説明

ガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラム

【課題】ガスクラスターイオンビーム加工において、被加工物における目的の品質を確実に得る。
【解決手段】ガスクラスターイオンビーム9を被加工物11に照射して加工を行うガスクラスターイオンビーム加工装置Mにおいて、相対走査速度と照射ドーズ量との関係f1、被加工物11の回転軸からの距離と照射ドーズ量との関係f2、表面粗さや形状精度等の品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との関係f3,f4,f5,f6を予め測定して記憶しておき、被加工物11に要求される品質と、関係f1から関係f6とに基づいて被加工物11に対するガスクラスターイオンビーム9の相対走査速度を決定し、この相対走査速度によるガスクラスターイオンビーム9の照射によって被加工物11の加工を行うことで、被加工物11に目的の品質を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビームを用いる加工技術に関し、たとえば、光学素子や金型の製造工程における精密加工技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光学素子においては、光学機能面の平坦度が光学性能に大きな影響を与える。このため、光学素子やその製造に用いられる金型においては、素子の光学機能面や金型の成形面に高度な平坦加工が必要となる。
【0003】
そこで、従来から光学素子や金型の表面の平滑化には研磨剤と研磨工具を用いた接触研磨加工が用いられてきた。接触研磨加工以上に表面粗さを低減させる場合には、非接触研磨加工でガスクラスターイオンビームを用いる例がある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、被加工物の各部におけるガスクラスターイオンビームの照射時間を制御することで、被加工物の表面に存在する突起のピッチP以下のスポット径に設定したガスクラスターイオンビームであっても、被加工物の表面の突起を除去して形状創成を可能にしようとする技術が開示されている。
【0005】
従来から用いられている接触研磨加工では、達成できる表面粗さは、算術平均粗さRaで、3〜10nm程度が限界であり、研磨工具や研磨砥粒のばらつきや塵等の混入により研磨面にキズが発生することもあり加工安定性は決して高いとは言えない。
【0006】
上述の特許文献1では、揺動手段を用いてガスクラスターイオンビームが被加工物に対して垂直になるように照射することが記載されているが、被加工物の各照射位置における具体的な揺動速度の制御については言及がないために、揺動速度の最適化ができず目標とする表面粗さや形状精度を得ることが困難である。
【0007】
また、ガスクラスターイオンビームは、被加工物とガスクラスターイオンビームのなす角度が垂直であるときの照射角度を90°としたときに、この照射角度が60°以下になると被加工物の表面が粗面化してしまうことがある。
【0008】
特許文献1では、単にガスクラスターイオンビームが被加工物に対して垂直になるように照射するのみであり、照射角度の変化に伴う被加工物の粗面化の制御も困難である。
すなわち、被加工物に、目標とする表面粗さや形状精度を確実に得る技術が求められている。
【特許文献1】特開2005−120393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ガスクラスターイオンビーム加工において、被加工物における目的の品質を確実に得ることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、前記被加工物に対する前記ガスクラスターイオンビームの相対走査速度を制御して目標とする品質を得るガスクラスターイオンビーム加工方法を提供する。
【0011】
本発明の第2の観点は、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工装置であって、
前記ガスクラスターイオンビームに対する前記被加工物の姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記被加工物に目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように前記ガスクラスターイオンビームの前記被加工物における各照射位置での相対走査速度を算出する算出手段と、
算出された前記相対走査速度となるように前記姿勢制御装置を動作させる制御手段と、
を含むガスクラスターイオンビーム加工装置を提供する。
【0012】
本発明の第3の観点は、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工に用いられる数値制御プログラムを作成する加工プログラムであって、
被加工物における目標とする品質の入力を受け付ける第1ステップと、
前記品質が得られる照射ドーズ量となるように前記ガスクラスターイオンビームの前記被加工物における各照射位置での前記相対走査速度を算出する第2ステップと、
前記相対走査速度が実現されるように前記ガスクラスターイオンビームに対する前記被加工物の姿勢を変化させる前記数値制御プログラムを出力する第3ステップと、
をコンピュータに実行させる加工プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガスクラスターイオンビーム加工において、被加工物における目的の品質を確実に得ることが可能な技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施の形態の第1態様では、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工する方法であって、被加工物とガスクラスターイオンビームの相対速度を制御することによって目標とする品質を得る。
【0015】
また、第2態様では、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工する加工方法であって、相対速度と照射ドーズ量の関係を求める第1工程と、被加工物の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量の関係を求める第2工程と、目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との関係を求める第3工程と、前記第1工程、第2工程、第3工程で得られた関係を用いて目標の品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する第4工程と、算出された相対速度に基づいて加工する第5工程からなることによって、目標とする品質を得る。
【0016】
また、第3態様では、上述の第1態様または第2態様において、目標とする品質が表面粗さである場合、前記品質に影響するパラメータが照射角度であることから、照射角度と照射ドーズ量の関係を求め、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出し、算出された相対速度に基づいて加工することによって、目標とする表面粗さを得る。
【0017】
また、第4態様では、上述の第1態様または第2態様において、目標とする品質が形状精度の場合、前記品質に影響するパラメータが照射角度と除去量であることから、照射角度と照射ドーズ量、除去量と照射ドーズ量の関係を求め、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出し、算出された相対速度に基づいて加工することによって、目標とする形状精度を得る。
【0018】
また、第5態様では、上述の第2態様における前記第4工程において、被加工物におけるガスクラスターイオンビームの照射範囲の中で、加工中に加速電極から被加工物の表面までの距離(すなわち飛程)が異なる場合には、加速電極から被加工物の表面までの距離と除去量の関係をも加味して、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を補正して算出することで目標の品質を得る。
【0019】
また、第6態様では、上述の第2態様における第4工程において、ガスクラスターイオンビームのビーム強度プロファイルとして検出イオン電流量を測定し、検出イオン電流量と除去量の関係と相対速度と照射ドーズ量の関係から、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を補正することで目標とする品質を得る。
【0020】
また、第7態様では、上述の第1態様から第6態様のいずれかにおいて、被加工物の形状は、平面および曲面を有する場合においても、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となる各照射位置での相対速度を算出し、算出された相対速度に基づいて加工することによって目標とする品質を得る。
【0021】
また、第8態様では、被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビームの加工装置であって、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する算出手段と、算出された相対速度に基づいて被加工物とガスクラスターイオンビームを相対的に動かすための制御手段と、被加工物の姿勢を制御するための姿勢制御装置からなるガスクラスターイオンビーム加工装置を用いることによって目標とする品質を得る。
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法を実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成の一例を示す概念図であり、図2Aおよび図2Bは、本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用の一例を示すフローチャートである。
【0023】
[構成]
図1に示すように、ガスクラスターイオンビーム加工装置Mは、ソース部1と差動排気部2とイオン化部3の3つのチャンバーによって構成されている。差動排気部2にはガスクラスターイオンビーム9の出射経路の開閉を行うことで、ガスクラスターイオンビーム9の照射のON/OFFを制御するシャッター6が配置されている。
【0024】
ソース部1、差動排気部2、イオン化部3の各チャンバー内は、照射前の準備として不純物ガス,水,酸素および窒素等をできるだけ排除するために不図示のポンプにて所望の真空度まで減圧されている。
【0025】
ソース部1に設けられたノズル4には不図示のガスボンベより、0.3〜1.0MPa程度の高圧ガスを供給する。このガスは、例えばアルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、SFガス、ヘリウムガスの他、化合物の炭酸ガスあるいは2種以上のガスを混合することも可能である。
【0026】
このような高圧ガスが超音速でノズル4から噴出する瞬間に断熱膨張によってガスクラスターが生成され、このガスクラスターの流れは、ノズル4の後段に配置されたスキマー5を通過することでビーム径が整えられる。このときのガスクラスターイオンビーム9は中性ビームであるが、差動排気部2を経由してイオン化部3に入り、タングステン製のフィラメント7の熱電子の衝突によってイオン化される。
【0027】
次にガスクラスターイオンビーム9は加速電極8で加速される。このとき、ガスクラスターイオンビーム9の径は、たとえば数十mm程度であるが、加速電極8と被加工物11の間にアパーチャー10を配置することによって所望の口径(断面積)を有するガスクラスターイオンビーム9を得ることができる。
【0028】
ガスクラスターイオンビーム9の出射方向の下流には、ガスクラスターイオンビーム9の照射方向と略対向する位置に被加工物11を配設する。本実施の形態では、図1の上下方向をY方向と定義し、紙面に垂直な方向をX方向と定義する。また、ガスクラスターイオンビーム9が被加工物11に向かう照射方向をZ方向と定義する。
【0029】
被加工物11は被加工物ホルダー12を介して後述のような構成の姿勢制御装置20に設置される。
すなわち、被加工物ホルダー12は、X,Y,Z方向が互いに直行する第1XYZステージ13に設置され、さらにこれらは回転ステージ14に設置されている。この構成によって、被加工物11に対する回転ステージ14の回転軸の位置を任意に変更することができる。
【0030】
回転ステージ14は、部材15を介して第2XYZステージ16に支持され、さらに第2XYZステージ16は、揺動ステージ17に搭載されている。この第2XYZステージ16は、被加工物11と揺動ステージ17の揺動の旋回中心との位置関係を調整する機構である。
【0031】
被加工物11に対して前出の揺動ステージ17と第2XYZステージ16と第1XYZステージ13の構成を維持した状態で被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の相対的な位置を変更できるように第3XZステージ18を設置している。この第3XZステージ18は、ベース19に設置されている。そして、これらのステージ等の構成からなる姿勢制御装置20を用いて、ガスクラスターイオンビーム9に対して被加工物11を相対的に動かしながらガスクラスターイオンビーム9を被加工物11に照射する。
【0032】
姿勢制御装置20を構成する回転ステージ14は、ステッピングモータやサーボモータなどのモータを駆動源としてこれを回転動力とし、被加工物11に伝達できるように複数の歯車を噛み合わせるなどして構成されている。揺動ステージ17も回転ステージ14と同様に、ステッピングモータやサーボモータなどを駆動源とし、これを回転動力として被加工物11に伝達することで、揺動角度と揺動速度を設定することが可能になっている。また、回転ステージ14の動力であるモータにエンコーダを具備させることで、回転ステージ14における回転速度だけではなく、回転角度も制御することが可能になっている。
【0033】
姿勢制御装置20は、たとえばNCプログラム101cによって動作する数値制御装置等からなる制御部100に接続されて制御される。
この制御部100は、さらに、たとえばパーソナルコンピュータ等で構成される制御端末101に接続されて制御される。
【0034】
本実施の形態の場合、制御端末101は、加工プログラム101a、記憶部101bを備えている。記憶部101bは、後述のようして得られた関係f1(第1の関係)から関係f6等の情報が、コンピュータによって利用可能なデータテーブルや関数等の情報形式で格納されている。
【0035】
加工プログラム101aは、制御端末101を構成する図示しないマイクロプロセッサ等のコンピュータで実行されることにより、記憶部101bに格納されている情報を参照して後述のような動作や処理を実現する。
【0036】
すなわち、制御端末101の加工プログラム101aでは、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となる各照射位置での相対走査速度を算出し、算出結果に基づいて姿勢制御装置20を動かすためのNCプログラム101cを作成する。
【0037】
この相対走査速度とは、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9が相対的に動く(走査する)ときの速度であり、本実施の形態では、相対走査速度は揺動ステージ17を用いた揺動速度を示す。
【0038】
姿勢制御装置20の制御部100は制御端末101に接続され、制御端末101で作成したNCプログラム101cに基づいて姿勢制御装置20の揺動ステージ17の相対走査速度、すなわち揺動速度を制御する。
【0039】
[作用]
本実施の形態では、図1に示す姿勢制御装置20を用いて、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9を相対的に動かして、被加工物11の表面が目標の品質となるように、ガスクラスターイオンビーム9を照射するための工程を説明する。
【0040】
本実施の形態の場合、この工程は第1工程から第5工程に分けられ、これらをフローチャートに示すと図2Aのようになる。
第1工程210では、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の相対走査速度の関係f1を求める。
【0041】
第2工程220では、被加工物11の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量の関係f2(第2の関係)を求める。
第3工程230では目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との関係(関係f3から関係f6(第3の関係))を求める。
【0042】
そして、第4工程240では上述の第1工程210〜第3工程230の各々で得られた関係f1から関係f6を用いて目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対走査速度を算出する。
【0043】
第5工程250では第4工程240で算出された相対走査速度に基づいてガスクラスターイオンビーム9の照射による被加工物11の加工を実行する。
よって以下ではこれらの工程における詳細を順に述べていく。
【0044】
まず、第1工程210では、相対走査速度と照射ドーズ量の関係f1を求める。図3には、回転速度ω(rad/s)で回転している被加工物11に対して、ガスクラスターイオンビーム9を、当該被加工物11の回転軸から径方向に移動ながら照射を行う場合の模式図を示している。
【0045】
被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の位置関係は、図3に示すようにガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aから被加工物11の回転軸までの距離Rで示す。この場合、被加工物11において、図4の斜線部で示すように輪帯状の領域にガスクラスターイオンビーム9が照射されることになる。
【0046】
図4は被加工物11の回転軸から径方向の距離がR、R(R<R)である場合における、被加工物11を回転速度ω(rad/s)で回転したときに得られるガスクラスターイオンビーム9の照射痕の軌跡からなる照射面積S、Sを示している。
【0047】
照射ドーズ量の単位は、ions/cmであり、(1)式のように、表現できる。
照射ドーズ量=(検出イオン電流量×照射時間)/(面積×電気素量e)…(1)
ここで、検出イオン電流量と電気素量eが一定とすれば照射ドーズ量をD、照射時間をt、照射面積をSとすると、kを比例定数として、以下の(2)式のようになる。
【0048】
D=k×(t/S) …(2)
したがって、照射ドーズ量Dは照射時間tに比例し、照射面積Sに反比例することがわかる。
【0049】
ここで、図5に例示されるように、被加工物11の回転軸から半径Rの円周上をビーム軸9aが移動しながらガスクラスターイオンビーム9が被加工物11の表面を照射するときの当該ガスクラスターイオンビーム9のビーム径をrとする。
【0050】
また、ビーム径rのガスクラスターイオンビーム9が通過する領域の面積をSとするとS=2Rπ×rで示せるので半径R、Rとすると(ただし、R<R)、以下のようになる。
【0051】
S=2πR×r…(3)
=2πR×r…(4)
=2πR×r…(5)
、Rにおける円周の長さをそれぞれL、Lとすると、L、Lはそれぞれ、以下の(6)式、(7)式になる。
【0052】
=2πR…(6)
=2πR…(7)
図6のように、被加工物11上のP点、Q点に着目すると、それぞれが回転軸を中心にω(rad)回転するまでに要する時間は等しい。R、Rにおける速度をV、Vとすれば、距離=速度×時間の関係より1回転する時間をtとし、L、Lの関係を求めると以下のように表現できる。
【0053】
=V×t…(8)
=V×t…(9)
したがって、(3)〜(9)式より
=V×t×r…(10)
=V×t×r…(11)
(2)式よりR、Rにおける照射ドーズ量をそれぞれD、Dとすれば、
=k(t/VtΔd)=(k/Vr)…(12)
=k(t/VtΔd)=(k/Vr)…(13)
となる。速度V、VはV=Rωで求められるので、
=V/ω…(14)
=V/ω…(15)
となる。(14)式および(15)式において、R<RであるからV、Vの間には以下の関係が成り立つ。
【0054】
<V…(16)
したがって、(12)〜(16)式よりD>Dとなり、相対走査速度Vが小さいほど照射ドーズ量Dが多くなる。さらに(12)式、(13)式より、相対走査速度と照射ドーズ量の関係は反比例することがわかる。したがって、相対走査速度と照射ドーズ量には図7に示すような関係f1にあるとわかる。
【0055】
このようにして第1工程210における相対走査速度と照射ドーズ量の関係f1を求めることができた。
次に第2工程220における、被加工物11の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量の関係f2を求める。
【0056】
(2)式よりR<Rのとき、D>Dとなる。また被加工物11の径方向からの距離と照射ドーズ量の関係は反比例することがわかる。したがって、被加工物11の径方向からの距離と照射ドーズ量には、図8に示すような関係f2にあるとわかる。
【0057】
このようにして第2工程220における被加工物11の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量の関係f2を求めることができた。
次に第3工程230において目標とする品質が表面粗さや形状精度である場合において、目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量の関係を求める。
【0058】
第1の場合として、目標とする品質が表面粗さである場合について述べる。この場合、目標とする品質に影響するパラメータは照射角度である。
まず、表面粗さと照射ドーズ量の関係f3を求める。この関係を求める手法は、一例として以下のようになる。
【0059】
すなわち、被加工物11と同じ材料で表面粗さRy(基準長さ毎の最低谷底から最大山頂までの高さ)の異なるサンプルに対して、サンプルとガスクラスターイオンビーム9のなす角度を垂直として、様々な照射ドーズ量でガスクラスターイオンビーム9を照射した場合の表面粗さの変化を測定した。
【0060】
表面粗さRyの測定には、表面粗さ計を用いたが表面粗さが測定できれば他のものでも良い。この結果を図9に示す。照射ドーズ量を増加させるほど表面粗さRyは減少する、という関係f3が得られた。したがって、照射ドーズ量を増加させることで表面粗さを小さくすることができることがわかる。
【0061】
次に照射角度と表面粗さの関係f4を求める。この関係を求める手法は、一例として以下のようになる。
すなわち、図10に示すように被加工物11と同じ材料の平面サンプル21を傾斜台22に設置し、傾斜台22の傾斜角度αを変化させ、照射後の表面粗さを測定して照射角度が表面粗さに及ぼす影響を調査した。この照射角度とは図10に示す角度βであり、平面サンプル21の表面に対するガスクラスターイオンビーム9の入射する角度を示すものとする。なお照射ドーズ量は1.017ions/cmと一定の値にして行った。また表面粗さの測定器には表面粗さ測定計を用いた。
【0062】
この結果を図11に示す。この図11の関係f4から判るように、図10の角度βが60°以下になると照射後の表面粗さは、照射前と比較して大きくなった。
したがって、この関係f4から、表面粗さを低減する場合には、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の照射角度を表面粗さが大きくならない範囲、すなわち図10に示す角度βが60°〜90°になるようにすれば良い。逆に、表面粗さを大きくする場合には、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の照射角度を目標とする表面粗さの大きな粗い面を得られる範囲、すなわち図10に示す角度βが60°以下になるようにすれば良い。
【0063】
第2の場合として、目標とする品質が形状精度である場合において述べる。この場合、目標とする品質に影響するパラメータは被加工物11の除去量と照射角度である。
そこでまず除去量と照射ドーズ量の関係f5を求める。この関係を求める手法として、様々なドーズ量で図12に示すようにガスクラスターイオンビーム9を、マスク24を部分的に被着させた平面サンプル23の表面に垂直に照射したときの段差Δhを測定した。
【0064】
本実施の形態における除去量は、この段差Δhによって評価する。
段差Δhの測定には、段差測定器を用いたが、段差Δhが測定できれば他のものでも良い。また、被加工物11である平面サンプル23の材料としては、被加工物11と同じ材料を用いるが、今回の実験においては異種材料を用いて照射ドーズ量と除去量の傾向を取得し、この傾向を被加工物11への照射に反映させた。この関係f5の測定結果を図13に示す。図13の点線は照射ドーズ量と除去量の実験結果の近似直線であり、照射ドーズ量が増えるほど段差Δh、すなわち除去量は多くなる比例関係であった。
【0065】
照射角度と照射ドーズ量の関係f6は、一般に被加工物11に対してガスクラスターイオンビーム9が垂直に照射される場合が最も除去量が多くなると言われている。
このようにして、第3工程230において目標とする品質が表面粗さや形状精度である場合において、目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量の関係(関係f3、関係f4、関係f5、関係f6)を求めることができた。
【0066】
なお、本実施の形態の場合、上述のようにして得られた関係f1から関係f6は、加工プログラム101aから参照可能なように、制御端末101の記憶部101bに、データテーブルや関数の形式で格納される。
【0067】
次に第4工程240において、上述の第1工程210から第3工程230で得られた関係f1からf6を用いて目標の品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対走査速度を算出する手法(アルゴリズム)の一例を示す。
【0068】
本実施の形態では被加工物11をガスクラスターイオンビーム9に対して揺動および回転させ、被加工物11の表面において照射ドーズ量の分布を均一にして形状精度を維持したまま表面粗さを低減する場合について述べる。
【0069】
また、被加工物11が1つの球面を有しているとする。照射ドーズ量の分布は、図3に示すようにガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aの移動軌跡を導出することで求められる。
【0070】
図14の実験例Ex1の上段図は被加工物11を速度一定で揺動および回転させた場合における、被加工物11の表面に対する図3に示すようなガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aの移動軌跡を示している。
【0071】
これは、被加工物11を回転させながら被加工物11の径方向にガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aを一定の速度で揺動させたときのビーム軸9aの照射痕の軌跡を示している。
【0072】
この移動軌跡から被加工物11に対する照射ドーズ量分布を求めると図14の実験例Ex1の下段図のように中央付近のドーズ量が多い山なりの分布となり、照射ドーズ量の最大値と最小値の差ΔDが大きくなった。したがって均一性は良くないと言え、均一性向上のためには照射ドーズ量を中央付近では減少するように、そして外周部では増加するようにすれば良い。そこで、被加工物11とガスクラスターイオンビーム9の揺動速度を制御することで、均一性の向上を図る。
【0073】
図7の関係f1に示したように、相対走査速度と照射ドーズ量は反比例の関係にある。したがって照射ドーズ量を減少させるためには揺動速度を速くする、逆に照射ドーズ量を増加させるためには、揺動速度を遅くすればよい。
【0074】
図14の右側の実験例Ex2は、図14の左側の実験例Ex1における一定の揺動速度と比較して、被加工物11の中央付近では揺動速度を速くして、外周部では揺動速度を遅くした場合の被加工物11の表面におけるガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aの移動軌跡と照射ドーズ量の分布を示している。照射ドーズ量分布における最大値と最小値の差ΔDが図14の実験例Ex1の場合と比較して、1/3程度となった。この結果から揺動速度を制御することで被加工物11の表面に対するガスクラスターイオンビーム9の照射ドーズ量を制御できることがわかる。
【0075】
また、第3工程230では目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量の関係(関係f3からf6)を述べた。したがって揺動速度によって照射ドーズ量を制御することで、目標とする品質および前記品質に影響するパラメータを制御できる。
【0076】
このようにして第4工程240では、第1工程210から第3工程230において求めた関係(関係f1から関係f6)を用いて、被加工物11の表面における照射ドーズ量分布をガスクラスターイオンビーム9のビーム軸9aの移動軌跡から求め、被加工物11の目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対走査速度の最適値を算出することができる。
【0077】
図2Bのフローチャートを参照して、本実施の形態の制御端末101における加工プログラム101aによって実現される、上述の第4工程240の詳細例を説明する。
すなわち、加工プログラム101a(制御端末101)は、被加工物11において実現されるべき目的の品質(この場合、表面粗さ、および加工精度の少なくとも一方)の情報の入力をユーザ等から受け付ける(ステップ241)。
【0078】
次に、記憶部101bから既知の上述の関係f1から関係f6の情報を読み込む(ステップ242)。
次に、入力された上述の品質の情報と、記憶部101bから読み込んだ既知の関係f1から関係f6とに基づいて、上述の第4工程240に例示したアルゴリズムに基づいて、当該品質を達成するガスクラスターイオンビーム9の照射デーズ量を実現する相対走査速度を算出する(ステップ243)。
【0079】
次に、加工プログラム101aは、ステップ243で算出された相対走査速度で被加工物11の姿勢がガスクラスターイオンビーム9に対して変化するように、姿勢制御装置20を制御部100が制御するためのNCプログラム101cを生成して、制御部100に出力する(ステップ244)。
【0080】
最後に第5工程250では、第4工程240で算出された相対走査速度に基づいて加工を行う。
まず、被加工物11を姿勢制御装置20の被加工物ホルダー12に設置する。この被加工物ホルダー12は第1XYZステージ13に設置されており、被加工物11の表面に複数の球面や非球面を有する場合においても被加工物11の回転軸を所望の位置に変更させることができる。
【0081】
次に、部材15を介して設置された第2XYZステージ16を用いて、被加工物11と揺動ステージ17の揺動の旋回中心の位置を調整する。本実施の形態では、被加工物11が球面を有しているため、球面の曲率中心と揺動ステージ17の旋回中心が一致するように調整させた。また第3XZステージを18用いることで、被加工物11と揺動ステージ17の旋回中心が一致した状態で被加工物11のX、Z方向を所望の位置まで移動させることができる。
【0082】
第4工程240で算出された相対走査速度に基づいて、制御端末101を用いて生成され、姿勢制御装置20を制御するためのNCプログラム101cを制御端末101から入力する。
【0083】
そして姿勢制御装置20に接続された制御部100において、制御端末101で作成したNCプログラム101cを実行して姿勢制御装置20を動作させることにより、ガスクラスターイオンビーム9に対して被加工物11の姿勢を制御しながらガスクラスターイオンビーム9の照射を行うことでガスクラスターイオンビーム加工を実行する。なお、この加工時の回転ステージ14の回転速度は一定とした。
【0084】
この結果を図15A、図15B、図16A、図16Bに示す。図15Aおよび図15Bは、照射前後の表面粗さRyを示しており、それぞれ、照射前の図15Aでは、Ry=7.5nm、照射後の図15Bでは、Ry=6.0nmであることから照射後に表面粗さRyを低減できたと言える。
【0085】
また、図16Aおよび図16Bは照射前後の形状精度P−V(Peak to valley)を示しており、それぞれ、照射前の図16Aでは、P−V=0.109μm、照射後の図16Bでは、P−V=0.099μm、であることから形状精度を維持しているといえる。
【0086】
このようにして、第5工程250において第4工程240で算出された相対走査速度に基づいて加工を行うことで目標とする品質を得ることができる。
[効果]
本実施の形態1によれば、目標の品質を得るための照射ドーズ量となるように被加工物11の各照射位置における相対走査速度を算出し、算出された相対走査速度に基づいてガスクラスターイオンビーム加工が行われるように姿勢制御装置20を制御して被加工物11の姿勢を変化させながらガスクラスターイオンビーム9を照射することによって、被加工物11に目標の表面粗さや形状精度等の品質を得ることができる。
【0087】
(実施の形態2)
図17は、本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工プログラムが実施されるガスクラスターイオンビーム加工装置の作用を示す概念図である。
【0088】
図18は、本発明の他の実施の形態における加速電極から被加工物と同じ材料のサンプルまでの距離と除去量の関係f7を示す線図である。
この実施の形態2では、上述の実施の形態1の構成と同様のガスクラスターイオンビーム加工装置Mを用いるが、被加工物11が段差形状11aを持つために図17に示すように、ガスクラスターイオンビーム9の照射範囲の中で加速電極8から被加工物11の表面までの距離(ガスクラスターイオンビーム9の飛程)が異なる。
【0089】
図17に示すように被加工物11が段差形状11aを持つ場合には、ガスクラスターイオンビーム9の照射範囲において加速電極8から被加工物11の表面までの距離がL、Lと変化する。
【0090】
このように、ガスクラスターイオンビーム9の飛程がLとLのように異なる場合において均一な除去量を得るための手段の一例を述べる。
そこで、被加工物11と同じ材料のサンプルを用いて、加速電極8から当該サンプルまでの距離(ガスクラスターイオンビーム9の飛程)を変化させたときの段差を求めた。
【0091】
ここで用いた被加工物11の材料はシリコンであったので、サンプルにもシリコンを用いた。
この結果、図18に示すように加速電極8から被加工物11と同じ材料のサンプルの表面までの距離が離れるほど除去量が少なくなる、関係f7(第4の関係)が得られた。
【0092】
この関係f7のように加速電極8から被加工物11表面までの距離が遠くなるほど除去量が少なくなるのは、ガスクラスターイオンビーム9が真空中の残留ガスと衝突してエネルギーを失うことなどが原因である。
【0093】
そこで、距離が離れることで除去量が少なくなる距離Lの部位においても、距離Lの部位と同じ除去量25が得られるような照射ドーズ量となるように各照射位置での相対走査速度を補正する。
【0094】
図7において相対走査速度と照射ドーズ量は反比例の関係f1にあることから、除去量が少なくなるLがLと同じ除去量となるように、相対走査速度が遅くなるように補正することで照射ドーズ量を増やせばよい。
【0095】
具体的には、図17における被加工物11の段差形状11aの凹凸に応じて変化する相対走査速度制御プロファイルVpとなるように相対走査速度を制御する。
このように相対走査速度を制御することで、照射範囲において加速電極8から被加工物11の表面までの距離が異なる場合においても同じ除去量が得られるようにする。
【0096】
このようにして算出された相対走査速度に基づいて被加工物11とガスクラスターイオンビーム9を相対的に動かすように、姿勢制御装置20を制御するNCプログラム101cを制御端末101で作成する。このNCプログラム101cを用いて姿勢制御装置20に接続された制御部100において、姿勢制御装置20の揺動ステージ17の揺動速度を制御してガスクラスターイオンビーム9を照射することで加工を実行する。
【0097】
この結果、照射範囲において加速電極8から被加工物11までの距離が図17のL、Lのように異なる場合おいても、目標とする均一な除去量25を除去することができる。
[効果]
本実施の形態2によれば、被加工物11の加工範囲に段差形状11a等の凹凸が存在し、加工中に、加速電極8から被加工物11の表面までの距離が変動する場合にも、すなわちガスクラスターイオンビーム9の飛程が変動する場合でも、この飛程の変動の影響を打ち消すような相対走査速度制御プロファイルVpで加工を行うことで、ガスクラスターイオンビーム9の各照射位置での相対走査速度を補正して照射することで目標とする品質を得ることができる。
【0098】
(実施の形態3)
図19Aは、本発明のさらに他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工プログラムを実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成例を示す概念図、図19Bは、その一部を取り出して例示した拡大斜視図、図20は、その作用の一例を示す線図である。
[構成]
本実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工装置Mでは、ガスクラスターイオンビーム9のビーム強度プロファイルを作成するために図19Aに示すようにガスクラスターイオンビーム9を照射して検出イオン電流量を測定できる検出イオン電流量測定器26を具備した点が、上述の実施の形態1の場合と異なっており、その他の構成は、同様である。従って、ガスクラスターイオンビーム加工装置Mの上述の実施の形態1との相違点説明し、実施の形態1と共通する部分は同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0099】
図19Aおよび図19Bに示すように、本実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工装置Mの場合、ガスクラスターイオンビーム9の通過経路上に検出イオン電流量測定器26が配置され、この検出イオン電流量測定器26は、外部に設けられた出力部102に接続されている。
【0100】
図19Bに示すように、検出イオン電流量測定器26のガスクラスターイオンビーム9に対向する表面には、複数の検出イオン電流量測定素子27が配置されており、個々の検出イオン電流量測定素子27の測定結果は出力部102によって検出される構成となっている。
【0101】
検出イオン電流量測定器26の表面に配置された複数の検出イオン電流量測定素子27の数が多いほど、高い分解能でガスクラスターイオンビーム9の断面内における検出イオン電流量のプロファイルを取得できる。検出イオン電流量測定素子27で測定された結果は、出力部102から出力される。
【0102】
[作用]
ガスクラスターイオンビーム9の断面内におけるイオン電流量のプロファイルを取得する場合、ガスクラスターイオンビーム9を図19Bの検出イオン電流量測定器26の表面にある検出イオン電流量測定素子27に向かって照射する。
【0103】
図20は、図19Bのガスクラスターイオンビーム9の線A−A´断面におけるガスクラスターイオンビーム9の検出イオン電流量の測定結果を測定した結果を示している。
図20のa,b,cの各測定点は図19BのA−A´断面に位置する個々の検出イオン電流量測定素子27と対応している。この結果、検出イオン電流量の測定結果は均一ではなかった。
【0104】
ここで、検出イオン電流量と照射ドーズ量の関係は上述の(1)式で定義され、
照射時間、面積、電気素量eが一定のとき照射ドーズ量Dは、検出イオン電流量Aと比例関係にあり、kを比例係数とすると、(17)式のようになる。
【0105】
D=k・A …(17)
照射ドーズ量と除去量の関係は、図12に示すように比例している。したがって(17)式の関係から、検出イオン電流量Aが少なくなると、照射ドーズ量Dも低下する。
【0106】
また、照射ドーズ量Dが少ない場合には、図13に示すように除去量も少なくなる。つまり、図20に示すような検出イオン電流量が少ないa点とc点はb点よりも除去量が少なくなる、という関係f8(第5の関係)が得られる。
【0107】
そこで、図20にように得られたガスクラスターイオンビーム9の断面内の径方向位置(a点,b点,c点)の除去量と検出イオン電流量との関係f8に基づいて、検出イオン電流量が低いために除去量の少ないa点とc点においても、b点と同じ除去量になるように相対走査速度を補正することを考える。
【0108】
これには、実施の形態1の図7に示したように相対走査速度と照射ドーズ量が反比例の関係f1にあることを用いる。例えば、ガスクラスターイオンビーム9の断面内において検出イオン電流量が少ない両端のa点とc点が、中央のb点と同じ除去量となるように、実施の形態1における第4工程240の手法(アルゴリズム)を用いて、a点とc点における相対走査速度がb点よりも遅くなるように補正することによって照射ドーズ量を増やせば良い。このように相対走査速度を制御することで、検出イオン電流量が少ない断面内の両端のa点とc点においても、断面中央のb点と同じ除去量が得られるようにする。
【0109】
このようにして算出された相対走査速度に基づいて被加工物11とガスクラスターイオンビーム9を相対的に動かす(走査する)ように、姿勢制御装置20を制御するNCプログラム101cを制御端末101の加工プログラム101aによって作成する。そして、このNCプログラム101cを制御部100が実行することで、制御部100が姿勢制御装置20の揺動ステージ17の揺動速度を制御してガスクラスターイオンビーム9の照射を実行する。
【0110】
この結果、検出イオン化電流量の測定結果がガスクラスターイオンビーム9の断面内で不均一である場合にも被加工物11における均一な除去量を得ることができる。
[効果]
この実施の形態3によれば、上述の実施の形態1および実施の形態2に例示の加工方法においてガスクラスターイオンビーム9の断面内における検出イオン電流量が不均一な場合であっても、上述の関係f1から関係f6に、さらに検出イオン化電流量の分布と除去量との関係f8を加味した情報に基づいて目標の品質を得るための照射ドーズ量となる各照射位置での相対走査速度を補正し、この補正された相対走査速度にてガスクラスターイオンビーム9を被加工物11に照射することにより、より高精度に目標とする品質を得ることができる。
【0111】
以上詳細に説明した本発明に係わる上述の実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工技術によれば、目標とする品質を達成するための照射ドーズ量となるように各照射位置でのガスクラスターイオンビーム9と被加工物11の相対走査速度を算出でき、被加工物11における目標とする形状精度や表面粗さ等の品質を確実に得ることができる、という効果が得られる。
【0112】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、上述の各実施の形態では、ガスクラスターイオンビーム加工装置Mを制御する制御部100と制御端末101を別個に設けているが、制御端末101からガスクラスターイオンビーム加工装置Mを直接的に制御する構成としてもよい。
【0113】
[付記1]
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工する方法であって、被加工物とガスクラスターイオンビームの相対速度を制御して目標とする品質を得ることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0114】
[付記2]
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工する加工方法であって、相対速度と照射ドーズ量の関係を求める第1工程と、被加工物の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量の関係を求める第2工程と、目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との関係を求める第3工程と、前記記載の第1、第2、第3工程を用いて目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する第4工程と、算出された相対速度に基づいて加工する第5工程からなることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0115】
[付記3]
前記付記1、付記2に記載の目標とする品質が表面粗さであり、前記品質に影響するパラメータが照射角度であることを特徴とする付記1、付記2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0116】
[付記4]
前記付記1、付記2に記載の目標とする品質が形状精度であり、前記品質に影響するパラメータが照射角度と除去量であることを特徴とする付記1、付記2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0117】
[付記5]
前記記載の被加工物において、ガスクラスターイオンビームを照射した被加工物の照射範囲の中で、加速電極から被加工物の表面までの距離が照射中の被加工物の表面の照射範囲で異なる場合には、加速電極から被加工物の表面の任意の点までの距離と除去量の関係を付加して、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する工程と、算出された相対速度に基づいて加工する工程からなることを特徴とする付記1、付記2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0118】
[付記6]
前記付記1、付記2に記載の目標の品質とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する第4工程において、ガスクラスターイオンビームのビーム強度プロファイルと除去量の関係から目標の品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を補正して算出することを特徴とする付記2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0119】
[付記7]
付記1から付記7に記載の被加工物の形状は、平面および曲面を有することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【0120】
[付記8]
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビームの加工装置であって、目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように各照射位置での相対速度を算出する算出手段と、算出された相対速度に基づいて被加工物とガスクラスターイオンビームを相対的に動かすための制御手段と、被加工物の姿勢を制御するための姿勢制御装置からなるガスクラスターイオンビーム加工装置。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法を実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2A】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用の一例を示すフローチャートである。
【図2B】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用を説明する概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用を説明する概念図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用を説明する概念図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法およびガスクラスターイオンビーム加工装置ならびに加工プログラムの作用を説明する概念図である。
【図7】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法における相対走査速度と照射ドーズ量が反比例の関係f1を示す線図である。
【図8】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法における被加工物の回転軸からの距離と照射ドーズ量との関係f2を示す線図である。
【図9】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法における表面粗さRyと照射ドーズ量との関係f3を示す線図である。
【図10】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの照射角度の定義を説明する概念図である。
【図11】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法における表面粗さRyと照射角度との関係f4を示す線図である。
【図12】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの加工量の測定方法の一例を示す概念図である。
【図13】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法における被加工物の除去量と照射ドーズ量との関係f5を示す線図である。
【図14】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの相対走査速度と照射ドーズ量の分布の測定結果を示す説明図である。
【図15A】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの照射前の被加工物の表面粗さの測定結果を示す線図である。
【図15B】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの照射後の被加工物の表面粗さの測定結果を示す線図である。
【図16A】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの照射前の被加工物の形状精度の測定結果を示す線図である。
【図16B】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法におけるガスクラスターイオンビームの照射後の被加工物の形状精度の測定結果を示す線図である。
【図17】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工プログラムが実施されるガスクラスターイオンビーム加工装置の作用を示す概念図である。
【図18】本発明の他の実施の形態における加速電極から被加工物と同じ材料のサンプルまでの距離と除去量の関係f7を示す線図である。
【図19A】本発明のさらに他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工プログラムを実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成例を示す概念図である。
【図19B】その一部を取り出して例示した拡大斜視図である。
【図20】その作用の一例を示す線図である。
【符号の説明】
【0122】
1 ソース部
2 差動排気部
3 イオン化部
4 ノズル
5 スキマー
6 シャッター
7 フィラメント
8 加速電極
9 ガスクラスターイオンビーム
9a ビーム軸
10 アパーチャー
11 被加工物
11a 段差形状
12 被加工物ホルダー
13 第1XYZステージ
14 回転ステージ
15 部材
16 第2XYZステージ
17 揺動ステージ
18 第3XZステージ
19 ベース
20 姿勢制御装置
21 平面サンプル
22 傾斜台
23 平面サンプル
24 マスク
25 除去量
26 検出イオン電流量測定器
27 検出イオン電流量測定素子
100 制御部
101 制御端末
101a 加工プログラム
101b 記憶部
101c NCプログラム
102 出力部
M ガスクラスターイオンビーム加工装置
Vp 相対走査速度制御プロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、前記被加工物に対する前記ガスクラスターイオンビームの相対走査速度を制御して目標とする品質を得ることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項2】
請求項1記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記相対走査速度と照射ドーズ量との第1の関係を求める第1工程と、
前記被加工物の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量との第2の関係を求める第2工程と、
前記被加工物における目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との第3の関係を求める第3工程と、
前記第1の関係、前記第2の関係および前記第3の関係の少なくとも一つを用いて目標とする前記品質が得られる照射ドーズ量となるように前記ガスクラスターイオンビームの前記被加工物における各照射位置での前記相対走査速度を算出する第4工程と、
算出された前記相対走査速度に基づいて前記被加工物を加工する第5工程と、
を含むことを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
目標とする前記品質が前記被加工物の表面粗さであり、前記品質に影響する前記パラメータが、前記被加工物に対する前記ガスクラスターイオンビームの照射角度であることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
目標とする前記品質が前記被加工物の形状精度であり、前記品質に影響する前記パラメータが、前記被加工物に対する前記ガスクラスターイオンビームの照射角度および前記ガスクラスターイオンビームに照射に伴って発生する前記被加工物の表面の除去量であることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記被加工物における前記ガスクラスターイオンビームの照射範囲における凹凸によって前記ガスクラスターイオンビームの飛程が異なる場合には、前記飛程と前記被加工物の表面の除去量との第4の関係を加味して、目標とする前記品質を得るための前記照射ドーズ量となるように各照射位置での相対走査速度を算出することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項6】
請求項2記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記第4工程においては、前記ガスクラスターイオンビームのビーム強度プロファイルと前記被加工物の除去量との第5の関係から目標の前記品質を得るための前記照射ドーズ量となるように前記被加工物の各照射位置での相対走査速度を補正することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項7】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記被加工物の形状は、平面および曲面を含むことを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項8】
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工装置であって、
前記ガスクラスターイオンビームに対する前記被加工物の姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記被加工物に目標とする品質を得るための照射ドーズ量となるように前記ガスクラスターイオンビームの前記被加工物における各照射位置での相対走査速度を算出する算出手段と、
算出された前記相対走査速度となるように前記姿勢制御装置を動作させる制御手段と、
を含むことを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工装置。
【請求項9】
請求項8記載のガスクラスターイオンビーム加工装置において、
前記相対走査速度と照射ドーズ量との第1の関係、
前記被加工物の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量との第2の関係、
前記被加工物における目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との第3の関係、
前記ガスクラスターイオンビームの飛程と前記被加工物の表面の除去量との第4の関係、
前記ガスクラスターイオンビームのビーム強度プロファイルと前記被加工物の除去量との第5の関係、
の少なくとも一つが設定される記憶手段をさらに備え、
前記算出手段は、前記記憶手段に設定された前記第1から第5の関係の少なくとも一つに基づいて、前記相対走査速度を算出することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工装置。
【請求項10】
被加工物を回転させながらガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工に用いられる数値制御プログラムを作成する加工プログラムであって、
被加工物における目標とする品質の入力を受け付ける第1ステップと、
前記品質が得られる照射ドーズ量となるように前記ガスクラスターイオンビームの前記被加工物における各照射位置での前記相対走査速度を算出する第2ステップと、
前記相対走査速度が実現されるように前記ガスクラスターイオンビームに対する前記被加工物の姿勢を変化させる前記数値制御プログラムを出力する第3ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする加工プログラム。
【請求項11】
請求項10記載の加工プログラムにおいて、
前記第2ステップでは、
前記相対走査速度と照射ドーズ量との第1の関係、
前記被加工物の回転軸から径方向の距離と照射ドーズ量との第2の関係、
前記被加工物における目標とする品質および前記品質に影響するパラメータと照射ドーズ量との第3の関係、
前記ガスクラスターイオンビームの飛程と前記被加工物の表面の除去量との第4の関係、
前記ガスクラスターイオンビームのビーム強度プロファイルと前記被加工物の除去量との第5の関係、
の少なくとも一つに基づいて前記相対走査速度を算出することを特徴とする加工プログラム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−274085(P2009−274085A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125671(P2008−125671)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】