説明

キッチンの排水口

【課題】ヌメリなどの汚染物質が付着することを効果的に抑制することができるキッチンの排水口を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、排水口部材1の表面に塗装する。


上記のアクリル樹脂組成物の塗膜2によって排水口の表面を高い滑水性に形成することができ、表面に付着する水や油を転がらせて表面から短時間に除去することができる。この結果、排水口の表面に水分や油分が残ることを防いで雑菌の繁殖を抑制し、ヌメリが発生することを効果的に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチンのシンクなどの排水口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キッチンのシンクなどに設けられる排水口は、食材物質や油分などが多く流れ込む部分であり、有機物の汚れが非常に付着し易く、表面にヌメリが生じたり、悪臭が発生したりすることが多い。
【0003】
排水口に汚れが付着してヌメリが発生するメカニズムは次の通りである。まず、食器洗いの水など生活排水中に含まれる油分などが排水口に付着して蓄積し、次にこの油分などを栄養分として雑菌が繁殖する。そしてこの菌は排水口の表面に付着する力を強めることと自身の保護を目的として酸を主成分とする保護層を排水口に形成するものであり、この保護層がヌメリとなるものである。このヌメリやヌメリから発生する悪臭が、排水口に対して不潔なイメージを与えているものである。
【0004】
このような排水口のヌメリを除去するために、従来から、洗剤を含有させたスポンジやタワシで排水口をこすったり、次亜塩素酸ナトリウムなどを含むアルカリ洗剤(例えば花王(株)製「キッチンハイター」)を用いてヌメリを分解したりしているが、排水口は上記のように不潔なイメージがあってあまり触れたくない箇所であるので、排水口に長期的にヌメリの発生を抑制できるようにすることが望まれている。
【0005】
排水口にヌメリが発生することを抑制する方法の一つとして、排水口を形成する基材に銀などの抗菌剤を含有させたり、抗菌剤を含有する塗膜を排水口の表面に形成したりすることによって、排水口に雑菌が繁殖することを抑制することが考えられる。しかし、常に水が流れる排水口では抗菌剤が徐々に溶出してしまい、殺菌効果を長期間維持することが難しいという問題があり、また排水口に油分などが蓄積すると抗菌剤の殺菌効果が薄れて菌の繁殖を防止することができないという問題もあり、ヌメリを実用的に抑制することは難しい。
【0006】
そこで、排水口の表面に防汚性の塗膜を形成することによって、排水口に汚染物質が付着することを防ぐことによって、ヌメリの発生を抑制することが検討されている。
【0007】
例えば特許文献1では、特定のシロキサンポリマー、特定の水酸基含有アクリル樹脂、ポリイソシアネート架橋剤を含有する塗料組成物の塗膜を形成することによって、防汚性を付与するようにしている。しかしこのものでは、汚染物質が付着しても拭くことによって容易に除去することができるが、汚染物質の付着そのものを防ぐようにしたものではなく、ヌメリの発生を抑制する効果を期待することはできない。
【0008】
また特許文献2では、無機酸化物被膜からなる親水性被膜あるいは、シリコーン被膜からなる撥水性被膜を形成することによって、防汚性を得るようにしている。しかしこのものでは、表面を親水性や撥水性にしているものであり、表面に付着した水や油は転がり難く、水や油を短時間に表面から自然に除去するようなことはできない。このため、表面に水分や油分が常に残って雑菌が繁殖するおそれがあり、ヌメリの発生を抑制する効果を期待することはできない。
【0009】
さらに特許文献3では、シリコーン含有被膜などで撥水性被膜や滑水性被膜を形成することによって、防汚性を得るようにしている。このものでは、表面を滑水性にすることによって、表面に付着した水滴や油滴は転がり易くなって、水分や油分を表面から自然に除去することが可能であるが、特許文献3に開示されている組成のシリコーン含有被膜では、滑水性が十分ではなく、ヌメリの発生を抑制する効果も高く期待することはできない。
【特許文献1】特開2002−293969号公報
【特許文献2】特開2001−173056号公報
【特許文献3】特開2001−275866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、特許文献1〜3のような防汚性の塗膜を形成することによっては、排水口にヌメリなどの汚染物質が付着することを十分に防ぐことはできないものである。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ヌメリなどの汚染物質が付着することを効果的に抑制することができるキッチンの排水口を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るキッチンの排水口は、式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、排水口部材の表面に塗装して成ることを特徴とするものである。
【0013】
【化1】

【0014】
この発明によれば、上記のアクリル樹脂組成物の塗膜によって排水口の表面を高い滑水性に形成することができるものであり、表面に付着する水や油を転がらせて表面から短時間に除去することができ、排水口の表面に水分や油分が残ることを防いで雑菌の繁殖を抑制し、ヌメリが発生することを効果的に抑制することができるものである。
【0015】
また本発明は、上記のアクリル樹脂は次の式(2)〜(5)から少なくとも一つ選ばれるフッ素含有基を有することを特徴とするものである。
【0016】
【化2】

【0017】
この発明によれば、アクリル樹脂に含有されるフッ素含有基によって滑水性の他に撥水性も付与することができ、水や油を水滴や油滴にして転がせ易くすることができるものであり、水や油を表面から除去する効果を高く得ることができるものである。
【0018】
また本発明は、上記のアクリル樹脂組成物中に、ジメチルシリコーンオイルを含有することを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、ジメチルシリコーンオイルの含有によって、滑水性を向上させることができるものである。
【0020】
また本発明は、上記のアクリル樹脂組成物の塗装塗膜は、水の前進接触角と後退接触角の差が0〜20°の範囲内であることを特徴とするものである。
【0021】
この発明によれば、排水口の表面の転落角が小さい場合でも、高い滑水性を得ることができるものである。
【0022】
また本発明は、上記のアクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてイソシアネート樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0023】
この発明によれば、低温でアクリル樹脂を硬化させることができると共に耐薬品性や耐水性に優れた塗装塗膜を形成することができるものである。
【0024】
また本発明は、上記のアクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてアミノ樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0025】
この発明によれば、低温でアクリル樹脂を硬化させることができると共に耐薬品性や耐水性に優れた塗装塗膜を形成することができるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アクリル樹脂組成物の塗膜によって排水口の表面を高い滑水性に形成することができるものであり、表面に付着する水や油を転がらせて表面から短時間に除去することができ、排水口の表面に水分や油分が残ることを防いで雑菌の繁殖を抑制し、ヌメリが発生することを効果的に抑制することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0028】
本発明のアクリル樹脂組成物において用いられるアクリル樹脂は、樹脂の分子骨格に上記の式(1)で表されるジメチルシリコン基が側鎖として結合した分子構造を有するものである。このジメチルシリコン基は撥水基として作用するものであり、撥水基としてはパーフロロオレフィンなどのフッ素含有基や脂肪族炭化水素基なども使用できるが、本発明では上記のようなジメチルシリコン基が特に好ましい。ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂の塗膜に対する水の接触角は100°程度で、フッ素含有基を有するものよりも低いが、ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂の塗膜は水の滑り性が高い表面を形成することができるものである。
【0029】
ジメチルシリコン基の長さは、長いほうが滑水性の良好な塗膜を形成することができるが、長すぎると塗膜が柔らかくなる傾向がある。逆にジメチルシリコン基の長さが短いと、塗膜の硬度は高くなるが、滑水性は悪くなる。このため、ジメチルシリコン基の長さは式(1)においてn=1〜400のものが好ましい。また、アクリル樹脂中のジメチルシリコン基の含有率が高いと、滑水性の良好な塗膜を形成することができるが、塗膜が柔らかくなる傾向がある。逆にジメチルシリコン基の含有率が低いと、塗膜の硬度は高くなるが、滑水性は悪くなる。このため、アクリル樹脂(側鎖含む)中のジメチルシリコン基の含有率は、1〜70質量%であることが必要である。
【0030】
アクリル樹脂は各種のアクリルモノマーを重合して調製することができるものであり、アクリルモノマーは次の一般式(6)で表すことができる。
【0031】
CH=CR−COOR (6)
式(6)のアクリルモノマーは、Rが水素原子及び/又はメチル基、Rが置換もしくは非置換の炭素数1〜9の一価炭化水素基である、(メタ)アクリル酸エステルである。
【0032】
はジメチルシリコン基を必須とし、併用する基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、ter−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基;2−ヒドロキシエチル基等のヒドロキシ炭化水素基などを挙げることができ、これらから1種以上を選択することができる。
【0033】
アクリル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が20000〜500000のものが好適に用いられる。より好ましくは50000〜300000であり、更に好ましくは150000〜250000である。アクリル樹脂の分子量が高すぎると、溶剤や架橋剤との相溶性が悪くなる傾向があり、アクリル樹脂の分子量が低すぎると、得られる塗膜の物性が低下する傾向がある。またアクリル樹脂の水酸基価は40〜200mgKOH/gの範囲が好ましく、更に好ましくは60〜150mgKOH/gの範囲である。水酸基価が低すぎると、得られる塗膜の架橋密度が低下して、硬度が低い塗膜になる傾向がある。逆に水酸基価が高すぎると、硬い塗膜が得られるが、アクリル樹脂と溶剤との相溶性が低下し、樹脂安定性が劣ることになる傾向がある。
【0034】
アクリル樹脂組成物のアクリル樹脂を硬化させる架橋剤としては、イソシアネート樹脂やアミノ樹脂を用いるのが好ましい。イソシアネート樹脂やアミノ樹脂を架橋剤として用いることによって、低温で硬化させることができ、また耐薬品性や耐水性に優れた塗膜を形成することができるものである。
【0035】
イソシアネート樹脂としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート、リジントリイソシアネートなどの基本モノマーをプレポリマー化したものを使用することができ、架橋構造としてはイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット体などの構造のものを使用することができる。アクリル樹脂に対するイソシアネート樹脂の含有比率は、アクリル樹脂の水酸基価に対するイソシアネート樹脂のNCO基の当量比が0.5〜1.5の範囲になるように設定するのが好ましい。当量比がこの範囲より低くなると、反応性が乏しくなって塗膜の硬度が低くなり、傷や汚れが付着し易くなる。逆に当量比がこの範囲を超えて高くなると、遊離のイソシアネート基に水垢などが結合して、汚れが付着し易くなったり、滑水性が低下したりするおそれがある。
【0036】
またアミノ樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などを挙げることができるが、なかでもメラミン樹脂が好適に用いられる。メラミン樹脂はブチル化メラミン樹脂とメチル化メラミン樹脂に大別され、さらに骨格の構造により完全アルキル型、イミノ型、メチロール型、メチロールイミノ型に大別されるが、いずれのものであってもよい。アミノ樹脂の添加量は、アクリル樹脂(ジメチルシリコン基の側鎖含む)の固形分に対して10〜50質量%の範囲が好ましく、15〜40質量%の範囲がより好ましい。アミノ樹脂の添加量が多くなると緻密な塗膜を形成することができるが、この範囲を超えて多くなると塗膜は硬くて脆く、また密着性が悪くなる傾向がある。逆にこの範囲より少なくなると、メラミン樹脂組成物の反応性が乏しくなって、目的とする塗膜を形成できなくなるおそれがある。
【0037】
上記のジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂、イソシアネート樹脂やアミノ樹脂などの架橋剤、溶剤、さらに後述の成分などを配合してアクリル樹脂組成物を調製することができるものであるが、さらに抗菌剤や防黴剤などを配合することもできる。
【0038】
抗菌剤としては、特に限定されるものではないが、銀、銅、亜鉛などの抗菌性金属及びその化合物、これらの担持物(担持体にはシリカ、ゼオライト、アパタイト、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛などがある)、四級アンモニウム塩、ニトリル誘導体、イミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、インチアゾール誘導体、トリアジン誘導体、スルホン誘導体、フェノール誘導体などを好適に用いることができる。
【0039】
防黴剤としては、特に限定されるものではないが、テプコナゾール、2−ピリジンチオール−1−オキサイド亜鉛、2,4,4´−トリクロロ−2´−ヒドロキシジフェニルエーテル、10−10´オキシビスフェノキシアルシン、銅、銀、亜鉛、銅化合物、銀化合物、亜鉛化合物、銅担持物、銀担持物、亜鉛担持物などを好適に用いることができる。
【0040】
そしてキッチンのシンクなどの排水口を構成する部材の表面に、上記のアクリル樹脂組成物を塗布して硬化させることによって、排水口部材の表面にアクリル樹脂の塗膜を形成し、滑水性が高い表面を有する排水口を形成することができるものである。このように排水口部材の表面にアクリル樹脂組成物を塗装するにあたって、塗膜の密着性を高めるために、排水口部材を表面処理したり、排水口部材にプライマーを塗布したりしておいてもよい。表面処理は、ステンレスで形成される排水口部材に対しては、クロメート処理、リン酸亜鉛処理などの化学的処理で行なうことができる。またプライマーとしては、エポキシ樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、無機塗料などを用いることができるものであり、無機塗料としてはテトラエトキシシランなどの珪素誘導体及びその加水分解縮合物、チタンアルコキシドなどのチタン誘導体、ジルコニアアルコキシドなどのジルコニア誘導体及びその加水分解縮合物などが一般的に用いられ、リチウムシリケートやカリウムシリケートなどの水ガラスを用いることもできる。
【0041】
ここで、既述の特許文献1,2に記載されているように表面を撥水性にすると、図1(b)のように水Wを弾いて水滴ができるが、転がらないので水Wの乾きが遅く、水中に含まれる汚染成分が表面に蓄積するおそれがある。また各特許文献1,2に記載されているように表面を親水性にすると、図1(c)に示すように、表面の水Wは、濡れ広がって転がらないので、水Wが完全に乾くまでには相当の時間が必要であり、また水Wが塗れ広がるために水に含まれる汚染成分が蓄積し易い。このように、表面を撥水性や親水性にする場合、水の乾きが遅く、水に含まれる汚染成分が蓄積して付着し、この汚染成分によって雑菌が繁殖するため、ヌメリの発生を抑制することはできない。
【0042】
一方、本発明のように、排水口部材1の表面にアクリル樹脂組成物による塗膜2を形成して、排水口を滑水性の高い表面に形成すると、図1(a)に示すように、排水口部材1の表面の水Wは、緩やかな傾斜でも転がって移動し、排水口の表面から水を除去することができ、排水口の表面に水が殆ど残らないようにすることができる。特に排水口の表面は、垂直面かあるいは、水を流すための勾配を有する傾斜面に形成されており、滑水性の高い塗膜2の表面の水はこの垂直な面や傾斜面に沿って容易に転がって短時間に排出されるものである。従って、排水口の表面から比較的短時間で水を除去して、表面に水が残らないようにすることができるものであり、短時間で排水口の表面を乾燥させることができるものである。このことは油分についても同様であり、排水口部材1の表面の油分は転がって流れ、排水口の表面に油分が殆ど残らないようにすることができる。このため、排水口の表面に水に含まれる汚染成分が堆積することを防ぐことができ、また雑菌の餌となる油分も残らないので、雑菌の繁殖を抑制することができるものであり、雑菌によって生成されるヌメリの発生を抑制することができ、排水口にヌメリが付着することを効果的に抑制することができるものである。
【0043】
上記のような表面の高い滑水性は、アクリル樹脂の骨格に結合したジメチルシリコン基が排水口部材1の表面に塗膜2を形成する際に最表面に移行し、表面にジメチルシリコン基が傾斜配向することによって得られるものである。このジメチルシリコン基はアクリル樹脂の骨格に化学的に結合しているので、磨耗や熱水などが繰り返して作用しても容易に脱落せず、いつまでも高い滑水性を維持することができるものである。
【0044】
図2(a)はシンク3の排水口Aの一例を示すものであって、シンク3の底面に排水枡4が凹設してあり、排水枡4の底面に排水筒5が設けてある。排水筒5は排水配管に接続されるものであり、この排水筒5の上部は排水枡4の底面から排水枡4内に突出させてある。また排水筒5の排水枡4内に突出する部分には下面が開口するトラップ椀6が被せてあり、トラップ椀6の下端縁には水が流れる切欠部8が形成してある。排水枡4の上面の開口には網カゴが取り付けられる。この排水口Aでは、排水枡4、排水筒5、トラップ椀6を排水口部材1として排水口Aを形成しているものであり、排水口Aの排水枡4内では排水筒5の上端を喫水線Lとしてその下側には常に水が滞留している。そしてこの図2(a)のタイプの排水口Aでは、本発明の滑水性の塗膜2は、水に浸漬していない喫水線Lより上側において排水枡4の表面、トラップ椀6の表面に形成して、ヌメリの発生を防止するようにするのが好ましい。喫水線Lより下側において滑水性の塗膜2を形成しても、この部分は水に常時浸漬しているので、上記のような効果を期待することはできず、またこの部分にはヌメリが発生しても水中にあって悪臭の問題は生じないので、本発明の滑水性の塗膜2を形成する必要はない。
【0045】
図2(b)はシンク3の排水口Aの他の一例を示すものであって、シンク3の底面に排水枡4が凹設してあり、排水枡4の底面に排水管7が接続してある。排水管7はトラップを介して排水配管に接続されるものであり、排水枡4の上面の開口には網カゴが取り付けられる。この排水口Aでは、排水枡4と排水管7を排水口部材1として排水口Aを形成しているものであり、そしてこの図2(b)のタイプの排水口Aでは、排水枡4内には水が滞留しないので、排水枡4の内周面から底面にかけて全表面に本発明の滑水性の塗膜2を形成して、ヌメリの発生を防止するようにするのが好ましい。
【0046】
ここで、上記のように塗膜2の表面が高い滑水性を示すためには、塗膜2の表面に対する水の前進・後退接触角の差が0〜20°の範囲内あることが好ましい。一般に傾斜する斜面に水滴を滴下すると、図3に示すように水滴Wは表面が湾曲した形状となって滑り落ち、進行方向の前側の水滴の接触角が前進角(前進接触角)θa、後側の水滴の接触角が後退角(後退接触角)θrとなる。そして水滴が転落を始める傾斜角度である転落角αが小さいほど、滑水性は良好である。このように転落角αを小さくするためには、前進接触角θaと後退接触角θrの差が0〜20°の範囲内にあることが好ましい。通常、傾斜面にある水滴は一定の重力の影響を受けているので、前進の接触角θaのほうが後退の接触角θrより大きい。後退接触角θrが小さいということは、水滴と塗膜2の接触界面で付着力があるということであり、後退接触角θrがなるべく大きく、後退接触角θrが前進接触角θaと近いほど、水滴は滑落し易く、転落角αが小さくなって滑水性が高くなる。このために、前進接触角θaと後退接触角θrの差が0〜20°の範囲内にあれば、高い滑水性を示すものであり、前進接触角θaと後退接触角θrの差が20°を超える場合には、表面の水や油を短時間に転がらせて排出することが難しくなる。
【0047】
本発明において、ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂には、その樹脂骨格中にフッ素含有基を含有させることができる。フッ素含有基としては、上記の式(2)〜(5)のものが挙げられるものであり、アクリル樹脂の合成時にアクリル樹脂骨格に結合させることができる。このようにアクリル樹脂にフッ素含有基を含有させることによって、塗膜2の表面に滑水性の他に撥水性を付与することができるものであり、塗膜2の表面の水をはじいて、水滴の一部が表面に残留しにくい状態で転がして排出することができ、排水口の表面から短時間に除去することができるものである。そしてフッ素含有基はアクリル樹脂に結合しているので、撥水性の耐久性を高く得ることができるものである。
【0048】
フッ素含有基の含有量は、アクリル樹脂(側鎖を含む)中、1〜70質量%の範囲に調整するのが好ましい。フッ素含有基の量が多くなればなるほど、得られる塗膜2の撥水性能の持続性は向上していき、また熱水などの耐熱性も向上する。特に台所のシンクでは熱水などが頻繁に作用するので、耐熱性に優れるようにフッ素含有基の含有量を調整することが好ましいが、フッ素含有基の含有量が多くなると、アクリル樹脂の溶剤や他の樹脂との相溶性は低下していく傾向になる。このため、フッ素含有基の含有量は上記のように1〜70質量%の範囲に調整するのが好ましい。
【0049】
本発明において、上記のアクリル樹脂組成物には、ジメチルシリコーンオイルを含有することができる。このようにジメチルシリコーンオイルを含有することによって、表層にシリコン基をより緻密に配列することができ、塗膜2の滑水性を一層向上することができるものである。ジメチルシリコーンオイルには、他の化合物と化学反応をする反応基を有する反応性のものと、反応基が封鎖された非反応性のものがあり、いずれも好適に使用することができるが、反応性のジメチルシリコーンオイルのほうが、塗膜2から容易に脱落せず、効果を持続させることができるためにより好ましい。ジメチルシリコーンオイルの基本構造としては、次に示すものがあり、反応性の有機官能基の結合構造の違いから、両末端型、片末端型、側鎖型、側鎖両末端型に大別される。
【0050】
【化3】

【0051】
Rの有機官能基としては、エポキシ基、カルビノール基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、ポリエーテル基、メルカプト基、フェノール基などを挙げることができるが、水酸基やカルビノール基やシラノール基などが、架橋剤のイソシアネート樹脂と反応するためにより好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0053】
(実施例1)
表1の配合量に従って、式(1)で表されるジメチルシリコン基とフッ素含有基を含有するアクリル樹脂(富士化成工業株式会社製「ZX−022H」:水酸基価120、固形分46質量%)と、水酸基含有ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「170DX」と、溶剤として酢酸ブチルを配合した溶液を調製した。次にこの溶液に架橋剤のイソシアネート樹脂としてヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体(住化バイエルウレタン株式会社製「スミジュールHT」:NCO含量13質量%、固形分75質量%)を添加し、アクリル樹脂組成物を調製した。
【0054】
このアクリル樹脂組成物を、キッチン用シンクのステンレス製排水口(SUS304製の図2(b)に示すタイプのもの、以下も同じ)の表面にエアースプレーによって乾燥厚みが3μmになるように塗布し、80℃×30分の条件で乾燥・硬化させることによって、塗膜を形成した。
【0055】
(実施例2)
ジメチルシリコーンオイルの配合量を実施例1より少なくした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0056】
(実施例3)
ジメチルシリコーンオイルの配合量を実施例1より多くした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0057】
(実施例4)
架橋剤としてイソシアネート樹脂の代わりにブチル化メラミン樹脂(三井化学株式会社製「ユーバン225」:固形分60質量%)用いた表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に乾燥厚みが3μmになるように塗布し、150℃×30分の条件で乾燥・硬化させることによって、塗膜を形成した。
【0058】
(実施例5)
ブチル化メラミン樹脂の配合量を実施例4より多くした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に実施例4と同様にして塗装した。
【0059】
(比較例1)
キッチン用シンクのステンレス製の排水口の表面に塗装を施すことなくそのまま用いた。
【0060】
(比較例2)
キッチン用シンクのポリプロピレン製の排水口の表面に塗装を施すことなくそのまま用いた。
【0061】
(比較例3)
表1の配合量に従って、ジメチルシリコン基を含有しないアクリル樹脂(三菱レイヨン株式会社製アクリルポリオール「LR−199」:水酸基価80、固形分55質量%)に、希釈剤としてキシレンを添加し、さらにイソシアネート樹脂としてヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体(上記の「スミジュールHT」)を添加し、アクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0062】
(比較例4)
ジメチルシリコン基の代わりにパーフロロオレフィン基を結合したフッ素アクリル樹脂塗料(フロロテクノロジー株式会社製「5030」:固形分6質量%)を、ステンレス製排水口の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0063】
(比較例5)
市販のフッ素樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「フルオネートK−704」:固形分60質量%)に、架橋剤としてイソシアネート樹脂(上記の「スミジュールHT」)と、溶剤として酢酸ブチルとキシレンを表1の配合量で配合し、撥水・撥油性フッ素樹脂組成物を調製した。そしてこの撥水・撥油性フッ素樹脂組成物をステンレス製排水口の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0064】
上記の実施例1〜5及び比較例1〜5の排水口について、前進接触角、後退接触角、耐汚染性、ヌメリの付着性を試験して評価した。試験方法は以下の通りであり、結果を表1に示した。
【0065】
(1)前進・後退接触角の測定
協和界面科学株式会社製の動的接触角測定装置を用いて、前進接触角と後退接触角を測定した。またこの前進接触角と後退接触角の値から前進・後退接触角の差を求めた。尚、この試験には、150×170mmのSUS304の板に上記の実施例1〜5や比較例3〜5の樹脂組成物を塗装したもの、あるいはこのSUS304板に塗装しないもの(比較例1)、PP板に塗装しないもの(比較例2)を用いた。
【0066】
(2)耐汚染性
栄養分を加えた水1リットルに、長期間使用されているシンクの排水口から採取したヌメリ液を1ミリリットル滴下して、ヌメリ溶液を調製した。そして温度30℃、湿度90%RHの雰囲気下で、このヌメリ溶液を各実施例及び各比較例の排水口に流して回収し、さらに流して回収するというように繰り返して、1週間循環させた。そしてこのヌメリ溶液を循環させる前の排水口と、1週間循環させた後の排水口の塗膜の色差ΔEを色差計で測定し、次の判定基準で評価した。
【0067】
○: 試験前後の塗膜の外観の色差ΔEが1未満。
【0068】
△: 試験前後の塗膜の外観の色差ΔEが1以上、2未満。
【0069】
×: 試験前後の塗膜の外観の色差ΔEが2以上。
【0070】
(3)ヌメリの付着性
上記のようにヌメリ溶液を1週間循環させた後に、排水口の表面を指触することによって、ヌメリ状態を観察し、次の判定基準で評価した。
【0071】
○: 指触でヌメリ感がなく、ヌメリが発生していない。
【0072】
△: 指触で部分的にヌメリ感があり、ヌメリが発生している。
【0073】
×: 指触で表面にヌメリ感があり、ヌメリが発生して外観も汚い。
【0074】
【表1】

【0075】
表1にみられるように、ジメチルシリコン基を結合したアクリル樹脂の塗膜を形成した各実施例の排水口は、汚れの付着が少なく、ヌメリの発生も抑制できることができるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(a)は滑水性の表面での水の挙動を説明する概略図、(b)は撥水性の表面での水の挙動を説明する概略図、(c)は親水性の表面での水の挙動を説明する概略図である。
【図2】(a)(b)はそれぞれ排水口の断面図である。
【図3】前進接触角、後退接触角、転落角を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 排水口部材
2 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、排水口部材の表面に塗装して成ることを特徴とする、滑水性を有するキッチンの排水口。
【化1】

【請求項2】
アクリル樹脂は次の式(2)〜(5)から少なくとも一つ選ばれるフッ素含有基を有することを特徴とする請求項1に記載のキッチンの排水口。
【化2】

【請求項3】
アクリル樹脂組成物中に、ジメチルシリコーンオイルを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のキッチンの排水口。
【請求項4】
アクリル樹脂組成物の塗装塗膜は、水の前進接触角と後退接触角の差が0〜20°の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のキッチンの排水口。
【請求項5】
アクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてイソシアネート樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のキッチンの排水口。
【請求項6】
アクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてアミノ樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキッチンの排水口。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127384(P2009−127384A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306598(P2007−306598)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】