説明

ガラスポリカルボキシラートセメント

本発明はポリカルボキシラートセメントの作製に用いるためのガラス組成物およびそれらのガラスを含有するポリカルボキシラートセメントに関し、ここでガラスがSiOおよびMgOを含有し、SiOのモルパーセントが60%を超えず、MgOのモルパーセントが20%より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカルボキシラートセメントの作製に用いるためのガラス組成物およびそれらのガラスを含有するポリカルボキシラートセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス(イオノマー)ポリアルケノアートセメント(ポリ(カルボキシラート)セメントもしくはポリ(カルボン酸)セメントとしても知られる)は、遊離カルボン酸基(ポリ(アクリル酸)のようなポリ(カルボン酸))を含有するポリマーと多価金属イオン(例えば分解性フルオロ−アルミノ−シリカートパウダー)の酸浸出性の源との酸塩基反応によって作製される。フルオロ−アルミノ−シリカートガラスパウダーとポリ(カルボン酸)との反応によって作製されるセメントは、当分野において公知である(米国特許第3,814,717号)。ポリ(カルボン酸)とガラスとは、水の存在下で反応する。ガラスから放出される金属カチオンはポリ(カルボン酸)のカルビキシラート基とい恩的に結合し、それによってポリマー鎖を架橋し固化セメントを提供する。酸塩基反応の産物はシリカゲル型の相とポリマー塩である。
【0003】
フルオロ−アルミノ−シリカートガラスを含有するポリ(カルボン酸)セメントは、歯の修復のための修復用充填剤として、組織封止剤としておよび接着剤として歯科での広範な利用を見出す。生物活性ガラスと同様、フルオロ−アルミノ−シリカートガラスを含有するポリ(カルボキシラート)セメントは、骨芽細胞を活性化する、水溶性のケイ素ならびにカルシウムおよびリン酸イオンを放出する。これにも関わらず、それらは医療においては、骨接着剤および骨代替材としての限定された用途しか見出していない。アパタイト鉱物相におけるカルシウムイオンのカルボキシラートのキレートを介する、高い強度、速い硬化および骨への化学的な接着のような、それらの魅力的な特性に関わらずそのようになっている。これは大部分は、骨の石灰化不良および骨セメント接合部分での類骨形成不良の結果となる、低いレベルのアルミニウムが硬化したセメントより放出されるためである。
【0004】
生物学的に活性(もしくは生物活性)ガラスは、骨のような生組織へと移植されるとガラスと組織との間に界面接合の形成を促すガラスである。生物活性はソーダ−カルシア−ホスホ−シリカ(SiO−P−CaO−NaO)ガラスにおいて最初に観察された(Henchら著、J.Biomed.Mater.Res.Symp.2(1):117−141(1971))。生物活性は、生理的な条件におけるガラス表面の生理化学的な反応の連続の結果であり、ガラス表面に結晶性ヒドロキシ炭酸アパタイト(HCA)の層の生成を導く。HCA層の形成速度は、インビトロ(in vitro)での生物活性の指標を提供する。
【0005】
さらに既知のフルオロ−アルミノ−シリカートガラスを含有するガラス(イオノマー)ポリカルボキシラートセメントは、体内で非分解性である。これはいくつかの用途において欠点となる。たとえば、骨折の修復のための接着性骨セメントの場合、非分解性は不利となる。逆に、永久固定が必要とされる内耳移植の固定での使用は、非分解性セメントは有利となる。
【0006】
ガラス組成物におけるアルミニウムの存在は、セメント作製にきわめて重要であるとそもそも考えられていた(Hill R.G.およびWilson A.D.、Glass Technology 29:150−158(1988))。ガラス中のAlセメントは架橋のためにAl3+カチオンを提供するためでなく、ガラス中のフッ素と結合し、そのためにSiF結合の形成を防ぎ、揮発性四フッ化ケイ素(SiF)の損失を防ぐ。これにも関わらず、アルミニウムを含まないガラスポリ(カルボン酸)セメントの開発への数多くの試みがなされてきた。MO−ZnO−SiOガラス(Mは二価の金属カチオン)に基づくセメント(Hill R.G.およびDarling M.、Biomaterials 15:299−306(1994)ならびにGB2310663A)、SrO−CaO−ZnO−SiO2ガラスに基づくセメント(WO2007/020613A1)およびAlがFeによって置き換えられたフルオロ−アルミノ−シリカートガラス組成物に基づくセメント(WO2003/028670A)が開発された。しかしながら、AlのFeによる置換はSiFの制御不能な損失という欠点をもたらす。さらに、ガラスからのFeの制御できない結晶化を生じるFe3+のFe2+への減少を溶解中に防ぐのは困難である。医療用具として用いることを意図する際特に重要である最終産物の特性の制御が、不十分になるという結果となる
【0007】
高い亜鉛含量の亜鉛含有セメントは、一般に使用中の顕著な亜鉛放出をもたらす。低濃度の亜鉛放出は骨形成を促進すると知られているが、顕著な亜鉛放出を導く高い亜鉛含量は有害で細胞毒性である。さらに、高い亜鉛濃度は擬似体液からのHCAの沈着を阻害すると知られている。亜鉛は、アパタイト結晶表面のカルシウム部位へと結合することによってアパタイト結晶の形成を阻害し、それゆえに石灰化を阻害する行動をする。体内で分解性であるよう設計されるセメントの場合、高い亜鉛含量のガラスは、分解が亜鉛放出を増大化するためにさらに望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、当分野において骨接着および骨置換を含むさまざまな医療用途に好適なポリ(カルボキシラート)セメントの配合における使用のための改善されたガラス組成物に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、i)カルボキシル含有水溶性ポリマーを有するセメント作製に好適な、新規のアルミニウムを含まない生物活性ガラス組成物;ii)新規のアルミニウムを含まない生物活性ガラスを含有し、酵素分解性のポリカルボン酸(例えばポリ(ガンマグルタミン酸))に基づくセメント組成物;およびiii)新規のアルミニウムを含まない生物活性ガラスを含有し、非分解性ポリ酸に基づくセメント組成物;に関する。
【0010】
シリカ系ガラスにおいて、SiOはガラスのアモルファスネットワークを形成し、ガラス中のSiOのモル濃度はそのネットワークの接続性(NC)に影響を与える。NCはガラス構造におけるネットワーク形成要素当たりの架橋結合の平均数である。NCは粘度、結晶速度および分解性のようなガラスの特性を決定する。2.0のNCの時、直鎖シリカート鎖が莫大なモル質量で存在すると考えられる。NCが2.0より低くなるにしたがって、モル質量および鎖長の急速な減少がある。NCが2.0より上の場合、ガラスは三次元ネットワークとなる。発明者は、かなり崩壊した低いネットワークの接続性(60モル%より少ないSiO含量に相当)の生物活性ガラスにおいて、(CaOと置換した)MgOの組み込みは、シリカートガラスネットワークへと組み入れられるようになるある割合のMgOのおかげで、NCを増加させることを特定した。これはMgOはガラスネットワークを破壊するネットワーク調整剤として機能するという確立された意見に反するものである。CaOのMgOによる置換に伴うNCの増大は、MgOがガラスネットワークの架橋として作用するため、ガラスの反応性を減少させると一般的に予想される。しかしながら、ガラスネットワークへのMg−O−Si結合の導入は、ガラス(イオノマー)ポリ(カルボン酸)セメントを作製する従来のフルオロ−アルミノ−シリカートガラスにおけるAlの取り込みと類似の様式による酸加水分解で可能な結合を提供すると考えられる。フルオロ−アルミノ−シリカートガラスにおいて、酸分解性は、ガラスネットワーク中のAl−O−Si結合の数、およびすなわちガラス組成物中のAl:Siの比によって大部分決定される。NCは2番目に重要である。このように発明者は、確立された意見に反し、高い割合のMgOのガラスへの組み込みは、ZnOおよびAl含有ガラスの欠点を避ける、ポリ(カルボン酸)セメントの配合における使用に特に適したガラスの供給を可能にすることを特定した。
【0011】
さらにセメント配合物におけるMgOの存在はセメントの加水分解安定性を向上させる。これはMg2+カチオンがCa2+カチオンよりも小さいため、より効果的なイオン架橋を提供するためである。ガラスネットワークに対するMgの組み込みは、中性もしくは塩基性条件において、NCを増加させることによってガラスの分解および生物活性を減少させるが、酸性条件において、ガラスの酸分解性を増加させる。さらに、MgOの組み込みは溶解を促進し、そしてガラス安定性を助ける傾向にあり、すなわちガラスは冷却の際、より結晶化しにくくなる。
【0012】
それゆえに、第一の態様において本発明は、水溶性ポリ(カルボン酸)とSiOとMgOを含有してアルミニウムを含まないガラスとからなり、ここでガラス中のSiOのモルパーセントが60%を超えず、MgOのモルパーセントが20%より大きいポリ(カルボン酸)セメントを提供する。
【0013】
本発明のポリ(カルボン酸)セメントを作製するために用いるガラス組成物は下に詳細に記載される。
【0014】
セメントは、生理条件において酵素分解性もしくは非分解性であってよい。これはセメント作製に用いるポリ(カルボン酸)もしくはそれらの混合物によって決定される。
【0015】
好ましい実施態様に置いて、ポリ(カルボン酸)は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(ビニルホスホン酸)または上述の二つもしくはそれ以上を基にしたポリ(カルボン酸)コポリマーを含むがそれらに限定されない合成ポリ(カルボン酸)である。好ましくは、合成ポリ(カルボン酸)は、分解性セメントが要求されるとき、体内から腎臓を介して排泄されることが可能なように15,000以下のモル質量を有する。ポリ(アクリル酸)セメントは、非化学分解性である。上に列挙された他のポリ酸に基づくセメントもしくはそれらのポリ(アクリル酸)との混合物は、異なる度合いの分解を示す。例えば椎体形成術もしくは椎骨形成術のような非分解性のセメントが要求される用途において、50,000より大きいような(>50,000)大きいモル質量が望ましい。
【0016】
他の好ましい実施態様において、ポリ(カルボン酸)はポリ(ガンマグルタミン酸)である。ポリ(ガンマグルタミン酸)は、バクテリアによって合成される、2,000と400,000の間(好ましくは10,000と200,000の間)の分子量を有する水溶性のポリペプチドである。特に好ましいポリ(ガンマグルタミン酸)の源は、bacillus lichenformisによって産生されるものである。ポリ(ガンマグルタミン酸)より作製されるセメントは生理条件において酵素分解性である。
【0017】
好ましくは、セメントは合成ポリ(カルボン酸)およびポリ(ガンマグルタミン酸)の混合物を含有する。好ましくは、100,000より大きい(>100,000)モル質量のポリ(ガンマグルタミン酸)と一つもしくはそれ以上の15,000より少ないモル質量の多官能性ポリ(カルボン酸)とを組み合わせて作製される分解性セメントである。多官能性カルボン酸は、例えば酒石酸もしくはクエン酸のような二つもしくはそれ以上の官能基を有するカルボン酸である。
【0018】
より好ましくは、分解性セメントはポリ(ガンマグルタミン酸)、ポリ(グルタミン酸)およびポリ(アスパラギン酸)から作製される。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明のセメントはゲンタマイシンのような水溶性の殺生物剤および/もしくは骨形成タンパク質のような生物学的治療薬を含有する。
【0020】
上に定義されるセメントが追加の成分を含むガラスを含有し、それによってSr2+、F、PO3−などのような有益なイオンを放出するセメントを提供することは好まれるであろう。
【0021】
好ましい実施態様において、上に定義される分解性のセメントは骨セメント、骨接着剤もしくは骨代替材としての利用のためである。セメントを、椎体形成術、椎骨形成術ならびに骨粗しょう症および骨粗しょう症性骨折の治療のような手順において用いても良い。
【0022】
好ましい実施態様において、上述のような非分解性のセメントを骨セメントもしくは骨代替材として用いても良い。ポリカルボキシラートセメントの作製において用いるためのアルミニウムを含まないガラスはSiOおよびMgOを含有し、ここでSiOのモルパーセントが60%を超えず、そしてMgOのモルパーセントが20%より大きい。
【0023】
このように第二の態様において、本発明はポリ(カルボン酸)セメントの作製に用いるアルミニウムを含まないガラスを提供し、ガラスは:
30〜60モル%のSiO
21〜50モル%のMgO、
0〜6モル%のNaO、
合計で0〜40モル%含量のCaOおよびSrO;ならびに
0〜5モル%のP
を含有する。
【0024】
全体的に述べられるガラス組成物の含量のパーセントはモルパーセントである。ガラス組成物の作成において用いられる金属酸化物は対応する金属イオンの源を提供する。ガラスが特定のパーセントの酸化物を含有すると述べられるとき、ガラスの作製時に、酸化物それ自体はが提供されるか、または分解して酸化物を生成する化合物が提供される。
【0025】
本発明のガラスの調製において用いられるMgOの源は好ましくは、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、ケイ酸マグネシウムもしくは分解してマグネシウム酸化物を生成する任意の化合物である。好ましくは、ガラスは21〜50モルパーセントの、より好ましくは21〜40モル%の、そしてさらにより好ましくは21〜38モル%のMgOを含有する。
【0026】
加水分解の安定性が特に重要な用途のためには、例えば33〜38モル%の多いMgO含量が望ましい。生物活性が特に重要であるとき、MgOがアパタイト結晶の形成の阻害活性をいくらか有するために、例えば21〜33モル%という、より少ないMgO含量が望ましい。
【0027】
好ましい実施態様において、ガラスは、SiOのモルパーセントが60%を超えない、溶解誘導されるガラスである。溶解誘導されるガラスは好ましくは、適切な酸化物(もしくはカルボナートのような酸化物の源)を混合もしくはブレンドし、溶解温度まで加熱し、そしておよそ1250℃から1500℃の温度においてホモジナイズすることによって調製される。ホモジナイズは好ましくは酸素で泡立てることで行われる。混合物はその後、好ましくは溶解混合物を脱イオン水のような好適な液体へと投入することによって冷やされ、ガラスフリットを産生する。好ましくはSiOのモルパーセントは30%から60%、好ましくは40%から60%、より好ましくは40%から55%である。好ましくはSiOのモルパーセントは53%を超えない(例えば30〜53%である)。
【0028】
好ましい実施態様において、本発明によるガラスのNCは3.0より低く、好ましくは2.5より低い。好ましくは、ガラスは55%より小さいモルパーセントのシリカと2.4より低いNCとを有する。好ましい組成物は一般に、55%より小さいモルパーセントのシリカと2.0より低い計算上のネットワークの接続性とを有する。これらの配合物は、結果としてガラスの酸分解を助けると考えられる中間体酸化物として作用するMgOのより高い割合を好む。NC値は、MgOがネットワーク調整の酸化物として作用するとみなして計算される。ネットワークの接続性をHill R.、J.Mater Sci. Letts、15、1122−25(1996)に説明される方法に従って計算できるが、ガラス組成物にリン酸塩が含まれ、リン酸塩が第2の相を形成し、シリカートガラスネットワークの部分では無いという仮定に基づく。リン酸塩は別のオルトリン酸塩相として存在し、シリカート相からネットワーク調整カチオンを取り除いて電荷の中和を維持する。
【0029】
好ましい実施態様において、ガラスは生物活性ガラスである。好ましくは、ガラスは一つもしくはそれ以上の以下の特性を含有する:ガラスを擬似体液(SBF)へと暴露すると、HCA層の沈着が3日以内に起こる;ガラスが、培養における石灰化および/もしくは骨芽細胞の活性化を促進できる;ガラスがin vivoすなわちin vivo動物モデル中の移植において密接な接合部分を提供する;線維性被膜層形成が存在しない。
【0030】
好ましい実施態様において、ガラスはストロンチウム、カルシウム、リン酸塩、亜鉛、フッ素、ホウ素またはナトリウムもしくはカリウムのようなアルカリ金属の源より選択される一つもしくはそれ以上の追加の成分を含有する。
【0031】
好ましくは追加の成分の源は、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、ケイ酸ナトリウム、酸化カリウム(KO)、炭酸カリウム(KCO)、硝酸カリウム(KNO)、硫酸カリウム(KSO)、ケイ酸カリウム、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硫酸カルシウム(CaSO)、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛(ZnO)、炭酸亜鉛(ZnCO)、硝酸亜鉛(Zn(NO)、硫酸亜鉛(ZnSO)およびケイ酸亜鉛、ならびにナトリウム、カリウム、カルシウムもしくは亜鉛のリン酸塩を含む、分解して酸化物を生成する任意の化合物を含むがそれらには限定されない化合物の一つもしくはそれ以上である。
【0032】
好ましくはガラスはストロンチウムの源を含有する。ストロンチウムは、酸化ストロンチウム(SrO)もしくはSrOの源の形態で提供され得る。SrOの源はガラス作製の際に分解してSrOを生成する、SrCO、SrNO、Sr(CHCOおよびSrSOを含むがそれらには限定されない、任意の形態のストロンチウムである。ストロンチウムはまた、SrF、Sr(PO)もしくはケイ酸ストロンチウムとしても提供され得る。ストロンチウムのガラスからの放出は、骨芽細胞への刺激作用および破骨細胞への抑制効果を有する。
【0033】
好ましくはガラスは、少なくとも1%の、好ましくは1から30%の、より好ましくは1から20%の、さらにより好ましくは1から10%のモルパーセントでSr2+(例えばSrOとして計算される)を含有する。代替的に、ガラスはストロンチウムを含まなくても良い。
【0034】
好ましくはガラスは、ナトリウムイオン(Na)の源、好ましくは酸化ナトリウム(NaO)もしくはナトリウム酸化物の源を含有する。ガラスの調製において用いられるナトリウムイオンの源は、例えば、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム(NaCO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硫酸ナトリウム(NaSO)もしくはケイ酸ナトリウムであり得る。ガラス中のナトリウムイオンの源(好ましくはNaO)のモルパーセントは、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜6%である。好ましくは少なくとも1%存在する。
【0035】
好ましくはガラスは、カリウムイオンの源を、好ましくは酸化カリウム(KO)の形態で含有する。ガラスの調製にもいられるカリウムイオンの源は、酸化カリウム(KO)、炭酸カリウム(KCO)、硝酸カリウム(KNO)、硫酸カリウム(KSO)もしくはケイ酸カリウムであり得る。ガラス中のカリウムイオンの源のモルパーセント(KOとして計算)は、好ましくは0から10%、0から7%、もしくは3から7%である。好ましくは、少なくとも1%存在する。
【0036】
少量の一つもしくはそれ以上のアルカリ金属の源の含有は溶解を促進するために望ましい。しかしながら、アルカリ金属イオンはカルボキシラート基のイオン架橋を阻害し、セメントに望ましくない可溶性を与える傾向にある。それゆえ低いアルカリ金属含量を有することが好ましい。好ましくは、カリウム(例えばKOとして計算)およびナトリウム(NaOとして計算)の源の合計のモルパーセントは10%まで、好ましくは6%までである。ガラスの溶解温度を低く保つことが望ましい。溶解温度の低下を達成する好ましいガラス組成物は、6モル%を超えない少ないアルカリ金属含量(好ましくはNaOをまったく含有しない)とフッ素の源を含有する。好ましくはフッ素の源は10モル%までで提供される。
【0037】
好ましくは、ガラスは60%より小さいモルパーセントのシリカ、3.0より低いNC(そして好ましくは2.5より少ない)および低いアルカリ金属含量(好ましくは10モルパーセントより少なく、好ましくはゼロである)を有するべきである。一般的に、55%より小さいモルパーセントのシリカおよび2.4より低いNCのガラスを有するのが望ましい。
【0038】
ある実施態様において、ガラスは少なくとも10モル%のSrOを含有し、それにより、少なくとも1mmのAlと同等のX線不透過像を有するガラスを提供する。
【0039】
好ましくはガラスは、カルシウムの源を、好ましくは酸化カルシウム(CaO)の形態で含有する。ガラスの調整に用いられるカルシウムの源は、例えば、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、硫酸カルシウム(CaSO)、ケイ酸カルシウムもしくはカルシウム酸化物の源である。本発明の目的のためにカルシウム酸化物の源は、分解してカルシウム酸化物を生成する任意の化合物を含む。本発明の目的のためにカルシウムをまったく含まないガラスも用いられ得る。好ましくは、カルシウムの源のモルパーセント(例えばCaOとして計算)は、0%から30%、0%から25%もしくは0%から20%である。好ましくはCaOおよびSrOの合計のモルパーセントは0%から40%、好ましくは10%から30%である。
【0040】
本発明のガラスは好ましくはPを含有する。好ましくは、Pのモルパーセントは0%から5%、より好ましくは1%から3%である。Pは、ガラスの製造および作製において有利である操作温度範囲を改善し、ガラスの粘度の温度依存性に有益な効果を有すると信じられている。ガラスへPそれ自体を入れる事は、シリカート相からカチオンを除去し、それによりNCを増加しそして分解性を減少させるよう作用する。しかしながらPを追加の調整酸化物、すなわち中間体酸化物として作用するMgOとともに添加することはNC含量を維持する。
【0041】
本発明のガラスは好ましくは亜鉛の源を、好ましくは酸化亜鉛(ZnO)もしくはフッ化亜鉛(ZnF)の形態で含有する。ガラスの調整において用いられる亜鉛の源は例えば、酸化亜鉛(ZnO)、フッ化亜鉛(ZnF)、炭酸亜鉛(ZnCO)、硝酸亜鉛(Zn(NO)、硫酸亜鉛(ZnSO)、ケイ酸亜鉛、または分解して亜鉛酸化物を生成する任意の化合物である。低濃度においては、セメントの安定性を改善し、低い濃度の亜鉛放出が創傷治癒を促進し、損傷した骨組織の修復および再建を助けるため、亜鉛は望ましい。しかしながら、高濃度において、HCA沈着を阻害して亜鉛は生物活性を減じ得る。さらに、高濃度の亜鉛放出は細胞毒性であり、セメント−骨接合部における線維性被膜形成を好む。それゆえ、セメントが分解性セメントの時、亜鉛の源は好ましくは25%より小さいモルパーセントで、好ましくは5%を超えないモルパーセントで存在する。好ましくは亜鉛の源(好ましくはZnOもしくはZnF)のモルパーセントは、0%から25%、0%から20%、0%から15%もしくは0%から10%、または0%から5%である。
【0042】
本発明の生物活性ガラスは好ましくはホウ素を、好ましくはBとして含有する。PのようにBはガラスの粘度の温度依存性に対して有益な効果を有し、ガラスの製造および作製に有利な操作温度範囲を改善する。好ましくはBのモルパーセントは0%から15%である。より好ましくはBのモルパーセントは0から12%もしくは0から2%である。
【0043】
本発明の生物活性ガラスは好ましくはフッ素の源を含有する。好ましくはフッ素は、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(StF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化亜鉛(ZnF)、フッ化ナトリウム(NaF)もしくはフッ化カリウム(KF)の一つもしくはそれ以上の形態で与えられる。フッ素は溶解温度を下げるために用いられ、そしてそれゆえアルカリ金属に加えてもしくはアルカリ金属の代替として用いられ得る。フッ素は骨芽細胞を活性化し、ヒドロキシ炭酸アパタイトの沈着速度を高める。フッ素とストロンチウムはこの点で協調的に作用する。好ましくはフッ素は0%から25%のモルパーセントで提供される。好ましくはフッ素の源は0%から10%、もしくは1%から7%のモルパーセントで提供される。
【0044】
好ましい実施態様において、ガラスはYSiO:(Z−X)CaO+SrO:XMgO:6NaOであって、ここで、Xが20より大きく(好ましくは21〜40)、Yが45〜50であり、そしてZが44から49である、モル組成を有する。より好ましくは、組成は、45SiO:(49−X)CaO+SrO:XMgO:6NaOもしくは50SiO:(44−X)CaO:XMgO:6NaOである。
【0045】
好ましい実施態様において、本発明のガラスは粒子状の形態で提供される。好ましくは粒子径は、(最大寸法で)100マイクロメートル(ミクロン)より小さい。
【0046】
好ましい実施態様において、ガラス(好ましくは粒子状/パウダーの形態)は酸処理される。セメント作製に先んじるガラスの酸による処理は、ガラス表面からある割合のカチオンを除去するのに働き、それゆえに、ポリ(カルボキシラート)セメント形成中の最初の硬化プロセスを遅らせる。好ましくは、用いられる酸は酢酸であり、好ましくは1〜5%水溶液の形態である。ガラスパウダーは酸溶液中にけん濁され、そしてかくはんされ(例えば30分間)、その後、酸は中和され、ガラスは沈殿させられ、液体はデカント除去され、そしてガラスパウダーは洗浄され乾かされる。
【0047】
本発明の第二の態様のガラスを、本発明の第一の態様のセメントを作製するために用いることができる。このように本発明は、アルミニウムを含まないガラスが本発明の第二の態様の任意の実施態様のガラスである本発明の第一の態様の任意の実施態様のポリ(カルボン酸)セメントを提供する。
【0048】
第三の態様において、本発明は、ガラス中のSiO2のモルパーセントが60%を超えず、そしてMgOのモルパーセントが20%より大きくないSiO2およびMgOを含有してアルミニウムを含まないガラスのパウダーの形態のものと、水溶性ポリ(カルボン酸)とを、水の存在下で混合することを含有する。好ましい実施態様において、ポリ(カルボン酸)の水に対する質量比は少なくとも1:9でかつ2:1より小さく、そして好ましくは1:1に近い。
【0049】
好ましくは、ガラスは本発明の第二の態様に関して定義されたとおりである。
【0050】
好ましくは、ガラスのポリ(カルボン酸)に対する質量比は、少なくとも1:2でかつ20:1よりも小さく、そして好ましくは3:1から9:1の範囲内である。
【0051】
好ましい実施態様において、方法はガラスパウダーをそのガラス転移温度まで加熱することによって焼きなまし、その後に続く、ガラスをポリ(カルボン酸)と混合する前にガラスを冷やすステップを含有する。セメント形成の際の酸塩基反応は発熱反応であり、ガラスを焼きなますことは、増加した操作時間が要求されるときにガラスの反応性を減じて、セメント形成を遅らせるのに作用する。
【0052】
好ましくは、例えばロストワックス鋳造(Lost wax casting)によってセメントが成型され、移植の前に硬化される。好ましくはセメントは、機械的特性を向上させるためにオートクレーブ、沸騰もしくはマイクロ波によって熱的に硬化される。
【0053】
第四の態様において、本発明はここに定義されるようなセメントを含有する分解性の足場を提供し、ここでは、二酸化炭素を生成し、好ましくは100マイクロメートル(ミクロン)より大きいサイズの相互に連結した孔を持つ発泡セメントを産生するために、セメントを作製する前に、0.1から5重量%のCaCO、SrCOもしくはZnCOのような金属炭酸塩、好ましくはアルカリ土類炭酸塩がガラスパウダーへと添加される。
【0054】
本発明のそれぞれの態様のすべての好ましい特性は他のすべての態様へと、変更すべきところは変更して適用できる。
【0055】
本発明はさまざまな方法で実施でき、多くの具体的な実施態様が、添付される図への言及とともに本発明を例示するための例によって記述される
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、50SiO:(44−X)CaO:XMgO:6NaOのシリーズからのガラスの29Si MAS−NMRスペクトルのシリーズを示し、ここで、パーセントはMgOによって置換されたCaOのパーセントを示し、そしてピークのより負の値へのシフトは、より大きいネットワークの接続性のより架橋したガラスの指標である。
【図2】図2は、例えば、MgOがi)ネットワーク調整酸化物として作用するか、ii)中間体酸化物として作用するかもしくはiii)17%のMgOが中間体酸化物として作用する(MAS−NMR測定からの計算による)場合の、MgO含量に対してプロットされた、図2のガラスのシリーズの計算上および実験でのネットワークの接続性の値を示す。
【図3】図3は、ポリ(アクリル酸)とガラス例26とから作製されるポリ酸セメントの操作時間(WT)および硬化時間(ST)を定義する振動レオメーターのトレースを示す。
【図4】図4は、異なるSiO含量を有するガラス例25〜28(図中、それぞれガラスSi1.1−1.4として列挙される)で作製されるセメント例7〜10の圧縮強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
MgO含有ガラスの生物活性に対する研究は、従来の知見に反して、MgOはシリカートガラスネットワーク中に組み込まれるという発見を導いた。これは、本発明の高いMgO濃度を持つガラス組成物がポリ(カルボン酸)セメントの作製に特に有用であるという特定を導いた。
【0058】
溶解誘導の生物活性ガラスの分解および生物活性の従来受け入れられていたメカニズムは以下のスキーム1に要約される:
スキーム1
ステップ1
Na+と溶液からのH+もしくはHO+との急速な交換
Si−O−Na+ +H +OH− → Si−OH+ Na+(溶液)+OH−
ステップ2
ガラス−溶液の界面におけるSi−O−Si結合のアルカリ加水分解とSi−OH(シラノール)基の形成の結果生じるSi(OH)の形態の可溶性シリカの溶液への損失
2(Si−O−Si)+2(OH−) → SiOH+OH−Si
ステップ3
アルカリおよびアルカリ土類カチオンの枯渇した表面上のSiOの豊富な層の縮合と再重合化
2(Si−OH)+2(OH−Si) → Si−O−Si−O−Si−O−Si−O
ステップ4
SiOの豊富な層の頂上においてCaO−Pの豊富な薄膜を形成するCa2+およびPO−基のSiOの豊富な層を通り抜けての表面への移動とそれに続く溶液からの可溶性カルシウムおよびリン酸塩の組み込みによるアモルファスのCaO−Pの豊富な薄膜の形成。
ステップ5
混合ヒドロキシ炭酸アパタイト(HCA)層を形成する、アモルファスのCaO−P薄膜の溶液からのOHおよびCO2−もしくはFイオンの組み込みによる結晶化。
ステップ6
骨芽細胞もしくは線維芽細胞によって産生されるコラーゲン線維の組み込みを導く、形成されているHCA層内の生物学的部分の凝集と化学結合。
【0059】
最初のステップは、ガラスとそれらのプロトンもしくは水和プロトンとのイオン交換とそれに続くガラス構造中のシラノール形成を通じてのナトリウムイオンの拡散を含む。これにガラスネットワークのSi−O−Si結合アルカリ加水分解とガラス表面のシリカゲル層の形成とのステップ2が続く。これにその後、カルシウムおよびリン酸塩イオンの放出およケイ素の放出を伴うヒドロキシ炭酸アパタイト(HCA)層の沈殿と核生成が続き、骨新生を促進する。これは従来のガラスの侵食性の挙動に基づき、そしてこれは生物活性を生じるガラス組成物を予言せず、そしてこれは、擬似体液(SBF)中でガラス表面へのヒドロキシ炭酸アパタイト(HCA)の層を形成する能力によって測定される生物活性の、ガラス組成物中のシリカのモルパーセントの小さな変化への依存性を説明する、特定の用途に適した新しい生物活性ガラスの設計と開発を阻害してきた。さらにインバートガラス(ネットワーク形成因子より多くのモルパーセントのネットワーク調整酸化物があるガラスとして定義され、典型的な生物活性ガラス組成物を含む。)において分解速度はpHの減少に伴って上昇することが知られており、一方従来のガラスに対しては逆が正しい。これはインバートガラスが従来のガラスと非常に異なった分解のメカニズムを有することを示唆する。
【0060】
このようにガラスのSBFへの暴露における結晶HCA層の沈着は生物活性の測定に用いられ得る。SBFはKokubo,T.らのJ.Biomed.Matter.Res.、1990、24、P721−734に記載の方法に従って調製され得る。SBF試薬の調製のために以下の試薬が順番に脱イオン水へと1リットルの総SBF容量を得るために添加される。すべての試薬は700mlの脱イオン水へと溶解させられ、37℃の温度へと加熱される。pHが測定され、HCAが7.25のpHを与えるように添加され、容量が脱イオン水で1000mlにされた。
NaCl − 7.966g
NaHCO − 0.350g
KCl − 0.224g
HPO3HO − 0.228g
MgCl6HO − 0.305g
1N HCL − 35ml
CaCl2HO − 0.368g
NaSO − 0.071g
(CHOH)CNH − 6.057g
【0061】
ガラスのSBFに対する暴露におけるHCA層の沈着がx線粉体回折およびフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって観察される。特徴的にx線回析パターンにおける25.9、32.0、32.3、33.2、39.4および46.9の2シータ値であるヒドロキシ炭酸アパタイトのピークの出現は、HCA層の形成の指標である。FITRスペクトル中の566および598cm−1の波長におけるP−O結合シグナルの出現は、HCA層の沈着の指標である。SBFへの暴露に際して、HCA層の沈着が3日以内に見られるとき、ガラスは生物活性であり得る。
【0062】
発明者によって実施される、固体核磁気共鳴分光法、小角中性子散乱、ナトリウムイオン拡散の誘電率測定および溶解研究を含むさまざまな方法が以下のことを示す:
i)リン含有の溶解誘導生物活性ガラスは、glass−in−glassの相分離をし、シリカートガラス相中に拡散したリン酸塩ガラス相を提供す;
ii)ナトリウムイオン拡散の活性化はガラス溶解の活性化よりも少なくとも4倍高く、ナトリウムイオン拡散はガラス分解における律速的なステップではないことを示している;
iii)glass−in−glassの相分離を行わせた後、ガラスがほとんど一致溶解するのが見られる;
iv)ネットワークの接続性と溶解挙動および生物活性との間に良い相関が見られる。
【0063】
結果的に発明者は、スキーム1に説明される受け入れられているメカニズムのステップ2は完全に正しくは無いことと、実際にはSi−O−Si結合の加水分解が起こることがほとんど無いかまったく無いこととを確定した。これらの観察に基づいて、発明者は、Hill R.、J.Mater.Sci.Letts. 15 1122−25(1996)に記載されるモデルに基づいた生物活性を予測するネットワークの接続性モデルを開発したが、リンがシリカートネットワークの部分とならない事を考慮して修正した。しかしながら、発明者は公開された文献における、MgOを含有するガラスの生物活性がこの修正されたネットワークの接続性(NC)モデルと一致しないことを確定した。そのようなMgO含有ガラスはしばしば、予想されるよりもより劣った生物活性である。例えば、49.46SiO:1.07P:(36.27−X)CaO:XMgO:13.17NaO(式中、Xは0、3.63、7.25および18.14である)の組成を有するガラスに言及するK.Wallac”Design of Novel Bioactive Glasses”Ph.D論文、Limerick大学(2000)を参照できる。
【0064】
これはわれわれに、かなり崩壊した低いネットワークの接続性(SiO含量が60モル%未満(<60モル%)に相当する)の生物活性ガラスにおいて、ある割合のMgOは、確立された意見に従ってガラスネットワークを破壊するネットワーク調整剤として作用するよりもむしろ、シリカートガラスネットワークに組み入れられてネットワークの接続性を増大させるという、ここに報告される新しい発見を導いた。上述のリン含有ガラスに言及する初期のデータにかかわらず、この発見はリン含有およびリン非含有ガラスの両方に適用できることを示した。
【0065】
MgOがこの様式でシリカートネットワークへと組み入れられるとき、ガラスの固体29Siスペクトルの化学シフトの減少とガラス構造のQケイ素を犠牲にしてQケイ素の割合の増加をもたらす。Qケイ素は2つの非架橋の酸素原子と2つの架橋の酸素原子とを持つケイ素である一方、Qケイ素は1つの非架橋の酸とと3つの架橋の酸素原子を持つケイ素に相当する。図1は29Siスペクトルのシリーズを示す。表1はスペクトルの解析より得られるQとQの割合およびNCを示す。
【0066】
【表1】



【0067】
図2は、MgOがi)ネットワーク調整酸化物として作用するか、ii)中間体酸化物として作用するかもしくはiii)17%のMgOが中間体酸化物として作用する場合の、MgO含量に対してプロットされるこのガラスのシリーズの計算上のNCを示す。17%のMgOが中間体酸化物として作用すると仮定して計算されたネットワークの接続性が観測された実験データと良く一致することが見られる。より低いネットワークの接続性のガラスにおいて、中間体酸化物として作用するMgOのパーセントが持続性を増加させる。CaOのMgOによる置換および、Qケイ素の形成に伴うネットワークの接続性の上昇は、MgOがガラスネットワークの架橋に作用するため、ガラスの反応性を減少させると予測される。しかしながら、ガラス(イオノマー)ポリアルケノアートセメント作製のための従来のフルオロ−アルミノ−シリカートガラスにおけるAl組み込みと類似の様式から、ガラスネットワークへのMg−O−Si結合の導入は、酸分解が可能な結合を提供し、それによりMg−O−Si結合の加水分解を介する追加のガラス溶解ルートを提供すると考えられる。それらのフルオロ−アルミノ−シリカートガラスにおいて、酸分解はガラスネットワーク中のAl−O−Si結合の数、したがってガラス組成物中のAl:Si比によって大部分決定される。ネットワークの接続性は二番目に重要である。同様に、ポリ(カルボン酸)セメント作製に用いられるMgO含有ガラスの酸分解性とそれゆえの適合性は、ガラス組成物のMg:Si比によって決定される。
【0068】
典型的に55モル%未満(<55モル%)のSiOを有するZnO−SiOガラスに基づくポリ(カルボキシラート)セメントは既知であり、今日までそのようなガラスの反応性はそのネットワークの結合性に基づくとのみ説明されてきていたことは注目すべきである。
【0069】
Zn2+はMg2+と類似した電荷対サイズ比を有しており、MgOに対応する役割を果たすために、いくつかのZnOを本発明のガラスへと組み込むことが出来る。それゆえ、本発明のシリカートガラスにおいて、酸分解性はネットワークの接続性とMg:Si(そして、もし含まれるならZn:Si)の比によって決定される。ガラスネットワーク中の酸加水分解可能なMg−O−Si結合およびZn−O−Si結合の数は、セメント形成を助ける重要なガラス分解メカニズムを提供する。しかしながらガラス中のZnOの量は低く維持されるべきである。従来技術の、ポリカルボン酸とのセメント作製のための亜鉛シリカートガラスは20モルパーセントより多い(>20モルパーセント)が、高い濃度のZnOは、SBFからのHCA形成(すなわち生物活性)を阻害する。さらに、亜鉛は非常に少ない濃度においてもかなり毒性である。体液中に見られるマグネシウムの濃度は亜鉛よりもかなり高く、マグネシウムは一般的に毒性であるとはみなされない。この理由により、産業において低い血しょう亜鉛濃度で創傷治癒を促進するという生物学的利点のために、ZnOを非常に少ない濃度で含まれるが、ZnOよりむしろMgOを含むことが好ましい。
【0070】
CaOの代わりにMgOを組み込むさらなる利点は、Ca2+に比べて大きいMg2+の電荷対サイズ比より生じる。これはカルボキシラートイオンとのより大きいイオン相互作用を提供し、ポリカルボン酸と組み合わせて作製されるセメントの加水分解安定性を高める。
【0071】
中間体酸化物として作用するMgOに関する結論を確かにする結果は、組成3SiO:0.07P:(3−x−y)CaO:xMgO:NaOおよびより詳細に49.46SiO2:1.07P2O5:(23.08−x)CaO:xMgO:26.38NaOで、式中xが0、5.77、11.54、17.31および23.08である、組成を有するガラスのシリーズにおける研究より得られる。これらの研究は密度研究、TおよびTの研究、TEC研究ならびに31Pおよび29SiMAS研究を含む。これらの研究において酸素密度の増加、TおよびTの減少とMg置換が観察され、いずれもMg2+のガラスネットワークへの参加を支持する。31Pおよび29SiMAS研究は、リン酸相へのマグネシウムの参加を少ししか示さず、そのリン酸相への参加能を減じての中間体酸化物としての作用を支持する。
【実施例】
【0072】
調製され、そしてポリカルボキシラートセメントを作製するために用いられる本発明によるガラス組成物の実施例は、表2に示される。
【0073】
セメントは表2に例示される、本発明のガラスと先行技術(例えば米国特許第4,209,434号)に記載されるもののような合成ポリカルボン酸とを混合して作製される。例えば、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸に基づくポリマーならびにポリ(ビニルホスホン酸)のようなホスホン酸に基づくポリマー、そして関連するポリマーは既知であり、上述の任意のコポリマーの組み合わせは、骨セメントもしくは骨代替材のような医療用途に公的な安定な非分解性セメントを形成できる。ポリ酸は、好ましくは2,000より大きいかつ好ましくは200,000より小さい、そしてより好ましくは20,000から100,000の分子量を有する。酒石酸およびクエン酸またはそれらのポリカルボン酸との混合物のような低分子量の多官能性カルボン酸によってもセメントを作製できる。
【0074】
医療用途に好適な生分解性セメントを、表2に記載のガラス組成物と、バクテリアによって産生され2,000と400,000の間の(好ましくは10,000と200,000の間の)分子量を有する水溶性ポリペプチドであるポリ(ガンマグルタミン酸)とを合わせて作製できる。
【0075】
MgOの含量が20モルパーセントもしくはそれより少ない表2のガラス組成物が比較の目的で提供されることは理解されよう。
【0076】
【表2】

【0077】
ガラス合成法
50SiO:(44−X)CaO:6NaO:XMgOのシリーズに基づき、表2中、例1から5で表されるガラスのシリーズは、溶解冷却の工程で合成された。この工程は下のガラス例1のために説明される。ガラスは微粉末へと砕かれ、その29Si MAS−NMRスペクトルが得られた。
【0078】
実施例1
200マイクロメートル(ミクロン)より小さい粒径の高純度のケイ砂(75g)、110gの炭酸カルシウムおよび9.3g炭酸ナトリウムは、封止されたプラスチックの容器中で合わせて完全に混合された。混合物は1480℃で1.5時間、かまど内の白金のるつぼ中に置かれる。生じる溶解ガラスは200リットルの脱イオン水へと注がれ、粉状のガラスフリットを産生し、それは120℃で1時間乾燥された。ガラスフリットはその後、製粉され、そして38マイクロメートル(ミクロン)のふるいでふるいにかけられ、平均粒子径約5マイクロメートル(ミクロン)のガラスパウダーを提供する。
【0079】
この手順は、例1から5のガラスを作製するために適切なガラス成分を用いて繰り返された。
【0080】
セメント作製例
セメント1
例1のガラスパウダー(1.1g)は、公称分子量90,000のポリ(アクリル酸)(0.5g)と混合された。この混合物はガラススラブ上で脱イオン水(0.5g)と混合され、生じるセメントペーストはおおよそ3分で硬化した。それは6mmの高さで4mmの直径のシリンダー状の型へと配置され、37度で時間オーブンに置かれた。セメントはその後、型から取り出され、37℃の脱イオン水に入れられた。それは24時間未満で溶解した。
【0081】
セメント2
セメント1の手順は例4のガラスを用いて繰り返されたが、1.1gの代わりに1.8gのガラスが用いられた。ガラスの異なる反応性のために同じ比率で混合することが不可能であることに注目されたい。セメントのシリンダーは加水分解に安定であり、37℃における脱イオン水への24時間の浸水の後にもまだ完全な状態であった。
【0082】
これらの二つの例は、セメントの加水分解安定性に関してセメント配合物中にMgOを有することの重要性を示す。
【0083】
ガラス例2で作製されるセメントは加水分解安定性でなく、セメント1のような挙動を示す。ガラス例3で作製されるセメントはより加水分解安定性であるが、水中で完全に安定ではない。
【0084】
45モル%という、より小さいSiOモルパーセントを有する例8のガラスは、セメント例1および2のようにポリ(アクリル酸)と混合されたが、混合物が完全に混合できる前に急速に反応し、セメントペーストは熱くなった。セメント配合物中に起こる酸塩基反応は発熱性である。ガラスがかなり崩壊するか塩基性であるとき、反応はより速く起き、熱発生を引き起こすことは注目できる。
【0085】
反応速度を減ずるための代替的なアプローチにおいて、ガラスパウダーは小さいるつぼに配置され、実験的に測定されたガラス転移温度まで加熱され、1時間保たれ、そしてかまどは停止された。このガラスパウダーはより少ない反応性で、上述のようにポリ(カルボン酸)を有するセメントを作製するために用いられた。この焼きなましプロセスに続く、セメント反応は硬化プロセスが起こる前にセメントを完全に混合するのが可能なほど十分に遅かった。一般的により低いNCを有するガラスはより高い反応性であり、セメント作製前の焼きなましにより利益を得る。
【0086】
セメント4〜11
セメントは以下の組成物によって調製された。さまざまに調製されたセメントの硬化および操作時間は振動レオメーターを用いて測定された。さらに、セメントの加水分解安定性は、セメントの1週間の浸水によって調べられた。振動レオメーターは、固定された1つのプレートと約30度の角度で回転させた1つのプレートとを有して機能する。振動の度合いは時間の関数として測定される。セメントペーストは2つのプレートの間に配置される。初期にはセメントは液状で振動の度合いに影響を与えない。セメントが厚くなり、粘度が上昇するとき、振動が減少する。操作時間は開始時の振動の度合いが95%に達する時間として得られ、硬化時間は開始時の振動の5%に達する時間として得られた。
【0087】
セメントの意図される用途に従って、典型的には2〜20分の操作時間が望ましい。一般的にNaOの添加が操作および硬化時間を拡大することは注目されたい。
【0088】
ガラス例21を含有するセメント4:
0.3焼きなましたガラス:0.1PAA(ポリアクリル酸):0.15液体(20%(+)酒石酸を含む水)
ガラス反応性は、2.0に近いNC値のガラスの組成物の小さい変化によって大いに変化し、粘度とセメントの硬化の調整が困難になり得る。酒石酸は酸濃度を増加させるが、より多くのポリアクリル酸を添加するのと異なり、粘度を増加させず、優れたセメントペーストの作製を可能にする。
【0089】
ガラス例22を含有するセメント5:
0.3ガラス:0.1PAA:0.15液体(50%(+)酒石酸を含む水)
セメント5の操作時間はセメントのボールを成形できるのにちょうど十分である。水中で1週間ののち、水は光学的に透明であり、セメントは弾性のある挙動を有さない。セメント5に用いられるガラス組成物22は、そのガラスの反応性がセメント作製に理想的であり、ガラスを焼きなますことなくセメントを操作することを可能にしたため興味深い。
【0090】
ガラス例23を含有するセメント6:
0.3焼きなましたガラス:0.11PAA:0.15液体(50%(+)酒石酸を含む水)
セメント6は水中での安定性を示した(水は光学的に透明で、セメントは1週間の浸水後も硬かった)。
【0091】
ガラス例24、25、26および27を含有するセメント7〜10:
0.3ガラス:0.1PAA:0.15液体(水)
の組成で、ガラス24、25、26および27のそれぞれを用いてセメントは調製された。
【0092】
これらのガラスはシリカ含量の減少に伴い、大幅により反応性となり、操作および硬化時間が減少し、ガラス反応性に対するNCの重要性を示した(表3)。
【0093】
セメントの操作時間における変化は、NCおよびガラス構造中のその役割を切り替えるMgOの量によって決定される。
【0094】
セメント7〜10は、24時間後の高い圧縮強度を示すが、それらの圧縮強度は浸水において有意に減少した。この結果は図4に示される。
【0095】
【表3】

【0096】
本発明はさまざまな修正や代替的な形を受け入れ可能であることを理解されたい。本発明は開示された特定の形に限定されるのではなく、本開示の精神の範囲に入るすべての修正、等価物および代替物を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリ(カルボン酸)セメントとSiOおよびMgOを含有するアルミニウムを含まないガラスとから作製され、ここで、前記ガラスにおけるSiOのモルパーセントが60%を超えず、そしてMgOのモルパーセントが20%より大きい、ポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項2】
前記ポリ(カルボン酸)が、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(ビニルホスホン酸)または上述の二つもしくはそれ以上を基にした任意のポリ(カルボン酸)コポリマーより選択される合成ポリ(カルボン酸)である、請求項1に記載のポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項3】
前記ポリ(カルボン酸)がポリ(ガンマグルタミン酸)である、請求項1に記載のポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項4】
前記セメントが、分子量が100,000より大きいポリ(ガンマグルタミン酸)と、分子量が15,000より小さい多機能性ポリ(カルボン酸)の一つもしくはそれ以上とから作製される分解性のセメントである、請求項1に記載のポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項5】
ポリ(カルボン酸)セメントの作製に用いられるアルミニウムを含まないガラスであって、前記ガラスが:
30〜60モル%のSiO
21〜50モル%のMgO、
0〜6モル%のNaO、
合計で0〜40モル%含量のCaOおよびSrO;ならびに
0〜5モル%のP
を含有する、ガラス。
【請求項6】
40〜55モル%のSiOを含有する、請求項5に記載のガラス。
【請求項7】
21〜40モル%のMgO、好ましくは33〜38モル%のMgOを含有する、請求項5もしくは6に記載のガラス。
【請求項8】
合計で10〜30モル%含量のCaOおよびSrOを含有する、請求項5、6もしくは7に記載のガラス。
【請求項9】
前記ガラスが、53%を超えないモルパーセントのSiOを含む溶解誘導のガラスである、請求項5から8のいずれかに記載のガラス。
【請求項10】
3.0より小さいNC、好ましくは2.4より小さいNCを有する、請求項5から9のいずれかに記載のガラス。
【請求項11】
前記ガラスが生物活性ガラスである、請求項5から10のいずれかに記載のガラス。
【請求項12】
ストロンチウム、カルシウム、リン、亜鉛、フッ素、ホウ素、またはナトリウムもしくはカリウムのようなアルカリ金属の源より選択される追加の成分の一つもしくはそれ以上を含有する、求項5から11のいずれかに記載のガラス。
【請求項13】
前記ガラスがナトリウムをまったく含まず、そして10モル%を超えないフッ素の源を含有する、請求項12に記載のガラス。
【請求項14】
モル組成YSiO:(Z−X)CaO+SrO:XMgO:6NaOを有し、ここでXが20より大きく(好ましくは21〜40)、Yが45〜50であり、そしてZが44から49である、請求項5に記載のガラス。
【請求項15】
組成45SiO:(49−X)CaO+SrO:XMgO:6NaOもしくは50SiO:(44−X)CaO:XMgO:6NaOを有する、請求項14に記載のガラス。
【請求項16】
粒子状で提供される、請求項5から15のいずれかによるガラス。
【請求項17】
前記アルミニウムを含まないガラスが請求項5から16のいずれかにおいて定義される、請求項1から4のいずれかによるポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項18】
前記セメントがゲンタマイシンのような水溶性の抗生剤および/もしくは骨形成タンパク質のような生物学的治療薬を含有する、請求項1から4もしくは17のいずれかに記載のポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項19】
骨セメント、骨接着剤もしくは骨代替材としての使用のための、請求項1から4、17もしくは18のいずれかにおいて定義されるポリ(カルボン酸)セメント。
【請求項20】
SiOおよびMgOを含有するアルミニウムを含まないガラスであって、前記ガラスにおけるSiOのモルパーセントが60%を超えず、MgOのモルパーセントが20%より大きいガラスと、水溶性ポリ(ガルボン酸)とを水の存在下で混合することを含有する、請求項1から4もしくは17から19のいずれかに定義されるポリ(カルボン酸)セメントを調製するための方法。
【請求項21】
ポリ(カルボン酸)対水の質量比が少なくとも1:9でかつ2:1より小さく、そして好ましくは1:1に近い、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ガラスが請求項5から16のいずれかに定義される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ガラス対ポリ(カルボン酸)の質量比が少なくとも1:2でかつ20:1より小さく、そして好ましくは3:1から9:1の範囲である、請求項22から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
二酸化炭素を発生させ、好ましくは100マイクロメートル(ミクロン)より大きいサイズの孔が相互接続された発泡セメントを製造するために、セメントを作製する前に0.1から5重量%のCaCO、SrCOもしくはZnCOのような、金属炭酸塩、好ましくはアルカリ土類炭酸塩がガラスパウダーへと添加される、請求項1から4もしくは17から19のいずれかに定義されるセメントを含有する分解性の足場。
【請求項25】
実施例もしくは添付の図のいずれかに関連するかまたは例示されることによって実質的にここに定義されるようなガラスもしくはセメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−532338(P2010−532338A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514124(P2010−514124)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002301
【国際公開番号】WO2009/004349
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(508077506)インペリアル イノベーションズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】