説明

ガスタービン動翼及びその製造方法

【課題】チップシュラウドを冷却空気で冷却する構造を有するガスタービン動翼を備えたガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させる。
【解決手段】ガスタービン動翼1が、翼形部3と、翼形部3の先端に接合された内周面4bと、外周面4cを有するチップシュラウド4とを具備する。翼形部3は、チップシュラウド4に冷却空気を供給するように構成されている。チップシュラウド4は、その内部空間を介して供給された冷却空気7を外部に放出するように構成されている。チップシュラウド4は、供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気をガスタービン動翼の回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン動翼及びその製造方法に関し、特に、ガスタービン動翼のチップシュラウドの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン動翼の先端には、しばしば、ガスタービン動翼の先端から軸方向及び周方向に突出するチップシュラウドと呼ばれる構造物が取り付けられる。チップシュラウドには概略的には2つの役割がある。1つは、燃焼器からの高温ガスをより多くガスタービン動翼の翼面に誘導してエネルギー効率を向上させることである。もう1つは、ガスタービンが運転されてガスタービン動翼が高速回転している時に、隣接するガスタービン動翼のチップシュラウドが互いに当接され、これにより、ガスタービン動翼の振動を抑制することである。
【0003】
ガスタービンの運転中にはガスタービン動翼が高温になるので、ガスタービン動翼の内部空間に冷却空気を供給することでガスタービン動翼が冷却される。このとき、チップシュラウドも同様に、その内部空間に冷却空気を供給することで冷却空気によって冷却される。
【0004】
特開平11−13402号公報及び特許第3403051号は、チップシュラウドに冷却通路を設けることでチップシュラウドを冷却する技術を開示している。また、特開2009−168017号公報は、チップシュラウドの内部に冷却空洞を設けることでチップシュラウドを冷却する技術を開示している。
【0005】
これらの特許文献に開示されているガスタービン動翼は高温ガスを受けて特定の回転方向に回転する。これらの3つの特許文献のガスタービン動翼の構造では、チップシュラウドから放出される冷却空気が回転方向の速度成分を持つ向き、及び、回転方向と反対方向の速度成分を持つ向きの両方に放出されるように構成されている。
【0006】
しかしながら、発明者の検討によれば、上記の特許文献に開示されたチップシュラウドの構造には、ガスタービンの出力、エネルギー効率の改良の余地がある。
【0007】
なお、特開2007−77986号公報、特開2006−105084号公報、及び、特開2008−95695号公報は、ガスタービン動翼の先端部の冷却構造を開示している。しかしながら、これらの特許文献は、チップシュラウドを備えるガスタービン動翼の冷却に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−13402号公報
【特許文献2】特許第3403051号
【特許文献3】特開2009−168017号公報
【特許文献4】特開2007−77986号公報
【特許文献5】特開2006−105084号公報
【特許文献6】特開2008−95695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、チップシュラウドを冷却空気で冷却する構造を有するガスタービン動翼について、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の観点では、高温ガスを受けて特定の回転方向に回転するガスタービン動翼が提供される。当該ガスタービン動翼は、翼面が形成された翼形部と、翼形部の先端に接合された内周面と、内周面に対向する外周面を有するチップシュラウドとを具備する。翼形部は、チップシュラウドに冷却空気を供給するように構成されている。チップシュラウドは、その内部空間を介して供給された冷却空気をチップシュラウドの外部に放出するように構成されている。チップシュラウドは、供給された冷却空気の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気を回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出されるように構成されている。このようなガスタービン動翼では、チップシュラウドから冷却空気が放出される反作用がガスタービン動翼に仕事をすることにより、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させることができる。
【0011】
ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させるためには、チップシュラウドが、供給された冷却空気の全量のうち、70%以上の流量の冷却空気を回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出されるように構成されていることがより好ましい。また、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を一層に向上させるためには、チップシュラウドが、それに供給された冷却空気の全量を回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出するように構成されていることが一層に好ましい。
【0012】
一実施形態では、翼形部がチップシュラウドに冷却空気を供給する冷却通路を有し、チップシュラウドが冷却通路から供給された冷却空気を放出する冷却空気孔を有している。
【0013】
他の実施形態では、翼形部がチップシュラウドに冷却空気を供給する空洞を有しており、チップシュラウドが空洞から供給された冷却空気を放出する複数の冷却空気孔を有している。
【0014】
更に他の実施形態では、翼形がチップシュラウドに冷却空気を供給する複数の冷却通路を有し、チップシュラウドが、複数の冷却通路に連通するキャビティと、キャビティに接続されて冷却空気を放出する冷却空気孔とを有している。
【0015】
更に他の実施形態では、チップシュラウドが、翼形部から供給される位置から回転方向の成分を有する方向に延伸して特定位置に到達し、特定位置から回転方向と反対方向の成分を有するように延伸して冷却空気を放出する開口に到達する流路を有している。
【0016】
本発明の他の観点では、ガスタービン動翼の製造方法が、チップシュラウドを貫通する貫通穴を作製する工程と、貫通穴の回転方向の前方側の開口を閉塞して冷却空気孔を形成する工程とを具備する。
【0017】
本発明の更に他の観点では、ガスタービン動翼の製造方法が、チップシュラウドを貫通する複数の貫通穴と、貫通穴を連通する連通部を形成する工程と、連通部の回転方向の前方側の開口を閉塞して冷却空気孔を形成する工程とを具備する。この場合、貫通穴と連通部は、複数の放電棒とそれを支持する根元部分とで構成されている放電電極をチップシュラウドに挿入することで形成されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、チップシュラウドを冷却空気で冷却する構造を有するガスタービン動翼について、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のガスタービン動翼の構造を示す側面図である。
【図2】図1のガスタービン動翼の外周側から見た構造を示す上面図である。
【図3】図1のガスタービン動翼の構造を示す断面図である。
【図4A】本発明の一実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図4B】本発明の一実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図5】図4A、図4Bのチップシュラウドの構造を示す断面図である。
【図6】ガスタービン動翼の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウドから放出される冷却空気の流量の占める割合と、チップシュラウドの回転方向における先端の近傍の最も温度が上昇する部分の温度上昇の関係の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施形態のガスタービン動翼の構造を示す断面図である。
【図8】図7のガスタービン動翼のチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図10】図9のチップシュラウドの構造を示す断面図である。
【図11】本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図12A】図11の構造のチップシュラウドを備えるガスタービン動翼の製造工程を示す平面図である。
【図12B】図11の構造のチップシュラウドを備えるガスタービン動翼の製造工程を示す平面図である。
【図13】本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図14】図13のチップシュラウドに設けられた冷却空気孔の構造を示す断面図である。
【図15】本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す断面図である。
【図16】本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウドの構造を示す平面図である。
【図17】図16のチップシュラウドの構造を示す断面図である。
【図18】図16のチップシュラウドに設けられたスリットの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態のガスタービン動翼の構造を示す側面図である。ガスタービン動翼1は、概略的には、ガスタービンのロータディスク(図示されない)に接続される翼根部2と、翼面が形成されている翼形部3と、翼形部3の先端に接合されているチップシュラウド4と、チップシュラウド4の外周面(翼形部3が接合されている面(内周面)と対向する面)に接合されているフィン5とを備えている。フィン5は、チップシュラウド4の外周面からロータディスクの半径方向外側に突出するように設けられている。
【0021】
図2は、チップシュラウド4及びそれに接合されたフィン5の構造を示す上面図である。ガスタービン動翼1は、ロータディスクの周方向に並んで配置されている。隣接するガスタービン動翼1のチップシュラウド4は互いに近接しており、ガスタービンの運転時には、隣接するチップシュラウド4のA部が、ガスタービン動翼1が高速回転することによって自律的に当接する。これは、運転時のガスタービン動翼1の振動を低減することに貢献する。また、フィン5は、その周方向に延伸するように設けられている。フィン5を挟んで高温ガスが流れてくる上流側は相対的に高圧の領域であり、その反対側(下流側)は相対的に低圧の領域である。
【0022】
図3は、図1のガスタービン動翼1の構造を示す断面図である。ガスタービン動翼1は、翼根部2に供給された冷却空気7で冷却されるような構造を有している。詳細には、翼形部3のうち翼根部2に近い部分には空洞11が設けられており、その空洞11の内部にはピンフィン12が設けられている。翼形部3の翼根部2に近い部分は、ピンフィン12によって冷却空気7の流れが乱されることによって効果的に冷却される。一方、ガスタービン動翼1の先端に近い部分には、ロータディスクの半径方向に略平行な方向に延伸する冷却流路13が設けられている。冷却流路13は、翼形部3の先端に設けられたチップシュラウド4の内部にまで延伸しており、冷却空気7は、冷却流路13を介してチップシュラウド4の内部に導入される。
【0023】
図4A、図4Bは、本発明の一実施形態におけるチップシュラウド4の構造を示す平面図であり、図5は、図4A、図4BのB−B断面における断面図である。ガスタービン動翼1は、タービンシャフトの周方向に回転する。図4A、図4Bには、ガスタービン動翼1の回転方向が矢印によって図示されている。
【0024】
チップシュラウド4の内部には、翼形部3の冷却流路13に連通する冷却空気孔6が設けられている。冷却空気7は、冷却流路13から冷却空気孔6に導入され、これにより、チップシュラウド4が冷却される。
【0025】
本実施形態のガスタービン動翼1の一つの特徴は、チップシュラウド4の冷却空気孔6から冷却空気7が放出される態様にある。本実施形態のガスタービン動翼1では、冷却空気孔6から冷却空気7が放出される方向とガスタービン動翼1の回転方向との関係が最適化され、これにより、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させている。
【0026】
より具体的には、本実施形態では、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気7が回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるか、又は、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される。このような方向に冷却空気7が放出されると、反作用によってガスタービン動翼1に対して仕事をするので、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率を向上させることができる。
【0027】
ここで、図4Aは、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気7が回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるような構造の一例を示している。図4Aのチップシュラウド4では、複数の冷却空気孔6のうち冷却空気孔6aのみが冷却空気7を回転方向と同一方向の速度成分を持つように放出しており、他の冷却空気孔6は、冷却空気7を回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出している。一方、図4Bは、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量が、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるような構造を図示している。
【0028】
ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率の向上の観点では、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量が多いことが有利である。例えば、チップシュラウド4に供給される冷却空気7の全量を100%とした場合に、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量の占める割合が70%以上であることが好ましい。また、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率の向上の観点では、チップシュラウド4に供給される冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されることが最も有利である。
【0029】
しかしながら、その一方で、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量を多くすることは冷却空気孔6の配置に制約を加えることになるため、特に、チップシュラウド4の、回転方向における先端4aの近傍の部分の冷却が不十分になる場合があり得る。図6は、チップシュラウド4に供給される冷却空気7の全流量を特定値で一定とした時における、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量の占める割合と、チップシュラウド4の、回転方向における先端4aの近傍の最も温度が上昇する部分の部材の温度上昇の関係を示すグラフである。温度上昇は、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出された冷却空気7の流量の占める割合が50%である場合に0であるとして定義されている。強度の観点からチップシュラウド4において部材の温度上昇は20℃以下とすることが好ましく、この場合には、図6によると、温度上昇の観点から、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量の占める割合が70%以下に制限されることになる。この場合、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量の占める割合が70%であることが好ましい。
【0030】
しかしながら、後述のように、複数設けられている冷却空気孔6のうちの少なくとも一本が、翼形部3からの冷却空気7が供給される位置からガスタービン動翼1の回転方向の成分を有する方向に延伸する部分を持つように構成されている場合には、チップシュラウド4の、回転方向における先端4aの近傍の部分の冷却の問題は小さい。この場合には、ガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される冷却空気7の流量の占める割合を増大させることができ、設計によっては冷却空気孔6から放出される冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出される構造を採用することもできる。
【0031】
上述の実施形態において、ガスタービン動翼1の翼形部3の内部の冷却構造は、図3に図示されている冷却構造以外にも様々に変更可能である。図7は、他の冷却構造の一例である。図7の翼形部3の冷却構造では、翼形部3の内部の空洞16に、コア支持リブ14と傾斜タービュレータ15とが設けられている。コア支持リブ14は、翼形部3の構造を保持するための構造部材である。空洞16は、冷却空気7が翼形部3の内面を冷却しながら流れて翼形部3の先端に到達するように構成されており、傾斜タービュレータ15が冷却空気7の流れを乱すことで、翼形部3が効果的に冷却される。
【0032】
翼形部3の冷却構造が変更される場合には、その変更に応じて冷却空気孔6の構造も変更され得る。例えば、図7の冷却構造が採用される場合には、図8に図示されているように、冷却空気孔6は、翼形部3の内部の空洞16に連通するように構成される。
【0033】
図9は、本発明の他の実施形態におけるチップシュラウド4の構造を示す平面図であり、図10は、図9のJ−J断面における断面図である。図9、図10のチップシュラウド4の構造では、チップシュラウド4の内部に、翼形部3の複数の冷却流路13に連通するキャビティ8が設けられ、チップシュラウド4の冷却空気孔6は、そのキャビティ8に接続される。キャビティ8は、冷却空気7の配分の自由度を向上し、冷却空気7の適正な配分を実現することに寄与する。例えば、チップシュラウド4のうち大きい熱応力が作用する部分に多くの冷却空気7を供給する一方で、熱応力が小さい部分には相対的に少量の冷却空気7を供給するというような冷却空気7の配分が実現できる。
【0034】
図11は、本発明の更に他の実施形態におけるチップシュラウド4の構造を示す平面図である。例えば図4Bに図示されているように、チップシュラウド4に供給される冷却空気7の全量をガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出する構造では、チップシュラウド4の回転方向における先端4aの近傍の部分の冷却が不十分になる場合があり得る。そこで、図11のチップシュラウド4は、チップシュラウド4の回転方向における先端4aの近傍の部分の冷却に関する問題に対処するための構造を有している。
【0035】
図11のチップシュラウド4では、冷却空気孔6の少なくとも一つ(図11では符号6bで図示されている冷却空気孔)が、翼形部3からの冷却空気7が供給される位置(図11では、冷却流路13の位置)からガスタービン動翼1の回転方向の成分を有する方向に延伸して特定位置に到達し、更に、その特定位置からガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の成分を有するように延伸して冷却空気7を放出する開口に到達するような構造を有している。このような構造では、たとえチップシュラウド4に供給される冷却空気7の多くの割合(最も端的には全量)をガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出する構造であっても、チップシュラウド4の回転方向における先端4aの近傍の部分を十分に冷却することができる。
【0036】
上述されたようなチップシュラウド4の冷却空気孔6の構造は、その製作工程が複雑になり得る。チップシュラウド4の冷却空気孔6は、放電加工によって形成され得る。放電加工は、金属の構造体に貫通穴を設ける最も典型的な方法である。しかしながら、この放電加工によって冷却空気孔6を製作する場合には、図4A、図4Bに図示されているようなチップシュラウド4を貫通していない冷却空気孔6を精度よく作製することは困難な場合がある。図11に図示されているような屈曲した形状の冷却空気孔6は、その作製は一層に困難になる。以下では、貫通していない冷却空気孔6や屈曲した形状の冷却空気孔6を製作するための製作工程について述べる。
【0037】
図12A、図12Bは、本発明の一実施形態における冷却空気孔6の製作工程を示す平面図である。まず、図12Aに図示されているように、チップシュラウド4を貫通する貫通穴21が形成される。この貫通穴21は、例えば、放電加工で形成することが簡便である。ここで、後の工程により、翼形部3からの冷却空気7が供給される位置からガスタービン動翼1の回転方向の成分を有する方向に延伸して特定位置に到達し、更に、その特定位置からガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の成分を有するように延伸して冷却空気7を放出する開口に到達するような構造を有している冷却空気孔6に加工される貫通穴21については、隣接する貫通穴21を連通させる連通部22が形成され、その連通部22に接続するように貫通穴21が形成される。連通部22は、チップシュラウド4に設けられた開口として形成されている。貫通穴21を放電加工するために使用される放電電極が複数の放電棒とそれを支持する根元部分とで構成されている場合には、このような連通部22は、放電電極の根元部分までチップシュラウド4に挿入することで容易に形成できる。
【0038】
続いて、図12Bに図示されているように、貫通穴21及び連通部22の不必要な開口が閉塞され、冷却空気孔6の製作が完了する。本実施形態では、貫通穴21及び連通部22の、ガスタービン動翼1の回転方向の前方側の開口を閉塞して冷却空気孔6が形成される。開口の閉塞は、例えば、閉止板23をチップシュラウド4に溶接することで行ってもよく、ろう付けによって金属ろう24を貫通穴21の開口付近に充填することで行ってもよい。このときに重要なことは、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気7が回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるか、又は、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される構造を実現することである。
【0039】
図4A、図4B、及び図5に図示されている構造では、チップシュラウド4の側面(即ち、翼形部3が接合されている内周面4b及びフィン5が接合されている外周面4cとを連結する面)に冷却空気孔6が開口されている。しかしながら、冷却空気孔6は、フィン5が接合されている外周面4cに開口されてもよい。
【0040】
図13は、冷却空気孔6が外周面4cに設けられたチップシュラウド4の構造を示す平面図であり、図14は、図13のK−K断面におけるチップシュラウド4の構造を示す断面図である。冷却空気孔6が、チップシュラウド4の側面に開口しているか、外周面4cに開口しているかは、ガスタービンの出力及び/又はエネルギー効率の向上の観点では本質的には重要でない。上述のように、重要なことは、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気7が回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるか、又は、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される構造を実現することである。
【0041】
加えて、図13のように冷却空気孔6が外周面4cに設けられた構造では、冷却空気孔6の形状の自由度が高くなり、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出される割合を増加させることができる。例えば、図13において、チップシュラウド4の先端4aに最も近い冷却流路13に接続された冷却空気孔6cについて考えよう。冷却空気孔6cは、回転方向の成分を持つ方向に延伸する流路部分6dと、回転方向と反対方向の成分を持つ方向に延伸する流路部分6eとを備えている。流路部分6eは、図14に図示されているように、チップシュラウド4の外周面4cに開口(6f)している。このような構造では、チップシュラウド4の先端4aの近傍の部分を十分に冷却できる。一方、冷却空気孔6がチップシュラウド4の側面に開口している構造では、図13に図示されているような配置の冷却空気孔6cを実現することは困難である。
【0042】
上記では、冷却空気孔6が、翼形部3の冷却流路13(又は空洞16)から延伸する流路として構成されている実施形態について記載されているが、チップシュラウド4の冷却構造及びチップシュラウド4から冷却空気7を放出する構造はこれに限定されない。チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量のうち、50%よりも多い流量の冷却空気7が回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるか、又は、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される構造は、様々な構造で実現され得る。例えば、図15乃至図18に図示されているように、内部に空洞30が設けられるような冷却構造を採用するチップシュラウド4についても、本発明は適用可能である。
【0043】
詳細には、図15に図示されているチップシュラウド4の構造では、翼形部3の冷却流路13は、チップシュラウド4の空洞30に連通しており、冷却空気7が冷却流路13から空洞30の内部に導入される。空洞30にはピンフィン31が設けられており、そのピンフィン31に冷却空気7が接触することでチップシュラウド4が冷却される。チップシュラウド4の内部の空洞30に導入された冷却空気7は、チップシュラウド4の端に設けられた開口33から放出される。ここで、図15に図示されているチップシュラウド4の構造では、開口33の近傍に設けられた隔壁32によって冷却空気7が整流され、これにより、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出される。
【0044】
図16乃至図18に図示されているチップシュラウド4の構造では、翼形部3の内部に設けられた空洞16が、チップシュラウド4の空洞30に連通しており、冷却空気7が空洞16から空洞30の内部に導入される。空洞30の内部にはピンフィン31が設けられており、そのピンフィン31によって冷却空気7の流れが乱されることでチップシュラウド4が効果的に冷却される。チップシュラウド4の冷却に用いられた冷却空気7は、チップシュラウド4の端に設けられた開口33(図17参照)から放出されると共に、空洞30からチップシュラウド4の外周面4cに連通するように設けられたスリット34から放出される(図16及び図18参照)。図16及び図17のL−L断面におけるチップシュラウド4の構造を示す断面図である図18に図示されているように、スリット34は、チップシュラウド4に供給された冷却空気7の全量がガスタービン動翼1の回転方向と反対方向の速度成分を持つようにチップシュラウド4から放出されるような構造を有している。
【0045】
以上には本発明の実施形態が具体的に記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されると解釈してはならず、当業者に自明的な様々な変更がなされて実施され得る。また、上記の実施形態は、技術的に相反しない限り、複数が組み合わせて実施され得ることに留意されたい。
【符号の説明】
【0046】
1:ガスタービン動翼
2:翼根部
3:翼形部
4:チップシュラウド
4a:先端
4b:内周面
4c:外周面
5:フィン
6、6a、6b、6c:冷却空気孔
6d、6e:流路部分
6f:開口
7:冷却空気
8:キャビティ
11:空洞
12:ピンフィン
13:冷却流路
14:コア支持リブ
15:傾斜タービュレータ
16:空洞
21:貫通穴
22:連通部
23:閉止板
24:金属ろう
30:空洞
31:ピンフィン
32:隔壁
33:開口
34:スリット
35:流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ガスを受けて特定の回転方向に回転するガスタービン動翼であって、
翼面が形成された翼形部と、
前記翼形部の先端に接合された内周面と、前記内周面に対向する外周面を有するチップシュラウド
とを具備し、
前記翼形部は、前記チップシュラウドに冷却空気を供給するように構成され、
前記チップシュラウドは、供給された前記冷却空気をその内部空間を介して前記チップシュラウドの外部に放出するように構成され、
前記チップシュラウドが、前記供給された前記冷却空気の全量のうち、50%よりも多い流量の前記冷却空気を前記回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出するように構成された
ガスタービン動翼。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン動翼であって、
前記チップシュラウドが、前記供給された前記冷却空気の全量のうち、70%以上の流量の前記冷却空気を前記回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出するように構成された
ガスタービン動翼。
【請求項3】
高温ガスを受けて特定の回転方向に回転するガスタービン動翼であって、
翼面が形成された翼形部と、
前記翼形部の先端に接合された内周面と、前記内周面に対向する外周面を有するチップシュラウド
とを具備し、
前記翼形部は、前記チップシュラウドに冷却空気を供給するように構成され、
前記チップシュラウドは、供給された前記冷却空気を、その内部空間を介して前記チップシュラウドの外部に放出するように構成され、
前記チップシュラウドが、前記供給された前記冷却空気の全量を回転方向と反対方向の速度成分を持つように放出するように構成された
ガスタービン動翼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のガスタービン動翼であって、
前記翼形部は、前記チップシュラウドに前記冷却空気を供給する冷却通路を有し、
前記チップシュラウドは、前記冷却通路から供給された前記冷却空気を放出する冷却空気孔を有する
ガスタービン動翼。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のガスタービン動翼であって、
前記翼形部は、前記チップシュラウドに前記冷却空気を供給する空洞を有し、
前記チップシュラウドは、前記空洞から供給された前記冷却空気を放出する複数の冷却空気孔を有する
ガスタービン動翼。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載のガスタービン動翼であって、
前記翼形部は、前記チップシュラウドに前記冷却空気を供給する複数の冷却通路を有し、
前記チップシュラウドは、前記複数の冷却通路に連通するキャビティと、前記キャビティに接続されて前記冷却空気を放出する冷却空気孔とを有する
ガスタービン動翼。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のガスタービン動翼であって、
前記チップシュラウドは、前記翼形部から前記供給される位置から前記回転方向の成分を有する方向に延伸して特定位置に到達し、前記特定位置から前記回転方向と反対方向の成分を有するように延伸して冷却空気を放出する開口に到達する流路を有している
ガスタービン動翼。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のガスタービン動翼を製造する製造方法であって、
前記チップシュラウドを貫通する貫通穴を作製する工程と、
前記貫通穴の前記回転方向の前方側の開口を閉塞して前記冷却空気孔を形成する工程
とを具備する
ガスタービン動翼の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガスタービン動翼を製造する製造方法であって、
前記チップシュラウドを貫通する複数の貫通穴と、前記貫通穴を連通する連通部を形成する工程と、
前記連通部の前記回転方向の前方側の開口を閉塞して前記冷却空気孔を形成する工程
とを具備する
ガスタービン動翼の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法であって、
前記貫通穴と前記連通部は、複数の放電棒とそれを支持する根元部分とで構成されている放電電極を前記チップシュラウドに挿入することで形成される
ガスタービン動翼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−225211(P2012−225211A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91984(P2011−91984)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】