説明

キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子用分散剤、これを用いたナノ粒子を分散させる方法、及びこれを含むナノ粒子含有薄膜

【課題】キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子を、エポキシド基を含む高分子基質内に分散させるためのナノ粒子用分散剤、これを用いたナノ粒子を分散させる方法、及びこれを含むナノ粒子含有薄膜の提供。
【解決手段】下記化学式1:


(Aは、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルケニル基、等からなる群から選択され、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、Rは、−H、−CH、−OH、−NH、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、及びリン酸基またはその塩、からなる群から選択され、nは2〜45の整数である)で表される、キャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤、これを用いたナノ粒子の分散方法、及びこれを含むナノ粒子含有薄膜に関する。より詳しくは、ナノ粒子に表面結合しているキャップ分子に親和的な疎水性部分と、エポキシド基と構造的に類似なエチレングリコール誘導体の親水性部分とからなり、ナノ粒子表面のキャップ分子の間に挿入する方法によってナノ粒子の表面をエポキシド基と親和的にすることにより、エポキシド基を含む高分子基質内におけるナノ粒子の分散性を向上させるナノ粒子用分散剤、これを用いたナノ粒子の分散方法、及びこれを含むナノ粒子含有薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット(quantum dot)は、量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示すナノサイズの半導体物質であって、優れた物理的、化学的及び電気的特性により、各種電気、光学素子に用いられている。
【0003】
特に、半導体ナノ粒子は、サイズ調節によって制御可能な光学的特性を有するため、近年光学素子分野で多くの注目を浴びてきた。ナノ粒子が適切な光学的特性の基質内でよく分散している場合、安定で硬いフィルム(薄膜)の形態でこれを含む発光素子は、均一で高い発光効率を示す。
【0004】
ところが、ナノ粒子は、粒子間の凝集力が非常に大きいため、凝集体を形成する傾向があり、その場合、それ自体の優れた特性が十分発揮できないという問題点がある。よって、最近は、ナノ粒子の発光素子分野における応用性をより拡大させるために、様々な高分子基質内で、ナノ粒子の高い分散度を見出すことが重要な課題となっている。
【0005】
このような高分子基質のうち、エポキシド基を含むエポキシ樹脂は、硬化の際に大きく収縮せず、光学的に透明な固体を形成する特性を有するため、カプセル化技術(encapsulation)及び光学素子分野で有用な物質として期待されている。
【0006】
ところが、エポキシ樹脂は、比較的高い粘度をもっており、一般的なナノ粒子の製造方法である化学的湿式方法によって合成されたナノ粒子の場合、その表面に結合しているキャップ分子の鎖が短くかつエポキシド基と親和的な官能基を持っていないため、ナノ粒子をエポキシ樹脂に溶解及び分散させることが容易ではないという問題点がある。
【0007】
したがって、発光素子の光学特性を向上させるためには、高濃度のナノ粒子が、エポキシ樹脂のようなエポキシド基を含む高分子基質内で、凝集または沈殿することなくよく分散できるように、長鎖とエポキシド基に親和的な官能基を持つ新しいタイプの分散剤が求められる。
【0008】
従来のナノ粒子の分散性を向上させるための方法として、ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子を、使用しようとする溶媒または高分子基質に親和的な官能基で置換する表面改質(surface modification)が試みられてきた。
【0009】
ところが、この種の置換方法は、官能基の置換過程中にナノ粒子の表面を損傷させて効率を低下させるうえ、ナノ粒子の表面に強く結合しているキャップ分子よりさらに強い結合力を持つ官能基を使用しなければならないということから、キャップ分子の種類に拘束され、ナノ粒子から遊離されたキャップ分子を除去することが容易ではないなどの、多くの欠点及び制約がある。
【0010】
かかる問題点を解決するために、金ナノ粒子に表面結合している疎水性のキャップ分子を官能基で置換する代わりに、前記キャップ分子の間に、親水性部分を持つ分散剤を挿入させる方法によって、前記金ナノ粒子を水溶性に変形させる方法が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0011】
しかし、前記方法は、金ナノ粒子を水によく溶解できるように水溶性になるように修飾させる方法についてのみ開示しており、粘度の高い高分子基質内でナノ粒子をよく分散させるための分散剤または方法については全く開示されていない。
【0012】
また、特許文献1では、特定の物質のキャプチャーに有用なキャプチャーコーティング成分(capture coating component)と、前記キャプチャー成分への物質の非特異的結合を防止するためのシールディングコーティング成分(shielding coating component)とを含む混合単一層でコートされて水溶性特性を持つ金属ナノ粒子及びその製造方法について開示されている。
【0013】
ところが、前記方法も、金などの金属ナノ粒子を、活性化のために水性環境を必要とする生体分子(例えば、タンパク質)との親和性を持つように水によく溶解させる方法についてのみ開示しており、発光素子の製造に有用なエポキシ樹脂などの高分子基質内でナノ粒子をよく分散させるための分散剤については全く開示していない。
【特許文献1】米国公開特許第2005/0074551号明細書
【非特許文献1】SCIENCE VOL 304 23 APRIL(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子を、その表面を損傷させることなく、エポキシド基を含む高分子基質内によく分散させる分散剤を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、前記分散剤を用いて、キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子を、エポキシド基を含む高分子基質内に容易に分散させ、ナノ粒子を分散させる方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記分散剤を含む、優れた発光効率を示すナノ粒子含有薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、下記化学式1:
【0018】
【化1】

【0019】
式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルケニル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキニル基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のヘテロアルキル基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリール基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数5〜30のシクロアルキル基及び置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロシクロアルキル基からなる群から選択され、
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、Rは、−H、−CH、−OH、−NH、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、及びリン酸基またはその塩、からなる群から選択され、
nは2〜45の整数である、
で表されることを特徴とする、キャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の分散剤を用いると、キャップ分子の種類を問わず、またナノ粒子の表面を損傷させることなく、疎水性を呈する発光性のナノ粒子を、エポキシド基を含む高分子基質内で安定的かつ均一に分散させることができるので、その固有の発光特性が変化しないながら向上した発光効率を示す、優れたナノ粒子含有薄膜及び発光素子を製造することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明で使用される「キャップ分子(capping molecule)」とは、ナノ粒子の製造の際に、ナノ粒子間の凝集を防止するためにその表面に結合させる物質を意味する。すなわち、コロイド状に合成されるナノ粒子は、その表面が非常に不安定であって互いに凝集する虞があるので、ナノ粒子の凝集を防止するために、表面に特定の物質を結合させて合成するのであるが、その際に使用される物質を「キャップ分子」という。
【0022】
通常、キャップ分子は、ナノ粒子の表面に結合する結合基(ヘッド)と疎水性アルキル基(テール)とからなり、場合によっては、前記テール部分に親水性の官能基が導入されることもある。また、合成過程で使用されるキャップ分子は、その種類に応じてナノ粒子の大きさ及び形状を決定する役割も果たすため、当業者は、これにつき分散剤(surfactant)という表現を使わず、有機キャップ分子(organic capping molecule)または有機キャップ配位子(organic capping ligand)いう用語を使う。
【0023】
以下、本発明に係るナノ粒子用分散剤についてより詳細に説明する。
【0024】
本発明に係るナノ粒子用分散剤は、ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の疎水性アルキル鎖に親和的な疎水性部分(hydrophobic moiety:下記化学式1のA部分)と、高分子基質内のエポキシド基に親和的な親水性部分(hydrophilic moiety:下記化学式1のAを除いた残り部分)とを含んでなる。
【0025】
前記疎水性部分は主に嵩高く硬い(bulky and stiff)炭化水素鎖からなり、前記親水性部分はエポキシド基と構造的に類似なポリエチレングリコールまたはその誘導体からなる。前記疎水性部分と前記親水性部分はいずれも、紫外線及び可視光線領域を吸収しない特性を持つため、これをナノ粒子に対する分散剤として用いても、前記粒子固有の発光特性を変化させたり発光効率を低下させたりしない。
【0026】
本発明に係るナノ粒子用分散剤をさらに具体的に説明すると、本発明に係るナノ粒子用分散剤は、
下記化学式1:
【0027】
【化2】

【0028】
式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルケニル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキニル基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のヘテロアルキル基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリール基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数5〜30のシクロアルキル基及び置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロシクロアルキル基からなる群から選択され、
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、この際、水素原子が特に好ましく、
は、−H、−CH、−OH、−NH、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、及びリン酸基またはその塩、からなる群から選択され、この際、Rは、特に−OHが好ましく、
nは2〜45の整数である、
で表されることを特徴とする、キャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤である。
【0029】
この際、前記炭素数1〜30のアルキル基の具体的な例として、特に制限はないが、直鎖状または分枝状であってもよく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、iso−アミル、ヘキシル、イソペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、2−エチルヘキシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシルなどが挙げられ、前記アルキル基に含まれる少なくとも一つの水素原子は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン基、またはヒドラゾン基で置換可能である。
【0030】
前記炭素数1〜30のアルケニル基または前記炭素数1〜30のアルキニル基の具体例としては、特に制限はないが、前記で定義されたアルキル基の中間または末端に炭素二重結合または三重結合を含有しているものを意味し、前記アルケニル基またはアルキニル基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基に含まれる少なくとも一つの水素原子は、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン基、またはヒドラゾン基で置換可能である。
【0031】
前記炭素数6〜30のアリール基は、少なくとも一つの芳香族環を含む炭素環式芳香族系を意味し、前記環は、ペンダント基として共に結合または融合することができる。アリール基の具体的な例としては、特に制限はないが、フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニル、テトラヒドロナフチルなどの芳香族基を挙げることができ、前記アリール基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルキル基の場合と同様の置換基で置換可能である。置換のアリール基としては、特に、1,1,3,3−テトラメチルブチル基が好ましい。
【0032】
前記アリールアルキル基は、前記で定義されたアリール基において水素原子の一部が低級アルキル、例えばメチル、エチル、プロピルなどで置換されたものを意味する。例えば、ベンジル、フェニルエチルなどがある。前記アリールアルキル基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基の場合と同様の置換基で置換可能である。
【0033】
前記ヘテロアルキル基は、前記アルキル基の主鎖の少なくとも一つの炭素原子がN、O、PまたはSなどの原子で置換されたものを意味する。
【0034】
前記ヘテロアリール基は、N、O、PまたはSからなる群から選択される少なくとも一種のヘテロ原子を含み、残りの環原子がCである炭素数6〜30の環芳香族系を意味し、前記環は、ペンダント方式で共に結合または融合することができる。前記ヘテロアリール基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基の場合と同様の置換基で置換可能である。
【0035】
前記ヘテロアリールアルキル基は、前記ヘテロアリール基の水素原子の一部が低級アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピルなどで置換されたものを意味する。前記ヘテロアリールアルキルの少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基の場合と同様の置換基で置換可能である。
【0036】
前記シクロアルキル基は、炭素原子数5〜30の1価単環式系を意味する。前記シクロアルキル基の具体的な例として、特に制限はないが、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルなどが挙げられる。前記シクロアルキル基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基の場合と同様の置換基で置換可能である。
【0037】
前記ヘテロシクロアルキル基は、N、O、PおよびSからなる群から選択される少なくとも1種の原子を含み、残りの環原子がCである炭素数5〜30の1価の単環式系を意味する。前記シクロアルキル基の少なくとも一つの水素原子は、前記アルケニル基の場合と同様の置換基で置換可能である。
【0038】
本発明の分散剤は、前記化学式1における疎水性部分(A)が、ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の疎水性アルキル鎖に親和的なので、これを有機溶媒の中のナノ粒子と混合した後、前記溶媒を蒸発させる場合、図1に示すように、ファン・デル・ワールス力による界面相互作用(interfacial interaction)によって前記A部分がキャップ分子の疎水性鎖の間に容易に挿入される。その結果、ナノ粒子は、一層長くなった疎水性の炭化水素鎖を有し、エポキシド基と構造的に類似する厚いポリエチレングリコール膜を持つ。すなわち、ナノ粒子コアと二重膜(bilayer)構造のシェルとからなるナノ粒子が形成され、前記ポリエチレングリコール膜のエチレングリコール基が、エポキシド基を含む高分子基質内で前記ナノ粒子を中心として四方に展開されてナノ粒子間の衝突及び凝集を防ぐ分散剤の役割を果たす。
【0039】
結論的に、本発明の分散剤を用いると、キャップ分子の置換が不要なので、置換過程中に発生するナノ粒子表面の損傷、すなわちトラップ発生を防止してナノ粒子固有の光学的特性の低下を減少させることができ、ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の種類を問わず、ナノ粒子の表面をエポキシド基と親和的にかつ疎水性の炭化水素鎖部分が多く含まれるように変形させることができ、短鎖のキャッピング物質で取り囲まれたナノ粒子でも、エポキシド基を含む長いアルキル鎖を有する高分子基質内で容易に分散させることができるという利点がある。
【0040】
このような本発明の分散剤としては、特に制限されるのではないが、前記化学式1においてnが10〜45の整数であり、前記A部分の炭素数と前記n値の比が2:1〜2:3のものを使用することが好ましい。
【0041】
分散剤に含まれるエチレングリコールの数が多ければ多いほど、エポキシド基との親和度及びナノ粒子間の間隔を増加させることができ、分散剤の疎水性炭化水素鎖部分とエポキシド基に親和的なポリエチレングリコール部分の長さ比が2:1〜2:3と適切に均衡を保てば保つほど、ナノ粒子の安定性を増加させることができる。その結果、高分子基質内におけるナノ粒子の分散度がより向上する。
【0042】
また、本発明の分散剤は、前記化学式1においてnが10〜45の整数であり、前記A部分が少なくとも一つの二重結合または三重結合を含むことが好ましく、また、前記化学式1においてnが10〜45の整数であり、前記A部分が少なくとも一つのベンゼン環を含むことが好ましい。この場合、ベンゼン環の数は、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜2個である。より好ましくは、前記疎水性部分(A部分)を成す炭化水素鎖が少なくとも一つの二重結合、三重結合またはベンゼン環を含みながら、分岐状の構造を持つことが良い。
【0043】
前記A部分は、少なくとも一つの二重結合または三重結合を含むことが好ましい。この場合、二重結合の数は、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個である。また、三重結合の数は、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個である。
【0044】
前記疎水性部分(A部分)を成す炭化水素鎖が少なくとも一つの二重結合、三重結合、ベンゼン環、側鎖などを含み、本発明の分散剤が嵩高く硬い構造を持つ場合には、前記分散剤の挿入力(insertion force)が増加するため、前記分散剤が効果的に挿入されてナノ粒子の安定性及び分散度を一層増加させることができる。
【0045】
本発明で使用可能な分散剤としては、具体的に、下記化学式2〜7で表される化合物が挙げられるが、必ずしもこれに限定されるのではない。
【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
【化7】

【0051】
【化8】

【0052】
上記化学式2〜7のうち、特に好ましいものは、化学式2〜5である。
【0053】
また、化学式2における二重結合の位置は、特に制限されない。
【0054】
上記の分散剤は、当業者に既知の方法で合成してもよいし、市場に流通しているものを購入することもできる。市場に流通しているものに関しては、後述する実施例において、詳説する。
【0055】
一方、本発明の分散剤を用いて分散させようとするナノ粒子は、キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子であって、金属ナノ粒子や半導体ナノ粒子など、化学的湿式方法で合成された大部分のナノ結晶を含む。具体的に、本発明のナノ粒子は、Au、Ag、Pt、Pd、Co、CuおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属ナノ粒子;CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSeおよびHgTeを含むII−VI族化合物半導体ナノ粒子;GaN、GaP、GaAs、InP、InAsからなる群から選択される少なくとも1種を含むIII−V族化合物半導体ナノ粒子;または、PbS、PbSeおよびPbTeからなる群から選択される少なくとも1種を含む鉛含有ナノ粒子;使用することができる。前記金属ナノ粒子、前記III−V族化合物半導体ナノ粒子または前記鉛含有ナノ粒子は、単独で用いても混合物として用いてもよい。
【0056】
また、好ましくは、10nm以下の大きさを持つコア−シェル構造または合金形態の発光性半導体ナノ粒子を使用することができる。上記前記ナノ粒子の大きさは、好ましくは1〜10nmである。
【0057】
この際、前記ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子は、特に制限されるのではないが、ホスフィンオキシド基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の結合基と、疎水性のアルキル鎖とからなるものを使用することができる。
【0058】
ここで、「疎水性のアルキル鎖」とは、置換または非置換、いずれの形態でもよく、直鎖であっても分岐鎖を有してもよい。疎水性のアルキル鎖の具体例としては、特に制限はないが、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、2−エチルヘキシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシルおよびドコシルなどが挙げられる。前記アルキル基に含まれている少なくとも一つの水素原子は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン基、またはヒドラゾン基で置換可能である。すなわち、アルキル基の炭素数が8個以上で、少なくとも1つの水素原子が異なる置換基(作用基)または原子に置換されると、疎水性が強まる。
【0059】
本発明のナノ粒子を分散させようとする基質としては、カプセル化技術及び発光素子分野などで多く用いられるエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂の種類は問わず、どのようなものにも使用できる。エポキシ樹脂の種類の具体例としては、特に制限はないが、例えば、ハロゲン化ビスフェノール型、レゾルシン型、ビスフェノールF型、テトラヒドロキシフェニルエタン型、ポリアルコール・ポリグリコール型、グリセリントリエーテル型、ポリオレフィン型およびビニルシクロヘキセンオキシドなどの脂環型などが挙げられる。ただし、必ずしもこれに限定されるのではなく、エポキシド基を含む高分子基質であればいずれでも制限なしに使用することができる。
【0060】
本発明は、また、ナノ粒子に表面結合しているキャップ分子の間に、上述した化学式1の分散剤を挿入する工程を含むことを特徴とする、エポキシド基を含む高分子基質にナノ粒子を分散させる方法を提供する。
【0061】
本発明のナノ粒子を分散させる方法は、ナノ粒子の分散性を向上させるために、従来の分散剤の置換方法の代わりに、挿入方法を使用するため、挿入過程中に表面トラップが発生しないため、ナノ粒子固有の光学的特性の低下が殆どなく、ナノ粒子に表面結合しているキャップ分子の種類を問わず、ナノ粒子をエポキシド基含有高分子基質内によく分散させることができるという利点がある。
【0062】
この際、前記分散剤を挿入する方法としては、本発明の属する技術分野で公知になっている方法を使用することができ、具体的には、図2に示すように、(a)表面にキャップ分子が結合しているナノ粒子を疎水性溶媒に分散させる工程と、(b)前記(a)工程で得た溶液に本発明の分散剤を混合する工程と、(c)前記(b)工程で得た溶液に親水性溶媒を添加して攪拌する工程と、(d)前記(c)工程で得た混合溶液を蒸発させて疎水性溶媒と親水性溶媒を順次除去する工程と、を含む方法を使用することができる。
【0063】
前記工程において、前記ナノ粒子と分散剤の混合質量比は1:25〜1:75であることが好ましい。その理由は、過量の分散剤を混合する場合、高分子の硬化に難しさがあり得るためである。
【0064】
前記疎水性溶媒としてはクロロホルム、ヘキサンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種などを使用することができ、前記親水性溶媒としてはエタノール、メタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種などを使用することができるが、必ずしもこれに限定されるのではない。但し、疎水性溶媒の沸点が親水性溶媒の沸点と同様またはより低くなければならない。
【0065】
本発明はまた、キャップ分子に表面結合しているナノ粒子と、前記本発明の分散剤と、エポキシド基を含む高分子基質とを含むことを特徴とする、ナノ粒子含有薄膜を提供する。
【0066】
本発明のナノ粒子含有薄膜は、上述した本発明の分散剤を含むことにより、前記分散剤がナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の間に挿入され、ナノ粒子の安定性及びエポキシド基を含む高分子基質内における分散性を向上させるため、一定の条件での硬化処理の後にも、前記ナノ粒子が凝集体を形成せず、基質内に均一によく分散しうる。これにより、本発明のナノ粒子含有薄膜は、光学的に透明で光学的特性の低下が殆どない優れた特性を示す。すなわち、ナノ粒子の発光波長、及び発光波長分布などの固有な発光特性に変化がなく、優れた発光効率を示す。
【0067】
このようなナノ粒子含有薄膜は、フラッシュメモリ、DRAM、ハードディスク、発光素子など様々な分野に適用可能であるが、特にこれを発光層として用いる場合、高い発光効率を示す優れた発光素子を提供することができる。
【0068】
前記ナノ粒子含有薄膜の製造には、本発明の属する技術分野における通常用いられる公知の方法を利用することができ、具体的に、例えばエポキシド基を含む高分子基質とナノ粒子とを混合して攪拌した後、前記混合物を基板上に一般的なコーティング方法でコートし、常温〜200℃で30分以上硬化させる方法を使用することができる。
【0069】
この際、ナノ粒子含有薄膜が形成される基板としては、ガラス、ITOガラス、水晶(quartz)、シリコンウェハ(Si wafer)、シリカ塗布基板、アルミナ塗布基板などを使用することができ、前記基板は、混合物をコートする前に、予めその表面を通常の方法で前処理して使用することができる。
【0070】
前記コーティング方法としては、ドロップキャスティング(drop casting)、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、スクリーンプリンティングなどの方法を使用することができるが、必ずしもこれに限定されるのではない。
【0071】
前記ナノ粒子とエポキシド基を含む高分子基質間の混合質量比は1:100〜1:1000であることが好ましいが、その理由は、ナノ粒子の量が増加すればするほど、分散剤の量がさらに増加し、高分子基質の硬化に困難性を伴う虞があるためである。
【0072】
前記エポキシド基を含む高分子基質としては、適切な光学的特性を持つエポキシ樹脂を使用することが好ましいが、必ずしもこれに限定されるのではなく、エポキシド基を含むものであればいずれでも制限なしに使用することができる。
【0073】
また、前記ナノ粒子含有薄膜の厚さは50〜200μmの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の構成及び作用を実施例及び実験例を挙げて詳細に説明するが、これは本発明の態様を例示するためのもので、本発明の技術的範囲を制限するものと解釈されてはならないのはいうまでもない。
【0075】
実施例1
まず、オレイン酸カドミウム(cadmium oleates)を製造するために、窒素雰囲気の下で20mLのトリオクチルアミン(trioctylamine:TOA)、1.6mmoLの酸化カドミウム(CdO)及び6.4mmoLのオレイン酸(OA)を反応させた。昇温に伴い、前記溶液内の酸化カドミウムの赤色が薄くなり始めた。オレイン酸カドミウムを完全に製造するために、前記溶液が無色に変わるまで少なくとも30分以上、反応温度を300℃に維持した。この時点で、前記反応溶液に0.2モル濃度のSe−TOP(trioctylphosphine)錯体溶液1mLを注入した後、300℃で90秒間さらに反応させた。前記反応混合物の色がオレンジ、赤、暗赤などに変化し始めた。その後、予め準備した0.2モル濃度のS−TOP錯体溶液を約1mL/分の速度で1滴ずつ注入した。エタノールを加えて604nmで発光するオレイン酸でキャップされたCdSe/CdSナノ粒子の沈殿物を遠心分離によって得た。
【0076】
ここで得たオレイン酸でキャップされたCdSe/CdSナノ粒子10mgをクロロホルム1mLに分散させた後、前記溶液に、下記化学式2で表される本発明の分散剤(商品名:Brij98、製造社:Aldrich Chemicals)500mgを混合した。前記混合物にエタノール1mLを添加した後、前記分散剤の挿入を完結させるために真空処理によって前記クロロホルムとエタノールを順次蒸発させた。その結果、前記分散剤が挿入されたCdSe/CdSナノ粒子が得られた。
【0077】
【化9】

【0078】
その後、ナノ粒子含有薄膜サンプルを製造するために、水晶スライドを予め洗浄した。上記で得た本発明の分散剤が挿入されたCdSe/CdSナノ粒子500mgをエポキシ樹脂1mLに混合した後、攪拌した。前記混合物を水晶基板上に滴下した後、前記エポキシ樹脂混合物上に別の水晶基板を配置させた。膜厚を調節するために、約150μm厚さのカバーガラス2枚を基板の間に挿入させた後、クリップで前記水晶基板を固定させ、150℃で1時間硬化させて光学的に透明なナノ粒子含有薄膜サンプル(厚さ:139μm)を得た。
【0079】
実施例2〜6
本発明の分散剤としてそれぞれ下記表1に記載の化合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて本発明の分散剤が挿入されたCdSe/CdSナノ粒子を得た。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1
オレイン酸(OA)でキャップされたCdSe/CdSナノ粒子を別の分散剤なしに使用した以外は前記実施例1と同様にして、ナノ粒子含有薄膜サンプルを得た。
【0082】
その後、ナノ粒子含有薄膜サンプルを製造するために、水晶スライドを予め洗浄した。前記で得たオレイン酸でキャップされたCdSe/CdSナノ粒子10mgをエポキシ樹脂1mLに混合した後、攪拌した。前記混合物を水晶基板上に滴下した後、前記エポキシ樹脂混合物上に別の水晶基板を配置させた。膜厚を調節するために、厚さ約150μmのカバーガラス2枚を基板の間に挿入させた後、クリップで前記水晶基板を固定させ、150℃で1時間硬化させ、光学的に透明なナノ粒子含有薄膜サンプル(厚さ:139μm)を得た。
【0083】
比較例2〜4
前記比較例1で得たオレイン酸でキャップされたCdSe/CdSナノ粒子10mgをトルエン1mLに分散させた後、ここに下記表2に記載の物質をオレイン酸と同一の量で入れ、常温で3日間攪拌させ、それぞれアミン、ピリジン、チオールで置換キャップされたCdSe/CdSナノ粒子を得た。
【0084】
【表2】

【0085】
実験例1:本発明の分散剤の挿入有無及びそれによるナノ粒子の分散度合いの測定
本発明の分散剤がナノ粒子に確かに挿入されたかを確認するために、前記実施例1で得た本発明の分散剤が挿入されたCdSe/CdSナノ粒子、及び前記比較例1で得たオレイン酸でキャップされたナノ粒子をそれぞれエタノールに分散させた後、その分散の度合いを肉眼で観察した。前記分散の度合いは、各混合溶液の後ろに物体を置いた後、その物体が透けて見えるか否かによって判断した。
【0086】
その結果を図3に示した。図3は前記実施例1及び前記比較例1で得た各ナノ粒子のエタノールに対する分散の度合いを肉眼で観察した写真である。図3を参照すると、本発明の分散剤が挿入された実施例1のナノ粒子を分散させた溶液の場合には、物体が透けて見えるほど透明であるが、オレイン酸でキャップされた比較例1のナノ粒子を分散させた溶液の場合には、不透明であって物体が透けて見えないことを確認することができる。これは、本発明の分散剤がナノ粒子のキャップ分子の間に挿入され、それによりナノ粒子がエタノールの中に凝集なしによく分散したことを示唆する。
【0087】
実験例2:本発明の分散剤のエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散度合いの測定
本発明の分散剤の親水性部分を成すエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散の度合いを確認するために、前記実施例1で得た本発明の分散剤が挿入されたナノ粒子、及び前記実施例5で得たナノ粒子をそれぞれエタノールに分散させた後、その分散の度合いを肉眼で観察した。
【0088】
その結果を図4に示した。図4は本発明の分散剤の親水性部分を成すエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散の度合いを肉眼で観察した写真である。図4を参照すると、エチレングリコール数の多い分散剤(Brij98、エチレングリコールの数:20個)が挿入された実施例1のナノ粒子が、エチレングリコール数の少ない分散剤(Brij52、エチレングリコールの数:2個)が挿入された実施例5のナノ粒子に比べてエタノールの中にさらによく分散して透明に見えることを確認することができる。
【0089】
さらに、前記の各分散溶液に365nmUVランプを照らしてナノ粒子の発光の度合いを確認した。その結果を図5に示した。図5は本発明の分散剤の親水性部分を成すエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散の度合いをUVランプによるナノ粒子の発光度合いから確認した写真である。図5を参照すると、前記の肉眼観察結果と同様に、エチレングリコール数の多い分散剤(Brij98、エチレングリコールの数:20個)が挿入された実施例1のナノ粒子が、エチレングリコール数の少ない分散剤(Brij52、エチレングリコールの数:2個)が挿入された実施例5のナノ粒子に比べてさらに明るい赤色の蛍光を発することを確認することができる。
【0090】
実験例3:本発明の分散剤の炭化水素鎖内の二重結合の有無による挿入力及びそれによるナノ粒子の分散度合いの測定
本発明の分散剤の疎水性部分を成す炭化水素鎖内の二重結合の有無による挿入力、及びそれによるナノ粒子の分散の度合いを確認するために、炭化水素鎖の炭素数及びエチレングリコール数が同一であり且つ前記炭化水素鎖内の二重結合の有無のみが異なる分散剤を用いて、下記の実験を行った。すなわち、前記実施例1で得た本発明の分散剤が挿入されたナノ粒子及び前記実施例2で得たナノ粒子をそれぞれエタノールに分散させた後、前記各分散溶液に365nmUVランプを照らしてナノ粒子の発光度合いを確認した。
【0091】
その結果を図6に示した。図6は本発明の分散剤の疎水性部分を成す炭化水素鎖内の二重結合の有無による挿入力、及びそれによるナノ粒子の分散の度合いをUVランプによるナノ粒子の発光度合いから確認した写真である。図6を参照すると、炭化水素鎖内に二重結合を含む分散剤(Brij98)が挿入された実施例1のナノ粒子が、二重結合を含んでいない分散剤(Brij78)が挿入された実施例2のナノ粒子に比べてさらに明るい赤色の蛍光を発することを確認することができる。この結果から、炭化水素鎖内に二重結合が含まれば含まれるほど、本発明の分散剤の挿入力が増加し、それによりナノ粒子の分散の度合いも向上することが分かる。
【0092】
実験例4:本発明の分散剤の炭化水素鎖の嵩高く硬い性質による挿入力及びそれによるナノ粒子の分散度合いの測定
本発明の分散剤の疎水性部分を成す炭化水素鎖の嵩高く硬い性質による挿入力、及びそれによるナノ粒子の分散の度合いを確認するために、エチレングリコールの数が同一であり且つ炭化水素鎖の構造が異なる分散剤を用いて、下記の実験を行った。すなわち、前記実施例3で得たナノ粒子、前記実施例4で得たナノ粒子、及び前記実施例6で得たナノ粒子をそれぞれエタノールに分散させた後、その分散の度合いを肉眼で観察した。
【0093】
その結果を図7に示した。図7は本発明の疎水性部分を成す炭化水素鎖の嵩高く硬い性質による挿入力、及びそれによるナノ粒子の分散の度合いを肉眼で観察した写真である。図7において、黒い矢印は凝集して沈殿したナノ粒子を表示する。図7を参照すると、線形の炭化水素鎖よりなる分散剤(Brij56)が挿入された実施例6のナノ粒子、ベンゼン環を含む炭化水素鎖よりなる分散剤(Tergitol NP−9)が挿入された実施例3のナノ粒子、分枝状のベンゼン環を含む炭化水素鎖よりなる分散剤(TX−100)が挿入された実施例4のナノ粒子、の順に、凝集して沈殿したナノ粒子の量が多いことを確認することができる。これは、炭化水素鎖がベンゼン環または側鎖などを含んで嵩高く硬い構造を持てば持つほど、本発明の分散剤の挿入力が増加し、それによりナノ粒子の分散の度合いも向上することを示唆する。
【0094】
実験例5:本発明の分散剤の構造によるエポキシ樹脂内におけるナノ粒子の分散度合いの測定
本発明の分散剤の構造によるナノ粒子のエポキシ樹脂内における分散の度合いを確認するために、前記実施例1〜6で得たナノ粒子をそれぞれエポキシ樹脂に分散させた後、前記の各混合物を200μmシリンジフィルターにかける。ナノ粒子の分散の度合いは、前記ナノ粒子とエポキシ樹脂の混合物がフィルターを全部通過する場合には「Good」、一部通過する場合には「Moderate」、通過の程度が低い場合には「Low」で表示した。その結果を表3に示した。
【0095】
【表3】

【0096】
表3の結果より、本発明の分散剤がエチレングリコールを10個以上含むと、また炭化水素鎖内に少なくとも1種の二重結合、三重結合、ベンゼン環または側鎖などを含んで嵩高く硬い構造を持てば持つほど、ナノ粒子への挿入力が増加してエポキシ樹脂内におけるナノ粒子の分散性を向上させたことが分かった。
【0097】
実験例6:本発明に係るナノ粒子含有薄膜サンプルの特性評価
(1)透明度合いの評価
前記実施例1及び比較例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルの透明の度合いを確認するために、各薄膜サンプルの後ろに、縞模様のある紙を当てた後、前記縞模様が透けて見えるか否かを観察した。
【0098】
その結果を図8に示した。図8は本発明の実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルの透明の度合いを肉眼で観察した写真を示す。図8を参照すると、本発明の実施例1の薄膜サンプルは透明であって紙の縞模様が鮮明に透けて見えるが、これに対し、比較例1のナノ粒子含有薄膜サンプルは不透明であって縞模様が透けて見えないことを確認することができる。
【0099】
また、前記実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルの後ろに字の書かれた本を当てた後、前記字が透けて見えるか否かを観察した。この際、リファレンス(reference)として、エポキシ樹脂のみからなる薄膜サンプルを使用した。
【0100】
その結果を図9に示した。図9は本発明の実施例1及び比較例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルの透明の度合いをエポキシ樹脂薄膜サンプルと比較して観察した写真である。図9を参照すると、本発明の実施例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルは、エポキシ樹脂のみからなる薄膜サンプルと透明の度合いが殆ど同様であって字が明確に見えるが、これに対し、比較例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルの場合には、不透明であって字がよく見えないことを確認することができる。
【0101】
(2)ナノ粒子の凝集確認
前記実施例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルをFIBで約90nmの厚さに切った後、透過型電子顕微鏡で観察してナノ粒子の凝集を確認した。その結果を図10に示した。図10は本発明の実施例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。図10を参照すると、本発明の実施例1に係る薄膜サンプルには、凝集したナノ粒子が観察されないことを確認することができる。これは、本発明の分散剤の挿入されたナノ粒子がエポキシ樹脂の中によく分散していることを示唆する。
【0102】
(3)発光特性の評価
前記実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルに対して発光スペクトル(photoluminescence spectrum)を測定し、その結果を図11に示した。この際、前記発光スペクトルの積分値を410nmで観察された光吸収率で割って標準化させた。
【0103】
図11を参照すると、本発明の実施例1で得た薄膜サンプルの場合には、最大発光波長が604nmであって、CdSe/CdSナノ粒子固有の発光波長と差がないが、これに対し、本発明の分散剤を使用していない比較例1で得た薄膜サンプルの場合には、最大発光波長が608nmであって、レッドシフト(red shift)が起こったことを確認することができる。これは、前記比較例1の薄膜サンプルの場合、ナノ粒子の凝集が発生したことを示唆する。
【0104】
また、比較例1で得た薄膜サンプルは、本発明の実施例1で得た薄膜サンプルの発光強度の63%に相当する発光強度のみを示すものと測定された。これは、本発明の分散剤を用いる場合、優れた発光効率を示すナノ粒子含有薄膜を提供することができることを意味する。
【0105】
実験例7:比較例1〜4で得たナノ粒子の発光スペクトルの測定
前記比較例1〜4で得た各ナノ粒子をトルエンに分散させた後、410nmで励起させて発光スペクトルを測定した。その結果を図12に示した。図12を参照すると、ナノ粒子の表面にキャップされているオレイン酸をアミン、ピリジン、チオールの他の官能基で置換する場合、発光効率が著しく減少することを確認することができる。これは、官能基の置換過程中にナノ粒子の表面に損傷があったことを意味する。また、官能基の種類によって発光効率の減少程度が異なることを確認することができるが、この結果から、官能基の置換方法はナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の種類に依存的であることが分かる。
【0106】
結論的に、前記の実験結果より、キャップ分子が表面に結合しているナノ粒子を、エポキシド基を含む高分子基質内に分散させるにおいて、前記キャップ分子を官能基で置換する従来の置換方法はナノ粒子表面の損傷及び効率などいろいろの問題点があるが、本発明が提示する新しいタイプの分散剤がこれに対する解決策になることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】ナノ粒子の表面に結合しているキャップ分子の間に本発明の分散剤が挿入された状態を示す模式図である。
【図2】本発明の分散剤が挿入されたナノ粒子の製造過程を示す概略図である。
【図3】実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子のエタノールに対する分散の度合いを肉眼で観察した写真である。
【図4】本発明の分散剤の親水性部分を成すエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散の度合いを肉眼で観察した写真である。
【図5】本発明の分散剤の親水性部分を成すエチレングリコールの数によるナノ粒子の分散の度合いをUVランプによる発光の度合いから確認した写真である。
【図6】本発明の分散剤の疎水性部分を成す炭化水素鎖内の二重結合有無による挿入力及びそれによるナノ粒子の分散の度合いをUVランプによる発光の度合いから確認した写真である。
【図7】本発明の分散剤の疎水性部分を成す炭化水素鎖の嵩高く硬い性質による挿入力及びそれによるナノ粒子の分散の度合いを肉眼で観察した写真である。
【図8】本発明の実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルの透明の度合いを肉眼で観察した写真である。
【図9】本発明の実施例1及び比較例2で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルの透明の度合いをエポキシ樹脂薄膜サンプルと比較して観察した写真である。
【図10】本発明の実施例1で得たナノ粒子含有薄膜サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図11】本発明の実施例1及び比較例1で得た各ナノ粒子含有薄膜サンプルの発光スペクトルである。
【図12】本発明の比較例1〜4で得た各ナノ粒子の発光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルケニル基、置換または非置換の炭素数1〜30のアルキニル基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜30のヘテロアルキル基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリール基、置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロアリールアルキル基、置換または非置換の炭素数5〜30のシクロアルキル基及び置換または非置換の炭素数2〜30のヘテロシクロアルキル基からなる群から選択され、
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、
は、−H、−CH、−OH、−NH、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、及びリン酸基またはその塩、からなる群から選択され、
nは2〜45の整数である、
で表されることを特徴とする、キャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項2】
前記分散剤が、エポキシド基を含む高分子基質に使用されることを特徴とする、請求項1に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項3】
前記化学式1において、
nが、10〜45の整数であることを特徴とする、請求項1または2に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項4】
前記化学式1において、
nが、10〜45の整数であり、
前記A部分が、少なくとも一つの二重結合または三重結合を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項5】
前記化学式1において、
nが、10〜45の整数であり、
前記A部分が、少なくとも一つのベンゼン環を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項6】
前記分散剤が、下記化学式2〜5のいずれか一つで表されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項7】
前記ナノ粒子が、金属ナノ粒子、II−VI族化合物半導体ナノ粒子、III−V族化合物半導体ナノ粒子、及び鉛含有ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子が、Au、Ag、Pt、Pd、Co、Cu及びMoからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項9】
前記II−VI族化合物半導体ナノ粒子が、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe及びHgTeからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項10】
前記III−V族化合物半導体ナノ粒子が、GaN、GaP、GaAs、InP及びInAsからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項11】
前記鉛含有ナノ粒子が、PbS、PbSe及びPbTeからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、10nm以下のコア−シェル構造または合金形態であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項13】
前記キャップ分子が、ホスフィンオキシド基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の結合基と、
疎水性のアルキル鎖と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項14】
前記エポキシド基を含む高分子基質が、エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載のキャップ分子が表面結合しているナノ粒子用分散剤。
【請求項15】
ナノ粒子に表面結合しているキャップ分子の間に、請求項1〜14のいずれか1項に記載のナノ粒子用分散剤を挿入する工程を含むことを特徴とする、エポキシド基を含む高分子基質にナノ粒子を分散させる方法。
【請求項16】
前記ナノ粒子用分散剤の挿入の工程が、
(a)キャップ分子が表面結合しているナノ粒子を、疎水性溶媒に分散させる工程と、
(b)前記(a)工程で得た溶液に、前記請求項1〜14のいずれか1項に記載の分散剤を混合する工程と、
(c)前記(b)工程で得た溶液に、親水性溶媒を添加して攪拌する工程と、
(d)前記(c)工程で得た混合溶液を蒸発させて、疎水性溶媒及び親水性溶媒を順次除去する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項15に記載のナノ粒子を分散させる方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子と、分散剤と、の混合質量比が、1:25〜1:75であることを特徴とする、請求項16に記載のナノ粒子を分散させる方法。
【請求項18】
前記疎水性溶媒が、クロロホルム、ヘキサン及びシクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項16または17に記載のナノ粒子を分散させる方法。
【請求項19】
前記親水性溶媒が、エタノール、メタノール及びイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項16〜18のいずれか1項に記載のナノ粒子を分散させる方法。
【請求項20】
キャップ分子が表面結合しているナノ粒子と、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の分散剤と、
エポキシド基を含む高分子基質と、
を含むことを特徴とする、ナノ粒子含有薄膜。
【請求項21】
前記エポキシド基を含む高分子基質が、エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項20に記載のナノ粒子含有薄膜。
【請求項22】
請求項20または21に記載のナノ粒子含有薄膜を発光層として含むことを特徴とする、発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−181810(P2007−181810A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309328(P2006−309328)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】