説明

キメラ受容体、及び該受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニング方法

【課題】本発明の目的は、膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域からなるキメラ受容体を提供することにある。さらに本発明は、該受容体を利用した膜型グアニル・サイクレースのリガンド及び阻害物質をスクリーニングする方法、ならびに該方法により得られる物質を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者らは、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体発現ベクターを構築し、マウスBa/F3細胞へと導入することにより、ヒトANPに感受性の高いキメラANP受容体発現細胞株を得ることに成功した。この細胞を用いることにより、該キメラ受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニングが可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キメラ受容体及び該受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナトリウム利尿ペプチドファミリーは、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の3種類のナトリウム利尿ペプチドで構成され、ナトリウム利尿ペプチドは共通な17残基の環状構造を有している。
【0003】
一方、ナトリウム利尿ペプチド受容体は、NPR-A, NPR-B, NPR-Cで構成される。NPR-A, NPR-BはI型膜蛋白の膜型グアニル・サイクレース(guanylate cyclase)であり、産生されるcGMPがナトリウム利尿ペプチドの生理作用を惹起する。NPR-A, NPR-Bは、腎、血管、副腎、脳、肺、腸管、心臓など全身に広く分布している。ANP/BNPは、主にNPR-Aを介して、末梢血管拡張作用及びナトリウム利尿作用による降圧、レニン・アルドステロン分泌抑制、直接的心臓繊維化抑制を示す。NPR-A KOマウスでは、高血圧を伴う著明な心肥大・繊維化が認められ、突然死が頻発することから(非特許文献1参照)、NPR-Aを介するシグナルの生理機能の重要性が相計られる。
【0004】
NPR-BのリガンドはCNPであり、主にその血管系局所ホルモンとしての作用(血管系細胞増殖抑制)を媒介する。最近、京都大学のグループにより、NPR-Bが軟骨形成に重要であることが報告された(非特許文献2参照)。
【0005】
NPR-Cは細胞内ドメインが37アミノ酸残基のみであり、グアニル・サイクレース活性を示さないが、ANP, BNP, CNPとの結合親和性はNPR-A, NPR-Bと同等であり、所謂クリアランス型の受容体として存在するものと考えられている(ナトリウム利尿ペプチド受容体の95%以上がNPR-C)。
【0006】
NPR-Aは細胞膜上では二量体(ダイマー)として存在しており、細胞外ドメインへのANP/BNPの結合によってコンフォメーションの変化が起こる。この変化は膜貫通ドメインを介して細胞内のkinase相同ドメイン(KHD)の変化を起こし、ATPの結合を促す。このATPの結合がグアニル・サイクレース活性の抑制を解除することにより、NPR-Aを活性化するとされる(非特許文献3参照)。NPR-Aは、受容体鎖のオリゴマー化及びコンフォメーション変化によってシグナルが伝達される点でサイトカイン受容体と類似している。
【0007】
上述のように、ANP/BNPは、主にNPR-Aを介して、末梢血管拡張作用及びナトリウム利尿作用による降圧、レニン・アルドステロン分泌抑制、直接的心臓繊維化抑制を示すことから、NPR-Aのリガンドは心不全治療に有効であると考えられている。又、ANPトランスジェニックマウスでは肺高血圧抑制(非特許文献4参照)、ANPノックアウトマウスでは肺高血圧促進(非特許文献5参照)が認められることから、NPR-Aのリガンドは肺高血圧治療剤の可能性もあると考える。
【0008】
従って、NPR-Aのリガンドは様々な疾患の治療薬になり得る為、そのような物質を効率的に取得する為のスクリーニングする方法が望まれていた。しかしながら、NPR-Aのリガンドを効率的にスクリーニングする方法は確立されていない。
【0009】
【非特許文献1】
Paula M. Oliver, Jennifer E. Fox, Ron Kim, Howard A. Rockman, Hyung-Suk Kim, Robert L. Reddick, Kailash N. Pandey, Sharon L. Milgram, Oliver Smithies, and Nobuyo Maeda.著、「Hypertension, cardiac hypertrophy, and sudden death in mice lacking natriuretic peptide receptor A.」、PNAS、1997年、Vol.94、p.14730-14735.
【0010】
【非特許文献2】
Michio Suda, Yoshihiro Ogawa, Kiyoshi Tanaka, Naohisa Tamura, Akihiro Yasoda, Toshiya Takigawa, Masahiro Uehira, Hirofumi Nishimoto, Hiroshi Itoh, Yoshihiko Saito, Kohei Shiota, and Kazuwa Nakao著、「Skeletal overgrowth in transgenic mice that overexpress brain natriuretic peptide.」、PNAS、1998年、Vol.95、p.2337-2342.
【0011】
【非特許文献3】
Lincoln R. Potter and Tony Hunter著、「Guanylyl Cyclase-linked Natriuretic Peptide Receptors: Structure and Regulation.」、J. Biol. Chem.、2001年、Vol.276、p.6057-6060.
【0012】
【非特許文献4】
J. R. Klinger, R. D. Petit, L. A. Curtin, R. R. Warburton, D. S. Wrenn, M. E. Steinhelper, L. J. Field, and N. S. Hill著、「Cardiopulmonary responses to chronic hypoxia in transgenic mice that overexpress ANP.」、J Appl Physiol、1993年、Vol.75、p.198-205.
【0013】
【非特許文献5】
J.R. Klinger, R.R. Warburton, L.A. Pietras, R. Swift, S. John, and N.S. Hill著、「Exaggerated pulmonary hypertensive responses during chronic hypoxia in mice with gene-targeted reductions in atrial natriuretic peptide.」、Chest、1998年、Vol.114、79S-80S.
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域からなるキメラ受容体を提供することにある。さらに、該受容体を利用した膜型グアニル・サイクレースのリガンド及び阻害物質をスクリーニングする方法、ならびに該方法により得られる物質の提供を目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。本発明者らは、まず、膜型グアニル・サイクレースであるナトリウム利尿ペプチドの細胞外領域と、マウスG-CSFの細胞内領域からなるキメラ受容体の作製を行った。より具体的には、PCRによるヒトNPR-A(hNPR-A)遺伝子のクローニング後、該遺伝子断片を鋳型としてPCRを行い、hNPR-Aの細胞外領域及びマウスG-CSF受容体の一部をコードする遺伝子断片を取得した。次いで、該遺伝子断片をマウスG-CSF受容体の膜貫通領域から下流の遺伝子配列を持つ発現ベクターに挿入した。プラスミドのインサート部分の塩基配列を確認し、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体発現ベクター(pCV/hNPR-A-mGCSFR)を構築した。
【0016】
次に、該発現ベクターを直鎖状にし、エレクトロポーレーションによってマウスBa/F3細胞へと導入し、キメラ受容体発現細胞株の樹立を試みた。リガンドとしてヒトANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)を添加した培地にて、エレクトロポーレーション処理細胞を培養し、生細胞数を指標とした細胞増殖活性をもとに、ヒトANPに感受性の高い細胞株を取得し、リガンド依存性増殖を示すキメラANP受容体発現細胞株を得ることに成功した。
【0017】
本発明によって提供されるキメラ受容体、及び該受容体を発現する細胞は、膜型グアニル・サイクレース、特にナトリウム利尿ペプチド受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニングに有用と考えられる。本発明のナトリウム利尿ペプチド受容体を用いたスクリーニング方法は、本発明者らによって初めて開発されたものである。
【0018】
即ち本発明は、膜型グアニル・サイクレース、例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体の細胞外領域と、それ以外の受容体、例えば、G-CSF等の細胞内領域からなるキメラ受容体に関し、より具体的には、
〔1〕 膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域を含むキメラ受容体、
〔2〕 膜型グアニル・サイクレースがナトリウム利尿ペプチド受容体である〔1〕に記載のキメラ受容体、
〔3〕 ナトリウム利尿ペプチド受容体がNPR-Aである〔2〕に記載のキメラ受容体、
〔4〕 膜貫通領域をさらに含む〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のキメラ受容体、
〔5〕 膜型グアニル・サイクレース以外の受容体がサイトカイン受容体である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のキメラ受容体、
〔6〕 サイトカイン受容体が顆粒球コロニー刺激因子受容体である〔5〕記載のキメラ受容体、
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のキメラ受容体をコードするDNA、
〔8〕 〔7〕記載のDNAを含有するベクター、
〔9〕 〔8〕記載のベクターを含有する細胞、
〔10〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のキメラ受容体を発現する細胞、
〔11〕 ナトリウム利尿ペプチド依存性増殖を示す、〔2〕又は〔3〕に記載のキメラ受容体を発現する細胞、
〔12〕 以下の工程を含む受容体のリガンドのスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のキメラ受容体に被検物質を接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
〔13〕 以下の工程を含む受容体のリガンドのスクリーニング方法、
(a)〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の細胞に被検物質を接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
〔14〕 以下の工程を含む受容体の阻害物質のスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のキメラ受容体に被検物質及び該キメラ受容体のリガンドを接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
〔15〕 以下の工程を含む受容体の阻害物質のスクリーニング方法、
(a)〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の細胞に被検物質及び該キメラ受容体のリガンドを接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
〔16〕 〔12〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法により単離された物質、を提供するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は、膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域を含むキメラ受容体を提供する。
【0020】
本発明で用いられる膜型グアニル・サイクレースは特に限定されず、どのような膜型グアニル・サイクレースを用いてもよいが、好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体である。ナトリウム利尿ペプチド受容体は、NPR-A、NPR-B、NPR-Cのいずれでもよいが、NPR-Aを用いることが好ましい。hNPR-A配列のGenBankアクセッション番号は、NM_000906、hNPR-BはNM_000907、hNPR-CはNM_000908である。尚、hNPR-A配列に関しては、Jill R Schoenfeld et al., Molecular Pharmacology, 47: 172-180 (1995)に記載がある。又、ナトリウム利尿ペプチドは、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)のいずれでもよく、又、それらの断片や、アミノ酸の置換、欠失、挿入、付加等された改変体であってもよい。
【0021】
本発明のキメラ受容体に用いられる受容体の細胞外領域としては、膜型グアニル・サイクレース、好ましくはナトリウム利尿ペプチド受容体の細胞外領域を用いることができる。受容体の細胞外領域は、細胞外領域全体であってもよいし、その一部であってもよいが、生理活性を適切に反映できる点で細胞外領域全体を用いることが好ましい。受容体の細胞外領域の一部を用いる場合、リガンド結合部位であってもよいし、細胞膜近傍領域の20アミノ酸以上、好ましくは50アミノ酸以上、さらに好ましくは100アミノ酸以上の部分配列を用いることができる。また、キメラ受容体に用いる細胞外領域は、キメラ受容体にリガンドが結合した場合に、生理活性の変化を誘導し得る限りどのような部分構造・部分配列であってもよく、細胞外領域を構成するアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加があってもよい。あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて作製することができる。
【0022】
このような変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは、30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内、さらに好ましくは3アミノ酸以内であると考えられる。
【0023】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。
【0024】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413 )。
【0025】
本発明のキメラ受容体の細胞内領域は、キメラ受容体にリガンドが結合した場合に、生理活性の変化を誘導し得る限り特に制限されず、どのような受容体由来でもよい。受容体の具体的な例としては、例えば、細胞膜受容体、核内受容体、細胞内受容体等を挙げることができる。細胞外領域として用いられるナトリウム利尿ペプチドが細胞膜受容体であることから、細胞内領域も細胞膜受容体の細胞内領域を用いることが好ましい。細胞膜受容体とは、細胞膜表面に発現し、細胞外領域にリガンドが結合すると、細胞内にシグナルが伝達され、何らかの生理的変化を誘導する受容体である。又、細胞膜受容体の細胞内領域を用いる場合、細胞内領域全体であってもよいし、その一部であってもよい。受容体の細胞内領域の一部を用いる場合、シグナル伝達領域を含むことが好ましい。
【0026】
受容体の具体的な例としては、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。
【0027】
これら受容体ファミリーに属する受容体及びその特徴に関しては多数の文献が存在し、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehesive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II"pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV., New York, USA、Patthy L. (1990) Cell, 61: 13-14.、Ullrich A., et al. (1990) Cell, 61: 203-212.、Massagul J. (1992) Cell, 69: 1067-1070.、Miyajima A., et al. (1992) Annu. Rev. Immunol., 10: 295-331.、Taga T. and Kishimoto T. (1992) FASEB J., 7: 3387-3396.、Fantl WI., et al. (1993) Annu. Rev. Biochem., 62: 453-481.、Smith CA., et al. (1994) Cell, 76: 959-962.、Flower DR. (1999) Biochim. Biophys. Acta, 1422: 207-234.、宮坂昌之監修, 細胞工学別冊ハンドブックシリーズ「接着因子ハンドブック」(1994) 秀潤社, 東京, 日本、等が挙げられる。上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体、ヒト又はマウストロンポエチン(TPO)受容体、ヒト又はマウスインスリン受容体、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等を例示することができ、本発明においてはこれら受容体を好適に使用することができる。これらの受容体の配列は公知である(hEPOR: Simon, S. et al. (1990) Blood 76, 31-35.; mEPOR: D'Andrea, AD. Et al. (1989) Cell 57, 277-285.; hG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 87, 8702-8706.; mG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Cell 61, 341-350.; hTPOR: Vigon, I. et al. (1992) 89, 5640-5644.; mTPOR: Skoda, RC. Et al. (1993) 12, 2645-2653.; hInsR: Ullrich, A. et al. (1985) Nature 313, 756-761.; hFlt-3: Small, D. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91, 459-463.; hPDGFR: Gronwald, RGK. Et al. (1988) Proc. Natl. acad. Sci. USA. 85, 3435-3439.; hIFNα/βR: Uze, G. et al. (1990) Cell 60, 225-234.及びNovick, D. at al. (1994) Cell 77, 391-400.)。
【0028】
核内受容体とは、リガンドの結合により特定のDNA配列に結合し、mRNAの転写活性の増減を誘導する活性を有する受容体であり、ステロイド受容体ファミリー、レチノイドX受容体ファミリー等を使用することができる。ステロイド受容体ファミリーには、グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体、プロゲステロン受容体、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体が含まれる。また、レチノイドX受容体ファミリーには、レチノイン酸受容体、甲状腺ホルモン受容体、ビタミンD3受容体が含まれる。細胞内受容体は、細胞内に存在し、種々のリガンドが結合し、生理活性を誘導する受容体を意味する。
【0029】
本発明のキメラ受容体の細胞内領域としては、構造と機能が詳細に検討されている点で、G-CSF受容体の細胞内領域を用いることが好ましく、特にマウスG-CSF受容体の細胞内領域を用いることが好ましい。マウスG-CSF受容体は813個のアミノ酸からなり、単一の膜貫通領域によって細胞外領域と細胞内領域に分けられている(Fukunaga, R. Cell (1990) 61, 341-350)。また、G-CSF受容体遺伝子を骨髄球前駆細胞株であるFDC-P1やpro-B細胞株であるBa/F3細胞で発現させると、発現されたG-CSF受容体が細胞増殖シグナルを伝達し、G-CSF依存性の増殖活性が認められることも示されている。さらに、増殖シグナルの伝達には細胞内領域の76アミノ酸からなる領域が必須であることが明らかになっている(Fukunaga, R. EMBO J. (1991) 10, 2855-2865)。従って、当該76アミノ酸をシグナル伝達領域として含有するキメラ受容体を作製し、Ba/F3細胞に発現させることで、検出指標を細胞増殖活性とすることが可能である。
【0030】
ヒトG-CSF受容体では、716番目以降のアミノ酸を欠失変異させることで、受容体の内在化が抑制され、細胞表面に発現するG-CSF受容体数が増加するために、G-CSF刺激時のシグナル伝達効率が著しく促進されることが示されている(Melissa G., Blood (1999) 93, 440-446)。欠失領域には、内在化に必要なモチーフと想定される配列を含むBox3と呼ばれる領域が含まれており、一方、シグナル伝達に必要なbox1、box2は保存されている。したがって、マウスG-CSF受容体においても当該領域すなわちbox2を含まず、box3を含む領域を欠失させることによりG-CSF受容体刺激時のシグナル伝達効率を高めることが可能であることは容易に予想される。
【0031】
また、本発明のキメラ受容体の細胞内領域は、キメラ受容体にリガンドが結合した場合に、生理活性の変化を誘導し得る限り、構成するアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加があってもよい。アミノ酸の置換、欠失、挿入、付加は上述の方法により行うことが可能である。
【0032】
本発明のキメラ受容体においては、好ましくは膜貫通領域を含む。キメラ受容体に使用する膜貫通領域は、特に限定されず、キメラ受容体の細胞外領域に使用した受容体由来でもよいし、細胞内領域に使用した受容体由来であってもよい。また、全く別の細胞膜受容体に由来したものであってもよい。複数のキメラ受容体を簡便に作製できる点で、キメラ受容体の膜貫通領域としては、細胞内領域に使用した受容体に由来する膜貫通領域を使用することが好ましい。
【0033】
本発明のキメラ受容体をコードするDNA、及び該DNAの転写産物RNAもまた、本発明に含まれる。本発明のキメラ受容体をコードするDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明で細胞外領域、細胞内領域、膜貫領域として用いられる受容体を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、目的とする文献既知のDNA配列の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより、細胞外領域、細胞内領域、膜貫通領域をコードするDNAを調製できる。それぞれ調製されたDNAを結合することにより目的のキメラ受容体を調製することが可能である。cDNAライブラリーは、例えばSambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法により調製してもよいし、市販のDNAライブラリーを用いてもよい。また、受容体を発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、目的とするDNAの配列に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、受容体をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0034】
調製された目的とするDNA断片を、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。DNA断片を保持するためのベクターDNAには、公知のもの(例えば、pUC19、pBluescript等)を用いることができる。また、大腸菌は公知のもの(例えばDH5α、JM109等)を用いることができる。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))により確認することができる。本発明では、自動塩基配列決定装置(DNA Sequencer PRISM 377もしくはDNA Sequencer PRISM 310,Perkin-Elmer)などを用いることができる。
【0035】
また、本発明のDNAにおいては、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham, R. et al., Nucelic Acids Research (1981) 9, r43-74)。また、本発明のDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
【0036】
キメラ受容体発現のためには、エンハンサー/プロモーターのごとき発現制御領域のもとでキメラ受容体をコードするDNAを含む発現ベクターを作製する。この発現ベクターにより宿主細胞を同時形質転換して細胞にキメラ受容体を発現させる。
【0037】
哺乳動物細胞で発現のために有用な常用のプロモーターを用いることができる。例えば、ヒト・ポリペプチドチェーン・エロンゲーションファクター1α(HEF-1α)を使用するのが好ましい。HEF-1αプロモーターを含有する発現ベクターの例にはpEF-BOS(Mizushima, S. et al. (1990) Nuc. Acid Res. 18, 5322)が含まれる。また、その他に本発明のために用いることのできる遺伝子プロモーターとしては、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーターや、哺乳動物細胞由来のプロモーターがある。例えば、SV40のプロモーターを使用する場合は、Mulliganらの方法(Nature (1990) 277, 108)に従えば容易に実施することができる。
【0038】
宿主細胞系中への遺伝子導入のため、発現ベクターは選択マーカー遺伝子(例えば、ホスホトランスフェラーゼAPH(3') II又はI (neo)遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、大腸菌キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子等)を含むことができる。
【0039】
遺伝子導入には公知の方法、例えばリン酸カルシウム法(Chen, C. et al. (1987) Mol. Cell. Biol. 7, 2745-272)、リポフェクション法(Felgner, PL. et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-)、エレクトロポーレーション法(Potter, H. (1988) Anal. Biochem. 174, 361-373)等を用いることができる。本発明ではエレクトロポーレーション法による遺伝子導入装置(Gene Pulser, Bio-Rad)を用いることができる。
【0040】
また本発明は、本発明のDNAを含有するベクター、及び該ベクターを含有する細胞に関する。本発明で用いられるベクターは当業者が適宜選択することでき、特に限定されないが、例えば、pCOS1(WO98/13388)、pME18S(Med.immunol. 20: 27-32 (1990))、pEF-BOS(Nucleic Acids Res. 18: 5322 (1990))、pCDM8(Nature 329: 840-842 (1987)、pRSVneo、pSV2-neo、 pcDNAI/Amp(Invitrogen)、pcDNAI、pAMoERC3Sc、pCDM8(Nature 329: 840 (1987))、pAGE107(Cytotechnology 3: 133 (1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem. 101: 1307 (1987))、pAMoA、pAS3-3、pCAGGS(Gene 108: 193-200 (1991))、pBK-CMV、pcDNA3.1(Invirtogen)、pZeoSV(Stratagene)等を用いることができる。
【0041】
また本発明は、本発明のキメラ受容体を発現する細胞に関する。該細胞の好ましい態様においては、本発明の上記ベクターを含み、本発明のキメラ受容体を発現する細胞である。本発明で用いられる細胞は当業者が適宜選択することができ、動物細胞、大腸菌、酵母など特に限定されないが、動物細胞が好ましく、特に哺乳動物細胞が好ましい。細胞の具体的な例としては、例えば、BaF3、NFS60、FDCP-1、FDCP-2、CTLL-2、DA-1、KT-3、32D等を挙げることができる。本発明の細胞の一例を示せば、ナトリウム利尿ペプチド依存性増殖を示す細胞を挙げることができる。
【0042】
さらに本発明は、受容体のリガンド、及び受容体の阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0043】
本発明のキメラ受容体を用いた、膜型グアニル・サイクレース、特にナトリウム利尿ペプチド受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニング方法は、被検物質を本発明のキメラ受容体もしくは本発明の細胞に接触させ(工程(a))、生理活性を測定し(工程(b))、被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する(工程(c))。上記工程(c)における「変化」とは、通常生理活性の上昇(亢進)あるいは低下を意味する。一般的に、被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を上昇(亢進)させる物質は、リガンドであると考えられる。一方、生理活性を低下させる物質は、阻害物質であるものと考えられる。本発明の上記方法を用いることにより、当業者においては、指標とする生理活性の種類を考慮して、適宜、生理活性を変化させる被検化合物についてリガンドもしくは阻害物質であるか否かの判定を行うことが可能である。また、上記工程(a)においては、特に限定はされないが、通常、本発明のキメラ受容体は細胞膜上に発現した状態で被検物質と接触させる。
【0044】
本発明において生理活性とは、生体、組織、細胞、タンパク質、DNA、RNA等に量的及び/又は質的な変化、影響をもたらすことが可能な活性である。本発明のスクリーニング方法においては、どのような生理活性を用いてもよい。生理活性としては、サイトカイン活性、酵素活性、転写活性、膜輸送活性、結合活性等を用いることができる。酵素活性としては、例えば、タンパク質分解活性、リン酸化/脱リン酸化活性、酸化還元活性、転移活性、核酸分解活性、脱水活性がある。また、結合活性としては、例えば、抗原と抗体との反応、細胞接着因子どうしの結合及び/又は活性化がある。
【0045】
本発明において、生理活性の変化を測定する為に用いる検出指標としては、量的及び/又は質的な変化が測定可能である限り使用することができる。例えば、無細胞系(cell free assay)の指標、細胞系(cell-based assay)の指標、組織系の指標、生体系の指標を用いることができる。無細胞系の指標としては、酵素反応やタンパク質、DNA、RNAの量的及び/又は質的な変化を用いることができる。酵素反応としては、例えば、アミノ酸転移反応、糖転移反応、脱水反応、脱水素反応、基質切断反応等を用いることができる。また、タンパク質のリン酸化、脱リン酸化、二量化、多量化、分解、乖離等や、DNA、RNAの増幅、切断、伸長を用いることができる。例えばシグナル伝達経路の下流に存在するタンパク質のリン酸化を検出指標とすることができる。細胞系の指標としては、細胞の表現型の変化、例えば、産生物質の量的及び/又は質的変化、増殖活性の変化、形態の変化、特性の変化等を用いることができる。産生物質としては、分泌タンパク質、表面抗原、細胞内タンパク質、mRNA等を用いることができる。形態の変化としては、突起形成及び/又は突起の数の変化、偏平度の変化、伸長度/縦横比の変化、細胞の大きさの変化、内部構造の変化、細胞集団としての異形性/均一性、細胞密度の変化等を用いることができる。これらの形態の変化は検鏡下での観察で確認することができる。特性の変化としては、足場依存性、サイトカイン依存応答性、ホルモン依存性、薬剤耐性、細胞運動性、細胞遊走活性、拍動性、細胞内物質の変化等を用いることができる。細胞運動性としては、細胞浸潤活性、細胞遊走活性がある。また、細胞内物質の変化としては例えば、酵素活性、mRNA量、Ca2+やcAMP等の細胞内情報伝達物質量、細胞内タンパク質量等を用いることができる。また、細胞膜受容体に対するリガンドを選択したい場合、受容体の刺激によって誘導される細胞の増殖活性の変化を指標とすることができる。組織系の指標としては、使用する組織に応じた機能変化を検出指標とすることができる。生体系の指標としては組織重量変化、血液系の変化、例えば血球細胞数の変化、タンパク質量や、酵素活性、電解質量の変化、また、循環器系の変化、例えば、血圧、心拍数の変化等を用いることができる。
【0046】
これらの検出指標を測定する方法としては、特に制限はなく、発光、発色、蛍光、放射活性、蛍光偏光度、表面プラズモン共鳴シグナル、時間分解蛍光度、質量、吸収スペクトル、光散乱、蛍光共鳴エネルギー移動等を用いることができる。これらの測定方法は当業者にとっては周知であり、目的に応じて、適宜選択することができる。例えば、吸収スペクトルは一般的に用いられるフォトメータやプレートリーダ等、発光はルミノメータ等、蛍光はフルオロメータ等で測定することができる。質量は質量分析計を用いて測定することができる。放射活性は、放射線の種類に応じてガンマカウンターなどの測定機器を用いて、蛍光偏光度はBEACON(宝酒造)、表面プラズモン共鳴シグナルはBIACORE、時間分解蛍光、蛍光共鳴エネルギー移動などはARVOなどにより測定できる。さらに、フローサイトメータなども測定に用いることができる。これらの測定方法は、一つの測定方法で2種以上の検出指標を測定しても良く、簡便であれば、2種以上の測定を同時及び/又は連続して測定することによりさらに多数の検出指標を測定することも可能である。例えば、蛍光と蛍光共鳴エネルギー移動を同時にフルオロメータで測定することができる。
【0047】
本発明において、好ましい検出指標は、細胞増殖活性の変化である。細胞の増殖活性の変化は、MTT法やトリチウム標識チミジン法を用いて測定することができる。例えばG-CSF受容体、EPO受容体、EGF受容体、TPO受容体の細胞内領域を用い、これらの受容体の刺激によって誘導される細胞増殖活性を検出指標とすることができる。例えば、成長ホルモン受容体の細胞外領域とG-CSF受容体の細胞内領域とを有するキメラ受容体では、成長ホルモン依存性の細胞増殖が誘導されることが示されている(Fuh, G. Science (1992) 256, 1677-1680)。
【0048】
また、細胞増殖活性を検出指標として測定する場合、検出感度を上げることを目的として、リガンドの非存在下では死滅する細胞株が好ましく、特に、継代が容易である点でサイトカイン依存性細胞株が好ましい。例えば、IL-2依存性細胞株であるCTLL-2細胞や、IL-3依存性細胞株である32D細胞、FDC-P1細胞、Ba/F3細胞を用いることができる。これらの細胞株は、IL-2あるいはIL-3等の増殖に必要なサイトカインを培養液から除去することで、培養開始2日目か3日目には細胞が死滅する特徴を有する。マウスG-CSF受容体細胞内領域を有するキメラ受容体を発現させたFDC-P1細胞やBa/F3細胞を用いることが好ましい。
【0049】
また、細胞は、スクリーニングの感度の向上を目的として加工して用いることができる。細胞の高感度化の方法としては、例えば、キメラ受容体が高発現するように適切な発現制御領域及びポリA付加シグナルを用いてキメラ受容体遺伝子を発現させたり、mRNA不安定化シグナルを除去して安定なものに置換する等である。また、開始コドンの周辺をKozakのコンセンサス配列(CCACC)に改変したキメラ受容体遺伝子を用いることができる。また、適切な選択マーカーと組み合わせることで、高発現細胞株の取得を容易に行うことも可能である。例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損細胞株では、DHFRを選択マーカーとして用いることにより、メトトレキセートでDHFRを阻害して目的の遺伝子を高発現する細胞株を取得する方法や、プロモーターを欠いたチミジンキナーゼ遺伝子を選択マーカーとすることで、目的の遺伝子を高発現する細胞株を効率的に選択する方法が知られている。また、蛍光抗体標識抗受容体抗体やGFP(green fluorescence protein)の共発現などを用いてセルソーターなどにより高発現細胞株を選別することなどが可能である。さらに、受容体の代謝機構に改良を加えることで高感度の検出系にすることができる。例えば、マウスG-CSF受容体ではC末端を欠失させた受容体は細胞内への取り込みが減少し、発現量が増加することが知られている。また、一般に、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニンの含有率の高いタンパク質は分解が速いとされており、このようなアミノ酸の偏りを減少させるようにアミノ酸に変異をくわえることも可能である。
【0050】
ナトリウム利尿ペプチド受容体の阻害物質をスクリーニングする場合、被検物質以外にナトリウム利尿ペプチド受容体のリガンドも添加することが好ましい。即ち、この場合においては、上記工程(a)において、本発明のキメラ受容体もしくは本発明の細胞に、被検物質及び該キメラ受容体のリガンドを接触させる。添加されるリガンドは公知のリガンドを用いることができ、例えば、ANP、BNP、CNPなどを用いることができる。
【0051】
本発明において「リガンド」とは、受容体に結合する活性を有し、かつ当該受容体を介して生理活性を誘導することができる物質を意味する。リガンドのうち、生体自身が産生し、生体内において生理活性を有する物質を天然リガンドと称する。
【0052】
本発明において、「阻害物質」とは、リガンドが受容体に結合し、生理活性を誘導することを阻害する物質を意味する。
【0053】
本発明の方法に用いる被検物質としては、生理活性を検出したい所望の物質を用いることができる。例示すれば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0054】
本発明のキメラ受容体は、公知の様々なスクリーニング方法(例えば、国際公開公報WO02/06838、特願2002-127260、など)に応用することも可能である。
【0055】
本発明のスクリーニング方法により単離されるリガンド又は阻害物質は、その生理活性に応じて、各種疾患の治療や予防のための医薬として用いることが考えられる。例えば、リガンドであれば、慢性心不全、肺高血圧症、高血圧、腎不全、軟骨形成不全などの治療・予防に有用であると考えられる。本発明のスクリーニング方法により単離される物質もまた本発明に含まれる。
【0056】
これらリガンドや阻害物質をヒトや哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、マントヒヒ、チンパンジーの医薬として使用する場合には、それ自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化して投与を行うことも可能である。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0057】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0058】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0059】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0060】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0061】
投与量は、症状などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から500mg、好ましくは約1.0から100mg、より好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。
【0062】
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日当り約0.01から30mg、好ましくは約0.1から20mg、より好ましくは約0.1から10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【0063】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0064】
〔参考実施例〕 pCVベクターの作製
発現プラスミドベクターpCVは、pCOS1(国際特許公開番号WO98/13388「Antibody against human parathormone related peptides」参照)のpoly (A)付加シグナルをヒトG-CSF由来のものに置換し構築した。pEF-BOS(Mizushima S. et al. (1990) Nuc.Acid.Res., 18, 5322)をEco RIおよびXba Iで切断し、ヒトG-CSF由来のpoly (A)付加シグナル断片を得た。この断片をpBacPAK8(CLONTECH)にEco RI/Xba I部位で挿入した。これをEco RIで切断したのち両端を平滑化し、Bam HIで消化した。これにより、5'末端にBam HI部位が付加し、3'末端が平滑化されたヒトG-CSF由来のpoly (A)付加シグナルを含む断片を得た。この断片とpCOS1のpoly (A)付加シグナル部分をBam HI/Eco RV部位で置換し、これをpCVとした。
【0065】
〔実施例1〕 ヒトNPR-A/マウスG-CSFR キメラ受容体発現ベクターの作製
human kidney cDNA (Marathon ready cDNA, CLONTECH) を鋳型にして以下のプライマー
hNPR-5':ATGCGCCCCGCTGGCTCCCGCC(配列番号:3)
hNPR-3' :CAGGGAGCCGTAATTGGAGCCTC(配列番号:4)
を用いてPCRを行い、hNPR-A遺伝子(アミノ酸1〜539)をクローニングした。
次に、この遺伝子断片を鋳型に、以下のプライマー
hNPR-5'-NotI :TTGCGGCCGCCACCATGCGCCCCGCTGGCTCCCG(配列番号:5)
hNPR-3'-BglII :GCAACCAAGATCACCTTTCCACCGATCCATCTGACTTAAACATTTTCCTGGAGATCTGGT(配列番号:6)
を用いてPCRを行い、hNPR-Aの細胞外領域(アミノ酸1-467)と、マウスG-CSF受容体の膜貫通領域直前から下流領域(アミノ酸598-812(Fukunaga, R. et al., (1990) Cell, 61, 341-350))のcDNAを連結し、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体cDNAを作製した。これを発現プラスミドベクターpCVのHEF1aプロモーターの下流に挿入し、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体発現ベクターを構築した。
本発現ベクターが発現する蛋白、すなわちヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体の塩基配列、およびアミノ酸配列を図1に、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体発現ベクターのベクターマップを図4(ベクターマップ)に示した。また、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体の塩基配列を配列番号:1、アミノ酸配列を配列番号:2にそれぞれ示す。
【0066】
[実施例2] キメラ受容体発現細胞株の樹立
エレクトロポーレーション装置(Gene Pulser:Bio Rad)により、直鎖状にした発現遺伝子ベクターをマウスBa/F3細胞(理化学研究所より購入:Cell No. RCB0805)に導入した。Ba/F3細胞をダルベッコPBS(以下、PBSと称す)で2回洗浄したのち、PBSに約1×107細胞/mLの細胞密度になるように懸濁した。この懸濁液0.8mLに直鎖状にした発現ベクターDNAを10μg加えてジーンパルサーキュベット(Bio Rad,0.4cm,Cat No.165-2088)に移した。ジーンパルサー(Bio Rad)を用いて、0.33kV、960μFの静電容量にてパルスを与えた。
【0067】
室温にて約10分間静置したのち、エレクトロポーレーション処理した細胞を0.2ng/mLのマウスIL-3を含む培地Aに懸濁し、96穴マイクロウェル平底プレート(Falcon)に100μL/穴となるように播種した。CO2インキュベーター(CO2濃度:5%)で約24時間培養し、これに3x10-9mol/LのヒトANP(ハンプ注射用1000、ゼリア新薬工業)を含む培地Aを100μL/穴加え、CO2インキュベーター(CO2濃度:5%)で培養した。培地Aは10%ウシ胎児血清(HyClone,Cat No.SH30071.03,Lot No.AKE11829)及びペニシリン100単位/mLならびにストレプトマイシン0.1mg/mL(GIBCO)を含むRPMI1640培地(GIBCO)を用いた。培養開始から約1週間後に検鏡し、単コロニーの穴から細胞を回収し、3x10-8mol/Lあるいは3x10-9mol/LのヒトANPを含む培地Aで継代培養した。継代培養は、1週間に2あるいは3回程度の頻度で実施し、細胞密度が1x106cells/mLを超えないないようにした。細胞を培地Bで2回洗浄したのち、5×104細胞/mLの細胞密度になるように培地Bに懸濁した。培地Bは、CHO-S-SFMII培地(GIBCO)、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地、あるいは10%ウシ胎児透析血清(HyClone, Cat No. SH30079, Lot No.ALA13106)を含むRPMI1640培地を用いた。ヒトANPを培地Bで適当に希釈し、細胞懸濁液25μL/穴、希釈したヒトANP 25μL/穴を96穴マイクロウェル平底ハーフエリアプレート(Costar)に分注し、CO2インキュベーター(CO2濃度:5%)で3日間培養した。培養後、WST-8試薬(Cell Counting Kit-8:同仁化学研究所)を10μL/穴加え、CO2インキュベーター(CO2濃度:5%)で2時間インキュベートし、吸光マイクロプレートリーダー(Sunrise classic: Wako)を用いて測定波長450nm、対照波長655nmの吸光度を測定した。2時間後の吸光度を縦軸に、ヒトANP濃度を横軸にとり、生細胞数を指標にした細胞増殖活性をもとに、ヒトANPに感受性の高い細胞株を選択し、これをキメラANP受容体発現細胞株NPRAGとした(図3)。
【0068】
【発明の効果】
本発明により、膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域からなるキメラ受容体が提供された。該受容体を利用することで、膜型グアニル・サイクレース、特にナトリウム利尿ペプチド受容体のリガンド又は阻害物質のスクリーニングが可能となり、該物質は様々な疾患の治療薬になり得ることが期待される。
【0069】
【配列表】















【図面の簡単な説明】
【図1】 ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体の塩基配列(上段)及びアミノ酸配列(下段)を示したものである。ヒトNPR-Aアミノ酸配列は四角で囲み、マウスG-CSF受容体アミノ酸配列は何も付さずに示した。マウスG-CSF受容体の膜貫通領域を下線で示した。
【図2】 図2は、図1の続きの図である。
【図3】 図3は、NPRAGの、アゴニスト活性を示すグラフである。吸光度を縦軸に、ヒトANP濃度を横軸に示す。
【図4】 図4は、ヒトNPR-A/マウスG-CSFRキメラ受容体発現ベクターのベクターマップである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜型グアニル・サイクレース由来の細胞外領域と、膜型グアニル・サイクレース以外の受容体由来の細胞内領域を含むキメラ受容体。
【請求項2】
膜型グアニル・サイクレースがナトリウム利尿ペプチド受容体である請求項1に記載のキメラ受容体。
【請求項3】
ナトリウム利尿ペプチド受容体がNPR-Aである請求項2に記載のキメラ受容体。
【請求項4】
膜貫通領域をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項5】
膜型グアニル・サイクレース以外の受容体がサイトカイン受容体である請求項1〜4のいずれかに記載のキメラ受容体。
【請求項6】
サイトカイン受容体が顆粒球コロニー刺激因子受容体である請求項5記載のキメラ受容体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のキメラ受容体をコードするDNA。
【請求項8】
請求項7記載のDNAを含有するベクター。
【請求項9】
請求項8記載のベクターを含有する細胞。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のキメラ受容体を発現する細胞。
【請求項11】
ナトリウム利尿ペプチド依存性増殖を示す、請求項2又は3に記載のキメラ受容体を発現する細胞。
【請求項12】
以下の工程を含む受容体のリガンドのスクリーニング方法。
(a)請求項1〜6のいずれかに記載のキメラ受容体に被検物質を接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
【請求項13】
以下の工程を含む受容体のリガンドのスクリーニング方法。
(a)請求項9〜11のいずれかに記載の細胞に被検物質を接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
【請求項14】
以下の工程を含む受容体の阻害物質のスクリーニング方法。
(a)請求項1〜6のいずれかに記載のキメラ受容体に被検物質及び該キメラ受容体のリガンドを接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
【請求項15】
以下の工程を含む受容体の阻害物質のスクリーニング方法。
(a)請求項9〜11のいずれかに記載の細胞に被検物質及び該キメラ受容体のリガンドを接触させる工程、
(b)生理活性を測定する工程、
(c)被検物質を接触させない場合と比較して、生理活性を変化させる被検物質を選択する工程
【請求項16】
請求項12〜15のいずれかに記載のスクリーニング方法により単離された物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−180705(P2006−180705A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−60336(P2003−60336)
【出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】