ガス分離膜を用いたガス製造方法
【課題】 選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含む複数の成分を含有する原料ガスから所望の成分を回収するに際し、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避することができるガス製造方法を提供すること。
【解決手段】 ガス分離膜Sの残留ガス流路R1出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、ガス分離膜Sの残留ガスの圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合、ガス分離膜Sの残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、基準値Za以下に保つことを特徴とする。
【解決手段】 ガス分離膜Sの残留ガス流路R1出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、ガス分離膜Sの残留ガスの圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合、ガス分離膜Sの残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、基準値Za以下に保つことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜を用いたガス製造方法に関し、具体的には、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、易透過性かつ非凝縮性の成分に富んだ透過ガスと前記成分が減少した残留ガスに分離するガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場または各種の化学プロセス工場などにおいては、各工程における原料ガスまたは処理ガスとして所定量の純度の高いガスが必要とされ、入手容易で低コストの原料からこうしたガスを分離して連続的に使用することが多く行われる。具体的には、例えば、空気から富化酸素ガスと富化窒素ガスのいずれかまたは両方を得る場合、ナフサ分解ガスから水素(H2)を分離濃縮する場合、有機物蒸気を含むガス混合物から有機物蒸気を分離回収する場合、水性ガスからH2を分離する場合などが該当する。かかる工程においては、装置が小型で簡便であることから、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製品として取り出す方法が採られることが多い。
【0003】
こうしたガス分離膜を用いたガス製造方法においては、図11に例示するような、圧縮機102、乾燥器108、加熱器109、ガス分離膜101を備えたガス分離部103、残留側圧力調整弁110、冷却器113透過側圧力調整弁111を備えた系を基本として、所望の用途や仕様に応じた種々の構成が用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
【0004】
例えば、比較的高圧の水素ガスおよび比較的低圧の水素ガスの製品を必要とする場合、図12に示すようなカスケードサイクルが有効であることはよく知られている。この例にあっては、2組のガス分離膜201(第1ガス分離膜201a及び第2ガス分離膜201b)が組み合わせて使用される。この構造にあっては、原料ガスg1は、第2ガス分離膜201bの透過性ガスg2aaと合流され、圧縮後、第1ガス分離膜201aに供給される。この状態で、第1ガス分離膜201aによる透過性ガスg2aが産出され、その残留性ガスg2bは、第2ガス分離膜201bの原料ガスとして供給される。この第2ガス分離膜201bでは、残留性ガスが産出される。それからの透過性ガスg2aaは、元々の原料ガスと合流することにより再利用される(例えば特許文献1参照)。ここで、図12においては、第2ガス分離膜201bからの透過性ガスg2aaが再利用される構成として例示されているが、透過性ガスg2aを高圧製品ガスとして取り出し、透過性ガスg2aaを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0005】
また、並列サイクルとして、図13に例示するような、空気から富化窒素ガスを分離回収するシステムを挙げることができる。図13では、2本の中空糸分離膜モジュール312、313が並列で用いられており、供給ガスは前処理を終わったあと分岐してそれぞれのモジュール312、313へ供給され、それぞれの中空糸分離膜モジュール312、313で得られた富化窒素ガスは合流して製品ガス出口324へ導かれている。空気取入口301から採取された空気はダストフィルター302で空気中の浮遊粒子などを除去されコンプレッサー303へ供給される。ここで加圧された空気は、中空糸ガス分離膜モジュール312、313のガス供給口から膜の供給側へ流される。透過した透過ガスは、膜の透過側を流れてモジュールの透過ガス排出口を経由して透過ガス排出流となり、配管の途中で流量調節弁316、317で流量を絞られたのち系外へ排出される(例えば特許文献2参照)。ここで、図13のシステムにおいては、富化窒素ガスを製品ガスとして回収する場合を表しているが、透過ガス排出流は富化酸素ガスであり、これを製品ガスとして回収することも可能である。このとき、並列の中空糸分離膜モジュール312、313に供給する空気の圧力や流量を各々独立的に調整することによって、一方の透過性ガスを高圧製品ガスとして取り出し、他方の透過性ガスを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−33222号公報
【特許文献2】特開2002−35530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガス分離膜を利用してガスを製造する場合、製品の純度と回収率が主要な特性となる。一般に、製品ガスの用途に応じて、所要の純度が定まり、その範囲で回収率をできるだけ確保するとの方針で検討を行いプロセスや減量操作を含めた制御方法を決定する。しかしながら、難透過性かつ凝縮性の成分を含む複数の成分を含有する原料ガスに対しては、上記方法によっては、いくつかの課題が生じることがあった。つまり、
(i)ガス分離膜自体の変質を齎すことがあるので、ガス分離膜の1次側のガス中でのミストの生成を回避する必要がある。より詳細には、原料ガス中に凝縮性成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この凝縮性成分が難透過性ガスであるとき、ガス分離の進行に従い、ガス分離膜の1次側(非透過側)のガス中に凝縮性成分が濃縮し液化する恐れがあることから、例えば約40℃(夏季の外気条件)まで原料ガスを冷却し、凝縮液化成分を分離後、加熱手段にて加熱することにより、ガス分離膜での液体ミストの生成の恐れを回避する必要があった。
(ii)しかし、ガス分離膜の分離特性や高温耐性などの関係から加熱温度に限界があるので、透過ガスの所望成分の回収率(以下「回収率」という)を上昇しようとすると、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化する恐れが残ることから、回収率を制限し、またはガス分離膜の1次圧力を下げて、液化を回避するとの対策がなされてきた。
なお、本発明ではガス分離膜の1次側のガス中に凝縮性成分の濃縮に伴う液化を避けることに注目する。透過の進行に伴い、凝縮性成分の濃縮が進行するので、残留ガス出口(直近)のガスが最も液化し易い状態となる。従って、残留ガス出口のガスの圧力下の露点が重要となり、露点がガス分離膜でのガス温度に比較して低いならば、ガス分離膜の1次側のガス中で液化が起こらないこととなる。実際には、原料ガス組成や運転条件の変動などを考慮して、ガス分離膜のガス温度に対し僅かに(例えば10℃)低く、前記露点の基準値を設定して運用するのが望ましい。以下、ガス分離膜の残留ガス出口直後の圧力を「残留ガス圧力」といい、ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における残留ガス圧力下の露点を「残留ガス露点」、ガス分離膜の残留ガスの流量を「残留ガス流量」、透過ガスの圧力および流量を「透過ガス圧力」および「透過ガス流量」という。
(iii)一方、こうした流路内での液化を防止するためには、実際のプロセスにおける圧力条件での露点を測定することが好ましい。このとき、該プロセスには種々のガス種または圧力や温度条件の原料ガスまたは処理ガスが流路内を流通することから、こうした条件下においても所定の精度や耐久性を有する方法や装置が要求される。しかしながら、こうした種々の条件に対応可能な流路内ガスの露点計測、特に連続測定は困難性が高く、実用化されていない、あるいは存在しても非常に高価なため使用し難いのが現状である。
【0008】
本発明の目的は、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分を含む複数の成分を含有する原料ガスから所望の成分を回収するに際し、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分に富んだ透過ガスと該成分が減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることにある。特に、減量操作に際して、さらに高い回収率を得ることを目的とする。なお、本願において、単に「回収率」とした場合には、製品ガス中の所望の成分の流量の総計の、原料ガス中の所望の成分の流量に対する割合を意味する。また、最終残留ガスまたは副生液は、副製品として利用される場合も含むこというまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す透過ガスおよび副生ガスの製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。なお、同一機能の要素について、上流側を第1、1次または前段、下流側を第2、2次または後段という。
【0010】
本発明は、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含む複数の成分を含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分Aが減少した残留ガスに分離するガス製造方法であって、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、前記ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記基準値Za以下になるように監視するとともに、前記基準値Zaを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0011】
複数の成分を含む原料ガスから易透過性かつ非凝縮性の成分(本発明において「成分A」とする。)や難透過性かつ凝縮性の成分(本発明において「成分B」とする。)を回収し、所望の純度や回収率を確保する方法として、選択的透過性を有するガス分離膜による分離機能を利用する方法や、各成分の凝縮性の相違に基づく気液分離機能を利用する方法がある。本発明は、原料ガスに成分Bが含まれる場合、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で成分Bが液化することを回避する方法を提案し、成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることを図るものである。
【0012】
後程、実施例で詳細に述べるように、多成分系の気液平衡論に基づく露点の公式とガス分離膜の理想化した特性から、ガス分離膜へ供給される原料ガス組成および残留ガス露点(以下「残留ガス露点Z」という)を固定したとき、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xとの間に1/PrとXが線形の相関を有することの知見を得た。この所定の相関を有することは、具体的事例で、数値値解析によっても確認された。従って、原料ガス組成やガス分離膜の特性を基に、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)残留ガス圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、減量操作を含む実際の運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜の作動条件を監視して、もし必要なら、残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値のいずれかの調整を行うことによって、膜の1次側での凝縮性成分の液化を回避することが可能となる。なお、残留ガス圧力を下げる調整を行うと透過ガスの回収率が低下するが、それに伴い、残留ガス流量が増加すると同時に残留ガス中の成分Aの濃度が増加する。つまり、圧力が下がることと成分Aの濃度が増加することの相乗効果で残留ガス露点Zが低下して基準値以下に戻すことができる。
【0013】
このように、本発明によって、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避して、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス製造方法を提供することが可能となる。
【0014】
なお、ここで、「ガス分離膜」とは、1つの膜モジュールを用い供給ガス、透過ガスおよび残留ガスの各流入出路を設けた場合だけではなく、複数の膜モジュールを必要数並列に配設して、各々の供給ガス、透過ガスおよび残留ガスの各流入出路毎に統合して構成した場合を含むものとする。また、「凝縮性成分」とは、凝縮処理に対して凝縮性を有する成分をいい、ガス分離膜に対する透過性の容難に限定されるものではない。「易透過性かつ非凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して易透過性を有し、かつ凝縮処理に対して非凝縮性を有する成分をいい、具体的には、後述の実施例において、例えば原料ガス中に、水素、メタン、ブタン、ペンタンが混在する場合についての水素をいう。これに対し後述する「難透過性かつ非凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して難透過性を有し、かつ凝縮処理に対して非凝縮性を有する成分をいい、上記例におけるメタンをいい、「難透過性かつ凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して難透過性を有し、かつ凝縮処理に対して凝縮性を有する成分をいい、上記例におけるブタンおよびペンタンをいう。また、本発明は、原料ガス中に透過性かつ凝縮性の成分(例えば、後述の実施例における原料ガス中に水分)が少量含まれる場合にも本質的に同様の効果がある。従って、本発明は、このような場合を含むことを注記しておく。また、ここでいう「圧力と連動するプロセス値」とは、圧力変化に伴い変化するプロセス値をいい、残留ガス圧力に対する残留ガス流量や透過ガス圧力に対する透過ガス流量を挙げることができる。以下の説明において、圧力を制御対象とする場合には、基本的には「圧力と連動するプロセス値」を含むものとする。以下同様である。
【0015】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記ガス分離膜への原料ガスの供給流路に加熱処理工程を有する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記露点Zを含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0016】
高分子製ガス分離膜の一般的特性として、高温ほど透過率が高い反面、低温ほど選択性(易透過性成分と難透過性成分の透過率の比)が高いとの傾向がある。従って、製造する製品ガスの用途に応じて、回収率を確保することが優先のときには膜材質の許容する範囲で高温での運転が望ましい。一方、純度が優先の時には低温での運転が望ましい。従って、運転状況によって、ガス分離膜へのガス供給温度を変更することが有効になることがある。前記供給温度を変更すると露点の基準値も変化するので、上記方法をそのまま適用することはできない。そのため、ガス供給温度の変更を考慮して上記方法を拡張する。前記ガス供給温度に応じて定まる残留ガス露点Zの基準値Zbを設定する。前記ガス供給温度の変更範囲に対応して露点の変更範囲が定まる。いくつかの露点において、前述の方法で残留ガス圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を解析すると、後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして残留ガス露点Zを含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。
【0017】
従って、前記相関関数の解析を、パラメータとして残留ガス露点Zを含む形で予め行い、運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、残留ガス露点Zが前記供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、基準値Zbを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値および/または前記供給温度の調整を行うことにより、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することが可能となる。なお、ガス分離膜の材質により定まる使用温度の上限に対して余裕がある場合には、前記供給温度を上昇することによって基準値Zbを上昇することができ、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することが可能となる。
【0018】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして各原料ガスの混合割合を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記原料ガスの混合割合と残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0019】
ガス分離膜を用いたガス製造プロセスにおいては、複数の製造ラインからの組成の異なる原料ガスを混合し、供給されることがある。こうした場合、ガス分離膜に供給される混合ガスの組成は、その混合割合と各原料ガスの組成の相違により変化する。そのため、残留ガス露点Zが変化することから、上記のような相関関数をそのまま適用することができない。後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして混合割合を含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。従って本発明は、各原料ガスの混合割合が確認できる場合や推定できる場合に、相関関数の解析をパラメータとして原料ガスの混合割合を含む形で予め行うことによって、より適正な制御が可能となることを見出したもので、基準値Zaを原料ガスの供給温度に基づいて設定し、前記相関関数を利用して残留ガス中の特定の成分(成分A)の濃度から残留ガス圧力を制御することによって、ガス分離膜の1次側のガス中での凝縮性成分の液化を防ぐことが可能となる。
【0020】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記原料ガスを前記ガス分離膜に供給する工程に先駆け、
(U1)前記原料ガスを気液分離処理または冷却処理と気液分離処理を行う工程
(U2)前記気液分離処理により得られた主として前記成分Bからなる副生液を取り出す工程
(U3)前記気液分離処理により得られた前記成分Bの減少した副生ガスを取り出す工程
(U4)前記気液分離処理の圧力を一定に保持する工程
(U5)前記副生ガスを加熱処理する工程
を含む場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記気液分離処理の温度を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記気液分離処理の温度および残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0021】
ガス分離膜を用いたガス製造方法で、原料ガスをガス分離膜に供給する工程に先駆け、原料ガスの気液分離処理を行うと凝縮性成分を事前に除去できるのでガス分離膜での処理効率を上げることができ有効である。但し、原料ガス組成が一定であっても気液分離機能で生成された副生ガス成分のみが加温後、ガス分離膜に供給されるので、ガス分離膜に供給されるガスの組成は気液処理工程の圧力および温度により変化する。上記方法では、ガス分離膜への供給ガス組成を一定としているのでそのままでは適用できない。ここで、気液処理の圧力は圧力保持機能を付加することで一定とできる。従って、気液分離機能の温度の変化(季節による冷却水の温度変化などにより齎されることを想定)に対する拡張が問題として残る。後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして気液分離機能の温度を含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。従って相関関数の解析を、パラメータとして気液分離処理の温度を含む形で予め行い、この温度と残留ガス中の成分Aの濃度の計測値から残留ガス圧力またはガス分離膜への原料ガスの供給温度を制御することによって、ガス分離膜の1次側のガス中での凝縮性成分の液化を防ぐことが可能となる。
【0022】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記ガス分離膜を複数段利用し、前段のガス分離膜の残留ガスを後段のガス分離膜に供給し、カスケード接続を形成し、またはさらに各段のガス分離膜ガスに供給するガスの温度を変更する工程を追加し、原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、各段のガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Z1,Z2・・Znの基準値Z1a,Z2a・・Znaを設定し、残留ガス圧力および残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用し、各段の残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Z1,Z2・・Znが、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下になるように監視するとともに、前記基準値のいずれかを超える場合、対応する段の前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0023】
通常、カスケードサイクルは、純度の異なる複数の製品ガスを作製する場合などに、複数段のガス分離膜を用い、各透過ガスを製品ガスとすることで、比較的小さな膜面積であっても所定の製品純度および回収率を確保することができる。このカスケードサイクルの一般的利点に加え、本発明によれば、各段の相関関数を事前に解析しておき、運転操作に利用することができ、各段のガス分離膜の1次側のガス中で成分Bが液化することを回避しつつ、さらに高い回収率を確保てきる。また、一般に圧力が低いほど露点が低く抑えやすいので、各段のガス分離膜の1次圧力を順次低く制御することにより、順次後段のガス分離膜に供給されるに従い、成分Bが濃縮されても、液化することを避けることが可能となり、さらに、透過性ガスの回収率を上げることが可能となる。あるいは、前段と後段のガス分離膜に膜材質を異なるものを採用し、後段の方が高い温度限界まで使用できるようにして、後段ほど高い温度で制御すると成分Bが濃縮されても、液化することを避けることが可能となり好都合である。従って、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス製造方法を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るガス製造方法を適用することによって、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス成分および凝縮性成分の製造方法を提供することが可能となる。特に、減量操作に際して、さらに高い回収率を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ここでは、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、複数の成分からなり難透過性かつ凝縮性の成分Bを含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分Aが減少した残留ガスに分離するガス製造プロセスにおいて、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、残留ガス露点Zの基準値Zaを設定し、残留ガス圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、残留ガス露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合、残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。なお、ガス分離膜を用いるプロセスに要求される条件は、上流、下流のプロセス構成や製品ガスの用途により、様々に変化し、それに応じてその運転条件や制御方法が選定されるのでここでは典型的な例を挙げた。また、本発明は、以下に述べる構成例に限定されるものでなく、ガス分離膜プロセス一般に上記特徴を組み合わせることにより、多くの変形や拡張が可能である。
【0026】
<本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造プロセスの基本構成例>
図1に、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造プロセス(以下「本プロセス」という。)の第1構成例(本プロセス1)を示す。具体的には、原料ガス流路Uo、ガス分離膜S、透過ガス流路T1、残留ガス流路R1、残留ガス流路R1に設けられた圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1)、および制御部(図示せず)から構成される。ここで、ガス製造プロセスの性能確認用に、原料ガスの分析ポートAPo,透過ガスの分析ポートAPtおよび残留ガスの分析ポートAPr(ガスクロ分析計などによるバッチ分析に利用する)が設けられている。なお、分析ポートに代え、濃度計測手段を設けることも可能である。詳細は後述する。
【0027】
本プロセス1は、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、減量操作を含む実際の運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、凝縮性成分の液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図るものである。具体的な制御方法は後述するが、残留ガス中の成分Aの濃度Xの計測値から、残留ガス露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合には、基準値Za以下になるようにガス分離膜Sの残留ガス圧力Prを制御する方法が採られる。
【0028】
本プロセス1においては、残留ガス圧力Prの制御を、残留ガス流路R1に設けられた圧力調整手段PCr1によって行う構成を例示しているが、圧力調整手段PCr1を原料ガス流路Uoまたは別途バイパス流路を追加してそこに配設する構成等、これに限定されるものでないことはいうまでもない。また、残留ガス圧力Prの制御に代え、残留ガス圧力Prと連動するプロセス値として、残留ガス流量を制御することも可能である。以下同様である。
【0029】
原料ガスは、精製ガスまたは粗製ガスを精製処理されたガスを供給することが好ましく、具体的には、精製空気、精製ナフサ分解ガス、精製改質ガス、精製水性ガス、精製天然ガスなどが該当する。原料ガスの供給条件は、通常、環境温度とし、流量約1,000〜100,000[Nm3/h]の上記各種ガスが使用される。また、圧力条件は、透過ガスの用途などによって異なるが、1〜50[bar(abs)]程度に加圧して使用する。
【0030】
ガス分離膜Sは、原料ガスまたは透過ガスの種類によって、最適な素材や容量(表面積)または形状などが選択される。ガス分離膜Sの素材として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーンゴム、ポリスルフォン、酢酸セルロース、ポリアラミド(PA)やポリイミド(PI)などの分離膜を挙げることができる。本プロセス1においては、これらに限定されるものではない。
【0031】
ここで、図2に例示するように、ガス分離膜Sへ原料ガスを供給する原料ガス流路Uoに、加熱手段(加熱部H)を設けることが好ましい。ガス分離膜Sは、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが望ましく、原料ガスを適切な温度まで加熱することが必要となる。また、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜Sの膜の材質によってはその変質を齎すことがある。より詳細には、原料ガス中に高沸点成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この高沸点成分が難透過性ガス(成分B)であるとき、ガス分離膜Sの1次側のガス中に成分Bが濃縮し液化する恐れがある。そのため、原料ガス流路Uoに設けられた加熱部Hにて加熱することにより、ガス分離膜Sでの液体ミストの生成の恐れを回避することができる。このとき、事前に(i)成分Bが液化することを回避するためにガス分離膜Sへの原料ガスの供給温度Ts(以下「原料供給温度Ts」という)により定まる残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)パラメータとして残留ガス露点Zを含む形で、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、ガス分離膜Sの1次側のガス中での成分Bの液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図ることができる。
【0032】
また、上記ガス分離膜を用いたガス製造プロセスであって、成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合には、図3に示すように(2つの原料ガスの場合を例示)、原料供給流路U1に流量調整手段FCr1(流量制御弁FCV1および流量調節計FC1)を配設し、原料供給流路U2に流量調整手段FCr2(流量制御弁FCV2および流量調節計FC2)を配設することによって、原料ガスの混合割合を把握することが好ましい。つまり、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するために原料供給温度Tsにより定まる残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)パラメータとして各原料ガスの混合割合Moを含む形で、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、凝縮性成分の液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図ることができる。
【0033】
分析ポートAPo,APrおよびAPtから採取したガスは、ガスクロマトグラフィーなどを使用してバッチ分析を行い、定期的な分析結果から、原料ガス組成の安定性やプロセスの性能の監視に利用できる。濃度計測手段は、所望の成分、つまり製品ガス成分に対して選択性の高い分析計が好ましく、連続分析で信頼できるものが好ましい。また、製品ガスに対して化学的な変化を生じさせない分析計が好ましい。例えば、成分が水素の場合には熱伝導度式分析計や成分がメタンの場合には赤外線吸光式分析計などを挙げることができる。また、バッチ分析と連続分析を併用する方式も可能である。より信頼できるバッチ分析の結果から連続分析計の誤差を確認しつつ、微調整の判断に供することができる。
【0034】
〔本プロセス1の変形例〕
本プロセス1の変形例(本プロセス2)を、図4に示す。基本的な構成は第1構成例と同様であるが、原料ガス流路Uoに追加的に、
(a1)原料ガスの気液分離部Dまたは冷却部Cと気液分離部D
(a2)気液分離部Dにより得られた主として成分Bからなる副生液が取り出される副生液流路L
(a3)気液分離部Dにより得られた成分Bの減少した副生ガスが取り出される副生ガス流路G
(a4)気液分離部Dの内部圧力Poを一定に保持する圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)
(a5)副生ガス流路Dに設けられた加熱部H
で構成される。原料ガスの減量操作においても、ガス分離膜Sの残留ガス圧力Prに対して、気液分離部Dの1次圧力Poを独立に一定値に保持することが可能となる。なお、原料ガスの温度によっては、原料ガスは、破線aで示すように、冷却部Cと気液分離部Dの中間に設けることができる。予め原料ガスの1次処理を行うことができるように、原料ガス流路Uoとガス分離膜Sの間に、冷却部C、気液分離部D、副生ガス流路G、加熱部H、副生液流路L、副生ガス流路Gに設けられた圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)、および副生液流路Lに設けられた液面検知部LC1と制御弁LCV1のいずれかが付加的に配設されて構成される。
【0035】
本プロセス2は、原料ガスにさらに多くの成分Bが含まれる場合、ミスト発生を防ぐために適用することが好ましい。原料ガスの1次冷却処理および1次気液分離処理によって、ガス分離膜Sへの供給ガス中の凝縮性成分の濃度を低めかつ成分Aの濃度を高めることができ、ガス分離膜Sによる選択的分離処理の負荷の低減を図ることができる。また、予め解析した相関関数を利用して残留ガス中の成分Aの濃度Xから残留ガス圧力Prを制御することによって、ガス分離膜Sの1次側のガス中での液化を防止しつつ、より高い回収率を確保できるようになる。
【0036】
ここで、ガス分離膜Sへの副生ガス流路Gに加熱部Hを設けることが好ましい。ガス分離膜Sは、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが必要であり、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜S自体の変質を齎すことがある。また、原料ガス中に凝縮性成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この凝縮性成分が難透過性ガス(成分B)であるとき、ガス分離の進行に従い、ガス分離膜Sの1次側(非透過側)のガス中に成分Bが濃縮し液化する恐れがある。そのため、原料ガス流路Uoに設けられた冷却部Cによって例えば約40℃(夏季の条件)まで原料ガスを冷却し、気液分離部Dによって成分Bを分離後、加熱部Hにて加熱することにより、ガス分離膜Sでの液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0037】
<本発明に係るガス製造プロセスの第2構成例>
本発明に係るガス製造プロセスの第2構成例を図5に示す。基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、複数段のガス分離膜S1,S2,・・Snを用い、前段のガス分離膜の残留ガス流路を後段のガス分離膜の供給ガス流路に接続し、カスケード接続を形成する。図5においては、2つのガス分離膜を用いた場合の構成を例示し、以下「本プロセス3」という。つまり、第1ガス分離膜S1の第1残留ガス流路R1を第2ガス分離膜S2の供給ガス流路に接続することによって、その第1透過ガス流路T1から第1透過ガスを取り出し、第2透過ガス流路T2から第2透過ガスを取り出すことが可能となる。第1ガス分離膜S1の第1残留ガス流路R1には、圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1)が設けられ、第2ガス分離膜S2の第2残留ガス流路R2には、圧力調整手段PCr2(圧力制御弁PCV2および圧力調節計PC2)が設けられ、それぞれ第1残留ガス圧力Pr1および第2残留ガス圧力Pr2を制御する。
【0038】
カスケードサイクルは、各段の透過ガス圧力を異なる値にでき、複数の純度条件の透過ガスを得ることができること、また、前段の残留ガスを原料にして、さらに透過ガスを得て回収率を上げ得るとの利点から良く利用される。また、各段のガス分離膜の膜の材質など変えることにより最適な構成が可能となる。特に、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含有する原料ガスの場合には、第1ガス分離膜S1と第2ガス分離膜S2の膜面積を適切に選択することによって、第1ガス分離膜S1で露点の制約の限界まで回収を行っても、第2ガス分離膜S2の残留ガス圧力を第1段より低くすると液化が生じ難くなるので、さらに回収を行うことができる。
【0039】
本プロセス3においては、カスケードサイクルに基づく機能に加え、さらに第1,第2ガス分離膜S1,S2に供給するガスの温度を変更する工程を追加し、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Z1,Z2の基準値Z1a,Z2aを設定すること、および(ii)第1,第2残留ガス圧力Pr1,Pr2と第1,第2残留ガス中の成分Aの濃度X1,X2の間の相関関数を予め解析し、運転操作において、この相関関数を利用し、第1,第2残留ガス中の成分Aの濃度から、残留ガス露点Z1,Z2が、基準値Z1a,Z2a以下になるように監視・制御することによって、第1,第2ガス分離膜S1,S2の1次側のガス中での液化を防止することができるとともに、減量操作時の処理条件の変化にも柔軟に対応することが可能となる。
【0040】
ここで、図6に例示するように、第1ガス分離膜S1への原料ガス流路Uoに加熱部H1を設け、第2ガス分離膜S2への第1残留ガス流路R1に加熱部H2を設けることが好ましい。第1,第2ガス分離膜S1,S2について適切な温度でガス分離を行うことにより、第1,第2ガス分離膜S1,S2での液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0041】
〔本プロセス3の変形例〕
本プロセス3の変形例(本プロセス4)を図7に示す。つまり、基本的な構成は、第2の構成例と同様であるが、図7においては、予め原料ガスの1次処理を行うことができるように、原料ガス流路Uoと第1ガス分離膜S1の間に、冷却部C、気液分離部D、副生ガス流路G、加熱部H、副生液流路L、副生ガス流路Gに設けられた圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)、および副生液流路Lに設けられた液面検知部LC1と制御弁LCV1が付加的に配設されて構成される。本プロセス4は、本プロセス2と同様、原料ガスにさらに多くの難透過性かつ凝縮性の成分が含まれる場合に適用することが好ましい。
【0042】
〔本プロセス3の他の構成例〕
なお、上記本プロセス3においては、ガス分離膜を2段設けカスケードに接続した場合について説明したが、さらに多数のガス分離膜を用いて、その機能を活かし汎用性の高いガス製造プロセスとすることも可能である。例えば、その一部を第1のガス分離膜として並列的に接続された複数のグループに分け異なる条件の製品ガスを得るようにし、各グループの残留ガスを集合して第2のガス分離膜に供給するよう変更することも可能である。
【0043】
また、後段の第2ガス分離膜S2の第2残留ガス流路R2に第3ガス分離膜を設けて、本発明のような構成または機能を適用することが可能である。さらに、第4、第5と順にこうしたガス分離膜からなる構成を複数配列することによって、個々の仕様に基づく各製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての高い回収率を確保することが可能である。また、各段のガス分離膜の1次圧力を順次低く制御することにより、一層透過性ガスの回収率を上げることが可能となる。
【0044】
さらに、2つガス分離膜S1,S2を設けた場合において、一方の第1ガス分離膜S1からの製品ガス1と、他方の第2ガス分離膜S2からの製品ガス2を別々に得ることができるが、これらの少なくとも一部を混合して、1つの製品ガスを作製することも可能であり、さらに、複数段のガス分離膜を配列することによって、種々の仕様に基づく各製品ガスの純度を確保し、プロセス全体として高い回収率を確保することが可能である。
【0045】
〔本発明における液化の防止方法〕
一般的な制御方法は、個々の事情によって選定される。ここでは、ガス分離膜の1次側ガス中での液化の防止に係る調整方法における以下の3つの観点について説明する。
(i)ガス分離膜のガス供給温度を上げる。
ガス分離膜の材質により定まる最高使用温度内であれば、ガス供給温度を上げることにより残留ガス露点の基準値を引き上げることができ、液化の防止が可能である。なお、ガス供給温度を上げると膜の特性が僅かに変化し、一般に、回収率は僅かに増加し、純度は僅かに低下することも考慮する必要がある。
(ii)残留ガス圧力Prを下げる。
残留ガス圧力Prを下げると、凝縮性成分の分圧が下がり液化し難くなる。また、残留ガス圧力Prのみを下げると、透過性成分の透過が抑えられ回収率が低下すると同時に、後述の残留ガス中の成分Aの濃度Xが低下する効果も伴う。ただし、ガス分離膜の透過側圧力(2次圧力)を下げ得る場合には、残留ガス圧力Prを下げる操作と同時に2次圧力も下げる操作を行うことによって、上記回収率の低下という副作用を無くすことができる。また、残留ガス流量を変更することによっても、結果的に残留ガス圧力を変更することが可能である。
(iii)残留ガス中の成分Aの濃度Xを上げる。
結果的に、透過ガスの回収率が犠牲になる。具体的方法としては、(ii)で触れた方法以外に、2次圧力を上げる方法がある。ガス分離膜の差圧が少なくなり透過性の成分の透過が抑えられる結果、残留ガス中の成分Aの濃度Xを上げることができる。また、透過ガス流量を変更することによっても、結果的に透過ガス圧力を変更することが可能である。
【実施例】
【0046】
上記の構成例における透過ガスの純度や回収率の数値解析に先立ち、その予備的考察を行った結果を以下に示す。
【0047】
<予備的考察>
(1)多成分系の平衡の基本
n種類の分子からなる多成分系におる平衡は、次式1が基本となる。
φi×yi×P = γi×xi×Pio ・・・(式1)
ここに、Pは圧力、サッフィクスiはi番目の分子種を示し(i=1,2,・・n)、φiはフガシティー係数、γiは活性係数、Pioは純粋成分の蒸気圧、xi、yiはそれぞれ液相、気相のモル分率を示す。
次に、式1を変形して、下式2とおく。
xi = yi×P/PiE ・・・(式2)
ここに、PiEは、実効的な蒸気圧であり、超臨界状態でも使用できる。また、PiEは、主として温度の関数である。厳密には圧力Pや組成yj(j=1,2,・・n)の関数でもあるがここでは無視する。
【0048】
(2)露点の式
露点は、下式3−1の条件に、上式2を代入し、変形して、下式3−2と表される。
【数3】
つまり、各成分の実効的な蒸気圧PiEにつき、温度を変化させて、組成yi(i=1,2,・・n)とともに、式3−2が成立する温度を求めると、それがn種類の成分を含むガスの露点となる。
【0049】
(3)残留ガス露点Zの近似的表現
n種類の分子からなる混合ガスを原料とし、ガス分離膜の原料ガスの組成をyif、残留ガスの組成をyirとする。特に、易透過性かつ非凝縮性の成分Aを1番目の分子種と仮定し、Xo=y1f,X=y1rとおく。
今、ガス分離膜が理想的に機能し、1番目の分子種のみを透過すると仮定すると、下式4−1の条件から、下式4−2と表される。
【数4】
同様に、下式5と表される。
【数5】
【0050】
式4−2、式5より(i=2,3,・・n)に対して、下式6と表される。
yir = yif・(1−X)/(1−Xo) ・・・(式6)
つまり、1番目の分子種以外は(1−X)/(1−Xo)の倍率で濃縮されることが分かる。以上の近似で、残留ガス圧力Prにおける残留ガス露点Zを式3−2に従い評価すると、下式7と表される。
【数7】
つまり、原料ガスの組成を固定すると残留ガス露点Zが一定の条件は、1/PrがX=y1rの1次式で近似できることが示唆される。
【0051】
<数値解析>
次に、上記の構成例に関して、水素ガス製造プロセスを設定し、透過ガスの純度や回収率の数値解析を行った結果を以下に示す。幾つかの原料ガス組成について、ガス分離膜の条件を設定して、残留ガス露点Zを計算してみた(以降の露点計算は状態方程式に基づき算定した)。また、制御方法としては、純度による制約がない場合を想定し、液化の恐れがない範囲でできるだけ回収率を上げ、従って、本発明で提案する相関関数に従って、残留ガス圧力Prを変更する場合を検討した。この方針は、結果的に本発明で提案する制御方法の精度が、同時に確認できるとの利点もある。
【0052】
(1)解析条件
(1−1)原料ガスの組成を表1に示す。Case1〜3の3種類の組成の原料ガスを扱った。Case3はCase1を48.81%、Case2を51.19%の流量割合で混合したものである。意味合いは後述する。なお、ここでは、水素が成分Aに相当する。
【表1】
(1−2)解析に用いたガス分離膜は、第1および第2ガス分離膜ともに、素材をポリアラミド系膜とした。
(1−3)原料ガスのガス分離膜入口温度は、特記しない場合、90℃とした。
(1−4)残留ガス露点Zは、特記しない限り、80℃以下(ガス温度−10℃)を基準とする(基準値Za:80℃)。
(1−5)透過ガスの圧力は、ガス分離膜出口において10bar(abs)とした。カスケード方式の場合も、第1,第2ガス分離膜の透過ガスの圧力は等しくした。
(1−6)Case1、Case2、Case3の原料ガスの流量の最大値は、それぞれ、10,000Nm3/h、10,486Nm3/h、10,243Nm3/hとした。以下「流量」は、この最大値に対する割合(%)によって表示した。
(1−7)圧力基準点
原料ガスの流量が最大のとき、特記しない限り、第1ガス分離膜の供給圧力は、30.8bar(abs)を基準とした。
【0053】
(2)解析結果
上記条件下における解析結果を〔実施例1〕〜〔実施例6〕に示す。
【0054】
〔実施例1〕
[検討1−1]
(i)検討条件
図1に示すような1段のガス分離膜を利用したプロセスで、Case1の原料ガス組成に対して検討した。残留ガス露点Zを、ほぼ基準値Za:80℃になるよう制御した場合を解析した。ガス分離膜の面積は、最大流量(10000Nm3/h)において、前記残留ガス露点Zが80℃になるよう設定した。
(ii)検討結果
表2に示すように、減量が進行する伴い、回収率は顕著に上昇した。なお、この圧力レベルでは原料ガスを40℃まで冷却しても凝縮は起こらなかった。
【表2】
【0055】
[検討1−2]
(i)検討条件
上表2から得られた残留ガス中の水素濃度Xおよび残留ガス圧力Prを基に、上式7に相当する相関を調べるため1/Pr対Xのプロットをする。
(ii)検討結果
図8に示す如く、1/Pr対Xの関係は直線で良く近似できることが分かった。原料ガス流量の100%、40%に対応するデータから1次式を作成し、下式8−1を少し変形し、下式8−2の相関を得た。
X = a1−b1/Pe ・・・(式8−1)
Pe = b1/(a1―X) ・・・(式8−2)
ここで、Peは、相関関数から期待される成分Aの濃度Xに対応する残留ガス圧力を意味する。
【0056】
[検討1−3]
(i)検討条件
上記[検討1−1]と同様に、減量特性を解析した。但し、上記[検討1−2]で得た相関式(式8−2)を利用して、残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
表3に示すように、原料ガス流量の80%、60%に対しては僅かに残留ガス圧力Prが下がり、残留ガス露点Zおよび回収率が下がったが、上記相関関数は充分に実用性があることが分かった。ここで、原料流量80%、60%に対する残留ガス露点Zの80℃からのズレは、この相関関数のある種の精度に相当する。
【表3】
【0057】
[検討1−4]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に減量特性を解析した。ガス分離膜の透過性能が10%低下したと想定した。ここでも、上記[検討1−2]で得た同じ相関式を利用してガス分離膜の残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
表4に示すように、ガス分離膜の透過率の低下のため、100%では、露点が80℃以下となった。80%、60%、40%に対しては残留ガス中の水素濃度Xが上がった結果、僅かに残留ガス圧力Prを上げることにより回収率の低下を少し改善することができた。ここでも、上記相関関数は、充分に実用性があることが分かった。残留ガス圧力Prを減量度の関数で下げる制御の場合には透過率の低下したとき、制御関数の補正が必要になるが、本方法では残留ガス中の水素濃度Xのフィードバックが働くので、補正の必要がないとの特徴があることが分かった。
【表4】
【0058】
〔実施例2〕
[検討2−1]
(i)検討条件
Case2の組成の原料ガスで、〔実施例1〕と同じガス分離膜の面積を使い、定格の圧力条件でガス量を調整すると10,486Nm3/hで残留ガス露点Zが80℃となった。これを最大ガス量として減量特性を調べた。上記[検討1−1]と同様に、残留ガス露点Zが80℃となるように残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
検討結果を表5に示す。
【表5】
【0059】
[検討2−2]
(i)検討条件
上記[検討1−2]と同様に、表5の100%と40%に対応するデータから1次式を作成し、下式9の相関を得て、PeとXの関係式9を作成した。
Pe = b2/(a2―X) ・・・(式9)
この関係式に従い残留ガス圧力Prを調整して解析を行った。
(ii)検討結果
検討結果を表6に示す。原料ガス流量の80%、60%に対しては僅かに残留ガス圧力Prが下がり、残留ガス露点Zおよび回収率が下がったが、上記相関関数は充分に実用性があることが分かった。
【表6】
【0060】
〔実施例3〕
[検討3−1]
(i)検討条件
Case1の組成の原料ガス10,000Nm3/hとCase2の組成の原料ガス10,486Nm3/hを50%ずつ混合してCase3の組成のガス10,243Nm3/hを得た。流量の違いを考慮するとCase1とCase2を48.81%対51.19%の割合で混合したことになる。〔実施例1〕、〔実施例2〕と同じ面積のガス分離膜を用い、残留ガス露点Zが80℃となるよう調整して、減量特性を調べた。
(ii)検討結果
検討結果を表7に示す。99.92%で残留ガス露点Zが80℃となったので、100%に代えてこの値を示した。
【表7】
【0061】
[検討3−2]
(i)検討条件
以上、Case1、Case2の組成の原料ガスに対する相関式8−2および式9を基に、48.81%対51.19%の加重平均を採った相関式10を求め、表7の結果と比較する。つまり、
Pe = b3/(a3―X) ・・・(式10)
ここに、a3 = 0.4881*a1+0.5119*a2
b3 = 0.4881*b1+0.5119*b2
(ii)検討結果
検討結果を図9に示す。上式10でCase3の相関が近似できることが推定できた。
【0062】
[検討3−3]
(i)検討条件
前記、相関式10により残留ガス圧力Prを調整して、Case3の組成の原料ガスの減量特性を解析した。
(ii)検討結果
検討結果を表8に示す。2種類の原料ガスの混合ガスに対し、線形補間法による相関式が充分実用的に利用できることが判明した。
【表8】
【0063】
〔実施例4〕
[検討4−1]
(i)検討条件
ガス分離膜の入口ガス温度を変更した時の検討のための準備として、Case1のガス組成の原料に対し、入口ガス温度が90℃で、残留ガス圧力Prが21barおよび30barで、残留ガス露点Zが74℃、76℃、78℃および80℃となる残留ガス中の水素濃度Xを求める。但し、残留ガス露点Zが74℃に対しては、入口ガス温度84℃の場合も検討する。
(ii)検討結果
検討結果を表9に示す。残留ガス露点Zが74℃に対して、入口ガス温度90℃と入口ガス温度84℃の場合について、表の数値精度の範囲では差異が認められなかった。また、図10にプロットの結果を示す。残留ガス露点Zに関して線形補間の近似が使えることが示唆される。つまり、下式11で表される。
Pe = bt/(at―X) ・・・(式11)
ここに、at = ((Z−74)*a80+(80−Z)*a74)/6
bt = ((Z−74)*b80+(80−Z)*b74)/6
a80、b80は、残留ガス露点Zが80℃における係数
a74、b74は、残留ガス露点Zが74℃における係数
【表9】
【0064】
[検討4−2]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に、減量特性を解析する。但し、この検討のみガス分離膜へのガス供給温度を87℃、残留ガス露点Zの基準値Zbを77℃として、上記[検討4−1]で得た相関式11を利用して残留ガス圧力Prを調整する。
(ii)検討結果
表10に示すように、式11の残留ガス露点Zに関する線形補間の近似が充分に実用的であることが分かった。上記[検討1−3]の表3との比較から、ガス分離膜の供給温度が下がった結果として、水素の純度は上昇し、また回収率は低下した。これはガス分離膜の特性として、水素の透過量の減少と選択性が上がり、また、残留ガス露点Zの基準値Zbが77℃に下げられたため、残留ガス圧力Prを下げる必要があったことの総合的結果である。
【表10】
【0065】
〔実施例5〕
[検討5−1]
(i)検討条件
本実施例のみ原料ガスの圧力を上げて常温近くで原料ガスが一部、凝縮する場合を検討する。このような場合には、図4に示すように原料ガス流路Uoに設けられた冷却部C、気液分離部D、加熱部Hを経由して、原料ガスをガス分離膜Sに供給することが有効である。本発明を適用するに際して、ガス分離膜に供給される原料ガスの組成が重要である。気液分離部の温度および圧力が一定に保たれる場合には、原料ガスの組成に対し気液処理部で生成される副生ガスの組成も固定される。ここでは、気液処理部の温度が変化する場合への適用に関連して、次の検討を行う。
Case1のガス組成の原料に対し、気液処理部の温度が30℃、35℃および40℃の場合について、気液分離部の圧力を32.5bar(abs)に設定し、ガス分離膜へのガス供給温度は90℃に戻し、残留ガス圧力Prが24barおよび30barで、残留ガス露点Zが80℃、となる残留ガス中の水素濃度Xを求める。ここで、ガス分離膜の面積はこれまでと同じとする。
(ii)検討結果
検討結果を表11に示す。気液分離部の温度に関して、水素濃度がほぼ線形に変化することが分かり、相関関数について線形補間の近似が使えることが示唆された。つまり、下式12で表される。
Pe = bs/(as―X) ・・・(式12)
ここに、as=((Td−30)*a40+(40−Td)*a30)/10
bs=((Td−30)*b40+(40−Td)*b30)/10
a40,b40は、気液分離部の温度が40℃の場合の係数
a30,b30は、気液分離部の温度が30℃の場合の係数
Tdは、気液分離部の温度である。
【表11】
【0066】
[検討5−2]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に減量特性を解析した。但し、この検討では気液分離の温度を35℃、として、上記[検討5−1]で得た相関式12を利用して残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
検討結果を表12に示す。気液処理部で凝縮性成分の一部が除去され、副生ガス中の水素濃度が87.14mol%に上昇した相乗効果から、上記[検討1−3]の表3に比較して残留ガス圧力Prを上げることができ、高い水素回収率を得ることができた。残留ガス露点Zもほぼ80℃に近く、線形補間の近似が充分に実用的であることが分かった。
【表12】
【0067】
〔実施例6〕
[検討6−1]
(i)検討条件
図5に示すような2段のガス分離膜S1,S2を利用し、カスケードを構成したプロセスで、Case1の原料ガス組成に対して検討した。各段のガス分離膜の残留ガス露点Z1,Z2を、ほぼ基準値Z1a,Z2aである80℃になるよう制御した場合を解析した。第1段および第2段のガス分離膜の面積は、検討例1の場合のそれぞれ100%、50%とした。
(ii)検討結果
結果は、表13に示す。第1段の検討結果は表2と同様である。第2段の追加の効果で、減量度に応じて水素の回収率が顕著に上昇した。
【表13】
【0068】
[検討6−2]
(i)検討条件
上記[検討1−2]と同様に第2残留ガスに関して残留ガス圧力Prと残留ガス中の水素濃度Xの相関を得て、上記[検討1−3]と同様に各段の残留ガス圧力Prを調整した場合の解析を行った。
(ii)検討結果
結果を、表14に示す。第1段の検討結果は表3と同様である。第2段に関しても、本方法の実用性が確認できた。
【表14】
【0069】
(3)まとめ
上記の結果に示すように、実施例1〜6のいずれについても、各種パラメータを用いる場合も含め、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間に所定の相関関数が選定でき、充分実用的な精度で利用できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る製造プロセスの基本の構成例(第1構成例)を示す説明図
【図2】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の応用例の1つを示す説明図
【図3】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の他の応用例を示す説明図
【図4】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の変形例を示す説明図
【図5】本発明に係る製造プロセスの第2構成例を示す説明図
【図6】本発明に係る製造プロセスの第2構成例の応用例を示す説明図
【図7】本発明に係る製造プロセスの第2構成例の変形例を示す説明図
【図8】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図9】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図10】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図11】従来技術に係る製造プロセスの基本構成を例示する説明図
【図12】従来技術に係る製造プロセスの他の1の構成を例示する説明図
【図13】従来技術に係る製造プロセスの他の2の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0071】
APo 原料ガスの分析ポート
APr,APr1,APr2 残留ガスの分析ポート
APt,APt1,APt2 透過ガスの分析ポート
C 冷却部
D 気液分離部
FC1,FC2 流量調節計
FCr1,FCr2 流量調整手段
FCV1,FCV2 流量制御弁
G 副生ガス流路
H、H1,H2 (第1,第2)加熱部
L 副生液流路
LC1 液面検知部
LCV1 制御弁
Pr 残留ガス圧力
PCo,PC1,PC2 圧力調節計
PCro,PCr1,PCr2 圧力調整手段
PCVo,PCV1,PCV2 圧力制御弁
R1,R2 (第1,第2)残留ガス流路
S,S1,S2 (第1,第2)ガス分離膜
T1,T2 (第1,第2)透過ガス流路
Uo 原料ガス流路
Ts 原料ガスの供給温度
Td 気液分離部の温度
X 残留ガス中の水素濃度(成分A)の濃度
Z 残留ガス露点
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜を用いたガス製造方法に関し、具体的には、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、易透過性かつ非凝縮性の成分に富んだ透過ガスと前記成分が減少した残留ガスに分離するガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場または各種の化学プロセス工場などにおいては、各工程における原料ガスまたは処理ガスとして所定量の純度の高いガスが必要とされ、入手容易で低コストの原料からこうしたガスを分離して連続的に使用することが多く行われる。具体的には、例えば、空気から富化酸素ガスと富化窒素ガスのいずれかまたは両方を得る場合、ナフサ分解ガスから水素(H2)を分離濃縮する場合、有機物蒸気を含むガス混合物から有機物蒸気を分離回収する場合、水性ガスからH2を分離する場合などが該当する。かかる工程においては、装置が小型で簡便であることから、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製品として取り出す方法が採られることが多い。
【0003】
こうしたガス分離膜を用いたガス製造方法においては、図11に例示するような、圧縮機102、乾燥器108、加熱器109、ガス分離膜101を備えたガス分離部103、残留側圧力調整弁110、冷却器113透過側圧力調整弁111を備えた系を基本として、所望の用途や仕様に応じた種々の構成が用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
【0004】
例えば、比較的高圧の水素ガスおよび比較的低圧の水素ガスの製品を必要とする場合、図12に示すようなカスケードサイクルが有効であることはよく知られている。この例にあっては、2組のガス分離膜201(第1ガス分離膜201a及び第2ガス分離膜201b)が組み合わせて使用される。この構造にあっては、原料ガスg1は、第2ガス分離膜201bの透過性ガスg2aaと合流され、圧縮後、第1ガス分離膜201aに供給される。この状態で、第1ガス分離膜201aによる透過性ガスg2aが産出され、その残留性ガスg2bは、第2ガス分離膜201bの原料ガスとして供給される。この第2ガス分離膜201bでは、残留性ガスが産出される。それからの透過性ガスg2aaは、元々の原料ガスと合流することにより再利用される(例えば特許文献1参照)。ここで、図12においては、第2ガス分離膜201bからの透過性ガスg2aaが再利用される構成として例示されているが、透過性ガスg2aを高圧製品ガスとして取り出し、透過性ガスg2aaを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0005】
また、並列サイクルとして、図13に例示するような、空気から富化窒素ガスを分離回収するシステムを挙げることができる。図13では、2本の中空糸分離膜モジュール312、313が並列で用いられており、供給ガスは前処理を終わったあと分岐してそれぞれのモジュール312、313へ供給され、それぞれの中空糸分離膜モジュール312、313で得られた富化窒素ガスは合流して製品ガス出口324へ導かれている。空気取入口301から採取された空気はダストフィルター302で空気中の浮遊粒子などを除去されコンプレッサー303へ供給される。ここで加圧された空気は、中空糸ガス分離膜モジュール312、313のガス供給口から膜の供給側へ流される。透過した透過ガスは、膜の透過側を流れてモジュールの透過ガス排出口を経由して透過ガス排出流となり、配管の途中で流量調節弁316、317で流量を絞られたのち系外へ排出される(例えば特許文献2参照)。ここで、図13のシステムにおいては、富化窒素ガスを製品ガスとして回収する場合を表しているが、透過ガス排出流は富化酸素ガスであり、これを製品ガスとして回収することも可能である。このとき、並列の中空糸分離膜モジュール312、313に供給する空気の圧力や流量を各々独立的に調整することによって、一方の透過性ガスを高圧製品ガスとして取り出し、他方の透過性ガスを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−33222号公報
【特許文献2】特開2002−35530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガス分離膜を利用してガスを製造する場合、製品の純度と回収率が主要な特性となる。一般に、製品ガスの用途に応じて、所要の純度が定まり、その範囲で回収率をできるだけ確保するとの方針で検討を行いプロセスや減量操作を含めた制御方法を決定する。しかしながら、難透過性かつ凝縮性の成分を含む複数の成分を含有する原料ガスに対しては、上記方法によっては、いくつかの課題が生じることがあった。つまり、
(i)ガス分離膜自体の変質を齎すことがあるので、ガス分離膜の1次側のガス中でのミストの生成を回避する必要がある。より詳細には、原料ガス中に凝縮性成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この凝縮性成分が難透過性ガスであるとき、ガス分離の進行に従い、ガス分離膜の1次側(非透過側)のガス中に凝縮性成分が濃縮し液化する恐れがあることから、例えば約40℃(夏季の外気条件)まで原料ガスを冷却し、凝縮液化成分を分離後、加熱手段にて加熱することにより、ガス分離膜での液体ミストの生成の恐れを回避する必要があった。
(ii)しかし、ガス分離膜の分離特性や高温耐性などの関係から加熱温度に限界があるので、透過ガスの所望成分の回収率(以下「回収率」という)を上昇しようとすると、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化する恐れが残ることから、回収率を制限し、またはガス分離膜の1次圧力を下げて、液化を回避するとの対策がなされてきた。
なお、本発明ではガス分離膜の1次側のガス中に凝縮性成分の濃縮に伴う液化を避けることに注目する。透過の進行に伴い、凝縮性成分の濃縮が進行するので、残留ガス出口(直近)のガスが最も液化し易い状態となる。従って、残留ガス出口のガスの圧力下の露点が重要となり、露点がガス分離膜でのガス温度に比較して低いならば、ガス分離膜の1次側のガス中で液化が起こらないこととなる。実際には、原料ガス組成や運転条件の変動などを考慮して、ガス分離膜のガス温度に対し僅かに(例えば10℃)低く、前記露点の基準値を設定して運用するのが望ましい。以下、ガス分離膜の残留ガス出口直後の圧力を「残留ガス圧力」といい、ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における残留ガス圧力下の露点を「残留ガス露点」、ガス分離膜の残留ガスの流量を「残留ガス流量」、透過ガスの圧力および流量を「透過ガス圧力」および「透過ガス流量」という。
(iii)一方、こうした流路内での液化を防止するためには、実際のプロセスにおける圧力条件での露点を測定することが好ましい。このとき、該プロセスには種々のガス種または圧力や温度条件の原料ガスまたは処理ガスが流路内を流通することから、こうした条件下においても所定の精度や耐久性を有する方法や装置が要求される。しかしながら、こうした種々の条件に対応可能な流路内ガスの露点計測、特に連続測定は困難性が高く、実用化されていない、あるいは存在しても非常に高価なため使用し難いのが現状である。
【0008】
本発明の目的は、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分を含む複数の成分を含有する原料ガスから所望の成分を回収するに際し、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分に富んだ透過ガスと該成分が減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることにある。特に、減量操作に際して、さらに高い回収率を得ることを目的とする。なお、本願において、単に「回収率」とした場合には、製品ガス中の所望の成分の流量の総計の、原料ガス中の所望の成分の流量に対する割合を意味する。また、最終残留ガスまたは副生液は、副製品として利用される場合も含むこというまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す透過ガスおよび副生ガスの製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。なお、同一機能の要素について、上流側を第1、1次または前段、下流側を第2、2次または後段という。
【0010】
本発明は、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含む複数の成分を含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分Aが減少した残留ガスに分離するガス製造方法であって、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、前記ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記基準値Za以下になるように監視するとともに、前記基準値Zaを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0011】
複数の成分を含む原料ガスから易透過性かつ非凝縮性の成分(本発明において「成分A」とする。)や難透過性かつ凝縮性の成分(本発明において「成分B」とする。)を回収し、所望の純度や回収率を確保する方法として、選択的透過性を有するガス分離膜による分離機能を利用する方法や、各成分の凝縮性の相違に基づく気液分離機能を利用する方法がある。本発明は、原料ガスに成分Bが含まれる場合、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で成分Bが液化することを回避する方法を提案し、成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることを図るものである。
【0012】
後程、実施例で詳細に述べるように、多成分系の気液平衡論に基づく露点の公式とガス分離膜の理想化した特性から、ガス分離膜へ供給される原料ガス組成および残留ガス露点(以下「残留ガス露点Z」という)を固定したとき、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xとの間に1/PrとXが線形の相関を有することの知見を得た。この所定の相関を有することは、具体的事例で、数値値解析によっても確認された。従って、原料ガス組成やガス分離膜の特性を基に、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)残留ガス圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、減量操作を含む実際の運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜の作動条件を監視して、もし必要なら、残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値のいずれかの調整を行うことによって、膜の1次側での凝縮性成分の液化を回避することが可能となる。なお、残留ガス圧力を下げる調整を行うと透過ガスの回収率が低下するが、それに伴い、残留ガス流量が増加すると同時に残留ガス中の成分Aの濃度が増加する。つまり、圧力が下がることと成分Aの濃度が増加することの相乗効果で残留ガス露点Zが低下して基準値以下に戻すことができる。
【0013】
このように、本発明によって、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避して、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス製造方法を提供することが可能となる。
【0014】
なお、ここで、「ガス分離膜」とは、1つの膜モジュールを用い供給ガス、透過ガスおよび残留ガスの各流入出路を設けた場合だけではなく、複数の膜モジュールを必要数並列に配設して、各々の供給ガス、透過ガスおよび残留ガスの各流入出路毎に統合して構成した場合を含むものとする。また、「凝縮性成分」とは、凝縮処理に対して凝縮性を有する成分をいい、ガス分離膜に対する透過性の容難に限定されるものではない。「易透過性かつ非凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して易透過性を有し、かつ凝縮処理に対して非凝縮性を有する成分をいい、具体的には、後述の実施例において、例えば原料ガス中に、水素、メタン、ブタン、ペンタンが混在する場合についての水素をいう。これに対し後述する「難透過性かつ非凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して難透過性を有し、かつ凝縮処理に対して非凝縮性を有する成分をいい、上記例におけるメタンをいい、「難透過性かつ凝縮性の成分」とは、ガス分離膜に対して難透過性を有し、かつ凝縮処理に対して凝縮性を有する成分をいい、上記例におけるブタンおよびペンタンをいう。また、本発明は、原料ガス中に透過性かつ凝縮性の成分(例えば、後述の実施例における原料ガス中に水分)が少量含まれる場合にも本質的に同様の効果がある。従って、本発明は、このような場合を含むことを注記しておく。また、ここでいう「圧力と連動するプロセス値」とは、圧力変化に伴い変化するプロセス値をいい、残留ガス圧力に対する残留ガス流量や透過ガス圧力に対する透過ガス流量を挙げることができる。以下の説明において、圧力を制御対象とする場合には、基本的には「圧力と連動するプロセス値」を含むものとする。以下同様である。
【0015】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記ガス分離膜への原料ガスの供給流路に加熱処理工程を有する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記露点Zを含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0016】
高分子製ガス分離膜の一般的特性として、高温ほど透過率が高い反面、低温ほど選択性(易透過性成分と難透過性成分の透過率の比)が高いとの傾向がある。従って、製造する製品ガスの用途に応じて、回収率を確保することが優先のときには膜材質の許容する範囲で高温での運転が望ましい。一方、純度が優先の時には低温での運転が望ましい。従って、運転状況によって、ガス分離膜へのガス供給温度を変更することが有効になることがある。前記供給温度を変更すると露点の基準値も変化するので、上記方法をそのまま適用することはできない。そのため、ガス供給温度の変更を考慮して上記方法を拡張する。前記ガス供給温度に応じて定まる残留ガス露点Zの基準値Zbを設定する。前記ガス供給温度の変更範囲に対応して露点の変更範囲が定まる。いくつかの露点において、前述の方法で残留ガス圧力と残留ガス中の成分Aの濃度の間の相関関数を解析すると、後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして残留ガス露点Zを含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。
【0017】
従って、前記相関関数の解析を、パラメータとして残留ガス露点Zを含む形で予め行い、運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、残留ガス露点Zが前記供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、基準値Zbを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値および/または前記供給温度の調整を行うことにより、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することが可能となる。なお、ガス分離膜の材質により定まる使用温度の上限に対して余裕がある場合には、前記供給温度を上昇することによって基準値Zbを上昇することができ、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することが可能となる。
【0018】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして各原料ガスの混合割合を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記原料ガスの混合割合と残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0019】
ガス分離膜を用いたガス製造プロセスにおいては、複数の製造ラインからの組成の異なる原料ガスを混合し、供給されることがある。こうした場合、ガス分離膜に供給される混合ガスの組成は、その混合割合と各原料ガスの組成の相違により変化する。そのため、残留ガス露点Zが変化することから、上記のような相関関数をそのまま適用することができない。後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして混合割合を含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。従って本発明は、各原料ガスの混合割合が確認できる場合や推定できる場合に、相関関数の解析をパラメータとして原料ガスの混合割合を含む形で予め行うことによって、より適正な制御が可能となることを見出したもので、基準値Zaを原料ガスの供給温度に基づいて設定し、前記相関関数を利用して残留ガス中の特定の成分(成分A)の濃度から残留ガス圧力を制御することによって、ガス分離膜の1次側のガス中での凝縮性成分の液化を防ぐことが可能となる。
【0020】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記原料ガスを前記ガス分離膜に供給する工程に先駆け、
(U1)前記原料ガスを気液分離処理または冷却処理と気液分離処理を行う工程
(U2)前記気液分離処理により得られた主として前記成分Bからなる副生液を取り出す工程
(U3)前記気液分離処理により得られた前記成分Bの減少した副生ガスを取り出す工程
(U4)前記気液分離処理の圧力を一定に保持する工程
(U5)前記副生ガスを加熱処理する工程
を含む場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記気液分離処理の温度を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記気液分離処理の温度および残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0021】
ガス分離膜を用いたガス製造方法で、原料ガスをガス分離膜に供給する工程に先駆け、原料ガスの気液分離処理を行うと凝縮性成分を事前に除去できるのでガス分離膜での処理効率を上げることができ有効である。但し、原料ガス組成が一定であっても気液分離機能で生成された副生ガス成分のみが加温後、ガス分離膜に供給されるので、ガス分離膜に供給されるガスの組成は気液処理工程の圧力および温度により変化する。上記方法では、ガス分離膜への供給ガス組成を一定としているのでそのままでは適用できない。ここで、気液処理の圧力は圧力保持機能を付加することで一定とできる。従って、気液分離機能の温度の変化(季節による冷却水の温度変化などにより齎されることを想定)に対する拡張が問題として残る。後程、実施例で詳細に述べるように、パラメータとして気液分離機能の温度を含む形に相関関数を拡張できるとの知見を得た。従って相関関数の解析を、パラメータとして気液分離処理の温度を含む形で予め行い、この温度と残留ガス中の成分Aの濃度の計測値から残留ガス圧力またはガス分離膜への原料ガスの供給温度を制御することによって、ガス分離膜の1次側のガス中での凝縮性成分の液化を防ぐことが可能となる。
【0022】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記ガス分離膜を複数段利用し、前段のガス分離膜の残留ガスを後段のガス分離膜に供給し、カスケード接続を形成し、またはさらに各段のガス分離膜ガスに供給するガスの温度を変更する工程を追加し、原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、各段のガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Z1,Z2・・Znの基準値Z1a,Z2a・・Znaを設定し、残留ガス圧力および残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用し、各段の残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Z1,Z2・・Znが、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下になるように監視するとともに、前記基準値のいずれかを超える場合、対応する段の前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。
【0023】
通常、カスケードサイクルは、純度の異なる複数の製品ガスを作製する場合などに、複数段のガス分離膜を用い、各透過ガスを製品ガスとすることで、比較的小さな膜面積であっても所定の製品純度および回収率を確保することができる。このカスケードサイクルの一般的利点に加え、本発明によれば、各段の相関関数を事前に解析しておき、運転操作に利用することができ、各段のガス分離膜の1次側のガス中で成分Bが液化することを回避しつつ、さらに高い回収率を確保てきる。また、一般に圧力が低いほど露点が低く抑えやすいので、各段のガス分離膜の1次圧力を順次低く制御することにより、順次後段のガス分離膜に供給されるに従い、成分Bが濃縮されても、液化することを避けることが可能となり、さらに、透過性ガスの回収率を上げることが可能となる。あるいは、前段と後段のガス分離膜に膜材質を異なるものを採用し、後段の方が高い温度限界まで使用できるようにして、後段ほど高い温度で制御すると成分Bが濃縮されても、液化することを避けることが可能となり好都合である。従って、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス製造方法を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るガス製造方法を適用することによって、汎用的かつ安価な方法で、ガス分離膜の1次側のガス中で凝縮性成分が液化することを回避する方法を提案し、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと成分Aが減少した残留ガスに分離し、所望の純度を確保しつつ、可能な限り高い回収率を得ることができるガス成分および凝縮性成分の製造方法を提供することが可能となる。特に、減量操作に際して、さらに高い回収率を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ここでは、選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、複数の成分からなり難透過性かつ凝縮性の成分Bを含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分Aが減少した残留ガスに分離するガス製造プロセスにおいて、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、残留ガス露点Zの基準値Zaを設定し、残留ガス圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、残留ガス露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合、残留ガス圧力、透過ガス圧力もしくはこれと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする。なお、ガス分離膜を用いるプロセスに要求される条件は、上流、下流のプロセス構成や製品ガスの用途により、様々に変化し、それに応じてその運転条件や制御方法が選定されるのでここでは典型的な例を挙げた。また、本発明は、以下に述べる構成例に限定されるものでなく、ガス分離膜プロセス一般に上記特徴を組み合わせることにより、多くの変形や拡張が可能である。
【0026】
<本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造プロセスの基本構成例>
図1に、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造プロセス(以下「本プロセス」という。)の第1構成例(本プロセス1)を示す。具体的には、原料ガス流路Uo、ガス分離膜S、透過ガス流路T1、残留ガス流路R1、残留ガス流路R1に設けられた圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1)、および制御部(図示せず)から構成される。ここで、ガス製造プロセスの性能確認用に、原料ガスの分析ポートAPo,透過ガスの分析ポートAPtおよび残留ガスの分析ポートAPr(ガスクロ分析計などによるバッチ分析に利用する)が設けられている。なお、分析ポートに代え、濃度計測手段を設けることも可能である。詳細は後述する。
【0027】
本プロセス1は、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、減量操作を含む実際の運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、凝縮性成分の液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図るものである。具体的な制御方法は後述するが、残留ガス中の成分Aの濃度Xの計測値から、残留ガス露点Zが基準値Za以下になるように監視するとともに、基準値Zaを超える場合には、基準値Za以下になるようにガス分離膜Sの残留ガス圧力Prを制御する方法が採られる。
【0028】
本プロセス1においては、残留ガス圧力Prの制御を、残留ガス流路R1に設けられた圧力調整手段PCr1によって行う構成を例示しているが、圧力調整手段PCr1を原料ガス流路Uoまたは別途バイパス流路を追加してそこに配設する構成等、これに限定されるものでないことはいうまでもない。また、残留ガス圧力Prの制御に代え、残留ガス圧力Prと連動するプロセス値として、残留ガス流量を制御することも可能である。以下同様である。
【0029】
原料ガスは、精製ガスまたは粗製ガスを精製処理されたガスを供給することが好ましく、具体的には、精製空気、精製ナフサ分解ガス、精製改質ガス、精製水性ガス、精製天然ガスなどが該当する。原料ガスの供給条件は、通常、環境温度とし、流量約1,000〜100,000[Nm3/h]の上記各種ガスが使用される。また、圧力条件は、透過ガスの用途などによって異なるが、1〜50[bar(abs)]程度に加圧して使用する。
【0030】
ガス分離膜Sは、原料ガスまたは透過ガスの種類によって、最適な素材や容量(表面積)または形状などが選択される。ガス分離膜Sの素材として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーンゴム、ポリスルフォン、酢酸セルロース、ポリアラミド(PA)やポリイミド(PI)などの分離膜を挙げることができる。本プロセス1においては、これらに限定されるものではない。
【0031】
ここで、図2に例示するように、ガス分離膜Sへ原料ガスを供給する原料ガス流路Uoに、加熱手段(加熱部H)を設けることが好ましい。ガス分離膜Sは、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが望ましく、原料ガスを適切な温度まで加熱することが必要となる。また、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜Sの膜の材質によってはその変質を齎すことがある。より詳細には、原料ガス中に高沸点成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この高沸点成分が難透過性ガス(成分B)であるとき、ガス分離膜Sの1次側のガス中に成分Bが濃縮し液化する恐れがある。そのため、原料ガス流路Uoに設けられた加熱部Hにて加熱することにより、ガス分離膜Sでの液体ミストの生成の恐れを回避することができる。このとき、事前に(i)成分Bが液化することを回避するためにガス分離膜Sへの原料ガスの供給温度Ts(以下「原料供給温度Ts」という)により定まる残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)パラメータとして残留ガス露点Zを含む形で、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、ガス分離膜Sの1次側のガス中での成分Bの液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図ることができる。
【0032】
また、上記ガス分離膜を用いたガス製造プロセスであって、成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合には、図3に示すように(2つの原料ガスの場合を例示)、原料供給流路U1に流量調整手段FCr1(流量制御弁FCV1および流量調節計FC1)を配設し、原料供給流路U2に流量調整手段FCr2(流量制御弁FCV2および流量調節計FC2)を配設することによって、原料ガスの混合割合を把握することが好ましい。つまり、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するために原料供給温度Tsにより定まる残留ガス露点Zの基準値Zaを設定すること、および(ii)パラメータとして各原料ガスの混合割合Moを含む形で、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間の相関関数を予め解析し、運転操作時において、この相関関数を利用してガス分離膜Sの作動条件を最適に制御することによって、凝縮性成分の液化を回避しつつ成分Aおよび成分Bについて所望の高い純度や回収率の向上を図ることができる。
【0033】
分析ポートAPo,APrおよびAPtから採取したガスは、ガスクロマトグラフィーなどを使用してバッチ分析を行い、定期的な分析結果から、原料ガス組成の安定性やプロセスの性能の監視に利用できる。濃度計測手段は、所望の成分、つまり製品ガス成分に対して選択性の高い分析計が好ましく、連続分析で信頼できるものが好ましい。また、製品ガスに対して化学的な変化を生じさせない分析計が好ましい。例えば、成分が水素の場合には熱伝導度式分析計や成分がメタンの場合には赤外線吸光式分析計などを挙げることができる。また、バッチ分析と連続分析を併用する方式も可能である。より信頼できるバッチ分析の結果から連続分析計の誤差を確認しつつ、微調整の判断に供することができる。
【0034】
〔本プロセス1の変形例〕
本プロセス1の変形例(本プロセス2)を、図4に示す。基本的な構成は第1構成例と同様であるが、原料ガス流路Uoに追加的に、
(a1)原料ガスの気液分離部Dまたは冷却部Cと気液分離部D
(a2)気液分離部Dにより得られた主として成分Bからなる副生液が取り出される副生液流路L
(a3)気液分離部Dにより得られた成分Bの減少した副生ガスが取り出される副生ガス流路G
(a4)気液分離部Dの内部圧力Poを一定に保持する圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)
(a5)副生ガス流路Dに設けられた加熱部H
で構成される。原料ガスの減量操作においても、ガス分離膜Sの残留ガス圧力Prに対して、気液分離部Dの1次圧力Poを独立に一定値に保持することが可能となる。なお、原料ガスの温度によっては、原料ガスは、破線aで示すように、冷却部Cと気液分離部Dの中間に設けることができる。予め原料ガスの1次処理を行うことができるように、原料ガス流路Uoとガス分離膜Sの間に、冷却部C、気液分離部D、副生ガス流路G、加熱部H、副生液流路L、副生ガス流路Gに設けられた圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)、および副生液流路Lに設けられた液面検知部LC1と制御弁LCV1のいずれかが付加的に配設されて構成される。
【0035】
本プロセス2は、原料ガスにさらに多くの成分Bが含まれる場合、ミスト発生を防ぐために適用することが好ましい。原料ガスの1次冷却処理および1次気液分離処理によって、ガス分離膜Sへの供給ガス中の凝縮性成分の濃度を低めかつ成分Aの濃度を高めることができ、ガス分離膜Sによる選択的分離処理の負荷の低減を図ることができる。また、予め解析した相関関数を利用して残留ガス中の成分Aの濃度Xから残留ガス圧力Prを制御することによって、ガス分離膜Sの1次側のガス中での液化を防止しつつ、より高い回収率を確保できるようになる。
【0036】
ここで、ガス分離膜Sへの副生ガス流路Gに加熱部Hを設けることが好ましい。ガス分離膜Sは、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが必要であり、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜S自体の変質を齎すことがある。また、原料ガス中に凝縮性成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この凝縮性成分が難透過性ガス(成分B)であるとき、ガス分離の進行に従い、ガス分離膜Sの1次側(非透過側)のガス中に成分Bが濃縮し液化する恐れがある。そのため、原料ガス流路Uoに設けられた冷却部Cによって例えば約40℃(夏季の条件)まで原料ガスを冷却し、気液分離部Dによって成分Bを分離後、加熱部Hにて加熱することにより、ガス分離膜Sでの液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0037】
<本発明に係るガス製造プロセスの第2構成例>
本発明に係るガス製造プロセスの第2構成例を図5に示す。基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、複数段のガス分離膜S1,S2,・・Snを用い、前段のガス分離膜の残留ガス流路を後段のガス分離膜の供給ガス流路に接続し、カスケード接続を形成する。図5においては、2つのガス分離膜を用いた場合の構成を例示し、以下「本プロセス3」という。つまり、第1ガス分離膜S1の第1残留ガス流路R1を第2ガス分離膜S2の供給ガス流路に接続することによって、その第1透過ガス流路T1から第1透過ガスを取り出し、第2透過ガス流路T2から第2透過ガスを取り出すことが可能となる。第1ガス分離膜S1の第1残留ガス流路R1には、圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1)が設けられ、第2ガス分離膜S2の第2残留ガス流路R2には、圧力調整手段PCr2(圧力制御弁PCV2および圧力調節計PC2)が設けられ、それぞれ第1残留ガス圧力Pr1および第2残留ガス圧力Pr2を制御する。
【0038】
カスケードサイクルは、各段の透過ガス圧力を異なる値にでき、複数の純度条件の透過ガスを得ることができること、また、前段の残留ガスを原料にして、さらに透過ガスを得て回収率を上げ得るとの利点から良く利用される。また、各段のガス分離膜の膜の材質など変えることにより最適な構成が可能となる。特に、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含有する原料ガスの場合には、第1ガス分離膜S1と第2ガス分離膜S2の膜面積を適切に選択することによって、第1ガス分離膜S1で露点の制約の限界まで回収を行っても、第2ガス分離膜S2の残留ガス圧力を第1段より低くすると液化が生じ難くなるので、さらに回収を行うことができる。
【0039】
本プロセス3においては、カスケードサイクルに基づく機能に加え、さらに第1,第2ガス分離膜S1,S2に供給するガスの温度を変更する工程を追加し、事前に(i)凝縮性成分が液化することを回避するための残留ガス露点Z1,Z2の基準値Z1a,Z2aを設定すること、および(ii)第1,第2残留ガス圧力Pr1,Pr2と第1,第2残留ガス中の成分Aの濃度X1,X2の間の相関関数を予め解析し、運転操作において、この相関関数を利用し、第1,第2残留ガス中の成分Aの濃度から、残留ガス露点Z1,Z2が、基準値Z1a,Z2a以下になるように監視・制御することによって、第1,第2ガス分離膜S1,S2の1次側のガス中での液化を防止することができるとともに、減量操作時の処理条件の変化にも柔軟に対応することが可能となる。
【0040】
ここで、図6に例示するように、第1ガス分離膜S1への原料ガス流路Uoに加熱部H1を設け、第2ガス分離膜S2への第1残留ガス流路R1に加熱部H2を設けることが好ましい。第1,第2ガス分離膜S1,S2について適切な温度でガス分離を行うことにより、第1,第2ガス分離膜S1,S2での液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0041】
〔本プロセス3の変形例〕
本プロセス3の変形例(本プロセス4)を図7に示す。つまり、基本的な構成は、第2の構成例と同様であるが、図7においては、予め原料ガスの1次処理を行うことができるように、原料ガス流路Uoと第1ガス分離膜S1の間に、冷却部C、気液分離部D、副生ガス流路G、加熱部H、副生液流路L、副生ガス流路Gに設けられた圧力調整手段PCro(圧力制御弁PCVoおよび圧力調節計PCo)、および副生液流路Lに設けられた液面検知部LC1と制御弁LCV1が付加的に配設されて構成される。本プロセス4は、本プロセス2と同様、原料ガスにさらに多くの難透過性かつ凝縮性の成分が含まれる場合に適用することが好ましい。
【0042】
〔本プロセス3の他の構成例〕
なお、上記本プロセス3においては、ガス分離膜を2段設けカスケードに接続した場合について説明したが、さらに多数のガス分離膜を用いて、その機能を活かし汎用性の高いガス製造プロセスとすることも可能である。例えば、その一部を第1のガス分離膜として並列的に接続された複数のグループに分け異なる条件の製品ガスを得るようにし、各グループの残留ガスを集合して第2のガス分離膜に供給するよう変更することも可能である。
【0043】
また、後段の第2ガス分離膜S2の第2残留ガス流路R2に第3ガス分離膜を設けて、本発明のような構成または機能を適用することが可能である。さらに、第4、第5と順にこうしたガス分離膜からなる構成を複数配列することによって、個々の仕様に基づく各製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての高い回収率を確保することが可能である。また、各段のガス分離膜の1次圧力を順次低く制御することにより、一層透過性ガスの回収率を上げることが可能となる。
【0044】
さらに、2つガス分離膜S1,S2を設けた場合において、一方の第1ガス分離膜S1からの製品ガス1と、他方の第2ガス分離膜S2からの製品ガス2を別々に得ることができるが、これらの少なくとも一部を混合して、1つの製品ガスを作製することも可能であり、さらに、複数段のガス分離膜を配列することによって、種々の仕様に基づく各製品ガスの純度を確保し、プロセス全体として高い回収率を確保することが可能である。
【0045】
〔本発明における液化の防止方法〕
一般的な制御方法は、個々の事情によって選定される。ここでは、ガス分離膜の1次側ガス中での液化の防止に係る調整方法における以下の3つの観点について説明する。
(i)ガス分離膜のガス供給温度を上げる。
ガス分離膜の材質により定まる最高使用温度内であれば、ガス供給温度を上げることにより残留ガス露点の基準値を引き上げることができ、液化の防止が可能である。なお、ガス供給温度を上げると膜の特性が僅かに変化し、一般に、回収率は僅かに増加し、純度は僅かに低下することも考慮する必要がある。
(ii)残留ガス圧力Prを下げる。
残留ガス圧力Prを下げると、凝縮性成分の分圧が下がり液化し難くなる。また、残留ガス圧力Prのみを下げると、透過性成分の透過が抑えられ回収率が低下すると同時に、後述の残留ガス中の成分Aの濃度Xが低下する効果も伴う。ただし、ガス分離膜の透過側圧力(2次圧力)を下げ得る場合には、残留ガス圧力Prを下げる操作と同時に2次圧力も下げる操作を行うことによって、上記回収率の低下という副作用を無くすことができる。また、残留ガス流量を変更することによっても、結果的に残留ガス圧力を変更することが可能である。
(iii)残留ガス中の成分Aの濃度Xを上げる。
結果的に、透過ガスの回収率が犠牲になる。具体的方法としては、(ii)で触れた方法以外に、2次圧力を上げる方法がある。ガス分離膜の差圧が少なくなり透過性の成分の透過が抑えられる結果、残留ガス中の成分Aの濃度Xを上げることができる。また、透過ガス流量を変更することによっても、結果的に透過ガス圧力を変更することが可能である。
【実施例】
【0046】
上記の構成例における透過ガスの純度や回収率の数値解析に先立ち、その予備的考察を行った結果を以下に示す。
【0047】
<予備的考察>
(1)多成分系の平衡の基本
n種類の分子からなる多成分系におる平衡は、次式1が基本となる。
φi×yi×P = γi×xi×Pio ・・・(式1)
ここに、Pは圧力、サッフィクスiはi番目の分子種を示し(i=1,2,・・n)、φiはフガシティー係数、γiは活性係数、Pioは純粋成分の蒸気圧、xi、yiはそれぞれ液相、気相のモル分率を示す。
次に、式1を変形して、下式2とおく。
xi = yi×P/PiE ・・・(式2)
ここに、PiEは、実効的な蒸気圧であり、超臨界状態でも使用できる。また、PiEは、主として温度の関数である。厳密には圧力Pや組成yj(j=1,2,・・n)の関数でもあるがここでは無視する。
【0048】
(2)露点の式
露点は、下式3−1の条件に、上式2を代入し、変形して、下式3−2と表される。
【数3】
つまり、各成分の実効的な蒸気圧PiEにつき、温度を変化させて、組成yi(i=1,2,・・n)とともに、式3−2が成立する温度を求めると、それがn種類の成分を含むガスの露点となる。
【0049】
(3)残留ガス露点Zの近似的表現
n種類の分子からなる混合ガスを原料とし、ガス分離膜の原料ガスの組成をyif、残留ガスの組成をyirとする。特に、易透過性かつ非凝縮性の成分Aを1番目の分子種と仮定し、Xo=y1f,X=y1rとおく。
今、ガス分離膜が理想的に機能し、1番目の分子種のみを透過すると仮定すると、下式4−1の条件から、下式4−2と表される。
【数4】
同様に、下式5と表される。
【数5】
【0050】
式4−2、式5より(i=2,3,・・n)に対して、下式6と表される。
yir = yif・(1−X)/(1−Xo) ・・・(式6)
つまり、1番目の分子種以外は(1−X)/(1−Xo)の倍率で濃縮されることが分かる。以上の近似で、残留ガス圧力Prにおける残留ガス露点Zを式3−2に従い評価すると、下式7と表される。
【数7】
つまり、原料ガスの組成を固定すると残留ガス露点Zが一定の条件は、1/PrがX=y1rの1次式で近似できることが示唆される。
【0051】
<数値解析>
次に、上記の構成例に関して、水素ガス製造プロセスを設定し、透過ガスの純度や回収率の数値解析を行った結果を以下に示す。幾つかの原料ガス組成について、ガス分離膜の条件を設定して、残留ガス露点Zを計算してみた(以降の露点計算は状態方程式に基づき算定した)。また、制御方法としては、純度による制約がない場合を想定し、液化の恐れがない範囲でできるだけ回収率を上げ、従って、本発明で提案する相関関数に従って、残留ガス圧力Prを変更する場合を検討した。この方針は、結果的に本発明で提案する制御方法の精度が、同時に確認できるとの利点もある。
【0052】
(1)解析条件
(1−1)原料ガスの組成を表1に示す。Case1〜3の3種類の組成の原料ガスを扱った。Case3はCase1を48.81%、Case2を51.19%の流量割合で混合したものである。意味合いは後述する。なお、ここでは、水素が成分Aに相当する。
【表1】
(1−2)解析に用いたガス分離膜は、第1および第2ガス分離膜ともに、素材をポリアラミド系膜とした。
(1−3)原料ガスのガス分離膜入口温度は、特記しない場合、90℃とした。
(1−4)残留ガス露点Zは、特記しない限り、80℃以下(ガス温度−10℃)を基準とする(基準値Za:80℃)。
(1−5)透過ガスの圧力は、ガス分離膜出口において10bar(abs)とした。カスケード方式の場合も、第1,第2ガス分離膜の透過ガスの圧力は等しくした。
(1−6)Case1、Case2、Case3の原料ガスの流量の最大値は、それぞれ、10,000Nm3/h、10,486Nm3/h、10,243Nm3/hとした。以下「流量」は、この最大値に対する割合(%)によって表示した。
(1−7)圧力基準点
原料ガスの流量が最大のとき、特記しない限り、第1ガス分離膜の供給圧力は、30.8bar(abs)を基準とした。
【0053】
(2)解析結果
上記条件下における解析結果を〔実施例1〕〜〔実施例6〕に示す。
【0054】
〔実施例1〕
[検討1−1]
(i)検討条件
図1に示すような1段のガス分離膜を利用したプロセスで、Case1の原料ガス組成に対して検討した。残留ガス露点Zを、ほぼ基準値Za:80℃になるよう制御した場合を解析した。ガス分離膜の面積は、最大流量(10000Nm3/h)において、前記残留ガス露点Zが80℃になるよう設定した。
(ii)検討結果
表2に示すように、減量が進行する伴い、回収率は顕著に上昇した。なお、この圧力レベルでは原料ガスを40℃まで冷却しても凝縮は起こらなかった。
【表2】
【0055】
[検討1−2]
(i)検討条件
上表2から得られた残留ガス中の水素濃度Xおよび残留ガス圧力Prを基に、上式7に相当する相関を調べるため1/Pr対Xのプロットをする。
(ii)検討結果
図8に示す如く、1/Pr対Xの関係は直線で良く近似できることが分かった。原料ガス流量の100%、40%に対応するデータから1次式を作成し、下式8−1を少し変形し、下式8−2の相関を得た。
X = a1−b1/Pe ・・・(式8−1)
Pe = b1/(a1―X) ・・・(式8−2)
ここで、Peは、相関関数から期待される成分Aの濃度Xに対応する残留ガス圧力を意味する。
【0056】
[検討1−3]
(i)検討条件
上記[検討1−1]と同様に、減量特性を解析した。但し、上記[検討1−2]で得た相関式(式8−2)を利用して、残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
表3に示すように、原料ガス流量の80%、60%に対しては僅かに残留ガス圧力Prが下がり、残留ガス露点Zおよび回収率が下がったが、上記相関関数は充分に実用性があることが分かった。ここで、原料流量80%、60%に対する残留ガス露点Zの80℃からのズレは、この相関関数のある種の精度に相当する。
【表3】
【0057】
[検討1−4]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に減量特性を解析した。ガス分離膜の透過性能が10%低下したと想定した。ここでも、上記[検討1−2]で得た同じ相関式を利用してガス分離膜の残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
表4に示すように、ガス分離膜の透過率の低下のため、100%では、露点が80℃以下となった。80%、60%、40%に対しては残留ガス中の水素濃度Xが上がった結果、僅かに残留ガス圧力Prを上げることにより回収率の低下を少し改善することができた。ここでも、上記相関関数は、充分に実用性があることが分かった。残留ガス圧力Prを減量度の関数で下げる制御の場合には透過率の低下したとき、制御関数の補正が必要になるが、本方法では残留ガス中の水素濃度Xのフィードバックが働くので、補正の必要がないとの特徴があることが分かった。
【表4】
【0058】
〔実施例2〕
[検討2−1]
(i)検討条件
Case2の組成の原料ガスで、〔実施例1〕と同じガス分離膜の面積を使い、定格の圧力条件でガス量を調整すると10,486Nm3/hで残留ガス露点Zが80℃となった。これを最大ガス量として減量特性を調べた。上記[検討1−1]と同様に、残留ガス露点Zが80℃となるように残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
検討結果を表5に示す。
【表5】
【0059】
[検討2−2]
(i)検討条件
上記[検討1−2]と同様に、表5の100%と40%に対応するデータから1次式を作成し、下式9の相関を得て、PeとXの関係式9を作成した。
Pe = b2/(a2―X) ・・・(式9)
この関係式に従い残留ガス圧力Prを調整して解析を行った。
(ii)検討結果
検討結果を表6に示す。原料ガス流量の80%、60%に対しては僅かに残留ガス圧力Prが下がり、残留ガス露点Zおよび回収率が下がったが、上記相関関数は充分に実用性があることが分かった。
【表6】
【0060】
〔実施例3〕
[検討3−1]
(i)検討条件
Case1の組成の原料ガス10,000Nm3/hとCase2の組成の原料ガス10,486Nm3/hを50%ずつ混合してCase3の組成のガス10,243Nm3/hを得た。流量の違いを考慮するとCase1とCase2を48.81%対51.19%の割合で混合したことになる。〔実施例1〕、〔実施例2〕と同じ面積のガス分離膜を用い、残留ガス露点Zが80℃となるよう調整して、減量特性を調べた。
(ii)検討結果
検討結果を表7に示す。99.92%で残留ガス露点Zが80℃となったので、100%に代えてこの値を示した。
【表7】
【0061】
[検討3−2]
(i)検討条件
以上、Case1、Case2の組成の原料ガスに対する相関式8−2および式9を基に、48.81%対51.19%の加重平均を採った相関式10を求め、表7の結果と比較する。つまり、
Pe = b3/(a3―X) ・・・(式10)
ここに、a3 = 0.4881*a1+0.5119*a2
b3 = 0.4881*b1+0.5119*b2
(ii)検討結果
検討結果を図9に示す。上式10でCase3の相関が近似できることが推定できた。
【0062】
[検討3−3]
(i)検討条件
前記、相関式10により残留ガス圧力Prを調整して、Case3の組成の原料ガスの減量特性を解析した。
(ii)検討結果
検討結果を表8に示す。2種類の原料ガスの混合ガスに対し、線形補間法による相関式が充分実用的に利用できることが判明した。
【表8】
【0063】
〔実施例4〕
[検討4−1]
(i)検討条件
ガス分離膜の入口ガス温度を変更した時の検討のための準備として、Case1のガス組成の原料に対し、入口ガス温度が90℃で、残留ガス圧力Prが21barおよび30barで、残留ガス露点Zが74℃、76℃、78℃および80℃となる残留ガス中の水素濃度Xを求める。但し、残留ガス露点Zが74℃に対しては、入口ガス温度84℃の場合も検討する。
(ii)検討結果
検討結果を表9に示す。残留ガス露点Zが74℃に対して、入口ガス温度90℃と入口ガス温度84℃の場合について、表の数値精度の範囲では差異が認められなかった。また、図10にプロットの結果を示す。残留ガス露点Zに関して線形補間の近似が使えることが示唆される。つまり、下式11で表される。
Pe = bt/(at―X) ・・・(式11)
ここに、at = ((Z−74)*a80+(80−Z)*a74)/6
bt = ((Z−74)*b80+(80−Z)*b74)/6
a80、b80は、残留ガス露点Zが80℃における係数
a74、b74は、残留ガス露点Zが74℃における係数
【表9】
【0064】
[検討4−2]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に、減量特性を解析する。但し、この検討のみガス分離膜へのガス供給温度を87℃、残留ガス露点Zの基準値Zbを77℃として、上記[検討4−1]で得た相関式11を利用して残留ガス圧力Prを調整する。
(ii)検討結果
表10に示すように、式11の残留ガス露点Zに関する線形補間の近似が充分に実用的であることが分かった。上記[検討1−3]の表3との比較から、ガス分離膜の供給温度が下がった結果として、水素の純度は上昇し、また回収率は低下した。これはガス分離膜の特性として、水素の透過量の減少と選択性が上がり、また、残留ガス露点Zの基準値Zbが77℃に下げられたため、残留ガス圧力Prを下げる必要があったことの総合的結果である。
【表10】
【0065】
〔実施例5〕
[検討5−1]
(i)検討条件
本実施例のみ原料ガスの圧力を上げて常温近くで原料ガスが一部、凝縮する場合を検討する。このような場合には、図4に示すように原料ガス流路Uoに設けられた冷却部C、気液分離部D、加熱部Hを経由して、原料ガスをガス分離膜Sに供給することが有効である。本発明を適用するに際して、ガス分離膜に供給される原料ガスの組成が重要である。気液分離部の温度および圧力が一定に保たれる場合には、原料ガスの組成に対し気液処理部で生成される副生ガスの組成も固定される。ここでは、気液処理部の温度が変化する場合への適用に関連して、次の検討を行う。
Case1のガス組成の原料に対し、気液処理部の温度が30℃、35℃および40℃の場合について、気液分離部の圧力を32.5bar(abs)に設定し、ガス分離膜へのガス供給温度は90℃に戻し、残留ガス圧力Prが24barおよび30barで、残留ガス露点Zが80℃、となる残留ガス中の水素濃度Xを求める。ここで、ガス分離膜の面積はこれまでと同じとする。
(ii)検討結果
検討結果を表11に示す。気液分離部の温度に関して、水素濃度がほぼ線形に変化することが分かり、相関関数について線形補間の近似が使えることが示唆された。つまり、下式12で表される。
Pe = bs/(as―X) ・・・(式12)
ここに、as=((Td−30)*a40+(40−Td)*a30)/10
bs=((Td−30)*b40+(40−Td)*b30)/10
a40,b40は、気液分離部の温度が40℃の場合の係数
a30,b30は、気液分離部の温度が30℃の場合の係数
Tdは、気液分離部の温度である。
【表11】
【0066】
[検討5−2]
(i)検討条件
上記[検討1−3]と同様に減量特性を解析した。但し、この検討では気液分離の温度を35℃、として、上記[検討5−1]で得た相関式12を利用して残留ガス圧力Prを調整した。
(ii)検討結果
検討結果を表12に示す。気液処理部で凝縮性成分の一部が除去され、副生ガス中の水素濃度が87.14mol%に上昇した相乗効果から、上記[検討1−3]の表3に比較して残留ガス圧力Prを上げることができ、高い水素回収率を得ることができた。残留ガス露点Zもほぼ80℃に近く、線形補間の近似が充分に実用的であることが分かった。
【表12】
【0067】
〔実施例6〕
[検討6−1]
(i)検討条件
図5に示すような2段のガス分離膜S1,S2を利用し、カスケードを構成したプロセスで、Case1の原料ガス組成に対して検討した。各段のガス分離膜の残留ガス露点Z1,Z2を、ほぼ基準値Z1a,Z2aである80℃になるよう制御した場合を解析した。第1段および第2段のガス分離膜の面積は、検討例1の場合のそれぞれ100%、50%とした。
(ii)検討結果
結果は、表13に示す。第1段の検討結果は表2と同様である。第2段の追加の効果で、減量度に応じて水素の回収率が顕著に上昇した。
【表13】
【0068】
[検討6−2]
(i)検討条件
上記[検討1−2]と同様に第2残留ガスに関して残留ガス圧力Prと残留ガス中の水素濃度Xの相関を得て、上記[検討1−3]と同様に各段の残留ガス圧力Prを調整した場合の解析を行った。
(ii)検討結果
結果を、表14に示す。第1段の検討結果は表3と同様である。第2段に関しても、本方法の実用性が確認できた。
【表14】
【0069】
(3)まとめ
上記の結果に示すように、実施例1〜6のいずれについても、各種パラメータを用いる場合も含め、残留ガス圧力Prと残留ガス中の成分Aの濃度Xの間に所定の相関関数が選定でき、充分実用的な精度で利用できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る製造プロセスの基本の構成例(第1構成例)を示す説明図
【図2】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の応用例の1つを示す説明図
【図3】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の他の応用例を示す説明図
【図4】本発明に係る製造プロセスの第1構成例の変形例を示す説明図
【図5】本発明に係る製造プロセスの第2構成例を示す説明図
【図6】本発明に係る製造プロセスの第2構成例の応用例を示す説明図
【図7】本発明に係る製造プロセスの第2構成例の変形例を示す説明図
【図8】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図9】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図10】本発明に係る製造プロセスにおける解析結果を示す説明図
【図11】従来技術に係る製造プロセスの基本構成を例示する説明図
【図12】従来技術に係る製造プロセスの他の1の構成を例示する説明図
【図13】従来技術に係る製造プロセスの他の2の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0071】
APo 原料ガスの分析ポート
APr,APr1,APr2 残留ガスの分析ポート
APt,APt1,APt2 透過ガスの分析ポート
C 冷却部
D 気液分離部
FC1,FC2 流量調節計
FCr1,FCr2 流量調整手段
FCV1,FCV2 流量制御弁
G 副生ガス流路
H、H1,H2 (第1,第2)加熱部
L 副生液流路
LC1 液面検知部
LCV1 制御弁
Pr 残留ガス圧力
PCo,PC1,PC2 圧力調節計
PCro,PCr1,PCr2 圧力調整手段
PCVo,PCV1,PCV2 圧力制御弁
R1,R2 (第1,第2)残留ガス流路
S,S1,S2 (第1,第2)ガス分離膜
T1,T2 (第1,第2)透過ガス流路
Uo 原料ガス流路
Ts 原料ガスの供給温度
Td 気液分離部の温度
X 残留ガス中の水素濃度(成分A)の濃度
Z 残留ガス露点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含む複数の成分を含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分が減少した残留ガスに分離するガス製造方法であって、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、前記ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記基準値Za以下になるように監視するとともに、前記基準値Zaを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項2】
前記ガス分離膜への原料ガスの供給流路に加熱処理工程を有する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記露点Zを含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項3】
前記成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして各原料ガスの混合割合を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記原料ガスの混合割合と残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1または2記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスを前記ガス分離膜に供給する工程に先駆け、
(U1)前記原料ガスを気液分離処理または冷却処理と気液分離処理を行う工程
(U2)前記気液分離処理により得られた主として前記成分Bからなる副生液を取り出す工程
(U3)前記気液分離処理により得られた前記成分Bの減少した副生ガスを取り出す工程
(U4)前記気液分離処理の圧力を一定に保持する工程
(U5)前記副生ガスを加熱処理する工程
を含む場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記気液分離処理の温度を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記気液分離処理の温度および残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項5】
前記ガス分離膜を複数段利用し、前段のガス分離膜の残留ガスを後段のガス分離膜に供給し、カスケード接続を形成し、またはさらに各段のガス分離膜ガスに供給するガスの温度を変更する工程を追加し、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、各段のガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Z1,Z2・・Znの基準値Z1a,Z2a・・Znaを設定し、残留ガス圧力および残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用し、各段の残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Z1,Z2・・Znが、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下になるように監視するとともに、前記基準値のいずれかを超える場合、対応する段の前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項1】
選択的透過性を有するガス分離膜を利用し、難透過性かつ凝縮性の成分Bを含む複数の成分を含有する原料ガスに対して、易透過性かつ非凝縮性の成分Aに富んだ透過ガスと前記成分が減少した残留ガスに分離するガス製造方法であって、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、前記ガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Zの基準値Zaを設定し、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力と残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記基準値Za以下になるように監視するとともに、前記基準値Zaを超える場合、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Za以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項2】
前記ガス分離膜への原料ガスの供給流路に加熱処理工程を有する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記露点Zを含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項3】
前記成分Aを含む複数の原料ガスを混合して供給する場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして各原料ガスの混合割合を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記原料ガスの混合割合と残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1または2記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスを前記ガス分離膜に供給する工程に先駆け、
(U1)前記原料ガスを気液分離処理または冷却処理と気液分離処理を行う工程
(U2)前記気液分離処理により得られた主として前記成分Bからなる副生液を取り出す工程
(U3)前記気液分離処理により得られた前記成分Bの減少した副生ガスを取り出す工程
(U4)前記気液分離処理の圧力を一定に保持する工程
(U5)前記副生ガスを加熱処理する工程
を含む場合において、前記相関関数の解析を、パラメータとして前記気液分離処理の温度を含む形で予め行い、
運転操作において、前記相関関数を利用して、前記気液分離処理の温度および残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Zが前記ガス分離膜への原料ガスの供給温度により定まる基準値Zb以下になるように監視するとともに、前記基準値Zbを超える場合、前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Zb以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項5】
前記ガス分離膜を複数段利用し、前段のガス分離膜の残留ガスを後段のガス分離膜に供給し、カスケード接続を形成し、またはさらに各段のガス分離膜ガスに供給するガスの温度を変更する工程を追加し、
原料ガス組成と前記ガス分離膜の特性を基に、各段のガス分離膜の残留ガス流路出口直後における圧力下の露点Z1,Z2・・Znの基準値Z1a,Z2a・・Znaを設定し、残留ガス圧力および残留ガス中の前記成分Aの濃度の間の相関関数を予め解析しておき、
運転操作において、前記相関関数を利用し、各段の残留ガス中の前記成分Aの濃度の計測値から、前記露点Z1,Z2・・Znが、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下になるように監視するとともに、前記基準値のいずれかを超える場合、対応する段の前記供給温度、前記ガス分離膜の残留ガスの圧力、透過ガスの圧力もしくはこれらと連動するプロセス値のいずれかの調整を行って、前記基準値Z1a,Z2a・・Zna以下に保ち、前記ガス分離膜の1次側のガス中での液化を防止することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−61418(P2009−61418A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232918(P2007−232918)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】
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