説明

キノコの加工保存方法

【課題】 キノコを熱加工から保管まで、酸素による酸化劣化を防止し、かつ、所望する好ましい食品として維持させることによって、安全かつ食品としての風味を保持する方法を提供する。
【解決手段】キノコを過熱水蒸気により熱加工後、密封容器内で脱酸素剤を用いて酸素を除去し、酸素濃度0.1%以下で保存するキノコの加工保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコの加工および保管、流通段階まで低酸素濃度下に維持することにより、酸化劣化の少ないキノコの加工保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品が、その調理加工過程および保存の過程で酸素によって劣化変質することは良く知られていることであり、例えば、虫、カビ更には好気性菌による腐敗劣化や過酸化物等の有害物質が生成したり、変色や異臭が出る場合や、風味や食味が低下するなどが挙げられる。キノコも同様であり、加熱加工後、経日的に、変色、軟化、腐敗等の現象が生じる。加熱加工時にも、空気中の酸素によって、変色や風味の低下、基質の軟化が起こる。レトルトパウチによって微生物に起因する腐敗劣化を抑制する方法も検討されているが、基質が変化し、風味や食味が大幅に低下する。加熱加工後、真空包装することも採用されているが、保存中に容器を通して酸素が侵入して、品質の劣化が生じているのが実状である。
【0003】
加工時に食品への酸素の悪影響を除外する試みもなされており、例えば、過熱水蒸気によって低酸素状態で食品を蒸煮、焼き、乾燥、殺菌、解凍等の加工処理をする方法が提案されている。(特許文献1)しかし、加工後すぐに食すれば酸素による劣化の影響を受けないが、商品として市場で取り扱われる場合、保管や流通で長期間経過した後、消費者の食として供される。過熱水蒸気処理は還元状態での食品加工であり、極めて酸化され易い状態である為、その後の空気接触による酸素による劣化は著しいという欠点がある。
【特許文献1】特開平11−89722
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、キノコを熱加工から保管まで、酸素による酸化劣化を防止し、かつ、所望する好ましい食品として維持させることによって、安全かつ食品としての風味を保持する方法を提供することにある。すなわち、本発明は、キノコを過熱水蒸気により熱加工後、密封容器内で脱酸素剤を用いて酸素を除去し、酸素濃度0.1%以下で保存することを特徴とするキノコの加工保存方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明で対象とするキノコは、マツタケ、ボルチーニ、アワビタケ、マイタケ、エノキタケ、ヒラタケ、ナラタケ、クロタケ、ホウキタケ、シイタケ、ナメコ、シメジなどの食用キノコであるが、特に、マツタケやポルチーニ等の野生の子実体には、寄生虫と共生する細菌によって子実体の基質が劣化しやすい為に、本発明の方法の効果が顕著に見られる。
本発明で用いる過熱水蒸気は、常圧下で飽和水蒸気を加熱したものであり、酸素を含む空気の存在がほとんど排除されている。
【0006】
本発明において、キノコの過熱水蒸気処理は、ガス、重油、電力を熱源とする飽和水蒸気の発生設備を用いることができる。特に、蓄熱槽を用いる加熱水蒸気発生設備は、安価な深夜電力を利用できるので好ましい。過熱水蒸気の加工条件は、温度100〜300℃、時間1〜40分で処理するが、特に、温度160〜200℃、時間2〜30分がより好ましい。
【0007】
上記の如く、キノコは過熱水蒸気の限定された条件で加工後、ガスバリヤー性フィルムによる包装袋等の密封容器内で、脱酸素剤を用いて酸素を除去し、酸素濃度0.1%以下で保存することによって、目的を達成することが出来る。脱酸素剤は、自力反応型、水分依存型いずれでも良いが、好ましくは24時間以内に設定できる脱酸素剤を選定する。脱酸素が遅い場合は、酸素による変質を来たし易い。
【0008】
密閉容器としては、通常、ガスガリヤー性フィルムの包装袋が用いられるが、キノコをトレイに収納後包装しても、直接、袋に収納密封しても良い。フィルムとしては、通常の食品包装材料として用いられるもので特に制限は無く、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の包装材料及び、これら2種以上のラミネートフィルムが基材フィルムとしてもちいられ、ガスバリヤー性を確保する為に、ポリ塩化ビニリデンやバリヤーナイロン、PVAやEVOHなどをコーテイング又はラミネートしたフィルム等が好適に用いられる。必要に応じ、窒素ガスを封入しても良い。
【0009】
ところで、キノコは基質が非常に繊細で、変質し易く、虫や菌に侵され易い。この為、過熱水蒸気加工前に除菌洗浄しておく事が望ましい。過熱水蒸気加工前の除菌洗浄方法としては、まず、キノコを水洗後、殺菌剤に浸漬処理する。殺菌剤としては、次亜塩素酸ソーダ、オゾン水、電解水、過酢酸、希塩酸電解水、次亜塩素酸ソーダの酸活性水等が用いられるが、酸化殺菌力、毒性、装置腐食性、臭気等の観点から、次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水が最も好ましい。殺菌剤の殺菌条件としては、50〜200ppm濃度の次亜塩素酸ソーダ水が、10〜30℃の水温で、30秒〜5分間浸漬する方法が用いられる。次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水では10〜50ppmの低濃度次亜塩素酸ソーダ水を用いることができる。
また、殺菌剤処理時に、超音波洗浄を加える事は、除菌効果を高める上で望ましい。
【0010】
更に、本発明の方法で、キノコを過熱水蒸気で加熱加工後の脱酸素保存時の温度条件も低温に設定しておくことによって、保存期間を延ばすことができる。温度条件は15℃〜−2℃、好ましくは、5℃〜−2℃の条件が良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キノコの保存中における虫害、腐敗、酸化劣化を防ぎ、本来の風味を残した加工キノコの長期保存が可能となり、品質の高い食材を提供する事ができ、食品産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最良の実施形態を例示する。まず、キノコを流水で洗浄後、超音波洗浄機内で、10〜200ppmの次亜塩素酸ソーダを含み酢酸でpH5.5付近に調整した次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水に3〜5分浸漬させ、再び、水洗する。水切り後、過熱水蒸気にて、180〜200℃で1〜10分加熱処理する。氷水や冷凍冷気で急速に放冷後、脱酸素剤と共に、ガスバリヤー性フィルム袋に封入し、5℃で保存する。この処理と保存によって、3ヶ月後も、一般生菌数は10〜10,000個/gの風味良好な加工キノコを得ることが出来る。本発明と同様の加工保存過程において、一般の加熱調理機を用い空気共存下で加熱処理した場合には、加熱処理後のキノコは酸化されて風味が変化し、脱酸素剤を用いずに冷蔵保管した場合には、10日後には腐敗する。
更に、あらかじめ殺菌処理を施さずに本発明と同等の加工保存した場合にも、7〜15日後には劣化の進行がみられる。
【実施例】
【0013】
次に実施例によって更に詳細に説明する。
【0014】
実施例1
韓国産マツタケ1.0kgを水洗後、次亜塩素酸ソーダ50ppm濃度のpH5.5の次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水の洗浄槽に、20℃で1分間浸漬し、引上げた後、ステンレス製籠に入れ、でんそく製ドア式小型2段の高温蓄熱式スーパースチームオーブンにて、200℃、10分処理した。
ポリエチレン製袋に入れ、氷水で15分冷却後バリヤーナイロン製袋に200gを分取し、5袋に脱酸素剤の三菱ガス化学製エージレスFX−50を1個充填してヒートシールした。処理袋をナショナル製冷蔵庫(NS−K821RM2)中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。観測項目は、目視による観測、及びガス濃度分析計(PBIDansensor)による袋内の酸素濃度と炭酸ガス濃度の測定を行なった。微生物菌数の測定は、島久フードテック製食品衛生検査器バクットMにて一般生菌数の測定により行なった。結果を、第1表に記載した。
【0015】
実施例2
次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水で洗浄する工程を省略した以外は、実施例1と同様の処理で作成したマツタケ入りの5袋に脱酸素剤を封入し、実施例1と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第1表に記載した。
【0016】
比較例1
脱酸素剤を封入する工程を省略した以外は、実施例1と同様の処理で作成したマツタケ入りの5袋を、実施例1と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第1表に記載した。
【0017】
比較例2
過熱水蒸気処理に替えて、15分間ボイル加熱した以外は、実施例1と同様の処理で作成したマツタケ入りの5袋を、実施例1と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第1表に記載した。
【0018】
実施例および比較例の結果を第1表に示した。


【0019】
実施例3
中国産の生ポルチー二茸1.0kgを水洗後、次亜塩素酸ソーダ50ppm濃度のpH5.5の次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水の洗浄槽に、20℃で1分間浸漬し、引上げた後、ステンレス製籠に入れ、でんそく製ドア式小型2段の高温蓄熱式スーパースチームオーブンで、190℃、10分処理した。
ポリエチレン製袋に入れ、氷水で15分冷却後後バリヤーナイロン製袋に500gを分取し、5袋に脱酸素剤の三菱ガス化学製エージレスFX−100を1個充填してヒートシールした。処理袋をナショナル製冷蔵庫(NS−K821RM2)中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。観測項目は、目視による観測、及びガス濃度分析計(PBIDansensor)による袋内の酸素濃度と炭酸ガス濃度の測定を行なった。微生物菌数の測定は、島久フードテック製食品衛生検査器バクットMにて一般生菌数の測定により行なった。結果を、第2表に記載した。
【0020】
実施例4
次亜塩素酸ソーダ酢酸活性水で洗浄する工程を省略した以外は、実施例3と同様の処理で作成したポルチー二茸入りの5袋に脱酸素剤を封入し、実施例3と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第2表に記載した。
【0021】
比較例3
脱酸素剤を封入する工程を省略した以外は、実施例3と同様の処理で作成したポルチー二茸入りの5袋を、実施例3と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第2表に記載した。
【0022】
比較例4
過熱水蒸気処理に替えて、15分間ボイル過熱した以外は、実施例3と同様の処理で作成したポルチー二茸入りの5袋を、実施例3と同様に冷蔵庫中で10℃に保ち、60日間に渡り経時的に保存状況を観測した。結果を、第2表に記載した。
【0023】
実施例および比較例の結果を第2表に示した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコを、100〜300℃、1〜40分で、過熱水蒸気により熱加工後、密封容器内で脱酸素剤を用いて酸素を除去し、酸素濃度0.1%以下で保存することを特徴とするキノコの加工保存方法。
【請求項2】
キノコを、あらかじめ洗浄後、一般生菌数10〜10,000個/gの条件下で殺菌剤処理することを特徴とする請求項1記載のキノコの加工保存方法。
【請求項3】
キノコを、15℃から−2℃で保存することを特徴とする請求項2記載のキノコの加工保存方法。

【公開番号】特開2006−345838(P2006−345838A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200837(P2005−200837)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(500251825)エージレスサービスセンター株式会社 (2)
【Fターム(参考)】