説明

ガラスアンテナ及び窓ガラス

【課題】車両の窓ガラスに設けられるアンテナ導体において車両の車幅方向に分離した2つのアンテナ導体のアンテナ利得の合成値が向上するようにアンテナパターンを容易にチューニングできる、ガラスアンテナを提供すること。
【解決手段】車両の窓ガラスの上方または下方に車幅方向に分離して設けられたアンテナ導体21とアンテナ導体23とによって、ダイバーシティアンテナを構成するガラスアンテナであって、アンテナ導体21とアンテナ導体23は、線条エレメントで構成されるアンテナパターンの形状が互いに異なり、アンテナ導体21に外接する第1の長方形とアンテナ導体23に外接する第2の長方形を仮想したとき、第2の長方形の面積が第1の長方形の面積よりも大きい、ことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の窓ガラスに設けられるガラスアンテナ、及びガラスアンテナを備える窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナで受信した信号について、受信した信号を合成したり、電波状況の優れたアンテナの信号を優先的に用いたりすることによって、通信品質や信頼性を向上させるダイバーシティアンテナが知られている。車両用ガラスアンテナにおいても、例えば、日本国内地上波デジタルテレビ放送(470〜770MHz)等のような高周波で広帯域の放送周波数帯の電波を、車両が走行中に1つのアンテナで良好に電波を受信するのは難しい。そのため、多方向からの電波を受信して受信性能を向上させるために、ダイバーシティアンテナが用いられている。
【0003】
一方、地上波デジタルテレビ放送のような高周波帯を受信することに適した様々なガラスアンテナが提案されている(例えば特許文献1を参照)。高周波用ガラスアンテナは、波長の短い電波を受信するため小型のアンテナ導体で構成される。
【0004】
このような高周波用ガラスアンテナをダイバーシティアンテナとして窓ガラスに配置する場合、例えば、まずフロントガラスの運転席側上方に配置されるアンテナ導体をチューニングして基準となるアンテナパターンを得て、フロントガラスの中央線を対象軸とした基準のアンテナパターンの線対称の形状のアンテナパターンを有するアンテナ導体を助手席側上方に配置する。すなわち、車両の車幅方向に離れた状態で、窓ガラスの車両幅方向の左右上方それぞれに左右対称のアンテナ導体が配置されて、ダイバーシティアンテナが構成される(例えば特許文献2から13を参照)。
【0005】
地上波デジタルテレビ放送のような高周波で広帯域の放送周波数帯の電波を受信するガラスアンテナを設計することは、AM放送帯(520〜1700kHz)、FM放送帯(日本:76〜90MHz、米国:88〜108MHz)と比較して困難であるため、ガラスアンテナの受信性能の評価は、ダイバーシティ方式であっても、アンテナ導体単体での受信性能を重視されやすい。また、車両の窓ガラスに設けられるガラスアンテナは、人の目に触れやすいため、アンテナ導体を構成する線条エレメントのアンテナパターンの見栄えが重視されやすい。これらの理由から、従来のガラスアンテナはチューニングで受信性能を向上させたアンテナ導体を左右対称にまたは同じものを窓ガラスに配置していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−22538号公報
【特許文献2】国際公開第2010/29815号(図11)
【特許文献3】特開2011−87054号公報(図7)
【特許文献4】特開2010−154498号公報(図8,9)
【特許文献5】特開2010−273310号公報(図7,8)
【特許文献6】特開2010−268358号公報(図7,8)
【特許文献7】特開2010−206361号公報(図8,9)
【特許文献8】特開2010−41256号公報(図8)
【特許文献9】特開2010−10962号公報(図7)
【特許文献10】特開2008−278481号公報(図4)
【特許文献11】特開2009−246844号公報(図12)
【特許文献12】特開2009−33687号公報(図5)
【特許文献13】特開2007−53505号公報(図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1は、運転席側のチューニングされたアンテナ導体21と、フロントガラス12の中央線40を対称軸にとした線対称のアンテナ導体22とが運転席側と助手席側それぞれに設けられた従来の左右対称のアンテナパターン図である。
【0008】
一方、アンテナ導体21,22と車体側とを接続する配線の経路や車体の形状などは必ずしも左右対称ではないため、車両を取り巻く電波の受信環境は左右非対称になる。例えば、運転席側のアンテナ導体21に接続される配線と助手席側のアンテナ導体22に接続される配線が、左右対称に配索されずに、運転席側のAピラーを経由して車体のフロントコンソール部に搭載される受信機まで配索されている場合がある。
【0009】
そのため、上述のように、フロントガラスの中央線を対称軸とした、運転席側でチューニングがなされたアンテナ導体21の線対称のアンテナ導体22を助手席側に設けると、電波の受信環境が異なるため、アンテナ導体22のアンテナ利得が低くなることがあった。このように運転席側と助手席側に設けられた一対のアンテナ導体21,22のそれぞれのアンテナ利得を合成した場合、ダイバーシティの効果を十分に得られないガラスアンテナ100となっていた。
【0010】
そこで、本発明は、車両の窓ガラスに設けられるアンテナ導体において車両の車幅方向に分離した2つのアンテナ導体のアンテナ利得の合成値が向上するようにアンテナパターンを容易にチューニングできるガラスアンテナ及びそれを備える窓ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るガラスアンテナは、
車両の窓ガラスの上方または下方に車幅方向に分離して設けられた第1のアンテナ導体と第2のアンテナ導体とによって、ダイバーシティアンテナを構成するガラスアンテナであって、
前記第1のアンテナ導体と前記第2のアンテナ導体は、線条エレメントで構成されるアンテナパターンの形状が互いに異なり、
前記第1のアンテナ導体に外接する第1の長方形と前記第2のアンテナ導体に外接する第2の長方形を仮想したとき、前記第2の長方形の面積が前記第1の長方形の面積よりも大きい、ことを特徴とするものである。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る窓ガラスは、該ガラスアンテナを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の窓ガラスに設けられるアンテナ導体において車両の車幅方向に分離した2つのアンテナ導体のアンテナ利得の合成値が向上するようにアンテナパターンを容易にチューニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アンテナ導体21、22を左右対称に備えるガラスアンテナ100の平面図である。
【図2】アンテナ導体21,23を左右非対称に備える本発明の一実施形態であるガラスアンテナ200の平面図である。
【図3】アンテナ導体21のアンテナパターン図である。
【図4】アンテナ導体23のアンテナパターン図である。
【図5】ガラスアンテナ100のアンテナ利得の実測データである。
【図6】ガラスアンテナ200のアンテナ利得の実測データである。
【図7】ガラスアンテナ100と200についてのアンテナ利得の合成データである。
【図8】ガラスアンテナ100と200についての指向性の方向特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態の説明を行う。なお、形態を説明するための図面において、方向について特に記載しない場合には図面上での方向をいうものとし、各図面の向きは、記号、数字の方向に対応する。また、平行、直角などの方向は、本発明の効果を損なわない程度のズレを許容するものである。また、アンテナ導体の角部は、直角に限らず、弓状に丸みを帯びていてもよい。また、それらの図面は、窓ガラスの面を対向して見たときの図であり、窓ガラスが車両に取り付けられた状態での車内視の図であるが、車外視の図として参照してもよい。各図面上での上下方向が車両の上下方向に相当し、各図の下側が路面側に相当する。例えば、窓ガラスが車両の前部に取り付けられるフロントガラスである場合、図面上での左右方向が車幅方向に相当する。また、本発明は、フロントガラスに限定されず、車両の後部に取り付けられるリアガラスでもよい。
【0016】
図2は、アンテナ導体21(第1のアンテナ導体),アンテナ導体23(第2のアンテナ導体)を左右非対称に備える本発明の一実施形態であるガラスアンテナ200の平面図である。ガラスアンテナ200は、一対のアンテナ導体21,23が車両のフロントガラス12に平面的に設けられたダイバーシティアンテナである。アンテナ導体21は、フロントガラス12において運転席側上方の領域に設けられ、アンテナ導体23は、フロントガラス12において助手席側上方の領域に設けられる。一対のアンテナ導体21,23は、線条エレメントで構成されるアンテナパターンの形状が互いに異なる。なお、本発明でいうアンテナパターンが互いに異なる形状とは、図1に示すような線対称のアンテナ導体21、22の形状は含まない。
【0017】
助手席側のアンテナ導体23のアンテナパターンの形状を運転席側のアンテナ導体21のアンテナパターンの形状と異なる形状にすることにより、すなわち、助手席側のアンテナ導体23を助手席側の電波環境に適合するようにチューニングすることにより、従来の見栄え重視の左右対称のアンテナパターンを用いたガラスアンテナよりも、左右非対称のアンテナ導体21及びアンテナ導体23からなるガラスアンテナ200によって得られるアンテナ利得の合成値を向上させることができる。
【0018】
アンテナ導体21,23により得られる受信信号が、アンテナ導体21,23に設けられた給電部から取り出し可能になっていて、その受信信号が車体に搭載された受信機に伝達される。ダイバーシティアンテナの場合、受信機では、アンテナ導体それぞれの受信電力を合成させる最大比合成と、受信状態の良いほうのアンテナ導体からの受信信号を優先的に選択するスイッチング合成という2つの信号処理方法がある。本発明は、どちらの信号処理方法にも適用できる。
【0019】
ガラスアンテナ200は、図3,4に示されるように、アンテナ導体21に外接する第1の長方形S1とアンテナ導体23に外接する第2の長方形S2を想定したとき、第2の長方形S2の面積が第1の長方形S1の面積よりも大きいことを特徴とする。
【0020】
したがって、ガラスアンテナ200によれば、ダイバーシティアンテナを構成する運転席側のアンテナ導体21及び助手席側のアンテナ導体23は、アンテナパターンが同じ場合に比べて、アンテナパターンのチューニングの自由度が増す。すなわち、助手席側のアンテナ導体23に外接する第2の長方形S2の面積を、運転席側のアンテナ導体21に外接する第1の長方形S1の面積よりも大きくすることにより、複雑なアンテナパターンを構成させることができるため、アンテナ導体21及びアンテナ導体23によって得られるアンテナ利得の合成値が向上するようにアンテナパターンを容易にチューニングできる。例えば、第2の長方形S2の面積が第1の長方形S1の面積よりも大きいことによりアンテナ導体23のアンテナパターンの設置面積、すなわち線条エレメントを設置できる面積が広くなるため、線条エレメントの数を増やしたりエレメント形状や間隔を調整したりして、アンテナ導体23のチューニング前のアンテナ利得が低くても、アンテナ導体21及びアンテナ導体23によって得られるアンテナ利得の合成値が向上するように、アンテナ導体23のアンテナパターンを容易にチューニングできる。
【0021】
また、運転席側のアンテナ導体21については、十分なアンテナ利得でなくてもコンパクトに構成させることを優先させ、助手席側のアンテナ導体23については、運転席側のアンテナ導体21のアンテナ利得の低い部分をカバーするようにアンテナパターンを構成させることができる。すなわち、アンテナ導体21は小型化できるため、運転者が全く気にならないように運転席前方の視界を十分に確保しかつ十分なアンテナ利得が得られる。
【0022】
ここで、第2の長方形S2の面積は、アンテナ利得の合成値が向上しやすくなる点で、第1の長方形S1の面積の1.3倍以上であることが好ましく、1.4倍以上であることがより好ましく、さらには1.5倍以上であることが好ましい。見栄えの悪化や運転者から見て助手席前方の視界の悪化を防ぐ点で、第2の長方形S2の面積は、第1の長方形S1の面積の2倍以下であることが好ましい。
【0023】
また、運転者の視界を確保する上で、第1の長方形S1の縦幅H1は、横幅W1よりも短いことが好適である。第2の長方形S2についても同様である。
【0024】
次に、本発明の一実施形態であるガラスアンテナ200の構成について更に詳細に説明する。
【0025】
図2において、アンテナ導体21は、運転席側上方の領域であれば、フロントガラス12の上縁12aに沿って配置されてもよいし、フロントガラス12の右縁12bに沿って配置されてもよい。同様に、アンテナ導体23は、助手席側上方の領域であれば、上縁12aに沿って配置されてもよいし、フロントガラス12の左縁12dに沿って配置されてもよい。また、アンテナ導体21,23は、フロントガラス12の取り付け部位である車体フランジのルーフ側の端部に沿って配置されてもよいし、フロントガラス12の取り付け部位である車体フランジのピラー側の端部に沿って配置されてもよい。フロントガラス12の周縁又は車体フランジの端部に沿って配置されることで、フロントガラス12における視認性が向上し、アンテナ導体21,23への給電がしやすくなる。
【0026】
なお、上記はアンテナ導体21,23をフロントガラスに設けた例について示したが、リアガラスに設けてもよい。リアガラスに設けた場合、水平方向に複数の線条からなる熱線と、その両端において熱線を接続するバスバとを有するデフォッガがリアガラスの少なくとも上下方向中央領域に設けられるので、デフォッガ以外の上方の空白領域または下方の空白領域に、車両の車幅方向に分離してアンテナ導体21,23が設けられる。この場合、基準となるアンテナ導体21は車幅方向の左右のどちら側に設けられてもよい。
【0027】
図3は、第1のアンテナ導体21のアンテナパターン図である。アンテナ導体21は、給電部16と、給電部16に一端が直接又は第1の接続エレメントを介して接続され上下方向に延在する第1のエレメントと、第1のエレメントの他端を起点に右又は左方向に延伸する第2のエレメントとを含んでいる。
【0028】
図3には、第1の接続エレメントとして、給電部16を起点として右方に直線的に延伸するエレメント5が例示され、第1のエレメントとして、エレメント5の右方への延伸の終端部Aを起点として下方に直線的に延伸するエレメント1が例示され、第2のエレメントとして、エレメント1の下方への延伸の終端部Cを起点として左方に直線的に延伸するエレメント2が例示されている。エレメント2は、左方への延伸の終端部Dまで延伸している。
【0029】
ここで、「終端部」は、エレメントの延伸の終点であってもよいし、その終点手前の導体部分である終点近傍であってもよい。
【0030】
図4は、第2のアンテナ導体23のアンテナパターン図である。アンテナ導体23は、給電部17と、給電部17に一端が直接又は第2の接続エレメントを介して接続され上下方向に延在する第3のエレメントと、第3のエレメントの他端を起点としてアンテナ導体21の第2のエレメントと同じ方向に延伸する第4のエレメントとを含んでいる。
【0031】
図4には、第2の接続エレメントとして、給電部17を起点として右方に直線的に延伸するエレメント6が例示され、第3のエレメントとして、エレメント6の右方への延伸の終端部Eを起点として下方に直線的に延伸するエレメント3が例示され、第4のエレメントとして、エレメント3の下方への延伸の終端部Gを起点として左方に直線的に延伸するエレメント4が例示されている。エレメント4は、左方への延伸の終端部Hまで延伸している。
【0032】
第1のアンテナ導体が、上述の第1及び第2のエレメントを含み、第2のアンテナ導体が、上述の第3及び第4のエレメントを含んでいると、第1のアンテナ導体及び第2のアンテナ導体によって得られるアンテナ利得の合成値が向上する。したがって、アンテナ導体21は、第1のエレメントに対応するエレメント1と、第2のエレメントに対応するエレメント2とを含み、アンテナ導体23は、第3のエレメントに対応するエレメント3と、第4のエレメントに対応するエレメント4とを含んでいるため、アンテナ導体21,23の形態によればアンテナ利得の合成値を向上させることができる。
【0033】
また、図3に示されるように、アンテナ導体21は、ループ部を形成するためのループ形成エレメント10を備えていると好適である。ループ形成エレメント10を備えることによって、アンテナ導体21のアンテナ利得を増大できる。ループ形成エレメント10が、給電部16、エレメント5、エレメント1、エレメント2のうち少なくとも一つ以上と接続されることによって、ループ部が形成される。図3の場合、ループ形成エレメント10は、一方の端部が給電部16に接続され、もう一方の端部がエレメント1の中間点Bに接続されている。
【0034】
また、図4に示されるように、アンテナ導体23は、折り返しエレメント7を備えていると好適である。折り返しエレメント7を備えることによって、アンテナ導体23のアンテナ利得を増大するためのエレメント長を確保した上でアンテナ導体23の占有面積を小さくできる。折り返しエレメント7は、エレメント4の左方への延伸の終端部Hを起点として、折り返し点Iまで上方に延伸してから、エレメント4の左方への延伸方向に対して折り返して反対方向に直線的に延伸する。折り返しエレメント7は、エレメント3と接続されないように、折り返し点Iからの右方への延伸の終端部Jまで延伸する。
【0035】
また、アンテナ導体23は、エレメント8及び/又はエレメント9を備えていると好適である。エレメント8及び/又はエレメント9を備えることによって、アンテナ導体23のアンテナ利得を増大できるとともに、その利得の調整がしやすくなる。エレメント8は、エレメント3の中間点Fを起点に、左方へ直線的に延伸し、左方への延伸の終端部Kまで延伸する。エレメント9は、給電部17を起点として、エレメント3及びエレメント6の上側領域で右方に直線的に延伸し、右方への延伸の終端部Lまで延伸する。
【0036】
アンテナ導体21、23は、高周波で広帯域である周波数帯の信号を受信するアンテナであることが好ましい。具体的には、受信する信号の周波数帯が300MHz以上で、帯域幅が100MHz以上であることが好ましい。特に、受信する信号の周波数帯が地上波デジタルテレビ放送帯である470〜770MHzであることが好ましい。このようにチューニングが難しい周波数帯で、チューニングできる余地の少ない小型のアンテナとなる場合に、本発明のチューニングの自由度が有効である。
【0037】
例えば、アンテナ導体21に外接する長方形の面積が20000mm以下、さらに16000mm以下、さらには12000mm以下、さらには10000mm以下であるようなチューニングできる余地の少ない小型のアンテナであるときに、外接する長方形の面積がアンテナ導体21より大きく設定されたアンテナ導体23のチューニングの自由度が有効である。また、アンテナ導体21に外接する長方形の面積は、チューニングできる余地が少しは必要であるので、1500mm以上であることが好ましく、さらに2000mm以上、さらには3000mm以上であることが好ましい。また、アンテナ導体23に外接する長方形の面積は、搭乗者の視界の悪化を防ぐ点で、30000mm以下であることが好ましく、さらに24000mm以下、さらには18000mm以下、さらには15000mm以下であることが好ましい。
【0038】
また、本発明のガラスアンテナは、信号処理回路との接続に車体側から配索された信号線として、例えば、AV線や同軸ケーブルなどの給電線が用いられる。同軸ケーブルを用いる場合には、同軸ケーブルの一端側において、同軸ケーブルの内部導体が給電部16に電気的に接続され、同軸ケーブルの外部導体が車体に電気的に接続される。同軸ケーブルの他端側は、車体側に搭載される信号処理回路に接続される。この場合、同軸ケーブルの他端側において、内部導体がアンプの入力部に電気的に接続され、外部導体がアンプのアース部に電気的に接続されるとよい。そして、アンプの出力部はチューナーなどの入力部に電気的に接続される。給電部17についても同様である。同軸ケーブルと給電部16、17とは半田付けなどで電気的に接続される。
【0039】
また、給電線と給電部16とを電気的に接続するためのコネクタを、給電部16に実装する構成を採用してもよい。このようなコネクタによって、給電線を給電部16に取り付けることが容易になる。給電部17についても同様である。また、このコネクタにアンプ等が実装された信号処理回路が内蔵されていてもよい。このような構成にすることにより、同軸ケーブルを介して信号処理回路に接続させる場合と比較して、同軸ケーブルによって受信信号を伝送する途中で受信信号の減衰が生じる前に、アンテナ側コネクタで受信信号を増幅できるので好ましい。
【0040】
また、給電部16に突起状の導電性部材を設置し、窓ガラスが取り付けられる車体のフランジに設けられた接続部にその突起状の導電性部材が接触、嵌合するような構成としてもよい。車体のフランジに設けられた接続部は信号処理回路に接続される。このような構成にすることにより、窓ガラスを車体に組み付ける工程において、給電線と給電部とを接続させる工程が不要になるので好ましい。
【0041】
信号処理回路は、受信信号を増幅させるアンプやアンテナ導体16、17のそれぞれの受信信号を合成する受信機などである。なお、アンプ、受信機は一つの信号処理回路で構成される必要はなく、別々に設けられていてよい。
【0042】
車体の運転席側のAピラーから共に配索された2本の同軸ケーブルのうち、一方が給電部16に電気的に接続され、もう一方が給電部17に電気的に接続される。
【0043】
給電部16,17の形状は、上記のコネクタの実装面の形状等を考慮して決めるとよい。例えば、正方形、略正方形、長方形、略長方形などの方形状や多角形状が実装上好ましい。なお、円、略円、楕円、略楕円などの円状でもよい。
【0044】
また、給電部16,17及びアンテナエレメントは、銀ペースト等の、導電性金属を含有するペーストを窓ガラスの車内側表面にプリントし、焼付けて形成される。また、銅等の導電性物質からなる、線状体又は箔状体を、窓ガラスの車内側表面に形成してもよく、窓ガラスに接着剤等により貼付してもよい。
【0045】
また、給電部16,17及びアンテナエレメントは、窓ガラスの内部に設けられていてもよい。この場合、給電部16,17は、窓ガラスの内部に配置された第1の電極に対向するように窓ガラスの車内側表面に第2の電極が配置される電極構造となる。例えば、フロントガラス12は、車外側ガラス板と車内側ガラス板とを中間膜を介して貼り合わされて形成された合わせガラスである。エレメント1等のアンテナエレメント及び第1の電極は、車外側ガラス板と車内側ガラス板との間のガラス板表面または中間膜表面に配置される。第2の電極は、第1の電極に対向するように車内側ガラス板の車内側の面に配置される。第1の電極の信号は、容量結合と電磁結合の少なくとも一方により第2の電極に伝送される。上述の給電線又はコネクタは、この第2の電極に接続される。給電部16,17及びアンテナエレメントは、上記したようにプリントであってもよいし、箔状体であってもよい。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形、改良及び置換を加えることができる。
【0047】
例えば、本発明において、アンテナ導体は、所望のアンテナ利得を有する限り、図2〜4の形態に限られない。具体的にはアンテナ導体のエレメントの形状は、車種毎に所望の受信周波数に合わせて適宜設定されてよい。図2〜4の形態であれば、地上波デジタルテレビ放送帯のアンテナ利得を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
本発明に係る図2〜4に示すガラスアンテナの形態を実際の車両のフロントガラスに取り付けることにより作製された自動車用ガラスアンテナのアンテナ利得の実測結果について説明する。
【0049】
アンテナ利得は、ガラスアンテナが形成されたフロントガラスを、ターンテーブル上の自動車の窓枠に水平面に対して約25°傾けた状態で組みつけて実測した。給電部にはコネクタが取り付けられていて、フィーダ線を介してネットワークアナライザに接続される。水平方向からフロントガラスに対して全方向から電波が照射されるように、ターンテーブルが回転する。
【0050】
アンテナ利得の測定は、ターンテーブルの中心に、ガラスアンテナのガラスを組みつけた自動車の車両中心をセットして、自動車を360°回転させて行われる。アンテナ利得のデータは、回転角度3°毎に、地上波デジタルテレビ放送帯の周波数範囲において低周波側は6MHz毎に、高周波側は12MHzまたは15MHz毎に測定される。電波の発信位置とアンテナ導体との仰角は略水平方向(地面と平行な面を仰角=0°、天頂方向を仰角=90°とする場合、仰角=0°の方向)で測定した。アンテナ利得は、半波長ダイポールアンテナを基準とし、半波長ダイポールアンテナのアンテナ利得が0dBとなるように標準化した。
【0051】
図5は、アンテナ導体21、22を左右対称に備えるガラスアンテナ100(図1)のアンテナ利得の実測データである。図6は、アンテナ導体21、23を左右非対称に備えるガラスアンテナ200(図2)のアンテナ利得の実測データである。図7は、図5と図6の実測データから得られたアンテナ利得の合成データである。図8は、713MHzにおけるガラスアンテナ100と200についての指向性の方向特性図である。図5〜7の縦軸は、回転角度5°毎のアンテナ利得の平均値を示している。
【0052】
図5〜8のアンテナ利得を測定したときの図3,4のアンテナ導体の各部の寸法は、単位をmmとすると、
a1:50
a2:85
b1:10
b2:35
a11:10
a12:25
a13:110
a14:170
b11:10
b12:15
b13:25
H1:75
W1:130
H2:80
W2:180
である。各エレメントの導体幅は、0.3mmである。給電部16,17は、共に、縦10mm×横45mmである。
【0053】
また、第1の長方形S1の面積(=H1×W1)は、9750mmであり、第2の長方形S2の面積(=H2×W2)は、14400mmである。すなわち、S2の面積は、S1の面積の約1.48倍である。
【0054】
左右対称のガラスアンテナ100の場合、図5に示されるように、助手席側のアンテナ導体22は、運転席側のアンテナ導体21と左右対称の同一のアンテナパターンであるにもかかわらず、運転席側のアンテナ導体21に比べて、高周波領域のアンテナ利得の低下度合いが大きい。これに対し、左右非対称のガラスアンテナ200の場合、図6に示されるように、配線経路等の車体側の構造が図5のときと同じであっても、助手席側のアンテナ導体23は、高周波領域のアンテナ利得の低下が抑えられている。
【0055】
その結果、図7に示されるように、左右非対称のガラスアンテナ200のアンテナ利得の合成値は、左右対称のガラスアンテナ100に比べて、高周波領域のアンテナ利得が増大している。また、図8に示されるように、左右非対称のガラスアンテナ200の指向性についても、左右対称のガラスアンテナ100に比べて、アンテナ利得が全周にわたって増大している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、地上波デジタルテレビ放送、UHF帯のアナログテレビ放送及び米国のデジタルテレビ放送、欧州連合地域のデジタルテレビ放送又は中華人民共和国のデジタルテレビ放送を受信する自動車用のアンテナとして利用されると好適である。その他、車両用キーレスエントリーシステム(300〜450MHz)にも利用できる。
【0057】
また、自動車電話用の800MHz帯(810〜960MHz)、自動車電話用の1.5GHz帯(1.429〜1.501GHz)、人工衛星のGPS信号(Global Positioning System:1575.42MHz)、VICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System:2.5GHz)にも利用できる。
【0058】
さらに、ETC通信(Electronic Toll Collection System(ノンストップ自動料金収受システム)、路側無線装置の送信周波数:5.795GHz又は5.805GHz、路側無線装置の受信周波数:5.835GHz又は5.845GHz)、専用狭域通信(DSRC)(Dedicated Short Range Communication:915MHz帯、5.8GHz帯、60GHz帯)及びSDARS(Satellite Digital Audio Radio Service:2.34GHz、2.6GHz)にも利用できる。また、マイクロ波(1GHz〜3THz)及びミリ波(30〜300GHz)の通信に利用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1〜10 アンテナエレメント
12 フロントガラス
16,17 給電部
21,22,23 アンテナ導体
40 フロントガラス12又は車両の車幅方向における中央線
100,200 車両用ガラスアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の窓ガラスの上方または下方に車幅方向に分離して設けられた第1のアンテナ導体と第2のアンテナ導体とによって、ダイバーシティアンテナを構成するガラスアンテナであって、
前記第1のアンテナ導体と前記第2のアンテナ導体は、線条エレメントで構成されるアンテナパターンの形状が互いに異なり、
前記第1のアンテナ導体に外接する第1の長方形と前記第2のアンテナ導体に外接する第2の長方形を想定したとき、前記第2の長方形の面積が前記第1の長方形の面積よりも大きい、ことを特徴とする、ガラスアンテナ。
【請求項2】
前記第2の長方形の面積は、前記第1の長方形の面積の1.3倍以上である、請求項1に記載のガラスアンテナ。
【請求項3】
前記窓ガラスの面を対向して見たときに、
前記第1のアンテナ導体は、
第1の給電部と、該第1の給電部に一端が直接又は第1の接続エレメントを介して接続され上下方向に延在する第1のエレメントと、前記第1のエレメントの他端を起点に右又は左方向に延伸する第2のエレメントとを含み、
前記第2のアンテナ導体は、
第2の給電部と、該第2の給電部に一端が直接又は第2の接続エレメントを介して接続され上下方向に延在する第3のエレメントと、前記第3のエレメントの他端を起点に前記第2のエレメントと同じ方向に延伸する第4のエレメントとを含む、請求項1又は2に記載のガラスアンテナ。
【請求項4】
前記第2のアンテナ導体は、前記第4のエレメントを起点に、前記第4のエレメントの延伸方向に対して折り返して反対方向に延伸する折り返しエレメントを含む、請求項3に記載のガラスアンテナ。
【請求項5】
前記窓ガラスはフロントガラスであり、前記第1のアンテナ導体は前記フロントガラスの運転席側上方に設けられ、前記第2のアンテナ導体は前記フロントガラスの助手席側上方に設けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラスアンテナ。
【請求項6】
前記第1のアンテナ導体と前記第2のアンテナ導体とは、受信する周波数帯が300MHz以上であり、かつ帯域幅が100MHz以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラスアンテナ。
【請求項7】
前記第1のアンテナ導体と前記第2のアンテナ導体とは、受信する周波数帯が470〜770MHzである、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラスアンテナ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のガラスアンテナを備える窓ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26697(P2013−26697A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157209(P2011−157209)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】