説明

ガスセンサ

【課題】簡単な構造で自己診断機能を有するガスセンサを提供する。
【解決手段】2つの電界効果型トランジスタからなり、該2つの電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜24上にゲート電極を設け、該ゲート電極によりガスを検知するガスセンサ30であって、一方の電界効果型トランジスタに設けられた第一ゲート電極5と、他方の電界効果型トランジスタに設けられた第二ゲート電極6と、前記第一ゲート電極5と前記第二ゲート電極6との間を配線により接続して同電位あるいは一定電圧差の直流電圧あるいは交流電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、前記第一ゲート電極5と前記第二ゲート電極6とは、それぞれ異なる金属からなるとともに、一方の電界効果型トランジスタと他方の電界効果型トランジスタの構造を同じにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度を検知するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサとしては,多くの種類が知られている。例えば半導体特性をもつ金属酸化体(SnO)は水素ガスに触れると金属酸化体の酸素が還元されるため、抵抗値が変化する。この抵抗値変化により水素濃度を検出する半導体式の水素センサがある。また、同様の原理を用いたものであり、ヒーターの役割もしている白金線に金属酸化物半導体を焼結して、ブリッジ回路で素子の抵抗値変化をとらえる熱線型半導体式の水素センサもある。これら半導体式や熱線式のガスセンサではバルクな材料を用いているため、量産性が悪く、動作温度としても約300℃以上で動作させる必要があった。
【0003】
また、電気化学的センサとして白金の電極と、ニッケルの電極の間に固体電解質を挟んだ構造とし、水素ガスに接触することによって生じた起電力を測定するセンサが報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、量産性が良く室温近くで動作するものとして、電界効果型トランジスタを使った水素センサが知られている。電界効果型トランジスタの絶縁膜の上にゲート金属として触媒金属のPd(パラジウム)を用いたものが非特許文献1で報告されている。
【0005】
同様に触媒金属としてPt(白金)を用いた水素センサを、本発明者等は非特許文献2において報告した。
【0006】
従来多くのガスセンサは長期的使用にあたり、センサ出力が変化する、すなわちセンサ出力が長期ドリフトしてしまうという問題があった。このため、センサ出力の変化がガスに応答した結果なのか、それとも単にドリフトした結果なのかを判定することが困難であった。また、ガスセンサが故障してまったく応答していなのか、単に検知するガスが存在しないだけなのか判断することが困難であった。このため、定期的にガスセンサを校正する作業が必要であった。この問題を解決するため、本発明者は、ガスに応答しているのかどうかを判断できる信号がとりだせる診断機能を有する電界効果型トランジスタのゲート構造にPd/高分子電解質膜/Ptの三層構造を用いたプロトンポンピングゲートFETを報告した(特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第4048444号公報
【特許文献2】特開2008−145128号公報
【非特許文献1】「Catalytic Metals and Field-effect Devices - a Useful Combination」 J. Lundstrom, A. Spetz, U. Ackelid and Sundgren, Sensors and Actuators, B Vol. 1 (1990) pp. 15-20
【非特許文献2】「A study of fast response characteristics for hydrogen sensing with platinum FET sensor」 K. Tsukada, T. Kiwa, T. Yamaguchi, S. Migitaka, Y. Goto, K. Yokosawa, Sensors and Actuators, B Vol. 114 (2006) pp. 158-163
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガスセンサにおいて自己診断機能は長期的なメンテナンスを不要とするものであり、ガスセンサを広く普及するために必須な機能として求められている。しかし、本発明者が特許文献2にて報告したガスセンサであるプロトンポンピングゲートFETでは、ゲート構造として3層(Pd/高分子電解質膜/Pt)の構造をパターンニングする必要があり、製造プロセスとして複雑であった。
【0008】
また、従来のガスセンサにおいては、急激な温度変化や、環境電磁雑音などの外乱要因によってガスセンサの出力が変化した場合について判断することが困難であった。
【0009】
このため、より簡単なセンサ構造で、自己診断機能を有するガスセンサの構成が求められていた。
【0010】
そこで、本発明は、簡単な構造で自己診断機能を有するガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第一の形態は、2つの電界効果型トランジスタからなり、該2つの電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜上にゲート電極を設け、該ゲート電極によりガスを検知するガスセンサであって、
一方の電界効果型トランジスタに設けられた第一ゲート電極と、
他方の電界効果型トランジスタに設けられた第二ゲート電極と、
前記第一ゲート電極と前記第二ゲート電極との間を配線により接続して同電位あるいは一定電圧差の直流電圧あるいは交流電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、
前記第一ゲート電極と前記第二ゲート電極とは、それぞれ異なる金属からなるとともに、一方の電界効果型トランジスタと他方の電界効果型トランジスタの構造が同じであるガスセンサである。
【0012】
本発明の第2の形態は、前記第一ゲート電極として触媒金属を、前記第二ゲート電極として非触媒金属を用いたガスセンサである。
【0013】
本発明の第3の形態は、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測するガスセンサである。
【0014】
本発明の第4の形態は、前記2つの電界効果型トランジスタに変調信号を入力して、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測するガスセンサである。
【0015】
本発明の第5の形態は、前記2つの電界効果型トランジスタを1つのSi基板上に集積化したガスセンサである。
【0016】
本発明の第6の形態は、前記2つの電界効果型トランジスタの前記各ゲート電極上に共通のイオン導伝性膜を形成したガスセンサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第一の形態によれば、2つの電界効果型トランジスタのゲート金属材料が異なる構成であるため、ガスに対する応答特性が異なる。この応答特性の違いを利用して目的対象のガスを測定することができる。また、従来の1つの電界効果型トランジスタを用いたガスセンサにおいても、ゲート金属が測定対象のガスと反応して、ゲート金属の仕事関数が変化してガス応答していた。しかし、この従来のガスセンサのように1つのセンサを使用する場合、電界効果型トランジスタの特性が長期的に変化した場合、センサ出力がドリフトする問題があった。一方、ゲート金属の材料だけが異なる電界効果型トランジスタを2つ用いるとともに、両者のゲート電極は独立に構成するのではなく、両者のゲート電極間に配線を接続して電圧印加手段により一定の電圧を印加することで、ガスセンサを構成する2つの電界効果型トランジスタを同じ動作条件にすることができる。これにより、ガスセンサを長期的に使用した場合でも両者は同じ環境で使用されるとともに、2つの電界効果型トランジスタの構造(センサ構造)は同じなので特性変化も同様に起こる。また電磁雑音や温度変化などの外乱も両者に共通に入る。このため、両者の信号を計測したのち所定の処理をすることにより特性変化や外乱による出力変化を消去することが可能となる。
【0018】
本発明の第2の形態によれば、一方の電界効果型トランジスタのゲート電極として、触媒金属を用いることにより、測定対象として水素に選択的に応答することができる。また、他方の電界効果型トランジスタのゲート電極に非触媒金属を用いたので水素にほとんど応答しない特性が得られる。この2つの電界効果型トランジスタを組み合わせることにより、触媒金属を用いた電界効果型トランジスタの水素応答特性を劣化させることなく、長期的特性変化や温度変化や環境電磁雑音などの外乱を補償する診断機能を有するガスセンサを実現できる。
【0019】
本発明の第3の形態によれば、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することにより、両方の電界効果型トランジスタに生じる長期的特性変化や温度変化や環境電磁雑音などの外乱をキャンセルすることができる。
【0020】
本発明の第4の形態によれば、前記2つの電界効果型トランジスタに変調信号を入力して、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することにより、ガスセンサが動作不良になった際に、故障信号が発生するので、ガスセンサの故障の有無を判断することができ、ガスセンサ自体に自己診断機能を具備させることができる。
【0021】
本発明の第5の形態によれば、前記2つの電界効果型トランジスタを一つのSi基板上に集積化したことにより、特性をそろえることができるので、より精度の高い診断機能を実現できる。
【0022】
本発明の第6の形態によれば、前記2つの電界効果型トランジスタの各ゲート電極上に共通のイオン導伝性膜を形成したことにより、ゲート電極を測定対象ガスにさらした場合に、ガスとゲート電極での反応をイオン導伝性膜を介在させて行わせることにより、反応を安定化できるとともにガスの選択性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態である2つの電界効果型トランジスタからなるガスセンサの基本構造を示す概略断面図である。この図1に示すガスセンサ30は、異なる金属材料を2つの電界効果型トランジスタのゲート電極としてそれぞれ用いて、一つのSi基板1上に集積化した電界効果型ガスセンサである。すなわち、ガスセンサ30は、Si基板1上に設けられた2つのn型チャンネル電界効果型トランジスタにより形成されている。
一方の電界効果型トランジスタである触媒金属ゲート電界効果型トランジスタ25(以下、触媒金属ゲート型トランジスタという)には、第一ゲート電極としてPtゲート電極5が形成されている。触媒金属ゲート型トランジスタ25は、第一ゲート電極のゲート電極材料が、触媒金属の一例であるPt(白金)であることにより水素に応答するガスセンサとなっている。水素がPt(白金)に触れると水素イオン(プロトン)と電子に解離して、水素イオンがPt(白金)に吸着する。このため、Pt(白金)の仕事関数が変化することになる。また、この解離反応は水素濃度に依存するため、仕事関数もまた水素濃度依存性をもつことになる。仕事関数の変化は電界効果型トランジスタの動作点を変えるので、触媒金属ゲート型トランジスタ25は水素応答できることになる。また、触媒金属ゲート型トランジスタ25には、Si基板1に形成されたp型ウェル領域であるp−well4−1を備えており、該p−well4−1に埋設されたドレイン2−1とソース3−1との間にチャンネルが形成されていて、その上にはゲート絶縁膜24が形成されている。このゲート絶縁膜24は、SiO膜10およびその上にSi膜11の絶縁材料からなる2層構造となっている。このゲート絶縁膜24の上には前記Ptゲート電極5が形成されている。さらに、Ptゲート電極5には一定の電圧をかけるためのゲート配線9−1が接続されている。また、ドレイン2−1の上端部には、ドレイン配線7−1が接続されており、ソース3−1の上端部には、ソース配線8−1が接続されている。
また、Ptゲート電極5は、ゲート電極としてPt(白金)を使っているので、水素イオンと水素ガスとの間で解離平衡反応が起こり、白金の仕事関数が変化する。この仕事関数の変化は水素濃度に関係するので、前述したPtゲート電極5を具備する触媒金属ゲート型トランジスタ25は水素濃度を検出することができる。
【0025】
また、他方の電界効果型トランジスタである非触媒金属ゲート電界効果型トランジスタ26(以下、非触媒金属ゲート型トランジスタという)には、第二ゲート電極としてTiゲート電極6が形成されている。非触媒金属ゲート型トランジスタ26は、第二ゲート電極のゲート電極材料が、非触媒金属の一例であるTi(チタン)であることにより水素にほとんど応答を示さないガスセンサとして機能する。また、非触媒金属ゲート型トランジスタ26には、Si基板1に形成されたp型ウェル領域であるp−well4−2を備えており、該p−well4−2に埋設されたドレイン2−2とソース3−2の間にチャンネルが形成されていて、その上にはゲート絶縁膜24が形成されている。このゲート絶縁膜24は、SiO膜10およびその上にSi膜11の絶縁材料からなる2層構造となっている。このゲート絶縁膜24の上には前記Tiゲート電極6が形成されている。さらに、Tiゲート電極6には一定の電圧をかけるためのゲート配線9−2が接続されている。さらに、ドレイン2−2の上端部には、ドレイン配線7−2が接続されており、ソース3−2の上端部には、ソース配線8−2が接続されている。
また、Tiゲート電極6は、ゲート電極としてTi(チタン)を使っているので、水素イオンと水素ガスとの間で解離平衡反応が起こらず、つまり、水素に対して解離応答は生じない。
【0026】
このように、上述した触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26とは、同じ素子構造を有しているが、ゲート電極材料のみが異なる構成となっていることを特徴としている。
つまり、図1に示したガスセンサ30は、水素に対して解離応答を生じる触媒金属であるPtをゲート電極とした触媒金属ゲート型トランジスタ25と、水素に対して解離応答を生じないTiをゲート電極とした非触媒金属ゲート型トランジスタ26とをSi基板1上に集積化して、Ptゲート電極5とTiゲート電極6とを配線により接続して、Ptゲート電極5とTiゲート電極6の各々に対して同じ電圧をかけることができるように構成されている。
なお、触媒金属としては、例えば、白金、パラジウムあるいはこれらを主成分とする合金等を用いることが可能である。また、非触媒金属としては、例えば、チタン、ニッケル、アルミニウム等用いることが可能である。
【0027】
図2は、図1に示す2つの電界効果型トランジスタからなるガスセンサのガス計測回路を示す図である。図2に示すように、ガスセンサ30のガス計測回路においては、Ptゲート電極5に接続されたゲート配線9−1とTiゲート電極6に接続されたゲート配線9−2とを直接接続してグランドしている。また、Ptゲート電極5とTiゲート電極6とをそれぞれ具備する触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26とは、電界効果型トランジスタを用いたガス計測回路において一般に使われるドレイン・ソース間の電圧と電流を一定にしてソースの電圧を出力するボルテージフォロワー回路20−1とボルテージフォロワー回路20−2にそれぞれ接続されている。さらに、ボルテージフォロワー回路20−1とボルテージフォロワー回路20−2は、一つの差動アンプ21に接続されており、ボルテージフォロワー回路20−1とボルテージフォロワー回路20−2のそれぞれの出力が差動アンプ21に入力されて、触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26との出力の差(差動出力)を取得することが可能である。このような回路構成により、触媒金属ゲート型トランジスタ25によって水素ガスを検知しつつ、非触媒金属ゲート型トランジスタ26によって水素ガス濃度がゼロとなるベースラインを取得して、2つの電界効果型トランジスタからなるガスセンサ30において長期ドリフトや、温度や環境電磁雑音などが発生しても、検知される水素ガス濃度の精度を補償することが可能となっている。電界効果型トランジスタの電流電圧特性は、キャリアの移動度など温度係数があるため、電流電圧特性が温度によって変化する。しかし、本構成では同じ素子構造を持つ電界効果型トランジスタを2つ設けて、両者の差動を取っているので、温度変化によって電流電圧特性が変化しても常に差動した出力は温度変化に影響されない一定の電圧出力となる。同様に、環境の電磁雑音の影響に関しても、2つの電界効果型トランジスタが近接して配置されているので、両方の電界効果型トランジスタに環境電磁雑音は同時にしかも同量で入ってくる。従って、差動を取ることにより、環境電磁雑音を完全に消しさることが可能である。従来のひとつの電界効果型トランジスタを用いる方法では、外乱がそのまま出力変化として発生していたので、本当に水素に応答しているのか、それとも単に長期ドリフトか、温度や環境電磁雑音等の影響なのか判断できなかった。本発明の構成により、これらの外乱の影響を受けずに真の水素応答を得ることが可能となった。
【0028】
図3は、図2におけるガス計測回路のゲート電極間に一定の電圧差を印加するための電圧印加手段である電圧源22を配設したものである。前述したように2つの電界効果型トランジスタである触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26は同じ素子構造を有しているので電気的特性は同じであるが、唯一異なる部分であるゲート電極を構成するゲート金属材料が違うため触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26とのそれぞれのしきい値電圧(Vt)が異なってくる。このため、このしきい値電圧の差を電圧源22で補償することにより、2つの電界効果型トランジスタの動作点をまったく同じにすることができる。
【0029】
図4は、図3におけるガス計測回路構成を有するをガスセンサ30のそれぞれのPtゲート電極5及びTiゲート電極6に印加した電圧に対する水素ガス応答を調べたものである。すなわち、図4はガスセンサ30の水素濃度に対するセンサ出力変化を表したものである。図4において、横軸は時間(秒)であり、縦軸はセンサ出力(mV)であり、一定の時間間隔(60秒間隔)で水素濃度を0%から10%の間で切り替えつつ窒素ガス中に水素ガスを流すことでガスセンサ30の水素応答性を調べた結果である。具体的には、触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26のそれぞれが出力値(電圧値)として検知するガス濃度の違いについてそれぞれ1桁濃度を段階的に変化させて調べた(0ppm→10ppm→100ppm→0.1%→1%→10%→1%→0.1%)。しきい値電圧(Vt)の違いを電圧源22で調整することにより水素が0%の時でガスセンサ30の出力を零にすることができる。図4には差動アンプ21の入力部でのPtゲート電極5を有する触媒金属ゲート型トランジスタ25の出力(図4に矢印で示すPtゲート)と、Tiゲート電極6を有する非触媒金属ゲート型トランジスタ26の出力(図4に矢印で示すTiゲート)と、差動アンプ21の出力である両者の差(図4に矢印で示す出力差)を示している。すなわち、Ptゲート電極5を有する触媒金属ゲート型トランジスタ25は、水素濃度に応じた出力をしているが、Tiゲート電極6を有する非触媒金属ゲート型トランジスタ26の出力は水素濃度に対してまったく変化していないので差動アンプ21の出力はPtゲート電極5を有する触媒金属ゲート型トランジスタ25の出力とほとんど同一の信号になっている。ここで、例えば、触媒金属ゲート型トランジスタ25の電圧出力がΔV1だけドリフトや外乱によって変化した場合でも、ほとんどの場合非触媒金属ゲート型トランジスタ26に発生した電圧出力変化ΔV2との関係はΔV1=ΔV2と、両者のトランジスタの電圧出力の変化量が同じであるので、差動アンプ21により差動(出力差)を計測することで、これらの変動分は補償できる。つまり、触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26を同時動作させて水素ガスを検知するようにしたことで、温度変化によるセンサの特性変動や外乱電磁雑音などの変動要因は2つの電界効果型トランジスタに同様にかかるので、その差動(出力差)をとることにより、上記変動分をキャンセルすることが可能であり、ガスセンサ30は、長期ドリフトや外乱雑音に影響されずに水素ガス濃度を正確に測定できる。
【実施例2】
【0030】
図5は、図3におけるガス計測回路に電圧印加手段である交流電源23を追加したものであり、この交流電源23により2つの電界効果型トランジスタである触媒金属ゲート型トランジスタ25と非触媒金属ゲート型トランジスタ26に共通に交流電圧ΔACが印加される。この交流電圧信号は、2つの電界効果型トランジスタが正常に動作している際は、両者の出力の交流成分であるΔAC1とΔAC2ではΔAC1=ΔAC2=ΔACとならなければならない。このため、差動アンプ21の出力差としてはこの交流電圧信号は完全になくなる。しかし、2つの電界効果型トランジスタのどちらかが故障すると、故障した電界効果型トランジスタの出力には交流電圧の信号がまったく現れなくなるか、大きさが違って出力されΔAC1≠ΔAC2となる。したがって、差動アンプ21には、交流信号が発生することになるのでこの交流信号を検知することにより、どちらかの電界効果型トランジスタが故障しているのを診断することができる。つまり、2つの電界効果型トランジスタのゲート電極であるPtゲート電極5及びTiゲート電極6に所定の変調信号を入力して、差動出力からガスセンサ30の故障を判断することも可能となる。
【0031】
このように、2つの電界効果型トランジスタからなり、該2つの電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜上にゲート電極を設け、該ゲート電極によりガスを検知するガスセンサ30であって、一方の電界効果型トランジスタである触媒金属ゲート型トランジスタ25に設けられた第一ゲート電極であるPtゲート電極5と、他方の電界効果型トランジスタである非触媒金属ゲート型トランジスタ26に設けられた第二ゲート電極であるTiゲート電極6と、前記Ptゲート電極5と前記Tiゲート電極6との間を配線により接続して同電位あるいは一定電圧差の直流電圧あるいは交流電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、前記Ptゲート電極5と前記Tiゲート電極6とは、それぞれ異なる金属からなるとともに、一方の電界効果型トランジスタである触媒金属ゲート型トランジスタ25と他方の電界効果型トランジスタである非触媒金属ゲート型トランジスタ26の構造が同じであることにより、2つの電界効果型トランジスタのゲート金属材料が異なる構成であるため、ガスに対する応答特性が異なる。この応答特性の違いを利用して目的対象のガスを測定することができる。また、従来の1つの電界効果型トランジスタを用いたガスセンサにおいても、ゲート金属が測定対象のガスと反応して、ゲート金属の仕事関数が変化してガス応答していた。しかし、この従来のガスセンサのようにひとつのセンサを使用する場合、電界効果型トランジスタの特性が長期的に変化した場合、センサ出力がドリフトする問題があった。一方、ゲート金属の材料だけ異なる電界効果型トランジスタを2つ用いるとともに、両者のゲート電極は独立に構成するのではなく、両者のゲート電極間に配線を通して電圧印加手段により一定の電圧を印加することで、ガスセンサを構成する2つの電界効果型トランジスタを同じ動作条件にすることができる。これにより、長期的に使用した場合でも両者は同じ環境で使用されるとともに、2つの電界効果型トランジスタ(センサ構造)は同じなので特性変化も同様に起こる。また電磁雑音や温度変化など外乱も両者に共通に入る。このため、両者の信号を計測したのち所定の処理をすることにより特性変化や外乱による出力変化を消去することが可能となる。
【0032】
また、前記第一ゲート電極として触媒金属を、前記第二ゲート電極として非触媒金属を用いたことにより、一方の電界効果型トランジスタのゲート電極として、触媒金属を用いることにより、測定対象として水素に選択的に応答することができる。また、他方の電界効果型トランジスタのゲート電極に非触媒金属を用いたので水素にほとんど応答しない特性が得られる。この2つの電界効果型トランジスタを組み合わせることにより、触媒金属を用いた電界効果型トランジスタの水素応答特性を劣化させることなく、機能として長期的特性変化や温度変化や環境電磁雑音などの外乱を補償する診断機能を有するガスセンサを実現できる。
【0033】
また、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することにより、両方の電界効果型トランジスタに生じる長期的特性変化や温度変化や環境電磁雑音などの外乱をキャンセルすることができる。
【0034】
また、前記2つの電界効果型トランジスタに変調信号を入力して、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することにより、ガスセンサが動作不良になった際に、故障信号が発生し、ガスセンサの故障の有無を判断することができる。ガスセンサ自体に自己診断機能を具備させることができる。
【0035】
また、前記2つの電界効果型トランジスタを1つのSi基板上に集積化したことにより、2つの電界効果型トランジスタの特性をそろえることができるので、より精度の高い診断機能を実現できる。
【実施例3】
【0036】
図6は、本発明に係る2つの電界効果型トランジスタで構成されるガスセンサ30のゲート電極上に共通のイオン導伝性膜を形成したセンサチップ平面の基本構成を示す概略図である。ガスセンサ30と外部計測回路(図示せず)を接続するため、ガスセンサ30のチップの周辺には触媒金属ゲート型トランジスタ25のドレイン用電極パッド27、ソース用電極パッド28、及びゲート配線用電極パッド29、そして、非触媒金属ゲート型トランジスタ26のドレイン用電極パッド31、ソース用電極パッド32、及びゲート配線用電極パッド33が設けられている。Ptゲート電極5上とTiゲート電極6上には、Ptゲート電極5とTiゲート電極6との両方を覆うようにして、共通のイオン導伝性膜12が形成されている。このイオン導伝性膜12としては、本実施例においてはプロトン導電性のあるパーフルオロ型イオン交換膜を用いた。このプロトン導電性のあるパーフルオロ型イオン交換膜においては、プロトンイオンを選択的に透過させることが可能であり、プロトンイオンがイオン導伝性膜12の下部のゲート電極まで移動することが可能である。このような高分子電解質のイオン導伝性膜12を用いることにより、ゲート電極上における水素ガスとの反応を安定化させるとともに、選択性の高い水素ガスセンサが実現できる。
なお、上述したような高分子電解質の他、リン酸電解質など水素イオンを透過する膜を用いた場合においても、選択性の高い水素センサを実現することが可能である。
【0037】
このように、前記2つの電界効果型トランジスタの各ゲート電極であるPtゲート電極5とTiゲート電極の上に共通のイオン導伝性膜12を形成したことにより、ガスと電極での反応を、イオン導伝性膜を介在させることにより、反応を安定化できるとともにガスの選択性を高めることが可能となった。
【0038】
本発明は、センサ構造としてゲート金属材料だけが異なる電界効果型トランジスタを二つ用いて、一方は水素に対して触媒機能を示す金属を用いて水素応答する電界効果型トランジスタセンサと、触媒機能を示さないため水素に応答しない電界効果型トランジスタセンサを組み合わせて差動をとることを特徴とするガスセンサ30である。これにより、電界効果型トランジスタセンサの長期ドリフトを補償することができるとともに、環境の温度変化や外乱電磁雑音などの影響を受けないガスセンサ30を実現した。また、二つの電界効果型トランジスタのそれぞれのゲート電極に変調信号を入力することにより、電界効果型トランジスタが動作不良になったとき、故障信号が発生するので、ガスセンサの自己診断機能が可能となった。
【0039】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例・設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ガス濃度を測定するガスセンサに関する。上記ガスセンサは特に水素応答における選択性と応答速度に優れているので、水素センサとして使用することができる。ガス生成プラントや、水素ガスステーション、水素自動車や家庭、ビルなどに設置された燃料電池システムからのガス漏れ検知装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態であるガスセンサの基本構造を示す概略断面図である。
【図2】ガスセンサのガス計測回路を示す概略図である。
【図3】図2におけるガス計測回路のゲート配線間に電圧源を配設した回路構成を示す概略図である。
【図4】ガスセンサのゲート電極に印加する電圧に対する水素ガス応答のグラフを示す図である。
【図5】図3におけるガス計測回路においてゲート配線間に電圧源を追加した回路構成を示す概略図である。
【図6】2つの電界効果型トランジスタのゲート電極上に共通のイオン導伝性膜を形成したガスセンサの基本構成を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 Si基板
2−1 ドレイン
2−2 ドレイン
3−1 ソース
3−2 ソース
4−1 p−well
4−2 p−well
5 Ptゲート電極
6 Tiゲート電極
7−1 ドレイン配線
7−2 ドレイン配線
8−1 ソース配線
8−2 ソース配線
9−1 ゲート配線
9−2 ゲート配線
10 SiO
11 Si
12 イオン導伝性膜
20−1 ボルテージフォロワー回路
20−2 ボルテージフォロワー回路
21 差動アンプ
22 電圧源
23 交流電圧源
24 ゲート絶縁膜
25 触媒金属ゲート型トランジスタ
26 非触媒金属ゲート型トランジスタ
30 ガスセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電界効果型トランジスタからなり、該2つの電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜上にゲート電極を設け、該ゲート電極によりガスを検知するガスセンサであって、
一方の電界効果型トランジスタに設けられた第一ゲート電極と、
他方の電界効果型トランジスタに設けられた第二ゲート電極と、
前記第一ゲート電極と前記第二ゲート電極との間を配線により接続して同電位あるいは一定電圧差の直流電圧あるいは交流電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、
前記第一ゲート電極と前記第二ゲート電極とは、それぞれ異なる金属からなるとともに、一方の電界効果型トランジスタと他方の電界効果型トランジスタの構造が同じであることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記第一ゲート電極として触媒金属を、前記第二ゲート電極として非触媒金属を用いたことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記2つの電界効果型トランジスタに変調信号を入力して、前記2つの電界効果型トランジスタの出力の差を計測することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記2つの電界効果型トランジスタを1つのSi基板上に集積化したことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記2つの電界効果型トランジスタの前記各ゲート電極上に共通のイオン導伝性膜を形成したことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−66234(P2010−66234A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235414(P2008−235414)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【特許番号】特許第4296356号(P4296356)
【特許公報発行日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業「自己診断機能付き車載用水素センサとガス多項目化の研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】