説明

ガス混合器、気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法

【課題】有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種類のガスを安全かつ均一に混合できるガス混合器、該ガス混合器を用いた気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法、該製造方法を用いて製造された原料ガスを用いた(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法ならびに(メタ)アクリル酸の製造方法の提供。
【解決手段】下記第一混合デバイス11と第二混合デバイス31とを備えるガス混合器。第一混合デバイス11は、酸素含有ガスおよび不活性ガスが導入されるガス導入部12を有する第一の筐体13と第一のガス導入管14と第二のガス導入管15とを備え、第二のガス導入管15よりも下流側に格子層16〜18が設置されている。第二混合デバイス31は、第二の筐体32と第三のガス導入管33とを備え、第二の筐体32内には、孔を有する複数の管34が収納されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応の原料である有機化合物を含有する有機ガスと、酸素含有ガスと、酸化反応に不活性な不活性ガスとを混合するガス混合器、該ガス混合器を用いた気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法、該製造方法を用いて製造された原料ガスを用いた(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法ならびに(メタ)アクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学分野においては、有機化合物の気相接触酸化反応により有用な化合物を生産している。例えば、プロパンあるいはブタンを被酸化原料である有機化合物として含む有機ガスを用い、該有機ガスと、空気をはじめとした酸素含有ガスとを反応させる気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成することが実施されている。同様に、プロピレン、イソブテンおよび/または第3級ブチルアルコールを原料とし気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成することも実施されている。
これらの気相接触酸化反応は、大きな発熱を伴う。そのため、気相接触酸化反応が実施される気相接触酸反応器内での温度上昇を抑制し、該反応器内の温度を反応条件として適した範囲内(たとえば反応触媒の最適温度範囲内)に抑制するために、当該反応器へ供給するガスを、酸化反応に不活性なガスで希釈し、当該ガス中の有機化合物の濃度を低くすることが行われている。
このように、気相接触酸化反応器へ供給する原料ガスは、通常、有機ガス(有機化合物を含有するガス)、酸素含有ガス(酸素ガス、および/または空気などの、酸素ガス以外のガスも含むガス)および不活性ガス(該酸化反応に不活性なガス)の3種類からなる。
一般に、気相接触酸化反応器は、触媒を充填した多数の反応管から形成されている。これらの複数の反応管へ均一な組成の原料ガスを供給するためには、前記3種類のガスを充分に混合する混合器が必要となる。
【0003】
多くの場合、有機化合物および酸素を含有するガスは、一定の有機化合物濃度範囲において爆発反応を起こしうる。この爆発反応を起こしうる濃度の低い限界値を爆発下限界と呼び、爆発反応を起こしうる濃度の高い限界値を爆発上限界と呼び、この下限界と上限界との間を爆発範囲(あるいは爆発限界)という。この値は、例えば非特許文献1に記載されている。爆発範囲は、同じ有機化合物であっても酸素濃度や温度、圧力、測定方法によりその値は異なる。前記非特許文献1の値は、空気中の酸素濃度、常温、常圧における値である。
また、酸素濃度を縦軸にとり各酸素濃度における爆発範囲を横軸にとった図を爆発半島図といい、特許文献1にイソブテンの例が示されている。この爆発半島図でわかるように酸素濃度が低い方が爆発範囲は狭くなる。
【0004】
以上のような爆発特性を考慮して、気相接触酸化反応に用いられる原料ガスの組成は、反応中のいかなる部分においても上記爆発範囲に入らないような条件が選択される。したがって前記3種が完全に混合した後には爆発反応が生ずる危険が回避されている。
しかし、該3種類のガスを混合する過程においては、局所的にその組成が爆発範囲に入ることが避けられず、部分的に爆発現象が発生するおそれがある。例えば、酸素含有ガスとして空気を用いた場合、混合器内において、一部の空気が不活性ガスと充分混合せず、局所的に、空気と同程度の高い酸素濃度のガス塊が存在してしまう。このガス塊に有機ガスが接触してしまうと、両者の混合比率によっては、該ガス塊の組成が爆発範囲に入ることが充分考えられる。そして、この爆発範囲に入ったガス塊がある程度の大きさを有するものであり、かつその近傍に着火源が存在した場合は、爆発反応が生ずるおそれが高くなる。そして一旦爆発反応が開始すると、混合器全般に爆発が伝播するようになる。そのため、気相接触酸化反応の原料ガスの製造においては、爆発反応を生じさせないように、安全かつ均一に上記3種のガスを混合できるガス混合器が必要となる。
爆発の危険性のない2種類のガスの混合器は、広く知られ、市販もされている。しかし、かかる混合器は、爆発反応を起こしうる有機化合物と酸素含有ガスの2種類のガス混合には使用できない。
【0005】
気相接触酸化反応に用いられる有機ガスと酸素含有ガスとの混合方法として、たとえば特許文献2には、混合器に水等の液体を使用する湿式法を用いる方法が提案されている。しかし、特許文献2に記載の方法は、湿式法であるため、気相接触酸化反応の入口条件に制約を生じたり、入口組成の組成変動要因を抱えたりする欠点がある。
また、特許文献3には、特定の混合器を用いる乾式法により、気相接触酸化反応に用いられる有機ガスおよび酸素含有ガスの2種類のガスを混合する方法が記載されている。
【非特許文献1】日本化学会、「化学便覧 応用編(改定3版)」(昭和55年発行)、p.1482〜1486
【特許文献1】国際公開第05/005344号パンフレット
【特許文献2】特公昭60−6687号公報
【特許文献3】特開昭56−53733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に記載の方法は、有機ガスおよび酸素含有ガスに加え、さらに不活性ガスを含めた3種類のガスを、安全かつ均一に混合するには充分ではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種類のガスを安全かつ均一に混合できるガス混合器、該ガス混合器を用いた気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法、該製造方法を用いて製造された原料ガスを用いた(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法ならびに(メタ)アクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]有機化合物を含有する有機ガスと、酸素含有ガスと、酸化反応に不活性な不活性ガスとを混合するガス混合器であって、
酸素含有ガスおよび不活性ガスが導入されるガス導入部を有する第一の筐体と、前記ガス導入部に接続した第一のガス導入管と、前記第一のガス導入管よりも下流側で前記ガス導入部に接続した第二のガス導入管とを備え、前記第二のガス導入管が、当該第二のガス導入管からのガス流が前記第一のガス導入管からのガス流と同じ方向に流動するように設置され、前記第一の筐体内の前記第二のガス導入管よりも下流側に、少なくとも1層の格子層が、第二のガス導入管からのガス流の流動方向に対して垂直に設置されている第一混合デバイスと、
前記第一の筐体に接続した第二の筐体と、該第二の筐体内に前記有機ガスを導入する第三のガス導入管とを備え、前記第二の筐体内に、前記第一混合デバイスからのガス流の流路となる管が収納され、前記管の管壁に、当該管の内側に前記有機ガスを導入する孔が形成されている第二混合デバイスと、を備えることを特徴とするガス混合器。
[2]前記第二混合デバイスの下流側に、さらに、消炎装置を備える[1]に記載のガス混合器。
[3]前記ガス混合器の外周部に、さらに、温度調節用の外套および/またはトレース配管を備える[1]または[2]に記載のガス混合器。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載のガス混合器の第一混合デバイスのガス導入部に、前記酸素含有ガスおよび不活性ガスのうち、流量の大きいガスを前記第一のガス導入管から導入し、流量の少ないガスを前記第二のガス導入管から導入する工程、前記第一混合デバイスで得た酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガスを第二混合デバイスに導入するとともに、前記第三のガス導入管から前記有機ガスを導入する工程を含むことを特徴とする気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
[5]前記混合ガスを第二混合デバイスに導入する工程において、前記第二混合デバイスを、前記有機ガスの露点より高い温度の熱媒体を用いて加熱する[4]に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
[6]前記有機ガスとしてプロパン、プロピレン、イソブタン、イソブテンおよび第3級ブチルアルコールからなる群から選択される1種以上の有機化合物を含有するガスを用いる[4]または[5]に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
[7]前記有機ガスとして(メタ)アクロレインを含有するガスを用いる[4]または[5]に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
[8][6]に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法により製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法。
[9][7]に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法により製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガス混合器によれば、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種類のガスを安全かつ均一に混合できる。そのため、該混合器は、気相接触酸化反応の原料ガスの製造用として有用である。
また、本発明の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法によれば、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種類のガスが安全かつ均一に混合された原料ガスを製造できる。該製造方法により製造される原料ガスは、特に、本発明の(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法、もしくは(メタ)アクリル酸の製造方法に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<ガス混合器>
[第一混合デバイス]
第一混合デバイスは、酸素含有ガスおよび不活性ガスが導入されるガス導入部を有する第一の筐体と、前記ガス導入部に接続した第一のガス導入管と、前記第一のガス導入管よりも下流側で前記ガス導入部に接続した第二のガス導入管とを備え、前記第二のガス導入管が、当該第二のガス導入管からのガス流が前記第一のガス導入管からのガス流と同じ方向に流動するように設置され、前記第一の筐体内の前記第二のガス導入管よりも下流側に、少なくとも1層の格子層が、第二のガス導入管からのガス流の流動方向に対して垂直に設置されたものである。
この第一混合デバイスによれば、エネルギー効率良く(圧力損失が少なく)、酸素濃度のムラ(酸素濃度斑)の発生を抑制しつつ、酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガス(2種混合ガス)を得ることができる。
【0010】
図1に第一混合デバイスの一実施形態を示す。本実施形態において、第一混合デバイス11は、ガス導入部12を有する第一の筐体13と、ガス導入部12にそれぞれ接続した第一のガス導入管14および第二のガス導入管15とを備える。
第一のガス導入管14は、酸素含有ガスおよび不活性ガスのうち、流量の大きいガス(以下、第1種ガスということがある。)をガス導入部12に導入するために用いられる。また、第二のガス導入管15は、酸素含有ガスおよび不活性ガスのうち、流量の小さいガス(以下、第2種ガスということがある。)を導入するために用いられる。
【0011】
第二のガス導入管15は、第一のガス導入管14よりも下流側でガス導入部12に接続している。
また、第二のガス導入管15は、第一のガス導入管14からのガス流の流動方向と同じ方向に開口しており、当該第二のガス導入管15からのガス流が第一のガス導入管14からのガス流と同じ方向に流動するようになっている。
本発明においては、かかる構成を有することにより、酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガスの酸素濃度のムラを低減できる。
第一のガス導入管14および第二のガス導入管15からのガス流の方向は、重力方向に対し平行でもよく、垂直でもよい。
【0012】
第一の筐体13内において、第二のガス導入管15の下流側には、第二のガス導入管15の開口近傍から、ガス流の流動方向に沿って3層の格子層16〜18が設置されている。
格子層16〜18は、それぞれ、当該格子層を含む平面が、第二のガス導入管15からのガス流の流動方向に対して垂直になるように、間隔をあけて設置されている。
【0013】
ここで、格子層とは、当該格子層が設置された位置における第一の筐体の内側の断面を2以上に分割する1つ以上の格子部材から構成される層である。かかる格子層が設置されていることにより、酸素含有ガスと不活性ガスとが充分混合される。すなわち、ガス導入部12に導入された酸素含有ガスおよび不活性ガスが、それぞれ、格子層を通過する際、格子層によって複数に分割される。そのため、高濃度の酸素ガス塊が残存することなく、均一な酸素濃度の2種混合ガスが得られる。
【0014】
格子層の具体例としては、たとえば、2本以上の棒状の格子部材の組み合わせにより複数の空間(単位空間部)が形成されたものが挙げられる。具体例を挙げると、2本の格子部材が直交し、4個の単位空間部が形成されたものや、図2に示すような、4本の格子部材21がそれぞれ2本ずつ直交し、9個の単位空間部22が形成されたもの、9本の格子部材が直交し、16個の単位空間部が形成されたもの等が挙げられる。
格子部材の形状は特に制限はない。具体例としては、たとえば図3に示すような、円筒形のもの、断面形状が四角形、三角形、菱形等の多角形のもの、アングル形の部材等が挙げられる。また、その他、断面形状が円形、楕円形の部材など、任意の形状であってよい。
図1においては、格子層を3層設置した例を示しているが、本発明はこれに限定されない。格子層の数は、1層であってもよく、2層以上であってもよい。本発明の効果のためには、2層以上が好ましく、2〜5層がより好ましい。
【0015】
第二のガス導入管の開口の最も近くに設置される格子層(図1における格子層16。以下、第一の格子層ということがある。)は、単位空間部の1個あたりの面積が、ガス流通断面積(当該格子層が設置された位置における第一の筐体の内側の断面積)の3〜15%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。
また、第一の格子層は、全開口面積(全単位空間部の面積の合計)が、前記ガス流通断面積の20〜70%であることが好ましく、25〜55%であることがより好ましい。
【0016】
2層以降の格子層(図1における格子層17、18)を設置する場合、ガス流の下流に配置する格子層ほど、単位空間部の面積が小さいことが好ましい。
2層以降の格子層の単位空間部の面積は、前記ガス流通断面積の1〜20%であることが好ましく、2〜10%であることがより好ましい。
2層以降の格子層の全開口面積は、1層とほぼ同様であることが好ましい。
2層以降に配置する格子層において、格子部材の断面形状は、第一の格子層と同じであってもよく、異なってもよい。下流に配置する格子層ほど単位空間部の面積を小さくする場合、下流に配置する格子層ほど、格子部材の断面形状が、断面二次モーメントの大きい形状であることが好ましい。
2層以降の格子層を設置する場合、各格子層間の間隔は、上流側の格子層の厚み(ガス流の流動方向における格子層の幅)の0.5〜5倍が好ましく、1〜3倍がより好ましい。
【0017】
[第二混合デバイス]
第二混合デバイスは、第一の筐体に接続した第二の筐体と、該第二の筐体内に前記有機ガスを導入する第三のガス導入管とを備え、前記第二の筐体内に、前記第一混合デバイスからのガス流の流路となる管が収納され、前記管の管壁に、当該管の内側に前記有機ガスを導入する孔が形成されている。
この第二混合デバイスによれば、前記第一混合デバイスで得られた2種混合ガスと有機ガスとを安全かつ均一に混合して、酸素含有ガスと不活性ガスと有機ガスとの混合ガス(3種混合ガス)を得ることできる。
【0018】
第二混合デバイスとしては、特許文献3(特開昭56−53733号公報)のガス混合装置と同様のものが使用できる。この第二混合デバイスは、管の構造以外は、従来公知の多管式熱交換器と同様の形態である。すなわち、第二混合デバイスは、第一混合デバイスからのガス流の流路となる管として、管壁に孔が存在し、管外のガス(有機ガス)を管内に導入できる構造のものを用いる点で、多管式熱交換器と異なる。
図4に第二混合デバイスの一実施形態を示す。本実施形態において、第二混合デバイス31は、筒型の第二の筐体32と、該第二の筐体32内に有機ガスを導入する第三のガス導入管33とを備える。
第二の筐体32内には、管壁に孔34aを有する複数の管34が収納されており、各管34の上流側末端および下流側末端は、それぞれ、管板(上流側管板35および下流側管板36)によって固定されている。
第二の筐体32内において、上流側管板35と下流側管板36との間の空間は、上流側管板35および下流側管板36によって隔離されており、該空間内の、管34の外側に、第三のガス導入管33を介して、有機ガスを導入できるようになっている。
かかる第二の筐体32内においては、第一混合デバイスで得られた2種混合ガスが、各管34内を流れるとともに、上記隔離された空間内を、第三のガス導入管から導入された有機ガスが流れ、該有機ガスが孔34aから管34内に導入されて、前記2種混合ガスと混合されるようになっている。
【0019】
第二の筐体32は、第一混合デバイスの第一の筐体に接続している。第二の筐体32は、第一の筐体と直結していてもよく、配管を介して接続されていてもよい。
【0020】
第三のガス導入管33のサイズや配置は特に限定されないが、配置は第二の筐体32の中心にするのが好ましい。
【0021】
管34の内径は、10〜50mmの範囲内であることが好ましく、15〜30mmがより好ましい。爆発範囲はガスの存在空間の大きさに影響されるが、50mmを越えると、管内の空間が大きくなって爆発範囲が広がるおそれがある。また、10mm未満であると、製作上の観点から経済的ではない。
管34の全長は、混合に必要な距離として、管の内径の8〜100倍程度が好ましく、10〜70倍がより好ましい。
管34の管長(最も下流側の孔の中心から管の下流側末端までの長さ)は、管の内径の8〜50倍程度が好ましく、10〜30倍がより好ましい。
【0022】
孔34aの数は、1個であってもよく、複数個であってもよい。
孔34aの相当直径は、管34の直径の4〜40%の範囲内であることが好ましく、4〜30%がより好ましい。ここで、相当直径とは、(開口部面積/開口断面のガスに接する部分の長さ(=浸辺長)を意味する。
本発明においては、有機ガスの導入量を考慮し、該有機ガスが孔を通過する通過速度(標準状態換算)が好ましくは50〜200m/sの範囲内、より好ましくは50〜100m/sの範囲内に入るように、孔の数および孔の相当直径を調整することが好ましい。該通過速度が50m/s未満であると、微小な圧力変動によって、管内のガス(酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガス)が、管外に逆流するおそれがあり、安全上好ましくない。また、通過速度が200m/sを越えると、圧力損失が増大して有機ガスの導入のエネルギー損失が大きくなるばかりでなく、蒸発ガス化装置において有機ガスを調製する際のガス化温度が高くなり、好ましくない影響が発生するおそれがある。
【0023】
孔34aの位置は、上流側管板35および下流側管板36の間であればよい。好ましくは、当該管の上流側末端から、上流側管板35の下流側表面の位置までの距離の1〜10倍程度、当該管の上流側末端から下流側に隔てた位置である。
【0024】
本発明のガス混合器は、安全性をさらに高めるために、第二混合デバイスの下流側に、さらに、消炎装置を備えることが好ましい。
消炎装置としては、特に限定されず、一般的なものを使用できる。即ち、ワイヤーメッシュタイプのものや、多孔板を何枚か重ねたタイプのもので良い。これらの消炎装置を設置することで、万が一混合器内で爆発が発生した場合でも、他の設備(たとえば気相接触酸化反応の反応器等)への延焼を防ぐことができる。
【0025】
本発明のガス混合器は、ガス混合器の外周部に、さらに、温度調節用の外套および/またはトレース配管を備えることが好ましい。これにより、混合器内における凝集を防止し、安全な混合を実施できる。すなわち、混合器内で、有機ガス中の有機化合物が凝縮し、液化すると、それが蒸発したときに、混合器内の有機化合物の濃度が一時的に高くなり、爆発範囲に入る危険が増大する。そこで、混合器の外周部に外套および/またはトレース配管を設置し、有機化合物の露点より高い熱媒体により加熱ないし保温することにより、凝縮を防止できる。
【0026】
図5に、本発明のガス混合器の好ましい実施形態を示す。なお、図5において、図1および4に示した実施形態に対応する構成要素には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態において、ガス混合器1は、第一混合デバイス11の第一の筐体13と、第二混合デバイス31の第二の筐体32とが直結した構造を有する。第二の筐体32は、第一混合デバイス11の第一のガス導入管14および第二のガス導入管15からのガス流の向きが同じ向きに配置されている。
第二の筐体32内の、管34よりも下流側には、万一、混合器で着火した場合の延焼を防止するために、消炎装置としてフレームアレスター41が取り付けられており、その下流側の第二の筐体32の出口には、ガス排出管42が接続されている。
また、第一混合デバイス11および第二混合デバイス31の外周部には、加熱用のトレース配管43が設置されている。
【0027】
上記本発明のガス混合器は、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種のガスからなる気相接触酸化反応の原料ガスの製造プロセスにおいて有用である。
【0028】
<気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法>
本発明の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法は、気相接触酸化反応の原料ガスとして、上記有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種のガスの混合ガスを製造する方法であり、本発明のガス混合器の第一混合デバイスのガス導入部に、前記酸素含有ガスおよび不活性ガスのうち、流量の大きいガス(以下、第1種ガスという。)を前記第一のガス導入管から導入し、流量の少ないガス(以下、第2種ガスという。)を前記第二のガス導入管から導入する工程(以下、第一混合工程という。)、前記第一混合デバイスで得た酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガスを第二混合デバイスに導入するとともに、前記第三のガス導入管から前記有機ガスを導入する工程(以下、第二混合工程という。)を含む。
本発明においてまず重要となるのが、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種のガスを混合する順序である。有機化合物の爆発範囲は、上述したように、酸素濃度の影響を受け、酸素濃度が低いほど爆発範囲は狭くなる。気相接触酸化反応の原料ガスに用いられる酸素含有ガスとしては、空気や酸素富化空気、純酸素が使用されており、これらのガス中の酸素濃度は21%以上と高い。そのため、従来、該酸素含有ガスと有機ガスと混合する際に、高濃度の酸素ガス塊と有機ガスとが接触することとなり、爆発範囲が広くなって危険性が高くなっていたと推測される。
これに対し、本発明においては、最初に、一般に酸素を含有していないか、酸素を含有していても空気より酸素濃度が大幅に低い不活性ガスと、酸素含有ガスとを均一に混合し、酸素ガス塊が存在しないようにした上で有機ガスと混合することで、有機ガス、酸素含有ガスおよび不活性ガスの3種のガスを安全に混合できる。
【0029】
[第一混合工程]
本工程では、第1種ガスを第一のガス導入管から導入する。そして、第2種ガスを第二のガス導入管から導入することにより、第1種ガスと同じ方向に流れるように第2種ガスが導入される。そして、第二のガス導入管の下流側に設置された格子層により、第1種ガスと第2種ガスとが充分に混合される。
この第一混合工程によれば、酸素含有ガスと不活性ガスとを、エネルギー効率良く(圧力損失が少なく)、酸素濃度のムラ(酸素濃度斑)の発生を抑制しつつ混合できる。そのため、得られる混合ガス中に、爆発範囲にあるガス塊が存在する確率が低くなり、次工程で、有機ガスと混合する際の安全性が高い。
なお、酸素含有ガスおよび不活性ガスの流量が同じである場合は、どちらのガス導入管を用いてもよい。
【0030】
[第二混合工程]
次に、第一混合工程で得られた2種混合ガスを第二混合デバイスに導入する。そして、該第二混合デバイスに、有機ガスを第三のガス導入管から導入する。これにより、第二の筐体内において、管内を2種混合ガスが流れるとともに、そのガス流に、管壁の孔を通じて管外の有機ガスが流入する。その結果、これらのガスが安全かつ均一に混合され、酸素含有ガスと不活性ガスと有機ガスとの3種混合ガス(気相接触酸化反応の原料ガス)が得られる。
【0031】
第二混合工程においては、第二混合デバイスを、有機ガスの露点より高い温度の熱媒体を用いて加熱することが好ましい。すなわち、上述したように、第二混合デバイス、および任意に第一混合デバイスの外周部に外套および/またはトレース配管を設置し、外套および/またはトレース配管を、有機ガス中の有機化合物の露点より高い熱媒体により加熱し、第二混合デバイス、および任意に第一混合デバイスを加熱することにより、有機化合物の液化を防止できる。
【0032】
本発明の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法においては、前記有機ガスとしてプロパン、プロピレン、イソブタン、イソブテンおよび第3級ブチルアルコールからなる群から選択される1種以上の有機化合物を含有するガスを用いることが好ましい。かかるガスを用いて得られる原料ガスは、気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成する工程で活用できる。
【0033】
本発明の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法においては、前記有機ガスとして(メタ)アクロレインを含有するガスを用いることが好ましい。かかるガスを用いて得られる原料ガスは、気相接触酸化反応により(メタ)アクリル酸を合成する工程で活用できる。
【0034】
<(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法>
本発明の(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法は、前記気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法において、有機ガスとしてプロパン、プロピレン、イソブタン、イソブテンおよび第3級ブチルアルコールからなる群から選択される1種以上の有機化合物を含有するガスを用いて製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む。
気相接触酸化反応は、従来公知の手法により行うことができる。
【0035】
<(メタ)アクリル酸の製造方法>
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、前記気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法において、有機ガスとして(メタ)アクロレインを含有するガスを用いて製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む。
気相接触酸化反応は、従来公知の手法により行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
[実施例1〜3]
第3級ブチルアルコールおよび酸素を原料とし、モリブデン酸化物触媒を用いて気相接触酸化反応によりメタクロレインを合成するプロセスにおいて気相接触酸化反応器へ導入する原料ガスを、図5に示すガス混合器1と同様の構成のガス混合器を用いて、以下の手順で調製した。
該ガス混合器において、第一〜三のガス導入管としては、それぞれ、内径が0.4m、0.25m、0.25mのものを用いた。
格子層は、図5に示すとおり、3層から構成した(以下、上流側から第1層、第2層、第3層という。)。
第1層としては、外径0.27mの円管2本を直交させた十字型のもの(単位空間部の数:4個、ガス流通断面積に対する単位空間部の面積の割合:30%)を用いた。
第2層としては、外径0.11mの円管2本ずつを直交させた井桁型のもの(単位空間部の数:9個、ガス流通断面積に対する単位空間部の面積の割合:40%)を用いた。
第3層としては、外径0.08mの円管3本ずつを直交させたもの(単位空間部の数:16個、ガス流通断面積に対する単位空間部の面積の割合:40%)を用いた。
第1層と第2層との間の間隔、第2層と第3層との間の間隔は、それぞれ、上流側の格子層の厚さの2倍とした。
また、第一混合デバイスの出口部に、径方向の任意の位置にてガスがサンプリングできる管を設置した。
第二混合デバイスは、円筒形の胴部内に1400本の管(各管の内径15mm、長さ1m)からなる管束を収納した熱交換器状のものを用いた。管に開けた孔の数は1個、各孔の直径は4mmである。
【0037】
上記のガス混合器を用いて、表1に示すガス組成(体積%)の3種のガス(酸素含有ガス、不活性ガスおよび有機ガス)を、表1に示す流量で各ガス導入管から導入して混合した。
【0038】
【表1】

【0039】
このとき、第一混合デバイスの出口部に設けた管から当該出口部のガスを、径方向にサンプリング位置を変えながらサンプリングし、それらのガス中の酸素濃度を測定した。その結果、いずれの例においても、径方向20点の測定結果において、酸素濃度の相対誤差は2%以内と良好であった。
この結果から、第一混合デバイスにおいて、酸素含有ガスと不活性ガスとが、酸素濃度のムラが少なく、均一に混合されたことが確認できた。
また、第二混合デバイスでの均一混合は明らかであり、局所的な爆発範囲を避けて安全に酸化反応に用いる原料ガスを混合することができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第一混合デバイスの一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】格子層を構成する格子部材の一部を示す概略斜視図である。
【図3】格子層の一例を示す概略正面図である。
【図4】第二混合デバイスの一実施形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明のガス混合器の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…ガス混合器、11…第一混合デバイス、12…ガス導入部、13…第一の筐体、14…第一のガス導入管、15…第二のガス導入管、16…格子層、17…格子層、18…格子層、21…格子部材、22…単位空間部、31…第二混合デバイス、32…第二の筐体、33…第三のガス導入管、34…管、35…上流側管板、36…下流側管板、41…フレームアレスター、42…ガス排出管、43…トレース配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含有する有機ガスと、酸素含有ガスと、酸化反応に不活性な不活性ガスとを混合するガス混合器であって、
酸素含有ガスおよび不活性ガスが導入されるガス導入部を有する第一の筐体と、前記ガス導入部に接続した第一のガス導入管と、前記第一のガス導入管よりも下流側で前記ガス導入部に接続した第二のガス導入管とを備え、前記第二のガス導入管が、当該第二のガス導入管からのガス流が前記第一のガス導入管からのガス流と同じ方向に流動するように設置され、前記第一の筐体内の前記第二のガス導入管よりも下流側に、少なくとも1層の格子層が、第二のガス導入管からのガス流の流動方向に対して垂直に設置されている第一混合デバイスと、
前記第一の筐体に接続した第二の筐体と、該第二の筐体内に前記有機ガスを導入する第三のガス導入管とを備え、前記第二の筐体内に、前記第一混合デバイスからのガス流の流路となる管が収納され、前記管の管壁に、当該管の内側に前記有機ガスを導入する孔が形成されている第二混合デバイスと、を備えることを特徴とするガス混合器。
【請求項2】
前記第二混合デバイスの下流側に、さらに、消炎装置を備える請求項1に記載のガス混合器。
【請求項3】
前記ガス混合器の外周部に、さらに、温度調節用の外套および/またはトレース配管を備える請求項1または2に記載のガス混合器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス混合器の第一混合デバイスのガス導入部に、前記酸素含有ガスおよび不活性ガスのうち、流量の大きいガスを前記第一のガス導入管から導入し、流量の少ないガスを前記第二のガス導入管から導入する工程、前記第一混合デバイスで得た酸素含有ガスと不活性ガスとの混合ガスを第二混合デバイスに導入するとともに、前記第三のガス導入管から前記有機ガスを導入する工程を含むことを特徴とする気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
【請求項5】
前記混合ガスを第二混合デバイスに導入する工程において、前記第二混合デバイスを、前記有機ガスの露点より高い温度の熱媒体を用いて加熱する請求項4に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
【請求項6】
前記有機ガスとしてプロパン、プロピレン、イソブタン、イソブテンおよび第3級ブチルアルコールからなる群から選択される1種以上の有機化合物を含有するガスを用いる請求項4または5に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
【請求項7】
前記有機ガスとして(メタ)アクロレインを含有するガスを用いる請求項4または5に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法により製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む(メタ)アクロレインおよび/または(メタ)アクリル酸の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の気相接触酸化反応の原料ガスの製造方法により製造された原料ガスから、気相接触酸化反応により(メタ)アクリル酸を合成する工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−285427(P2008−285427A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130209(P2007−130209)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】