説明

キャパシタフィルム

【課題】キャパシタの絶縁体に用いられ、高温下においても破壊耐電圧および耐熱性に優れるキャパシタフィルムの提供を目的としている。
【解決手段】シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部(ただし、(A)と(B)との合
計を100重量部とする。)とを含んでなるプロピレン系重合体組成物からなるキャパシタフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタの絶縁体に用いられるキャパシタフィルムに関する。詳しくは、特定のシンジオタクティックプロピレン重合体を含み、高温下においても破壊耐電圧および耐熱性に優れるキャパシタフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタの絶縁体に用いられるキャパシタフィルムにおいては、特に高温下での電気絶縁性(破壊耐電圧)が重要であり、高温下で、少しでも高い破壊耐電圧を有するフィルムが要求されている。また、キャパシタの小型化や、コンデンサー容量の増加に対する要望に伴い、キャパシタフィルムは、薄肉化が進んでおり、このような薄肉フィルムでも、高い破壊耐電圧を有することが望まれている。
【0003】
一方、高分子材料の一つであるポリプロピレンは、成型加工性が容易であり、機械的強度が高く、また、電気絶縁性や化学的性質などにも優れることから、キャパシタフィルムなど、各種の電気機器の材料として幅広く使用されている。
【0004】
ポリプロピレンを用いたキャパシタフィルムとしては、たとえば、フィルム中に含まれる不純物とその量をコントロールして得たフィルム(特許文献1、2など)や、特定のタクティシティーを有するポリプロピレンを延伸してなるフィルム(特許文献3、4)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、高い破壊耐電圧を有するフィルムを得るために、フィルム中の不純物量に着目して、その量の低減を図っても、不純物量の低減には限度があるため、市場が要求する、より高い破壊耐電圧を有するフィルムを提供することはできない。また、アイソタクティックポリプロピレンから得られるフィルムでは、結晶(球晶)サイズが大きく、結晶/非晶界面にかかった電圧の影響により、クラック(破壊)を起こすと言う問題がある。
【特許文献1】特開平06−236709号公報
【特許文献2】特開2006−143975号公報
【特許文献3】特開平08−156118号公報
【特許文献4】特開平09−235325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、高温下においてもキャパシタの絶縁体に用いられる、破壊耐電圧および耐熱性に優れるキャパシタフィルムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のシンジオタクティックプロピレン重合体からなるキャパシタフィルム、または、特定のシンジオタクティックプロピレン重合体とプロピレン・α-オレフィン共重合体とを含んでなるプロピレン系
重合体組成物からなるキャパシタフィルムが、極めて微細な結晶(球晶)構造を有するために、破壊耐電圧および耐熱性に優れるため、高温下においてもキャパシタの絶縁体用として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
〔1〕シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と、
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部(ただし、(A)と(B)
との合計を100重量部とする。)と
を含んでなるプロピレン系重合体組成物からなるキャパシタフィルムであって、
該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)が下記要件(a)を、該プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)が下記要件(b)をそれぞれ充足することを特徴とするキ
ャパシタフィルム。
【0009】
(a):13C-NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分
率)が85%以上であり、DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%(ただし、該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)中の構成単位の全量を100モル%とする。)を超える量で含有する。
【0010】
(b):プロピレンから導かれる構成単位を55〜90モル%の量で含有し、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を10〜45モ
ル%(ただし、プロピレンから導かれる構成単位と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位との合計を100モル%とする。)の量で含有し、JIS K−6721に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFR
が0.01〜100g/10分の範囲にあり、かつ下記要件(b−1)および(b−2)のいずれか一つ以上を満たす。
(b−1):13C-NMR法により測定したシンジオタクティックトライアッド分率(rr
分率)が60%以上である。
(b−2):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η](dL/g)と前記MFR(g/10分、230℃、2.16kg荷重)とが下記の関係式を満たす。
【0011】
1.50×MFR(-0.20)≦[η]≦2.65×MFR(-0.20)
〔2〕前記プロピレン系重合体組成物の(1)針侵入温度が145℃以上であることを特徴とする〔1〕に記載のキャパシタフィルム。
【0012】
〔3〕前記プロピレン系重合体組成物の(1)針侵入温度が145℃以上であり、(2)引張り弾性率が100〜2000MPaの範囲にあり、(3)厚さ1mmのプレスシートの内部ヘイズ値が30%以下であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のキャパシタフィルム。
【0013】
〔4〕前記シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1〜10dL/gの範囲にあり、示差走査熱量計(DSC)により求めた融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のキャパシタフィルム。
【0014】
〔5〕前記プロピレン・α-オレフィン重合体(B)のGPCにより求めた分子量分布
(Mw/Mn)が3.5以下である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のキャパシタフィルム。
【0015】
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のキャパシタフィルムを用いたキャパシタ。
また、前記プロピレン系重合体組成物が、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)およびプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)に加えて、さらにアイソタクティッ
クポリプロピレンを含んでいることも好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温下においても、破壊耐電圧および耐熱性に優れるキャパシタフィ
ルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のキャパシタフィルムは、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部(ただし、
(A)と(B)との合計を100重量部とする。)とを含んでなるプロピレン系重合体組成物から得られ、該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)が下記要件(a)を、該プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)が下記要件(b)をそれぞれ充足すること
を特徴としている。
【0018】
(a):13C-NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分
率)が85%以上であり、DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%(ただし、該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)中の構成単位の全量を100モル%とする。)を超える量で含有する。
【0019】
(b):プロピレンから導かれる構成単位を55〜90モル%の量で含有し、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を10〜45モ
ル%(ただし、プロピレンから導かれる構成単位と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位との合計を100モル%とする。)の量で含有し、JIS K−6721に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFR
が0.01〜100g/10分の範囲にあり、かつ下記要件(b−1)および(b−2)のいずれか一つ以上を満たす。
【0020】
(b−1):13C-NMR法により測定したシンジオタクティックトライアッド分率(rr分率)が60%以上である。
(b−2):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η](dL/g)と前記MFR(g/10分、230℃、2.16kg荷重)とが下記の関係式を満たす。
【0021】
1.50×MFR(-0.20)≦[η]≦2.65×MFR(-0.20)
以下、本発明のキャパシタフィルムを構成する成分について、それぞれ詳細に説明する。
【0022】
[シンジオタクティックプロピレン重合体(A)]
本発明で用いられるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、ホモポリプロピレンであっても、プロピレンおよび炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを
除く)のランダム共重合体であっても、プロピレンブロック共重合体であってもよいが、好ましくはホモポリプロピレンあるいはプロピレンおよび炭素原子数2〜20のα-オレ
フィン(プロピレンを除く)のランダム共重合体であり、特に好ましくはホモポリプロピレン、プロピレンおよび炭素原子数2〜10のα-オレフィン(プロピレンを除く)のラ
ンダム共重合体あるいはプロピレン、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα-オレフィ
ンの共重合体であり、最も好ましくは、耐熱性などの点からホモポリプロピレンである。
【0023】
ここで、プロピレン以外の炭素原子数2〜20のα-オレフィンとしては、エチレン、
1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン
、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンまたは1-エイコセンなどが挙げられる。
【0024】
プロピレンから導かれる構成単位は、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレ
ンを含む)から導かれる構成単位の合計100モル%中、通常90モル%を超える量、好ましくは91モル%以上含まれている。なお、シンジオタクティックプロピレン重合体(
A)がプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体である場合には、炭素原子数2〜2
0のα-オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0.3〜7モル%の量
で、好ましくは0.3〜6モル%、特に好ましくは0.3〜5モル%の量で含有している。
【0025】
前記シンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、NMR法により測定したシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分率、ペンタッドシンジオタクティシティー)が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上であるものであり、rrrr分率がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、成形性、耐熱性と透明性に優れ、結晶性のポリプロピレンとしての特性が良好である点で好ましい。また、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)を用いることで、得られるキャパシタフィルムは、単位体積あたりの結晶核数が多いことからフィルム中の結晶(球晶)サイズが極めて小さい。そのため、球晶の界面にかかった電圧の影響によるクラック(破壊)は生じず、その結果、得られるフィルムは、優れた破壊耐電圧を有する。なおrrrr分率の上限は特にはないが、通常は、例えば99%以下である。
【0026】
このシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分率)は、以下のようにして測定される。
rrrr分率は、13C-NMRスペクトルにおけるPrrrr(プロピレン単位が5単位連続し
てシンジオタクティック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式(1)により求められる。
【0027】
rrrr分率(%)=100×Prrrr/Pw…(1)
NMR測定は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入する。そして日本電子製GX-500型NMR測定装置を用い、120℃で13C-NMR測定を行う。積算回数は10,000回以上とする。
【0028】
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)を135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]は、通常0.1〜10dL/g、好ましくは0.5〜10dL/g、より好ましくは0.5〜8dL/g、特に好ましくは0.95〜8dL/g、さらに好ましくは1〜8、よりさらに好ましくは1.4〜8dL/g、よりさらに好ましくは1.4〜5dL/gである。なかでも1.4〜5dL/gの範囲にあることが好ましい。このような極限粘度[η]値のシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、良好な流動性を示し、他の成分と配合しやすく、また得られた組成物から機械的強度に優れたキャパシタフィルムが得られる傾向がある。
【0029】
さらに、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の示差走査熱量計(DSC)測定により得られる融点(Tm)は、145℃以上、好ましくは147℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、特に好ましくは155℃以上であり、さらに好ましくは156℃以上である。なおTmの上限は特にはないが、通常は、例えば170℃以下である。また、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の、示差走査熱量計(DSC)測定により得られる融解熱量(ΔH)は、通常40mJ/mg以上、好ましくは45mJ/mg以上、特に好ましくは50mJ/mg以上、さらに好ましくは52mJ/mg以上、
よりさらに好ましくは55mJ/mg以上である。融解熱量(ΔH)が、前述の範囲にあるとき、得られるキャパシタフィルムは、優れた耐熱性・機械強度を有するため、好ましい。
【0030】
示差走査熱量計測定は、例えば、次のようにして行われる。試料5.00mg程度を専
用アルミパンに詰め、パーキンエルマー社製DSCPyris1またはDSC7を用い、
30℃から200℃までを320℃/minで昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から30℃までを10℃/minで降温し、30℃でさらに5分間保持したのち、次いで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線から融点(Tm)および融解熱量(ΔH)を求める。なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピークを、融点(Tm)と定義する。
【0031】
融点(Tm)がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、成形性、耐熱性および機械特性に優れ、結晶性のポリプロピレンとしての特性が良好である。そのため、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)を用いることで、得られるキャパシタフィルムは、特に高温下においても、優れた破壊耐電圧を有することができる。融点(Tm)がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、後述するような触媒系を用い、後述する重合条件を設定することで、融点(Tm)がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)を製造できる。
【0032】
前記シンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、架橋メタロセン化合物を重合触媒として使用した重合方法によって製造することができる。具体的には、国際公開第2006/123759号パンフレットに記載された方法により製造することができる。
【0033】
本発明で用いられるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)およびプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の合計
100重量部中、100〜50重量部、好ましくは100〜55重量部、特に好ましくは100〜60重量部含まれる。シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の含有量が上記の範囲にあると、耐熱性・機械強度の観点から好ましい。
【0034】
また、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)のGPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn、ポリスチレン換算、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0035】
[プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)]
本発明で用いられるプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)はプロピレンから導か
れる構成単位を55〜90モル%の量で含有し、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(
プロピレンを除く)から導かれる構成単位を10〜45モル%の量で含有する。
【0036】
本発明において使用される場合、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)が(A)および(B)の合計100重量部中、50重量部以上含まれる場合、プロピレン・α-
オレフィン共重合体(B)はプロピレンから導かれる構成単位を55〜90モル%、好ましくは55〜85モル%、より好ましくは60〜85モル%、炭素原子数2〜20のα-
オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を10〜45モル%、好ましくは15〜45モル%、より好ましくは15〜40モル%含有する。一方、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の含有量が(A)および(B)の合計100重量部中、50重量部未満である場合、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)はプロピレンから導
かれる構成単位を55〜90モル%、好ましくは65〜85モル%、より好ましくは70〜85モル%、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる
構成単位を10〜45モル%、好ましくは15〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%含有する。
【0037】
なお、プロピレンから導かれる構成単位と、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プ
ロピレンを除く)から導かれる構成単位との合計は100モル%である。
また、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを除く)としては、エチレン
、3-メチル-1-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテ
ン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。特にエチレン、1-ブテン、1-ヘキ
セン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-オクテンが好ましい。
【0038】
また、上記のプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)のうち、プロピレン・エチレ
ン共重合体が好ましく、さらに好ましくはプロピレンから導かれる構成単位と、エチレンから導かれる構成単位と、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-オクテンの中から選ばれる少なくとも1種のモノマー(以下「HAOコモノマー」ともいう。)から導かれる構成単位とからなり、エチレンから導かれる構成単位の割合(モル%)がHAOコモノマーから導かれる構成単位の割合(モル%)よりも多いプロピレン・エチレン・HAO共重合体が用いられる。
【0039】
本発明で用いられるプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、JIS K−67
21に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFRが0.01〜100g/
分の範囲にあり、かつ下記要件(b−1)および(b−2)のいずれか一つ以上を満たす。
【0040】
(b−1):13C-NMR法により測定したシンジオタクティックトライアッド分率(rr)が60%以上である。
(b−2):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η](dL/g)とJIS K−6721に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFR(g/10分)と
が下記の関係式を満たす。
【0041】
1.50×MFR(-0.20)≦[η]≦2.65×MFR(-0.20)
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、JIS K−6721に準拠して
230℃、2.16kg荷重にて測定したMFRが0.01〜100g/10分の範囲にあることが好ましく、0.02〜100g/10分の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
要件(b−1)について以下に説明する。
(b−1):プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の13C−NMR法により測定
したシンジオタクティックトライアッド分率(rr分率、トライアッドシンジオタクティシティー)が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上であり、rr分率がこの範囲にあるプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、シンジオタクテ
ィックプロピレン重合体(A)と相溶性が良好で好ましい。
【0043】
(b−1)を満たす重合体は、例えば、シンジオタクティックポリプロピレンを製造可能な触媒の存在下でプロピレンとα−オレフィンとを共重合して得ることもできるし、後述するような触媒を用いて製造することもできる。
【0044】
rr分率は、13C-NMRスペクトルにおけるPrr(プロピレン単位が3単位連続して
シンジオタクティック結合した部位における第2単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式(2)により求められる。
【0045】
rr分率(%)=100×Prr/Pw…(2)
ここで、mr由来の吸収(プロピレン単位が3単位のうち、少なくともシンジオタクティック結合とアイソタクティック結合との両方から由来する吸収、Pmr(吸収強度)の
決定に用いる)、rr由来の吸収(プロピレン単位が3単位連続してシンジオタクティック結合した部位における第2単位目のメチル基に由来する吸収、Prr(吸収強度)の決定に用いる)、またはmm由来の吸収(プロピレン単位が3単位連続してアイソタクティック結合した部位における第2単位目のメチル基に由来する吸収、Pmm(吸収強度)の決定に用いる)と、コモノマーに由来する吸収とが重なる場合には、コモノマー成分の寄与を差し引かずにそのまま算出する。
【0046】
具体的には、特開2002-097325号公報の[0018]〜[0031]段落に記載
された「シンジオタクティシティパラメータ(SP値)」の求め方の記載のうち、[00
18]〜[0023]段落を行い、第1領域、第2領域、第3領域のシグナルの積算強度か
ら上記式(2)により計算することにより求める。
【0047】
また本発明では、特にrr1値、具体的には特開2002-097325号公報の[0018]〜[0031]段落に記載された「シンジオタクティシティパラメータ(SP値)」の求め方に従って求めた値が、60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上であることがより好ましい。rr1値は、言い換えると前記rr値の計算におい
て、mr由来の吸収(プロピレン単位が3単位のうち、少なくともシンジオタクティック結合とアイソタクティック結合の両方から由来する吸収、Pmr(吸収強度)の決定に用いる)、rr由来の吸収(プロピレン単位が3単位連続してシンジオタクティック結合した部位における第2単位目のメチル基に由来する吸収、Prr(吸収強度)の決定に用いる)、またはmm由来の吸収(プロピレン単位が3単位連続してアイソタクティック結合した部位における第2単位目のメチル基に由来する吸収、Pmm(吸収強度)の決定に用いる強度)と、コモノマーに由来する吸収とが重なる場合には、コモノマー成分の寄与を差し引いたものである。
【0048】
rr値およびrr1値の測定において、NMR測定は、例えば次のようにして行われる
。すなわち、試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入する。そして日本電子製GX-400型NMR測定
装置を用い、120℃で13C-NMR測定を行う。積算回数は、8,000回以上とする。
【0049】
次に要件(b−2)について説明する。
(b−2):前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、135℃、デカリン
中で測定した極限粘度[η](dL/g)とJIS K−6721に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFR(g/10分)とが下記の関係式を満たす。
【0050】
1.50×MFR(-0.20)≦[η]≦2.65×MFR(-0.20)
より好ましくは
1.80×MFR(-0.20)≦[η]≦2.50×MFR(-0.19)
この関係式を充足するプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)はシンジオタクティ
ックプロピレン重合体(A)と相溶性が良好で好ましい。
【0051】
上記式を満たすプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、例えばシンジオタクテ
ィックプロピレン重合体を製造可能な触媒を使用してプロピレンとα−オレフィンとを共重合してもよいし、その他の触媒を用いて重合してもよい。このようにして得られたプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)はシンジオタクティックプロピレン重合体(A)
と相溶性が良好なものとなる。
【0052】
(b−2)を満たすプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、従来のアイソタク
ティックプロピレン系共重合体と比べて、極限粘度[η]が同一でかつ高いMFR値を有す
る。
【0053】
これは、「Macromolecules」1998年、第31巻、p.1335−1340に記載されるように、アイソタクティックポリプロピレンの絡み合い点間分子量(論文では、Me=6900(g/mol)と報告されている)と、シンジオタクティックポリプロピレンの絡み合い点間分子量(論文では、Me=2170(g/mol)と報告されている)との違いに起因すると考えられる。すなわち、[η]が同一の場合、シンジオタクティック構造を持つことにより、アイソタクティック構造を有する材料と比べて絡み合い点が多くなるため、MFR値が高くなると考えられる。
【0054】
以上のように、要件(b−1)および(b−2)のうち、いずれか1つ以上を満たすプロピレン・α−オレフィン共重合体(B)は、アイソタクティック構造とは異なった立体規則性であるシンジオタクティック構造を有するものと考えられる。このためにプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は(A)成分と良好な相溶性を示すものと考えられる

【0055】
なお、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の好ましい態様であるプロピレン・
エチレン共重合体やプロピレン・エチレン・HAO共重合体においては、上記要件(b−1)および(b−2)のいずれも満たすことが好ましい。
【0056】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の135℃、デカリン中で測定した極限粘
度[η]は、0.1〜10dL/g、好ましくは0.5〜10dL/g、より好ましくは0.5〜7.0dL/gであることが望ましい。
【0057】
このプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、単一のガラス転移温度を有し、示
差走査熱量計(DSC)測定により得られるガラス転移温度(Tg)が、通常は0℃以下であることが好ましい。プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)のガラス転移温度(
Tg)が前記範囲内にあると、耐寒性、低温特性に優れる。
【0058】
示差走査熱量測定は、例えば次のようにして行われる。試料10.00mg程度を専用
アルミパンに詰め、セイコーインスツルメント社製DSCRDC220を用い、30℃から200℃までを200℃/分で昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から−100℃までを10℃/分で降温し、−100℃でさらに5分間保持したのち、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より前記ガラス転移温度(Tg)を求める。
【0059】
また、このプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)のGPCにより測定した分子量
分布(Mw/Mn、ポリスチレン換算、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0060】
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、架橋メタロセン化合物を重合触媒
として使用した重合方法によって製造することができる。具体的には、国際公開第2006/123759号パンフレットに記載された方法により製造することができる。
【0061】
本発明で用いられるプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、シンジオタクティ
ックプロピレン重合体(A)およびプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の合計1
00重量部中、0〜50重量部、好ましくは0〜45重量部、特に好ましくは0〜40重量部含まれる。プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)の含有量が上記の範囲にある
と、耐熱性・機械強度の観点から好ましい。
【0062】
[アイソタクティックポリプロピレン]
本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)とプロピレン・α-オレフ
ィン共重合体(B)とを含んでなるプロピレン系重合体組成物には、必要に応じてアイソタクティックポリプロピレンを含んでもよい。アイソタクティックポリプロピレンは、本発明のキャパシタフィルムの耐熱性をより向上させることができるため、好ましい。
【0063】
アイソタクティックポリプロピレンとしては、商業的に入手できるものなどを特に制限なく使用することができるが、NMR法により測定したアイソタクティックペンタッド分率が0.9以上、好ましくは0.95以上のポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0064】
具体的には、プロピレン単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、なかでもエチレンまたは炭素原子数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。これらのα−オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。これらのα−オレフィンから導かれる構成単位は、アイソタクティックポリプロピレン中に40モル%以下、好ましくは20モル%以下の割合で含まれていてもよい。
【0065】
アイソタクティックポリプロピレンのASTM D 1238に準拠して230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)は通常0.01〜1000g/10分、好ましくは0.05〜500g/10分の範囲である。
【0066】
なお、このアイソタクティックポリプロピレンは、例えば(a)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、(b)有機アルミニウム化合物、および(c)電子供与体からなるチーグラー触媒系を用いて重合することにより製造することができる。またメタロセン触媒を用いても同様に製造することができる。
【0067】
アイソタクティックポリプロピレンとしては、チーグラー触媒で製造されたポリプロピレン共重合体の中では、耐白化性および耐衝撃性のバランスが優れるプロピレン・エチレンランダム共重合体およびプロピレン・エチレンブロック共重合体が好ましい。
【0068】
[その他の成分]
本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物には、発明の目的を損なわない範囲で、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。
【0069】
[プロピレン系重合体組成物]
上述のようにして得られたプロピレン系重合体組成物は、成形性および耐熱性に優れ、さらに透明性、柔軟性および耐傷付き性に優れる。
【0070】
ここで成形性が優れているとは、射出、インフレーション、ブロー、押出またはプレス等の成形を行う場合、溶融状態から固化するまでの時間が短いことを示す。成形性がよい場合は成形サイクル性、形状安定性、長期生産性などに優れる。
【0071】
具体的には、本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物について測定した針侵入温
度(以下「物性(1)」ともいう。)は好ましくは145℃以上であり、より好ましくは147℃、特に好ましくは150℃以上である。針侵入温度が、前述の範囲にあるとき、得られるキャパシタフィルムは、優れた耐熱性を有するため、好ましい。なお、針侵入温度(TMA測定により求められる軟化点ということがある)は以下のように測定することができる。すなわち、セイコー社製SS-120またはTA Instrument社製Q-400を用
いて、厚さ1mmのプレスシート試験片を用いて、昇温速度5℃/分で1.8mmφの平面圧子に2Kgf/cm2の圧力をかけ、TMA曲線より、針侵入温度(℃)を求めた。
【0072】
また、引っ張り弾性率(以下「物性(2)」ともいう。)、ヘイズ(以下「物性(4)」ともいう。)の測定方法を以下に示す。
引っ張り弾性率は1mm厚プレスシートより、JIS K6301に準拠して、JIS
3号ダンベル用オーダーンベルにより打ち抜き、評価試料とした。測定には例えば、インストロン社製引張試験機Inston1123を用いて、スパン間:30mm、引張り速度30mm/minで23℃にて測定、3回の平均値とした。
【0073】
厚さ1mmのプレスシート試験片を用いて、日本電色工業(株)製のデジタル濁度計「NDH-20D」にて内部ヘイズ(以下「物性(3)」ともいう。)を測定、2回の平均
値とした。
【0074】
なお、上記の各試験において、試験片は、プレス成形機にて200℃で5〜10分余熱後、10MPa加圧下で1〜2分で成形したのち、20℃で10MPaの加圧下で冷却して所定の厚みのシートを作製することにより得た。
【0075】
また、固化するまでの時間は熱示差熱量計(DSC)による110℃における等温結晶化測定から求められる半結晶化時間(t1/2)(以下「物性(4)」ともいう。)が、好
ましくは1000sec以下、より好ましくは500sec以下である。本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物は、特定のシンジオタクティックプロピレン重合体(A)およびプロピレン・α−オレフィン共重合体(B)を含むことによりt1/2が従来技術に
比べて飛躍的に向上しており、通常用いられるアイソタクティックポリプロピレンなどと同様の成形法で成形することができる。そのため、本発明のキャパシタフィルムは、容易に薄肉化することができ、キャパシタの小型化や、コンデンサー容量の増加に対する要望に対応することができる。
【0076】
等温結晶化測定により求められる半結晶化時間(t1/2)とは、等温結晶化過程でのD
SC熱量曲線とベースラインとの間の面積を全熱量とした場合、50%熱量に到達した時間である(新高分子実験講座8高分子の物性(共立出版株式会社)参照)。半結晶化時間(t1/2)測定は次のようにして行われる。すなわち、試料5.00mg程度を専用アルミパンに詰め、パーキンエルマー社製DSCPyris1またはDSC7を用い、30℃か
ら200℃までを320℃/分で昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から等温結晶化温度110℃までを320℃/分で降温し、110℃に温度を保持して得られたDSC曲線から得たものである。ここで半結晶化時間(t1/2)は110℃の等温結晶
化過程開始時間(200℃から110℃に到達した時刻)t=0として求めた。本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物は上記のようにしてt1/2を求めることができるが
、110℃で結晶化しない場合は、便宜的に110℃以下の等温結晶化温度で測定を数点実施し、その外挿値より半結晶化時間(t1/2)を求める。
【0077】
本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物の場合、プロピレン・α-オレフィン共
重合体(B)の炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレン除く)としては、エチ
レンか、またはエチレンとHAOコモノマーとの組み合わせが好ましく、エチレンが特に好ましい。またα-オレフィンから導かれる構成単位は15〜45モル%であることがよ
り好ましく、15〜40モル%であることが特に好ましい。この範囲のとき、本発明で用いられるプロピレン系重合体組成物は、耐熱性、透明性と耐衝撃性のバランスに特に優れている。
【0078】
上記プロピレン系重合体組成物の場合、針侵入温度(1)は、好ましくは145℃以上、より好ましくは147℃以上であり;
引っ張り弾性率(2)は好ましくは100MPa〜2000MPaの範囲であり、より好ましくは200MPa〜1500MPaの範囲であり、さらに好ましくは400MPa〜1000MPaの範囲であり;
内部ヘイズ(3)は好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下であり;
半結晶化時間(4)は、好ましくは1000sec以下、より好ましくは500sec以下である。
【0079】
前述の物性(1)〜(3)が、前述の範囲にあるとき、得られるキャパシタフィルムは、優れた耐熱性・透明性を有するため、好ましく、前述の物性(1)〜(4)が、前述の範囲にあるとき、得られるキャパシタフィルムは、優れた耐熱性・透明性・成形性を有するため、特に好ましい。
【0080】
〔キャパシタフィルムおよびキャパシタ〕
本発明のキャパシタフィルムは、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)および必要に応じて上記のアイソタクティックポ
リプロピレンや各種添加剤を添加してなるプロピレン系重合体組成物を、180〜300℃の範囲で溶融押出して得られた原反シートを一軸又は二軸に延伸することで得ることができる。
【0081】
本発明のキャパシタフィルムは、前述のとおりフィルム中に球晶を有さないため、破壊耐電圧に優れ、また、耐熱性にも優れるため、0〜120℃の範囲、好ましくは0〜90℃の範囲において、キャパシタの絶縁体用として好適に用いることができる。なお、本発明のキャパシタフィルムが有する破壊耐電圧は、600V/μm以上、好ましくは、650V/μm以上である。
【0082】
本発明のキャパシタフィルムを得るための装置は特に限定はされないが、例えば、一軸延伸では上記原反シートを、バッチ式二軸延伸機を用い100〜160℃で2〜10倍に機械方向(原反シートを作成する際に押出される樹脂の流れと平行な方向)に延伸することにより得ることができる。また二軸延伸では、一軸延伸によって得られたフィルムを更に一軸延伸と同様な条件で機械方向とは直角に逐次延伸することや機械方向及び機械方向とは直角な方向への延伸を同時に行う同時二軸延伸を行うことによって得ることができる。
【0083】
また、工業的には、チューブラーフィルム法(押出機より押出された溶融ポリマーをチューブのまま両軸に同時延伸する方法)または、テンター法(押出機より押出された溶融ポリマーを冷却ロールで冷却固化し、複数の予熱ロールおよび複数の縦延伸ロールで縦方向に延伸し、引き続き横方向延伸装置(テンター)内にフィルムを導入して横方向に延伸する連続二軸延伸方法)を用いて一軸あるいは二軸の延伸フィルムを得ることができる。
【0084】
テンター法では、Tダイから熔融押し出しされた熔融フィルムを冷却ロールで固化させ、熔融成形フィルムを必要により予熱したあと延伸ゾーンに導入し、次いで100〜160℃の温度で縦方向に1.5ないし8倍延伸される。この延伸倍率は1.5〜8倍、好ましくは2〜7倍であり、1.5倍より低いとフィルム強度が大きくならず、8倍を超えるとボイドが生じ易く、幅方向の強度が低くなり、長さ方向に裂けやすくなる。次いで更に
120〜170℃の温度で6ないし12倍に幅方向に延伸する。最後にこの二軸延伸されたフィルムは160〜190℃で熱固定することも必要により行われる。
【0085】
本発明のキャパシタフィルムは、それ自体非常に高い電気絶縁性を有するが、特に二軸延伸して得られるフィルムは機械的な強度も高く、薄物から厚物まで製造することが可能である。
【0086】
また、本発明のキャパシタフィルムの厚みは、その用途に応じて任意に決められ特に限定はされないが、通常1〜200μmであり、好ましくは3〜100μmの範囲であり、特に20μm以下の薄膜、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下のフィルム厚のキャパシタフィルムとしたときに公知の材料を使用した場合よりも良好な電気特性(破壊耐電圧)を示す。
【0087】
本発明において、上記のキャパシタフィルムを、公知のキャパシタに用いることができる。本発明のキャパシタフィルムは、上述とおり、薄膜においても、高い破壊耐電圧を示すため、小型のキャパシタにおいても、高いコンデンサー容量を得ることができる。
【0088】
また、本発明において破壊耐電圧は、以下の方法で測定できる。
JIS−2330に準じ、春日電気(株)製直流耐圧試験機を用い、500V/secの電圧上昇でもって、フィルムに電圧を印加して破壊耐電圧を測定し、耐圧特性を求めた。破壊耐電圧は、破壊耐電圧の測定値(V)をフィルムの厚み(μm)で除したものである。
【0089】
測定に要したキャパシタフィルムは、プロピレン重合体組成物から得られたペレットを200〜230℃で押出し、厚さ250μmのシート状フィルムを作成して、さらにこのフィルムを、TMロング社製二軸延伸機を用いて、140〜150℃にて、まずMD方向に5倍、次いでTD方向に5倍延伸して厚さ4μmの二軸延伸フィルムを作成した。このフィルムを150mm×150mmの大きさのものを50枚用いて、試験片の測定箇所を1ヶ所と限定した。
【0090】
測定方法は下記の通りであり、上部電極は、周辺に3mmの丸みを有した25mmφのよく磨いた黄銅製円柱を(+)電極として、下部電極は約150mm×150mmで厚み30mmの金属板上にゴムショア60〜70度の弾性板にのせ、これにJIS−H−4160に規定する厚さ0.007mm以上、幅80mmのアルミニウム箔を巻き付けて、これを(−)電極とした。
【0091】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において各物性は以下のように測定した。
【0092】
物性測定法
[極限粘度[η]]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。すなわち重合パウダー、ペレットまたは樹脂塊約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定する。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定する。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
【0093】
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
[n-デカン可溶部量]
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)のサンプル5gにn-デカン200mlを加え、
該重合体を145℃で30分間加熱溶解した。得られた溶液を約3時間かけて、20℃まで冷却させ、30分間放置した。その後、析出物(n-デカン不溶部)をろ別した。ろ液を約3倍量の
アセトン中に入れ、n-デカン中に溶解していた成分を析出させた。析出物をアセトンからろ別し、その後乾燥した。なお、ろ液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。n-デカン可溶部量は、以下の式によって求めた。
【0094】
n-デカン可溶部量(wt%)=[析出物重量/サンプル重量]×100
[分子量分布(Mw/Mn)]
分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC−2000型を用い、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GNH6− HTを2本およびTSKgel GNH6− HTLを2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo−ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025重量%を用い、1.0ml/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準
ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106については東ソー社製
を用い、1000≦Mw≦4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0095】
[ポリマー中のエチレン、プロピレン、α-オレフィン含量]
エチレン、プロピレン、α-オレフィン含量の定量化は日本電子(株)製JNM GX-400型NMR測定装置を用いて、下記のように測定した。試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入して、120℃で13C-NMR測定を行う。積算回数は、8,000回以上とする。得られた13C-NMRスペクトルにより、エチレン、プロピレン、α-オレフィンの組成を定量化した。
【0096】
[(A)成分の融点(Tm)、融解熱量(ΔH)]
パーキンエルマー社製DSCPyris1またはDSC7を用い、窒素雰囲気下(20
ml/分)、約5mgの試料を200℃まで昇温、10分間保持した後、10℃/分で30℃まで冷却した。30℃で5分間保持した後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の結晶溶融ピークのピーク頂点から融点を、ピークの積算値から融解熱量を算出した。
【0097】
なお、実施例に記載したプロピレン系重合体において2本のピークが観測された場合、低温側ピークをTm1、高温側ピークをTm2とする。本願請求項1の(a)で規定するTmはTm2である。
【0098】
[立体規則性rrrr]
立体規則性(rrrr)は13C−NMRスペクトル測定から算出した。
[(B)成分のガラス点移転(Tg)、融点(Tm)]
セイコ-インスツルメンツ社製DSCを用い、測定用アルミパンに約5mgの試料を詰
めて、100℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、10℃/分で−150℃まで降温し、次いで10℃/分で200℃まで昇温した吸熱曲線より求めた。
【0099】
[MFR]
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)およびプロピレン・α-オレフィン共重
合体(B)のMFRは、JIS K-6721に準拠して、230℃で2.16kgの荷重にて測定した。
【0100】
[密度]
密度測定は、ASTM D1505に準拠して測定した。
[絶縁破壊電圧(BDV]]
絶縁破壊電圧(V/μm)測定は、23℃および80℃において、JIS−C2330に
記載のB法(平板電極法)準拠して測定した。電圧上昇速度は500V/secにて実施した。
【0101】
触媒合成例
〔合成例1〕
ジベンジルメチレン(シクロペンタジエニル)(3,6-ジtert-ブチルフルオレニル)ジル
コニウムジクロリドは、特開2004-189666号公報の合成例3に記載された方法
で製造した。
【0102】
重合例
<重合例1>シンジオタクティックプロピレン重合体(A−1)の製造
充分に窒素置換した内容量500mlのガラス製オートクレーブにトルエン250mlを装入し、プロピレンを150L/時間の量で流通させ、25℃で20分間保持させておいた。一方、充分に窒素置換した内容量30mlの枝付きフラスコにマグネティックスターラーを入れ、これにメチルアルミノキサンのトルエン溶液(Al=1.53mol/l)を5.00mmol、次いでジベンジルメチレン(シクロペンタジエニル)(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液5.0μmolを加え、20分間攪拌した。この溶液を、プロピレンを流通させておいたガラス製オートクレーブのトルエンに加え、重合を開始した。プロピレンガスを150リットル/時間の量で連続的に供給し、常圧下、25℃で45分間重合を行った後、少量のメタノールを添加し重合を停止した。ポリマー溶液を大過剰のメタノールに加え、ポリマーを析出させ、80℃で12時間、減圧乾燥を行った結果、ポリマー2.38gが得られた。重合活性は0.63kg-PP/mmol-Zr・hrであり、得られたポリマーの[η]は1.9dl/g、Tm1=152℃、Tm2=158℃であり、rrrr=94%であり、Mw/Mn=2.0であった。この操作を繰り返して、必要量のポリマーを得て実施例に使用した。
【0103】
結果を表1に示す。
<重合例2>プロピレン・α-オレフィン共重合体(B−1)の製造
充分に窒素置換した4000mlの重合装置に、1834mlの乾燥ヘキサンとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を70℃に昇温し、プロピレンで系内の圧力を0.66MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を1.36MPaに調整した。次いで、ジ(p-クロロフェニル)メチレン(シ
クロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジ
クロリド0.001mmolとアルミニウム換算で0.3mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温70℃、系内圧力を1.36MPaにエチレンで保ちながら15分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、4Lのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたポリマーは、105gであり、MFRが1.0(g/10分)であり、135℃、デカリン中で測定した[η]=2.5(dL/g)であった。またrr1値は78%であった。
【0104】
結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【実施例1】
【0106】
(1)ペレット化
得られたポリマー(A−1)100重量部に対して、酸化防止剤として3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシトルエンを0.2重量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチ
レンー3(3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
を0.2重量部、中和剤としてステアリン酸カルシウム0.01重量部を配合し、二軸押出機を用いて、樹脂温度200℃で溶融混練してペレット化を実施した。
【0107】
(2)シート成形
上記で得られたペレットを単軸シート成形機を用いて、ダイス温度200℃で溶融キャスト成形してシート成形を実施した。
【0108】
(3)二軸延伸フィルム
上記(2)で得られたシートを85mm×85mmにカットし、次の条件で2軸延伸し、厚さ15μmの2軸延伸フィルムを得た。
【0109】
延伸装置:ブルックナー社製KARO IV
予熱温度:142℃
予熱時間:30秒
延伸倍率:5×5倍(MD方向:5倍、TD方向:7倍)の同時二軸延伸
延伸速度:10m/min
得られたペレット、フィルム、およびフィルムとアルミニウムはくを巻きつけたキャパシタについて測定した物性を表2にまとめた。
【実施例2】
【0110】
使用するポリマーを(A−1)から、ポリマー(A−1)とポリマー(B−1)を所定の割合で配合したブレンドを用いた以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2にまとめた。
[比較例1]
【0111】
使用するポリマーを(A−1)から、Total社製シンジオタクチックポリプロピレン(商品名:Total Polypropylene 1251)(C−1)に変更し、
二軸延伸フィルム作製時の予熱温度を116℃に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2にまとめた。
[比較例2]
【0112】
使用するポリマーを(A−1)から、プライムポリマー社製アイソタクチックポリプロピレン(商品名:F−133)(D−1)に変更し、二軸延伸フィルム作製時の予熱温度を154℃に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2にまとめた。
[比較例3]
【0113】
使用するポリマーを(A−1)から、ポリマー(A−1)とポリマー(B−1)を所定の割合で配合したブレンドを用いた以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2にまとめた。
【0114】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と、
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部(ただし、(A)と(B)
との合計を100重量部とする。)と
を含んでなるプロピレン系重合体組成物からなるキャパシタフィルムであって、
該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)が下記要件(a)を、該プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)が下記要件(b)をそれぞれ充足することを特徴とするキ
ャパシタフィルム。
(a):13C-NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分
率)が85%以上であり、DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%(ただし、該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)中の構成単位の全量を100モル%とする。)を超える量で含有する。
(b):プロピレンから導かれる構成単位を55〜90モル%の量で含有し、炭素原子数2〜20のα-オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を10〜45モ
ル%(ただし、プロピレンから導かれる構成単位と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位との合計を100モル%とする。)の量で含有し、JIS K−6721に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定したMFR
が0.01〜100g/10分の範囲にあり、かつ下記要件(b−1)および(b−2)のいずれか一つ以上を満たす。
(b−1):13C-NMR法により測定したシンジオタクティックトライアッド分率(rr分率)が60%以上である。
(b−2):135℃デカリン中で測定した極限粘度[η](dL/g)と前記MFR(g/10分、230℃、2.16kg荷重)とが下記の関係式を満たす。
1.50×MFR(-0.20)≦[η]≦2.65×MFR(-0.20)
【請求項2】
前記プロピレン系重合体組成物の
(1)針侵入温度が145℃以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のキャパシタフィルム。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体組成物の
(1)針侵入温度が145℃以上であり、
(2)引張り弾性率が100〜2000MPaの範囲にあり、
(3)厚さ1mmのプレスシートの内部ヘイズ値が30%以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のキャパシタフィルム。
【請求項4】
前記シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1〜10dL/gの範囲にあり、示差走査熱量計(DSC)により求めた融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のキャパシタフィルム。
【請求項5】
前記プロピレン・α-オレフィン重合体(B)のGPCにより求めた分子量分布(Mw
/Mn)が3.5以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のキャパシタフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のキャパシタフィルムを用いたキャパシタ。

【公開番号】特開2010−87253(P2010−87253A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254833(P2008−254833)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】