説明

ガラスの製造方法

【課題】溶融ガラスMによる耐熱容器1の損傷を効果的に抑制することができるガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラス原料を耐熱容器1に入れて炉内で溶融する溶融工程と、耐熱容器1内の溶融ガラスMを炉外で撹拌する撹拌工程と、を含むガラスの製造方法において、炉から取り出した耐熱容器1を、この耐熱容器1の外側面を支える支持部材2を介して底部12を浮かせた状態で載置面3の上方に載置して撹拌工程を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法、より詳しくは、耐熱容器を用いて、バッチ式でガラス原料を溶融するガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電子部品の封着材料や絶縁材料用のガラスにおいては、少量多品種生産に対応するため、耐熱容器を用いて、バッチ式でガラス原料を溶融することが行われている。ところが、耐熱容器を用いて溶融する場合、溶融ガラスの種類や溶融条件によっては、溶融ガラスと耐熱容器とが反応して耐熱容器が損傷することがあった。
【0003】
例えば、鉛系ガラスの代替材料として注目されているビスマス系ガラスは、白金製の耐熱容器を用いて溶融する場合、溶融時にビスマスが白金と合金化し、白金容器を損傷することが知られている。そして、ビスマスの含有量が多い程、白金容器の損傷が大きくなる傾向がある。周知のとおり、白金は高価な金属であり、そのため、このビスマスによる白金容器の損傷が、ビスマス系ガラスの製造コストを押し上げてしまう問題があった。
【0004】
そこで、現在までに、白金容器の損傷を抑制するために、ビスマスの含有量を少なくしたり、溶融時に酸素を吹き込んでビスマス系ガラスを酸化性雰囲気で溶融したり(特許文献1参照)、ガラス原料に酸化ジルコニウム水和物等の良溶融性原料や微粉化原料を加えることが行われている。
【0005】
また、白金製の耐熱容器の代わりに、金または金合金製の耐熱容器を使用したり(特許文献2参照)、非金属製の耐熱容器を使用したりすることが提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、上記対策により白金容器の損傷をある程度、抑制することができるものの、その効果は十分でなく、白金容器の損傷の更なる抑制が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−502574号公報
【特許文献2】特開2004−18312号公報
【特許文献3】特開2007−70156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特に白金製の耐熱容器を用いたビスマス系ガラスの製造に上記のような問題があったことに鑑みて為されたもので、溶融ガラスによる耐熱容器の損傷を効果的に抑制することができるガラスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、溶融工程を行った耐熱容器の底部周辺に微小なクラックが存在することに着目し、鋭意研究の結果、耐熱容器の損傷度が、溶融ガラスの成分やその含有量に左右されるだけでなく、撹拌工程において、炉から取り出した耐熱容器を床面等に載置した際の熱衝撃によっても左右されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ガラス原料を耐熱容器に入れて炉内で溶融する溶融工程と、前記耐熱容器内の溶融ガラスを炉外で撹拌する撹拌工程と、を含むガラスの製造方法であって、
前記撹拌工程において、炉から取り出した前記耐熱容器を、該耐熱容器の外側面を支える支持部材を介して該耐熱容器の底部を浮かせた状態で保持することを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、ガラス原料を耐熱容器に入れて炉内で溶融する溶融工程を含むガラスの製造方法であって、前記溶融工程の後、前記炉から取り出した前記耐熱容器を、該耐熱容器の外側面を支える支持部材を介して該耐熱容器の底部を浮かせた状態で保持したまま、該耐熱容器の溶融ガラスにさらにガラス原料を入れ、その後、該耐熱容器を該支持部材から外して前記炉内で溶融工程を行うことを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、前記耐熱容器の外側面に設けられた突起を前記支持部材で支えることを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、前記ガラスがビスマス系ガラスであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、前記耐熱容器が白金または白金合金から成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガラスの製造方法によれば、撹拌工程において、炉から取り出した耐熱容器を、その外側面を支える支持部材を介して保持しているので、耐熱容器の底部を浮かせた状態で載置面の上方に載置することができる。したがって、高温の耐熱容器の底部と室温の載置面とが直接接触した際に底部に加わる熱衝撃を確実に回避することができ、溶融ガラスによる耐熱容器の損傷をより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のガラスの製造方法の撹拌工程において、支持部材を介して耐熱容器を載置面の上方に載置した状態を示す平面図である。
【図2】図1中のA−A線における部分断面側面図である。
【図3】本発明に係る他の実施形態のガラスの製造方法の撹拌工程において、支持部材を介して耐熱容器を載置面の上方に載置した状態を示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態のガラスの製造方法は、ガラス原料を耐熱容器1に入れて炉内で溶融する溶融工程と、耐熱容器1内の溶融ガラスMを炉外で撹拌する撹拌工程と、撹拌後の溶融ガラスMを所定形状に成形する成形工程とを備えている。
【0018】
溶融工程は、予め調合したガラス原料を耐熱容器1に投入し、耐熱容器1毎に電気炉内で加熱することにより行う。本実施形態では、図1及び図2に示すように、耐熱容器1として、白金または白金合金製の有底円筒状ポットを使用している。この耐熱容器1の外側面には、周上に等間隔に並ぶ4つの鍔状突起11が上下2段で設けられている。これら鍔状突起11によって、トング等を使った耐熱容器1の搬送作業を確実に行うことが可能となる。また、耐熱容器1は、白金製容器の他、石英ガラス、アルミナ、インコネル、ジルコニウム、ムライト、イリジウム製の容器等を使用することもできる。
【0019】
また、本実施形態では、ガラス組成として、質量百分率で、Bi 36〜65%、B 10〜30%、SiO 10超〜30%、Al 5〜20%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜20%、ZnO 0〜2%未満、LiO+NaO+KO 0〜10%を含有するように、各種酸化物原料を用いてガラス原料を調合している。
【0020】
また、上記ビスマス系ガラスの他、ガラス組成として、質量百分率で、Bi 60〜85%、B 5〜20%、ZnO 1〜20%、CuO+Fe+Sb 0〜10%、SrO+BaO 0〜12%を含有するようにガラス原料を調合することもできる。なお、ガラス組成中のBiの含有量が多い程、ガラスが低融点化し、封着用途等に好適になるが、上記の通り、耐熱容器を損傷しやすくなる。しかし、本発明のガラスの製造方法は、耐熱容器の損傷を防止できるため、ガラス組成中のBiの含有量が多い程、他の方法に比べて有利になる。Biの含有量は60%以上、70%以上、75%以上、特に77%以上が好ましい。
【0021】
本発明のガラスの溶融方法において、ビスマス系ガラスの他、リン酸スズ系ガラス、バナジウム系ガラス、アルカリホウケイ酸系ガラス、鉛ホウケイ酸系ガラス等のガラスを溶融することも可能である。
【0022】
撹拌工程は、上記溶融工程の後、電気炉から取り出した耐熱容器1を、その外側面を支える支持部材2を介して床面や作業台等の載置面3の上方に載置し、そして、耐熱容器1内の溶融ガラスMを白金製の棒材等を用いて撹拌することにより行う。本実施形態では、図1及び図2に示すように、支持部材2として、中央に貫通孔21を有するセラミックス製の耐熱円筒部材を使用している。この支持部材2の貫通孔21の内径Dは、下段の鍔状突起11部分における耐熱容器1の外径よりも大きく、かつ、反対向きに突出する鍔状突起11の先端部同士の距離よりも小さく形成されている。また、支持部材2の高さHは、耐熱容器1の底部12と下段の鍔状突起11との距離Lよりも大きく形成されている。
【0023】
この支持部材2の貫通孔21内へ上方から耐熱容器1を挿入し、耐熱容器1の外側面の鍔状突起11を下方から貫通孔21の縁部22で支えることによって、耐熱容器1の底部12を載置面3から浮かせた状態で載置面3の上方に載置する。そして、棒材等を用いて、耐熱容器1内の溶融ガラスMを撹拌する。
【0024】
その後、トング等を使って耐熱容器1を支持部材2から外し、撹拌後の溶融ガラスMを、例えばフィルム状に成形する成形工程を行う。こうして、所定成分を有するビスマス系ガラスを製造する。
【0025】
本発明のガラスの製造方法において、これらの溶融工程と撹拌工程とを交互に繰り返して行うことが好ましい。このようにすれば、ガラスの均質性が向上する。また、調合したガラス原料を複数回に分けて、耐熱容器1に投入し溶融すること、つまりガラス原料の追加工程を行うことが好ましい。このようにすれば、1ポット当たりの溶融量を増加させることが可能になる。
【0026】
この場合、1回目分のガラス原料を耐熱容器1に投入し電気炉へ入れて溶融工程を行った後、支持部材2を介して、耐熱容器1を載置面3の上方に載置して、耐熱容器1の溶融ガラスMに2回目分のガラス原料を投入し、その後、耐熱容器1を支持部材2から外して再び電気炉へ入れて炉内で溶融工程を行う。また、必要であれば、同様に3回目分以降のガラス原料を耐熱容器1に投入する。そして、再び電気炉から取り出した耐熱容器1を支持部材2を介して載置面3の上方に載置して撹拌工程を行う。撹拌工程は、通常、複数回行われる。そして、耐熱容器1を支持部材2から外して次の成形工程を行う。
【0027】
このように本実施形態のガラスの製造方法によれば、撹拌工程において、電気炉から取り出した耐熱容器1を、その外側面のみを支える支持部材2を介して載置面3の上方に載置するようにしているので、耐熱容器1をその底部12を浮かせた状態で載置面3の上方に載置することができる。したがって、高温の耐熱容器1の底部12と室温の載置面3とが直接接触した際に底部12に加わる熱衝撃を確実に回避することができる。このことで、溶融ガラスMによる耐熱容器1の損傷をより効果的に抑制することができ、ガラスの溶融コストを低減することができる。
【0028】
しかも、撹拌工程において、耐熱容器1はその外側面の鍔状突起11でのみ支持部材2と接触するので、耐熱容器1を直に載置面3に載置した場合に比べ、溶融ガラスMの熱流出を抑制でき、特に溶融工程と撹拌工程とを繰り返す場合において、投入エネルギーの無駄も削減することができる。また、底部12の温度が低下し難くなるため、溶融ガラスの温度低下を抑制でき、結果として、均一な撹拌作業を行うことが可能になる。
【0029】
さらに、耐熱容器1の外側面を支持部材2で支えることができるので、耐熱容器1を直に載置面3に載置した場合に比べ、より安定に耐熱容器1を保持することができる。したがって、撹拌工程をより安全かつ確実に行うことができ、このことによっても溶融ガラスの製造コストを低減することができる。
【0030】
また、例えば、溶融工程と撹拌工程とを繰り返す場合、耐熱容器1を支持部材2を介して載置面3の上方に載置したまま、耐熱容器1の溶融ガラスMにさらにガラス原料を投入することができるので、かかるガラス原料の投入作業を安全かつ確実に行うことができる。
【0031】
以上、本実施形態のガラスの製造方法について説明したが、本発明は他の実施形態でも実施することができる。
【0032】
例えば、上記実施形態では、耐熱容器1の外側面をその鍔状突起11を介して支持部材2で支えているが、本発明は決してこれに限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、耐熱容器1の外側面を直接、支持部材4で支えてもよい。支持部材4は、中央に貫通孔41を有するセラミックス製の略円筒部材から成り、貫通孔41の上縁部に内向きの鍔部42を備えている。
【0033】
この支持部材4の貫通孔41内へ上方から耐熱容器1を挿入し、耐熱容器1の外側面のテーパ形状を利用して外側面の中程部を直接、鍔部42で支えることによって、耐熱容器1の底部12を載置面3から浮かせた状態で載置面3上に載置することができる。支持部材4によれば、鍔状突起11の有無に関わらず、耐熱容器1を保持することができる。
【0034】
また、耐熱容器1の外側面を直接、支持部材で支える場合、この支持部材が必ずしも耐熱容器1の外側面の全周に亘って接触している必要はなく、耐熱容器1の外側面の周方向において部分的に接触していればよい。耐熱容器1の着脱操作性、保持安定性等を考慮して種々の設計変更が可能である。
【0035】
また、上記実施形態では、支持部材4に貫通孔41を設けているが、貫通孔41の代わりに凹部を形成し、凹部内で底部12を浮かせた状態で耐熱容器1を支えるようにしてもよい。また、支持部材は必ずしも載置面と分離している必要はなく、支持部材と載置面とが固定されていてもよい。このことで、より安定に耐熱容器1を載置面の上方に載置することができる。
【0036】
また、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得る。同一の作用又は効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良く、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0038】
ガラス組成として、質量百分率で、Bi 76.4%、B 8.1%、ZnO 6.4%、CuO 2.2%、Fe 0.5%、BaO 5.8%、Sb 0.6%になるように各種酸化物原料を用いてガラス原料を調合した。
【0039】
このガラス原料を、容量1.5Lの白金製の耐熱容器に投入し、電気炉で1300℃の温度で加熱することによって溶融ガラスを得た。そして、電気炉から取り出した耐熱容器を支持部材により底部を浮かせた状態で載置面の上方に載置して、ガラス原料の追加工程、撹拌工程を複数回行った。その後、溶融ガラスを所定形状に成形する成形工程を行った。
【0040】
上記条件により、一つ耐熱容器を用いて約150回のビスマス系ガラスの製造工程を実施することができた。これに対し、電気炉から取り出した耐熱容器を直に載置面に載置してガラス原料の追加工程、撹拌工程を行った場合、ビスマス系ガラスの製造工程を、約10回繰り返した時点で耐熱容器が損傷した。即ち、本発明に係るガラスの製造方法よれば、従来方法に比べ、耐熱容器の耐用回数を約15倍に増加させることができた。
【符号の説明】
【0041】
1 耐熱容器
11 突起
12 底部
2、4 支持部材
3 載置面
M 溶融ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を耐熱容器に入れて炉内で溶融する溶融工程と、前記耐熱容器内の溶融ガラスを炉外で撹拌する撹拌工程と、を含むガラスの製造方法であって、
前記撹拌工程において、炉から取り出した前記耐熱容器を、該耐熱容器の外側面を支える支持部材を介して該耐熱容器の底部を浮かせた状態で保持することを特徴としたガラスの製造方法。
【請求項2】
ガラス原料を耐熱容器に入れて炉内で溶融する溶融工程を含むガラスの製造方法であって、前記溶融工程の後、
前記炉から取り出した前記耐熱容器を、該耐熱容器の外側面を支える支持部材を介して該耐熱容器の底部を浮かせた状態で保持したまま、該耐熱容器の溶融ガラスにさらにガラス原料を入れ、その後、該耐熱容器を該支持部材から外して前記炉内で溶融工程を行うことを特徴としたガラスの製造方法。
【請求項3】
前記耐熱容器の外側面に設けられた突起を前記支持部材で支えることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
前記ガラスがビスマス系ガラスであることを特徴とした請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
前記耐熱容器が白金または白金合金から成ることを特徴とした請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載のガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25598(P2012−25598A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163580(P2010−163580)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】