説明

ガラス繊維及びそれを用いたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体

【課題】 外観状態、表面平滑性および機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 ガラス繊維は、集束剤としてウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を含有する。ウレタン樹脂を用いることにより、ガラス繊維の毛羽立ちを防止し、特にガラス繊維を特定長に切断したチョップドストランドの毛羽立ち防止に好適である。特に、集束剤におけるウレタン樹脂の軟化温度が重要であり、その軟化温度は100℃以下であり、50〜90℃であることが好ましい。前記軟化温度が100℃を超えると、ガラス繊維とマトリックス樹脂をアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)とすることによって得られるガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体(GFR−ABS樹脂成形体)中にガラスの未分散であるガラス塊が多く存在し、成形体の表面外観性が劣り好ましくない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を含む集束剤が付与された補強用ガラス繊維、および当該ガラス繊維により強化された樹脂成形体に関するものであり、特に温水洗浄便座の樹脂成形品に好適に用いることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)をガラス繊維で強化させたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(GFR-ABS樹脂)は、ABS樹脂のもつ機械的強度、成形性、表面外観性に加えガラス繊維で強化することによる機械的強度に優れる点から広く使用されている。
【0003】
このGFR−ABS樹脂の成形法としては、ガラス繊維のチョップドストランド(CS)と熱可塑性樹脂とを溶融混練してペレット化し、これを射出成形する方法が一般的であるが、これではガラス繊維が細かく切断されて繊維による強化効果が十分ではない。
【0004】
そこで、射出成形によりガラス繊維をできるだけ細かく切断しないようにガラス繊維と熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたものを直接射出成形機に供給してGFR−ABS樹脂成形品を得る方法が採用されている。この成形法では、特に、成形体の外観の改良と、ガラス繊維が綿状になる所謂毛羽立ち防止を図るため、ガラス繊維の表面に集束剤を付着させている。
【0005】
GFR−ABS樹脂にあっても、他の樹脂を用いた強化繊維樹脂と同様、ガラスと樹脂の界面接着等の影響により機械的強度等に大きく差が出るため、ガラス繊維に付着させている集束剤の選定が極めて重要となってくる。
【0006】
例えば、特許文献1には集束剤として、エポキシ系、ウレタン系およびアクリル系の集束剤で処理されたガラス繊維を熱可塑性樹脂に対して50〜1重量部添加することが提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、ABS樹脂のマトリックス樹脂をガラス繊維で補強するにあたり、ガラス繊維の集束剤として、AS樹脂又はABS樹脂と、ウレタン樹脂とを用いることにより、繊維補強樹脂体の機械的強度が大きくガラス繊維の毛羽立ちを少なくすることが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、集束剤として、900以上のエポキシ当量を有するエ
ポキシ樹脂、AS樹脂、シランカップリング剤を用いることで、ガラス繊維の集束性に優れ、成形体が色相、機械的強度に優れることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−316832号公報
【特許文献2】特公平5−4349号公報
【特許文献3】特開平7−33484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記文献に記載された集束剤を使用した束状のガラス繊維をABS樹脂とドライブレンドして、射出成形機により直接成形することにより得られた成形体では、束状になったガラス繊維が解繊しきれずにガラス繊維の未分散が生じ、ガラス繊維の未分散部分が表面に露出して表面外観性および表面平滑性が劣る問題を有していた。そのため、成形体シール部の表面などにガラス繊維の未分散が発生すると、上記問題により発生する成形体表面の凹凸で他部材との接合部に隙間が発生して水漏れ等が生じ易くその改良が望まれている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、束状のガラス繊維をABS樹脂とドライブレンドして射出成形機により直接成形するに際して、束状になったガラス繊維の解繊性を向上させてガラス繊維の未分散を抑制し、成形体として機械的強度に優れ、かつ表面外観性に優れ、さらには表面平滑性に優れた成形体を得ることができるガラス繊維、及びそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は下記の要旨を有することを特徴とするものである。
(1) ウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を含む集束剤が付与されたガラス繊維であって、前記ウレタン樹脂の軟化温度が100℃以下であることを特徴とするガラス繊維。
(2) 前記集束剤におけるウレタン樹脂100質量部に対し、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が30〜300質量部である(1)に記載のガラス繊維。
(3) 前記集束剤におけるウレタン樹脂100質量部に対し、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が40〜120質量部である(2)に記載のガラス繊維。(4) 前記アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が非架橋である(1)〜(3)のいずれか1つに記載のガラス繊維。
(5) 前記ガラス繊維100質量部に対し、前記集束剤が固形分で、0.5〜2.0質量部である(1)〜(4)のいずれか1つに記載のガラス繊維。
(6) (1)〜(5)に記載のガラス繊維と、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂とを含むガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂であって、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂100質量部に対し、前記ガラス繊維が、5〜250質量部となるようにドライブレンドして、射出成形機により直接成形することにより得られたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体。(7) (1)〜(5)に記載のガラス繊維と、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂とを含むガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂であって、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂100質量部に対し、前記ガラス繊維が、5〜250質量部、さらに金属石鹸、脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコールから選ばれた添加剤が1〜10質量部となるようにドライブレンドして、射出成形機により直接成形することにより得られたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体。
【0012】
本発明のガラス繊維は、集束剤としてウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を含有する。
前記ウレタン樹脂を用いることにより、ガラス繊維の毛羽立ちを防止し、特にガラス繊維を特定長に切断したチョップドストランドの毛羽立ち防止に好適である。
【0013】
集束剤におけるウレタン樹脂の軟化温度が重要であり、その軟化温度は100℃以下であり、50〜90℃であることが好ましい。前記軟化温度が100℃を超えると、ガラス繊維とマトリックス樹脂をアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)とすることによって得られるガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体(GFR−ABS樹脂成形体)中に束状ガラス繊維の未分散であるガラス塊が多く存在し、成形体の表面外観性が劣り好ましくない。特に、前記ガラス繊維を特定長に切断したチョップドストランドとABS樹脂とをドライブレンドして直接射出成形機により成形するいわゆる直接成形をする場合は、前記未分散が顕著になり表面外観性に劣るため好ましくない。
【0014】
本発明者の知見によれば、ウレタン樹脂の軟化温度を100℃以下にすることでアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂の成形温度である180〜240℃の加熱に対し、束状ガラス繊維の集束剤のウレタン樹脂がホッパー投入直後から軟化し始め、溶融混錬される過程で束状ガラス繊維が解繊され、前記未分散が大きく減少するものと推定される。
【0015】
前記ウレタン樹脂は、軟化温度は100℃以下であれば特に限定はなく、その組成としては、本発明において、ポリウレタン樹脂は、高分子ポリオール、有機ジイソシアネートおよび必要により鎖伸長剤および/または架橋剤とから誘導されてなる従来公知のものが使用できる。また、ウレタン樹脂は、通常、エマルジョン、ディスパージョン等の水溶液、水分散液として使用する。
なお、ここでいう軟化温度とは、集束剤を皮膜化し、得られた皮膜をフローテスターに測定し、流動開始温度を軟化温度とするものである。
【0016】
上記高分子ポリオールの具体例としては、例えばポリエステルポリオール(例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなど);ポリエーテルポリオール[ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のEO および/またはプロピレンオキシド(以下PO 略記)付加物など]などが挙げられる。
【0017】
有機ジイソシアネートの具体例としては、例えば2 ,4 ’−もしくは4 ,4 ’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI )、2 ,4 −もしくは2 ,6−トリレンジイソシアネート(TDI )、4 ,4 ’−ジベンジルジイソシアネート、1 ,3 −もしくは1 ,4 −フェニレンジイソシアネート、1 ,5 −ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI )、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート(IPDI )、4 ,4 ’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などの脂環式ジイソシアネート;およびこれらの2 種以上の混合物を挙げることができる。これらのうち好ましいものは、MDI 、TDI 、HDI 、H12MDI およびIPDI である。
【0018】
必要により用いられる鎖伸長剤および/または架橋剤としては、数平均分子量が60〜500未満の活性水素含有化合物、例えば多価アルコール[エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3 −ブチレングリコール、1,4 −ブタンジオール、1,6 −ヘキサンジオール、3 −メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1 ,4 −ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1 ,4 −ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2 ,2 −ビス(4 ,4 ’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン、α−メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、ジペンタエリスリトール、グルコース、フルクトース、ショ糖などの4〜8価のアルコールなど]、多価フェノ―ル類(ピロガロール、カテコール、ヒドロキノンなどの多価フェノール;ビスフェノールA 、ビスフェノールF 、ビスフェノールS などのビスフェノール類など)、水、ポリアミン[脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)、脂環族ポリアミン(イソホロンジアミン、4 ,4 ’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなど)、芳香族ポリアミン(4 ,4 ’−ジアミノジフェニルメタンなど)、芳香脂環族ポリアミン(キシリレンジアミンなど)、ヒドラジンもしくはその誘導体など]などが挙げられる。
【0019】
本発明は、ガラス繊維の集束剤としてアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)を用いることにより、GFR−ABS樹脂成形体の機械的強度が向上する。前記集束剤におけるAS樹脂は、ウレタン樹脂の固形分100質量部に対し、30質量部以上300質量部以下が好ましい。前記値が30質量部未満であると、成形体の機械的強度が劣り好ましくなく、300質量部を超えると、成形体中のガラス繊維の分散性が劣り好ましくない。集束剤のAS樹脂を、ウレタン樹脂の固形分100質量部に対しほぼ同量の40〜120重量部、より好ましくは100質量部とすれば、これを用いて得られたGFR−ABS樹脂成形体の表面平滑性が向上する。
【0020】
集束剤に使用するAS樹脂としては、特に限定はしないが、非架橋のAS樹脂であることが好ましい。ここでいう非架橋樹脂とは、例えばN−メチロールアクリルアミド等のアルデヒド縮合性化合物をAS樹脂中に存在させることにより直鎖のポリマーどうしを脱水縮合反応させて架橋させるような架橋樹脂ではないものをいう。
架橋のAS樹脂を用いた場合、架橋したAS樹脂がガラス繊維表面を覆い集束性を強くするので、結果的にGFR−ABS樹脂成形体中にガラスの未分散が生じやすくなり、成形体の表面外観性が劣る場合が出てくる。
非架橋のAS樹脂であれば集束性が適度で、GFR−ABS樹脂成形体中にガラスの未分散が生じにくく、成形体の表面外観性が優れたものになる。
【0021】
本発明で使用する集束剤の成分として、ガラス繊維の表面処理に用いられるシランカップリング剤を含有させることが好ましい。好ましい具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。尚、これらカップリング剤は2種類以上を用いることもできる。シランカップリング剤としては、上記のうち、モノアミノシラン又はジアミノシラを用いることが好ましく、特に、色調の点から、上記モノアミノシランが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の集束剤の成分として、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤として、ノニオン系の界面活性剤、例えば、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドコポリマー、合成アルコール系、天然アルコール系、脂肪酸エステル系、ジスチレン化フェノール系などが使用できる。
【0023】
また、本発明の集束剤は、上記の成分以外に、潤滑剤として脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩などを含有するのが好ましい。脂肪酸アミドとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリエチレンポリアミンと、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸との脱水縮合物が使用できる。また、第4級アンモニウム塩としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどアルキルトリメチルアンモニウム塩などを併用できる。さらに、本発明の集束剤は、塩化リチウムやヨウ化カリウムなどの無機塩や、アンモニウムクロライド型やアンモニウムエトサルフェート型などの4級アンモニウム塩に代表される帯電防止剤を含有することができる。
【0024】
本発明で使用する集束剤は、上記ウレタン樹脂、AS樹脂、必要に応じて、シラン系カップリング剤、及び必要に応じて、その他フィルムフォーマーを、例えば水性媒体中で混和し、次いで、好ましくは、界面活性剤、潤滑剤、帯電防止剤等の助剤を混合することにより容易に得られる。
【0025】
本発明では、上記した特定の組成を有する集束剤によりガラス繊維束を処理する場合、集束剤は、ブッシングから紡糸された直後のガラスフィラメントよりなるガラス繊維束に対して適用することが必要である。
【0026】
本発明の集束剤で処理するガラス繊維束を形成するガラスフィラメントの平均繊維径が好ましくは6〜23μm、特に10〜16μmであることがより好ましい。また、ガラス繊維束は、一繊維束中に好ましくは100〜4000本、特に好ましくは800〜3000本のガラスフィラメントを含むことが好ましい。
【0027】
本発明で使用する集束剤のガラス繊維束に対する付着量としては、ガラス繊維100質量部に対し、固形分換算(強熱減量)で好ましくは0.5〜2質量部である。前記値が0.5質量部未満であると成形体の機械的強度が劣り、2質量部を超えるとそれ以上の機械的強度が得られず経済的に好ましくない。そのため特に0.7〜1.5質量部が好適である。
【0028】
本発明では、集束剤で処理されたガラス繊維束は、湿潤状態のまま、ドラム等に巻き取り、その後巻き取られた繊維束を引出し、好ましくは1.5〜13mmに切断する。或いは、ガラス繊維束をドラムに巻き取らずにそのまま切断することにより湿潤状態のチョップドストランドが得られる。次いで、湿潤状態のチョップドストランドは乾燥される。かかる乾燥の温度や時間は任意ではあるが、余分な水分が除去されるように、好ましくは、120〜180℃の温度で、好ましくは、10秒〜10分間にて乾燥される。
【0029】
上記のようにして製造され切断されたガラス繊維束を溶融した熱可塑性樹脂で含浸し、繊維強化成形材料または熱可塑性樹脂成形体が製造される。熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂が、得られる成形体の表面平滑性、機械的強度の効果が最も発現し易く、次いでAS樹脂が好適に採用される。
【0030】
さらに、上記繊維強化成形材料または熱可塑性樹脂成形体は、上記ガラス繊維及び上記熱可塑性樹脂の他に、さらに金属石鹸、脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコールから選ばれた添加剤が含有されてもよい。前記添加剤は本発明の効果を阻害しない程度であれば、特に含有量は限定しないが熱可塑性樹脂100質量部に対し、1〜10質量部であることが機械的強度を損なわず、成形時のガラス繊維と熱可塑性樹脂の分散性向上および成形樹脂流動時の摩擦低減の効果があるため好適に採用される。
【0031】
ABS樹脂などの熱可塑性樹脂の成形材料、または成形体中のガラス含有率は、樹脂100質量部に対し、5〜250質量部が好ましく、更には15〜100質量部が好ましい。成形材料のガラス含有率が250質量部を超えると、熱可塑性樹脂の含浸が不充分となりやすく、マトリックス樹脂との混合後、直接射出成形の際、ガラス繊維の分散性が劣る。一方、成形材料のガラス含有率が5質量部未満では、現状のガラス繊維強化熱可塑性樹脂製品のガラス含有率から考えて、ガラス繊維による強度アップが見込めず実用性が少ない。
【0032】
熱可塑性樹脂として、ABS樹脂を使用してGFR−ABS樹脂成形体を製造する場合、例えば、スクリュー押出機より溶融されたABS樹脂を可塑化させつつ、これに対して上記チョップドストランドを供給して溶融混練させる。溶融混練物を線状の強化ABS樹脂体に成形し、次いで、これをペレタイザー等で切断することでGFR−ABS樹脂成形材料を一旦作成した後GFR−ABS樹脂成形材料を射出成形機に投入して成形体を得る。この方法以外に、上記チョップドストランドとABS樹脂をドライブレンドして射出成形機に投入して成形品を形成するか、上記チョップドストランドとABS樹脂をブレンドせずに直接それぞれを分離して射出成形機に投入して成形体を得る直接射出成形の方法が挙げられる。本発明は、チョップドストランドとABS樹脂をドライブレンドして射出成形する方法や本来ガラス繊維の分散性に劣るとされている直接射出成形においても、成形体中のガラス繊維の分散性に極めて優れた成形体を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0033】
本発明のガラス繊維は、これを使用することにより、表面外観性、および機械的強度に優れる成形体が得られる。すなわち、後記実施例、比較例に示されるように、従来技術における特定のウレタンおよびアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を用いたガラス繊維を使用した成形体に比べ、ガラス繊維の未分散が少なく成形体の表面外観性に優れるもので、しかも、機械的強度に優れる成形体が得られる。
また、ウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂の成分比を適度に調整することにより、表面平滑性に優れた成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定して解釈されるべきでないことはもちろんである。
実施例1〜5、比較例1〜3について、チョップドストランドにおける集束剤を下記内容の原料を表1に示す量にて作成した以外は、下記のマトリックス樹脂を用いて下記条件にて成形材料及び成形体を得、機械的強度および外観状態の評価を行った。
【0035】
(集束剤成分)
・ AS樹脂A:非架橋タイプ アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エステル 三成分系
・ AS樹脂B:架橋タイプ アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エステル 三成分系 (官能基としてN−メチーロルアクリルアミド含有)
・ ウレタン樹脂A 軟化点70℃:ポリオール成分:ポリエステルポリオール )、イソシアネート成分:(イソフォロンジイソシアネート)
・ ウレタン樹脂B 軟化点110℃:ポリオール成分: ポリエステルポリオール )、イソシアネート成分:(イソフォロンジイソシアネート)
・アミノシランカップリング剤:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン
・ 潤滑材:カルナバワックス
【0036】
(チョップドストランド)
ガラスフィラメント平均径13μm、2400本集束、
集束剤付着量(強熱減量、表1に記載)、切断長さ3mm
【0037】
(マトリックス樹脂)
ABS樹脂(射出成形用難燃グレード MFR60)
成形用材料;マトリックス樹脂含有量100質量部、ガラス繊維含有量33質量部
【0038】
(射出成形条件)
型締め:850t 、シリンダー温度:210℃、金型:65℃、回転数:55rpm、背圧:30MPa
【0039】
実施例及び比較例で得られた成形体の物性を「表1」に示した。なお、「表1」中の、ウレタン樹脂の軟化温度、機械的強度評価のための引張り強度、シャルピー衝撃強度、及び外観状態の評価方法は、以下に示すとおりである。
・ウレタン樹脂の軟化温度の評価:ウレタンエマルジョンの皮膜を作成し、島津製作所製フローテスターCFT−500Dにて流動開始温度を測定した。
・引張り強度(MPa):ISO 527−1,2に準じて測定した。
・シャルピー衝撃強度(kg/mm): ISO 179−1,2に準じて測定した。
・外観状態:0.5mの成形体表面に現れるガラス繊維の未分散箇所の個数を目視で確認した。
「表1」中の結果は、ガラス繊維の未分散箇所の個数が3ヶ以下の場合を◎、4〜6ヶの場合を○、6ヶ以上の場合を×として評価した。
・ 表面平滑状態:成形体表面に現れるガラス繊維の未分散箇所の個数を目視で確認した。
「表1」中の結果は、ガラス繊維の未分散箇所がゼロの場合を◎、ガラス繊維の未分散箇所が若干見られた場合を△、ガラス繊維の未分散箇所がハッキリ見られた場合を×として評価した。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るガラス繊維は、ガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体用のガラス繊維として利用できる。また本発明に係るガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体は、便座などの樹脂成形品に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂及びアクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂を含む集束剤が付与されたガラス繊維であって、前記ウレタン樹脂の軟化温度が100℃以下であることを特徴とするガラス繊維。
【請求項2】
前記集束剤におけるウレタン樹脂100質量部に対し、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が30〜300質量部である請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項3】
前記集束剤におけるウレタン樹脂100質量部に対し、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が40〜120重量部である請求項2に記載のガラス繊維。
【請求項4】
前記アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂が非架橋である請求項1〜3のいずれか1つに記載のガラス繊維。
【請求項5】
前記ガラス繊維100質量部に対し、前記集束剤が固形分で、0.5〜2.0質量部である請求項1〜4のいずれか1つに記載のガラス繊維。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のガラス繊維と、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂とを含むガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂であって、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂100質量部に対し、前記ガラス繊維が、5〜250質量部となるようにドライブレンドして、射出成形機により直接成形することにより得られたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜5に記載のガラス繊維と、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂とを含むガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂であって、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂100質量部に対し、前記ガラス繊維が、5〜250質量部、さらに金属石鹸、脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコールから選ばれた添加剤が1〜10質量部となるようにドライブレンドして、射出成形機により直接成形することにより得られたガラス繊維強化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂成形体。

【公開番号】特開2006−160553(P2006−160553A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353183(P2004−353183)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【出願人】(301068491)株式会社パンウォシュレット (10)
【Fターム(参考)】