説明

キャビンの開閉式前窓のシール構造

【課題】高圧洗浄水洗浄時のキャビン内への水浸入が確実に防止されるキャビン前窓のシール構造を提供する。
【解決手段】4角形の前窓15をキャビン1の前部より天井部にわたって移動可能に装着する。前窓15の閉じ状態において、前窓の4縁の前面に当接させるシール部材16をキャビン本体6aの開口部に設ける。前窓の4縁のうちの少なくとも1つの縁における前面のシール部材16のシール部16aに重なる部位より前窓15の中央側寄りの部位に、前窓15の閉じ状態においてシール部材16に近接または一部当接するように、前窓の前方に突出する突出部材17を固着する。突出部材17により、洗浄時の高圧洗浄水のシール部16aへの直接的衝突が防止され、高圧洗浄水によるシール部材16のシール部16aの変形が防止され、洗浄水のキャビン1内への浸入が確実に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械やその応用機械等の作業機のキャビンに用いられ、前窓を上部に移動させることによってキャビンの前部が開放される開閉式前窓に係り、特に前窓の全閉時におけるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械においては、キャビンの前窓を前部から天井部にわたってスライド可能、すなわち開閉可能としたものが、例えば特許文献1に記載されている。このように前窓を開閉可能としている理由は、深い掘削場所の掘削を行なう場合に、前窓を天井部側に移動させ、オペレータがキャビンの前部から頭部を突き出して下方の掘削場所の目視を可能とする等のためである。このようなスライド開閉式前窓を有するキャビンにおいては、前窓を閉じた状態では、前窓のガラスの4縁の前面を、キャビン本体に設けたゴム等でなるウェザーストリップと称される弾性を有するシール部材に当ててシールがなされる構造となっている。
【0003】
【特許文献1】実開平5−37525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャビンの窓は、汚れを落とすために高圧洗浄水を吹き付けて洗浄する場合がある。従来の前窓のシール構造では、キャビン本体側に設けられているウェザーストリップと称される可撓性を有するシール部材が高圧洗浄水の圧力により変形してシール部材と前窓との間に隙間を生じ、その隙間から高圧洗浄水がキャビン内に浸入することがあった。そこで本出願人は、前窓の枠材や枠材を前窓に固定する取付け部材を改変して前窓の前方に突出する突出部を設け、この突出部をシール部材に当接させ、これにより高圧洗浄水の圧力によりシール部材と前窓との間に隙間が生じないようにし、もってキャビン内への高圧洗浄水の浸入を防止するシール構造を開発し、特願2006−315596号として出願した。
【0005】
本発明は、前記先願に係るシール構造の改良に関するものであり、高圧洗浄水による洗浄時のキャビン内への水浸入がより確実に防止できるキャビン前窓のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のキャビンの開閉式前窓のシール構造は、4角形の前窓をキャビンの前部より天井部にわたって移動可能に装着した作業機用キャビンにおいて、
前記前窓の閉じ状態において、前窓の4縁の前面に当接させるシール部材をキャビン本体の前面開口部に設け、
前記前窓の4縁のうちの少なくとも1つの縁における前窓前面の前記シール部材のシール部が重なる部位より前窓の中央側寄りの部位に、前窓の閉じ状態において前記シール部材に近接または一部当接するように、前窓の前方に突出する突出部材を固着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、前窓を高圧洗浄水により洗浄する場合、高圧洗浄水がまず突出部材により衝突してシール部材のシール部への高圧洗浄水の直接的衝突が阻まれる。このため、高圧洗浄水によるシール部材のシール部の変形が防止され、シール部と前窓との間に隙間が発生することが防止されるので、高圧洗浄水のキャビン内への浸入が確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明のシール構造を適用する作業機の一例である油圧ショベルを示す側面図である。この作業機は、下部走行体1上に旋回装置2を介して上部旋回体3を設置し、その上部旋回体3にパワーユニット5やキャビン6等を搭載すると共に、作業用フロント7を取付けてなる。作業用フロント7は、ブームシリンダ8により起伏されるブーム9と、このブーム9の先端に取付けられ、アームシリンダ10により回動されるアーム11と、このアーム11の先端に取付けられ、バケットシリンダ12により回動される作業具として設けられたバケット13とからなる。本発明を適用する作業機としては、作業用フロント7の一部を例えば伸縮式に変更するかあるいは付加したり、より多段の関節構造としたりする等、作業の目的に応じて種々に変更して構成される。作業具としても掘削、破砕、解体等、作業の目的に応じたものが取付けられる。
【0009】
図2はキャビン6の一例を示す側面断面図、図3は前窓15を閉じた状態でその前面を示す正面図である。図2に示すように、キャビン6にはキャビン本体6a内に運転席21が設置される。キャビン6の前部の左右から天井部の左右にかけてガイド溝18を設け、前窓15の上部、下部の左右に設けたローラ20をガイド溝18に沿って転動可能に装着することにより、前窓15をキャビン6の前部から天井部にかけて移動可能とする。前窓15を天井部に移動させた開放状態においては、キャビン6内のオペレータはキャビン6の前部から頭を前方に突き出して作業具であるバケット13の掘削場所を目視することが可能であり、このため、掘削場所が深い場合でも掘削状況を知ることができる。
【0010】
図3において、16はキャビン本体6aの前面開口部に設けられるゴム等の弾性材からなるシール部材であり、このシール部材16は通常ウェザーストリップと称される。図4、図5、図6はそれぞれ前窓の上部、側部、下部を前窓の閉じ状態で示す断面図である。図4〜図6に示すように、前窓15を閉じた状態において、シール部材16の中空状に形成したシール部16aが4角形をなす前窓15の4周の前面に当接することにより、前窓15とキャビン6との間をシールする。
【0011】
17は前窓15の4縁の前面に固着された突出部材である。この突出部材17の取付け部位は、前窓15が閉じた状態において、前記シール部材16に重なる前窓15の部位より前窓15の中央側寄りの部位であり、シール部材16にこの突出部材17の一部が当接するまたは図示のように近接するように設ける。この突出部材17は好ましくはプラスチック製またはゴム製のものであり、接着あるいは溶着により前窓15の前面に固着される。これらの突出部材17は4縁にわたり1連のものでもあるいは各縁ごとに独立する等、複数本に分割されたものであってもよい。
【0012】
この実施の形態において、図4〜図6において矢印a〜fで示すように噴出する高圧洗浄水により前窓15を洗浄する場合、まず突出部材17に高圧洗浄水が衝突し、シール部材16のシール部16aに高圧洗浄水が直接衝突することが防止される。
【0013】
ここで、矢印a、c、eのように比較的前窓15の前面に対して垂直に近い角度からの高圧洗浄水よりも、矢印b、d、fに示すように、シール部16aに対して前窓15の面に平行に近い方向から高圧洗浄水が衝突する場合の方が、シール部材16のシール部16aがめくれ易くなるが、このように高圧洗浄水による影響を受けやすい場合にはこの高圧洗浄水のシール部16aへの衝突をほぼ完全に阻止できるため、高圧洗浄水によるシール部16aのめくれ、すなわちシール部16aと前窓15との間に隙間が発生することをほぼ完全に防止し、高圧洗浄水のキャビン6内への浸入を確実に防止することができる。
【0014】
高圧洗浄水のキャビン6内への浸入を確実に防止すべく、高圧洗浄水のシール部16aへの直接の衝突を突出部材17により防ぐためには、図示のように、突出部材17の前窓15の前面からの突出幅を、シール部16aの前窓15を閉じた状態における厚み(シール部材16のキャビン本体6aを挟んだ部分を除いた部分)の厚みより大きくすることが好ましい。
【0015】
本発明を実施する場合、キャビン6の前窓には前記実施の形態で示したように1枚で構成されるものと、上下幅が小さい下部固定窓と上下幅が大きい上部開閉式前窓とにより構成されるものとがあるが、本発明は、このような分割構造の上部開閉式前窓のシールにも適用できる。また、前窓の4縁の全部に本発明のシール構造を適用するのではなく、例えば上部あるいは側部もしくは上部と側部のみに適用するなど、一部の縁に本発明のシール構造を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のシール構造を適用するキャビンを有する作業機の一例を示す側面図である。
【図2】図1の作業機のキャビンの側面断面図である。
【図3】図1のキャビンの前面を示す正面図である。
【図4】本実施の形態の前窓の上部のシール構造を示す断面図である。
【図5】本実施の形態の前窓の側部のシール構造を示す断面図である。
【図6】本実施の形態の前窓の下部のシール構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1:下部走行体、2:旋回装置、3:上部旋回体、5:パワーユニット、6:キャビン、6a:キャビン本体、7:作業用フロント、8:ブームシリンダ、9:ブーム、10:アームシリンダ、11:アーム、12:バケットシリンダ、13:バケット、15:前窓、16:シール部材、17:突出部材、18:ガイド溝、20:ローラ、21:運転席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4角形の前窓をキャビンの前部より天井部にわたって移動可能に装着した作業機用キャビンにおいて、
前記前窓の閉じ状態において、前窓の4縁の前面に当接させるシール部材をキャビン本体の前面開口部に設け、
前記前窓の4縁のうちの少なくとも1つの縁における前窓前面の前記シール部材のシール部が重なる部位より前窓の中央側寄りの部位に、前窓の閉じ状態において前記シール部材に近接または一部当接するように、前窓の前方に突出する突出部材を固着したことを特徴とするキャビンの開閉式前窓のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−273414(P2008−273414A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120286(P2007−120286)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】