説明

ガス容器およびその製造方法

【課題】 ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を向上することができるガス容器およびその製造方法を課題とする。
【解決手段】 少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材21,22同士を接合して構成された樹脂ライナ11と、樹脂ライナ11の外周に配置された補強層12と、を有するガス容器1であって、ライナ構成部材21の接合部34とライナ構成部材22の接合部44とを周方向に亘ってレーザ溶着により接合した。接合部34はレーザ透過性の樹脂で、接合部44はレーザ吸収性の樹脂で形成される。レーザ溶着の際に、接触状態のライナ構成部材21,22同士の内外に圧力差を付与することで、接合部34,44同士の密着性を高めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素などのガスを貯留するガス容器に関し、特に、内殻となる樹脂ライナが複数のライナ構成部材を接合して構成されるガス容器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素やCNG(圧縮天然ガス)を貯留するガス容器として、軽量化等の観点から、内殻を樹脂ライナで構成し、樹脂ライナの外周面をFRPなどの補強層(外殻)で補強したものが開発されている。この種の樹脂ライナとして、例えばお碗状(略円筒状部材)の一対のライナ構成部材をポリエチレンなどの熱可塑性樹脂で形成しておき、この一対のライナ構成部材の端部同士を熱板溶着することで接合したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−211783号公報(第2図および第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ライナ構成部材同士を熱板溶着する接合方法では、樹脂ライナを製造するのに時間やコストが多くかかっていた。また、熱板溶着法では、溶融バリが発生し易いほか、ライナ構成部材同士の位置決め精度の管理が困難であった。さらに、ライナ本体は、加熱の影響で変形する場合もあり、熱の制御が難しかった。
【0004】
本発明は、ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を向上することができるガス容器およびその製造方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガス容器は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成された樹脂ライナと、樹脂ライナの外周に配置された補強層と、を有するガス容器であって、複数のライナ構成部材の接合部同士は、レーザ溶着により互いに接合されているものである。
【0006】
また、本発明の他のガス容器は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成された樹脂ライナと、樹脂ライナの外周に配置された補強層と、を有するガス容器であって、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とが接合された接合部分は、これらの接合部同士をレーザ溶着により互いに接合したレーザ溶着部を有しているものである。
【0007】
これらの構成によれば、樹脂ライナの製造過程において、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とをレーザ溶着により接合しているため、短時間且つ低コストで樹脂ライナを構成することができる。よって、ガス容器の生産性を高めることができる。また、レーザ溶着を用いることで、低温でしかも接合部同士を局所的に加熱することができるため、ライナ構成部材に対し熱的影響箇所を最小限にすることができ、溶融バリなどを生じさせなくて済む。
【0008】
ここで、「少なくとも一部(一端側)が中空円筒状のライナ構成部材」には、ライナ構成部材が全体として円筒状、環状、お碗状、ドーム状等の形状を有することが含まれる。例えば、一対の(半割りの)ライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、各ライナ構成部材は、全体としてお碗状に形成される。また、三以上のライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、樹脂ライナの両端のライナ構成部材はそれぞれ全体としてお碗状に形成され、この間に位置するライナ構成部材は全体として中空の円筒状または環状に形成される。
【0009】
上記の本発明のガス容器の場合、接合部同士は、樹脂ライナの周方向に亘ってレーザ溶着により互いに接合されていることが、好ましい。
【0010】
この構成によれば、接合部同士の全周がレーザによりライン溶接される。これにより、接合部同士のつなぎ目からのガスのリークが阻止され、樹脂ライナの気密性を適切に確保することが可能となる。
【0011】
これらの場合、互いに接合される一方のライナ構成部材の接合部は、レーザ透過性の部材からなり、且つ他方のライナ構成部材の接合部は、レーザ吸収性の部材からなることが、好ましい。
あるいは、互いに接合される一方のライナ構成部材は、レーザ透過性の部材からなり、且つ他方のライナ構成部材は、レーザ吸収性の部材からなることが、好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、樹脂ライナの製造過程において、レーザ透過性の接合部側からレーザを照射すると、レーザ吸収性の接合部が加熱溶融すると共に、その接合部からの熱伝達によりレーザ透過性の接合部が加熱溶融する。
【0013】
このように、レーザに対する透過性または吸収性の特性を接合部に持たせておくことで、接合部同士を適切に接合することができる。また、この種のレーザに対する特性を接合部のみに持たせてもよいが、接合部を含むライナ構成部材の全体に持たせる方が、ライナ構成部材を簡易に製造し得る。
【0014】
この場合、レーザ透過性の部材からなる接合部は、樹脂ライナにおいて外側に位置し、且つレーザ吸収性の部材からなる接合部は、樹脂ライナにおいて内側に位置することが、好ましい。
【0015】
この構成によれば、樹脂ライナの製造過程の際に、レーザを樹脂ライナの外側(ライナ構成部材の外側)から照射して、接合部同士を簡単に接合することができる。すなわち、樹脂ライナの製造過程の際に、レーザ照射装置をライナ構成部材の内側に位置させなくて済み、作業性良く接合部同士を接合することができる。このことは、樹脂ライナの小型化にも有用である。
【0016】
これらの場合、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とのレーザ溶着された部位の近傍には、これらの接合部同士を密着させるように係合する係合構造が設けられていることが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、樹脂ライナの製造過程の際に、係合構造で接合部同士を密着させながらレーザ溶着することができるため、レーザ溶着の溶着不良を抑制して接合精度を高めることができる。また、係合構造を設けることで、治具を簡略化または不要とすることが可能となる。ここで、係合構造には、例えばスナップフィットや圧入などのほか、螺合が含まれる。
【0018】
これらの場合、複数のライナ構成部材のうちの少なくとも一つは、他のライナ構成部材と接合される接合部と反対側に、樹脂ライナの中空内部と外部とを連通するための連通部を有していることが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、連通部を介して樹脂ライナの中空内部にガスを充填または中空内部からガスを放出することができる。
【0020】
本発明のガス容器の製造方法は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材の接合部をレーザ吸収性の部材で構成する第1工程と、第1工程後に、互いに接合されるべきライナ構成部材の接合部同士を接触させる第2工程と、第2工程後に、レーザ透過性の部材からなる接合部側からレーザを照射して、接触状態の接合部同士をレーザ溶着により互いに接合する第3工程と、を有するものである。
【0021】
この構成によれば、先ず、レーザに対する透過性または吸収性の特性をライナ構成部材の接合部に持たせてき、その上で、接合部同士を接触させながら、レーザ透過性の接合部側からレーザを照射する。レーザの照射により、レーザ吸収性の接合部が加熱溶融すると共に、その接合部からの熱伝達によりレーザ透過性の接合部が加熱溶融し、その後、冷却固化することで、接合部同士の界面が接合される。
【0022】
このように、ライナ構成部材同士の接合にレーザ溶着を用いているため、短時間且つ低コストで樹脂ライナを構成することができる。また、接合部同士を局所的に加熱することができるため、ライナ構成部材に対し熱的影響箇所を最小限にすることができ、溶融バリなどを生じさせなくて済む。
【0023】
この場合、第2工程は、レーザ透過性の接合部を、レーザ吸収性の接合部に対して外側から接触させることで行われ、第3工程は、ライナ構成部材の外側に配置したレーザ照射装置により、レーザ透過性の接合部側からレーザを照射することで行われることが、好ましい。
【0024】
この構成によれば、レーザ照射装置をライナ構成部材の内側に位置させなくて済み、接合部同士を作業性良く簡易に接合することができる。
【0025】
これらの場合、第3工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内外に圧力差を付与した状態で、レーザを照射することを含むことが、好ましい。
【0026】
この構成によれば、圧力差によって接合部同士の密着度を高めた状態で、接合部同士がレーザ溶着される。これにより、レーザ溶着の溶着不良を抑制して接合精度を高めることができる。また接合精度が高まることにより、樹脂ライナの強度や気密性を適切に確保することができる。
ここで、圧力差の付与は、レーザの照射により接合部同士の接合反応がある程度進行した段階で停止してもよい。換言すれば、レーザの照射開始前から照射中の少なくとも一時期が、圧力差を付与した状態であってもよい。
【0027】
この場合、第3工程における圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内部の圧力および外部の圧力の少なくとも一方を調整することで行われることが、好ましい。
【0028】
この場合、第3工程における圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内部を略密閉状態として、その密閉空間を減圧または加圧することで行われることが、好ましい。
【0029】
この構成によれば、二つのライナ構成部材の内部の密閉空間の圧力を調整するため、これらの外部の圧力を調整するよりも簡易に、上記の圧力差の付与を行うことができる。
ここで、密閉空間の加圧には、例えば、これに圧縮ガスを注入する場合のほか、密閉空間の外部よりも高い温度のガスを注入する場合が含まれる。
【0030】
この場合、第3工程における圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の少なくとも一方に設けた連通部を介して、密閉空間を減圧または加圧することで行われることが、好ましい。
【0031】
この構成によれば、連通部を有効に利用して、密閉空間を減圧または加圧することができる。なお、ガス容器として製造された後では、この連通部を介して樹脂ライナの中空内部にガスを充填または中空内部からガスを放出することができる。
【0032】
これらの場合、第2工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の接合部同士をライナ構成部材の軸方向にオーバラップして配置し、且つそのオーバラップした部位同士を接触させることで行われることが、好ましい。
【0033】
この構成によれば、例えば接合部同士を単純に突き合わせる場合に比べて、接合部同士の接触面積を増やすことができる。特に、軸方向にオーバラップした部位同士が接触しているため、レーザ溶着の際に付与する上記圧力差によって接合部同士の密着力が増し、接合部同士の接合精度をより一層高めることができる。
【0034】
これらの場合、第2工程と第3工程との間に、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の接合部同士を接触させた状態でアニール処理を行う工程を、更に有することが、好ましい。
【0035】
この構成によれば、アニール処理によってライナ構成部材が自己収縮し、接合部同士の密着度が高まる。これにより、接合部同士の密着度が高まった状態で、接合部同士をレーザ溶着することができ、その接合精度を高めることが可能となる。また、アニール処理で密着度が高まる分、例えば上記の圧力差を付与するためのポンプなどの装置を小型化、簡素化することができる。
【0036】
これらの場合、第3工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材をレーザ照射装置に対し相対的に回転させながら、接触状態の接合部同士をライナ構成部材の周方向に亘ってレーザ溶着することで行われることが、好ましい。
【0037】
この構成によれば、レーザ照射装置に対して二つのライナ構成部材を相対回転させているため、接合部同士の全周がレーザによりライン溶接される。これにより、樹脂ライナの気密性を適切に確保することが可能となる。
【0038】
ここで、「相対的に回転」には、接合されるべき二つのライナ構成部材のみを回転させること、レーザ照射装置のみを回転させること、これら両者を同方向にまたは逆方向に回転させること、が含まれる。特に、この中で二つのライナ構成部材のみを回転させることが、位置決めや装置構成上で最も簡易となり得る。
【0039】
これらの場合、第3工程は、低酸素雰囲気で行われることが、好ましい。
【0040】
この構成によれば、レーザの照射により溶融した接合部の酸化を抑制することができる。これにより、レーザ溶着時の酸化による焦げ付きや、これに伴うレーザの透過不良などの溶着不良を抑制することができる。ここで、低酸素雰囲気とは、大気よりも低酸素の雰囲気をいい、例えば、不活性ガス雰囲気下またはほぼ真空状態が含まれる。
【0041】
これらの場合、第1工程は、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材をレーザ吸収性の部材で構成することで行われることが、好ましい。
【0042】
この構成によれば、接合部を含むライナ構成部材の全体について、レーザに対する特性を有する部材とすることで、接合部のみについてそのような特性を持たせる場合に比べて、ライナ構成部材を簡易に製造し得る。
【0043】
この場合、第3工程後に、レーザ溶着により接合された二つのライナ構成部材の外周面のつなぎ目が面一となるように、この二つのライナ構成部材の少なくとも一方の外周面を削る工程を、更に備えたことが、好ましい。
【0044】
例えば、上記のように、接合部同士を軸方向にオーバラップさせた場合には、つなぎ目の外周面に凹凸が生じ得る。そこで上記工程を設けることで、少なくとも一方のライナ構成部材の外周面を削ることで、この外周面のつなぎ目が面一にすることができる。これにより、例えば樹脂ライナの外周に補強層を設ける上で有用となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のガス容器およびその製造方法によれば、ライナ構成部材同士の接合にレーザ溶着を用いているため、ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るガス容器およびその製造方法ついて説明する。このガス容器は、複数のライナ構成部材がレーザ溶着により接合された樹脂ライナを有するものである。以下では、先ずガス容器の構造について説明し、その後、ガス容器の製造方法について説明する。また、第2〜第5実施形態では、主として製造方法の変形例について説明し、残りの実施形態では、主としてガス容器の他の構造について説明する。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0047】
<第1実施形態>
図1に示すように、ガス容器1は、全体として密閉円筒状の容器本体2と、容器本体2の長手方向の両端部に取り付けられた口金3,3と、を具備している。容器本体2の内部は、各種のガスを貯留する貯留空間5となっている。ガス容器1は、常圧のガスを充填することもできるし、常圧に比して圧力が高められたガスを充填することもできる。すなわち、本発明のガス容器1は、高圧ガス容器として機能することができる。
【0048】
例えば、燃料電池システムでは、高圧の状態で用意された燃料ガスを減圧して、燃料電池の発電に供している。本発明のガス容器1は、高圧の燃料ガスを貯留するのに適用することができ、燃料ガスとしての水素や、原燃料の圧縮天然ガス(CNGガス)などを貯留することができる。ガス容器1に充填される水素の圧力としては、例えば35MPaあるいは70MPaであり、CNGガスの圧力としては、例えば20MPaである。以下は、高圧水素ガス容器を一例に説明する。
【0049】
容器本体2は、ガスバリア性を有する内側の樹脂ライナ11(内殻)と、樹脂ライナ11の外周に配置された補強層12(外殻)と、の二層構造を有している。補強層12は、例えば炭素繊維とエポキシ樹脂を含むFRPからなり、樹脂ライナ11の外表面を被覆するようにこれを巻きつけている。
【0050】
口金3は、例えばステンレスなどの金属で形成され、容器本体2の半球面状をした端壁部の中心に設けられている。口金3の開口部の内周面には、めねじが刻設されており、配管やバルブアッセンブリ14(バルブボデー)などの機能部品が、このめねじを介して口金3にねじ込み接続可能となっている。なお、図1では、口金3,3の一方にのみバルブアッセンブリ14を設けた例を二点鎖線で示した。
【0051】
例えば、燃料電池システム上のガス容器1は、バルブや継手等の配管要素を一体的に組み込んだバルブアッセンブリ14を介して、貯留空間5と図示省略した外部のガス流路との間が接続され、貯留空間5に水素が充填されると共に貯留空間5から水素が放出される。また後述するように、ガス容器1の製造過程においては、口金3に配管が接続されて、貯留空間5内の圧力が調整される。なお、ガス容器1の両端部に口金3,3を設けたが、もちろん片方の端部にのみ口金3を設けてもよい。
【0052】
樹脂ライナ11は、長手方向の中央で二分割された一対の略同形状からなるライナ構成部材21,22(割体)を、レーザ溶着により接合して構成されている。すなわち、半割り中空体のライナ構成部材21,22同士をレーザ溶着により接合することで、中空内部の樹脂ライナ11が構成されている。
【0053】
一対のライナ構成部材21,22は、樹脂ライナ11の軸方向に所定の長さ延在する胴部31,41をそれぞれ有している。各胴部31,41の軸方向の両端側は、開口している。
【0054】
一方のライナ構成部材21は、胴部31の一端側の縮径された端部に形成された返し部32と、返し部32の中央部に開口した連通部33と、胴部31の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部34と、を有している。
【0055】
他方のライナ構成部材22は、胴部41の一端側の縮径された端部に形成された返し部42と、返し部42の中央部に開口した連通部43と、胴部41の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部44と、を有している。
【0056】
各返し部32,42は、各ライナ構成部材21,22の強度を確保するのに機能する。各返し部32,42の外周面と補強層12の端部との間に口金3,3が位置している。なお、口金3が片方の端部にのみ設けられる場合には、一対のライナ構成部材21,22の一方については、返し部32,42および連通部33,43が形成されず、胴部31および胴部41の一方の一端側が閉塞端で形成される。
【0057】
ここで、本明細書では、ライナ構成部材21,22とは、分割構造の樹脂ライナ11を構成する部材をいい、上述のように、少なくとも一端側(一部)が中空円筒状の形状を有するものをいう。したがって、ライナ構成部材21,22の形状には、その全体の形状が円筒状、環状、お碗状、ドーム状等であることが含まれる。
【0058】
図2は、接合部34,44まわりを拡大して示す断面図である。なお、図2において補強層12は省略している。
【0059】
一方の接合部34は、所定の角度傾斜した接合端面51と、樹脂ライナ11の軸方向に延在する延設部52と、を有している。接合端面51は、内側に向かって面取りされるように(逆テーパ状となるように)形成されている。延設部52は、接合端面51の径方向の外側となる先端部に連なっており、略円筒状に形成されている。
【0060】
同様に、他方の接合部44は、所定の角度傾斜した接合端面61と、樹脂ライナ11の軸方向に延在する延設部62と、を有している。接合端面61は、外側に向かって面取りされるように(テーパ状となるように)形成されている。延設部62は、接合端面61の径方向の内側となる先端部に連なっており、略円筒状に形成されている。
【0061】
一方の接合部34と他方の接合部44とは、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせた状態では、両者の接合端面51,61同士が整合し、接合端面51,61同士が樹脂ライナ11の周方向に亘って接触する。またこの状態では、接合部34,44同士は、樹脂ライナ11の軸方向にオーバラップして配置され、そのオーバラップした部位同士が、樹脂ライナ11の周方向に亘って接触する。
【0062】
ここで、オーバラップした部位同士とは、一つが、外側の延設部52とこの内周面に接触した接合部44近傍の外周面とであり、もう一つが、内側の延設部62とこの外周面に接触した接合部34近傍の内周面とである。このような延設部52,62を設けておくことで、後述するガス容器1の製造過程において、接合部34,44同士の密着力を高めることができる。なお、両者の接合端面51,61の角度は、任意であるが、レーザトーチ140(レーザ照射装置)からのレーザを透過または受光可能な角度であればよい。
【0063】
本実施形態では、樹脂ライナ11において外側に位置する接合部34を有するライナ構成部材21は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成されている。一方、樹脂ライナ11において内側に位置する接合部44を有するライナ構成部材22は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成されている。
【0064】
レーザ透過性の熱可塑性樹脂は、レーザ溶着に必要なエネルギーをレーザ吸収性側の接合部44の接合端面61に到達させる程度に、レーザに対する透過性を有していればよい。したがって、レーザ透過性の熱可塑性樹脂であっても、レーザ吸収性の特性を僅かに有していてもよい。
【0065】
レーザ透過性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。例えば、レーザ透過性のライナ構成部材21は、白色、半透明または透明に形成される。
【0066】
レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザに対する吸収性を有していればよく、吸収したレーザにより発熱して溶融するものであればよい。レーザ吸収性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。
例えば、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂と同一の樹脂で形成した場合には、レーザ透過性の熱可塑性樹脂よりもカーボンを多く添加することで形成される。したがって、レーザ吸収性のライナ構成部材22は、例えば黒色に形成される。
【0067】
レーザ透過性の接合部34とレーザ吸収性の接合部44とは、接合端面51,61同士がレーザ溶着により接合されている。レーザ溶着は、接合部34の外側からレーザトーチ140によりレーザを照射し、接合端面61の樹脂を加熱溶融すると共に、この接合端面61からの熱伝達により接合端面51の樹脂を加熱溶融することで行われる。
【0068】
したがって、接合部34,44同士が接合された接合部分にあるレーザ溶着部70は、接合端面61および接合端面51の両方が溶融した部位であり、レーザ吸収性およびレーザ透過性の両方の樹脂が入り絡まった状態となっている。
【0069】
なお、ライナ構成部材21,22の全体をレーザ透過性やレーザ吸収性の樹脂とするのでなくてもよい。例えば、接合部34,44のみをレーザ透過性やレーザ吸収性の樹脂で構成するなど、各ライナ構成部材21,22が部分的にレーザ透過性やレーザ吸収性の特性を有していてもよい。
また例えば、一対のライナ構成部材21,22を両方ともレーザ透過性の樹脂で形成しておき、そのうちの一方のライナ構成部材21(または22)の接合部34(または44)の接合端面51(または61)に、レーザ吸収性を有する吸収剤を塗布したり、この種の吸収剤を練入したシートを貼付したりしてもよい。
【0070】
ここで、図3および図4を参照して、ガス容器1の製造方法について説明する。
先ず、一対のライナ構成部材21,22および二つの口金3,3を成形する(S1)。このとき例えば、予め成形した一の口金3を金型内に配置し、この金型内にレーザ透過性の熱可塑性樹脂を射出して、ライナ構成部材21および口金3を一体成形する(インサート成形する。)。
【0071】
また同様の手順により、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂を射出して、ライナ構成部材22および口金3を一体成形する。このように、射出成形を用いることで各ライナ構成部材21,22を成形精度良く成形することができる。なお、射出成形に代えて、回転成形やブロー成形を用いてもよい。
【0072】
次に、口金3付きの各ライナ構成部材21,22をチャンバー101内に例えば横向き姿勢で配置し、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせて、接合部34,44同士を接触させる(S2)。この状態では、上述したように、接合部34,44同士が軸方向にオーバラップして配置されると共に、接合端面51,61同士が周方向に亘って接触する。これにより、ライナ構成部材21,22同士が仮接合(暫定接合)した状態の樹脂ライナ11となる。
【0073】
その後、ライナ構成部材22の口金3に図示省略した栓をねじ込み接続すると共に、ライナ構成部材21の口金3に配管121をねじ込み接続して、仮接合状態の樹脂ライナ11の内部を略密閉状態とする。なお、栓および配管121をねじ込み接続する口金3を逆にしてもよい。
【0074】
次いで、チャンバー101に接続した不活性ガス供給装置110を駆動して、チャンバー101内に不活性ガスを充填する(S3)。不活性ガス供給装置110は、例えば、不活性ガスを貯留するガスボンベ111と、ガスボンベ111とチャンバー101とを連通するガス配管112と、ガス配管112上に設けられて、ガスボンベ111内の不活性ガスをチャンバー101内に圧送するチャンバー用ポンプ113と、を具備している。
【0075】
不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウムなどが挙げられる。不活性ガス供給装置110による不活性ガスの充填により、樹脂ライナ11の外部のチャンバー101内が不活性ガスの雰囲気に設定される。このような不活性ガス雰囲気下としておくことで、後工程のレーザ溶着の際に、接合部34,44同士の酸化を抑制することができる。
【0076】
次の工程として、仮接合状態の樹脂ライナ11に接続した負圧発生装置120を駆動して、樹脂ライナ11の略密閉空間を減圧する(S4)。負圧発生装置120は、例えば、上記の口金3に接続された配管121と、チャンバー101外の配管121上に設けられて、樹脂ライナ11内を減圧するライナ用ポンプ122と、を具備している。
【0077】
ライナ用ポンプ122を駆動することにより、樹脂ライナ11の内部が負圧となる。樹脂ライナ11内の圧力がチャンバー101内の圧力よりも低くなると、樹脂ライナ11の内外に圧力差が生じることになる。この圧力差によって、接合部34,44同士の密着度が高まる。特に、接合部34,44同士が軸方向にオーバラップして且つそのオーバラップした部位同士が接触しているため、接合部34,44同士の密着力がより一層高まるようになっている。
【0078】
ここで、レーザ溶着に先立ち、チャンバー101内に設けた濃度センサ131による検出結果に基づいて、チャンバー101内が所定の不活性ガスの濃度に達しているかを確認する(S5)。所定の濃度に達している場合には、不活性ガス供給装置110の駆動を停止すればよい。
【0079】
また、チャンバー101内に設けた圧力センサ132による検出結果と、配管121に設けた圧力センサ133による検出結果とに基づいて、樹脂ライナ11の内外の差圧レベルが所定の値に達しているかを確認する(S5)。
【0080】
差圧レベルが所定の値に達している場合には、負圧発生装置120の駆動を停止して配管121上に設けた図示省略した遮断弁を閉弁すればよい。もっとも、後工程のレーザ溶着の際にも負圧発生装置120の駆動を続行して(制御して)、レーザ溶着中も樹脂ライナ11の内外の差圧を所定レベルに維持するようにしてもよい。なお、二つの圧力センサ132,133の配置位置は上記に限定されるものではない。
【0081】
次の工程として、レーザトーチ140を駆動して、樹脂ライナ11の接合部34,44同士をレーザ溶着により接合する(S6)。レーザトーチ140は、レーザ透過性の接合部34の外側から、接触状態の接合端面51,61同士にレーザを照射する。照射されたレーザは、レーザ透過性の接合部34を透過してレーザ吸収性の接合端面61に達し、この接合端面61の樹脂を加熱溶融する。また、この接合端面61からの熱伝達によりレーザ透過性の接合端面51の樹脂が加熱溶融される。そして、これらの溶融された樹脂が冷却固化することで、接合部34,44同士を互いに一体的に接合するレーザ溶着部70が形成される。
【0082】
ここで、レーザ溶着の際には(S6)、レーザトーチ140によるレーザの照射に同期して、図示省略した回転装置を駆動し、仮接合状態の樹脂ライナ11をその軸回りに回転させる。こうすることで、レーザ吸収性の接合端面61が周方向に順次加熱溶融されていくと共に、この熱伝達によりレーザ吸収性の接合端面61が周方向に順次加熱溶融されていく。したがって、樹脂ライナ11の略円筒状の形状を維持しながら、樹脂ライナ11を少なくとも一回転させることにより、接合端面51,61同士をその周方向に亘って一体的に接合したレーザ溶着部70が形成される。
【0083】
なお、樹脂ライナ11を直接的に回転させるのではなく、レーザトーチ140を樹脂ライナ11の周囲で直接的に回転させるようにしてもよい。またこれに代えて、樹脂ライナ11およびレーザトーチ140をともに、同方向にまたは逆方向に回転させるようにしてもよい。もっとも、上記のように、樹脂ライナ11を回転させた方が、樹脂ライナ11の位置決めや装置構成上、簡易となり得る。
【0084】
上記のようなレーザ溶着では、二つの接合部34,44の形状を工夫したことで、レーザ溶着のための部位の面積を大きくとることができる。具体的には、図2に示すように、接合端面51,61同士を樹脂ライナ11の軸方向に対して傾斜させたことで、接合端面51,61同士を樹脂ライナ11の軸方向に直交させる場合に比べて、接合端面51,61同士の接触面積を大きくすることができる。これにより、レーザ溶着部70を十分な大きさとすることができ、樹脂ライナ11の接合強度などを好適に向上することができる。
【0085】
また、レーザ溶着は、樹脂ライナ11の内外に差圧が生じた状態で行われるため、接合部34,44同士の密着度が高まった状態で接合端面51,61同士が接合される。これにより、接合端面51,61同士がレーザ溶着で良好に接合されるため、樹脂ライナ11の強度や気密性を適切に確保することができる。
【0086】
また、接合部34,44同士を密着させるための加圧治具などを簡素化又は不要とし得る。さらに、オーバラップした接合部34,44同士のつなぎ目構造により、接合部34,44同士に対して、差圧によって生じる密着力を有効に作用させることもできており、レーザ溶着の反応を良好に進行させることができる。
【0087】
さらに、レーザ溶着の工程は、不活性ガス雰囲気下で行われるため、接合部34,44同士の酸化が抑制される。これにより、接合部34,44同士の局所的な酸化による焦げ付きや、それにより生じるレーザの透過不良やピンホールなどを回避することができ、接合端面51,61同士を良好に且つ適切に接合することができる。レーザ溶着の完了により、樹脂ライナ11は、仮接合状態から本接合状態(すなわち、完全に接合された状態。)となって、中空内部に上記の貯留空間5が構成される。
【0088】
なお、レーザトーチ140が出射するレーザは、半導体レーザなどを用いることができるが、これに限定されるものではなく、レーザ透過性のライナ構成部材21の樹脂の肉厚を含む性状などを考慮して適宜選択される。また、レーザ溶着工程では、レーザの出力(照射量)や樹脂ライナ11の回転速度などの諸条件は、各ライナ構成部材21,22の性状に応じて適宜設定すればよい。
【0089】
レーザ溶着完了後には、チャンバー101内および樹脂ライナ11内を大気圧へと戻す(S7)。次いで、樹脂ライナ11の外周面におけるつなぎ目部分の突部を切削する(S8)。この突部は、レーザ透過性の接合部34の延設部52を含むその周辺の部位からなり、樹脂ライナ11の周方向に亘って且つ樹脂ライナ11の径方向の外側に突出して形成されている(図2参照)。
【0090】
S8の切削工程では、この突部を周方向に亘って切削することで、樹脂ライナ11の外周面におけるつなぎ目部分を面一に(略同一の外径に)している。そして、最終的に、フィラメントワインディング法等により樹脂ライナ11の外表面に補強層12を形成することで(S9)、ガス容器1が製造される。
【0091】
以上のように、本実施形態によれば、ライナ構成部材21およびライナ構成部材22の接合にレーザ溶着を用いたため、短時間且つ低コストで樹脂ライナ11を製造することができる。これにより、ガス容器1の生産性を全体として高めることができる。また、上記したように、レーザ溶着を不活性ガス雰囲気下で行い、しかも差圧の付与により接合部34,44同士の密着度を高めた状態で行っているため、接合不良を抑制することができ、接合精度の高い樹脂ライナ11を製造することができる。
【0092】
なお、接合部34,44の形状によっては、樹脂ライナ11の外周面におけるつなぎ目部分の突部が、両方のライナ構成部材21,22により形成される場合がある。その場合には、S8の切削工程において、二つのライナ構成部材21,22の両方の外周面を削るようにすればよい。
【0093】
<第2実施形態>
次に、図5および図6を参照して、第2実施形態に係るガス容器1の製造方法ついて相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、負圧発生装置120に代わる差圧発生装置として加温ガス供給装置160を設けたことと、これに伴い製造工程のS4をS4´に変更したことである。
【0094】
加温ガス供給装置160は、不活性ガス供給装置110と同様に構成することができる。例えば、加温ガス供給装置160は、不活性ガスを貯留するガスボンベ161と、ガスボンベ161と仮接合状態の樹脂ライナ11の口金3とを接続する配管162と、チャンバー101外の配管162上に設けられて、ガスボンベ161内の不活性ガスを樹脂ライナ11内に圧送するライナ用ポンプ163と、を具備している。
【0095】
樹脂ライナ11内に供給する不活性ガスは、チャンバー101内に供給する不活性ガスと異なる種類のガスとしてもよいが、同種のガスとしてもよい。同種のガスとした場合には、ガスボンベ161を省略して、チャンバー101用のガスボンベ111を加温ガス供給装置160において共用してもよい。
【0096】
ライナ用ポンプ163は、ガスボンベ161からの不活性ガスを加温する図示省略したヒータを内蔵している。したがって、ライナ用ポンプ163を駆動すると、加温された不活性ガスが樹脂ライナ11内に供給される。なお、ライナ用ポンプ163にヒータを設ける構成でなくもよいことは言うまでもなく、例えば配管162にヒータなどの加熱手段を設けてもよい。
【0097】
製造工程のS4´は、仮接合状態の樹脂ライナ11に接続した加温ガス供給装置160を駆動して、加温された不活性ガスを樹脂ライナ11の略密閉空間に供給することで行われる。所定量の不活性ガスが樹脂ライナ11内に充填されると、樹脂ライナ11の内圧が高くなる。そして、樹脂ライナ11の内圧がチャンバー101の内圧(すなわち樹脂ライナ11の外圧)よりも高くなると、樹脂ライナ11の内外に圧力差が生じることになる。
【0098】
したがって、本実施形態によっても、樹脂ライナ11の内外に圧力差を発生させることができる。これにより、後工程となるレーザ溶着工程(S6)において、接合部34,44同士の密着度を高めた状態で接合部34,44同士をレーザ溶着することができる。なお、レーザ溶着中も樹脂ライナ11の内外の差圧を所定レベルに維持するように、ライナ用ポンプ163の駆動を制御することが好ましい。
【0099】
<第3実施形態>
次に、図7および図8を参照して、第3実施形態に係るガス容器1の製造方法ついて相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、不活性ガス供給装置110に代えて真空発生装置170を設けたことと、負圧発生装置120に代わる差圧発生装置として加温エア供給装置180を設けたことと、これらに伴い製造工程のS3〜S5をS3´´〜S5´´に変更したことである。
【0100】
真空発生装置170は、例えば、チャンバー101内のエアを吸引する真空ポンプ171と、真空ポンプ171で吸引したエアを一時的に貯留するバッファタンク172と、チャンバー101とバッファタンク172とを接続するエア配管173と、を具備している。
【0101】
エア配管173上の真空ポンプ171を駆動することで、チャンバー101内を真空状態に設定することができる。なお、チャンバー101内の真空度を検出するためのセンサを真空ポンプ171の上流側(チャンバー101側)のエア配管173に設け、センサの検出結果に基づいて真空ポンプ171の駆動を制御するとよい。
【0102】
加温エア供給装置180は、真空発生装置170で吸引したチャンバー101内のエアを加温して、樹脂ライナ11内に供給するものである。例えば、加温エア供給装置180は、バッファタンク172内に貯留されたエアを樹脂ライナ11内に圧送するライナ用ポンプ181と、ライナ用ポンプ181が介設され、樹脂ライナ11の口金3とバッファタンク172とを接合する配管182と、を具備している。
【0103】
ライナ用ポンプ181は、バッファタンク172からのエアを加温する油拡散用のヒータ(図示省略)を内蔵している。したがって、ライナ用ポンプ181を駆動すると、ヒータにより加温されたエアが樹脂ライナ11内に供給される。
【0104】
なお、ライナ用ポンプ181にヒータを設ける構成に代えて、例えば配管182やバッファタンク172にヒータなどの加熱手段を設けてもよい。また、加温エア供給装置180を例えば第2実施形態の加温ガス供給装置160などのように構成することもできるが、チャンバー101内を真空引きしたエアを樹脂ライナ11内に注入することで、システム上の全体効率を高めることができる。
【0105】
本実施形態の製造工程のS3´´では、仮接合状態の樹脂ライナ11を内部に設置したチャンバー101内の真空引きを行う。これは、真空ポンプ171を所定時間駆動することで行われ、これによりチャンバー101内が真空状態となる。
【0106】
次の工程のS4´´は、ライナ用ポンプ181を駆動して、加温されたエアを樹脂ライナ11の略密閉空間に供給することで行われる。所定量の加温エアが樹脂ライナ11内に充填されると、樹脂ライナ11の内圧が高くなる。
【0107】
そして、樹脂ライナ11の内圧がチャンバー101の内圧(すなわち樹脂ライナ11の外圧)よりも高くなると、樹脂ライナ11の内外に圧力差が生じることになる。この圧力差が所定のレベル(最適差圧レベル)に達したかどうかが、例えばチャンバー101内の圧力センサ132と配管182上の圧力センサ133とで確認されて(S5´´)、次のレーザ溶着工程(S6)に移行する。
【0108】
したがって、本実施形態によっても、樹脂ライナ11の内外に圧力差を発生させることができるため、後工程となるレーザ溶着工程(S6)において、接合部34,44同士の密着度を高めた状態で接合部34,44同士をレーザ溶着させることができる。また、レーザ溶着を真空状態の下で行うことができるため、接合部34,44同士の酸化を適切に抑制して、接合端面51,61同士を良好に且つ適切に接合することができる。
【0109】
さらに、上記の各実施形態に比べて有用となる点は、チャンバー101内を真空引きする際に、樹脂ライナ11の外面等に付着し得る不純物をエアと共に吸引(除去)することができることである。また、レーザ溶着の完了後(S6)に、樹脂ライナ11の気密性を即座に確認することができる点が有用となる。これは例えば、レーザ溶着の完了後に樹脂ライナ11の内部に加温エアを供給し、樹脂ライナ11の内外の圧力変化を上記の圧力センサ132で検出することで、溶着後の気密性を確認することができる。
【0110】
なお、上記した第1〜第3実施形態の説明では、いずれも樹脂ライナ11の内部の圧力を調整して、樹脂ライナ11の内外に圧力差を付与するようにした。もちろんこの構成に代えて、樹脂ライナ11の外部の圧力、すなわち樹脂ライナ11の外壁とチャンバー101の内壁との間のチャンバー101内の圧力を調整することで、樹脂ライナ11の内外に圧力差を付与するようにしてもよい。また、樹脂ライナ11の内部の圧力および外部の圧力をともに調整するようにしてもよい。
【0111】
<第4実施形態>
次に、図9および図10を参照して、第4実施形態に係るガス容器1の製造方法について相違点を中心に説明する。第1実施形態との主な相違点は、レーザ溶着工程(S15)に先立って、仮接合状態の樹脂ライナ11のアニール処理(S14)を行う点である。なお、製造工程のS11およびS12は第1実施形態のS1およびS2と同じであり、S15〜S18は第1実施形態のS6〜S9と同じであるため、これらについての詳細な説明を省略する。
【0112】
製造工程のS13では、仮接合状態の樹脂ライナ11を内部に設けたチャンバー101内を真空引きする。これは例えば、真空発生装置190の真空ポンプ191を駆動して、チャンバー101に接続したエア配管192を介してチャンバー101内のエアを吸引することで行われる。この真空発生装置190は、第3実施形態の真空発生装置170と同様に構成することができる。
【0113】
次の工程のS14のアニール処理(焼きなまし)は、先ず、チャンバー101内を加温することにより、樹脂ライナ11を所定の温度に加熱する。そして、この加熱状態を所定時間保持した後、チャンバー101内を冷却し、樹脂ライナ11を冷却することで行う。
【0114】
このアニール処理により、樹脂ライナ11の残留応力が除去されるが、このときに各ライナ構成部材21,22が自己収縮するため、接合部34,44同士の密着度が高まる。これにより、アニール処理の完了後のレーザ溶着工程(S15)において、密着度が高められた状態の接合部34,44同士をレーザ溶着することができる。
【0115】
したがって、本実施形態によっても、レーザ溶着による接合部34,44同士の接合を良好に且つ適切に行うことができる。また、アニール処理を真空内で行っているため、アニール処理の完了後にそのままレーザ溶着工程に移行することができる。
【0116】
なお、本実施形態においても、上記した差圧発生装置(第1実施形態の負圧発生装置120、第2実施形態の加温ガス供給装置160、第3実施形態の加温エア供給装置180)を補助的に用いてもよい。こうすることで、接合部34,44同士の密着度をより一層高めることができる。また、アニール処理により接合部34,44同士の密着度を高めているため、差圧発生装置の構成要素(例えば、ライナ用ポンプ122,163,181)を小型化および簡素化することができる。
【0117】
<第5実施形態>
次に、図11を参照して、第5実施形態に係るガス容器1について相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、ガス容器1の樹脂ライナ11を三つのライナ構成部材201,202,203より構成したことである。なお、図11では、補強層12については省略している。
【0118】
樹脂ライナ11は、長手方向において三分割された三つのライナ構成部材201,202,203を、レーザ溶着により接合して構成されている。両端に位置する二つのライナ構成部材201,202は、全体の形状がお碗状に形成されている。中央に位置するライナ構成部材203は、全体の形状が円筒状または環状に形成されている。両端の二つのライナ構成部材201,202は、それぞれ、例えば射出成形により口金3と一体成形される。中央のライナ構成部材203は、例えば射出成形により形成される。
【0119】
両端の二つのライナ構成部材201,202の各々は、返し部211,221および連通部212,222のほか、各口金3,3と反対側に接合部213,223を有している。中央のライナ構成部材203は、軸方向の開口した両端側にそれぞれ接合部231,232を有している。
【0120】
なお、これらの接合部(213,223,231,232)について、軸方向に直交する端面で単純に構成したが、第1実施形態と同様に、レーザの照射性や、差圧による密着性を考慮した構成とすることが好ましい。
【0121】
これらの接合部(213,223,231,232)は、レーザ透過性またはレーザ吸収性の特性を有している。例えば、両端の二つのライナ構成部材201,202は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成され、中央のライナ構成部材203は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成される。もちろん、この逆であってもよいし、各ライナ構成部材201,202,203が、部分的にレーザ透過性またはレーザ吸収性の特性を有していてもよい。樹脂ライナ11は、接合部213,231同士がレーザ溶着により互いに接合され、且つ接合部223,232同士がレーザ溶着により互いに接合されている。
【0122】
本実施形態のガス容器1の製造方法は、上記した各実施形態の製造方法を適用することができる。ここでは、三つのライナ構成部材201,202,203を同時にレーザ溶着で接合する場合について簡単に説明する。
【0123】
先ず、口金3付きのライナ構成部材(201,202)を含む三つのライナ構成部材201,202,203を成形し、これらをチャンバー101内に配置して接合部213,231同士および接合部223,232同士を接触させて、仮接合状態の樹脂ライナ11とする。
【0124】
次いで、例えばチャンバー101内を不活性ガス雰囲気下または真空状態とし、差圧発生装置(例えば上記実施形態の負圧発生装置120、加温ガス供給装置160、加温エア供給装置180)により樹脂ライナ11の略密閉空間を減圧または加圧し、樹脂ライナ11の内外に所定の圧力差を設定する。
【0125】
次に、仮接合状態の樹脂ライナ11をその軸回りに回転させながら、あるいは二つのレーザトーチ140を樹脂ライナ11の周囲で回転させながら、接合部213,231同士および接合部223,232同士をレーザ溶着により周方向に亘って接合する。これにより、三つのライナ構成部材201,202,203が一体的に接合され、本接合状態の樹脂ライナ11が製造される。その後、所定の工程(例えば第1実施形態のS7〜S9)を経て、ガス容器1が製造される。
【0126】
したがって、本実施形態のように三つのライナ構成部材201,202,203で樹脂ライナ11を構成しても、上記実施形態と同様に生産性の高いガス容器1を製造することができる。
【0127】
なお、三つのライナ構成部材201,202,203について、仮接合やレーザ溶着等の処理を同時に行った例を説明したが、もちろんこれらの処理を別個に行ってもよい。また、ライナ構成部材が三つの場合について説明したが、四つ以上も同様である。すなわち、本発明は、軸方向に並ぶ複数のライナ構成部材を接合した樹脂ライナ11に適用することができる。
【0128】
<他の実施形態>
上記した本発明のガス容器1は、様々な変形例を適用することができる。例えば、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とのレーザ溶着された部位の近傍に、接合部同士を密着させるように係合する係合構造を設けてもよい。係合構造の例として螺合構造が挙げられるが、この螺合構造を第1実施形態等で示す二分割構造の樹脂ライナ11に適用した例について簡単に説明する。
【0129】
例えば、螺合構造として、図2に示す接合部44の延設部62の外周面におねじを刻設し、これに対応して、接合部34の近傍の胴部31の内周面にめねじを刻設する。こうすることで、接合部34,44同士のレーザ溶着に先立って、接合端面51,61同士を接触させつつ且つおねじとめねじとを螺合させて、仮接合状態の樹脂ライナ11を構成することができる。
【0130】
これにより、レーザ溶着の際に、接合部34,44同士を離れないように密着させておくことができ、レーザ溶着の接合精度をより一層高めることができる。なお、おねじ・めねじの螺合部分もレーザ溶着してもよい。また、この種の係合構造は、螺合構造に限らず、例えばスナップフィットや圧入などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
ガス容器1について説明したレーザ溶着については、樹脂ライナ11のみならず、自動車部品や配管部品などの各種の樹脂成形品に適用することができる。例えば、インテークマニホールドを複数の樹脂成形材で構成して、樹脂成形材同士をレーザ溶着で接合する場合にも、上記した接合部同士の構造、レーザ溶着時における圧力差の付与、レーザ溶着時における不活性ガス雰囲気下または真空状態、などを適用することで接合精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】第1実施形態に係るガス容器の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係るガス容器の接合部分を拡大して示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する説明図である。
【図4】第1実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する説明図である。
【図6】第2実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図7】第3実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する説明図である。
【図8】第3実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図9】第4実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する説明図である。
【図10】第4実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図11】第5実施形態に係るガス容器の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0133】
1 ガス容器、11 樹脂ライナ、12 補強層、21 ライナ構成部材、22 ライナ構成部材、33 連通部、34 接合部、43 連通部、44 接合部、70 レーザ溶着部、140 レーザトーチ、201 ライナ構成部材、202 ライナ構成部材、203 ライナ構成部材、213 接合部、223 接合部、231 接合部、232 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成された樹脂ライナと、
前記樹脂ライナの外周に配置された補強層と、
を有するガス容器であって、
前記複数のライナ構成部材の接合部同士は、レーザ溶着により互いに接合されているガス容器。
【請求項2】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成された樹脂ライナと、
前記樹脂ライナの外周に配置された補強層と、
を有するガス容器であって、
一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とが接合された接合部分は、これらの接合部同士をレーザ溶着により互いに接合したレーザ溶着部を有しているガス容器。
【請求項3】
前記接合部同士は、前記樹脂ライナの周方向に亘ってレーザ溶着により互いに接合されている請求項1または2に記載のガス容器。
【請求項4】
互いに接合される一方のライナ構成部材の接合部は、レーザ透過性の部材からなり、且つ他方のライナ構成部材の接合部は、レーザ吸収性の部材からなる請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガス容器。
【請求項5】
互いに接合される一方のライナ構成部材は、レーザ透過性の部材からなり、且つ他方のライナ構成部材は、レーザ吸収性の部材からなる請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガス容器。
【請求項6】
前記レーザ透過性の部材からなる接合部は、前記樹脂ライナにおいて外側に位置し、且つ前記レーザ吸収性の部材からなる接合部は、前記樹脂ライナにおいて内側に位置する請求項4または5に記載のガス容器。
【請求項7】
前記複数のライナ構成部材のうちの少なくとも一つは、他のライナ構成部材と接合される接合部と反対側に、前記樹脂ライナの中空内部と外部とを連通するための連通部を有している請求項1ないし6のいずれか一項に記載のガス容器。
【請求項8】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、
互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材の接合部をレーザ吸収性の部材で構成する第1工程と、
前記第1工程後に、互いに接合されるべきライナ構成部材の接合部同士を接触させる第2工程と、
前記第2工程後に、前記レーザ透過性の部材からなる接合部側からレーザを照射して、接触状態の接合部同士をレーザ溶着により互いに接合する第3工程と、
を有するガス容器の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程は、前記レーザ透過性の接合部を、前記レーザ吸収性の接合部に対して外側から接触させることで行われ、
前記第3工程は、ライナ構成部材の外側に配置したレーザ照射装置により、前記レーザ透過性の接合部側からレーザを照射することで行われる請求項8に記載のガス容器の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内外に圧力差を付与した状態で、レーザを照射することを含む請求項8または9に記載のガス容器の製造方法。
【請求項11】
前記第3工程における前記圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内部の圧力および外部の圧力の少なくとも一方を調整することで行われる請求項10に記載のガス容器の製造方法。
【請求項12】
前記第3工程における前記圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の内部を略密閉状態として、その密閉空間を減圧または加圧することで行われる請求項11に記載のガス容器の製造方法。
【請求項13】
前記第3工程における前記圧力差の付与は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の少なくとも一方に設けた連通部を介して、前記密閉空間を減圧または加圧することで行われる請求項12に記載のガス容器の製造方法。
【請求項14】
前記第2工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の接合部同士をライナ構成部材の軸方向にオーバラップして配置し、且つそのオーバラップした部位同士を接触させることで行われる請求項8ないし13のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項15】
前記第2工程と前記第3工程との間に、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の接合部同士を接触させた状態でアニール処理を行う工程を、更に有する請求項8ないし14のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項16】
前記第3工程は、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材をレーザ照射装置に対し相対的に回転させながら、前記接触状態の接合部同士をライナ構成部材の周方向に亘ってレーザ溶着することで行われる請求項8ないし15のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項17】
前記第3工程は、低酸素雰囲気で行われる請求項8ないし16のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項18】
前記第1工程は、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材をレーザ吸収性の部材で構成することで行われる請求項8ないし17のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項19】
前記第3工程後に、レーザ溶着により接合された二つのライナ構成部材の外周面のつなぎ目が面一となるように、この二つのライナ構成部材の少なくとも一方の外周面を削る工程を、更に備えた請求項8ないし18のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−242247(P2006−242247A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57089(P2005−57089)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】