説明

ガスタンクとこれを備えるガス利用装置

【課題】ガス貯蔵時に高圧用のコンプレッサを用いることを不要にし、重量を大幅に小さくできる宇宙空間で用いられるガスタンクを提供する。
【解決手段】ガスタンク10は、ガス発生装置15とガス消費装置17に接続され、ガス発生装置15で発生したガスが内部に供給されて該ガスを貯蔵し、貯蔵ガスをガス消費装置17へ排出可能である。ガスタンク10は、変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっており、これにより、ガス発生装置15からガスが内部に供給されることで膨らみ、貯蔵ガスがガス消費装置17へ排出されることで萎むようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間で用いられるガスタンクと、これを備えるガス利用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の再生型燃料電池において、水を電気分解して発生した水素ガス/酸素ガスを図3のように高圧ガスタンク45に貯蔵していた。その際に、発生した水素ガス/酸素ガスを、高圧用のコンプレッサ47で高圧(例えば6気圧以上)に昇圧していた。または、代わりに、発生した水素ガス、酸素ガスを冷却液化して貯蔵していた。なお、再生型燃料電池は、例えば下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平11−354133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来では、図3のように、発生したガスを液化せずに貯蔵するためには、高圧ガスタンク45と高圧用のコンプレッサ47が必要とされる。金属製の高圧ガスタンク45と高圧用のコンプレッサ47は、重量が大きいため、これらを宇宙空間へ打ち上げる場合には、これらを軽量化することが望まれる。また、高圧用のコンプレッサ47は運転の消費電力も大きいが、特に宇宙空間でコンプレッサを使用する場合には、消費電力が小さいことが望まれる。
【0004】
一方、発生したガスを冷却液化して貯蔵するためには、発生したガスを液化するための冷却装置と、液化ガスを貯蔵する液化ガス貯蔵タンクが必要とされる。冷却装置と金属製の液化ガス貯蔵タンクは、重量が大きいため、これらを宇宙空間へ打ち上げる場合には、これらを軽量化することが望まれる。また、冷却装置は運転の消費電力も大きくなる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、所定のガスを気体の状態で貯蔵するガスタンクであって、上述の高圧用のコンプレッサを不要にし、重量を大幅に小さくできるガスタンクを提供することにある。
また、本発明の目的は、このガスタンクを備えるガス利用装置であって、重量および消費電力を大幅に低減できるガス利用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によると、宇宙空間で用いられるガスタンクであって、
所定のガス発生装置とガス消費装置に接続され、該ガス発生装置で発生したガスが内部に供給されて該ガスを貯蔵し、貯蔵している前記ガスを前記ガス消費装置へ排出可能であり、
変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっており、これにより、前記ガス発生装置から前記ガスが内部に供給されることで膨らみ、貯蔵している前記ガスが前記ガス消費装置へ排出されることで萎むようになっている、ことを特徴とするガスタンクが提供される。
【0007】
上述の本発明のガスタンクは、変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっているので、ガスタンク自体の重量を大幅に小さくできる。
また、ガスタンクにガスを貯蔵させる場合、ガスタンクはガスが供給されることで膨らむようになっているので、高圧にしなくてもガスをガスタンクへ供給してガスタンクに貯蔵させることができる。前記ガス発生装置からのガスの圧力が低い場合には、低圧用のコンプレッサでガスを加圧してガスタンクに貯蔵させることができる。従って、高圧用のコンプレッサを使用して高圧ガスにすることなくガスを貯蔵できる。なお、本発明のガスタンクは、従来の金属製高圧ガスタンクと同じ体積のガスを貯蔵する場合には、膨らんだ時の体積を従来の金属製高圧ガスタンクと比較して大きくすることになるが、宇宙空間では空間的な制約が小さいので、ほとんど問題とならない。即ち、宇宙空間で使用するガスタンクは、その寸法を小さくすることよりも軽量化することのほうが望ましい。ただし、打ち上げ時におけるスペースの制約が大きい場合には、打ち上げ時にガスタンクを萎んだ状態にしておけば、その寸法を小さくすることが可能になる。
【0008】
好ましくは、前記フィルム材料は繊維で補強されている。
【0009】
このように、前記フィルム材料は繊維で補強されているので、フィルム材料で形成されたガスタンクの強度を向上させることができる。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、
上述のガスタンクと、
前記ガスを発生させて前記ガスタンクに供給する前記ガス発生装置と、
前記ガスタンクから前記ガスが供給されて前記ガスを使用する前記ガス消費装置と、を備えることを特徴とするガス利用装置が提供される。本発明の好ましい実施形態によると、前記ガス利用装置は、前記ガス発生装置からの前記ガスを昇圧して前記ガスタンクに送出するコンプレッサを備える。
【0011】
本発明のガス利用装置は上述のガスタンクを備えているので、次のようにガス利用装置を大幅に軽量化することができる。まず、ガスタンクは変形可能な薄いフィルム材料で形成されているので、ガスタンク自体の重量が大幅に小さくなる。しかも、ガスタンクにガスを貯蔵させる場合、ガスタンクは所定のガスが供給されることで膨らむようになっているので、ガスタンクへのガスを加圧するコンプレッサが不要になるか、または、上述のように前記ガス発生装置からのガスの圧力が低い場合には、低圧用のコンプレッサでガスを加圧してガスタンクに貯蔵させることができる。この低圧用のコンプレッサは、上述の高圧用のコンプレッサや冷却装置よりも重量が小さい。従って、ガス利用装置全体の重量を大幅に軽量化することができ、ガス利用装置を宇宙空間へ打ち上げるために使用するエネルギを低減できる。このように、本発明のガス利用装置は、重量の制約が大きい打ち上げに有利である。
また、低圧用のコンプレッサは、上述の高圧用のコンプレッサや冷却装置よりも消費電力も小さくなる。従って、本発明のガス利用装置は、消費電力の制約が大きい宇宙空間での使用に有利である。
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記ガス利用装置は、前記ガスタンクからの前記ガスを昇圧して前記ガス消費装置へ供給するコンプレッサを備える。
【0013】
ガス消費装置が高圧ガスを要求する場合には、前記ガスタンクからの前記ガスをコンプレッサで昇圧して前記ガス消費装置へ供給する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によると、前記ガス発生装置と前記ガス消費装置とは同じ装置としての再生型燃料電池であり、
前記再生型燃料電池は、太陽光で発電した電気エネルギで水を電気分解することで水素ガスと酸素ガスを発生させ、
前記ガスタンクは2つ設けられ、一方は前記水素ガスを貯蔵し、他方は前記酸素ガスを貯蔵し、
前記再生型燃料電池は、さらに、2つの前記ガスタンクからそれぞれ供給される前記水素ガスと酸素ガスを用いて電気エネルギと水を発生させる。
【0015】
このように、本発明のガス利用装置は、宇宙空間(例えば月面)で使用する再生型燃料電池に適用可能である。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によると、所定のガス発生装置で発生したガスをガスタンクで貯蔵する場合に、高圧用のコンプレッサを不要できるとともに、ガスタンクの重量を大幅に小さくできる。また、本発明のガス利用装置は、重量も消費電力も小さいので、宇宙空間での使用において有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明のガスタンク10が適用されたガス利用装置20を示す図である。図1のガスタンク10は、宇宙空間で用いられるものである。図1に示すように、本実施形態によるガスタンク10は、ガスライン3(ガス送給管)により所定のガス発生装置15と接続されるとともに、ガスライン5(ガス送給管)により所定のガス消費装置17と接続される。
【0019】
本実施形態によると、ガスタンク10は、変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっている。即ち、ガスタンク10は、例えば樹脂で形成され、厚みの薄い袋体となっている。この構成により、ガスタンク10は、ガス発生装置15から前記ガスが内部に供給されることで膨らみ、貯蔵している前記ガスがガス消費装置17へ排出されることで萎むようになっている。好ましくは、フィルム材料は繊維で補強されている。例えば、フィルム材料(袋体)である樹脂内に所定の密度で繊維が配置されている。
【0020】
図1のガス利用装置20は、上述のガスタンク10、ガス発生装置15、ガス消費装置17、低圧用のコンプレッサ19、コンプレッサ21と、を備える。ガス発生装置15は、所定のガスを発生させてガスタンク10に供給するものであり、ガス消費装置17は、ガスタンク10から前記ガスが供給されて前記ガスを使用するものである。低圧用のコンプレッサ19は、ガス発生装置15で発生したガスを昇圧してガスタンク10へ供給する。ガスタンク10内の圧力は、例えば1気圧程度の低圧であってよいので、低圧用のコンプレッサ19は、この程度の圧力に昇圧する能力を有するものであってよい。ただし、ガス発生装置15で発生するガスの圧力が低くない場合には、低圧用のコンプレッサ19を省略してよい。
また、ガス消費装置17が高圧ガスを要求する場合には、ガスタンク10からの前記ガスをコンプレッサ21で昇圧してガス消費装置17へ供給する。
【0021】
なお、符号31、33は開閉弁を示す。開閉弁31、33は、電気信号が入力されることで開閉する電磁弁であってよい。
【0022】
本実施形態によると、ガスタンク10は、変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっているので、ガスタンク10自体の重量を大幅に小さくできる。また、ガスタンク10にガスを貯蔵させる場合、ガスタンク10はガスが供給されることで膨らむようになっているので、高圧にしなくてもガスをガスタンク10へ供給してガスタンク10に貯蔵させることができる。ガス発生装置15からのガスの圧力が低い場合には、低圧用のコンプレッサ19でガスを加圧してガスタンク10に貯蔵させることができる。従って、高圧用のコンプレッサを使用して高圧ガスにすることなくガスを貯蔵できる。なお、本実施形態のガスタンク10は、従来の金属製高圧ガスタンクと同じ体積のガスを貯蔵する場合には、膨らんだ時の体積を従来の金属製高圧ガスタンクと比較して大きくすることになるが、宇宙空間では空間的な制約が小さいので、ほとんど問題とならない。即ち、宇宙空間で使用するガスタンクは、その寸法を小さくすることよりも軽量化することのほうが望ましい。ただし、打ち上げ時におけるスペースの制約が大きい場合には、打ち上げ時にガスタンク10を萎んだ状態にしておけば、その寸法を小さくすることが可能になる。
また、フィルム材料は繊維で補強されているので、フィルム材料で形成されたガスタンク10の強度を向上させることができる。
【0023】
さらに、本実施形態によると、ガス利用装置20も大幅に軽量化することができる。まず、ガスタンク10は変形可能な薄いフィルム材料で形成されているので、ガスタンク10自体の重量が大幅に小さくなる。しかも、ガスタンク10にガスを貯蔵させる場合、ガスタンク10はガスが供給されることで膨らむようになっているので、ガスタンク10へのガスを加圧するコンプレッサが不要になるか、または、上述のようにガス発生装置15からのガスの圧力が低い場合には、低圧用のコンプレッサ31でガスを加圧してガスタンク10に貯蔵させることができる。この低圧用のコンプレッサ19は、従来の高圧用のコンプレッサや冷却装置よりも重量が小さい。従って、ガス利用装置20全体の重量を大幅に軽量化することができ、ガス利用装置20を宇宙空間へ打ち上げるために使用するエネルギを低減できる。このように、本実施形態のガス利用装置20は、重量の制約が大きい打ち上げに有利である。
また、低圧用のコンプレッサ19は、高圧用のコンプレッサや冷却装置よりも消費電力も小さくなる。従って、本発明のガス利用装置20は、消費電力の制約が大きい宇宙空間での使用に有利である。
【0024】
図2は、本発明のガスタンクを再生型燃料電池に適用した場合を示す構成図である。この再生型燃料電池は、宇宙空間で使用されるものであり、例えば月面に設置されるものであってよい。図2の例では、上述のガス発生装置15とガス消費装置17とは同じ装置としての再生型燃料電池30である。図2(A)は、再生型燃料電池30が水を電気分解している状態を示し、図2(B)は、再生型燃料電池30が発電している状態を示す。
【0025】
再生型燃料電池30は、例えば太陽光が得られる月面の昼間に、太陽光で発電した電気エネルギで水を電気分解することで水素ガスと酸素ガスを発生させる。即ち、図2(A)のように、太陽光発電装置43により太陽光から発電された電気エネルギがガス発生装置15に供給されることで、ガス発生装置15は、この電気エネルギを用いて水を電気分解する。これにより、水素ガスと酸素ガスが発生する。このうち、水素ガスは、再生型燃料電池30の陰極30aから水素ガスライン7を通って第1のガスタンク10aに供給され、酸素ガスは、再生型燃料電池30の陽極30bから酸素ガスライン9を通って第2のガスタンク10bへ供給される。この時、低圧用のコンプレッサ23を運転させて水素ガスを第1のガスタンク10aへ供給してもよく、低圧用のコンプレッサ25を運転させて酸素ガスを第2のガスタンク10bへ供給してもよい。なお、再生型燃料電池30で発生した水素ガス、酸素ガスの圧力が低くない場合には、低圧用のコンプレッサ23、25を省略してよい。
【0026】
第1のガスタンク10aは、再生型燃料電池30の陰極30aからの水素ガスを受け入れて内部に貯蔵する。第2のガスタンク10bは、再生型燃料電池30の陽極30bからの酸素ガスを受け入れて内部に貯蔵する。第1および第2のガスタンク10a、10bの構成は、上述のガスタンク10と同じである。
【0027】
また、再生型燃料電池30は、例えば太陽光が得られない月面の夜間に、第1のガスタンク10aから水素ガスライン11を通して陰極30aへ供給される水素ガスと、第2のガスタンク10bから酸素ガスライン13を通して陽極30bへ供給される酸素ガスとを用いて、電気エネルギと水を発生して、図2(B)のように発生した電気エネルギを所定の負荷42に供給する。この時、コンプレッサ27を運転させて水素ガスを陰極30aへ供給してもよく、コンプレッサ29を運転させて酸素ガスを陽極30bへ供給してもよい。なお、発生した水は、再生型燃料電池30内に貯蔵され、次回に上述のように電気分解されてよい。なお、図2において、符号35、37、39、41は、電磁弁を示す。
【0028】
このように、本発明のガス利用装置は、宇宙空間(例えば月面)で使用する再生型燃料電池に適用可能であり、再生型燃料電池を地球の地表から月面へ打ち上げる場合に有利である。即ち、上述のように、打ち上げ時には、重量が大幅に小さく、運転時には消費電力が小さくなる。
【0029】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。本発明は、特許文献1の再生型燃料電池にも適用可能である。また、本発明のガスタンクは、再生型燃料電池以外のガス利用装置にも適用可能である。本発明によると、ガス発生装置とガス消費装置は同じ装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のガスタンクが適用可能なガス利用装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明のガスタンクを再生型燃料電池に適用した場合を示す概略構成図である。
【図3】従来における高圧用ガスタンクを示す図である。
【符号の説明】
【0031】
3、5、7、9、11、13・・・ガスライン、10、10a、10b・・・ガスタンク、15・・・ガス発生装置、17・・・ガス消費装置、19、21、23、25、27、29・・・コンプレッサ、20・・・ガス利用装置、30・・・再生型燃料電池、30a・・・陰極、30b・・・陽極、31、33、35、37、39、41・・・開閉弁(電磁弁)、42・・・負荷、43・・・太陽光発電装置、45・・・高圧用ガスタンク、47・・・高圧用のコンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間で用いられるガスタンクであって、
所定のガス発生装置とガス消費装置に接続され、該ガス発生装置で発生したガスが内部に供給されて該ガスを貯蔵し、貯蔵している前記ガスを前記ガス消費装置へ排出可能であり、
変形可能なフィルム材料で形成された袋体となっており、これにより、前記ガス発生装置から前記ガスが内部に供給されることで膨らみ、貯蔵している前記ガスが前記ガス消費装置へ排出されることで萎むようになっている、ことを特徴とするガスタンク。
【請求項2】
前記フィルム材料は繊維で補強されている、ことを特徴とする請求項1に記載のガスタンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスタンクと、
前記ガスを発生させて前記ガスタンクに供給する前記ガス発生装置と、
前記ガスタンクから前記ガスが供給されて前記ガスを使用する前記ガス消費装置と、を備えることを特徴とするガス利用装置。
【請求項4】
前記ガス発生装置と前記ガス消費装置とは同じ装置としての再生型燃料電池であり、
前記再生型燃料電池は、太陽光で発電した電気エネルギで水を電気分解することで水素ガスと酸素ガスを発生させ、
前記ガスタンクは2つ設けられ、一方は前記水素ガスを貯蔵し、他方は前記酸素ガスを貯蔵し、
前記再生型燃料電池は、さらに、2つの前記ガスタンクからそれぞれ供給される前記水素ガスと酸素ガスを用いて電気エネルギと水を発生させる、ことを特徴とする請求項3に記載のガス利用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7780(P2010−7780A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168744(P2008−168744)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】