説明

ガラスセラミック基板の製造方法およびガラスセラミック基板

【課題】 比誘電率が低く作製が容易かつ低コストの低温焼成セラミック組成物を製造することを課題とする。
【解決手段】 目標組成となるように原料粉末を秤量、混合して得られる混合粉末を、前記混合粉末の溶融温度以下の温度で仮焼し、微粉砕して得られた低温焼結化材と、比誘電率が6以下の無機フィラーとの混合比率が、低温焼結化材と無機フィラーの合計に対して15体積%より大きく40体積%より小さくなるように混合して作製した粉末を用いることを特徴とするガラスセラミック基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック基板およびガラスセラミック基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波では誘電体の損失が増大するため、ミリ波帯での使用に堪えるためには、マイクロ波帯で使用する以上に低誘電損失な材質であることが求められる。一方、誘電率に関しては、ストリップラインの幅が大きくなるほど、誘電体の誘電率が大きくなるほど、ストリップラインのインピーダンスが小さくなるため、同じインピーダンスの場合、誘電率が小さいほどストリップラインの幅を大きくすることができるため、誘電率が低い方が導体の形成上は望ましい。また、基板にアンテナを形成する場合、アンテナの特性上の点からも誘電率が低いことが望ましい。
これらの要求特性のうち、低誘電率を満たす低温焼成セラミックとしては、ホウケイ酸ガラス等の低誘電率のガラス材と、低誘電率の無機フィラーを混合して作製する方法が知られている。 しかし、一般にガラスは高周波における誘電損失が大きいため、前記のような用途には不適である。そこで、高周波における誘電損失の小さい低温焼成セラミックの製造方法において、焼成工程において、ガラスから結晶を析出する結晶化ガラスを用いることによって、焼成後の残余ガラス成分を低減し、それによって誘電損失を低減する方法が知られている。
【0003】
特許文献1では、ガラス粉末に無機フィラーとしてコーディエライトを添加する方法について述べている。
【0004】
特許文献2では、ガラス原料粉末を1000℃以下で熱処理して得られた粉末を用いることにより、従来の溶融−急冷法によって作製されたガラス粉末を使用することなく、低温焼成化できることを述べている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−179137号公報
【特許文献2】特許3369780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で述べられている方法では、ガラスセラミック複合基板の製造方法は、図3に示すように、予め製造したガラス粉末とセラミック粉末を混合し、成形し、焼成する方法によっていた。即ち、ガラス粉末は目標組成となるように原料粉末を秤量したものを混合し、高温にて加熱して原料粉末の混合物が溶融させた後、急冷して固化させたガラス塊を粗粉砕してカレットを得た後、さらに微粉砕することによってガラス粉末を得るという方法で作製されている。
【0007】
このような従来の製造方法では、上記のようにガラス原料を溶融用の炉が必要になることや、ガラス塊を粉砕するための工程があるため、煩雑さ、コストの点で問題がある。その他、装置上の問題点としては、ガラスの溶融時には高温にて運転する必要があるため、炉体の損傷が激しいという問題がある。
【0008】
特許文献2で述べられている方法では、従来のようなガラス粉末作製工程を経ていないため比較的容易に作製できる。一方、比誘電率については明記されていないものの、比誘電率は7以上と推測され、前記の用途には適さないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来のガラス粉末の製造方法は、目標組成となるように原料粉末を秤量したものを混合し、高温にて加熱して原料粉末の混合物が溶融させた後、急冷して固化させたガラス塊を粗粉砕してカレットを得た後、さらに微粉砕することによってガラス粉末を得るという方法であるのに対して、本発明は、目標組成となるように原料粉末を秤量し、混合した後、仮焼を行うことによって、これらを反応させて一部をガラス化させることにより、従来の溶融−急冷法によって作製されたガラス粉末と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融−急冷法で作製されたガラス粉末を使用することなく、ガラスセラミック基板を作製できるため、従来の方法より、前記の工程の煩雑さ、コストや装置の損傷の問題を改善することができる。その結果、作製が容易で、その結果コストの点でも有利に低温焼成セラミック組成物を製造できる。さらに、無機フィラーとして低誘電率の物質を用いることにより、比誘電率を低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のガラスセラミック基板について製造方法を含めて説明する。図3は、従来の製造プロセスを示すフローチャートであり、図1は、本発明の製造プロセスを示すフローチャートであり、図2はその変形である。本発明では、従来のガラス粉末に対応する低温焼結化材を以下のように作製する。原料を秤量、混合したものを乾燥させて得られた粉末を仮焼する。仮焼工程においては、仮焼温度を適切に設定することによって、素原料の反応を進行させ、一部をガラス化させてもよい。このように仮焼して得られた粉末を、ボールミル等の方法によって所望の粒径まで粉砕し、所望の粉末を得る。無機フィラーとして用いるセラミック粉末としては、石英などの低誘電率材の原料をそのまま使用してもよいし、コーディエライトなどの低誘電率の物質を得るために、複数の素原料を混合、仮焼、粉砕することによって作製された粉末を使用してもよい。このようにして得られた低温焼結化材とフィラーを適切な比率で混合して得られた粉末を造粒し、成形し、焼成することによって、所望の焼結体が得られる。
なお、所望の結晶が析出し、所望の特性が得られるのであれば、前述のように低誘電率のフィラーを作製した後に低温焼結化材と混合する方法でなく、図2の実施例のように低温焼結化材の素原料とフィラーの素原料を混合したものを仮焼し、粉砕する方法によってもよく、この方法が可能な材料においては、工程が簡略化されるため、より望ましい。
【実施例】
【0012】
Al:16質量%、SiO:58質量%、SrO:16質量%、Bi:4質量%、NaO:3質量%、KO:1質量%、CuO:1質量%、Mn:1質量%の組成となるように素原料を秤量、混合し、混合して得られた粉末を750℃で仮焼し、これを1μm程度に微粉砕して低温焼結化材の粉末を作製した。なお、SrO、NaO、KOの素原料としては、それぞれ、SrCO、NaCO、KCOを用いた。無機フィラーとして、MgO、Al、SiOをコーディエライトの組成となるように秤量、混合した後、1350℃で仮焼し、これを1μm程度に微粉砕してコーディエライト粉末を得た。この後、前記低温焼結化材と前記無機フィラーを所望の比率となるように秤量、混合した。このようにして得られた粉末をPVA溶液を用いて造粒した後に、円柱形に成形し、900℃で焼成を行った。得られた焼結体について、誘電体共振器法(JIS R1627)で、誘電特性を評価した。その結果を、表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
コーディエライトの混合量が40体積%以上では、900℃で緻密化しない、という問題があり、コーディエライトの混合量が15体積%以下では、900℃で焼成した際にポーラスになってしまうという問題があった。ここで、ポーラスになる原因は未特定であるが、焼結が進み、結晶の粒成長が進むことによって、ポアが粗大化したためと推測される。このため、コーディエライトの混合量は、15体積%より大きく40体積%より小さい必要がある。
【0015】
次に、得られた低温焼結化材と無機フィラーの混合粉末を用いたガラスセラミック基板を下記のように作製した。低温焼結化材と無機フィラーの混合粉末100質量部に対して有機バインダとしてPVBを15質量部、可塑剤としてDOP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))を10質量部加えて、更に溶剤として、エタノールとブタノールの混合物を使用し、ボールミルにて20時間分散した。得られたスラリーを、減圧下にて脱泡し一部溶剤を揮発させて、ドクターブレード法にてシート成形した。比較用として、無機フィラーとしてコーディエライトでなく、アルミナを用いたセラミック材についても同様の手順にてシート成形した。
得られた基体用グリーンシート(厚さ:80μm)を、キャリアフィルムと一緒に所定の大きさに裁断し、所定の導体パターンをAgペーストにてスクリーン印刷して形成した。なお、導体パターンは焼成後のセラミックの誘電率を考慮して形成した。具体的には、無機フィラーとしてアルミナを用いたものは、コーディエライトを用いたものより高誘電率であるので、インピーダンスを合わせるために導体の幅を小さくした。
スクリーン印刷によって導体パターンを形成したグリーンシートの各層を順次、位置合わせ後、約60℃、圧力9.8MPaで熱圧着し、仮圧着状態の積層体を得た。その後、表層導体パターンやオーバコート材を形成し、CIP装置にて9.8MPa、85℃で熱圧着し、各層が一体化した未焼結多層セラミック体を得た。この未焼結多層セラミック体の脱バインダを行い、900℃で2時間保持し焼結体となし、多層セラミック基板を得た。
多層セラミック基板の評価は以下のように行った。アジレント社製ネットワークアナライザとミリ波用テストセットを用いて、80GHzでの導体パターンの伝送損失を評価した。伝送損失については、焼成後の導体パターンの長さが5mm、15mm、25mmとなるように導体パターンを形成し、それぞれについて伝送損失を測定し、その差分から、まず1cmあたりの伝送損失を求め、さらにそれらの平均値を求めた。
【0016】
【表2】

【0017】
この結果、比誘電率が低い材料を用いた基板ほど伝送損失が小さくなること、比誘電率が6以下の材料では、伝送損失が2dB/cmより小さくできることを確認した。このため、基板材料としては、比誘電率6以下の材料を用いる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における製造プロセスを示すフローチャート
【図2】本発明の変形例を示すフローチャート
【図3】従来の技術における製造プロセスを示すフローチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標組成となるように原料粉末を秤量、混合して得られる混合粉末を、前記混合粉末の溶融温度以下の温度で仮焼し、微粉砕して得られた低温焼結化材と、無機フィラーとを混合して作製した粉末を用いることを特徴とするガラスセラミック基板の製造方法。
【請求項2】
前記無機フィラーの混合比率が、低温焼結化材と無機フィラーの合計に対して15体積%より大きく40体積%より小さいことを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミック基板の製造方法。
【請求項3】
前記無機フィラーが、比誘電率が6以下の物質であることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載のガラスセラミック基板の製造方法。
【請求項4】
目標組成となるように原料粉末を秤量、混合して得られる混合粉末を、前記混合粉末の溶融温度以下の温度で仮焼し、微粉砕して得られた低温焼結化材と、無機フィラーとを混合して作製した粉末を用いて製造することを特徴とするガラスセラミック基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−6669(P2010−6669A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170601(P2008−170601)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】