説明

キメラKunitzドメインおよびその使用

本発明は、天然および非天然 Kunitz ドメインとヒト組織因子インヒビタードメイン 1とのキメラ、およびその調製および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然および非天然 Kunitz ドメインとヒト組織因子インヒビタードメイン 1とのキメラ、およびその調製および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Kunitz ドメインは様々な作用強度の多数のセリンプロテアーゼを阻害するポリペプチドである。それらはタンパク質を安定化し、その三次元構造を決定する3つのジスルフィド架橋を含む。それぞれのセリンプロテアーゼとの相互作用は主に約 9 アミノ酸長でありKunitz ドメインのN 末端領域にあるループを介して起こる。このループはプロテアーゼの触媒中心に結合し、それにより適切なプロテアーゼ基質の切断を妨げる(Laskowski and Kato [1980]; Bode and Huber [1992])。
【0003】
アプロチニン (BPTI; 図1; 配列番号6)はKunitz ドメインの原型であるとみなされている(Fritz and Wunderer [1983])。これは様々なウシ臓器(とりわけ 膵臓、肺、肝臓および心臓)から単離されうる長さ58 アミノ酸の塩基性タンパク質である。アプロチニンは3つのジスルフィド架橋 (Cys 5 - Cys 55; Cys 14 - Cys 38; Cys 30 - Cys 51)により安定化され、とりわけトリプシン、プラスミンおよび血漿カリクレインの強力なインヒビターである。
【0004】
アプロチニンとウシトリプシンとの複合体のX線構造解析により、アプロチニンとプロテアーゼの触媒中心との接触領域が、アミノ酸11〜19からなるループによって本質的に形成されるということを示すことができた(Bode and Huber [1992] およびそれに列挙される引用文献を参照)。アミノ酸 Lys-15がアプロチニンの阻害効果に中心的な重要性を有し、プロテアーゼの触媒的に活性なセリン残基と特に緊密に接触する。アミノ酸 Lys 15 はそれゆえ定義によりP1 残基と称されている(Schechter and Berger [1967])。P2、P3等の残基はLys-15よりN末端側に位置し、Lys-15よりC末端側に位置するアミノ酸はP1’、P2’ 等と称される。Lys-15はアプロチニンの第二のシステイン残基のC末端側に隣接して位置しているので、その他のKunitz ドメインにおけるこの位置における対応するアミノ酸も同様にP1 残基と称される。以前にアプロチニンの阻害効果は残基 11 〜残基 19の領域におけるアミノ酸の標的化交換により修飾しうることが示されている(Otlewski et al. [2001]、Apeler et al. [2004]、Krowarsch et al. [2005])。アミノ酸36-39もまたアプロチニンの活性に重要である(Fritz and Wunder [1983]、Krowarsch et al. [2005])。
【0005】
アプロチニンは現在主に心臓手術においてトラジロールという商標名の下で利用されている。というのは臨床研究により、アプロチニンによる処置はかかる手術における輸血の必要性を顕著に低下させ二次的な出血の低下を導くことが示されているからである(Royston [1992])。その臨床効果は、血液の内因性凝固(接触活性化)の阻害、線維素溶解の阻害およびトロンビン形成の低下に起因する(Blauhut et al. [1991]、Dietrich et al. [1995])。したがって、プラスミンと血漿カリクレインとの両方の阻害がアプロチニンの止血作用に重要である。
【0006】
アプロチニンはウシタンパク質であるのでヒトにおいて抗体の形成を導く。トラジロールの反復投与は重篤なアレルギー反応 (アナフィラキシーショック)を導きうる。この危険性は2.8%であり、したがってアプロチニンの複数回使用の可能性は大幅に制限されている(Dietrich et al. [2001]、Beierlein et al. [2005])。したがってアプロチニンと類似またはそれより良好な臨床効果を有し、アレルギー反応の誘発が顕著に少ない活性成分がおおいに医学分野で必要とされている。
【0007】
外因性経路による(例えば組織損傷における) 血液凝固の活性化は内皮細胞からの組織因子の放出により開始する(Lindahl [1997]、Lwaleed and Bass [2005])。組織因子は血液に入ると、因子 VIIaに結合する。それによって形成される複合体は因子 X (外因性血液凝固)と因子 IX (内因性血液凝固)との両方を活性化する。生理的条件下で、組織因子 は組織因子インヒビター (TFPI)により阻害される。ヒト組織因子インヒビター (hTFPI)は長さが276 アミノ酸であり分子量が約 42 kDaのタンパク質である。それはまず因子 Xaを阻害し、次いで因子 VIIa/組織因子複合体に結合する。TFPIは3つのKunitz ドメインからなり、血漿中において、主にリポタンパク質に結合している。それゆえそれは「リポタンパク質-結合凝固インヒビター」(LACI)とも称される。TFPIはヒト HepG2 細胞からの上清から初めて精製され (Broze et al. [1987])、その少し後にヒト血漿から精製された(Novotny et al. [1989])。hTFPIのcDNAは1988年にクローニングされた(Wun et al. [1988])。Sprecher et al.は、組織因子インヒビターのさらなるアイソフォームのクローニングおよび特徴決定について記載している(hTFPI2; Sprecher et al. [1994])。
【0008】
hTFPIのそれぞれのKunitz ドメインのP1 位置におけるアミノ酸の標的化交換により、Kunitz ドメイン 2 (D2)は因子 Xaの阻害に役割を果たし、Kunitz ドメイン 1 (D1)および2は因子 VIIa/組織因子 複合体への結合に必要であることを示すことができた (Girard et al. [1989])。hTFPIの別々に発現させたKunitz ドメインの研究により因子 Xa はKunitz ドメイン 2によってのみ阻害され得、Kunitz ドメイン 1はプラスミンも阻害することが示された (Petersen et al. [1996])。Markland et al.は、ファージディスプレーによるhTFPI D1の多様性によるタンパク質ライブラリーの調製を記載している。彼らはアミノ酸10 〜21 および31〜 39の領域における突然変異を介して、hTFPI D1の性質を改変することが出来、それにより得られたKunitz ドメインは非常に強力且つ選択的なプラスミンインヒビターであるか(Markland et al. [1996a])または、血漿カリクレインの非常に強力且つ選択的なインヒビターである(Markland et al. [1996b])。 Baja et al. は、hTFPI D1の阻害活性のためのアミノ酸8〜20 および31〜39 の重要性について議論している(Bajaj et al. [2001])。
【0009】
高い強度で特異的にプラスミンを阻害するKunitz ドメインの変異体がUS 6,010,880; EP 0 737 207; US 6,071,723および US 6,953,674に記載されている。US 5,795,865; EP 0 739 355およびUS2004/0038893は高い強度および特異性にて血漿カリクレインを阻害するKunitz ドメインの変異体を開示している。US 6,783,960はhTFPI1 および/または hTFPI2の様々な Kunitz ドメインからなるキメラタンパク質を記載している。Kunitz型の血漿カリクレインインヒビターはUS 5,786,328; US 5,780,265 および EP 0 832 232に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明の目的はアプロチニンに匹敵するかあるいはそれよりも良好な活性を有し、顕著に低い免疫原性を有するヒト組織因子インヒビター 1 ドメイン 1 (hTFPI D1)の変異体を調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
所望の性質はhTFPI D1の活性中心におけるアミノ酸をその他の天然または非天然 Kunitz ドメインの活性中心由来の対応するアミノ酸と交換することによって達成される。そのようにして作成されるキメラはプラスミンと血漿カリクレインとの両方を強い強度で阻害する。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の文脈において、Kunitz ドメインは、6つのシステイン残基および3つのジスルフィド架橋を含む55〜62 アミノ酸を有するアプロチニンのホモログである。アミノ酸は表1に示すように、アプロチニンの58 アミノ酸にしたがって番号付けする。したがって、Cys1はアミノ酸 5、Cys 6はアミノ酸 55である。表1において、「x」は任意のアミノ酸を意味し、「X」は各場合において詳細に特定したアミノ酸のいずれかを意味する。ジスルフィド架橋は各場合において位置Cys 5 - Cys 55; Cys 14 - Cys 38およびCys 30 - Cys 51の間に形成される。
【0013】
Kunitz インヒビターは現在までにとりわけ様々な脊椎動物(例えば、ヒト、ウシ)において見いだされており、いくつかの非脊椎動物(ナメクジ、イソギンチャク)においても見いだされている (Laskowski and Kato [1980] およびそこに引用される文献)。かかる天然の Kunitz ドメインは本明細書において「天然 Kunitz ドメイン」と称する。天然 Kunitz ドメインの例は、とりわけ、アプロチニン、ヒト胎盤 ビクニン(bikunin) ドメイン 1、ヒト 胎盤 ビクニン(bikunin) ドメイン 2、ヒトアミロイドベータ A4 タンパク質前駆体のKunitz ドメイン およびヒトエピン(Eppin) 前駆体のKunitz ドメインである。いくつかの天然 Kunitz ドメインの配列を表2に詳細に示す。
【0014】
遺伝子操作法の手段により1以上のアミノ酸において天然 Kunitz ドメインとは異なるKunitz ドメインの組換え変異体を調製することが可能である。アミノ酸の交換により得られるかかるKunitz ドメインは本明細書において「非天然 Kunitz ドメイン」と称する。様々な非天然 Kunitz ドメインが文献に記載されている(Dennis et al. [1995]、Markland et al. [1996a]、Markland et al. [1996b]、Apeler et al. [2004]、EP 0307592)。いくつかの非天然 Kunitz ドメインの配列を表3に示す。
【0015】
本発明の目的はアプロチニンに匹敵するかまたはそれよりも優れた臨床効果を有するが、ヒトにおいて誘発されるアレルギー反応がアプロチニンよりも顕著に低下したKunitz ドメインを調製することである。hTFPI D1は以下の配列を有するヒト Kunitz ドメインである。
【化1】

【0016】
ヒト起源であるため、アプロチニンに匹敵するアレルギー反応は、ヒトにおけるhTFPI D1の使用の際には起こらないと予測される。
【0017】
アプロチニンはその臨床効果が血液の内因性凝固(接触活性化)、線維素溶解の阻害およびトロンビン形成の低下に起因する強力なプラスミンおよび血漿カリクレインのインヒビターである(表4)(Blauhut et al. [1991]、Dietrich et al. [1995])。それに対して、hTFPI D1はかなり弱いプラスミンのインヒビターであり、さらに血漿カリクレインに対して阻害効果を有さない(表4)。本発明の目的はそれゆえ最小の免疫原性を有し、さらにプラスミンと血漿カリクレインとの両方を強い強度で阻害するhTFPI D1の変異体を調製することである。本発明による好ましい変異体はIC50< 100 nMにてプラスミンを阻害し、さらに好ましくは、IC50 < 10 nMである。血漿カリクレインは本発明による好ましい変異体によりIC50 < 100 nMにて、より好ましくはIC50 < 10 nMにて阻害される。
【0018】
本発明によるhTFPI D1の変異体はhTFPI D1とその他の天然または非天然 Kunitz ドメインとのキメラを形成することによって産生される。キメラの形成は、hTFPI D1の活性中心における1以上のアミノ酸をその他の天然または非天然 Kunitz ドメインの活性中心由来の対応するアミノ酸と交換することによって起こる。活性中心は対応する Kunitz ドメインのアミノ酸10〜21および31〜39 を含む。驚くべきことに、そのようにして産生したhTFPI D1の変異体はアプロチニンと匹敵するのみならず、場合によっては顕著により優れた性質を示すことが見いだされた。したがって例えば、本発明によるTFPI 変異体はアプロチニンよりも血漿カリクレインに対する阻害効果が実質的に強いことが見いだされた(表4)。さらに、本発明によるTFPI 変異体はアプロチニンと比較して類似または劇的に改善された抗凝固作用を有することが判明した(図3、図8)。ヒト血漿における線維素溶解は、本発明によるTFPI 変異体により、アプロチニンと匹敵する強度で阻害された (図2、図7)。
【0019】
本発明によるTFPI 変異体の止血作用を様々な動物モデルにおいて試験した。ラット出血モデルにおいて、本発明によるTFPI 変異体はアプロチニンと匹敵する効果を示した(図4、図9)。ラット腸間膜出血時間はアプロチニンおよび本発明によるTFPI 変異体によって匹敵する強度で低下した(図11、図12)。
【0020】
本発明によるTFPI 変異体の抗血栓作用をラット動静脈シャントモデルにおいて調べた。この場合、本発明によるTFPI 変異体はアプロチニンと匹敵する抗血栓作用を示した(図10)。
【0021】
本発明によるTFPI 変異体の心血管系に対する可能性のある望ましくない作用を麻酔したラットにおいて調べた。本発明によるTFPI 変異体は50 mg/kgまでの用量の静脈内投与により血圧およびECGに対する作用を示さなかった(表8)。
【0022】
外傷、再灌流および体外循環は体液性および細胞性カスケード系の活性化を伴う複雑な炎症プロセスの原因である。これらはとりわけ、白血球および血小板の活性化を導き、それは臨床的に観察可能な副作用、例えば、浮腫形成および臓器損傷を引き起こす(Hess PJ Jr. [2005])。様々な研究がバイパス患者の炎症状態に対するアプロチニンの可能性のある作用を示している(Asimakopoulos G. et al. [2000])。本発明によるTFPI 変異体の炎症プロセスに対する可能性のある影響を様々な細胞試験系において試験した。したがって、本発明によるTFPI 変異体はIL-8-およびC5a-誘導性好中球走化作用をアプロチニンと匹敵するかまたはわずかにそれよりも優れた強度で阻害した(図13、表6)。CAP-37-誘導性の透過性の上昇も同様に本発明によるTFPI 変異体によりアプロチニンと匹敵するかまたはわずかにそれよりも優れた強度で阻害された(図14、表7)。
【0023】
本発明によるhTFPI D1の変異体は下記一般式:
【化2】

または
【化3】

を有する。
【0024】
ここで、「X」は表1に示す番号付けによるKunitz ドメインのアミノ酸である。このアミノ酸はhTFPI D1由来でも表2および3に詳細に示されるその他の天然または非天然 Kunitz ドメイン由来でもよい。 本発明による変異体はhTFPI D1の少なくとも1つのアミノ酸の対応する 天然または非天然 Kunitz ドメインの別のアミノ酸による交換により生じる。hTFPI D1由来の対応するアミノ酸と好ましく交換されうる天然および非天然 Kunitz ドメインのアミノ酸を表5に例示的に要約する。
【0025】
hTFPI D1の以下の変異体が特に好ましい:
【化4】

【0026】
本発明によるhTFPI D1 変異体のいくつかの、トリプシン、プラスミンおよび血漿カリクレインの阻害についてのIC50 値を表4に要約する。
【0027】
本発明によるhTFPI D1のさらなる変異体を図1に示す。
【0028】
本発明はまた、1以上の本発明によるhTFPI D1の変異体を含む医薬にも関する。
【0029】
記載される新規なKunitz ドメインは以下の病的状態の治療に好適である:出血のリスクの高い手術に関連する血液減少;血栓塞栓状態 (例えば、手術、事故の後)、ショック、多発性外傷、敗血症、播種性血管内凝固 (DIC)、多臓器不全、不安定狭心症、心筋梗塞、脳卒中、塞栓症、深部静脈血栓症、炎症性障害(例えば、リウマチ、喘息)、浸潤性腫瘍増殖および転移の治療、疼痛および浮腫 (脳浮腫、脊髄浮腫)の治療、透析処置における止血の活性化の予防、皮膚老化の症状 (弾力線維症、萎縮症、しわ、血管変化、色素変化、日光角化症、黒色面皰、嚢胞)、皮膚癌の処置、皮膚癌の症状(日光角化症、基底細胞癌、扁平上皮癌、悪性黒色腫)、多発性硬化症、線維症、脳出血、脳および脊髄の炎症、脳の感染症の治療。
【0030】
例示的態様
実施例 1
ヒト組織因子インヒビタードメイン 1 (hTFPI、組織因子経路インヒビター)のクローニングおよびTFPI 変異体の作成
市販の大腸菌/出芽酵母シャトルベクター pYES2 (Invitrogen)を改変し(Apeler [2005]参照)、酵母分泌ベクターpIU10.10WおよびpIU3.12.Mの構築の出発物質とした。
pIU10.10.W
MFa1 プロモーター - MFa1-Met1-Arg2 ... プレ配列 ... Ala17-Leu18-Ala19|シグナルペプチダーゼ
pIU3.12.M
MFa1 プロモーター - MFa1-Met1-Arg2 ... プレプロ配列 ... Asp83-Lys84-Arg85|KexII プロテアーゼ
【0031】
天然のヒト TFPIのドメイン 1 (hTFPI D1、acc. P10646、アミノ酸 Met49 - Asp107、ここで: Met1 - Asp58) を(出芽酵母コドン使用のために最適化した) 合成遺伝子として、酵母分泌ベクター pIU10.10.WのAla19 (制限切断部位 BsaBI および XhoIを介して)または 酵母分泌ベクター pIU3.12.MのArg85 (PCR および制限切断部位 HindIIIおよびBamHIによって)と融合させた。
【0032】
酵母分泌ベクター pIU10.10.WへのhTFPI D1のクローニング
hTFPI D1 (配列番号2)の合成により調製した遺伝子を制限酵素 BsaBI (5’) および XhoI (3’)により酵母分泌ベクター pIU10.10.W (図5)にサブクローニングし、 ヌクレオチド配列をDNA 配列分析により確認した。pIU10.10.Wの形質転換による酵母におけるhTFPI D1 変異体の調製はN-末端アミノ酸配列 MHSFを有するhTFPI D1 変異体の発現を導く。
【0033】
hTFPI D1の酵母分泌ベクター pIU3.12.Mへのクローニング
hTFPI D1 (配列番号2)をポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)および好適な制限切断部位を備える適切な PCR プライマー(PCR プライマー 1/HindIII、5’および PCR プライマー 2/BamHI、3’)により酵母分泌ベクター pIU3.12.M (図6)にサブクローニングし、ヌクレオチド配列を DNA 配列分析により確認した。
【0034】
以下のPCR プライマー1および2をhTFPI D1の酵母分泌ベクター pIU3.12.Mへのサブクローニングに用いた。サブクローニングに用いた制限酵素(HindIII、BamHI)の認識配列に下線を施す。
【化5】

【0035】
pIU3.12.Mの形質転換による酵母におけるhTFPI D1 変異体の調製はN-末端アミノ酸配列 EAMHSFを有するhTFPI D1 変異体の発現を導く。
【0036】
hTFPI D1 変異体の作成
変異体 1: TFPI mut1 (配列番号1)
TFPI mut1は hTFPI D1と比較して以下のアミノ酸交換を有する: K15R、I17A、M18H、K19P、F21W。
【0037】
TFPI mut1はPCR および適切に改変したPCR プライマー (PCR プライマー3および4)により作成した。
【0038】
PCR プライマー 3:
【化6】

【0039】
PCR プライマー 4:
【化7】

【0040】
対応するアミノ酸交換を導くヌクレオチド交換はPCR プライマー 3においてグレーの背景と共に太字で示す。
【0041】
PCR プライマー 3および4により増幅されたDNA 断片を制限切断部位NsiI (5’)およびXhoI (3’)を介して酵母分泌ベクター pIU10.10.Wにクローニングした。セクション 2に記載したPCR プライマー (PCR プライマー 1および PCR プライマー 2)をTFPI mut1の酵母分泌ベクター PIU3.12.Mへのサブクローニングに用いた。ヌクレオチド配列を各場合においてDNA 配列分析により確認した。
【0042】
変異体 2: TFPI mut3 (配列番号4)
TFPI mut3 は hTFPI D1および TFPI mut1と比較してさらに以下のアミノ酸交換を有する: D10E、D11T、K15R、I17A、M18H、K19P、F21W (配列番号4)。
【0043】
TFPI mut3 はインビトロ突然変異誘発 (Quick-change II XL 部位特異的突然変異誘発キット、Stratageneを使用)によりTFPI mut1から出発して突然変異誘発 プライマー 1および2を用いて作成した。
【0044】
突然変異させたTFPI mut1の元の配列 (部分配列)は、以下である。
【化8】

突然変異誘発 プライマー 1:
【化9】

突然変異誘発 プライマー 1はトリプレットGAT/D10 およびGAT/D11の代わりに 改変されたトリプレットGAAおよびACT を含みしたがってアミノ酸交換 D10E およびD11Tを導く。
突然変異誘発 プライマー 2
【化10】

3’) は突然変異誘発 プライマー 1に相補的である。
【0045】
突然変異誘発は製造業者による指示に従って行い、ヌクレオチド配列はDNA 配列分析により確認した。
【0046】
実施例 2
出芽酵母の形質転換
酵母細胞、例えば株 JC34.4D (MAT□、ura3-52、suc2)を10 mlの YEPD (2% グルコース; 2% ペプトン; 1% Difco イーストエクストラクト)で培養し、OD600 nmが0.6〜0.8となると収集した。細胞を5 mlの 溶液 A (1 M ソルビトール; 10 mM bicine pH 8.35; 3% エチレングリコール)で洗浄し、0.2 mlの 溶液 Aに再懸濁し-70℃で保存した。
【0047】
TFPI mut3EAをコードする遺伝子を含むプラスミド DNA(5μg)およびキャリア DNA (50μgの ニシン精子 DNA)を凍結した細胞に添加した。細胞を37℃で5分間振盪することにより解凍した。1.5 mlの 溶液 B (40% PEG 1000; 200 mM bicine pH 8.35)を添加した後、細胞を30℃で60分間インキュベートし、ペレットにした後、1.5 mlの 溶液 C (0.15 M NaCl; 10 mM bicine pH 8.35)で洗浄し、100 μlの溶液 Cに再懸濁した。 2% 寒天を含む選抜培地に播種した。形質転換体を30℃で3日間のインキュベーションの後に得た。
【0048】
実施例 3
酵母細胞の発酵によるTFPI mut3EAの調製
栄養溶液
以下の栄養溶液をTFPI mut3EAを発現する酵母細胞の発酵に用いた:
【表1】

【0049】
微量元素溶液 4 (SL4 溶液):
【表2】

【0050】
SL4 溶液の成分を脱イオン水に溶解し、pHをNaOHでpH 3-4に調整した。栄養溶液を脱イオン水で1000 mlとし、アリコット中で-20℃で保存した。
【0051】
栄養溶液SD2およびSC5の成分を脱イオン水中に作り、pHをpH 5.5に調整した。滅菌は121℃で20分間行った。グルコースを脱イオン水中に必要な体積の1/5中に溶解し、別々に滅菌し、冷却後、残りの栄養溶液に添加した。
【0052】
株ストック
すべての酵母形質転換体の株ストックを1 ml アリコットの前培養液と1 mlの 80% グリセロール溶液を混合することにより作成し、-140℃で保存した。
【0053】
前培養
前培養発酵は50 ml (小体積本培養のため)または1 リットルの 振盪フラスコ(中体積本培養のため)にて行い、それぞれ10 または100 mlの SD2 栄養溶液を添加した。接種は株ストックまたはSD2 寒天 プレートからのシングルコロニーを用いて行った。培養物は連続振盪 (240 rpm) しながら28-30℃にて2-3日間インキュベートした。
【0054】
本培養発酵
スモールスケールでの本培養発酵は100 mlの SC5 栄養溶液を入れた1リットル振盪フラスコを用いて行った。接種は通常 3 mlの前記の前培養液を用いて行った。培養物は連続振盪 (240 rpm) しながら28-30℃で4日間インキュベートした。
【0055】
中程度のスケールでの本培養発酵の場合、Wave Biotech (Tagelswangen、CH)からのバイオリアクターシステムを用いた。具体的には、1000 mlの SC5 培地に30 mlの 前培養液を接種し、Wavebag 中で振盪速度32/分で4日間(角度: 10°; 空気供給: 0.25リットル/分)にてインキュベートした。培養液のpHを1 から3日目にモニターし、必要であれば5 M NaOHを用いて pH 5-6に調整した。1〜 3日目に、1 mlの 50% 強度 イーストエクストラクト 溶液および4 mlの 4 M グルコース 溶液を各100 ml培養液に添加した。
【0056】
1000 ml培養の場合、適宜 10または40 mlの栄養溶液を一日にわたって連続的に添加した。増殖をモニターするために、培養液のOD600 nm を様々な時点で測定した。
【0057】
4日後、細胞不含有上清を遠心分離 (15分間、6000 rpm、JA14 ローター)により収集した。
【0058】
実施例 4
発酵酵母細胞の上清からのTFPI mut3EAの精製
本培養発酵にて調製したTFPI mut3EA-含有細胞不含有上清にpHが7.8となるまで1 M NaOHを添加した。上清に存在する懸濁された粒子を2000 rpmで 4℃の遠心分離(15分間; Beckman-Allegra 6KR)により沈降させた。上清を10 ml トリプシン-アガロースカラム (Sigma-T1763)に1 ml/分にてロードした。カラムを次いで70 mlの 50 mM Tris pH 7.8、250 mM NaCl および50 mlの 50 mM Tris pH 7.8、600 mM NaClで洗浄した。TFPI mut3EA を次いで180 mlの 50 mM KCl/10 mM HCl pH 2.0を用いて溶出した。2 mlのフラクションを、中和のためにそれぞれ500 μlの200 mM Tris pH 7.6、2 M NaCl を含むチューブに収集した。TFPI mut3EA-含有フラクションを以下に記載するアッセイにおいてトリプシンの阻害を介して同定した。
【0059】
トリプシンを阻害するフラクションをプールし、カットオフが1000 ダルトンの透析チューブ (Spectra/POR6)で 2回、それぞれ2リットルの50 mM Tris pH 7.5に対して透析した。透析した内容物をカットオフが1000 ダルトンの限外ろ過膜を介してAmicon 8200 撹拌セルにて濃縮した。タンパク質濃度を次いでクーマシープラステスト(Pierce、23236)を用いて製造業者の指示に従って測定した。測定したタンパク質濃度は典型的には0.1〜6 mg/mlであった。
【0060】
代替的に、トリプシンを阻害するフラクションをトリプシン-アガロースでの精製の後にプールし、同体積の 0.1% TFAと混合し、Source 15 RPC カラムにロードした。カラムを6 mlの 0.1% TFA (HPLC-A バッファー)で洗浄し、 TFPI mut3EAを、50% HPLC-B バッファー (0.1% TFA、60% アセトニトリル)までの25 mlのグラジエントおよび100% HPLC-B バッファーまでのさらに5 mlのグラジエントを用いて溶出した。TFPI mut3EA-含有溶出液を凍結乾燥し、凍結乾燥物をフラクション当たり250 μlの50 mM Tris pH 7.5中に溶解した(taken up)。
【0061】
実施例 5
TFPI mut3EAの、トリプシン、プラスミンおよび血漿カリクレインに対する阻害強度の測定
TFPI mut3の、トリプシン、プラスミンおよび血漿カリクレインの酵素活性に対する阻害強度を白色 384-ウェルマイクロタイタープレートにおける生化学的アッセイにおいて蛍光発生基質を用いて測定した。アッセイバッファーは、50 mM Tris/Cl、pH 7.4、100 mM NaCl、5 mM CaCl2、0.08% (w/v) BSAから構成された。アッセイ条件は具体的には以下の通りであった:
【表3】

【0062】
10 μlの段階希釈のTFPI mut3EAを各ウェルに導入し、 20 μlの酵素とともに室温で5分間プレインキュベートした。反応を次いで 20 μlの基質のそれぞれへの添加により開始した。測定は励起波長360 nm、発光波長465 nmのTecan リーダーにて60-90分後に行った。用量活性プロットおよび最大半量阻害定数(IC50 値)をGraphPad Prism ソフトウェア (バージョン 4.02)を用いて判定した。
【0063】
実施例 6
hTFPI D1 変異体による線維素溶解の阻害
hTFPI D1 変異体の効果をインビトロ線維素溶解モデルで試験し、トラジロール (アプロチニン)の効果と比較した。ヒトクエン酸血漿を0.13 pM 組織因子 (TF) および164 U/ml 組織プラスミノーゲン活性化因子 (tPA) そして様々な濃度(0.06 μM〜15 μM)のhTFPI D1 変異体またはアプロチニンと混合し、37℃で40分間インキュベートした。生理的食塩水を対照として用いた。TFによる血餅形成および続いて起こるtPAによる血餅溶解をTecan Safire による吸光度 (OD405 nm)の測定により判定した。その結果得られる曲線下面積 (AUC)を計算し、物質の濃度に対してプロットした。AUCの低下は線維素溶解の阻害を意味する。後の実験において、線維素溶解を血餅形成後のODの相対的低下として規定した。ODの相対的低下の阻害は抗線維素溶解活性の尺度である。TFPI mut3EAおよびTFPI mut4EAの抗線維素溶解活性はトラジロールに匹敵していた。
【0064】
実施例 7
hTFPI D1 変異体による凝固の阻害
hTFPI D1 変異体の効果をインビトロ凝固モデルにおいて試験し、トラジロール (アプロチニン)の効果と比較した。ヒトクエン酸血漿を12 mM CaCl2 と混合して凝固を誘導し、そして様々な濃度(0.1 μM〜25 μM)のhTFPI D1 変異体またはアプロチニンと混合した。生理的食塩水を対照として用いた。405 nm でのODを37℃で90分間のインキュベーションの間の凝固の尺度として測定した。最大半量凝固時間をそれから算出した。最大半量凝固時間の延長は凝固の阻害を意味する。トラジロールと比較して、TFPI mut3EAの抗凝固活性は上昇しており、TFPI mut4EAではわずかに上昇していた。
【0065】
実施例 8
ラット出血モデルにおけるhTFPI D1 変異体の止血作用
麻酔したラットの両方の頚静脈をポリエチレンカテーテルでカニューレ処置した。正常出血時間を延長するために、ラットに実験期間中にわたりtPA (組織プラスミン活性化因子) (8 mg/kg/h)を注入した。tPA 注入の開始の10分後、動物を注入またはボーラス投与およびその後の持続注入の組合せによりTFPI D1 変異体またはトラジロール (アプロチニン)で処理した。第一の実験において、TFPI mut3EAまたはトラジロールを6 mg/kg/hの用量で持続注入により投与した。第二の実験において、動物を1.5 mg/kg (ボーラス)および 3 mg/kg/h (注入) から5 mg/kgおよび10 mg/kg/hまでの用量でTFPI mut4EA またはトラジロールで処理した。両方の実験において生理的食塩水を対照として用いた。注入開始の15分後、尾部 (2 mm)の切除を行い、尾部の先端を生理的食塩水に37℃で浸漬し、出血時間を測定した。出血時間を切除と目視できる出血の停止との時間間隔として規定した。出血時間の短縮は止血作用の尺度であった。TFPI mut3EA および TFPI mut4EAの止血作用はトラジロールに匹敵するものであった。
【0066】
実施例 9
ラット動静脈 (AV) シャントモデルにおけるTFPI mut4EAの抗血栓作用
TFPI mut4EAの抗血栓作用をラット動静脈シャントモデルで調べた。麻酔したラットの頚動脈および頚静脈をポリエチレンカテーテルでカニューレ処置し、カテーテルを小さなチューブ(tubing)により互いに連結した(シャント)。粗いナイロンループをチューブに導入し、血栓形成表面として作用させた。血栓形成をシャントを介した血液の15分間の体外循環の後に追跡した。その結果生じた血栓をチューブから取り出し、血栓重量を測定した。ラットをボーラス投与およびその後の持続注入によりTFPI mut4EAまたはトラジロール (アプロチニン)で処理した。用いた用量は 0.15 mg/kg (ボーラス) および0.3 mg/kg/h (注入)から5 mg/kgおよび10 mg/kg/hまでであった。生理的食塩水を対照として用いた。血栓重量の低下は抗血栓作用の尺度であった。TFPI mut4EAはトラジロールに匹敵する抗血栓作用を示した。
【0067】
実施例 10
ラットにおける相対的腸間膜出血時間に対するトラジロール およびTFPI mut4EA の影響
ウィスターラット(250-300 g)に腹腔内麻酔(チオペンタール Na、100 mg/kg) をかけ静脈カテーテルを装着した。開腹後、小腸のループを体外に移した。温かい塩類溶液で洗浄しながら、小腸間膜動脈を小型ハサミ(microscissor)により実体顕微鏡下で切断した。物質の投与の前の3つの対照カットと被験物質の投与後の1つのカットの出血時間を測定した。物質による処理後の出血時間は各個々の動物における物質の投与前の対照出血時間と関連していた。
【0068】
トラジロールは用量依存的に腸間膜出血時間を低下させた(図11)。ボーラスとして1.5 mg/kg トラジロールの投与、次いで注入 (3 mg/kg/h)は出血時間に有意な効果を有さなかった。より高用量の ボーラスとして5 mg/kgおよび注入として10または30 mg/kg/hはそれぞれ出血時間を 28.5 ± 7.4% および 42.7 ± 4.2%低下させた。
【0069】
TFPI mut4EA (図12)は腸間膜出血時間をトラジロールと同様に低下させた。5 mg/kg TFPI mut4EAのボーラスとして、および10 mg/kg/hの注入としての投与は出血時間を23.6%低下させた。TFPI mut4EAの最大の効果はボーラスとして5 mg/kgおよび注入として30 mg/kg/hの投与の後に観察された。この用量において、TFPI mut4EAは出血時間を31.7%低下させた。
【0070】
実施例 11
麻酔したラットにおける心血管系に対するhTFPI D1 変異体の効果の調査
ラットをペントバルビタール Naで麻酔した。実験期間中、ラットは自然に呼吸し、体温は加温マットにより一定に維持した。動脈圧を圧力トランスデューサーおよび圧力測定ブリッジを用いて頚動脈におけるカテーテルを介して測定した。ECGを3標準肢誘導法を用いてECG 増幅器により記録した。測定したシグナルをソフトウェアにより獲得し、評価し、そして保存した。収縮期、拡張期および平均血圧、ならびに心拍数を血圧シグナルから計算した。 ECGをさらに実験後に手作業により評価した。血圧およびECG シグナルのアナログ記録も行った。
【0071】
カテーテルの設置および経過相(course phase)(一定の血圧および心拍数)の後、TFPI mut3EAまたはTFPI mut4EAをボーラス注射または持続注入として静脈内投与した。規定された観察期間の後、大用量の麻酔により動物を屠殺することにより実験を終わらせた。
【0072】
実施例 12
hTFPI D1 変異体による好中球のIL-8- および C5a-誘導性走化作用の阻害
好中球を標準的方法により血液から単離した。好中球の走化作用は2容器系にて行った。HUVEC 単層を用いた膜(3 μm ポアサイズ、ポリカーボネート、Falcon)上で24時間培養した。
【0073】
蛍光色素をあらかじめ入れておいたRPMI 1640 培地中の1 × 105 好中球を、上側容器に入れた。下側容器は様々な濃度の刺激または一定刺激濃度 (IL-8: 5 nMまたは C5a: 10 nM)および様々な濃度の被験物質であるトラジロール (アプロチニン)、TFPI mut3EAまたは TFPI mut4EAを含んでいた。調べるべき物質は両方の容器に存在していた。試験混合物を37℃、5% CO2で45分間インキュベートした。インキュベーションの後、下側容器に遊走した細胞を測定した(蛍光測定、計数)。
【0074】
実施例 13
hTFPI D1 変異体によるCAP-37-誘導性透過性上昇の阻害
HUVECの集密単層を2容器系 (Falcon)における挿入膜上で培養した。この目的のために、挿入当たり2 × 105 細胞を播種し、(37℃/5% CO2) 18-20時間インキュベートした。単層の連続性をトリパンブルー-結合アルブミン溶液により実験の開始前に確認した。CAP37 (5 μM)を上側容器に入れた。透過性の変化を様々な濃度(10 μM-0.01 μM)の被験物質であるトラジロール (アプロチニン)、TFPI mut3EA またはTFPI mut4EAの存在下で3時間測定した。トリパンブルー-結合アルブミン溶液の流出をこの場合、透過性変化の指標とした。ODを590 nmで測定した。
【0075】
参考文献
【表4】

【表5】

【0076】
略語
AUC:曲線下面積
BPTI:ウシ膵臓トリプシンインヒビター
DIC:播種性血管内凝固
DNA:デオキシリボ核酸
ECG:心電図
HepG2:ヒト 肝細胞腫細胞株
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
hTFPI:ヒト組織因子経路インヒビター 1
hTFPI D1:ヒト組織因子経路 インヒビター 1 Kunitz ドメイン 1
HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞
IC50:酵素活性の50% 阻害でのインヒビター濃度
IL-8:インターロイキン 8
i.v.:静脈内
kDa:キロダルトン
LACI:リポタンパク質-結合凝固インヒビター
M:モル濃度(mol/l)
Min:分
MOF:多臓器不全
OD:吸光度
PEG:ポリエチレングリコール
PCR :ポリメラーゼ連鎖反応
Rpm:分当たり回転数
TF:組織因子
TFA:トリフルオロ酢酸
TPA:組織プラスミノーゲン活性化因子
U:ユニット (酵素活性の単位)
【0077】
図面の説明
図1は、本発明によるhTFPI D1のいくつかの好ましい変異体のアミノ酸配列、アプロチニン (BPTI)およびhTFPI D1の配列を示す。
【0078】
図2は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による変異体 TFPI mut3EA (配列番号19)のヒト血漿における線維素溶解に対する(インビトロ) 効果を示す。
【0079】
図3は、トラジロール (アプロチニン) および本発明による変異体TFPI mut3 EA(配列番号19)のヒト血漿における凝固に対する(インビトロ) 効果を示す。
【0080】
図4は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による変異体 TFPI mut3EA (配列番号19)のTPAの存在下でのラットにおける出血時間に対する(インビボ)効果を示す。
【0081】
図5は、ベクター pIU10.10.Wにクローニングされた合成 hTFPI D1 ドメイン (hTFPI D1、太字)のヌクレオチド配列およびそれに由来するアミノ酸配列を示す。サブクローニングに用いた制限酵素 (BsaBI、XhoI)の認識配列は下線で示す。
【0082】
図6は、ベクター pIU3.12.Mにクローニングされた合成 hTFPI D1 ドメイン (hTFPI D1、太字) のヌクレオチド配列およびそれに由来するアミノ酸配列を示す。サブクローニングに用いた制限酵素(HindIII、BamHI) の認識配列は下線で示し、使用したPCR プライマーはグレーの背景で示す。
【0083】
図7は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のヒト血漿における線維素溶解に対する(インビトロ) 効果を示す。
【0084】
図8は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のヒト血漿における凝固に対する(インビトロ) 効果を示す。
【0085】
図9は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のTPA の存在下でのラットにおける出血時間に対する(インビボ) 効果を示す。
【0086】
図10は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による TFPI mut4EA 変異体のラット動静脈 (AV) シャントモデルにおける抗血栓作用を示す。
【0087】
図11は、ラットにおける相対的腸間膜出血時間に対するトラジロールの効果を示す。被験物質の投与後の出血時間は物質の投与前の平均対照出血時間と関連していた。値は平均± SEMとして示した、n = 8。
*媒体から有意差、P < 0.05; ***媒体から有意差、P < 0.001。
【0088】
図12は、ラットにおける相対的腸間膜出血時間に対する本発明によるTFPI mut4EA 変異体の効果を示す。被験物質の投与後の出血時間は物質の投与前の平均対照出血時間と関連していた。値は平均± SEMとして示した、n = 8。
**媒体から有意差、P < 0.01; ***媒体から有意差、P < 0.001。
【0089】
図13は、本発明によるTFPI mut4EA 変異体による好中球のIL-8-誘導性走化作用の阻害を示す。
【0090】
図14は、本発明によるTFPI mut4EA 変異体による透過性のCAP-37-誘導性上昇の阻害を示す。
【0091】
表1 Kunitz ドメインの定義
【表6】

【0092】
表 2:いくつかの天然 Kunitz ドメインの配列
【表7】

【0093】
表 3:いくつかの非天然 Kunitz ドメインの配列
【表8】

【0094】
表 4:ヒトトリプシン、プラスミンおよび血漿カリクレインの阻害についてのいくつかのKunitz ドメインのIC50 値
【表9】

【0095】
表 5: : hTFPI D1からの対応するアミノ酸により交換可能な天然または非天然 Kunitz ドメインの阻害活性を有する領域からのアミノ酸
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、本発明によるhTFPI D1のいくつかの好ましい変異体のアミノ酸配列、アプロチニン (BPTI)およびhTFPI D1の配列を示す。
【図2】図2は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による変異体 TFPI mut3EA (配列番号19)のヒト血漿における線維素溶解に対する(インビトロ) 効果を示す。
【図3】図3は、トラジロール (アプロチニン) および本発明による変異体TFPI mut3 EA(配列番号19)のヒト血漿における凝固に対する(インビトロ) 効果を示す。
【図4】図4は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による変異体 TFPI mut3EA (配列番号19)のTPAの存在下でのラットにおける出血時間に対する(インビボ)効果を示す。
【図5】図5は、ベクター pIU10.10.Wにクローニングされた合成 hTFPI D1 ドメイン (hTFPI D1、太字)のヌクレオチド配列およびそれに由来するアミノ酸配列を示す。サブクローニングに用いた制限酵素 (BsaBI、XhoI)の認識配列は下線で示す。
【図6】図6は、ベクター pIU3.12.Mにクローニングされた合成 hTFPI D1 ドメイン (hTFPI D1、太字) のヌクレオチド配列およびそれに由来するアミノ酸配列を示す。サブクローニングに用いた制限酵素(HindIII、BamHI) の認識配列は下線で示し、使用したPCR プライマーはグレーの背景で示す。
【図7】図7は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のヒト血漿における線維素溶解に対する(インビトロ) 効果を示す。
【図8】図8は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のヒト血漿における凝固に対する(インビトロ) 効果を示す。
【図9】図9は、トラジロール (アプロチニン)および本発明によるTFPI mut4EA 変異体(配列番号20)のTPA の存在下でのラットにおける出血時間に対する(インビボ) 効果を示す。
【図10】図10は、トラジロール (アプロチニン)および本発明による TFPI mut4EA 変異体のラット動静脈 (AV) シャントモデルにおける抗血栓作用を示す。
【図11】図11は、ラットにおける相対的腸間膜出血時間に対するトラジロールの効果を示す。被験物質の投与後の出血時間は物質の投与前の平均対照出血時間と関連していた。値は平均± SEMとして示した、n = 8。*媒体から有意差、P < 0.05; ***媒体から有意差、P < 0.001。
【図12】図12は、ラットにおける相対的腸間膜出血時間に対する本発明によるTFPI mut4EA 変異体の効果を示す。被験物質の投与後の出血時間は物質の投与前の平均対照出血時間と関連していた。値は平均± SEMとして示した、n = 8。**媒体から有意差、P < 0.01; ***媒体から有意差、P < 0.001。
【図13】図13は、本発明によるTFPI mut4EA 変異体による好中球のIL-8-誘導性走化作用の阻害を示す。
【図14】図14は、本発明によるTFPI mut4EA 変異体による透過性のCAP-37-誘導性上昇の阻害を示す。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然配列と比較して位置X10、X11、X15、X16、X17、X18、X19、X20、X21およびX22において少なくとも1つの突然変異を有する下記一般式のhTFPI D1 変異体:
【化1】

式中、
X10 は、アミノ酸D、E、Y、VまたはS、
X11 は、アミノ酸DまたはT、
X15 は、アミノ酸KまたはR、
X16 は、アミノ酸A、
X17 は、アミノ酸I、R、SまたはA、
X18 は、アミノ酸M、I、FまたはH、
X19 は、アミノ酸K、IまたはP、
X20 は、アミノ酸R、
X21 は、アミノ酸FまたはW、および、
X22 は、アミノ酸FまたはW、
ただし、配列番号1の配列のペプチド(TFPI mut1)を除く。
【請求項2】
N 末端にアミノ酸EおよびAをさらに含む請求項 1のペプチド。
【請求項3】
以下を含む群から選択される請求項 1のペプチド:
配列番号3 (TFPI mut13)、配列番号4 (TFPI mut3)、配列番号5 (TFPI mut4)、配列番号7 (TFPI mut2)、配列番号8 (TFPI mut5)、配列番号9 (TFPI mut6)、配列番号10 (TFPI ランダム)、配列番号11 (TFPI mut7)、配列番号12 (TFPI mut8)、配列番号13 (TFPI mut9)、配列番号14 (TFPI mut10)、配列番号15 (TFPI mut11)、および配列番号16 (TFPI mut12)。
【請求項4】
以下を含む群から選択される請求項 2のペプチド:
配列番号17 (TFPI mut15)、配列番号18 (TFPI mut13EA)、配列番号19 (TFPI mut3EA)、配列番号20 (TFPI mut4EA)、配列番号21 (TFPI mut2EA)、配列番号22 (TFPI mut5EA)、配列番号23 (TFPI mut6EA)、配列番号24 (TFPI ランダムEA)、配列番号25 (TFPI mut7EA)、配列番号26 (TFPI mut8EA)、配列番号27 (TFPI mut9EA)、配列番号28 (TFPI mut10EA)、配列番号29 (TFPI mut11EA)、配列番号30 (TFPI mut12EA)、および配列番号31 (TFPI mut15EA)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかのペプチドの1つをコードするDNA。
【請求項6】
請求項 5のDNAを含むベクター。
【請求項7】
請求項 5のDNAを含む微生物。
【請求項8】
請求項 5の微生物の発現による請求項1〜4のいずれかのペプチドの調製方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかのペプチドの1以上を含む医薬。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−528831(P2009−528831A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557638(P2008−557638)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001753
【国際公開番号】WO2007/101602
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】