央部の外周に加熱装置1を配置し、チャンバ2の内部に被成膜基板3を設置する。管状のチャンバ2としては、たとえば石英管を使用することができる。触媒を金属錯体ガスの熱分解によって導入する場合、チャンバ2内部の加熱装置1の端部に相当する位置に、触媒原料である金属錯体を加熱するためのボート4(たとえば、セラミックス製)を配置することができる。このような位置にボート4を配置することによって、ボート4内で熱分解することなしに金属錯体を昇華させ、被成膜基板3へと供給することが可能となる。あるいはまた、ボート4を加熱装置1端部に相当する位置に代えて、加熱装置1の上流側のチャンバ2の外周に配置した別個の加熱装置の内部に配置し、触媒原料を昇華させることも可能である。この構成においては、触媒原料の昇華温度と触媒ナノ粒子の形成温度とを独立して制御することができる。さらに、ボート4をチャンバ2内で移動させる移動手段(不図示)に接続し、加熱装置1が触媒ナノ粒子を形成するのに適した温度に達した時点においてボート4を加熱装置1の内部に移動させて、触媒原料の昇華を開始することもできる。移動手段としては、たとえば操作棒などを使用することができる。あるいはまた、熱CVD装置のように、チャンバ内の被成膜基板を加熱する手段を備えた装置、あるいはチャンバ全体を加熱する構成の装置を使用することもできる。
【0036】
CNFの製造において、触媒を断続的に供給する方法がある。この場合においても、基板上にあらかじめCNFを形成させることにより、極めて容易に、CNFを多量に製造できることを見いだした。
【0037】
本発明のCNF集合体の製造方法は、基板上に10μm以上の長さのCNFの膜を形成させる工程(A)と、CNF合成温度において炭素源および水素と共に触媒原料を間隔を開けてパルス状に供給する工程(B)を含むことが特徴である。
【0038】
工程(A)において、基板上に形成するCNFの膜は、通常の方法で製造できる。基板には、シリカ、アルミナ、SiC、シリコン等、CNFの合成に使用される種類は全て使用可能である。また、反応管として使用する石英管やセラミックス管の内壁を基板として用いてもよい。この基板に触媒を担持する方法も、通常の方法を使用できる。たとえば、Fe、Co、Niなどの金属をスパッタリングで基板状に蒸着させる方法、Fe、Co、Niなどの硝酸塩をスピンコートまたはディッピングで塗布した後、水素還元により金属ナノ粒子を形成する方法、Fe、Co、Niなどのアセチルアセトナート錯体,ペンタジエニル錯体などの昇華ガスを分解温度以上に加熱して基板上に金属ナノ粒子を形成する方法等が使用できる。触媒を担持した基板は、水素気流下で還元した後、500℃から700℃の温度範囲で炭化水素原料と接触することによりCNFを成長させる。しかし、これらの既存の方法では、数10μmから数100μm程度の長さのCNFしか製造されない。
【0039】
工程(B)は、工程(A)で形成したCNFを触媒担体として、触媒を担持した後、炭化水素を供給することによりCNF集合体を合成する。このとき、基板上に形成されたCNFをはぎとり、新たな基板上に張り付けても良い。CNFの繊維長は10μm以上が必要である。CNFを触媒担体として使用するのは、繊維の広大な表面積を利用するためである。そのため、一定以上の繊維長が必要となる。工程(B)で形成される触媒ナノ粒子は、50nm〜200nmであるため、粒子径の50倍以上の長さを必要とするのは妥当と思われる。
【0040】
本発明のCNF集合体を製造するためには、触媒である金属ナノ粒子の粒子径が重要である。CNFは、プレートレット構造およびヘリンボーン構造を有するものが知られており、直径が、50nm〜数100nmであることが特徴である。本発明のCNF集合体も、これらのCNFを主体として形成されている。これらのCNFは、触媒ナノ粒子から、粒子径と同じ繊維径で成長するため、触媒の粒径も50nm〜数100nmであることが重要である。したがって、上記の様々な方法によって、CNF上に金属ナノ粒子を形成する場合、金属ナノ粒子の粒子径をもっともCNFが成長しやすい50nm〜200nmに成長させることが必要である。
【0041】
CNF製造のための炭素源は、芳香族炭化水素、メタン,アセチレン、エチレン、エタノール等、通常使用される炭素供給源は全て使用可能であるが、芳香族炭化水素、特にベンゼン、トルエン、キシレンを用いるのが好ましい。
【0042】
CNF製造のための炭素源は、水素と混合して触媒を担持したCNFに供給する。ガス状の炭素源は、流量計で流量を制御して供給する。液体状の炭素源を供給する方法はいくつかあるが、水素ガスまたはアルゴン等の不活性ガスでバブリングして蒸気化して供給する方法が好ましい。液体状の炭素源の供給量は、水素ガスまたはアルゴンガス等の流量および液体状の炭素源を恒温槽に入れて蒸気圧を制御して供給する。供給ガス中の炭素源の濃度は、20容量%未満が好ましい。炭素源の濃度が高すぎると、触媒の金属ナノ粒子の表面に炭素が析出する等により、CNFの成長が抑制されるためである。
【0043】
触媒は、Fe、Co、NiなどのCNF合成用に使用される金属種であればどれでも使用可能であるが、金属種の中ではFeが好ましい。また、触媒原料の供給方法は、金属化合物を粉末状態で供給しても良いが、特殊な設備が必要になる。そのため、好ましくは、ベンゼンやヘキサン等の炭化水素原料と一緒に供給する。
【0044】
触媒ナノ粒子の原料の供給は、Fe、Co、Niなどのアセチルアセトナート錯体,ペンタジエニル錯体を炭素源の液体に溶解してスプレー方式で供給する方法、Fe、Co、Niなどの金属塩または金属錯体、金属ナノ粒子を炭素源液体へ懸濁してスプレー方式で供給する方法がある。その中でも好ましいのは、フェロセンを使用することである。フェロセンは、安価であり、ベンゼンやヘキサン等の炭素源溶液に容易に溶け、さらに昇華ガス化しやすいという利点がある。触媒を含んだ溶液の供給方法は、スプレー方式以外に、液滴を滴下する方法も使用できる。
【0045】
通常、粉末状のCNFやCNTを製造する場合は、触媒原料を1重量%以下含有した炭素原溶液を継続的に噴霧するが、本発明では、触媒原料を1重量%以上、好ましくは5重量%以上含有した炭素源溶液を使用する。これは、CNFの成形に必要な50nm〜200nmの金属粒子を形成するためには、急激に多量の触媒原料を供給することが効果的であり、触媒原料の濃度が低い場合は、触媒粒径が充分に成長せず、50nm未満の粒子径しか得られない。
【0046】
CNFの合成温度は、500℃から700℃が好ましい。500℃以下では、触媒上での炭化水素の分解が起こりにくいために、CNFの成長が遅くなり、大量製造に不向きである。また、700℃以上では、芳香族などの炭化水素が熱分解して、炭素粒子が形成される。炭素粒子は、触媒と関係なく生成し、不純物として除去しなければならないため、できるだけ生成を抑制することが重要である。
【0047】
工程(B)では、触媒原料を含んだ炭素源溶液を、間欠的に供給する。これは、触媒原料の供給時は、同時に炭素源である炭化水素も一緒に供給されるため、炭化水素濃度がCNFの製造に適した濃度からはずれてしまう。そのため、常時触媒を供給することは、CNFの生成には不利である。したがって、触媒原料を供給後、一定期間、CNF生成に適した炭化水素濃度に保持して、CNFを成長させる必要がある。
【0048】
また、触媒原料を供給した直後に、炭素源の供給を停止して水素ガスだけを流して、触媒原料を還元処理することも効果的である。特に、炭化水素が供給されている間は、金属と炭素の化合物が形成されやすいので、金属種によってはCNFが生成しない場合がある。水素還元処理の時間は、特に制限しないが10分以上が好ましい。水素還元処理後は、一定期間、CNF生成に適した炭化水素濃度に保持して、CNFを成長させる。
【0049】
CNFを成長させる期間は、10分以上が必要で、好ましくは30分以上である。最初の数分は、反応系内の炭化水素濃度の調整に使用されるため、10分程度は成長速度が遅いと考えられる。その後、炭化水素濃度が適正な濃度に調整されるため、10分以上のCNF成長期間が必要となる。また、CNFの成長は、最初の数十分は速いが、1時間以上経過すると、CNFの成長速度が低下する。そのため、CNFの成長期間を30分から60分取った後、再度、触媒原料を供給することが好ましい。
【0050】
工程(A)から工程(B)で使用するCNF合成装置は、通常に使用されるCNF合成装置を使用してよい。たとえば、図8に示すような石英管22を横型電気管状炉21内に入れて、石英管22内に基板23を置き、石英管22の片側に炭素源および水素ガスを供給するためのガス供給口25および触媒原料をスプレーまたは液滴として供給するための供給手段27を有し、石英管22の反対側にガス排出口26を有する装置、または、図9に示すような石英管32を縦型電気管状炉31内に入れて、石英管32の上部に炭素源および水素ガスを供給するためのガス供給口35および触媒原料をスプレーまたは液滴として供給するための供給手段37を有し、石英管32の反対側にガス排出口36を有する装置が使用できる。また、熱CVD装置のように、加熱した基板をチャンバー内に設置し、上部または側面から炭素原料を供給できる装置、基板だけでなくチャンバー全体を加熱する装置等も使用可能である。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
工程(1)
(1−a)
図1に示すように、内径36mm、長さ600mmの石英管2の外周に、長さ300mmの電気管状炉1をセットし、ならびにセラミックス板3および約0.2gのフェロセンを入れたセラミックスボート4を石英管2内にセットした。ガス供給口5から水素ガスを150ml/minで流しながら、1時間かけて電気管状炉1を室温から580℃まで昇温した。フェロセンは、昇温の間に昇華した。
【0052】
(1−b)
電気管状炉1が600℃に到達した時点で、流量150ml/minの水素ガスを用いて、室温(25℃)のベンゼンをバブリングし、水素/ベンゼン混合ガスをガス供給口5から石英管2に導入した。このときの水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度は約12.5容量%であった。水素/ベンゼン混合ガスを1時間流した後、加熱および水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、ガス供給口5からアルゴンガスを100ml/minで流しながら、石英管2の温度を100℃以下になるまで降温させた。セラミックス基板3および石英管2を確認したところ、それら表面にスス状の黒色物質の膜が生成していた。電子顕微鏡で確認したところ、直径100nmのCNFが基板に垂直に形成されていた。CNFの高さは、約500μmであった。
【0053】
工程(2)
工程(1)で使用したセラミックスボート4に代えて、新たに約0.2gのフェロセンを入れたセラミックスボート4をセットした。水素ガスを150ml/minで流しながら1時間かけて電気管状炉1を室温から580℃まで昇温した。フェロセンは、昇温の間に半分が昇華した。
【0054】
工程(3)
電気管状炉1が580℃に到達した時点で、流量150ml/minの水素ガスを用いて、室温のベンゼンをバブリングし、水素/ベンゼン混合ガスをガス供給口5から石英管2に導入した。この時点で、フェロセンの半分がセラミックスボート4上に残存しており、ベンゼンおよび水素と共にフェロセンも昇華して、石英管2へと供給された。水素/ベンゼン混合ガスの供給を約30分にわたって行った。水素/ベンゼン混合ガスの供給終了時には、セラミックスボート4上にフェロセンは残存していなかった。また、CNF集合体が形成され始める電気管状炉1のガス供給口5側から600mmの場所は、530℃であった。これは、電気管状炉の中心から離れているために温度が低くなっているためである。
【0055】
工程(3)終了後、加熱および水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、ガス供給口5からアルゴンガスを100ml/minで流しながら、石英管2の温度を100℃以下になるまで降温させた。冷却後、石英管2内部を確認したところ、電気管状炉1のガス供給口5側から60mmのところからガス排出口6側に向けて石英管2の内部にCNF集合体が形成されていた。得られたCNF集合体は、約40mmの直径と、約30mmの長さを有した。このことから、石英管2の内壁およびセラミックス板3から、CNFが成長して、石英管2内を満たしたと考えられる。すなわち、CNFは、石英管の内壁から、30分以内で17mm成長したことになる。したがって、CNFの成長速度は、少なくとも560μm/minである。CNF集合体の回収量は1.1gであった。
【0056】
また、示差熱・熱重量同時測熱装置を用い、CNF集合体中に含まれる触媒の量を空気中で測定したところ、CNF集合体総質量を基準として5質量%以下であり、極めて純度が高いCNF集合体が得られたことが分かった。
【0057】
(実施例2)
実施例1の工程(3)まで同様に行った後、以下の工程(4)を実施した。
【0058】
工程(4)
電気管状炉1を580℃に保持し、水素/ベンゼン混合ガスの供給を2時間30分にわたって継続し、フェロセンが供給されていない状態でCNF集合体を成長させた。
【0059】
工程(4)終了後、加熱および水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、ガス供給口5からアルゴンガスを100ml/minで流しながら、石英管2の温度を100℃以下になるまで降温させた。冷却後、石英管2内部を確認したところ、電気管状炉1のガス供給口5側から60mmのところからガス排出口6側に向けて石英管2の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、実施例1に比較して約6倍である6.5gであった。したがって、工程(3)の触媒供給後、工程(4)の触媒の供給がない状態でCNFが成長したことになる。
【0060】
工程(1−a)終了時点において、セラミックス板3上の黒色物質の電子顕微鏡観察を行った。その結果を図2に示した。図2(a)および(b)に示されるように、粒子が集合してできた塊の上に、部分的にCNFが成長していることが確認できた。この段階におけるCNFの炭素源は、フェロセンの配位子であるシクロペンタジエンであると考えられる。
【0061】
工程(1)終了時点において、セラミックス板3上に形成されたCNFの電子顕微鏡観察を行った。その結果を図3に示した。図3(a)および(b)に示されるように繊維径100nmから200nmのCNFに加えて、数10nmの繊維径を有するCNFが得られたことが分かる。これは、Feナノ粒子の粒子径が数10nmから数100nmの広い範囲で分布していることを示していると考える。
【0062】
工程(2)終了時点において、セラミックス板3上の触媒粒子が担持されたCNFの電子顕微鏡観察を行った。その結果を図4に示した。図4(a)に示されるように、CNF上に数100nmの粒子径を有する触媒粒子が形成されていることが確認できた。また、図4(b)に示すように、部分的に、菱形の触媒粒子が繊維の中心に配置されたCNFが確認できた。この菱形の触媒粒子は、グラファイト層が繊維軸方向に対して傾斜している構造(ヘリンボーン(herring-bone)構造)を持つCNFに特徴的な触媒粒子である。ここで、触媒粒子の菱形の面に沿ってグラファイト層が形成されるため、繊維方向に対して斜めの層となる。また、図4(a)に示されるCNF上に形成されている触媒粒子を観察すると、角張った菱形状の粒子が多いことがわかる。したがって、工程(2)において、CNFの核となる触媒粒子が形成されることが確認できた。
【0063】
工程(3)で製造されたCNF集合体の縦断面の電子顕微鏡写真を図5(a)〜(c)に示す。図5(a)から分かるように、CNF集合体の内部は、隙間なくぎっしりと詰まった状態であり、密度が大きいことが推定される。実際、切り出したCNF集合体の嵩密度を測定したところ、0.1g/cm3であった。図5(b)および(c)から、CNF集合体を形成するCNFは、100〜200nmの揃った繊維径を有する長い繊維であることが分かる。
【0064】
さらに、CNF集合体を形成するCNFの透過電子顕微鏡写真を図6に示す。図6から、得られたCNFが、グラファイト層が繊維軸方向に対して傾斜している構造(ヘリンボーン(herring-bone)構造)を持っていることが確認できる。
【0065】
工程(4)で製造されたCNF集合体の写真を図7に示す。図7(a)は得られたCNF集合体全体を示す写真であり、図7(b)はCNF集合体の縦断面を示す写真でありCNF集合体は、約40mmの直径と、約90mmの長さを有した。
【0066】
(実施例3)
工程(4)における水素/ベンゼン混合ガスの供給を1時間30分に変更したことを除いて、実施例2と同様の手順を繰り返して、CNF集合体を製造した。CNF集合体の回収量は、実施例1に比較して3倍以上である3.4gであった。
【0067】
したがって、実施例2と合わせて考えると、工程(2)および工程(3)で供給された触媒を核としてCNF集合体が形成され、工程(4)でCNF集合体が時間と共に成長することがわかる。
【0068】
(実施例4)
工程(2)〜(4)における電気管状炉1の加熱温度を680℃に変更したことを除いて、実施例2と同様の手順を繰り返して、CNF集合体を製造した。電気管状炉1のガス供給口5側から600mmの場所は、630℃であった。CNF集合体の回収量は3.3gであった。
【0069】
(実施例5)
工程(2)〜(4)における電気管状炉1の加熱温度を560℃に変更したことを除いて、実施例2と同様の手順を繰り返して、CNF集合体を製造した。電気管状炉1のガス供給口5側から600mmの場所は、510℃であった。CNF集合体の回収量は2.2gであった。
【0070】
(実施例6)
CNFが付着されていない内径36mm、長さ600mmの石英管2の外周に、長さ300mmの電気管状炉1をセットした。そして、別途調製した厚さ500μmのCNFシートを載置したセラミックス板3を石英管2内にセットした。以後、実施例2と同様に工程(2)〜工程(4)を実施した。
【0071】
工程(4)終了後、加熱および水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、ガス供給口5からアルゴンガスを100ml/minで流しながら、石英管2の温度を100℃以下になるまで降温させた。冷却後、石英管2内部を確認したところ、電気管状炉1のガス供給口5側から60mmのところからガス排出口6側に向けて石英管2の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は2.6gであった。
【0072】
この結果から、ある程度の厚さを持ったCNFシートであれば、基板上に成長させたCNFと同等の触媒担体となることが確認できた。
【0073】
(比較例1)
工程(2)においてフェロセンを入れたセラミックスボート4をセットせずに、工程(3)の開始前に約0.1gのフェロセンを入れたセラミックスボート4をセットしたことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。すなわち、本比較例においては、工程(2)においてフェロセンの導入を行わず、工程(3)のみでフェロセンの導入を行った。その結果、石英管2の内壁およびセラミックス板3上に数mmの厚さでCNFが形成されたのみであり、CNF集合体は形成されなかった。
【0074】
(比較例2)
工程(3)の開始前に、フェロセンを入れたセラミックスボート4を取り出したことを除いて、実施例2の手順を繰り返した。すなわち、工程(2)のみでフェロセンの導入を行い、工程(3)においてフェロセンを導入しなかった。その結果、石英管2の内壁およびセラミックス板3上に数mmの厚さでCNFが形成されたのみであり、CNF集合体は形成されなかった。
【0075】
(比較例3)
工程(2)〜(4)における電気管状炉1の加熱温度を530℃に変更し、工程(4)を1時間30分にわたって実施したことを除いて、実施例2と同様の手順を繰り返した。電気管状炉1のガス供給口5側から600mmの場所は、480℃であった。その結果、石英管2の内壁およびセラミックス板3上に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。
【0076】
(比較例4)
CNFが付着されていない内径36mm、長さ600mmの石英管2の外周に、長さ300mmの電気管状炉1をセットした。そして、別途CNFを塗布したセラミックス板3を石英管2内にセットした。塗布液として、0.1gのCNFを20mlのエタノール中に超音波分散させた分散液を用いた。以後、実施例2と同様に工程(2)〜工程(4)を実施した。その結果、セラミックス板3上に、薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。
【0077】
(比較例5)
実施例1と同様の手順で工程(1)を実施し、CNF膜が形成されたセラミックス板3を作製した。作製したセラミックス板3を取り出し、セラミックス板3表面のCNF膜をはぎ取って、長さ10μm以下のCNF膜が形成されたセラミックス板3を作製した。このセラミックス板3を、外周に長さ300mmの電気管状炉1がセットされたCNFが付着されていない内径36mm、長さ600mmの石英管2の内部にセットした。以後、実施例2の手順に従って、工程(2)〜(4)を実施した。その結果、セラミックス板3上には、薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。
【0078】
(実施例7)
実施例1の工程(3)および(4)において、バブリングするベンゼン容器の温度を30℃とし、ベンゼン容器から石英管までの間をリボンヒータで保温した。このときの水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度は約15容量%であった。工程(4)終了後、水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、アルゴンガスを100ml/minで流しながら石英管の温度を100℃以下になるまで降温した。冷却後、中を確認したところ、電気炉の入口側から60mmのところから出口側に向けて石英管の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、5.5gであった。
【0079】
(比較例6)
実施例1の工程(3)および(4)において、バブリングするベンゼン容器の温度を35℃とし、ベンゼン容器から石英管までの間をリボンヒータで保温した。このときの水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度は約20容量%であった。工程(4)終了後、水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、アルゴンガスを100ml/minで流しながら石英管の温度を100℃以下になるまで降温した。冷却後、中を確認したところ、石英管壁およびセラミックス板上に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。したがって、水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度が20容量%になると、CNFが形成されなくなることが確認できた。
【0080】
(実施例8)
工程(A)
図8に示す、内径36mm、長さ600mmの石英管22の外周に、長さ300mmの横型電気管状炉21をセットし、ならびにセラミックス板23をセットした。石英管22内壁およびセラミックス板23上には、あらかじめ500μm以上の高さでCNFを形成させておいた。また、液体を供給するための供給手段27として注射器をセットした。ガス供給口25から水素ガスを300ml/minで流しながら、1時間かけて電気管状炉21を室温から580℃まで昇温した。580℃に到達した時点で、ベンゼンを入れた容器(室温)に水素ガスを300ml/minで流して、ガス供給口25からの水素/ベンゼン混合ガスの供給を開始した。このときの水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度は約12.5容量%であった。
【0081】
工程(B)
注射器(供給手段27)から、フェロセン5%を溶解したベンゼン5mlを、電気管状炉の入り口付近でベンゼンが蒸発するように、ゆっくりと供給した。その後、ガス供給口25から水素/ベンゼン混合ガスのみを1時間供給した。
【0082】
工程(B)を3回繰り返した後、水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、アルゴンガスを100ml/minで流しながら石英管22の温度を100℃以下になるまで降温した。冷却後、中を確認したところ、電気炉21の入口側から60mmのところからガス排出口26側に向けて石英管22の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、2.8gであった。
【0083】
(実施例9)
工程(B)を以下の手順を用いて実施したことを除いて、実施例8の手順を繰り返した。フェロセンのベンゼン溶液を供給した直後、30分間にわたって、ガス供給口25から300ml/minの水素だけを流して鉄触媒を還元した。その後、室温においてベンゼンを入れた容器に水素ガスを300ml/minでバブリングして得られた水素/ベンゼン混合ガスを、ガス供給口25から1時間にわたって石英管22に供給した。
【0084】
工程(B)を3回繰り返した後、実施例8と同様に石英管22を降温した。冷却後、中を確認したところ、電気炉21の入口側から60mmのところからガス排出口26側に向けて石英管22の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、2.1gであった。
【0085】
(実施例10)
工程(A)
図9に示すように、内径36mm、長さ600mmの石英管32の外周に、長さ300mmの縦型電気管状炉31をセットした。石英管32内壁には、あらかじめ500μm以上の高さでCNFを形成させておいた。また、液体を供給するための供給手段37として注射器をセットした。ガス供給口35から水素ガスを300ml/minで流しながら、1時間かけて電気管状炉31を室温から580℃まで昇温した。580℃に到達した時点で、ベンゼンを入れた容器(室温)に水素ガスを300ml/minで流して、ガス供給口35からの水素/ベンゼン混合ガスの供給を開始した。このときの水素/ベンゼン混合ガス中のベンゼン濃度は約12.5容量%であった。
【0086】
工程(B)
注射器(供給手段37)から、フェロセン5%を溶解したベンゼン5mlを、電気管状炉の入り口付近でベンゼンが蒸発するように、ゆっくりと供給した。その後、ガス供給口35から水素/ベンゼン混合ガスのみを1時間供給した。
【0087】
工程(B)を3回繰り返した後、水素/ベンゼン混合ガスの供給を止め、アルゴンガスを100ml/minで流しながら石英管の温度を100℃以下になるまで降温した。冷却後、中を確認したところ、電気炉31の入口側から60mmのところからガス排出口36側に向けて石英管の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、3.2gであった。
【0088】
(実施例11)
工程(B)を以下の手順を用いて実施したことを除いて、実施例10の手順を繰り返した。フェロセンのベンゼン溶液を供給した直後、30分間にわたって、ガス供給口35から300ml/minの水素だけを流して鉄触媒を還元した。その後、室温においてベンゼンを入れた容器に水素ガスを300ml/minでバブリングして得られた水素/ベンゼン混合ガスを、ガス供給口35から1時間にわたって石英管32に供給した。
【0089】
工程(B)を3回繰り返した後、実施例10と同様に石英管32を降温した。冷却後、中を確認したところ、電気炉31の入口側から60mmのところからガス排出口36側に向けて石英管32の内部にCNF集合体が形成されていた。CNF集合体の回収量は、2.4gであった。
【0090】
(比較例7)
工程(A)においてCNFが形成されていない石英管22およびセラミックス板23を使用したことを除いて、実施例8の手順を繰り返した。工程(B)を3回繰り返した後、実施例8と同様に石英管22を降温した。冷却後、中を確認したところ、石英管22内壁およびセラミックス板23上に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。この結果から、パルスで触媒を供給する場合においても、石英管22の内壁に前もってCNFを形成することが重要であることがわかった。
【0091】
(比較例8)
工程(A)においてCNFが形成されていない石英管22およびセラミックス板23を使用したことを除いて、実施例9の手順を繰り返した。工程(B)を3回繰り返した後、実施例9と同様に石英管22を降温した。冷却後、中を確認したところ、石英管22およびセラミックス板23上に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。この結果から、パルスで触媒を供給する場合においても、石英管22の内壁に前もってCNFを形成することが重要であることがわかった。
【0092】
(比較例9)
工程(A)においてCNFが形成されていない石英管32を使用したことを除いて、実施例10の手順を繰り返した。工程(B)を3回繰り返した後、実施例10と同様に石英管32を降温した。冷却後、中を確認したところ、石英管32内壁に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。この結果から、パルスで触媒を供給する場合においても、石英管32の内壁に前もってCNFを形成することが重要であることがわかった。
【0093】
(比較例10)
工程(A)においてCNFが形成されていない石英管32を使用したことを除いて、実施例11の手順を繰り返した。工程(B)を3回繰り返した後、実施例11と同様に石英管32を降温した。冷却後、中を確認したところ、石英管32内壁に薄くCNFが成長したのみで、CNF集合体は形成されなかった。この結果から、パルスで触媒を供給する場合においても、石英管32の内壁に前もってCNFを形成することが重要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の方法で得られるCNF集合体は、樹脂と複合化させることによって、金属を使用しない軽量放熱板あるいは樹脂製導線としての利用が可能である。また、本発明の方法で得られるCNF集合体を金属(特に軽量金属)と複合化させて、高熱伝導率の複合材料を得ることができる。また、CNF集合体から得られるCNFは、構造強化材料、導電体、熱伝導体としての利用可能性が注目されている。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の方法に使用することができるCNF合成装置の一構成例を示す断面図である。
【図2】実施例2の工程(1−a)終了時点でのセラミック板上の黒色物質の電子顕微鏡写真を示す図であり、(a)は倍率50000倍の写真であり、(b)は倍率30000倍の写真である。
【図3】実施例2の工程(1)終了時点でセラミック板上に形成されたCNFの電子顕微鏡写真を示す図であり、(a)は倍率1000倍の写真であり、(b)は倍率5000倍の写真である。
【図4】実施例2の工程(2)終了時点での触媒粒子が担持されたCNFの電子顕微鏡写真を示す図であり、(a)は倍率30000倍の写真であり、(b)は倍率130000倍の写真である。
【図5】実施例2の工程(3)終了時点で得られたCNF集合体の縦断面の電子顕微鏡写真を示す図であり、(a)は倍率220倍の写真であり、(b)は倍率3000倍の写真であり、(c)は倍率20000倍の写真である。
【図6】実施例2の工程(3)終了時点で得られたCNF集合体を構成するCNFの透過電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】実施例2で得られたCNF集合体の写真を示す図であり、(a)はCNF集合体全体を示す写真であり、(b)はCNF集合体縦断面を示す写真である。
【図8】本発明の方法に使用することができるCNF合成装置の一構成例を示す断面図である。
【図9】本発明の方法に使用することができるCNF合成装置の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1、21、31 電気管状炉
2、22、32 石英管
3、23 セラミックス板
4 セラミックボート(フェロセン)
5、25、35 ガス供給口
6、26、36 ガス排出口
27、37 供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)基板上にカーボンナノファイバーの膜を形成させる工程と、
(2)カーボンナノファイバーに触媒を担持させる工程と、
(3)炭化水素と水素を含む原料ガスと触媒の原料を同時に供給する工程と
を含むことを特徴とするカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項2】
工程(3)を、500℃から700℃で実施することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項3】
工程(3)に続いて、
(4)炭化水素と水素を含む原料ガスを供給して、カーボンナノファイバー集合体を成長させる工程
をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項4】
工程(4)を、500℃から700℃で実施することを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項5】
工程(4)における原料ガス中の炭化水素の濃度が、20容量%未満であることを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項6】
工程(1)において形成するカーボンナノファイバーが10μm以上の長さを有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項7】
工程(1)において形成したカーボンナノファイバーの膜を基板よりはぎ取り、新しい基板上に張り付けて工程(2)以降を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項8】
工程(2)および(3)で形成された触媒が、50nmから200nmの粒子径であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素が、芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項10】
工程(3)における原料ガス中の炭化水素の濃度が、20容量%未満であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項11】
工程(2)において、前記触媒としてFeを用いることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、前記触媒の原料としてフェロセンを用いることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項13】
前記カーボンナノファイバー集合体が、プレートレット構造またはヘリンボーン構造を有するカーボンナノファイバーで構成されていることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項14】
カーボンナノファイバー集合体が基板から10mm以上の高さに成長したものであることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項15】
(A)基板上にカーボンナノファイバーの膜を形成させる工程と、
(B)炭化水素と水素を含む原料ガスを流しながら、触媒の原料を間隔を開けて供給する工程と
を含むことを特徴とするカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項16】
工程(B)において、触媒原料を供給した直後、炭化水素の供給を中断して水素ガスだけを流す期間を設けた後、再び炭化水素の供給を行うことを特徴とする請求項15記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項17】
工程(B)を500℃から700℃で実施することを特徴とする請求項15または16に記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項18】
工程(A)において形成するカーボンナノファイバーが10μm以上の長さを有することを特徴とする請求項15から17のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項19】
前記炭化水素が、芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項15から18のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項20】
工程(B)における原料ガス中の炭化水素の濃度が、20容量%未満であることを特徴とする請求項15から19のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項21】
工程(B)において、前記触媒としてFeを用いることを特徴とする請求項15から20のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項22】
工程(B)において、前記触媒の原料としてフェロセンを用いることを特徴とする請求項15から21のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項23】
前記カーボンナノファイバー集合体が、プレートレット構造またはヘリンボーン構造を有するカーボンナノファイバーで構成されていることを特徴とする請求項15から22のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。
【請求項24】
カーボンナノファイバー集合体が基板から10mm以上の高さに成長したものであることを特徴とする請求項15から23のいずれかに記載のカーボンナノファイバー集合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−138348(P2008−138348A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284184(P2007−284184)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】