説明

ガラス板搬送方法及びガラス板搬送装置

【課題】ガラス板を縦姿勢搬送する場合における当該ガラス板の座屈や捩れさらには進行方向先端部の垂れ下がり等による割れや損傷等の問題を回避する。
【解決手段】ガラス板2の下辺部2aを下部支持手段3により受止支持すると共に、ガラス板2の裏面2eを裏部支持手段4により受止支持しながら、ガラス板2を縦姿勢で搬送するガラス板搬送方法であって、縦姿勢のガラス板2は、搬送方向Aと直交する断面において、その表面2f側が凹状となる湾曲部2xを有する形態で搬送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の搬送方法及びその装置に係り、詳しくは、ガラス板の下辺部を下部支持手段で受止支持しつつそのガラス板を縦姿勢で搬送するための技術的思想に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OLED)などに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)、或いは太陽電池や2次電池などの製作に使用されるガラス板は、その製造過程において、各工程間或いは各処理装置間などで搬送する必要性が生じ得る。
【0003】
この種のガラス板の搬送方法としては、水平面に沿うように配列された複数の搬送ローラ上にガラス板を載置した状態で、それら複数の搬送ローラを回転駆動させることによって、当該ガラス板を水平姿勢で搬送する手法が公知となっている。しかしながら、この水平姿勢搬送方法によれば、近年におけるこの種のガラス板の薄肉大型化に起因して、ガラス板の進行方向先端部が垂れ下がり、前方の搬送ローラへの円滑な乗り上げが阻害されるという欠点が浮き彫りとなっている。そこで、このような欠点を解消するために、種々の対策が講じられているが、この水平姿勢搬送方法を採用している限りにおいては、スペース効率が悪化するという致命的な問題を解消することができない。
【0004】
そこで、特許文献1に開示されているように、ガラス板(同公報では基板)を縦姿勢で搬送することが行われており、このような縦姿勢搬送方法によれば、スペース効率の悪化を回避できる点においては有利となる。この縦姿勢搬送方法は、大別すると、ガラス板を鉛直方向または略鉛直方向に沿う姿勢で搬送する方法と、ガラス板を鉛直方向に対して傾斜させて搬送する方法とが存在する。
【0005】
また、上記の特許文献1に開示された縦姿勢搬送方法は、詳述すると、曲げ可能なガラス板を鉛直方向に対して傾斜させると共に、当該ガラス板を搬送方向において曲率を有するように湾曲させた形態で蛇行させながら搬送するというものである。そして、この傾斜した状態にある縦姿勢のガラス板は、その下端(下辺部)が、水平面内で曲率を有するように湾曲状に配列された複数の断面略L字形の下端支持部により支持され、且つ、その裏面側(傾倒側)における上端部が、同じく湾曲状に配列された複数の搬送ローラにより支持された状態で搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−193267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種のガラス板の搬送方法として縦姿勢搬送を採用した場合には、当該ガラス板の近年における急速な薄肉大型化の影響を受けて、ガラス板の損傷や割れ等の発生確率が、大幅に増加するに至っている。
【0008】
具体的には、当該ガラス板を鉛直方向または略鉛直方向に沿う縦姿勢で搬送する場合には、薄肉大型であるが故に当該ガラス板に座屈が生じて不当な変形を来たすことになるため、ガラス板が損傷し、ひいては割れが発生するという不具合を招く。
【0009】
また、このような事態を回避するには、当該ガラス板の表面側と裏面側との双方を、縦横に複数配列された搬送ローラまたはガイドローラによって支持することが考えられる。しかし、この種のガラス板の表面は、後工程で素子等が形成される面であって清浄であることが要求されるため、この面に搬送ローラやガイドローラが触れたのでは、異物が付着するなどして汚れが生じ、品質面で致命的な問題となる。
【0010】
一方、上記の特許文献1に開示された縦姿勢搬送方法によれば、ガラス板の自重による影響を最も受ける下辺部が、水平面内で強制的に湾曲されて支持された状態で搬送されるため、当該ガラス板に不当な応力が作用し、捩れが生じるなどして破損に至るという問題を有している。
【0011】
更に、この縦姿勢搬送方法によれば、ガラス板の裏面側が複数の搬送ローラにより支持されているものの、薄肉大型であるが故に当該ガラス板の進行方向先端部に垂れ下がりが生じる。そのため、当該ガラス板の垂れ下がり部が装置の縁に接触したり或いは次の搬送ローラに円滑に乗り上げていくことが困難となるなどして、程度の差はあるにせよ、上述の水平姿勢搬送の場合と同様の問題をも生じ得る。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、ガラス板を縦姿勢搬送(傾斜姿勢での搬送を含む)する場合における当該ガラス板の座屈や捩れさらには進行方向先端部の垂れ下がり等に起因する割れや損傷等の問題を回避することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、ガラス板の下辺部を下部支持手段により受止支持しつつ該ガラス板を縦姿勢で搬送するガラス板搬送方法であって、前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その表面側が凹状となる湾曲部を有する形態で搬送されることに特徴づけられる。
【0014】
このような方法によれば、ガラス板の下辺部が下部支持手段により受け止められて支持されつつ該ガラス板が縦姿勢で搬送されている間は、搬送方向と直交する断面におけるガラス板の形態が、その表面側が凹状となる湾曲部を有する形態に維持される。このような形態であれば、ガラス板の湾曲部は、搬送方向に沿う直線が集合した面部分として形成されていることになるため、それらの直線を曲げようとする力が作用しても、ガラス板は容易に変形しなくなる。したがって、例えばこのガラス板が裏面側に傾倒するような傾斜姿勢であっても、当該ガラス板の進行方向先端部が上記の直線群を曲げて裏面側に垂れ下がるという事態は生じ難くなる。そのため、当該ガラス板の裏面側を複数のローラ等の支持部材が支持している場合においては、ガラス板は進行方向前側に存する次の支持部材に円滑に乗り上げていくことができる。更に、ガラス板が、このような形状の湾曲部を有する形態に維持されて搬送されると、湾曲部を形成している直線の方向性が搬送方向と一致することになるため、下部支持手段に受け止め支持されているその下辺部に対する自重の悪影響が低減し得ると共に、ガラス板の捩れ等の発生及びこれに起因する割れや損傷等が生じ難くなる。しかも、上記のような方向性を有する湾曲部の存在により、ガラス板が縦姿勢で搬送されるにも拘らず、そのガラス板に座屈が生じるという事態を有効に回避することができる。なお、このような方向性を有する湾曲部は、既述の特許文献1に開示された搬送方法のように水平面内でガラス板を湾曲させた場合には作り出すことができない。
【0015】
この場合、前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その上辺部と下辺部とを結ぶ直線が、鉛直線に対して、その上辺部の方が下辺部よりもその裏面側寄り位置となるように傾斜していることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、縦姿勢で搬送されるガラス板は、表裏方向が適切とされた傾斜状態となるため、下部支持手段により受け止め支持されているガラス板の下辺部に、自重による応力集中等の悪影響が生じ難くなり、上記のような方向性を有する湾曲部が存在していることと相俟って、座屈や捩れ等に起因する割れや損傷等の発生を的確に回避することが可能となる。
【0017】
このような構成とした場合には、縦姿勢のガラス板における下辺部と上辺部とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角度は、50〜85度であることが好ましい。
【0018】
すなわち、上記の傾斜角度が50度未満であると、水平姿勢に近づくことになり、ガラス板の搬送時における進行方向先端部の垂れ下がりによる問題や、スペース効率の悪化という問題を生じさせるおそれが発現する。一方、上記の傾斜角度が85度を超えると、湾曲部に不当な変形を生じさせるおそれや、下辺部に自重による悪影響を及ぼすおそれが発現する。したがって、この傾斜角度が、上記の数値範囲内にあれば、そのようなおそれの発現を抑止することができる。
【0019】
以上の方法において、前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その下部に前記湾曲部を有すると共に、該湾曲部の上方に連なる直線状部を有し、且つ、該直線状部が、鉛直線に対して、その上側の方が下側よりもその裏面側寄り位置となるように傾斜していることが好ましい。ここで、「直線状部」とは、直線または略直線に沿う形状をなす部分を意味する。したがって、ここでいう「直線状部」は、上述の湾曲部よりも曲率が小さく略直線に沿う湾曲部を含む。また、この直線状部の形成領域は、上述の湾曲部の形成領域よりも短いことが好ましい。
【0020】
このようにすれば、搬送時におけるガラス板の下部における当該断面形状が、その表面側が凹状となる湾曲部であって、その湾曲部の上方部分が、該湾曲部に滑らかに連なる傾斜状の直線状部とすることができる。したがって、直線状部から下方に作用する重量は、傾斜に起因して軽量となり、その軽量化された直線状部の重量による押し下げ力は、湾曲部で緩和されて、下辺部に作用することになる。これにより、下部支持手段により受け止め支持されている下辺部に作用する押し下げ力が、適切に軽減され、下辺部に生じ得る応力集中及びこれに起因する損傷等の発生確率を効率良く低減することが可能となる。
【0021】
また、このようにした場合には、縦姿勢のガラス板における前記湾曲部及び前記直線状部の水平面に対する傾斜角度が、その何れの部位においても90度未満であることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、搬送時におけるガラス板の当該断面形状が、下部に湾曲部を有し且つその上方に傾斜した直線状部を有することによる上記の利点を、より一層確実に得ることができる。
【0023】
以上の方法において、前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その上辺部と下辺部とを結ぶ直線から、その何れの部位もその表面側に突出していないことが好ましい。
【0024】
このようにすれば、搬送時におけるガラス板の当該断面形状として、不当な湾曲部ないし突出部が存在しない形状とすることができるため、ガラス板に不当な変形や応力を生じさせることなく該ガラス板を円滑に搬送することが可能となる。
【0025】
以上の方法において、前記縦姿勢のガラス板は、その裏面側が裏部支持手段により受止支持されつつ搬送されることが好ましい。
【0026】
すなわち、例えば、ガラス板の上辺部に、表裏両側から支持力を作用させて、上述の湾曲部等を作り出すことも可能である。しかし、そのようにする場合よりも、ガラス板の裏面側を裏部支持手段により受止支持させる方が、確実且つ適切に上述の湾曲部等を作り出すことができる。そして、ガラス板の裏面は、後工程で素子の形成等が行われないため、清浄度は表面に比して低くてもよく、したがって、そのガラス板の裏面が、裏部支持手段による受け止め支持部位として有効利用されることになる。
【0027】
以上の方法において、前記下部支持手段は、前記縦姿勢のガラス板の搬送形態を直進搬送に規制する複数の下部ローラとすることができる。
【0028】
このようにすれば、複数の下部ローラによって、ガラス板が直進搬送されるため、上述の湾曲部の湾曲方向と搬送方向との関係が最適化され、搬送時にガラス板に捩れ等の不当な変形及びこれに起因する不当な応力が生じなくなり、ガラス板搬送の円滑化が促進される。
【0029】
以上の方法において、前記裏部支持手段は、前記縦姿勢で搬送されているガラス板を一定の形態に維持する複数の裏部ローラとすることができる。
【0030】
このようにすれば、複数の裏部ローラによって、ガラス板が上述の湾曲部を有する形態に常に維持されて搬送されることになるため、換言すれば、複数の裏部ローラが、ガラス板に上述の湾曲部を作り出してその形態に常に維持できるように配列されているため、搬送途中で自重などによりガラス板の形態が変化するという不具合が回避される。なお、上述の下部ローラを駆動力が付与される駆動ローラとした場合には、この裏部ローラを、空転する非駆動ローラとすることができ、これとは逆に、上述の下部ローラを空転する非駆動ローラとした場合には、この裏部ローラを駆動力が付与される駆動ローラとすることができる。
【0031】
以上の方法において、前記縦姿勢のガラス板は、厚みが1.5mm以下で且つ各辺部の長さが1m以上(更には1.5m以上)であることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、近年におけるFPD用等のガラス板の薄肉大型化に的確に対処することが可能となる。
【0033】
また、上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、ガラス板の下辺部を下部支持手段により受止支持しつつ該ガラス板を縦姿勢で搬送するように構成したガラス板搬送装置であって、前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その表面側が凹状となる湾曲部を有する形態で搬送されるように構成されていることに特徴づけられる。
【0034】
この装置の構成は、上述の本発明に係る方法のうち冒頭で述べた方法の構成と実質的に同一であるので、作用効果を含む説明事項は、当該方法について既に述べた説明事項と実質的に同一である。
【発明の効果】
【0035】
以上のように本発明によれば、ガラス板の縦姿勢での搬送時における座屈の発生を抑制できると共に、例えばこのガラス板が裏面側に傾倒するような傾斜姿勢であっても、当該ガラス板の進行方向先端部が裏面側に垂れ下がるという事態が生じ難くなり、且つ、下部支持手段に受け止め支持されているその下辺部に対する自重の悪影響を低減させる余地が発現し、更には、捩れ等の発生及びこれに起因する割れや損傷等を生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の全体構成を示す概略正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図(ガラス板の搬送方向と直交する断面を表した図)である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の作用を説明するための概略説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図(ガラス板の搬送方向と直交する断面を表した図)である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図(ガラス板の搬送方向と直交する断面を表した図)である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るガラス板搬送装置(その搬送方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図(ガラス板の搬送方向と直交する断面を表した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、上辺部及び下辺部の長さが、1500〜1700mm、右辺部及び左辺部の長さが、1700〜1900mm、厚みが、1.0〜1.4mmであって、PDPの製作に使用される略矩形のガラス板(ガラス基板)を搬送対象とする。
【0038】
図1及び図2は、本発明の第1実施形態に係るガラス板搬送装置1(ガラス板搬送方法の実施状況)を例示している。これらの各図に示すように、この搬送装置1は、主たる構成要素として、先行する処理装置から後続の処理装置までの間に一列状に配列され且つガラス板2の下辺部2aを受止支持する下部支持手段としての複数個の下部ローラ3と、先行する処理装置から後続の処理装置までの間に縦横に配列され且つガラス板2の裏面を受止支持する裏部支持手段としての複数個の裏部ローラ4とを備える。
【0039】
詳述すると、下部ローラ3の外周部には、ガラス板2の下辺部2aが嵌り込む断面V形の周溝3aが形成されると共に、この下部ローラ3は、少なくとも外周部が、樹脂またはゴムで形成されている。そして、複数の下部ローラ3は、水平面内で一直線上に沿うように、すなわちガラス板2の下辺部2aをその長手方向に一直線上に沿って直進移動させ得るように配列されている。なお、これらの下部ローラ3は、回転駆動力が付与される駆動ローラであってもよく、また空転する非駆動ローラであってもよい。
【0040】
一方、裏部ローラ4の形状は、円盤状をなし、その外周部が僅かに丸みを帯びていると共に、この裏部ローラ4も、少なくとも外周部が、樹脂またはゴムで形成されている。そして、複数の裏部ローラ4は、ガラス板2を後述する一定の形態(形状)に維持した状態で直進移動させ得るように配列されている。なお、これらの裏部ローラ4も、回転駆動力が付与される駆動ローラであってもよく、また空転する非駆動ローラであってもよいが、上述の下部ローラ3と裏部ローラ4との少なくとも一方は、駆動ローラとする必要性がある。そして、ガラス板2の上辺部2b(上端)は、拘束されることなく開放端とされている。
【0041】
次に、図3に基づいて、下部ローラ3と裏部ローラ4とによって受止支持されて直進搬送されるガラス板2について、その搬送方向(図1の矢印A方向)と直交する断面における形状を説明する。すなわち、ガラス板2は、下辺部2aと上辺部2bとを結ぶ直線Lが、鉛直線に対して、上辺部2bの方が下辺部2aよりも裏面2e側寄り位置となるように傾斜している。詳しくは、ガラス板2における下辺部2aと上辺部2bとを結ぶ直線Lが、水平面Hに対して傾斜している角度αは、50〜85度とされている。
【0042】
このような条件の下で、ガラス板2には、その表面2f側が凹状となる湾曲部2xが形成されている。詳述すると、ガラス板2の縦方向中央部周辺から下部全域に亘って、その表面2f側が凹状となる湾曲部2xが形成され、下辺部2aにおける接線の水平面Hに対する傾斜角度は、上記の直線Lの水平面Hに対する傾斜角度αよりも小さくなっている。そして、下部ローラ3は、上記の下辺部2aにおける接線の水平面Hに対する傾斜に倣うように傾斜していると共に、裏部ローラ4も、ガラス板2の裏面2eの傾斜に倣うように傾斜している。この場合、湾曲部2xにおける曲率がもっとも大きくなる部位は、ガラス板2の縦方向中央よりも下方である下部ローラ3側に位置している。そして、この湾曲部2xは、直線の集合からなる面部分として形成されているが、それらの直線の方向性は、図1に符号Aで示す搬送方向と一致している。
【0043】
更に、この湾曲部2xの上方には、湾曲部2xの上端に滑らかに連なる直線状部2yが形成されており、この直線状部2yは、上側の方が下側よりも裏面2e側寄り位置となるように傾斜している。詳しくは、この直線状部2yの水平面Hに対する傾斜角度βは、60〜88度であって、上記の直線Lの水平面Hに対する傾斜角度αよりも大きくなっている。そして、この直線状部2yの形成領域は、湾曲部2xの形成領域よりも短く、また厳密には、この直線状部2yは、湾曲部2xよりも小さい曲率で表面2f側が凹状となるように略直線に沿う程度に湾曲している。
【0044】
しかも、このガラス板2の全ての部位は、その接線の傾斜角度が、90度未満とされている。加えて、このガラス板2の全ての部位は、上辺部2bと下辺部2aとを結ぶ直線Lから、その表面側に突出していない状態とされている。
【0045】
そして、以上のような断面形状をなすガラス板2は、下部ローラ3及び裏部ローラ4によって図1の矢印A方向に直進搬送されるが、その搬送が行われている間は、これと略同一の断面形状に維持される。このような断面形状であると、以下に示すような利点を得ることができる。
【0046】
すなわち、ガラス板2の湾曲部2xは、搬送方向に沿う直線が集合してなる面で形成されているため、それらの直線を折り曲げようとする力がガラス板2に作用しても、ガラス板2は容易には変形しなくなる。したがって、ガラス板2の進行方向先端部(図1に示すガラス板2の左端部)には、湾曲部2xを形成している直線群を折り曲げて裏面側に垂れ下がろうとする力が生じ難くなるため、搬送時においては、前方(図1の左方向)の裏部ローラ4に円滑に乗り上げていくことができる。この結果、ガラス板2の進行方向先端部が前方の裏部ローラ4に衝突することによるガラス板2の損傷や割れ等の発生確率が激減する。
【0047】
更に、ガラス板2の自重によってその下辺部2aから下部ローラ3に作用する押し付け力は、直線状部2yの傾斜によって小さくなることに加えて、湾曲部2xの存在によりその下辺部2aの接線の傾斜が緩やかになることに伴って更に小さくなる。これにより、ガラス板2の下辺部2aには、不当に大きな押し付け力が作用しなくなると共に、湾曲部2xの方向性が搬送方向Aと一致しているために、捩れ等による変則的な押し付け力も作用しなくなり、ガラス板2の自重によるその下辺部2aへの悪影響を大幅に低減させることができる。
【0048】
しかも、ガラス板2の湾曲部2xは、裏部ローラ4の適切な配列態様によって予め作り出されたものであり、且つ、その湾曲部2xは、搬送が行われている間は裏部ローラ4に押し付けられてその湾曲状態に維持されるものであるため、ガラス板2が座屈により変形を来たすという事態は生じ難くなる。
【0049】
加えて、ガラス板2は、直進搬送されるが故に、上記の形状を継続して維持できることになると共に、搬送方向と異なる方向から何らかの力が作用することを抑止できることになり、捩れの発生及びこれに起因する損傷や割れ等の発生を抑制する上で極めて有利となる。
【0050】
図4は、本発明の第2実施形態に係るガラス板搬送装置1(ガラス板搬送方法の実施状況)を例示している。この第2実施形態に係る搬送装置1が、上述の第1実施形態に係るそれと相違しているところは、ガラス板2の湾曲部2xにおける最も曲率の大きい部位が、ガラス板2の縦方向中央に存在するように、複数の裏部ローラ4を配列した点である。その他の構成は、上述の第1実施形態に係る搬送装置1と同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を使用し、ここではその説明を省略する。このような構成による場合にも、上述の第1実施形態における場合と概ね同一の作用効果が得られる。
【0051】
図5は、本発明の第3実施形態に係るガラス板搬送装置1(ガラス板搬送方法の実施状況)を例示している。この第3実施形態に係る搬送装置1が、上述の第1実施形態に係るそれと相違しているところは、ガラス板2の上部に、表面側が凸状となる湾曲部2zが形成されるように、複数の裏部ローラ4を配列した点である。その他の構成は、上辺部2bと下辺部2aとを結ぶ直線Lに関連する事項及び直線状部2yに関連する事項を除外すれば、上述の第1実施形態に係る搬送装置1と概ね同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を使用し、ここではその説明を省略する。このような構成による場合にも、上述の第1実施形態における場合と概ね同一の作用効果が得られる。
【0052】
図6は、本発明の第4実施形態に係るガラス板搬送装置1(ガラス板搬送方法の実施状況)を例示している。この第3実施形態に係る搬送装置1が、上述の第1実施形態に係るそれと相違しているところは、ガラス板2の湾曲部2xの曲率を大きくすると共にその形成領域を長くして、上辺部2b近傍部位の水平面Hに対する傾斜角度βが90度に限りなく近付くように、複数の裏部ローラ4を配列した点と、ガラス板2の上部の表面2f側への倒れを防止するために、その上辺部2bが嵌り込む複数の上部ローラ5(ローラ自体の構造や配列態様は下部ローラ3と同一)を配列した点とである。その他の構成は、上述の第1実施形態に係る搬送装置1と概ね同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を使用し、ここではその説明を省略する。このような構成による場合にも、上述の第1実施形態における場合と概ね同一の作用効果が得られる。
【0053】
なお、以上の実施形態では、PDPの製作に使用されるガラス板を搬送対象としたが、LCD、FED、OLEDなどに代表されるFPD、或いは太陽電池や2次電池などの製作に使用されるガラス板を搬送対象とする場合にも、同様に本発明を適用することができる。
【0054】
また、以上の実施形態では、下部支持手段及び裏部支持手段の双方をローラで構成したが、このローラと同等の役割を果たし得るものであれば、他の部材を使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ガラス板搬送装置
2 ガラス板
2a ガラス板の下辺部
2b ガラス板の上辺部
2e ガラス板の裏面
2f ガラス板の表面
2x ガラス板の湾曲部
2y ガラス板の直線状部
3 下部ローラ(下部支持手段)
4 裏部ローラ(裏部支持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の下辺部を下部支持手段により受止支持しつつ該ガラス板を縦姿勢で搬送するガラス板搬送方法であって、
前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その表面側が凹状となる湾曲部を有する形態で搬送されることを特徴とするガラス板搬送方法。
【請求項2】
前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その上辺部と下辺部とを結ぶ直線が、鉛直線に対して、その上辺部の方が下辺部よりもその裏面側寄り位置となるように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のガラス板搬送方法。
【請求項3】
前記縦姿勢のガラス板における下辺部と上辺部とを結ぶ直線の水平面に対する傾斜角度が、50〜85度であることを特徴とする請求項2に記載のガラス板搬送方法。
【請求項4】
前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その下部に前記湾曲部を有すると共に、該湾曲部の上方に連なる直線状部を有し、且つ、該直線状部が、鉛直線に対して、その上側の方が下側よりもその裏面側寄り位置となるように傾斜していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラス板搬送方法。
【請求項5】
前記縦姿勢のガラス板における前記湾曲部及び前記直線状部の水平面に対する傾斜角度が、その何れの部位においても90度未満であることを特徴とする請求項4に記載のガラス板搬送方法。
【請求項6】
前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その上辺部と下辺部とを結ぶ直線から、その何れの部位もその表面側に突出していないことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス板搬送方法。
【請求項7】
前記縦姿勢のガラス板は、その裏面側が裏部支持手段により受止支持されつつ搬送されることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス板搬送方法。
【請求項8】
前記縦姿勢のガラス板は、厚みが1.5mm以下で且つ各辺部の長さが1m以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のガラス板搬送方法。
【請求項9】
ガラス板の下辺部を下部支持手段により受止支持しつつ該ガラス板を縦姿勢で搬送するように構成したガラス板搬送装置であって、
前記縦姿勢のガラス板は、搬送方向と直交する断面において、その表面側が凹状となる湾曲部を有する形態で搬送されるように構成されていることを特徴とするガラス板搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−89650(P2012−89650A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234524(P2010−234524)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】