説明

ガスタービン装置

【課題】
ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるものとなる。
【解決手段】
空気を圧縮する圧縮機10と、圧縮機10で圧縮された空気と燃料とを燃焼する燃焼器12と、燃焼器12で生成する燃焼ガスにより駆動されるタービン14と、圧縮機10の少なくとも上流もしくは中間段における作動空気に水を供給する加水装置40とを有する。さらに、水が供給された作動空気が流通する流通経路の内壁面,ガスタービンのロータもしくはケーシング流路面に形成された回転対称な溝50a,50b,50c,50d,50eを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン装置に係り、特に、作動空気に水分を加える噴霧冷却法に用いるに好適なガスタービン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から夏場などの大気温度が上昇した際のガスタービン出力の低減を避ける手法の一つとして、圧縮機の上流や中間段で水を噴霧する噴霧冷却法が、例えば、特許第2877098号公報,ASME(American Society of Mechanical Engineers)論文, GT2003-38237,ASME(American Society of Mechanical Engineers)論文, GT2002-30562などにより知られている。そのような噴霧冷却において、圧縮機吐出までに蒸発する水分量が多ければ多いほど、ガスタービンの出力増強効果が大きいことは、一般に知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第2877098号公報
【非特許文献1】ASME(American Society of Mechanical Engineers)論文, GT2003-38237
【非特許文献2】ASME(American Society of Mechanical Engineers)論文, GT2002-30562
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多量の水分を圧縮機の上流で噴霧すると、吸気ダクトやケーシング壁面に付着する液滴量が増大する。そのようにして壁面上に形成された液膜は、主流に引き千切られて粗大液滴となり、流れにのって移流されて壁面に衝突することでエロージョンを発生させる危険性があるなど、信頼性が低下する恐れがあった。特に、最近、吸気噴霧量の大容量化が検討されている。すなわち、従来は、吸気量に対する噴霧量が1%程度であったのを、3%以上まで増やして、ガスタービンの出力を増大させようとするものである。このように、吸気噴霧量が大容量化すると、さらに、壁面に付着する液滴量が増大し、問題が顕著となる。
【0005】
本発明の目的は、ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるガスタービン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、空気を圧縮する圧縮機と、この圧縮機で圧縮された空気と燃料とを燃焼する燃焼器と、この燃焼器で生成する燃焼ガスにより駆動されるタービンと、前記圧縮機の少なくとも上流もしくは中間段における作動空気に水を供給する加水装置とを有するガスタービン装置であって、水が供給された作動空気が流通する流通経路の内壁面に形成された回転対称な溝もしくは突起を備えるようにしたものである。
かかる構成により、ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるものとなる。
【0007】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、複数本、近接して設置されているものである。
【0008】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、吸気の流れの後方に端部を有するものである。
【0009】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、その断面形状が矩形状である。
【0010】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝は、その近傍を流れる吸気の流れ方向に対向する向きに開口しているものである。
【0011】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝に挿入された多孔質材を備えたものである。
【0012】
(7)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、ガスタービンのロータもしくはケーシング流路面に設置されているものである。
【0013】
(8)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の吸気ケーシング部近傍の主流流路面に設置されたものである。
【0014】
(9)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の吐出ディフューザ部近傍の主流流路面に設置されたものである。
【0015】
(10)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の内周抽気部から前記ロータの冷却空気導入孔までの間に存在するものである。
【0016】
(11)上記(1)において、好ましくは、前記回転対称な溝もしくは突起の重力方向下方に設けられたドレイン水路を備えているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図4を用いて、本発明の一実施形態によるガスタービン装置の構成について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態によるガスタービン装置の要部構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるガスタービン装置の構成を示す概略構成図であり、特に圧縮機の吸気部を中心に図示してある。
【0019】
圧縮機10は、圧縮機動翼33が固定されたロータ系36と、圧縮機静翼32が取り付けられた外径側ケーシング34Oと内径側ケーシング34Iとからなるケーシング34とから構成されている。ロータ系36とケーシング34は、中心軸CAに対して回転対称に設けられている。
【0020】
圧縮機10の上流側には、圧縮機10に供給される吸気を取り込む吸気ダクト22が連結されている。吸気ダクト22は、略直方体の形状である。吸気ダクト22の先端には、フィルタ24が設置される吸気フィルタ室26が配置され、吸気フィルタ室26の上流側部分にはルーバ28が配置されている。
【0021】
吸気ダクト22には、上流から順にサイレンサ27、加水装置40およびトラッシュスクリーン29が設置されている。なお、それらの順序は本例に限ったものではなく、サイレンサ27の上流に加水装置40が設置されていてもよいものである。また、加水装置40が多段に設置されていてもよいものである。本ガスタービン装置では、加水装置40により、運転条件に合わせて適切な水分が吸気空気に加えられる。
【0022】
加水装置40で加えられた水分と共に吸気ダクト22を流下してきた空気は、外径側ケーシング34Iと内径側ケーシング34Oを接続するストラット30によって整流され、入口ガイドベーン31で適度な旋回速度を与えられた後、圧縮機動翼33および静翼32によって圧縮される。圧縮機10により圧縮された圧縮空気は燃焼器に供給され、燃料と混合して高温ガスとなった後、タービン14を駆動しながら膨張して大気へ排出される。圧縮機の動翼33は、タービン動翼とロータ系36を介して接続されており、タービン動翼で得たタービン出力を圧縮動力へ変換する役割を担う。タービン出力から圧縮動力を差し引いた残りは、ガスタービン出力として軸端37に接続された発電機(図示せず)により電力に変換される。
【0023】
以上の空気の流れは、熱力学的サイクルとして単純サイクルを採用したガスタービン装置の場合であるが、本発明は単純サイクルのガスタービンに限定されるものではなく、再生サイクルやHAT(Humid Air Turbine)サイクルなどの、他の熱力学的サイクルのガスタービン装置にも適用できる。また、本実施形態は軸流圧縮機を想定しているが、圧縮機の形式は遠心圧縮機や軸流と遠心の複合型の圧縮機であっても本質的な違いはないものである。
【0024】
加水装置40としては、例えば、噴霧ノズルを用いることもできるが、圧縮空気の流れる流路に面する構造物に水を供給して圧縮気流と接触させる方式等を使用してもよいものである。噴霧ノズルを用いた加水装置としては、例えば、特開平9−236024号公報に記載されたものなどを用いることができる。本実施形態においては、加水装置40は圧縮機の入口、例えば第1段静翼から間隔を置いた吸気ダクト22内に設置されている。加水された液状水分のうちの一部または全部は、圧縮機10へ入るまでに蒸発し、吸気に含まれる熱量を水の蒸発潜熱として奪って、吸気の温度を湿球温度にまで低下させる。残された液滴のうちの全部または大部分は、圧縮仕事による空気の昇温熱により圧縮機内部で蒸発し、圧縮過程にある空気の温度を低下させる。
【0025】
図1では、圧縮機上流の加水装置40しか図示されていないが、圧縮機の中間段で水を加えても同様な効果が得られるため、圧縮機の段間に加水装置(図示せず)を設置してもよいものである。この方が圧縮仕事により昇温した空気に加水するため、冬場の吸気温度が低いときでも水分がケーシング表面などに着氷することを避けられる。
【0026】
また、加水装置40は、加水するための水分の供給を受ける補給水供給経路48を有する。補給水供給経路48は、例えば本ガスタービン装置及び関連機器の系外から水を導く形態になっていてもよい。或いは、本ガスタービン装置及び関連機器の系内から水を回収する形態でもよい。又或いは、加水装置40の何れかが系外からの補給水を利用し、他方が回収水を主に利用するようにしてもよい。
【0027】
本実施形態のガスタービン装置では、さらに、ダクト22若しくはケーシング34に設けられた中心軸CAに対して回転対称な溝50(50a,50b,50c,50d,50e)を備えている。圧縮機10のケーシング34I,34Oは、その主流流路面上に回転対称な溝50a,50b,50cを備えている。また、吸気ダクト22の主流流路面上にも、回転対称な溝50d,50eを備えている。圧縮機10のケーシングのうち、特に吸気ダクトの近傍の圧縮機入口部分(ケーシング34I,34Oの上流部)を、一般に吸気ケーシングと呼び、特に吸気ケーシングのベル形状部分39をベルマウスと呼ぶ。溝50a,50bは、吸気ダクト34のベルマウス39の入り口部分に設けられている。溝50cは、吸気ダクト34の下流側に設けられている。
【0028】
ここで、図2を用いて、回転対称な溝50の形状について説明する。ここでは、溝50dを一例として説明する。
図2は、本発明の一実施形態によるガスタービン装置に設けられた回転対称な溝の説明図であり、図1のA−A矢視図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0029】
ダクト22の壁面上に設置された回転対称な溝50dは、中心軸CAに対して回転対称に,すなわち、円環状に形成されている。溝50dの底部には、溝に溜まった水を吸気ダクト底面へ導くための鉛直方向の溝51が設けられている。溝50dにより回収された水分は、溝部に落ち込むと主流流れの影響を受けにくくなるため、溝伝いに重力方向下方へ移動し、鉛直方向の溝51によりダクト底面にまで導かれる。ダクト底面に溜まった水分は、さらなるドレイン配管53などにより、定期的にバルブ52を開閉して、系外へ放出される。
【0030】
図1に示したように、本実施形態では、吸気ケーシング上や吸気ダクト出口に回転対称な溝50a〜50eが設置されており、ガスタービンの吸気はそれら溝部の上部を通り過ぎて、圧縮機内部に導かれる。主流に与える乱れや損失を最小限に抑えるために、これらの主流流路に面した部分には突起よりも溝を設置することが望ましい。また、液膜が一列の溝だけでは取り切れないことに対処するため、複数本の回転対称な溝を近接して設置するのも望ましい。この場合、溝から溢れた液水が主流に引き摺られる距離を短くするため、近接した溝同士の間隔は、溝幅と同程度から数倍程度が適当である。強度上の問題が無ければ、溝同士をより近づけてもよいものである。
【0031】
本実施形態における回転対称な溝50bは、断面形状を見たときに、流れの後流側に明確な端部55を有している。明確な端部55は、鋭角な形状を有し、溝50bの内部に流入した液滴が再度吸気の流れによって吸い出され、吸気に中に取り込まれるのを防ぐ形状となっている。しかし、少なくとも一つの端部を有しさえすれば、基本的にどのような断面形状の溝であっても差し支えないものである。溝50の形状としては、溝50b,50d,50eのように単純な矩形の溝であってもよいものである。単純な矩形の溝とは、その溝の中心軸が、中心軸CAに対して直交若しくは平行な溝のことである。また、例えば溝50aや50cのように、主流の空気流れに対向する方向に開口部を傾けた断面形状を有する溝としてもよいものである。なお、溝50bも、主流の空気流れに対向する方向に開口部を傾けた断面形状を有するものとなっている。また、回転対称な溝50は、周方向のあらゆる位置において断面形状が一致している必要はなく、例えば、加工上の制約から、非回転対称な断面形状を有する部分を円周上の一部に有してもよいものである。さらに、溝50の取り付け位置によっては、溝に溜まった水分の水はけを良くするため、図2に示すようなドレイン水路51を溝部50の円周上の一部に設けることが望ましいものである。
【0032】
ここで、ガスタービン装置の作用・効果について説明する。加水装置40で加えられた液状水分41は、吸気と混合しながら吸気ダクト22内を流下し、一部は蒸発して吸気温度を湿球温度近くにまで低減させる。残りの水分のうちの一部は、ダクト22内を流下する過程でダクト壁面に付着する。それ以外の水分は液水のまま主流空気に運ばれて圧縮機内部へ導かれ、圧縮空気の昇温に応じて蒸発し、圧縮空気の冷却に寄与する。
【0033】
一般に、液水の単位質量当たり表面積が多いほど、液水は空気中へ蒸発しやすい。すなわち、液水の形状が球に近く、かつ、その径が小さいほど、液水は空気中へ蒸発しやすい。壁面に付着した水分は、壁面と接触している分だけ空気との接触面積が減り、しかも壁面に付着した液滴同士は結合して液膜を形成するようになるため、単位質量当たりの液水に占める空気との接触面積の割合は小さい。つまり液滴は、壁面に付着すると蒸発しにくくなる。それゆえ、ダクト壁面に付着した液滴は、その多くが蒸発せずに壁伝いに重力方向下方へ流下し、累積して次第に厚い膜を形成する。できた液膜をそのまま放置すると、翼の後縁やケーシングのロータとの間隙38などで、液膜が主流によって引き千切られて粗大液滴を形成し、壁面や翼面などに衝突してエロージョンを発生させる原因となる。それゆえ、壁面に付着した液膜は、粗大液滴となって飛散する前に、ドレインとして適切に回収する必要がある。
【0034】
本実施形態のガスタービン装置では、ダクト壁面やケーシング壁面に回転対称な溝50a〜50eが設けられているため、壁伝いに流れてきた液膜が溝部50に捕捉される。例えば、図1の溝50bに着目すれば、吸気ダクト22上を流れてきた液膜43は、溝50bに捕捉されて、溝部に溜まった液水44になる。溝の深さにも依るが、溝部に落ちた液水44は主流の流れ方向の影響を受けにくくなるため、主として重力方向下方へ溝伝いに流れることになる。従って、溝の重力方向下方に適切なドレインを設けておけば、壁面に付着して蒸発しにくくなった液膜を、溝部50a〜50eで集めてガスタービン系外へ除去することが可能である。
【0035】
壁面に付着する液膜、例えば液膜43などは、吸気に加えられた液水量に比例して、その量が多くなる。よって、吸気への加水量が多いほど、液膜が粗大液滴となって飛散し、エロージョンを発生させる可能性が高いものである。しかしながら、本実施形態のガスタービン装置は、壁面に付着した液水を回転対称な溝50で適切に回収できるため、ガスタービンの信頼性を損なわずに、より多量の水分を圧縮空気に加えることが可能となる。それにより、夏場などの大気温度が高いときにおけるガスタービンの出力低減を大幅に改善することができる。また、溝部が基本的に回転対称な形状を成しているため、旋盤などにより追加工が容易で、コストも掛からない。
【0036】
ガスタービンの上流や内部で蒸発する水分が多いほど、ガスタービンの出力が増加することは広く知られていたが、加水量の増加はエロージョンの発生につながると考えられていた。圧縮機の上流で加えられる水分は、加水装置41によって十分に、例えば直径10μm以下に、微粒化されてから噴霧されるため衝突衝撃が小さく、そのままではエロージョンを発生させることにならない。問題は、壁面に付着した液水が粗大液滴となって再度主流によって運ばれる場合である。ゆえに、壁面に付着した液水を粗大液滴の形成前に適切に回収できれば、加水量を増加させてもエロージョンは回避できる。したがって、本実施形態により、ガスタービンの信頼性を損なうことなく、加水量を増量でき、ガスタービンの出力を向上できる。
【0037】
吸気ダクト22の上流で加えられた液水41は、流れの乱れや転向によって、その一部がダクト壁に付着する。吸気ダクト22は、通常、鉛直に近い壁面を有し、その壁面は平面で構成されることが多いため、一旦、壁面に付着した液滴は、壁面から離散することなく、ダクト壁面に沿って重力下方へ流れることになる。また、加水装置41は、蒸発距離を稼ぐため、圧縮機からなるべく離れた位置に設置することが望ましい。よって、加水装置41は吸気ダクトの上流側に設置されることになり、吸気ダクトに付着している液水の量は吸気ダクトの下流側ほど多くなる。壁面に付着した水分といえども、吸気の冷却に寄与するため、なるべく圧縮機の入口近くにおいて壁面に付着した水分を回収した方が望ましい。よって、溝50a,50b,50d,50eなどのように、吸気ダクト22とケーシング34I,34Oの接合部近傍に設置すれば、より多くの壁面付着水分を吸気へ蒸発させることができる。また、それらの位置は、吸気ダクト面上の液膜が十分に発達した位置にも相当するため、水分を回収する効果も高い。よって、設置すべき溝の本数もガスタービン全体として少なくでき、製造コストを抑えられる。
【0038】
また、壁面に付着した液膜は、流れの方向が変わるベルマウス部39や、壁面が途切れるケーシングとロータの間隙38などで、流れに千切られて主流に離散する可能性が高い。本実施形態の溝50b,50cなどのように、液膜が主流へ離散する可能性の高い位置の直前に溝を設けて液水を回収することは、より多くの水分を主流へ蒸発させられることになるため、ガスタービンのより一層の出力増強につながるとともに、加えた水の有効利用ということにもなる。
【0039】
溝形状としては、溝50bや溝50dのように単純な矩形の溝も考えられるが、例えば溝50aや50cのように、主流の空気流れに対向する方向に傾けて溝部を開口することも考えられる。この場合、開口部が主流と対向して設けられていることにより、主流の方向に引き摺られてきた液膜が溝部に入りやすくするとともに、一旦、溝部に流入した液水が、再度、主流に引き摺られて溝から漏れ出ることを防ぐことができる。このことにより粗大液滴の形成を確実に抑えることができ、ガスタービンの信頼性を向上することができる。
【0040】
次に、図3を用いて、溝50の他の断面形状について説明する。
図3は、本発明の一実施形態によるガスタービン装置に設けられた回転対称な溝の他の断面形状の説明図である。図中において、矢印Vは吸気の流れ方向を示し、矢印gは重力方向を示している。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0041】
本実施形態で用いる回転対称な溝の断面形状は、矩形状の溝に限ったものではなく、図3(a)や図3(b)のように、溝の間口が狭く、奥に行くにつれ広がっている形状の溝55A,55Bであってもよいものである。こうすることにより、壁面上の液膜の捕獲率を高められるとともに、その底部50は捕獲した水分の水分溜めの効果も持つため、溝部から水分が溢れ出ることを抑制して、より多くの水分を溝部に集積することが可能となる。
【0042】
また、図3(c)に示すように、断面が三角形状の突起54Aを設けてもよく、さらに、図3(d)に示すように、突起54Bの手前方向に溝55Cを形成するようにしてもよいものである。
【0043】
溝部の断面形状は、基本的には溝部に流れる水量から適当な溝幅や溝深さを決定すれば良いが、溝の開口部や溝幅が余りに狭くなると、液滴が開口部をブリッジしたり(架橋)、毛細管現象や水の粘性により溝部を水が流れにくくなったりするため、1mm〜10mm程度の開口部幅や溝幅を有することが望ましいものである。また、溝深さは、5〜20mm程度とする必要がある。
【0044】
次に、図4を用いて、溝50の他の構造について説明する。
図4は、本発明の一実施形態によるガスタービン装置に設けられた回転対称な溝の他の構造を示す断面図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0045】
さらに、溝部50に多孔質材56を挿入するようにしてもよいものである。多孔質材としては、アルミナ等のセラミックスを用いることができる。このように多孔質材56を溝50に挿入することにより、一旦、溝部に流入した水分は、多孔質材56に吸収され、多孔質材56のなかを重力下方へ移動して末端から滴り落ち、ドレインとして回収される。溝部50に多孔質材56を挿入することにより、水の表面張力により多孔質材56に沿って水分は流れるようになり、一旦、溝部に回収された水分が再度主流に引き摺れて溝から漏れ出ることを完全に防ぐことができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるものとなる。
【0047】
次に、図5を用いて、本発明の他の実施形態によるガスタービン装置の構成について説明する。
図5は、本発明の他の実施形態によるガスタービン装置の構成を示す概略構成図である。本例では、圧縮機10の吐出部から、燃焼器12およびタービン部14までを中心に図示している。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0048】
本実施形態では、回転対称な溝50f,50g,50hもしくは突起54を、圧縮機10の吐出部近傍もしくはタービン冷却空気のパス内に設けている。図示する例において、燃焼器12以外の構成部品は、中心軸CAに対して回転対称に構成されている。
【0049】
図5の破線60は、圧縮機10の吐出からタービン14の出口までの、主流空気の流れである。主流空気60の流れは、圧縮機吐出を出たあと、燃焼器12を通過し、燃料11と混合しつつ燃焼し、タービン部14に供給されて、タービン静翼140および動翼141を通って図示されていないスタックなどを介して大気へ放出される。
【0050】
前述のように、本実施形態のガスタービン装置は、圧縮機10の上流もしくは中間段において加水装置40などにより液状水分を作動空気に加えるため、圧縮吐出部の空気の絶対湿度は外気の絶対湿度よりも高い。加水量によっては、加水装置で加えられた液水が圧縮機10の吐出部においても蒸発せずに残っていることも考えられる。圧縮機の翼列内はロータ回転軸を中心とした強い旋回流れ場であるため、仮に圧縮機内部で液滴が残っていたとしても、その粗大なものは遠心力により外径側のケーシングへ追いやられることとなる。それゆえ、圧縮機の吐出部近傍で主流部に残っている液滴は、遠心力よりも空気の粘性の効果が支配的である微細な液滴が主であり、そのほとんどは圧縮機の吐出部に達するまでに蒸発すると考えてよいものである。従って、圧縮機10の吐出部近傍で残っている液水はケーシング表面に多く、その部分の液水を回収することが粗大液滴の形成の防止に大きく寄与する。
【0051】
また、ガスタービンの停止時に空気中の水分が凝縮し、ケーシングやロータ壁面上に水分が結露している場合も考えられる。通常のガスタービン停止時には、加水装置40を止めたあと、乾燥空気により圧縮機10内部に滞積した水分を十分パージしてからガスタービン本体を停止させる。ゆえに、的確な停止手順を踏んでいれば、過度な水分がガスタービン内部に凝縮することはない。しかし、ガスタービンの異状停止時には、ガスタービン内部に加えられた水分を十分にパージすることなく、ガスタービンを急停止させることもあり得るため、加えた水分や高湿分の空気がガスタービン内部に残留することが原因で、ケーシングのガスパス面やロータ面上に、通常のガスタービン以上に水分が結露する可能性がある。
【0052】
そこで、本実施形態のガスタービン装置では、ケーシング壁面に付着した液水を除去するため、外側ケーシング34Oに形成された回転対称な溝50hと、内側ケーシング34Iの外周に形成れた回転対称な溝50gを備えている。すなわち、溝50g,50hは、吐出ディフューザ部近傍の主流流路面に設けられている。特に、溝50hは、一旦、流入した水が重力によって流れ出ないよう、液水溜め56を有している。仮に、主流部内を移流される液滴が多い場合、ミストセパレータ59を圧縮機吐出部近傍に設置して主流部の液滴を除去する工夫をしてもよいものである。これらにより、粗大液滴の形成を防ぎ、液滴の衝突によるエロージョンや、液滴が高温部に接触することによる熱衝撃による高温部材の破壊を回避でき、信頼性の高いガスタービン装置を提供することができる。
【0053】
また、本実施形態のガスタービン装置は、圧縮機ガスパスの内周側に、ロータの高温部を冷却するための冷却空気を導入するための内周抽気孔61を備えている。図3では、圧縮機の吐出段に内周抽気孔61を設けてあるが、圧縮機の中間段に設けてもよいものである。また抽気孔ではなく、円周状に抽気用の隙間(抽気用スリット)であってもよいものである。抽気孔61から導入された冷却空気62は、圧縮機の内周側ケーシングとロータの間を通ってロータ36を冷却し、さらにロータ36に備えられた冷却空気導入孔63を通ってロータ内に導かれてロータ内部を冷却する。本実施形態のガスタービン装置は、冷却空気61が内周抽気孔61から導入孔63を通過するまでの冷却パスに、内側ケーシング34Iの内周側に設けられた回転対称な溝50fと、ロータ36の外周に設けられた突起54を備えている。すなわち、溝50f及び突起54は、圧縮機の内周抽気部からロータの冷却空気導入孔までの間に設けられている。圧縮機の主流部からロータ壁面を伝わって冷却パスに流入した液水は、突起54の遠心力によりケーシング面上へ飛ばされ、導入孔63に流入することを防御される。冷却空気の流れ61により、ケーシング壁面上を引き摺られてきた液膜は溝50fによって冷却空気流とは分離され、ドレインとして回収される。このように、冷却パス内に流入してきた液水も、回転対称な溝もしくは突起によって回収することにより、粗大液滴の形成を避け、液滴によるエロージョンや液滴が高温部に接触することによる熱衝撃による高温部材の破壊を回避でき、より信頼性の高いガスタービン装置を提供することができる。
【0054】
なお、本実施形態による溝もしくは突起の断面形状は、図5に記載されたものに限定されるものではなく、断面形状として明確な端部を有するものであればどんなものでもよいものである。例えば、図3に記載されたいずれを用いても本質的な効果に違いはない。また、図4に記載されたもののように、溝部50に多孔質材55を挿入したものであってもよいものである。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、ガスタービンの信頼性を向上し、大量の水分を圧縮機へ供給できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態によるガスタービン装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】本発明の一実施形態によるガスタービン装置に設けられた回転対称な溝の他の断面形状の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態によるガスタービン装置に設けられた回転対称な溝の他の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態によるガスタービン装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
10…圧縮機
12…燃焼器
14…タービン
22…吸気ダクト
32…圧縮機静翼
33…圧縮機動翼
34…ケーシング
34I…外径側ケーシング
34O…内径側ケーシング
36…ロータ系
39…ベルマウス
40…加水装置
50,50a,50b,50c,50d,50e,50f,50g,50h…溝
51…ドレイン水路
55…端部
56…液水溜め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、この圧縮機で圧縮された空気と燃料とを燃焼する燃焼器と、この燃焼器で生成する燃焼ガスにより駆動されるタービンと、前記圧縮機の少なくとも上流もしくは中間段における作動空気に水を供給する加水装置とを有するガスタービン装置であって、
水が供給された作動空気が流通する流通経路の内壁面に形成された回転対称な溝もしくは突起を備えたことを特徴とするガスタービン装置。
【請求項2】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、複数本、近接して設置されていることを特徴とするガスタービン装置。
【請求項3】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、吸気の流れの後方に端部を有することを特徴とするガスタービン装置。
【請求項4】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、その断面形状が矩形状であることを特徴とするガスタービン装置。
【請求項5】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝は、その近傍を流れる吸気の流れ方向に対向する向きに開口していることを特徴とするガスタービン装置。
【請求項6】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝に挿入された多孔質材を備えたことを特徴とするガスタービン装置。
【請求項7】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、ガスタービンのロータもしくはケーシング流路面に設置されていることを特徴とするガスタービン装置。
【請求項8】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の吸気ケーシング部近傍の主流流路面に設置されたことを特徴とするガスタービン装置。
【請求項9】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の吐出ディフューザ部近傍の主流流路面に設置されたことを特徴とするガスタービン装置。
【請求項10】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起は、前記圧縮機の内周抽気部から前記ロータの冷却空気導入孔までの間に存在することを特徴とするガスタービン装置。
【請求項11】
請求項1記載のガスタービン装置において、
前記回転対称な溝もしくは突起の重力方向下方に設けられたドレイン水路を備えていることを特徴とするガスタービン装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−37877(P2006−37877A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220360(P2004−220360)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】