説明

ガラス成形体の切断方法、多焦点レンズの製造方法、および多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法

【課題】厚みが均一でないガラス成形体を容易かつ簡便に切断するための手段を提供する。
【解決手段】対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体の切断方法であって、前記対向する2つの面の一方の面に筋状の溝を形成すること、所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、該溝をガラス成形体の厚み方向に進行させること、により、前記ガラス成形体を前記溝を境界として分割切断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形体の切断方法に関するものであり、詳しくは融着型多焦点レンズの小玉作製、ワンピース型多焦点レンズの光学面を形成するためのガラスモールド製造において好適に使用し得るガラス成形体の製造方法に関するものである。
更に本発明は、前記切断方法を使用する融着型多焦点レンズの製造方法、および前記切断方法を使用するワンピース型多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスの切断方法としては、ダイヤモンドカッター等の切断用ツールを使用する方法が広く用いられていた。しかし、ガラスの切断を切断用ツールのみで行う方法は、切断用ツールの消耗が早い、切断時レンズを治具に固定する手間がかかる、切断時に切り屑を除去するため排水処理が必要になる、切断後に切り屑を取り除くためガラスを洗浄する必要がある、等の課題があった。
【0003】
これに対し、特許文献1〜5には、ガラスの熱膨張または熱収縮を利用し、切り筋をつけたガラスを加熱または冷却することによりガラスを切断することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−223828号公報
【特許文献2】特開平2−92837号公報
【特許文献3】特公昭62−47822号公報
【特許文献4】特公昭53−44933号公報
【特許文献5】特開2008−266100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜5に記載の方法は、切断用ツールのみで切断を行う際に生じる上記課題を解決するために有効である。しかし特許文献1〜5では、ガラス板やガラス管のように厚みが均一のガラスを対象としているため、厚みが均一ではないガラスは、必ずしも切断が容易ではない。
一方、近年、老視矯正用レンズとして台玉レンズと小玉レンズとからなる二重焦点レンズが提案されている。この小玉レンズは、通常、一方の面が球面、他方の面が平面のガラス塊(以下、「小玉レンズ母材」ともいう)を切断することにより形成される。そこで、小玉レンズ母材の切断方法として、上記特許文献1〜5に記載の手段を採用することが考えられる。しかし、小玉レンズ母材は、両面平面のガラス板等と異なり厚みが均一でないため、上記の通り特許文献1〜5に記載の技術では、必ずしも切断が容易ではないという課題がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、厚みが均一でないガラス成形体を容易かつ簡便に切断するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、ガラス成形体表面に筋状の溝を形成した後、加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、局部的に急激な熱膨張を起こすことができ、これにより厚みが均一でないガラス成形体を容易かつ簡便に切断できることを新たに見出した。上記切断方法では、加熱治具とガラス表面とが直接接触するため、接触により切断面にキズが生じることが考えられる。しかし、小玉レンズと台玉レンズを熱軟化により一体化させる融着型多焦点レンズや、後述の母材とガラス片を熱軟化により一体化させるガラスモールドの製造では、熱軟化によりキズは不問となるため上記切断方法を採用することが可能となる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体の切断方法であって、前記対向する2つの面の一方の面に筋状の溝を形成すること、
所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、該溝をガラス成形体の厚み方向に進行させること、
により、前記ガラス成形体を前記溝を境界として分割することを含む、前記切断方法。
[2]前記加熱治具表面および/または前記加熱治具先端を、前記ガラス成形体の厚みに応じた熱分布を有するように加熱する[1]に記載の切断方法。
[3]前記ガラス成形体の厚みが厚い部分ほど高温に加熱されるように、前記熱分布を制御する[2]に記載の切断方法。
[4]前記ガラス成形体の前記曲面形状を有する面は凸面であり、かつ、前記ガラス成形体の中心部が周縁部より高温に加熱されるように、前記熱分布を制御する[2]に記載の切断方法。
[5]前記加熱治具表面および/または前記加熱治具先端は0.5〜80W/m・Kの範囲の単位熱伝導度を有する素材からなる[1]〜[4]のいずれかに記載の切断方法。
[6]前記ガラス成形体は、一方の面が曲面形状を有し、他方の面が平面である[1]〜[5]のいずれかに記載の切断方法。
[7]前記ガラス成形体の最大部厚みは2〜7mmの範囲である[1]〜[6]のいずれかに記載の切断方法。
[8]前記溝は、深さが0.1〜0.5mmの範囲であり、かつ幅が0.5〜1.0mmの範囲である[1]〜[7]のいずれかに記載の切断方法。
[9]台玉ガラスレンズと、その一部に埋め込まれた小玉ガラスレンズと、からなる多焦点レンズの製造方法であって、
[1]〜[8]のいずれかに記載の方法によってガラス母材を切断することにより前記小玉ガラスレンズを作製すること、
作製された小玉ガラスレンズを、前記台玉ガラスレンズの小玉ガラスレンズ埋設用凹部に嵌入することによりレンズ複合体を形成すること、
前記レンズ複合体を加熱することにより、前記小玉ガラスレンズと台玉ガラスレンズとを融着させること、
を含む、前記多焦点レンズの製造方法。
[10]対向する2つの面の少なくとも一方の面に遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法であって、
少なくとも一方の面が凹面であるガラスモールド母材の該凹面上に凹みを形成すること、
[1]〜[8]のいずれかに記載の方法によってガラス母材を切断することにより、前記凹みよりも小さなガラス片を作製すること、
作製されたガラス片を前記凹み内に配置すること、
前記ガラス片を配置したガラスモールド母材を加熱することにより、前記凹み内でガラス片とガラスモールド母材とを融着させること、
により、前記凹面上に、前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成すること、
を含む、前記ガラスモールドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の切断方法によれば、少なくとも一方の面に曲面形状を有する厚みが均一でないガラス成形体を、加熱治具との接触という簡便な手段により容易に切断することができる。
更に本発明によれば、上記切断方法を採用することにより、多焦点レンズおよび多焦点レンズ用ガラスモールドを生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】融着型二重焦点レンズの製造工程の説明図である。
【図2】融着型二重焦点レンズの一例を示す。
【図3】ワンピース型二重焦点レンズの断面形状の具体例を示す。
【図4】図3(a)〜(c)に示すワンピース型二重焦点レンズの近用部の光学中心の位置を示す図である。
【図5】注型重合法に使用される、ワンピース型二重焦点レンズ用のガラスモールドの製造工程の説明図である。
【図6】ガラス母材切断の説明図である。
【図7】溝形成時のガラス成形体の配置例を示す。
【図8】加熱治具表面とガラス成形体の接触状態の一例の説明図である。
【図9】V字型の断面形状を有する溝内に嵌入する加熱治具先端形状の具体例を示す。
【図10】先端部周縁面がガラス成形体表面と密着可能な形状を有する加熱治具の一例の断面形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[切断方法]
本発明は、対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体の切断方法に関する。本発明の切断方法は、
前記対向する2つの面の一方の面に筋状の溝を形成すること(以下、「工程1」という)、
所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、該溝をガラス成形体の厚み方向に進行させること(以下、「工程2」という)、
により、前記ガラス成形体を前記溝を境界として分割することを含む。
【0012】
後述するように、本発明の切断方法は、多焦点レンズの製造分野において好適に使用することができる。そこで本発明の切断方法の説明に先立ち、以下に多焦点レンズについて説明する。
【0013】
一枚のレンズを遠用部(遠方視部)と近用部(近方視部)とに分け、2つの異なる度数を持たせたものを二重焦点レンズという。更に、遠用、近用、それらの中間の3種類の異なる度数を持たせたものを三重焦点レンズという。これらレンズは、多焦点レンズと呼ばれ、製造方法により、融着型、ワンピース型の二種類に大別されている。以下、図面を参照し、融着型、ワンピース型の製造工程を説明する。
【0014】
融着型多焦点レンズ(以下、単に「融着型レンズ」ともいう)は、台玉ガラスレンズと、その一部に埋め込まれた小玉ガラスレンズとを熱軟化により融着させることにより作製することができる。図1は、融着型二重焦点レンズの製造工程の説明図である。以下、図1を参照し説明するが、三重焦点レンズ等の焦点を3つ以上有する多焦点レンズも、小玉ガラスレンズの種類が増える点を除けば基本的な製造工程は同様である。
【0015】
通常、融着型レンズの製造工程は、
工程A:台玉レンズの面形状加工(図1(a)参照)
工程B:台玉レンズ表面への小玉レンズ埋設用凹部形成(図1(b)参照)
工程C:ガラス母材切断による小玉レンズ作製
工程D:小玉レンズ埋設用凹部への小玉レンズの嵌入(レンズ複合体形成)(図1(c)、(d)参照)
工程E:レンズ複合体の加熱(熱軟化による小玉レンズと台玉レンズの融着)(図1(e)参照)
を含む。例えば、異なるガラス素材からなる同一形状のガラス塊を2つ用意する。一方は台玉レンズ1と同じガラス素材から形成し、他方は台玉レンズとは屈折率の異なるガラス素材から形成する。そして各ガラス塊を2分割し、それぞれ小玉レンズ2A、小玉レンズ2Bとして用いれば、台玉レンズと小玉レンズ2A、2Bとを融着させることにより、台玉レンズと小玉レンズ2A、2Bとが一体化した二重焦点レンズを得ることができる。そのような二重焦点レンズの上面図を図2(a)、断面図を図2(b)に示す。
【0016】
一方、ワンピース型多焦点レンズは通常、少なくとも一方の面の一部に突出部(近用部)を設けることにより、遠用部と近用部とを持たせた多焦点レンズである。ワンピース型二重焦点レンズの断面形状の具体例を、図3に示す。図3(a)は、遠用部、近用部共に+の屈折力、図3(b)は遠用部が−の屈折力、近用部が+の屈折力、図3(c)は、遠用部、近用部共に−の屈折力のレンズである。図3中、Aは遠用部の光学中心、Bは近用部の幾何中心であり、それぞれの場合の近用部の光学中心(図4中のC)は、それぞれ図4(a)〜(c)に示すように、AとBの間、Bより下側、Aより上側の位置で、遠用部と近用部の屈折力差(加入度数)に応じて移動する。このように一方の面に突出部を有するレンズを作製するためには注型重合法を採用することができる。図5は、注型重合法に使用される、ワンピース型二重焦点レンズ用のガラスモールドの製造工程の説明図である。以下、図5を参照し説明するが、三重焦点レンズ等の焦点を3つ以上有する多焦点レンズも、突出部の数が増える点を除けば基本的な製造工程は同様である。
【0017】
通常、ワンピース型二重焦点レンズ用のガラスモールド(以下、「ワンピース型レンズ用モールド」ともいう)の製造工程は、
工程A’:ガラスモールド母材の面形状加工(図5(a)参照)
工程B’:ガラスモールド母材凹面への凹み形成(図5(b)参照)
工程C’:ガラス母材切断によるガラス片作製
工程D’:ガラス母材凹み内へのガラス片配置(図5(c)、(d)参照)
工程E’:加熱によるガラスモールド母材とガラス片との融着一体化(図5(e)参照)
工程F’:鏡面研磨加工によるレンズ成形面(転写面)形成(図5(f)参照)
を含む。以上の工程により、図5(f)に示すように、凹面上に凹部を有するガラスモールドを得ることができる。このガラスモールドの凹面がキャビティ内部に配置されるように組み立てた成形型内にレンズ原料液を注入し重合反応を行うことにより、凸面上に突出部を有する二重焦点レンズを得ることができる。
【0018】
前記した融着型レンズの製造工程では、小玉レンズ作製のためにガラス母材を切断する工程(工程C)が含まれる。ここで使用されるガラス母材は、図6(a)に示すように少なくとも一方の面(図6(a)では上面)が曲面形状を有し、この曲面形状は、小玉レンズ埋設用凹部の曲面形状を略転写した形状である。そして図6(b)に示すようにガラス母材を切断することにより、図6(c)に示すガラス片(小玉レンズ)を得ることができる。
また、前記したワンピース型レンズ用モールドの製造工程でも、ガラス片作製のためにガラス母材を切断する工程(工程C’)が含まれる。ここで使用されるガラス母材も、図6(a)に示すように、少なくとも一方の面が曲面形状を有する。この曲面形状は、ガラスモールド凹面上のガラス片配置用凹みの曲面形状を略転写した形状である。そして上記と同様に、図6(b)に示すようにガラス母材を切断することにより、図6(c)に示すガラス片を得ることができる。
したがって、いずれの場合にも、切断されるガラス母材は、対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体であり、切断方向で厚みが均一ではない。このようなガラス成形体は、先に説明したように、両面平面のガラス板等を対象とした従来の切断方法では簡便かつ容易に切断することは困難である。
【0019】
これに対し本発明の切断方法によれば、前述の工程1、工程2を経ることにより、局部的に急激な熱膨張を起こすことができ、これにより厚みが均一でないガラス成形体を簡便に切断することができる。工程2では、加熱治具とガラス表面が直接接触するため、接触により切断面にキズが生じる場合があり得る。しかし、上記のように切断したガラス片を加熱により軟化するのであれば、加熱軟化によりキズは不問となる。したがって、本発明の切断方法は、加熱軟化を含む工程に使用するガラス片の製造のために使用することが好ましい。
以下、本発明の切断方法について、更に詳細に説明する。
【0020】
ガラス成形体
本発明の切断方法において、切断対象となるガラス成形体は、対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体である。そのようなガラス成形体の形状としては、例えば凹凸面を有するメニスカス形状、両面凸面形状、両面凹面形状、一方の面が平面であり他方の面が凸面または凹面である形状等を挙げることができる。曲面の曲率は、目的に応じて決定されるものであり、特に限定されるものではない。例えば融着型レンズ用の小玉レンズ母材であれば、小玉レンズ埋設用凹部の曲面形状を略転写した形状とすることができ、ワンピース型レンズ用モールド作製用のガラス片の母材であれば、ガラス片配置用凹みの曲面形状を略転写した形状とすることができる。ガラス素材の種類にもよるが、後述の工程2における熱膨張による分断の容易性の観点からは、ガラス成形体の最大部の厚み(例えば中心部肉厚)は、2〜7mm程度であることが好ましい。ガラス素材の水平面と平行な断面形状は、円に限られるものではなく、楕円、一部に角を有する形状等であってもよい。上記断面の最大長さ(例えば円であれば直径、楕円であれば長径)は、上記と同様の理由から、30〜50mm程度であることが好ましい。
【0021】
ガラス成形体の素材は、例えば、クラウン系、フリント系、バリウム系、リン酸塩系、フッ素含有系、フツリン酸系等のガラスを挙げることができる。ただしこれらに限定されるものではなく、融着型レンズ用の小玉母材であれば、前述のように台玉レンズのガラス素材と同じガラス素材および屈折率の異なるガラス素材からなるガラス成形体を2種類準備すればよい。またガラス素材の他の特徴としては、特に限定されるものではないが、例えば熱的性質は、歪点450〜480℃、除冷点480〜621℃、軟化点610〜770℃、ガラス転移温度(Tg)が450〜620℃、屈伏点(Ts)が535〜575℃、比重は2.47〜3.65(g/cm3)、屈折率は、Nd1.52300〜1.8061、熱拡散比率は0.3〜0.4cm2*min、ポアソン比0.17〜0.26、光弾性定数2.82×10E−12、ヤング率6420〜9000kgf/mm2、線膨張係数8〜10×10E−6/℃を挙げることができる。
【0022】
次に、上記ガラス成形体の切断工程である工程1、2について説明する。
【0023】
工程1
工程1は、上記形状を有するガラス成形体の一方の面に筋状の溝を形成する工程である。例えば一方が平面のガラス成形体であれば平面に溝を形成することが、後述する加熱治具の形状設計の容易性の点から好ましい。ただし、曲面に溝を形成する場合には、曲面形状に対応する形状を有する加熱治具を用意すればよい。したがって、溝を形成する面は平面に限定されるものではなく、曲面であってもよい。溝を形成する面は、鏡面であっても曇りガラス(スムージング)状態の面であってもよい。透過検査により形成した溝の形状確認を容易に行うためには、鏡面であることが好ましい。
【0024】
溝の形成は、例えば、ダイヤモンドカッター、鋼製ホイールカッター等のガラスの切断やガラスの溝形成に通常使用されるカッターを用いて行うことができる。または、レーザーにより溝を形成することも可能である。
【0025】
溝形成の際、下面となる面が曲面である場合には、安定性を高めるために、ホルダー上に溝を形成する面が上面となるようにガラス成形体を配置することが好ましい。また、生産性を高めるためには、複数個のガラス成形体に一工程で溝を形成することが好ましい。例えば、図7(b)に示すようにチャッキング用ホルダー間に複数個のガラス成形体を配置した後、チャッキング用ホルダーでガラス成形体をホールドすることも好適である。図7(a)は、チャッキング用ホルダーでホールドされたガラス成形体の断面図である。
【0026】
筋状の溝は曲線を含んでもよいが、加熱治具の形状設計の容易性の点からは直線状であることが好ましい。例えば、図7(c)に示すように、チャッキング用ホルダーでホールドした状態のガラス成形体に溝形成用位置決めスケールを当接し、スケールに沿ってカッターによって溝を形成すれば、直線状の溝を確実に形成することができ好ましい。単一のガラス成形体に溝を形成する場合にも、このようにスケールを使用することが好ましい。筋状の溝は、後述の工程2において熱膨張によりガラス成形体を分断できる程度の深さおよび幅に形成すればよい。好適な溝深さおよび溝幅は、必要に応じて予備実験を行うことにより容易に設定可能である。ガラス素材の種類、工程2における加熱温度にもよるが、通常、溝深さは0.1〜0.5mm程度、溝幅は0.5〜1.0mmとすることが好ましい。また、筋状の溝は、ガラス成形体の一方の面の少なくとも一部に形成すればよいが、図7(b)に示すようにガラス成形体の一方の面を分断するように形成することが、工程2における分断の容易性の点から好ましい。
【0027】
工程1において筋状の溝を形成したガラス成形体は、次いで工程2に付され、熱膨張を利用し切断される。
以下、工程2について説明する。
【0028】
工程2
工程2は、工程1において筋状の溝を形成したガラス成形体を、熱膨張によって該溝を境界として分割する工程である。本工程では、所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、該溝をガラス成形体の厚み方向に進行させることによって、ガラス成形体を前記溝を境界として分割する。
【0029】
工程2の特徴は、(1)ガラス成形体に直接加熱治具を接触させること、(2)ガラス成形体の一方の面を局部的に加熱すること、である。前記した特許文献1〜5に記載の方法等、従来も熱膨張または収縮を利用しガラスを切断する方法は提案されていたが、従来の方法は、切断対象であるガラス成形体に直接加熱治具を接触させないため加熱効率が低く、特に、中心部の肉厚が厚いガラス塊等では、中心部を切断するに足りる熱膨張または収縮を起こすことが困難である。また、ガラス成形体の全面を加熱または冷却する方法では、加熱面または冷却面全面と他の部分との温度差を利用することとなるが、この温度差は比較的小さいため、特に、中心部の肉厚が厚いガラス塊の切断は困難である。これに対し本発明の切断方法は、上記(1)および(2)の特徴を有する工程2を行うことにより、切断方向の厚みが異なるガラス成形体、中心肉厚の厚いガラス成形体であっても容易に切断することができる。
【0030】
工程2では、熱膨張を起こすための手段として、下記手段1、2の少なくとも一方を用いる。
手段1:所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させる。
手段2:所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入する。
【0031】
手段1では、加熱治具表面をガラス成形体表面の溝を含む局部領域と直接接触させる。ここで「溝を含む局部領域」とは、ガラス成形体の一方の面の全面ではなく一部であり、かつ筋状の溝全体を含む領域をいう。加熱治具表面と直接接触する部分が全面ではなく、かつ該部分に溝全体が含まれることにより、溝部分において大きな熱膨張を起こすことができ、これにより溝を起点としてガラスを瞬時に確実に破断することが可能となる。加熱治具表面と接触する局部領域は、ガラス成形体の被接触面の1〜10%程度の領域とすることが好ましい。
【0032】
手段1における加熱治具表面とガラス成形体の接触状態の一例の説明図を、図8に示す。図8(a)に示すように先端に溝に対応する突出部を有さない加熱治具をガラス成形体の表面と接触させた状態を示す図が、図8(b)である。図8(b)には、加熱治具表面の断面形状が長方形である態様を示したが、長方形に限らず溝を含む局部領域と接触できる形状であればよい。また、図8では単一の加熱治具を使用する態様を示したが、ガラス成形体上に2つ以上の加熱治具を連続的に配列してもよい。加熱治具の配置の容易性の点からは、単一の加熱治具を使用することが好ましい。
【0033】
手段1に使用する加熱治具の表面形状は、ガラス成形体の被接触面が平面であれば平面であることが好ましく、曲面である場合には該曲面と隙間なく密着できるような曲面形状とすることが好ましい。
【0034】
手段2では、先端に溝に対応する突出部を有する加熱治具を使用し、加熱治具先端を溝内全域に嵌入する。このように溝内に直接加熱治具先端を差し込み、かつ溝内全域を同時に加熱することにより、溝部分において大きな熱膨張を起こすことができ、これにより溝を起点としてガラスを破断することが可能となる。ここで「溝内全域」とは、加熱治具先端と当接していない部分が、溝の全長を基準として5%以下程度であることをいうものとする。
【0035】
手段2では、例えば一側面に突出部を有する板状の加熱治具を使用することができる。手段1と同様、加熱治具は複数配列させてもよいが、加熱治具の配置の容易性の点からは、単一の加熱治具を使用することが好ましい。
【0036】
カッターまたはレーザーにより形成される溝の断面形状は、通常V字型である。V字型の断面形状を有する溝内に嵌入する加熱治具先端形状の具体例を、図9に示す。図9(a)は、断面がR形状の加熱治具先端、図9(b)は断面がV字形状の加熱治具先端を示す図である。加熱治具先端と溝との密着性を高める観点からは、図9(b)に示すV字型形状が好ましい。ただし加熱治具先端と溝とを完全に嵌合させることは必須ではなく、図9(a)に示すようなR形状の断面形状を有する加熱治具先端でも、ガラス成形体を容易に切断することができる。
【0037】
手段1と手段2とを併用するためには、先端部周縁面がガラス成形体表面と密着可能な形状を有する加熱治具を使用することが好ましい。そのような加熱治具の断面形状を、図10に示す。
【0038】
手段1における加熱治具の表面温度、手段2における加熱治具の先端温度は、ガラス成形体の素材、溝深さ、溝幅等に応じて設定すればよく、必要に応じて予備実験を行うことにより容易に温度設定可能である。高温にするほど大きな熱量が必要となりコスト増につながるため、過度に高温にすることは好ましくない。この観点からは、上記温度は100〜200℃とすることが好ましい。
【0039】
本発明の切断方法では、ガラス成形体の被加熱部(手段1における局部領域、手段2における溝内部)を均一または不均一な温度で加熱することができるが、手段1における加熱治具表面、手段2における加熱治具先端は、ガラス成形体の厚みに応じた熱分布を有するように加熱することが好ましい。これは、本発明の切断方法における切断対象が、厚みが均一ではないガラス成形体であるためである。厚みが均一ではないガラス成形体は、厚い部分ほど切断するための破断長さは長くなるため、厚い部分ほど高温とし大きな熱膨張を起こすことが好ましい。したがって、上記のように厚みに応じた熱分布を有するように加熱治具を温度制御することが有効である。具体的には、ガラス成形体の厚みが厚い部分ほど高温に加熱されるように、加熱治具の熱分布を制御することが好ましい。例えば、凸面を有するガラス成形体は、中心部の肉厚は周縁部より厚いため、中心部が周縁部より高温に加熱されるように、加熱治具の熱分布を制御することが好ましい。
【0040】
上記熱分布の制御は、例えば、(i)周縁部と接触する表面を中心部と接触する表面を構成する素材より熱伝導度が低い素材から構成する、(ii)部分的な温度制御を可能とするように加熱治具に複数の加熱手段を接続する、等の方法によって行うことができる。熱伝導度が大きな素材ほど温度分布をつけにくいため、温度制御の容易性の観点からは、ガラス成形体と接触する表面および/または先端が0.5〜80W/m・Kの範囲の単位熱伝導度を有する素材からなる加熱治具を使用することが好ましい。そのような素材としては、鉄等の金属、および各種ガラス、セラミック、耐火レンガ等の無機質固体を挙げることができる。また、耐久性の点からは金属が好ましい。
【0041】
上記手段1および/または手段2により、溝を含む一部分を局部的に加熱することにより、急激な熱膨張によって溝をガラス成形体の厚み方向に進行させることができ、最終的に溝を境界としてガラス成形体を分割することができる。
【0042】
以上の工程により、ガラス成形体を切断することができる。1本の筋状の溝によりガラス成形体を該溝を境界として2分割することができるため、1つのガラス成形体にn本(nは1以上の整数)の溝を形成し、全ての溝に対して同時に手段1および/または手段2を施せば、1つのガラス成形体から(n+1個)のガラス片を得ることができる。
【0043】
本発明の切断方法により得られるガラス片は、好ましくは、前記した融着型レンズの製造のための小玉レンズとして、または、前記したワンピース型レンズ用モールドの製造のためのガラス片として使用することができる。
【0044】
[多焦点レンズの製造方法]
本発明の多焦点レンズの製造方法は、台玉ガラスレンズと、その一部に埋め込まれた小玉ガラスレンズと、からなる多焦点レンズの製造方法であり、本発明の切断方法によってガラス母材を切断することにより前記小玉ガラスレンズを作製すること、作製された小玉ガラスレンズを、前記台玉ガラスレンズの小玉ガラスレンズ埋設用凹部に嵌入することによりレンズ複合体を形成すること、前記レンズ複合体を加熱することにより、前記小玉ガラスレンズと台玉ガラスレンズとを融着させること、を含む。本発明の多焦点レンズの製造方法は、具体的には、前述の工程A〜工程Eにより行うことができる。
以下、工程A〜工程Eの詳細を説明する。
【0045】
工程A、B
工程Aは、台玉レンズの面形状加工工程であり、例えば図1(a)に示すように、台玉レンズ母材を凹凸加工することができる。工程Bは、上記面形状加工後の台玉レンズに、小玉を埋設するための凹部(小玉レンズ埋設用凹部)を形成する工程である(図1(b)参照)。これらの工程は、ガラス加工に通常用いられている研削、研磨および/または切削装置を用いて行うことができる。台玉レンズを構成するガラス素材および加工形状は、所望の多焦点レンズの形状および光学特性に応じて決定することができる。ガラス素材としては、例えば本発明の切断方法におけるガラス成形体の素材として例示したガラス素材を使用することができる。
【0046】
工程C
工程Cは、小玉レンズ母材を切断することにより、小玉レンズを作製する工程である。例えば、小玉レンズとして、図1(c)に示すように二種類の小玉レンズを作製すれば二重焦点レンズを得ることができる。小玉レンズ母材の切断の詳細は、先に本発明の切断方法について述べた通りである。
【0047】
工程D
工程Dは、小玉レンズ埋設用凹部へ小玉レンズを嵌入する工程であり、これにより図1(c)に断面形状を示すようなレンズ複合体を得ることができる。このレンズ複合体を上方から見た図が図1(d)である。図1(d)に示すように、融着エア抜きのためのテープ等で仮止めをすることも可能である。
【0048】
工程E
工程Eは、工程Dで得たレンズ複合体を加熱する工程であり、加熱により小玉レンズと台玉レンズをそれぞれ熱軟化することにより両者を融着させることができる。セラミック等の耐熱性材料からなる置き台上に配置した状態で、レンズ複合体を加熱することが好ましい。
【0049】
工程Eにおける加熱は、加熱対象であるガラス素材の種類に応じて適切に設定した加熱プロファイルによって行うことができる。加熱は、連続式加熱炉内で行ってもよく、バッチ式加熱炉によって行うこともできる。連続式加熱炉とは、入口と出口を有しており、コンベアー等の搬送装置によって設定された温度分布の炉内に被加工物を一定時間で通過させて熱処理を行う装置である。連続式加熱炉では、発熱と放熱を考慮した複数のヒーターと炉内空気循環の制御機構によって、炉内部の温度分布を制御することができる。通常、ヒーターは炉内搬送経路の上部および下部に設置される。連続式加熱炉の各センサーとヒーターの温度制御には、PID制御を用いることができる。なお、PID制御は、プログラムされた所望の温度と実際の温度との偏差を検出し、所望の温度との偏差が0になるように戻す(フィードバック)ための制御方法である。そしてPID制御とは、偏差から出力を計算するときに、「比例(Proportional)」、「積分(Integral)」、「微分(Differential)」的に求める方法である。PID制御の一般式を次に示す。
【0050】
【数1】

【0051】
上記式中、eは偏差、Kはゲイン(添字Pのゲインを比例ゲイン、添字Iのゲインを積分ゲイン、添字Dのゲインを微分ゲイン)、Δtはサンプル時間(サンプリング時間、制御周期)、添字nは現在の時刻を示す。
PID制御を用いることにより、投入された処理物形状および数量による熱量分布の変化に対する炉内温度の温度制御精度を高くすることができる。また電気炉内における搬送は、無摺動方式(例えばウォ―キングビーム)を採用することができる。
【0052】
前記連続式加熱炉は、所望の温度制御が可能なものであればよいが、好ましくは連続投入型電気炉である。例えば、搬送方式が無摺動方式、温度制御がPID制御、温度測定器は“プラチナ製 K熱電対 30ポイント“、最高使用温度は800℃、常用使用温度は590〜650℃、内部雰囲気はドライエアー(オイルダストフリー)、雰囲気制御は入り口エアーカーテン、炉内パージ、出口エアーカーテン、温度制御精度は±3℃、冷却方法は空冷である連続投入型電気炉を使用することができる。連続式加熱炉では、炉内の熱源からの輻射および炉内部からの二次輻射から発せられる輻射熱によって、ガラス素材を所望の温度に加熱することができる。
【0053】
以上の工程により、小玉レンズと台玉レンズとを融着一体化させることができる。その後、例えば図1(e)に点線で示すように、小玉ガラスレンズを埋設した側の表面に、公知の方法により研削および/または研磨による平坦化処理(好ましくは鏡面加工)を行うことが好ましい。これにより、遠用部と近用部との境界部分に段差のない多焦点レンズを得ることができる。
【0054】
[多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法]
更に本発明は、対向する2つの面の少なくとも一方の面に遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法に関する。本発明の多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法は、少なくとも一方の面が凹面であるガラスモールド母材の該凹面上に凹みを形成すること、本発明の切断方法によってガラス母材を切断することにより、前記凹みよりも小さなガラス片を作製すること、作製されたガラス片を前記凹み内に配置すること、前記ガラス片を配置したガラスモールド母材を加熱することにより、前記凹み内でガラス片とガラスモールド母材とを融着させること、を含み、これにより前記凹面上に、前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成する。本発明の多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法は、具体的には、前述の工程A’〜工程F’により行うことができる。
以下、工程A’〜工程F’の詳細を説明する。
【0055】
工程A’、B’
工程A’は、ガラスモールド母材の面形状加工工程であり、例えば図5(a)に示すように、ガラスモールド母材を凹凸加工することができる。工程B’は、上記面形状加工後のガラスモールド母材に、ガラス片配置用の凹みを形成する工程である(図5(b)参照)。これらの工程は、ガラス加工に通常用いられている研削、研磨および/または切削装置を用いて行うことができる。ガラスモールドを構成するガラス素材および加工形状は、所望の多焦点レンズの形状および光学特性に応じて決定することができる。ガラス素材としては、例えば本発明の切断方法におけるガラス成形体の素材として例示したガラス素材を使用することができる。
【0056】
工程C’
工程C’は、ガラス母材を切断することにより、上記凹みに配置されるガラス片を得る工程である。ガラス母材の切断の詳細は、先に本発明の切断方法について述べた通りである。本工程で作製するガラス片は、上記ガラス片配置用凹みよりも小さなガラス片とする。これはガラス片を配置した凹み内に、多焦点レンズの突出部(近用部)を形成するための空間を設けるためである。ガラス片およびガラス片配置用凹みの大きさは、所望の多焦点レンズの面形状に応じて決定することができる。
【0057】
工程D’
工程Dは、切断したガラス片をガラスモールド母材の凹み(ガラス片配置用凹み)内に配置する工程である。図5(c)は、ガラス片を配置したガラスモールド母材の一例(断面図)である。この断面図の状態を上方から見た図が図5(d)である。図5(d)に示すように、安定配置のためにテープ等で仮止めをすることも可能である。
【0058】
工程E’
工程E’は、ガラス片を配置したガラスモールド母材を加熱することにより、前記凹み内でガラス片とガラスモールド母材とを融着させる工程である。これにより、図5(e)に示すように、ガラス片とガラスモールド母材を融着一体化させることができる。セラミック等の耐熱性材料からなる置き台上に配置した状態で、ガラス片を配置したガラスモールド母材を加熱することが好ましい。
【0059】
工程E’における加熱は、加熱対象であるガラス素材の種類に応じて適切に設定した加熱プロファイルによって行うことができる。加熱の具体的態様は、工程Eについて前述した通りである。
【0060】
以上の工程により、凹面上に近用部の表面形状に対応する形状の凹部を有するガラスモールドを得ることができる。得られたモールドは、任意に下記工程F’に付すことができる。
【0061】
工程F’
工程F’は、例えば図5(e)に点線で示すように、工程E’後のモールドのガラス片を融着した側の表面に、公知の方法により鏡面研磨加工を行う工程である。これにより、図5(f)に示すように多焦点レンズの近用部に対応する凹部を有するガラスモールドを得ることができる。
【0062】
以上の工程により得られたガラスモールドは、遠用部と遠用部より突出した近用部を有する多焦点レンズを注型重合により成形するためのモールドとして使用することができる。具体的には、得られたガラスモールドは、レンズの一方の面を形成するための第一モールドと他方の面を形成するための第二モールドを所定の間隔をもって対向するように配置し、かつ上記間隔を閉塞することによりキャビティを形成すること、前記キャビティ内に硬化性成分を含むレンズ原料液を注入し、該キャビティ内で前記硬化性成分の硬化反応を行い、レンズ形状の成形体を得ること、を含む多焦点レンズの製造方法において、前記第一モールドまたは第二モールドとして使用することができる。ここで、前記2つのモールドを、前記キャビティ内に前記近用部に対応する形状の凹面が位置するように配置することにより、遠用部より突出した近用部を有する多焦点レンズを得ることができる。得られるレンズは、例えば、図3(a)〜(c)に示す断面形状を有する。
【0063】
上記2つのモールドの間隔は、円筒状のガスケットによって閉塞してもよく、ガスケットの代わりに粘着テープを2つのモールドの側面に巻きつけることによって閉塞してもよい。前記ガスケットとしては、通常注型重合に使用されるものをそのまま使用することができる。第一モールド、第二モールドについては、それらの少なくとも一方として、前記方法により製造したモールドを使用する。前記方法により製造したモールド以外のモールドは、所望の多焦点モールドの面形状等に応じて選択すればよい。
【0064】
2つのモールドの間隔を閉塞することにより形成したキャビティへ注入されるレンズ原料液は、硬化性成分を含むものであり、通常プラスチックレンズ基材、好ましくは眼鏡レンズ用プラスチックレンズ基材を構成する各種ポリマーの原料モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマーを含むことができ、共重合体を形成するために2種以上のモノマーの混合物を含むこともできる。上記硬化性成分は、熱硬化性成分であっても光硬化性成分であってもよいが、注型重合では通常、熱硬化性成分が使用される。レンズ原料液には、必要があればモノマーの種類に応じて選択した触媒を添加することもできる。また、レンズ原料液には、通常使用される各種添加剤を含むこともできる。
【0065】
前記レンズ原料液の具体例としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等を重合可能な原料液が挙げられる。上記中、硬化性成分としてはウレタン系が好適であるが、これに限定されるものではない。キャビティへのレンズ原料液の注入は、通常の注型重合と同様に行うことができる。
【0066】
次いで、キャビティ内へ注入されたレンズ原料液に加熱、光照射等を施すことにより、レンズ原料液に含まれる硬化性成分の硬化反応を行いレンズ形状の成形体を得ることができる。硬化反応条件(例えば加熱昇温プログラム)は、特に限定されるものではなく、使用するレンズ原料液の種類に応じて決定すればよい。硬化処理終了後、レンズと密着している2つのモールドを分離(離型)することにより、モールド成形面の面形状が転写されたレンズ形状の成形体、即ち、少なくとも一方の面に遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズ、を得ることができる。
【0067】
以上説明した本発明により得られる多焦点レンズには、必要に応じて各種機能性膜を公知の成膜方法によって積層することもできる。機能性膜としては、ハードコート膜、反射防止膜を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、二重焦点レンズ等の多焦点レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの面の少なくとも一方に曲面形状を有するガラス成形体の切断方法であって、前記対向する2つの面の一方の面に筋状の溝を形成すること、
所定温度に加熱された加熱治具表面と前記ガラス成形体表面の前記溝を含む局部領域とを直接接触させることにより、および/または、所定温度に加熱された加熱治具先端を前記溝内全域に嵌入することにより、該溝をガラス成形体の厚み方向に進行させること、
により、前記ガラス成形体を前記溝を境界として分割することを含む、前記切断方法。
【請求項2】
前記加熱治具表面および/または前記加熱治具先端を、前記ガラス成形体の厚みに応じた熱分布を有するように加熱する請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
前記ガラス成形体の厚みが厚い部分ほど高温に加熱されるように、前記熱分布を制御する請求項2に記載の切断方法。
【請求項4】
前記ガラス成形体の前記曲面形状を有する面は凸面であり、かつ、前記ガラス成形体の中心部が周縁部より高温に加熱されるように、前記熱分布を制御する請求項2に記載の切断方法。
【請求項5】
前記加熱治具表面および/または前記加熱治具先端は0.5〜80W/m・Kの範囲の単位熱伝導度を有する素材からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項6】
前記ガラス成形体は、一方の面が曲面形状を有し、他方の面が平面である請求項1〜5のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項7】
前記ガラス成形体の最大部厚みは2〜7mmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項8】
前記溝は、深さが0.1〜0.5mmの範囲であり、かつ幅が0.5〜1.0mmの範囲である請求項1〜7のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項9】
台玉ガラスレンズと、その一部に埋め込まれた小玉ガラスレンズと、からなる多焦点レンズの製造方法であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によってガラス母材を切断することにより前記小玉ガラスレンズを作製すること、
作製された小玉ガラスレンズを、前記台玉ガラスレンズの小玉ガラスレンズ埋設用凹部に嵌入することによりレンズ複合体を形成すること、
前記レンズ複合体を加熱することにより、前記小玉ガラスレンズと台玉ガラスレンズとを融着させること、
を含む、前記多焦点レンズの製造方法。
【請求項10】
対向する2つの面の少なくとも一方の面に遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法であって、
少なくとも一方の面が凹面であるガラスモールド母材の該凹面上に凹みを形成すること、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によってガラス母材を切断することにより、前記凹みよりも小さなガラス片を作製すること、
作製されたガラス片を前記凹み内に配置すること、
前記ガラス片を配置したガラスモールド母材を加熱することにより、前記凹み内でガラス片とガラスモールド母材とを融着させること、
により、前記凹面上に、前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成すること、
を含む、前記ガラスモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−275134(P2010−275134A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127553(P2009−127553)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】