説明

カーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法

【課題】 マグネシウム基合金とカーボンナノ材の攪拌混合を防燃ガス雰囲気で行った際の溶融体への不純物の混入を遮蔽蓋の採用により防止する。
【解決手段】 密閉した溶融容器内で溶融したマグネシウム基合金とカーボンナノ材の攪拌混合を防燃ガス(SF6 )雰囲気にて行う。マグネシウム基合金と防燃ガス雰囲気との境界に遮蔽蓋を溶融面と接して設ける。遮蔽蓋により防燃ガスとマグネシウムの化合物の生成を抑制して攪拌による溶融体への混入を防止する。カーボンナノ材とマグネシウム基合金とを複合化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融したマグネシウム基合金にカーボンナノ材を添加して攪拌混合し、カーボンナノ材とマグネシウム基合金とを複合化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム基合金は機械的強度が低いので、それを補う強化材を混入して複合化することが行われている。マグネシウムは溶融状態で空気に触れると酸化して発火燃焼しやすいので、その防止手段として6フッ化イオウ(SF6 )を空気と炭酸ガスの混合ガスで希釈した防燃ガスの雰囲気でマグネシウムの溶融を行い、マグネシウム溶融面に硫酸マグネシウム(MgSO4 )の保護膜を形成している。
【0003】
カーボンナノ材は結晶性カーボンの一種でnm単位の極めて微細なもので、熱伝導率がアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)などの非鉄金属の約5倍と高く、導電性も良好で、摩擦係数も低いことから摺動性にも優れるなどの特性を有する。そこでカーボンナノ材を強化材として非鉄金属を複合化した金属材料が開発されており、その複合化手段として溶融状態の金属材料にカーボンナノ材を添加して攪拌混練することが行われている。
【特許文献1】特開平6−238422号公報
【特許文献2】特開2004−136363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記防燃ガスのガス雰囲気でのマグネシウム基合金の溶融体とカーボンナノ材の攪拌混合では、マグネシウムと反応して溶融面に生成した保護膜(MgSO4
)が攪拌により分散して溶融体に混入する。また保護膜以外にも生成した硫化マグネシウム(MgS)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化マグネシウム(MgO)などが溶融体に混入し、それらの不純物によって複合体を素材とする製品の機械的強度、特に引張強さが低下するという課題を有する。
【0005】
この発明は、防燃ガス雰囲気における上記攪拌混練の課題を解決するために考えられたものであって、その目的は、防燃ガス雰囲気での複合化であっても、遮蔽蓋の採用により上記不純物の混入を防止することができる新たなカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的によるこの発明は、蓋付き容器内でのマグネシウム基合金の溶融と、溶融状態でのマグネシウム基合金とカーボンナノ材の攪拌混合とを防燃ガス(SF6 )雰囲気にて行い、マグネシウム基合金とカーボンナノ材とを複合化するにあたり、溶融体と防燃ガス雰囲気との境界に遮蔽蓋を上下動自在に溶融面と接して設け、その遮蔽蓋により防燃ガスとマグネシウムの反応による不純物の生成を抑制して、攪拌による不純物の溶融体への混入を防止してなる、というものである。
【0007】
また上記マグネシウム基合金は、液相線温度以上の完全溶融状態又は液相線温度以下で固相線温度以上の半溶融状態に溶融され、そのいずれかの溶融状態を維持して溶融体とカーボンナノ材の攪拌混合が行われる、というものである。
【0008】
また上記カーボンナノ材は、直径10〜150nm、長さ1〜100μmのカーボンナノチューブからなり、マグネシウム基合金に対する添加量は0.1〜20質量%からなる、というものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、攪拌混練が遮蔽蓋により防燃ガス雰囲気と溶融面とを遮断した状態で行われるので、防燃ガスとマグネシウムの反応によるMgSO4 、MgS、MgF、MgOなどの化合物による不純物の生成が抑制されて、溶融体への混入がなくなることから、不純物の混入による複合体の機械的強度の低下が防止される。また攪拌混練中の防燃は遮蔽蓋の周辺のスペースに限られるので、攪拌混練中の防燃ガスの使用量を削減することができ、その削減から防燃ガスとして使用する6フッ化イオウ(SF6 )による地球温暖化の防止ともなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図中1は上側部に投入口1aを有する上部開口の容器、2は容器開口を閉塞する蓋体、3は蓋体中央を貫通して攪拌翼3aを容器底面上に位置させた攪拌棒、4は蓋体中央に設置して攪拌棒3と連結した攪拌モータ、5は攪拌棒3に遊嵌して容器内に上下動自在に設けた浮力を有する中空の遮蔽蓋で、蓋体2を貫通して容器内に設けた複数箇所の吊上棒5a,5aが連結してあり、その吊上棒5a,5aにより投入口1aの上まで吊り上げることができるようにしてある。6は蓋体2に貫設した防燃ガスの供給管、7は加熱炉である。
【0011】
上記装置によるカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化は、図では省略するが、先ず閉蓋前の容器1に、インゴット又は棒状のマグネシウム基合金の所定本数を、閉蓋時に挿入される攪拌翼3aの位置を除けて入れる。次に蓋閉じにより攪拌棒3と遮蔽蓋5を容器内に挿入して開口を蓋体2により閉じ、加熱炉7により容器1を予め設定した温度に加熱してマグネシウム基合金を溶融する。この溶融は溶融体上の容器内を防燃ガス雰囲気にして行う。遮蔽蓋5はマグネシウム基合金の溶融にともない溶融面に接して、マグネシウム基合金の溶融体10と防燃ガス雰囲気との境界に位置し、溶融面と防燃ガスとの接触を周辺部分を除いて全面的に遮断する。
【0012】
加熱設定温度は、複合化を完全溶融状態で行う場合と、半溶融状態で行う場合とでは異なり、完全溶融状態での複合化はマグネシウム合金の液相線温度(AZ91D:595℃)以上の温度に、また半溶融状態では液相線温度(595℃)以下で固相線温度(470℃)以上の温度に温度設定がなされる。
【0013】
カーボンナノ材は直径10〜150nm、長さ1〜100μmのカーボンナノチューブからなり、マグネシウム基合金に対する添加量は0.1〜20質量%が好ましい。またカーボンナノ材は添加前に予備加熱しておくことが好ましく、この予備加熱により添加時の溶融体10の温度低下を阻止することができる。
【0014】
カーボンナノ材の添加は、マグネシウム基合金が設定温度に加熱されて溶融体10となったのち、遮蔽蓋5を吊上棒5a,5aにより蓋体1まで吊り上げて溶融面から除いてから、投入口1aから溶融体10の上に投入して行われる。また投入は攪拌棒3を低速回転して攪拌翼3aにより溶融体10を攪拌しながら行われる。投入時のカーボンナノ材は凝集状態にあってそのままではほぐしにくいが、攪拌による混練により分散してゆくようになる。
【0015】
溶融体10に所定量のカーボンナノ材を投入し終えたら、遮蔽蓋5を溶融面と接するところまで下ろして、溶融体10と防燃ガス雰囲気との境界に位置させ、防燃ガス雰囲気と溶融面とを遮断する。しかるのち、攪拌棒5の回転数(500〜3000rPm)を上げて溶融体10と添加したカーボンナノ材11の攪拌混練に移行する。遮蔽蓋5は浮力により溶融面が攪拌により揺れても溶融体中に沈むことなく溶融面と接して防燃ガスから保護している。
【0016】
この攪拌混練は遮蔽蓋5により防燃ガス雰囲気と溶融面とを遮断した状態で行われるので、防燃ガスとマグネシウムの反応によるMgSO4 、MgS、MgF、MgOなどの化合物による不純物の生成が抑制されて、攪拌による溶融体10への混入が殆どなくなる。これにより不純物の混入による引張強さの低下が防止されようになる。また攪拌混練中の防燃は遮蔽蓋5の周辺の限られたスペースのみとなるので、攪拌混練中の防燃ガスの使用量を削減することができる。防燃ガスとして使用されている6フッ化イオウ(SF6 )は、強力で持続的な温室効果を有するガスであるので、その使用の削減は地球温暖化防止にも寄与することになる。
【0017】
なお、上記実施形態は、マグネシウム基合金の溶融と、溶融体とカーボンナノ材との攪拌混練を1つの容器で行っているが、溶融と攪拌混合を別個の容器で行うこともできるので、この発明は1つの容器によるカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
蓋付き円形容器:材質ステンレス
攪拌混練時間(450rpm):60分
溶融温度(完全溶融):575°〜650℃
防燃ガス:6フッ化イオウ(1/100希釈)
マグネシウム基合金(AZ91D):6.0Kg(丸棒4本)
カーボンナノ材(カーボンナノチューブ):6質量%
攪拌混練状態:遮蔽蓋により溶融面と防燃ガス雰囲気を遮断して攪拌混練
【0019】
実施例と比較例(遮蔽蓋なし)との対比
引張強さ(平均)
実施例 220MPa
比較例 180MPa
但し、引張強さの測定:JISZ2241方式による。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明のカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化に用いられる装置の概要説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 蓋付き容器
2 蓋体
3 攪拌棒
3a 攪拌翼
4 攪拌モータ
5 遮蔽蓋
5a 吊上棒
6 防燃ガス供給管
7 加熱炉
10 溶融体
11 溶融体中のカーボンナノ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋付き容器内でのマグネシウム基合金の溶融と、溶融状態でのマグネシウム基合金とカーボンナノ材の攪拌混合とを防燃ガス(SF6 )雰囲気にて行い、マグネシウム基合金とカーボンナノ材とを複合化するにあたり、
溶融体と防燃ガス雰囲気との境界に遮蔽蓋を上下動自在に溶融面と接して設け、その遮蔽蓋により防燃ガスとマグネシウムの反応による不純物の生成を抑制して、攪拌による不純物の溶融体への混入を防止してなることを特徴とするカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法。
【請求項2】
上記マグネシウム基合金は、液相線温度以上の完全溶融状態又は液相線温度以下で固相線温度以上の半溶融状態に溶融され、そのいずれかの溶融状態を維持して溶融体とカーボンナノ材の攪拌混合が行われることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法。
【請求項3】
上記カーボンナノ材は、直径10〜150nm、長さ1〜100μmのカーボンナノチューブからなり、マグネシウム基合金に対する添加量は0.1〜20質量%からなることを特徴とする請求項1又は2記載のカーボンナノ材とマグネシウム基合金の複合化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−69512(P2010−69512A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240720(P2008−240720)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】