説明

ガスケット

【課題】シール性を損なうことなく放熱性を向上させることができるガスケットを提供する。
【解決手段】ガスケット1は、インナープレート11と、該インナープレート11の表面(上面及び下面)に形成されるコーティング層12とを有している。コーティング層12内部には該コーティング層12の材料(ニトリルゴム)よりも高い熱伝導率を有する添加材13(黒鉛)が添加されている。添加材13は球状をなすものであり、添加材13の粒径dはコーティング層12の厚さt以上とされる。すなわち、添加材13はその一端がコーティング層12の表面に露出するとともに他端がインナープレート11の表面に接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに対向配置される一対のフランジの間に介設されるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載のガスケットがある。特許文献1に記載のガスケットは、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されている。
ガスケットの芯板の表面には樹脂からなるシール膜が設けられている。シリンダブロック及びシリンダヘッドの合わせ面に存在する微視的な凹凸に応じてシール膜が変形することによって、これら合わせ面とガスケットとの間の間隙が埋められることでシール性が維持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1―60074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、こうしたシール膜は当該芯板に比べて熱伝導率が低い材料(例えばニトリルゴム等の樹脂)によって形成されている。そのため、こうしたシール膜の存在に起因してシリンダブロックの熱がシリンダヘッドに伝達されにくくなることから、特にシリンダボアの温度が上昇する一因となっている。その結果、オイル消費量が増大するといった問題や、シリンダボア壁の耐久性が低下するといった問題が生じるおそれがある。また、特に燃焼熱が集中しやすいシリンダボア間の温度が高くなることで、シリンダボアが熱変形するとピストンが往復動する際のフリクションが増大するといった問題が生じるおそれがある。
【0005】
これに対して、例えば樹脂のシール膜に代えて芯板の表面に熱伝導率の高い黒鉛からなるシートを接着することが考えられる。しかしながら、ガスケット表面から黒鉛が剥離しやすく、シール性が損なわれるといった問題が生じる。
【0006】
尚、こうした問題は、内燃機関のガスケットに限られるものではなく、互いに対向配置される一対のフランジの間に介設されるガスケットであれば概ね共通して生じ得るものである。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール性を損なうことなく放熱性を向上させることのできるガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、互いに対向配置される一対のフランジの間に介設されるガスケットであって、芯板と、該芯板の表面に形成されるシール膜とを有するガスケットにおいて、前記シール膜内部には該シール膜の材料よりも高い熱伝導率を有する添加材が添加されるとともに、前記添加材はその一端が前記シール膜の表面に露出するとともに他端が前記芯板の表面に接触してなることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、一対のフランジの間にガスケットが組み付けられると、添加材の一端がフランジ表面に接触するとともに他端がガスケットの芯板表面に接触することとなる。このため、フランジ表面とガスケットの芯板との間での熱の伝達が、シール膜の材料よりも高い熱伝導率を有する添加材によって直接的に行なわれるようになる。従って、シール性を損なうことなくガスケットの放熱性を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガスケットにおいて、前記添加材は略粒状をなすものであり、前記添加材の粒径は前記シール膜の厚さ以上とされてなることをその要旨としている。
【0011】
添加材が略粒状をなすものにあっては、上記構成のように、添加材の粒径をシール膜の厚さ以上とすれば、添加材の一端がシール膜の表面に露出するとともに他端が芯板の表面に接触してなるといった請求項1に係る発明を容易に具現化することができる。
【0012】
ちなみに、添加材としてその粒径がシール膜の厚さよりも極めて小さいものを添加した場合には、熱伝導率の高い添加材が添加されることによってある程度はシール膜全体としての放熱性が高められる。しかしながら、膜厚方向に熱が移動する際に低熱伝導率のシール材と高熱伝導率の添加材とを交互に通過する構造となることから、ガスケット全体としての放熱性を更に向上させようとすると自ずと限界がある。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のガスケットにおいて、前記添加材は、前記一対のフランジ及び芯板よりも低い硬度を有する材料からなり、前記一対のフランジの間に当該ガスケットが組み付けられた状態において変形可能とされてなることをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、一対のフランジの間にガスケットが組み付けられると、添加材はガスケットの芯板とフランジとによって圧縮荷重を受けることで変形するようになる。このため、フランジとガスケットとの間に添加材を配置することに起因して間隙が生じることを抑制することができる。また、一対のフランジ及び芯板に比べて添加材の硬度が低いため、添加材によってフランジや芯板が変形することもない。従って、フランジとガスケットとの間におけるシール性についてもこれを良好に維持することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のガスケットにおいて、前記添加材は黒鉛とされてなることをその要旨としている。
黒鉛は高い熱伝導率を有するとともに圧縮荷重に対して容易に変形する材料であることから、請求項3に記載の発明を好適に具現化することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のガスケットにおいて、前記一対のフランジは内燃機関のシリンダヘッド及びシリンダブロックとされてなることをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間における熱の移動をガスケットを通じて好適に促進することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のガスケットにおいて、前記内燃機関は複数の気筒を有する多気筒内燃機関とされ、前記添加材は当該ガスケットにおけるシリンダボア間に対応する部位にのみ添加されてなることをその要旨としている。
【0018】
複数の気筒を有する多気筒内燃機関にあっては、特に燃焼熱が集中しやすいシリンダボア間の温度が高くなりやすい。そのため、ガスケット表面全体に添加材を添加した場合には、ガスケットの放熱性を全体にわたって高めることはできるものの、シリンダボア間に対応する部位が他の部位に比べて高温となることには変わりがなく、これら部位間での温度差を小さくすることができないおそれがある。
【0019】
この点、上記構成によれば、添加材がガスケットにおけるシリンダボア間に対応する部位にのみ添加されていることから、当該部位の放熱性を高めてシリンダボア間における温度上昇を好適に抑制することができる。また、当該部位以外の部位には添加材が添加されていないことから、上記部位間での温度差についてもこれを好適に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態について、シリンダヘッドガスケットの平面構造を示す平面図。
【図2】シリンダヘッドガスケットの断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のシリンダヘッドガスケットを中心とした断面構造を模式的に示す断面図であって、(a)ガスケットに圧縮加重が作用していない状態を示す断面図、(b)ガスケットに圧縮加重が作用している状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係るガスケットを直列4気筒式ガソリン機関のシリンダヘッドガスケット(以下、単にガスケット1と称する)として具体化した一実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、ガスケット1には機関の4つのシリンダボアにそれぞれ対応して4つのシリンダボア用孔1aが形成されている。
図2に示すように、ガスケット1は、ステンレス鋼により形成されたインナープレート11と、このインナープレート11の両面全体にそれぞれ塗布されるニトリルゴムからなるコーティング層12とを有している。ここで、インナープレート11の厚さは200μmであるのに対し、片側のコーティング層12の厚さtは25μmとされている。
【0023】
また、特に図1において斜線にて示す部位、すなわちガスケット1の孔縁部1bにおいてシリンダボア間に対応する添加部位1cには、図3(a),(b)に併せ示すように、コーティング層12内部に該コーティング層12の材料(ニトリルゴム)の熱伝導率λcよりも高い熱伝導率λfを有する添加材13が添加されている。この添加材13は球状をなす黒鉛(グラファイト)であり、シリンダブロック30及びシリンダヘッド40(いずれもアルミニウム合金)よりも低い硬度を有している。
【0024】
図3(a)に示すように、ガスケット1に圧縮荷重が作用していない状態において、添加材13の粒径dはコーティング層12の厚さt以上とされている(d≧t)。具体的には、添加材13の粒径dは25〜30μmとされており、コーティング層12の厚さt(25μm)の約1.0〜1.2倍とされている。
【0025】
コーティング層12に対する添加材13の添加量を増やしていくと、これに伴ってガスケット1全体としての放熱性が高められる。ただし、ペースト状態であるときのニトリルゴム(コーティング層12)に対して重量比で15%以上の黒鉛(添加材13)を添加してもガスケット1としての放熱性がそれ以上高くならないことが発明者によって実験を通じて確かめられている。従って、本実施形態のガスケット1では、ペースト状態であるときのコーティング層12に対して重量比で15%の添加材13が添加されたものを採用している。
【0026】
次に、本実施形態の作用について説明する。
シリンダブロック30の上面31とシリンダヘッド40の下面41との間にガスケット1が組み付けられると、ガスケット1にはこれらシリンダブロック30及びシリンダヘッド40から圧縮荷重を受けることになる。この場合、図3(b)に示すように、添加材13は上記圧縮荷重を受けることで塑性変形するようになる。これにより、シリンダブロック30側のコーティング層12では添加材13の下端がシリンダブロック30の上面31に接触するとともに上端がインナープレート11の下面に接触することとなる。また、シリンダヘッド40側のコーティング層12では添加材13の上端がシリンダヘッド40の下面41に接触するとともに下端がインナープレート11の上面に接触することとなる。このため、シリンダブロック30の上面31とガスケット1のインナープレート11の下面との間での熱の伝達及びインナープレート11の上面とシリンダヘッド40の下面41との間での熱の移動がそれぞれ添加材13によって直接的に行なわれるようになる。
【0027】
以上説明した本実施形態に係るガスケットによれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)ガスケット1は、インナープレート11と、該インナープレート11の表面(上面及び下面)に形成されるコーティング層12とを有している。コーティング層12内部には該コーティング層12の材料(ニトリルゴム)よりも高い熱伝導率を有する添加材13が添加されている。添加材13は球状をなすものであり、添加材13の粒径dはコーティング層12の厚さt以上とされている。すなわち、添加材13はその一端がコーティング層12の表面に露出するとともに他端がインナープレート11の表面に接触している。
【0028】
こうした構成によれば、シール性を損なうことなくガスケット1の放熱性を向上させることができ、シリンダブロック30の熱をガスケット1を通じて速やかにシリンダヘッド40に伝達することができる。
【0029】
(2)添加材13は、シリンダブロック30及びシリンダヘッド40(いずれもアルミニウム合金)よりも低い硬度を有する材料である黒鉛からなる。
こうした構成によれば、シリンダブロック30の上面31とガスケット1の下面との間、及びシリンダヘッド40の下面41とガスケット1の上面との間に添加材13を配置することに起因して間隙が生じることを抑制することができる。また、シリンダブロック30及びシリンダヘッド40、並びにインナープレート11に比べて添加材13の硬度が低いため、添加材13によってシリンダブロック30の上面31やシリンダヘッド40の下面41が変形することもない。従って、シリンダブロック30或いはシリンダヘッド40とガスケット1との間におけるシール性についてもこれを良好に維持することができる。
【0030】
(3)添加材13はガスケット1におけるシリンダボア間に対応する添加部位1cにのみ添加されている。
多気筒内燃機関にあっては、特に燃焼熱が集中しやすいシリンダボア間の温度が高くなりやすい。そのため、ガスケット表面全体に添加材を添加した場合には、ガスケットの放熱性を全体にわたって高めることはできるものの、シリンダボア間に対応する部位が他の部位に比べて高温となることには変わりがなく、これら部位間での温度差を小さくすることができないおそれがある。
【0031】
この点、上記実施形態によれば、添加材13がガスケット1におけるシリンダボア間に対応する添加部位1cにのみ添加されていることから、当該添加部位1cの放熱性を高めてシリンダボア間における温度上昇を好適に抑制することができる。また、当該添加部位1c以外の部位には添加材13が添加されていないことから、上記部位間での温度差についてもこれを好適に小さくすることができる。
【0032】
尚、本発明に係るガスケットは、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態ではアルミニウム合金製のシリンダブロック30及びシリンダヘッド40について例示したが、これらシリンダブロック及びシリンダヘッドを鋳鉄製のものとしてもよい。
【0033】
・上記実施形態では、コーティング層12に対して重量比で15%の添加材13を添加するようにした。しかしながら、本発明に係る添加材の添加割合は上記割合に限定されるものではない。添加材の好ましい添加割合はコーティング層(シール膜)の材料や添加材の材料によって異なることから、ガスケットに要求される放熱性を加味して適宜設定することが望ましい。
【0034】
・上記実施形態では、シリンダボア間に対応する添加部位1cのみに添加材13が添加されるガスケット1、換言すれば添加部位1c以外の部位には添加材13が添加されないガスケット1について例示した。これに代えて、ガスケットの表面全体に添加材を添加する一方、シリンダボア間に対応する部位から離間するほど添加材の濃度が低くなるように添加材の分布を設定してもよい。こうしたガスケットによれば、ガスケットの温度が低い部位ほど添加材の濃度が低くされることから、ガスケットの各部位間での温度差を的確に小さくすることができる。また、シリンダボア間の温度上昇がそれほど問題にならない場合には、ガスケットの表面全体において添加材の添加濃度を均一に設定してもよい。この場合、ガスケットにシール膜及び添加材を形成することが容易にできる。
【0035】
・上記実施形態では、インナープレート11と、その両面(上面及び下面)に形成されるコーティング層12によってガスケット1が構成されている。しかしながら、本発明に係るガスケットはこのようにガスケット1を1層のみで用いるものに限定されるものではなく、こうしたガスケットを複数枚積層して用いることも可能である。またこの場合には、各ガスケットの間に熱伝導率の高い板材(例えばステンレス鋼等の金属板)を介設することが望ましい。
【0036】
・本発明に係るガスケットはガソリン機関のシリンダヘッドガスケットに限定されるものではない。他に例えばディーゼル機関のシリンダヘッドガスケットに対しても本発明を適用することはできる。また、本発明に係るガスケットはシリンダヘッドガスケットに限定されるものではない。要するに一対のフランジの間に介設されるものであれば、任意のガスケットに対して本発明を適用することが可能である。
【0037】
・上記実施形態では、コーティング層12がニトリルゴムによって形成されるものについて例示した。しかしながら、本発明に係るシール膜の材料はこれに限定されない。すなわち、他のゴム材料を含む樹脂材料を採用することもできる。
【0038】
・上記実施形態では、黒鉛からなる添加材について例示したが、添加材の材料はこれに限定されるものではない。要するにシール膜の材料よりも高い熱伝導率を有するものであればよい。例えば、シール膜が樹脂材料である場合には、炭素の同素体(例えばダイヤモンド)、金属材料(例えば銅、アルミニウム)、セラミック材料(例えば酸化アルミニウム)等を採用すればよい。
【0039】
・添加材の形状は上記実施形態において例示した球状(粒状)に限られるものではない。例えば黒鉛であれば片状黒鉛を採用することもできる。この場合も、添加材の一端がシール膜の表面に露出するとともに他端が芯板の表面に接触する形状を有していればよい。
【符号の説明】
【0040】
1…ガスケット、1a…シリンダボア用孔、1b…孔縁部、1c…添加部、11…インナープレート(芯板)、12…コーティング層(シール膜)、13…添加材、30…シリンダブロック、31…上面、40…シリンダヘッド、41…下面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置される一対のフランジの間に介設されるガスケットであって、芯板と、該芯板の表面に形成されるシール膜とを有するガスケットにおいて、
前記シール膜内部には該シール膜の材料よりも高い熱伝導率を有する添加材が添加されるとともに、前記添加材はその一端が前記シール膜の表面に露出するとともに他端が前記芯板の表面に接触してなる
ことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケットにおいて、
前記添加材は略粒状をなすものであり、
前記添加材の粒径は前記シール膜の厚さ以上とされてなる
ことを特徴とするガスケット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスケットにおいて、
前記添加材は、前記一対のフランジ及び芯板よりも低い硬度を有する材料からなり、前記一対のフランジの間に当該ガスケットが組み付けられた状態において変形可能とされてなる
ことを特徴とするガスケット。
【請求項4】
請求項3に記載のガスケットにおいて、
前記添加材は黒鉛とされてなる
ことを特徴とするガスケット。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のガスケットにおいて、
前記一対のフランジは内燃機関のシリンダヘッド及びシリンダブロックとされてなることをその要旨としている
ことを特徴とするガスケット。
【請求項6】
請求項5に記載のガスケットにおいて、
前記内燃機関は複数の気筒を有する多気筒内燃機関とされ、
前記添加材は当該ガスケットにおけるシリンダボア間に対応する部位にのみ添加されてなる
ことを特徴とするガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−29117(P2013−29117A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163556(P2011−163556)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000228383)日本ガスケット株式会社 (43)
【Fターム(参考)】