説明

キチン・アスタキサンチン分離生産方法

【課題】
キチンの製造工程中のカニ、エビの殻から、キチンの生産量に影響を与えることなく、工業的に効率よく高純度のアスタキサンチンを製造する方法を提供する。
【解決手段】
カニ、エビの殻からキチンを製造する工程において実施する塩酸浸漬によりカルシウムを除去した後、中和処理をしないで水洗いしたカニ、エビ殻に最終濃度が70%を超えないようにエタノールを添加する、この溶液を加温しつつ数時間カニ、エビ殻を浸漬してアスタキサンチンを抽出させる、抽出液とカニ、エビ殻は分離し、カニ、エビ殻は再びキチン製造工程に戻し、水酸化ナトリウム溶液に浸漬する除タンパク処理工程を経てキチンが製造される、アスタキサンチンを含む抽出液に食用油を添加した後、減圧処理によりエタノールを除くとアスタキサンチンは食用油に展溶するので、食用油層を回収してアスタキサンチン含有油を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カニ、エビ等の甲殻類からキチンとアスタキサンチンを生産する方法に関し、特に、従来のキチン生産工程に組み込んで、アスタキサンチンを効率的に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、カニ、エビ等の甲殻類、サケ等の魚類、ヘマトコッカス等の藻類、赤色酵母ファフィア等の酵母類等、天然に広く分布する赤色色素である。そして、近年では、抗酸化作用が非常に高いため、健康食品や化粧品の分野で注目される素材となりつつある。
【0003】
一般に市販されているアスタキサンチンのほとんどは、ヘマトコッカス藻、オキアミ、ファフィア酵母、アスタキサンチン産生細菌から生産されている。
【0004】
一方、エビ、カニ殻を原料とするアスタキサンチンを製造する技術も存在する。たとえば、特開平9−301950号公報には、エビ、カニ殻を塩酸に浸漬してカルシウムを除去した後、殻を水酸化ナトリウム溶液に浸漬して中和処理するとともにエビ、カニ殻中のタンパク質を除去し、78℃±5℃の醸造用アルコール80%+水20%の溶媒中に浸漬し、アスタキサンチンを分離抽出する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、上記公報の技術では、消防法で危険物第4類に規定されている揮発性の高いエタノールを使用するため、上記の温度条件および濃度条件で安全に使用するには、防爆設備の整った施設や装置、貯蔵設備が必要となるため、実用には至っていない。
【0006】
また、同公報では、原料であるエビ、カニ殻を塩酸に浸漬してカルシウム除去した後、濃度5%の水酸化ナトリウム溶液に4〜5時間浸漬して、タンパク質を分離除去した残渣からキチン質とアスタキサンチンを分離抽出する実施例が記載されている。
【0007】
本願発明者等が、実際に追試をおこなったところ、エビ、カニ殻中のアスタキサンチンはタンパク質と結合した状態で存在しているため、アスタキサンチンの多くは、水酸化ナトリウム溶液中に、タンパク質と一緒に溶出してしまうことが確認された。すなわち、残渣からアスタキサンチンを得るのは生産効率が極めて悪いという問題点があった。
【0008】
一方、カニ、エビ等の甲殻類に含まれるアスタキサンチンの含量は、100g当たり0.4mg〜7mg程度であり、アスタキサンチンを100g当たり1000〜4000mg含有するヘマトコッカス藻と比べると非常に少ない。従って、カニ、エビ等の甲殻類の殻を原料としてアスタキサンチンを経済的に生産するためには、施設設備コストを低減させる必要がある。
【0009】
技術的には、カニ、エビ等の甲殻類の殻から、脱カルシウム処理前にアスタキサンチンを抽出することも可能である。しかしながら、脱カルシウム処理前のカニ、エビ等の殻は、脱カルシウム処理後の殻と比較して固い。このため、あらかじめ細かく裁断する工程を必要とし、また、裁断粉はその後の取り扱いが不便であるという問題も生じる。加えて、裁断粉は、脱カルシウム処理後の殻より体積が大きく、抽出には多量の溶媒が必要となるので、経済的にも作業性においても劣るという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−301950号
【特許文献2】特開2010−43052号
【特許文献3】特表2006−516293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、カニ、エビ等の甲殻類の殻を原料とし、キチンを得るとともに、経済的かつ効率的にアスタキサンチンを生産することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、甲殻類の殻からキチンを生産するとともにアスタキサンチンを分離する方法であって、酸により脱カルシウム処理した殻を水洗する水洗工程と、水洗工程を経た殻に、溶液中のアルコール濃度が50%以上70%以下の範囲となるようエタノールを添加し、40℃〜60℃の温度で浸漬してアスタキサンチンを溶出させる溶出工程と、溶出工程で得られた溶出液に食用油を添加し、減圧処理によりエタノールを除去してアスタキサンチンを食用油に展溶させてアスタキサンチン含有油を得る粗アスタキサンチン生産工程と、溶出工程で残った殻をアルカリにより脱タンパク処理し粗キチンを得る粗キチン生産工程と、を含んだことを特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項1にかかる発明は、キチン生産工程で用いられる脱カルシウム処理とアルカリによる中和および脱タンパク処理との間において、減容化された殻からアスタキサンチンを分離する。このとき、アルコール濃度も浸漬温度も高くないので、従来のキチン生産工程から逸脱することなく、キチンを得られるとともに、設備投資も少なくアスタキサンチンも得ることが可能となる。
【0014】
脱カルシウム処理に用いる酸としては、たとえば塩酸を挙げることができる。食用油としては、たとえば、中鎖脂肪酸トリグリセライドを挙げることができる。また、本願にいう食用油には食用油脂も含まれるものとする。なお、アスタキサンチン含有油は、適宜、その用途(食品添加物、健康食品、化粧品など)や顧客要望に応じて精製すればよい。また、粗キチンも、適宜、その用途や顧客要望に応じて、従来用いられている工程、たとえば、酸化処理を施すなどして精製すればよい。なお、本発明では、赤色であるアスタキサンチンを脱タンパク処理前に分離するので、キチンの精製工程においては、脱色素処理が不要もしくは簡便化でき、この点で、キチンの品質向上を実現できる技術であるともいえる。
【0015】
溶出工程における浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば、2時間〜5時間とすることができる。
また、アルカリの例としては水酸化ナトリウムを挙げることができる。
【0016】
請求項2に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、請求項1に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法において、前記溶出工程で、溶液中のアルコール濃度が50%以上60%未満の範囲となるようエタノールを添加することを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項2にかかる発明は、消防法に規定される濃度未満のエタノールを扱うので、生産施設の設備投資を抑え、既存のキチン生産設備を利用してアスタキサンチンも生産可能となる。
【0018】
請求項3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、請求項1または2に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法において、前記粗アスタキサンチン生産工程で得られたアスタキサンチン含有油に、水または食塩水を加えて混合した後、水層を除去することにより、アスタキサンチン含有油に残存するタンパク質量を低下させる不純物除去工程を含んだことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項3にかかる発明は、アスタキサンチン含有油の品質を高めることが可能となる。
【0020】
請求項4に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法において、前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に塩を添加してタンパク質を沈殿除去する塩析工程を含み、前記粗アスタキサンチン生産工程では、塩析工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項4にかかる発明は、アスタキサンチン含有油の品質を高めることが可能となる。なお、塩析に用いる塩は、硫酸アンモニウムや塩化ナトリウムなどを挙げることができる。
【0022】
請求項5に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法において、前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に食品添加が可能なタンパク質凝集作用性物質を添加した後、遠心分離またはろ過をおこなう除タンパク工程を含み、前記粗アスタキサンチン生産工程では、除タンパク工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項5にかかる発明は、アスタキサンチン含有油の品質を高めることが可能となる。なお、タンパク質凝集作用性物質の例としては、カテキンやタンニンなどのポリフェノールやキトサンを挙げることができる。
【0024】
請求項6に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法は、請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法において、前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に阻止分子量1000以上の限外ろ過膜による除タンパク工程を含み、前記粗アスタキサンチン生産工程では、除タンパク工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項6にかかる発明は、ペプチドレベルの分子も除去し、アスタキサンチン含有油の品質を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、カニ、エビ等の甲殻類の殻を原料とし、キチン製造工程の一部に導入してキチンの生産量に影響を及ぼすことなく着色の少ない高品質のキチンが得られるとともに、経済的かつ効率的にアスタキサンチンを生産することが可能な技術を提供することができる(請求項1)。また、請求項2の発明によれば、消防法において危険物に該当しない濃度60重量%未満の条件において操作するため、施設設備コストが少なくてすむ。また、本発明(請求項3〜6)によれば、食物アレルギーの要因となる残存タンパク質を低減させることができ、アレルゲンタンパクの少ない高品質のアスタキサンチンを提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の甲殻類の殻を原料としてキチンとアスタキサンチンとを製造する方法は、以下のとおりである。ここでは、カニ殻を用いる場合について説明するが、エビ殻であっても同様である。
【0028】
(1)
まず、カニ殻を希塩酸に浸漬させて殻中のカルシウムを除去する。この工程により重量が約3割減少する。なお、原料のカニ殻はカニ水揚量の多い本県(鳥取県)においては、水産加工業者から簡便に調達可能である。
(2)
次に、殻を水洗し、適宜圧搾して水分含量を低下させる。殻を水洗することにより、後で添加するアルカリによる中和発熱が生じず、タンパク質の変性も防止できる。
【0029】
(3:アスタキサンチン抽出)
脱カルシウムカニ殻に、アルコールの最終濃度が50重量%〜70重量%、好ましくは50重量%〜60重量%となるようにエタノールを添加し、40℃〜60℃で2時間〜5時間浸漬することにより、溶液側にアスタキサンチンを抽出する。使用するエタノール製剤は、エタノールを主成分とした市販品を用いることができ、たとえば、フォルテクターネオ88(日本化薬フードテクノ株式会社製)、エスミールWKII−88(信和アルコール産業株式会社製)等を挙げることができる。
【0030】
なお、エタノール濃度が40重量%以下であるとアスタキサンチンがほとんど溶出しないため、工業的な生産効率を考慮して濃度下限は50重量%としている。一方で、エタノールの濃度上限は、市販のエタノール製剤濃度を考慮して70重量%としているが、60重量%以上であると法規制による取扱(たとえば防爆設備)が必要となるため、好適な濃度上限は60重量%未満である。
また、浸漬温度は抽出効率を考慮して下限を40℃とし、また、上限は沸点が78.3℃であり揮発性を考慮して60℃としている。
また、浸漬時間は、エタノール濃度および浸漬温度により適宜調整する。5時間以上としてもよい。
【0031】
(4:アスタキサンチン生産処理1)
必要に応じて、アスタキサンチン抽出液に(a)塩析処理を施す、または、(b)タンパク質凝集剤の添加処理を施す、または、(c)限外ろ過処理を施すことにより、溶存タンパク質を低減させる。
【0032】
(5:アスタキサンチン生産処理2)
上記(3)のアスタキサンチン抽出液または上記(4)の処理後の液に、食用油を添加し、これを真空釜やロータリーエバポレータ等により減圧濃縮することによりエタノールを蒸発させ、アスタキサンチンを食用油に展溶させたアスタキサンチン含有油を得る。使用する油は、市販品を用いれば良く、たとえば、ココナードMT(花王株式会社製)等を挙げることができる。
(6:アスタキサンチン生産処理3)
必要に応じて、分液ロートを用いてアスタキサンチン含有油に水または食塩水を加え、混合および撹拌して洗浄し、分離した水層を除去することにより、残存タンパク質量を低減させる。
その後は、ユーザの要求仕様に応じて適宜アスタキサンチンを精製ないし高純度化をおこなう。
【0033】
(7:キチン生産処理)
上記(3)の処理を経たカニ殻を適宜水洗および脱水し、水酸化ナトリウムを添加して脱タンパク処理をおこなう。その後は、従来のキチン生産工程と同様の処理(たとえば酸化処理)をしてユーザの要求仕様に応じてキチンの精製ないし高純度化をおこなう。
【0034】
次に、アスタキサンチンの生産および精製を中心とした実施例を説明する。
<実施例1>
ベニズワイガニのカニ殻を塩酸に浸漬して脱カルシウム処理したカニ殻(水分70重量%)10kgに、エタノール製剤(エタノール濃度83.2重量%)20kgを添加し、60℃で4時間抽出して、アスタキサンチン抽出液を得た。
【0035】
上記抽出液600mlに食用油脂(ココナードMT)100mlを添加し、ロータリーエバポレータで減圧濃縮してエタノールを除去し、遠心分離をおこなって、アスタキサンチン含有油を得た。
【0036】
<比較例1>
引用文献1に記載された従来技術に沿って、比較実験を次のようにおこなった。
ベニズワイガニのカニ殻を塩酸に浸漬して脱カルシウム処理した後、濃度5%の水酸化ナトリウム溶液に4〜5時間浸漬して、タンパク質を分離除去したカニ殻(水分65重量%)5kgに、エタノール製剤(エタノール濃度83.2重量%)10kgを添加し、60℃で4時間抽出して、アスタキサンチン抽出液を得た。
【0037】
上記抽出液600mlに食用油脂(ココナードMT)100mlを添加し、ロータリーエバポレータで減圧濃縮してエタノールを除去し、遠心分離をおこなって、アスタキサンチン含有油を得た。
【0038】
実施例1と比較例1のアスタキサンチン含有油中のアスタキサンチン含有量をHPLC法により測定した。具体的には、アスタキサンチン含有油各900mgをメスフラスコ(10ml)に採取し、メタノールを加えて混合し、15分間超音波処理した。これをメタノールで定容した後、0.45μmのフィルターでろ過して試料溶液を調製した。この試料溶液を次に示すHPLC法で分析した。
【0039】
分離カラムには、イナートシルODS2(4.6mmID×250mm:ジーエルサイエンス株式会社製)を用いた。カラム温度40℃として、溶離液に、アセトニトリル/水(90/10)を使用し、流速1ml/分で、紫外可視吸光度検出器により波長478nmで検出し測定した。含有油100g中のアスタキサンチン濃度を表1に示す。
【0040】
【表1】

表から明らかなように、本発明によれば、アスタキサンチン濃度は従来技術に比して約50倍高く、効率的な生産方法であることが確認できた。
【0041】
<実施例2>
次に、アスタキサンチン含有油中のタンパク質の除去効果を検討した。
実施例1のアスタキサンチン含有油100mlを分液ロートに採取し、水100mlを加えてよく混合した後、静置して得られた水層を除くことにより、アスタキサンチン含有油中を洗浄した。表2に、洗浄前(実施例1)と洗浄後(実施例2)のタンパク質濃度を示す。測定はケルダール法によった。
【0042】
【表2】

表から明らかなように、本発明によれば、タンパク質濃度はもとより低く(実施例1)、簡単な洗浄をおこなうだけで、更に1/3にタンパク質濃度を低減できることが確認できた。
【0043】
キチンの生産工程中にアスタキサンチンを抽出する工程は、脱カルシウム前におこなうことも可能であるため、その生産効率を検討した。
<実施例3>
ベニズワイガニのカニ殻を塩酸に浸漬して脱カルシウム処理したカニ殻(水分70重量%)100gに、エタノール製剤(エタノール濃度83.2重量%)185gを添加して、カニ殻全体が完全浸かる状態で、50℃で3時間抽出した後、ろ過してアスタキサンチン抽出液145gを得た。
【0044】
<比較例2>
脱カルシウム処理する前のベニズワイガニのカニ殻100gを細かく裁断し、これエタノール製剤(エタノール濃度83.2重量%)185gを添加した。容積が大きく、カニ殻全体がひたる状態でなかったため、60重量%に調製したエタノール製剤を更に139gを添加し、50℃で3時間抽出した後、ろ過してアスタキサンチン抽出液304gを得た。なお、エタノール濃度83.2重量%換算で、エタノール製剤の使用量は合計285gとなる。
【0045】
実施例3と比較例2のアスタキサンチン抽出液中のタンパク質の含有量をケルダール法により測定した結果を表3に示す。ここでは、カニ殻100gからアスタキサンチン抽出液中に溶出したタンパク質の総量をしめす。
【表3】

表から明らかなように、溶液中のタンパク質、すなわち、不純物は、実施例3の方が少なく、本発明の方がアスタキサンチンの品質が高くなることがわかった。加えて、比較例2の方法では、裁断工程が必要であること、また、使用するエタノール製剤の量が多くなること、を考慮すれば、本発明の方が、優れた生産効率を有しているといえる。
【0046】
次に、エタノール濃度の違いによるアスタキサンチンの抽出効率の相違について検討した。
<実施例4>
ベニズワイガニのカニ殻を塩酸に浸漬して脱カルシウム処理したカニ殻(水分70重量%)100gに、最終濃度が60重量%になるように調製したエタノール溶液(エタノール濃度83.2重量%)200gを添加して、カニ殻全体が完全に浸かる状態で、50℃で3時間抽出した後、ろ過してアスタキサンチン抽出液を得た。
【0047】
<実施例5>
ベニズワイガニのカニ殻を塩酸に浸漬して脱カルシウム処理したカニ殻(水分70重量%)100gに、最終濃度が40重量%になるように調製したエタノール溶液(エタノール濃度54.0重量%)200gを添加して、カニ殻全体が完全に浸かる状態で、50℃で3時間抽出した後、ろ過してアスタキサンチン抽出液を得た。
【0048】
実施例4と実施例5のアスタキサンチン抽出液におけるアスタキサンチンの目安量を吸光度法により測定した。480nmの吸光度を測定し、実施例4の吸光度100とした場合、実施例5の吸光度は1.1と極めて低かった。すなわち、エタノール濃度が40重量%では、ほとんどアスタキサンチンが抽出されないことが確認できた。これを考慮して本願ではエタノール濃度を50%以上とした。
【0049】
以上、本発明によれば、カニ、エビ等の甲殻類の殻を原料とし、キチン製造工程の一部に簡便な工程を挿入するだけで、キチンの生産量に影響を及ぼすことなく着色の少ない高品質のキチンが得られるとともに、経済的かつ効率的にアスタキサンチンも生産可能となる。換言すれば、カニ、エビ等の甲殻類の殻からは、キチンが製造されており、キチン製造工程にアスタキサンチン抽出工程を組み入れる本方法は、カニ、エビ等の甲殻類の殻からアスタキサンチンのみを製造するよりも、経済的にも効率的にも優れた方法であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によって得られるアスタキサンチン含有油は、生体への安全性の高い原材料のみを使用して得ることができ、また、甲殻類を原料とした場合に問題となる残存タンパク質も少ないため、食品、機能性食品、香粧品、医薬品などの幅広い用途に用いること可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲殻類の殻からキチンを生産するとともにアスタキサンチンを分離する方法であって、
酸により脱カルシウム処理した殻を水洗する水洗工程と、
水洗工程を経た殻に、溶液中のアルコール濃度が50%以上70%以下の範囲となるようエタノールを添加し、40℃〜60℃の温度で浸漬してアスタキサンチンを溶出させる溶出工程と、
溶出工程で得られた溶出液に食用油を添加し、減圧処理によりエタノールを除去してアスタキサンチンを食用油に展溶させてアスタキサンチン含有油を得る粗アスタキサンチン生産工程と、
溶出工程で残った殻をアルカリにより脱タンパク処理し粗キチンを得る粗キチン生産工程と、
を含んだことを特徴とするキチン・アスタキサンチン分離生産方法。
【請求項2】
前記溶出工程において、溶液中のアルコール濃度が50%以上60%未満の範囲となるようエタノールを添加することを特徴とする請求項1に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法。
【請求項3】
前記粗アスタキサンチン生産工程で得られたアスタキサンチン含有油に、水または食塩水を加えて混合した後、水層を除去することにより、アスタキサンチン含有油に残存するタンパク質量を低下させる不純物除去工程を含んだことを特徴とする請求項1または2に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法。
【請求項4】
前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に塩を添加してタンパク質を沈殿除去する塩析工程を含み、
前記粗アスタキサンチン生産工程では、塩析工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法。
【請求項5】
前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に食品添加が可能なタンパク質凝集作用性物質を添加した後、遠心分離またはろ過をおこなう除タンパク工程を含み、
前記粗アスタキサンチン生産工程では、除タンパク工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法。
【請求項6】
前記溶出工程と粗アスタキサンチン生産工程との間に、前記溶出工程で得られた溶出液に阻止分子量1000以上の限外ろ過膜による除タンパク工程を含み、
前記粗アスタキサンチン生産工程では、除タンパク工程を経た溶出液に食用油を添加することを特徴とする請求項1、2または3に記載のキチン・アスタキサンチン分離生産方法。



【公開番号】特開2012−206987(P2012−206987A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74438(P2011−74438)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(302052127)有限会社カンダ技工 (6)
【出願人】(500022683)八幡物産株式会社 (4)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】