説明

キャリア取り付け方法

【課題】 大径の砥石を用いる両頭研削を行った場合であっても、ナノトポグラフィーが従来に比べて良好なワークを再現性良く得られる両頭研削装置用リング状ホルダーへのキャリアの取り付け方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、外周に切り欠き部を有する薄板状のワークを、前記切り欠き部に係合する突起部を有し、径方向に沿って外周側から保持する自転可能なキャリアとホルダー部からなるリング状ホルダーと、該リング状ホルダーの前記キャリアにより保持されたワークの両面を同時に研削する一対の砥石を具備する両頭研削装置において、前記キャリアを、前記ホルダー部で前記リング状ホルダーに取り付ける方法であって、前記キャリアを前記ホルダー部に取り付ける際に、該キャリアを加熱膨張させ、取り付け後に冷却された該キャリアの中心方向に向けて引っ張り応力を印加するキャリアの取り付け方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ、露光原版用石英基板等の板状被加工物(以下、単にワークと称す)の両面同時研削において、ワークを保持し、かつワークに回転を伝達するためのキャリアをリング状ホルダーに取り付けるための取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば直径300mmに代表される大直径シリコンウェーハを採用する先端デバイスでは、近年、ナノトポグラフィーと呼ばれる表面のうねり成分を小さくすることが求められている。
ナノトポグラフィーとは、ウェーハ表面形状の一種で、ソリやwarpよりも波長が短く、表面粗さより波長の長い、0.2〜20mmの波長成分の凹凸を示すものであり、PV(Peak To Valley)値は0.1〜0.2μm程度の極めて浅いうねり成分のことである。
【0003】
このナノトポグラフィーは、デバイス工程におけるSTI(Shallow Trench Isolation)工程の歩留まりに影響すると言われており、デバイス基板となるシリコンウェーハに対して、デザインルールの微細化と共に厳しいレベルが要求されている。
【0004】
ところで、ナノトポグラフィーは、主にシリコンウェーハの加工工程で作りこまれるものである。
特に、基準面を持たない加工方法、例えばワイヤーソー切断や両頭研削工程で悪化しやすく、ワイヤー切断における相対的なワイヤーの蛇行や、両頭研削におけるウェーハのゆがみの改善や管理が重要である。
【0005】
ここで、両頭研削方法について説明する。
図1に示すように、両頭研削装置1aは、薄板状のワーク3を径方向に沿って外周側から支持する自転可能なリング状ホルダー2aと、リング状ホルダー2aの両側に位置し、リング状ホルダー2aを自転の軸方向に沿って両側から、流体静圧により非接触支持する一対の静圧支持部材16と、リング状ホルダー2aにより支持されたワーク3の両面を同時に研削する一対の砥石4aを備えている。砥石4aはモーター15に取り付けられており、高速回転できるようになっている。
【0006】
そして、図4(a)に示すように、このリング状ホルダー2aは、中央にワークを保持する保持孔14aを持つキャリア5aと、キャリア5aを取り付けるホルダー部6a及び取り付け用抑えリング部7aから構成されている。
また、キャリア5aには、図3に示すように、ホルダー部6aにネジ等で取り付けるための取り付け穴8aが設けられているものである。
【0007】
このような装置を用いた両頭研削において、ワークのナノトポグラフィーを悪化させる要因は多々あるが、例えば特許文献1に示されるように、リング状ホルダーの自転の軸方向に沿った位置の乱れが大きな要因であることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−190125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、近年、研削効率や研削精度を向上させるために、大径の砥石を使用する傾向にある。ここで、砥石が大径になると、その砥石との干渉を避けるために、リング状ホルダー部も大径にする必要があり、当然キャリアの半径方向寸法も増大させる必要がある。
また、高精度の静圧支持部材は小型化が難しいため、そのサイズは比較的大きいものとなっている。このような高精度の静圧支持部材を用いてリング状ホルダーの自転軸方向の位置制御の精度をより向上させるためにも、キャリアを大径化させて静圧支持部材を外周側へ逃がすことが求められている。
【0010】
しかし、研削効率や研削精度を向上させるために大径のキャリアを用いても、ナノトポグラフィーの改善幅が小さいという問題があった。また原因不明のナノトポグラフィーの悪化が観察されることもあった。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、例え大径の砥石を用いて両頭研削を行った場合であっても、ナノトポグラフィーが従来に比べて良好なワークを再現性良く得られる両頭研削装置用リング状ホルダーへのキャリアの取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、外周に切り欠き部を有する薄板状のワークを、前記切り欠き部に係合する突起部を有し、径方向に沿って外周側から保持する自転可能なキャリアとホルダー部からなるリング状ホルダーと、該リング状ホルダーの前記キャリアにより保持されたワークの両面を同時に研削する一対の砥石を具備する両頭研削装置において、前記キャリアを、前記ホルダー部で前記リング状ホルダーに取り付ける方法であって、前記キャリアを前記ホルダー部に取り付ける際に、該キャリアを加熱膨張させ、取り付け後に冷却された該キャリアの中心方向に向けて引っ張り応力を印加することを特徴とするキャリア取り付け方法を提供する。
【0013】
このように、キャリアを加熱膨張させてホルダー部に取り付け、その後に冷却されたキャリアの中心方向に向けて引っ張り応力を印加することによって、取り付けられたキャリアの両頭研削時における回転軸に沿った変位(回転ぶれ)を従来より小さくすることができる。よって、例えキャリアが大径化して、キャリアの厚み方向の剛性が低下したとしても、本発明のキャリア取り付け方法によれば両頭研削時のキャリアの変位を小さくできるため、研削後のワークのナノトポグラフィーを改善することができる。
従って、本発明のキャリアの取り付け方法によってキャリアが取り付けられた両頭研削装置を用いることにより、研削後のワークのナノトポグラフィーを従来に比べて安定させることができ、従来に比べて改善することができることになる。よって、ナノトポグラフィーが従来に比べて良好なワークを再現性良く得ることができる。
【0014】
ここで、前記キャリアは、該キャリアの外周から内側に向かって少なくとも2本以上の放射状のスリットが形成されたものとすることが好ましい。
このように、外周から内側に向かって少なくとも2本以上の放射状のスリットが形成されたキャリアは、例えばキャリアが大径化した場合でも、キャリアの作製時の残留歪みがスリットのないキャリアに比べて小さなものとなり、キャリアの平面度が改善されたものとなる。
このような残留歪みが小さく、平面度が改善されたキャリアを上述の方法によってリング状ホルダーに取り付けることによって、ワークの両頭研削時のキャリアの厚み方向の変位をより小さくすることができ、よりナノトポグラフィーの良好なワークを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、キャリアの平面度を改善することができ、またワークを自転的に駆動させるためのキャリアの回転ぶれを小さくすることができるため、研削時のキャリアの変位及びワークを自転駆動させるキャリアの回転ぶれを小さくすることができる。これによって、ナノトポグラフィーの小さい高精度なワークを得ることができる好適な両面研削装置用リング状ホルダーへのキャリアの取り付け方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】両頭研削装置の概略の一例を示す図である。
【図2】両頭研削装置の概略の他の一例を示す図である。
【図3】両頭研削装置用リング状ホルダーを構成するキャリアの概略の一例を示す図である。
【図4】両頭研削装置用リング状ホルダーの概略の一例を示す図である。
【図5】本発明のキャリア取り付け方法に用いるヒーターの概略の一例を示す図である。
【図6】本発明のキャリア取り付け方法によってキャリアが取り付けられた両頭研削装置用リング状ホルダーが自転する様子の概略を説明した図である。
【図7】本発明のキャリア取り付け方法によってキャリアが取り付けられたリング状ホルダーの静圧手段の概略の一例を示した図である。
【図8】本発明におけるキャリアの回転ぶれの測定方法の概略を示した図である。
【図9】本発明におけるキャリアの曲げ剛性の測定方法の概略を示した図である。
【図10】本発明の実験例1,2のキャリアの曲げ剛性と回転ぶれの測定結果を示した図である。
【図11】本発明の実験例1,2のキャリアの曲げ剛性とナノトポグラフィーの関係を示した図である。
【図12】本発明の実験例3,4のキャリアの曲げ剛性と回転ぶれの測定結果を示した図である。
【図13】本発明の実験例3,4のキャリアの曲げ剛性とナノトポグラフィーの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、研削効率や研削精度を向上させることを目的として大径の砥石を使用するためには、大径砥石と静圧支持部材等の干渉を避けるために、キャリア径も大きくする必要がある。このようにワークを保持する保持孔を有するキャリアを大径化させて大径砥石を用いたにも係わらず、ナノトポグラフィーの改善幅が小さかったり、むしろ悪化するとの問題が発生していた。
そしてこのような問題を解決できる両頭研削装置を提供するための方法や部品の開発が待たれていた。
【0018】
そこで、本発明者らは、この大径の砥石の研究調査を進める中で、新たに、キャリアの大径化に伴ってキャリア厚み方向への剛性が低下し、これによって研削時のキャリアの厚み方向の変位が大きくなり、ナノトポグラフィーに大きく影響することを発見した。従来では、これは、ナノトポグラフィー等のウェーハ品質には影響のないものとして考えられていた。
【0019】
そこで、キャリアの厚み方向の変位を抑えるために、剛性の高い金属系部材について検討した。
しかし、キャリアは大径でしかもワークよりも薄い形状が必要であるため、十分な効果が得にくい。その上、キャリア製作時の残留歪みが平面度を悪化させやすく、またこれが全体の回転ぶれによってリング状ホルダーの自転軸に沿ったキャリア位置の乱れと同じ影響を与えることとなり、ナノトポグラフィーに悪影響を与えることも発見した。
【0020】
そして、このようなキャリアの変位と回転ぶれの抑制の2つの課題に対して、更に鋭意検討を重ねた結果、両頭研削装置のリング状ホルダーのホルダー部にキャリアを取り付ける際に、キャリアを加熱膨張させて取り付け、冷却されたキャリアの中心方向に向けて引っ張り応力を印加するものとすることによって上記問題を解決でき、またキャリアの回転ぶれの問題も解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0021】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は両頭研削装置の概略の一例を示す図、図2は両頭研削装置の概略の他の一例を示す図、図3は両頭研削装置用リング状ホルダーを構成するキャリアの概略の一例を示す図、図4は両頭研削装置用リング状ホルダーの概略の一例を示す図、図5は本発明のキャリア取り付け方法に用いるヒーターの概略の一例を示す図、図6は本発明のキャリア取り付け方法によってキャリアが取り付けられた両頭研削装置用リング状ホルダーが自転する様子の概略を説明した図である。
【0022】
図1、図3(a)、図4(a)に示すように、本発明のキャリアの取り付け方法で取り付けられたキャリアを具備するリング状ホルダーが用いられる両頭研削装置1aは、例えば、少なくとも、外周に切り欠き部を有する薄板状のワーク3を、切り欠き部に係合する突起部9aが形成された保持孔14aを有し、ワーク3の径方向に沿って外周側から保持する自転可能なキャリア5aとホルダー部6aからなるリング状ホルダー2aと、このリング状ホルダー2aのキャリア5aにより保持されたワーク3の両面を同時に研削する一対の砥石4aと、砥石4aを高速回転させるためのモーター15とを具備するものである。
【0023】
また、図2、図3(b)、図4(b)に示すような両頭研削装置とすることもできる。
このような両頭研削装置1bは、例えば、少なくとも、外周に切り欠き部を有する薄板状のワーク3を、切り欠き部に係合する突起部9bが形成された保持孔14bを有し、ワーク3の径方向に沿って外周側から保持する自転可能な大径のキャリア5bとホルダー部6bからなるリング状ホルダー2bと、このリング状ホルダー2bのキャリア5bにより保持されたワーク3の両面を同時に研削する一対の大径の砥石4bとを具備するものである。
【0024】
また、図4(a),図6に示すように、リング状ホルダー2aを自転させるために、モーター13に接続された駆動歯車11aが配設されており、これは内歯車10aと噛み合い、駆動歯車11aをモーター13により回転させることによって、内歯車10aを通じてリング状ホルダー2aを自転させることが可能となっているものである。
【0025】
そしてこのような両頭研削装置1aに備え付けられるリング状ホルダー2aは、図4(a)に示すように、ワーク3と接触してワーク3の径方向に沿って外周側から支持するキャリア5aと、キャリア5aを取り付けるホルダー部6a及び取り付け用抑えリング部7a、リング状ホルダー2aを自転させるために用いられる内歯車10aを有しており、キャリアは取り付け穴8aを通して不図示のネジ等によってホルダー部6aに取り付けられている。
【0026】
そして、本発明の特徴は、キャリア5aは、図3(a)に示すように、キャリア5aの縁部から内側に向かって突出した突起部9aが形成されており、ワーク3の周縁部に形成されたノッチと呼ばれる切り欠きの形状に適合し、リング状ホルダー2aの回転動作をワーク3に伝達できるようになっている。
【0027】
そしてこのようなリング状ホルダー2aのホルダー部6aにキャリア5aを取り付ける際に、キャリア5aを加熱膨張させてホルダー部6aにネジで取り付け、その後に冷却されたキャリア5aの中心方向に向けて引っ張り応力を印加するものである。
これは例えば、図5に示すようなヒーター20を用いることができる。例えば、このヒーター20をキャリア5aに接触させて加温した後に、取り付け穴8aを通してネジ等でホルダー部6aに取り付けることができる。
この際のキャリアの加熱温度は、60〜90℃が好適である。またヒーター20の形状は、キャリア全体を均一に加温するために、キャリア寸法に近いリング状であることが望ましい。ただし、このヒーター20の寸法等は、何ら本発明を限定するものではない。
【0028】
このように、加熱したキャリアをホルダー部に取り付けると、その後に常温まで冷却された際に、キャリアの中心方向に向けた張力(引っ張り応力)が印加され、研削時のキャリアの変位が抑制されたものとすることができる。これによって研削後のワークのナノトポグラフィーを改善することができる。
【0029】
ここで、図3(b)に示すように、本発明を適用するキャリアとして、キャリア5bの外周から内側に向かって少なくとも2本以上の放射状のスリット12が複数形成されているものとすることができる。
このスリット12の個数は、4個以上、スリット幅は0.1mm〜1mm、スリットの長さはキャリア5bの外周から内周までのリング幅の1/2〜4/5の長さが望ましいが、もちろんこれらに限定されない。
このように、スリットが形成されたキャリアであれば、キャリアの残留歪みが緩和され、キャリアの内周部によりロス無く張力が印加できるため、研削時のキャリアの変位をより抑制すると共に、キャリアの平面度をより高くすることができる。そして、キャリアの平面度がより改善されることによって、ワークの研削の際のキャリアの厚み方向の変位や回転ぶれがより小さいものとなる。よって、よりナノトポグラフィーの値が良好なワークを安定して得ることができる。
【0030】
そして、スリットが設けられたキャリアを用いる場合、キャリア自体が大径化しても問題なくナノトポグラフィーが良好なワークを安定して得ることができる。このため、スリットが設けられたキャリアを用いることによって、研削効率や研削精度を向上させるために砥石を大径化させたり、リング状ホルダーの回転軸の軸受け(静圧支持部材)を外に出して、リング状ホルダーの自転の軸方向に沿った位置の精度をより高くすることができるので、ワークのナノトポグラフィーをより改善することができる両頭研削を行うことができる。
【0031】
このようなスリットが形成されたキャリア5bは、図4(b)に示すように、キャリア5bを取り付けるホルダー部6b及び取り付け用抑えリング部7b、リング状ホルダー2bを自転させるために用いられる内歯車10bからなり、取り付け穴8bを通して不図示のネジ等によってホルダー部6bに取り付けられるものとなる。
【0032】
また、キャリアは、その直径がワーク保持孔の直径に対して1.7以上の比率のものとすることができる。
例えば、ワークの直径が300mmの場合では、従来はキャリア外径が350mm、ワーク保持孔径が300.4mmであった。これに対し本発明であれば例えばキャリア外径が520mmで、ワーク保持孔径が300.4mmとなっているものとすることができる。この場合、保持孔の直径に対するキャリア直径の比率は、520/300.4≒1.73となる。
また、ワークの直径が200mmの場合では、例えば従来はキャリア外径が250mm、ワーク保持孔径が200.4mmであった。そして本発明であればキャリア外径は350mm、ワーク保持孔径は200.4mmとなっているものとできる。この場合の保持孔の直径に対するキャリア直径の比率は、350/200.4≒1.75となる。
【0033】
このように、キャリアの直径がワークの保持孔の直径に対して1.7倍以上と、従来なかった大きなキャリアであっても、本発明のキャリアの取り付け方法によれば、キャリアの厚み方向の変位や回転ぶれを小さいものとでき、ワークのナノトポグラフィーを改善できるため、砥石の大径化や静圧支持部材の高精密化にも十分に対応することができる。
【0034】
なお、上記比率の上限は特に限定されないが、3.5倍より大きくなると、本発明の効果が小さくなり、剛性の低下が目立つようになるとの問題が発生する。更に必要以上に大きなキャリアとすることになり、コスト面でも問題があるため、上限は3.5倍以下とすることが望ましい。
【0035】
ここで、リング状ホルダーを両頭研削装置に支持するための支持方法については、特に限定されるものではないが、例えば特許文献1に示されるように、できるだけ自転の軸方向に沿った位置の乱れをなくすことが望ましい。
そのため、図7に示すように、静圧軸受け21を用いて、リング状ホルダー2が精度良く回転することが望ましい。この静圧手段としては、水や空気などの流体を用いることが好適である。
【0036】
以下、実験例を示して本発明をより具体的に説明するが、もちろんこれらに限定されるものではない。
(実験例1,2)
図2に示すような、ワークの両頭研削装置1bを用いて、直径300mmのシリコンウェーハの両頭研削を行った。
まず、外径520mmのSUS製のキャリアを準備し、スリットを形成しない状態でシリコンウェーハの両頭研削を行った(実験例1)。
その後、前述の実験例1で使用したキャリアに、幅が0.5mm、長さがキャリアの外周から内周までのリング幅の3/4としたスリットを45度毎に1個、計8個設けたものを用いて両頭研削を行った(実験例2)。
また、リング状ホルダーの静圧手段については、空気軸受けを用い、自転の軸方向に沿った位置制御は5μm以内とした。そして、砥石は、直径160mm、ビトリファイドボンドからなるSD#3000砥石(株式会社アライドマテリアル製ビトリファイド砥石)を用いた。シリコンウェーハの研削量は30μmとした。
【0037】
また、スリットの形成前後において、キャリアをリング状ホルダーに取り付ける際に加熱しなかった場合(取り付け時の温度は約23℃)と、取り付け時のキャリアの温度を28℃(5℃加熱)、30℃(7℃加熱)、45℃(22℃加熱)、60℃(37℃加熱)と変化させた場合の、キャリアの回転ぶれとキャリアの単位荷重当たりの変位(以後、曲げ剛性と称する)を調査した。その結果を図10に示す。
【0038】
ここで、キャリアの回転ぶれと、キャリアの曲げ剛性の定義及び測定方法について図8と図9に示す。
キャリアの回転ぶれとは、図8に示すように、基準位置に非接触の渦電流タイプのセンサー31を設置し、リング状ホルダー2を1回転させたときのキャリア表面のPV値を測定したものであり、この値が大きい程回転中のキャリアの変位量が多く、小さい程変位量が小さいことになる。
また、キャリアの曲げ剛性とは、図9に示すように、渦電流タイプのセンサー31を用いて、センサー31の反対側から25gの荷重を加えた時のキャリアの変位量を測定し、荷重/変位量を算出したものであり、値が大きい程変形に強いことになる。
【0039】
図10に示すように、取り付けの際のキャリアの温度を上昇させる、すなわちキャリアを加熱することで、キャリアの曲げ剛性が向上し、回転ぶれが減少することが判った。そしてこの効果は、加熱温度を上げる程顕著になった。
また、スリット加工を実施することで上記効果を強化できることが判った。
なお、各図の曲げ剛性と回転ぶれの値は、相対値を示す。
【0040】
次に、図11に実験例1,2において、両頭研削をした後に鏡面研磨まで実施したときのシリコンウェーハのナノトポグラフィーとキャリアの曲げ剛性との関係について示す。
図11に示すように、曲げ剛性が大きい程ナノトポグラフィーは改善されるが、キャリアにスリットが形成された実験例2のほうがよりナノトポグラフィーを改善できることが判った。
【0041】
(実験例3,4)
実験例1,2とは別の外径520mmのSUS製キャリアを準備し、実験例1,2と同様にスリットの有無の違いを付けてシリコンウェーハの両頭研削を行い、また、キャリアの回転ぶれと、キャリアの曲げ剛性の評価を行った。なお、この実験例3,4で使用したキャリアは、実験例1,2のキャリアに対して回転ぶれが大きいものを意図的に選択した。
【0042】
図12に示すように、実験例1,2よりも回転ぶれが大きいキャリアを用いても、取り付け時のキャリア温度を上昇させる、すなわち加熱温度を上昇させることで、キャリアの曲げ剛性が向上し、回転ぶれが減少していることが判った。また、実験例1,2の時と同様に、ホルダー部への取り付け時のキャリアの加熱温度を上げる程、曲げ剛性や回転ぶれを改善できることが判った。更に、スリット加工を実施することで、上記効果が増加していることが判った。
なお、図12は、実験例3,4のキャリアの曲げ剛性と回転ぶれの測定結果を示した図である。
【0043】
また、図13に、実験例3,4において、両頭研削をした後に鏡面研磨まで実施したときのナノトポグラフィーとキャリアの曲げ剛性との関係について示す。
図13に示すように、曲げ剛性の増加と共に、ナノトポグラフィーが改善しており、スリット加工が実施された実験例4のほうがシリコンウェーハのナノトポグラフィーを改善できたことが判った。なお、図11と比較すると、ナノトポグラフィーの値が高いが、回転ぶれの大きなキャリアであっても、本発明の効果は発揮されることが判った。
【0044】
以上の結果から、加熱して取り付ける、すなわち内周部に引っ張り応力を印加することによって曲げ剛性が増加し、更にキャリアの回転ぶれが減少するため、この2つの相乗効果でナノトポグラフィーが改善できることが判った。
また、キャリアに放射状のスリット加工をすることにより、上記効果がより強化されることも判った。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b…両頭研削装置、
2,2a,2b…リング状ホルダー、 3…ワーク、 4a,4b…砥石、 5a,5b…キャリア、 6a,6b…ホルダー部、 7a,7b…抑えリング、 8a,8b…取り付け穴、 9a,9b…突起部、 10a,10b…内歯車、 11a…駆動歯車、 12…スリット、 13…モーター(ホルダー用)、 14a,14b…保持孔、 15…モーター、 16…静圧支持部材、
20…ヒーター、
21…静圧軸受け、
31…渦電流センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、外周に切り欠き部を有する薄板状のワークを、前記切り欠き部に係合する突起部を有し、径方向に沿って外周側から保持する自転可能なキャリアとホルダー部からなるリング状ホルダーと、該リング状ホルダーの前記キャリアにより保持されたワークの両面を同時に研削する一対の砥石を具備する両頭研削装置において、前記キャリアを、前記ホルダー部で前記リング状ホルダーに取り付ける方法であって、
前記キャリアを前記ホルダー部に取り付ける際に、該キャリアを加熱膨張させ、取り付け後に冷却された該キャリアの中心方向に向けて引っ張り応力を印加することを特徴とするキャリア取り付け方法。
【請求項2】
前記キャリアは、該キャリアの外周から内側に向かって少なくとも2本以上の放射状のスリットが形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のキャリア取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−161611(P2011−161611A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29797(P2010−29797)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】