説明

キレート剤の測定方法およびキレート剤の測定キット

【課題】 熱機器の設置された現場において、水処理剤濃度を簡単に知る。
【解決手段】 この発明の測定方法は、試料水を採取する工程と、採取された試料水へ金属指示薬を含有する第一薬液およびpH調整剤を含有する第二薬液をそれぞれ添加する工程と、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液を滴下し、試料水が変色するまでの滴下数を計数する工程と、前記第三薬液の滴下数に基づいて、試料水中のキレート剤の濃度を特定する工程とを含む。また、この発明の測定キットは、金属指示薬含有する第一薬液が収容された第一容器と、pH調整剤を含有する第二薬液が収容された第二容器と、前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液が収容された第三容器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キレート剤の測定方法およびキレート剤の測定キットに関し、とくに水処理剤が添加された水に含まれるキレート剤を簡単に定量するための測定方法および測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラやクーリングタワーなどの熱機器においては、一般に、水分による伝熱面の腐食やスケール生成を抑制するため、補給水へ水処理剤を添加することが行われている。近年、前記ボイラでは、特許文献1に開示されているように、食品添加物で構成され、シリカ,アルカリ剤およびスケール抑制剤を含有する水処理剤が使用されている。ここにおいて、前記シリカは、前記伝熱面に皮膜を形成させ、水分による腐食から保護する目的で配合されている。また、前記アルカリ剤は、典型的にはアルカリ金属の水酸化物であり、水分を前記伝熱面が腐食されにくいpH領域(pH11〜12)に調整する目的で配合されている。さらに、前記スケール抑制剤は、補給水中のスケール促進成分である硬度分(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオン),銅イオン,亜鉛イオンおよび鉄イオンなどと錯体を形成可能なキレート剤であり、前記伝熱面と水分の接触面におけるスケール生成を抑制する目的で配合されている。
【0003】
前記水処理剤の供給量は、補給水の水質や前記熱機器の運転条件(たとえば、前記ボイラにおける濃縮倍率)などに基づいて、前記熱機器内での水処理剤濃度が所定範囲になるように設定される。前記水処理剤の効果を最大限に発揮するためには、水処理剤濃度が予定した範囲に維持されていることが重要であり、水処理剤濃度が不足している場合,あるいは過剰の場合には、速やかに前記水処理剤の供給量を再調節する必要がある。このため、保守管理者や使用者は、前記熱機器の設置された現場において、定期的に水処理剤濃度を知ることが必須になっている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−159597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水処理剤濃度を知るためには、前記水処理剤として供給される成分の全てを個別に定量しようとすると、多大な手間と労力を必要とする。また、前記水処理剤として供給される特定の成分を定量しようとすると、たとえば特許文献1に開示された水処理剤の場合、シリカは、前記伝熱面に皮膜を形成するため、供給量から計算される濃度と実際の濃度とが一致しないと云う問題がある。さらに、アルカリ金属の水酸化物は、補給水中の炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ成分が熱分解した場合にも生成するため、とくに前記ボイラにおいては、供給量から計算される濃度と実際の濃度とが一致しないと云う問題がある。このような理由から、前記熱機器の設置された現場において、水処理剤濃度を簡単に知ることができないのが実情であった。
【0006】
この発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、熱機器の設置された現場において、水処理剤濃度を簡単に知ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、試料水中のキレート剤の濃度を定量するキレート剤の測定方法であって、試料水を採取する工程と、採取された試料水へ金属指示薬を含有する第一薬液およびpH調整剤を含有する
第二薬液をそれぞれ添加する工程と、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液を滴下し、試料水が変色するまでの滴下数を計数する工程と、前記第三薬液の滴下数に基づいて、試料水中のキレート剤の濃度を特定する工程とを含むことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤が前記金属塩からの特定金属イオンと優先的に錯体を形成する。そして、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと錯体を形成すると、前記金属指示薬が余剰の前記特定金属イオンと錯体を形成し、試料水が変色する。試料水が変色するまでの前記特定金属イオンの供給量は、前記キレート剤の存在量と対応しているため、前記第三薬液の滴下数に基づいて、前記キレート剤の濃度が特定される。したがって、この測定方法を用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤を指標として、熱機器内における水処理剤濃度を簡単に知ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸およびその塩であり、前記金属指示薬,前記pH調整剤および前記金属塩がそれぞれキシレノールオレンジ,硝酸および硝酸ビスマスであることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記第三薬液を滴下していくと、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が硝酸ビスマスからのビスマスイオンと優先的に錯体を形成する。そして、EDTAの全量がビスマスイオンと錯体を形成すると、キシレノールオレンジが余剰のビスマスイオンと錯体を形成し、試料水が変色する。試料水が変色するまでのビスマスイオンの供給量は、EDTAの存在量と対応しているため、前記第三薬液の滴下数に基づいて、EDTAの濃度が特定される。したがって、この測定方法を用いれば、水処理剤に含有されるEDTAを指標として、熱機器内における水処理剤濃度を簡単に知ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2において、採取された試料水へさらにマスキング剤を添加する工程を含むことを特徴としている。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記マスキング剤がo−フェナントロリンであることを特徴としている。
【0013】
請求項3および請求項4に記載の発明によれば、前記マスキング剤,たとえばo−フェナントロリンの存在下で前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤と錯化している第一鉄イオンや銅イオンは、前記マスキング剤と優先的に錯体を形成する。このため、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと速やかに錯体を形成し、試料水が変色するまでの反応時間が短縮される。したがって、この測定方法を用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤,たとえばEDTAを指標として、熱機器内における水処理剤濃度を迅速,かつ正確に知ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4において、採取された試料水へさらに還元剤を添加する工程を含むことを特徴としている。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記還元剤がアスコルビン酸およびそのアルカリ金属塩であることを特徴としている。
【0016】
請求項5および請求項6に記載の発明によれば、前記還元剤,たとえばアスコルビン酸およびそのアルカリ金属塩を添加すると、試料水中の第二鉄イオンは、第一鉄イオンへ還元される。そして、この第一鉄イオンは、前記マスキング剤に封止される。このため、前
記金属指示薬,たとえばキシレノールオレンジが第二鉄イオンと錯体を形成して発色することが防止され、試料水の正常な色相が確保される。したがって、この測定方法を用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤,たとえばEDTAを指標として、熱機器内における水処理剤濃度をより正確に知ることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、試料水中のキレート剤の濃度を定量するキレート剤の測定キットであって、金属指示薬を含有する第一薬液が収容された第一容器と、pH調整剤を含有する第二薬液が収容された第二容器と、前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液が収容された第三容器とを備えることを特徴としている。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、試料水に対して前記第一容器から前記第一薬液を添加するとともに、前記第二容器から前記第二薬液を添加したのち、前記第三容器から前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤が前記金属塩からの特定金属イオンと優先的に錯体を形成する。そして、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと錯体を形成すると、前記金属指示薬が余剰の前記特定金属イオンと錯体を形成し、試料水が変色する。試料水が変色するまでの前記特定金属イオンの供給量は、前記キレート剤の存在量と対応しているため、前記第三薬液の滴下数に基づいて、前記キレート剤の濃度が特定される。したがって、この測定キットを用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤を指標として、熱機器内における水処理剤濃度を簡単に知ることができる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項7において、前記第一薬液または前記第二薬液がさらにマスキング剤を含有することを特徴としている。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、試料水に対して前記第一薬液または前記第二薬液によって前記マスキング剤を添加したのち、前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤と錯化している第一鉄イオンや銅イオンは、前記マスキング剤と優先的に錯体を形成する。このため、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと速やかに錯体を形成し、試料水が変色するまでの反応時間が短縮される。したがって、この測定キットを用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤を指標として、熱機器内における水処理剤濃度を迅速,かつ正確に知ることができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項8において、前記第一薬液がさらに還元剤を含有することを特徴としている。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、前記第一薬液により前記還元剤を添加すると、試料水中の第二鉄イオンは、第一鉄イオンへ還元される。そして、この第一鉄イオンは、前記マスキング剤に封止される。このため、前記金属指示薬が第二鉄イオンと錯体を形成して発色することが防止され、試料水の正常な色相が確保される。したがって、この測定キットを用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤を指標として、熱機器内における水処理剤濃度をより正確に知ることができる。
【0023】
さらに、請求項10に記載の発明は、請求項8において、粉末状の還元剤が収容された第四容器を備えることを特徴としている。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、前記第四容器から粉末状の前記還元剤を添加すると、試料水中の第二鉄イオンは、第一鉄イオンへ還元される。そして、この第一鉄イオンは、前記マスキング剤に封止される。このため、前記金属指示薬が第二鉄イオンと錯体を形成して発色することが防止され、試料水の正常な色相変化が確保される。したがって、この測定キットを用いれば、水処理剤に含有される前記キレート剤を指標として、熱機器内における水処理剤濃度をより正確に知ることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、熱機器の設置された現場において、水処理剤濃度を簡単に知ることができる。この結果、熱機器への水処理剤供給量の適否を現場で判断することが可能になり、水処理に係る保守管理を効率化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態を詳細に説明する。この発明に係るキレート剤の測定方法および測定キットは、ボイラやクーリングタワーなどに代表される熱機器への水処理剤の供給量を管理するために利用される。具体的には、前記水処理剤に配合されている前記キレート剤をトレーサーとして前記熱機器内の水処理剤濃度を特定し、この水処理剤濃度に基づいて、前記水処理剤の供給量の適否を判断するために利用される。
【0027】
前記水処理剤において、前記キレート剤は、水中のスケール促進成分である硬度分(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオン),銅イオン,亜鉛イオンおよび鉄イオンなどを封止し、前記熱機器の伝熱面におけるスケール生成を抑制するために配合されている。このような前記キレート剤としては、たとえば有機系のアミノカルボン酸系化合物およびトリカルボン酸系化合物,並びに無機系の重合リン酸系化合物などが利用されている。
【0028】
前記アミノカルボン酸系化合物の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩;ニトリロ三酢酸(NTA)およびその塩;ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)およびその塩;トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)およびその塩などが挙げられる。また、前記トリカルボン酸系化合物の具体例としては、クエン酸およびその塩などが挙げられる。さらに、前記重合リン酸系化合物の具体例としては、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)およびその塩などが挙げられる。これらの化合物のうち、EDTAのアルカリ金属塩は、前記伝熱面でスケール生成を促進しない化合物であるため、好適に利用されている。さらに、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩のうち、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩は、食品添加物として使用可能な安全な化合物であるため、とくに好適に利用されている。
【0029】
さて、前記測定キットは、試料水中の前記キレート剤,たとえばEDTAの濃度を滴定法によって定量するために用いられる。前記測定キットは、金属指示薬を含有する第一薬液が収容された第一容器と、pH調整剤を含有する第二薬液が収容された第二容器と、前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液とが収容された第三容器とを備えている。
【0030】
前記第一容器,前記第二容器および前記第三容器は、薬液を収容するとともに、試料水へ薬液を滴下可能に構成された容器類であって、たとえば樹脂製のボトルにノズルが装着されたノズル付き滴下瓶を利用することができる。このノズル付き滴下瓶は、使用時に前記ボトルの胴部を押して、所定量の薬液を滴下していくタイプのものである。また、前記第一容器,前記第二容器および前記第三容器には、ボトルのキャップにスポイトが装着されたスポイト付き滴下瓶を利用することもできる。このスポイト付き滴下瓶は、使用時に前記ボトル内の薬液を前記スポイトで吸い上げてから、所定量の薬液を滴下していくタイプのものである。さらに、前記第一容器,前記第二容器および前記第三容器には、ボトルと別体にスポイトが付属されたスポイト付き容器を利用することもできる。このスポイト付き容器は、使用時に前記ボトル内の薬液を前記スポイトで吸い上げてから、所定量の薬液を滴下していくタイプのものである。
【0031】
前記ボトルは、保存中に前記第一薬液,前記第二薬液および前記第三薬液を汚染,あるいは劣化させない観点から、不純物が溶出しない材質(たとえば、ポリエチレンやガラス
など)で形成されているとともに、遮光されていることが望ましい。また、前記ボトルの容量は、ハンドリングの容易さおよび運搬の容易さの観点から、25〜100ミリリットルの範囲に設定されていることが好ましい。
【0032】
続いて、前記第一薬液,前記第二薬液および前記第三薬液について説明する。まず、前記第一薬液について説明する。前記第一薬液に含有される前記金属指示薬は、前記第三薬液に含有される前記金属塩と反応して変色する色素系のキレート物質であって、滴定操作における終点を検出するために用いられる。前記キレート剤を定量対象とする滴定操作では、前記金属塩を構成する金属イオン(以下、試料水に含まれる金属イオンと区別するため、「特定金属イオン」と云う。)を前記キレート剤と優先的に錯体を形成させる必要がある。このため、前記金属指示薬は、前記キレート剤よりも前記特定金属イオンとの安定度定数が小さいキレート物質から選ばれる。このようなキレート物質としては、たとえばEDTAを定量対象とする場合、キシレノールオレンジ(化学名:3,3’−ビス[N,N−ジ(カルボキシメチル)アミノメチル]−o−クレゾールスルホフタレイン,二ナトリウム塩)やメチルチモールブルー(化学名:3,3’−ビス[N,N−ジ(カルボキシメチル)アミノメチル]チモールスルホフタレイン,二ナトリウム塩)を利用することができる。
【0033】
前記第一薬液における前記金属指示薬の含有量は、後述するように、試料水へ前記第一薬液を添加するとき、所定量の前記金属指示薬が供給されるように操作するため、とくに限定されない。通常は、溶解性および経済性の観点から、0.1〜0.6重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0034】
また、前記第一薬液には、試料水中の第一鉄イオンおよび銅イオンを封止するため、マスキング剤を含有させることができる。補給水や配管材料などに由来する第一鉄イオンおよび銅イオンは、通常、前記キレート剤と強く錯化しているため、前記特定金属イオンとの置換が起こりにくく、滴定操作における終点の判定に長時間を要することがある。一方、前記第一薬液に前記マスキング剤を含有させておくと、第一鉄イオンおよび銅イオンが優先的に前記マスキング剤と錯体を形成する。このため、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと速やかに錯体を形成し、試料水が変色するまでの反応時間が短縮される。ここにおいて、前記マスキング剤は、前記キレート剤よりも第一鉄イオンおよび銅イオンとの安定度定数が大きく、また第一鉄イオンおよび銅イオンを封止したときに、前記金属指示薬の色相変化の識別を阻害しないキレート物質から選ばれる。このようなキレート物質としては、EDTAを定量対象とする場合、o−フェナントロリンなどを利用することができる。
【0035】
前記第一薬液における前記マスキング剤の含有量は、後述するように、試料水へ前記第一薬液を添加するとき、所定量の前記マスキング剤が供給されるように操作するため、とくに限定されない。通常は、溶解性および経済性の観点から、0.5〜5重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0036】
さらに、前記第一薬液には、前記金属指示薬が試料水中の第二鉄イオンと錯体を形成して変色することを防止するため、還元剤を含有させることができる。たとえば、酸性溶液中のキシレノールオレンジは、pH6以下では黄色であるが、第二鉄イオンと錯化すると青色に変化する。このため、滴定操作中に正常な色相変化が起こらず、前記キレート剤の定量が不可能になる。一方、第二鉄イオンを第一鉄イオンへ還元すると、キシレノールオレンジは、本来の色相を示す。ここにおいて、前記還元剤は、第二鉄イオンを第一鉄イオンへ還元する作用を有し,かつ試料水に濁り,沈殿および着色を生じさせない還元性物質から選ばれる。このような還元性物質としては、たとえばアスコルビン酸およびそのアルカリ金属塩,亜硫酸のアルカリ金属塩,重亜硫酸のアルカリ金属塩および塩化ヒドロシキ
ルアミンなどを利用することができる。
【0037】
前記第一薬液における前記還元剤の含有量は、後述するように、試料水へ前記第一薬液を添加するとき、所定量の前記還元剤が供給されるように操作するため、とくに限定されない。通常は、溶解性および経済性の観点から、0.1〜10重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0038】
前記第一薬液は、前記金属指示薬およびその他の添加物(前記マスキング剤および前記還元剤)を溶媒である水やアルコールに均一に溶解することにより製造することができる。たとえば、EDTAを定量対象とする前記第一薬液は、キシレノールオレンジを水に溶解し、この溶液へアルコールに溶解させたo−フェナントロリンを添加して混合したり、粉末状のアスコルビン酸を添加して混合することにより製造することができる。
【0039】
つぎに、前記第二薬液について説明する。前記第二薬液に含有される前記pH調整剤は、試料水を前記金属指示薬が鋭敏に変色する酸性領域に調整するために用いられる。前記pH調整剤としては、通常、酸,もしくは酸とその塩からなる緩衝剤が利用される。ここで利用可能な酸は、硝酸,塩酸および硫酸などの無機酸,並びに酢酸などの有機酸である。また、ここで利用可能な酸の塩は、硝酸,塩酸,硫酸および酢酸などのアルカリ金属塩である。酸または酸の塩は、いずれも二種類以上を併用することができる。
【0040】
前記第二薬液における前記pH調整剤の含有量は、後述するように、試料水へ前記第二薬液を添加するとき、添加後の試料水のpHが所定範囲になるように操作するため、とくに限定されない。通常は、取扱いの安全性を確保する観点から、劇物に該当しない含有量であることが好ましい。また、前記水処理剤がアルカリ金属の水酸化物を含有する場合には、試料水がアルカリ性領域となっているため、中和および酸性領域への調整が可能な量の酸を前記pH調整剤として含有させることが好ましい。
【0041】
また、前記第二薬液には、試料水中の第一鉄イオンおよび銅イオンを封止するため、前記マスキング剤を含有させることができる。ここにおいて、前記マスキング剤は、通常、前記第一薬液および前記第二薬液のうち、いずれかに含有させる。前記第二薬液における前記マスキング剤の含有量は、後述するように、試料水へ前記第二薬液を添加するとき、所定量の前記マスキング剤が供給されるように操作するため、とくに限定されない。通常は、溶解性および経済性の観点から、0.5〜5重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0042】
前記第二薬液は、前記pH調整剤およびその他の添加物(前記マスキング剤)を溶媒である水やアルコールに均一に溶解することにより製造することができる。たとえば、EDTAを定量対象とする前記第二薬液は、硝酸を水に溶解し、この溶液へアルコールに溶解させたo−フェナントロリンを添加して混合することにより製造することができる。
【0043】
つぎに、前記第三薬液について説明する。前記第三薬液に含有される前記金属塩は、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記特定金属イオンを供給するために用いられる。前記金属塩は、前記キレート剤と優先的に錯体を形成したのち、前記金属指示薬を所定の色相へ変化させることのできる前記特定金属イオンを供給可能な多価金属の無機塩から選ばれる。このような多価金属の無機塩としては、たとえば前記金属指示薬がキシレノールオレンジの場合、硝酸ビスマスを利用することができる。ここにおいて、キシレノールオレンジが添加された試料水は、pH6以下では黄色であるが、キシレノールオレンジがビスマスイオンと錯化すると赤色に変化するため、この色相変化に基づいて、滴定操作の終点を判定する。また、試料水中に第一鉄イオンおよび銅イオンを封止したo−フェナントロリン(すなわち、前記マスキング剤)が共存するときは、試料水が黄色
でなく橙色を呈するが、キシレノールオレンジがビスマスイオンと錯化すると赤色に変化するため、この色相変化に基づいて、滴定操作の終点を判定する。
【0044】
前記第三薬液における前記金属塩の含有量は、前記キレート剤の定量値の分解能に応じて設定する。すなわち、前記ノズルまたは前記スポイトから排出される前記第二薬液の1滴に含まれる前記金属塩が所定量の前記キレート剤と反応するように、予め前記金属塩の含有量を調節しておく。たとえば、試料水が10ミリリットルであり、また前記ノズルまたは前記スポイトから排出される前記第三薬液の1滴が0.035グラムである条件において、試料水に含まれる遊離状態および錯体状態のEDTAをEDTA−2Naとして1滴あたり0.05mg相当の分解能で定量する場合、硝酸ビスマスの含有量を0.168重量%に設定する。
【0045】
また、前記第三薬液には、前記ノズルまたは前記スポイトの1滴あたりの排出量を一定にするため、表面張力低下剤を含有させることができる。たとえば、前記ノズル付き滴下瓶のボトル胴部をゆっくり押したときと速く押したときでは、ゆっくり押したときの方が前記第三薬液の排出量が多くなる。一方、前記第三薬液に前記表面張力低下剤を含有させておくと、前記ノズルの先端部での表面張力を低下させ、1滴あたりの排出量を一定にすることが可能になる。ここにおいて、前記表面張力低下剤は、水溶液の表面張力を低下させる作用を有し、また前記金属塩と反応しない物質から選ばれる。このような物質としては、アルコール化合物および非イオン性界面活性剤を利用することができる。好ましい前記アルコール化合物を例示すると、たとえばエチレングリコールおよびプロピレングリコールなどのグリコール類を挙げることができる。また、好ましい前記非イオン性界面活性剤を例示すると、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル類およびポリアルキレンアルキルエーテル類を挙げることができる。
【0046】
前記第三薬液における前記表面張力低下剤の含有量は、1滴あたりの排出量の変動を±5%以下に抑制する観点から、20〜40重量%の範囲で設定することが好ましい。
【0047】
前記第三薬液は、前記金属塩およびその他の添加物(前記表面張力低下剤)を溶媒である水や希薄な酸に均一に溶解することにより製造することができる。たとえば、EDTAを定量対象とする前記第三薬液は、希硝酸に硝酸ビスマスを溶解し、必要に応じてプロピレングリコールなどを溶解することにより製造することができる。
【0048】
前記測定キットにおいては、前記第一薬液に前記還元剤を含有させないで、前記第一容器,前記第二容器および前記第三容器とともに、粉末状の前記還元剤が収容された第四容器を備えるように構成することもできる。前記還元剤の種類によっては、水溶液中で保存したときに、経時的に酸化を受けやすい性質のものがあり、たとえば1〜3ヶ月間の短期保存には耐えるが、1年間の長期保存には耐えられない場合がある。このような性質の前記還元剤を利用する場合、粉末状のまま前記第四容器に収容しておくことで、長期保存が可能になる。
【0049】
前記第四容器は、密栓により空気酸化を防止できるタイプの容器であれば、とくに種類を限定せずに利用することができる。また、前記第四容器の容量は、ハンドリングの容易さおよび運搬の容易さの観点から、25〜100ミリリットルの範囲に設定されていることが好ましい。さらに、前記第四容器には、計量スプーンが付属されていることがより好ましい。前記計量スプーンが付属されていると、一定量の前記還元剤を計り取ってから、試料水へ添加することができるため、操作性が向上する。
【0050】
つぎに、前記測定キットを用いた前記キレート剤の測定方法について説明する。まず、前記熱機器の内部に貯留されている水の一部を試料水として採取する。この試料水は、前
記熱機器がボイラである場合、ボイラ水の一部をブロー装置などから採取する。また、この試料水は、前記熱機器がクーリングタワーである場合、循環水の一部を散布装置などから採取する。ここにおいて、採取された試料水が40℃を超える場合、滴定操作における安全性を確保する観点から、試料水を40℃以下まで冷却することが好ましい。また、採取された試料水に濁りがある場合、滴定操作における試料水の色相変化を正確に識別する観点から、試料水をろ過することが好ましい。採取された試料水は、滴定操作に供するため、予めメスシリンダーで所定量(たとえば、10〜50ミリリットル)を分取したのち、ビーカーに移し入れる。
【0051】
続いて、採取された試料水へ前記第一薬液を添加し、均一に混合する。前記第一薬液の添加量は、通常、試料水100重量部に対して0.0001〜0.003重量部の前記金属指示薬および0.001〜0.5重量部の前記還元剤がそれぞれ添加されるように、前記第一容器からの滴下数を調節する。また、試料水へ前記第二薬液を添加し、均一に混合する。前記第二薬液の添加量は、通常、試料水のpHが6以下になる量,より好ましくは二価金属イオンや希土類金属イオンの影響を受けにくいpH1〜3になる量の前記pH調整剤が添加されるように、前記第二容器からの滴下数を調節する。さらに、前記第一薬液または前記第二薬液が前記マスキング剤を含むときは、0.005〜0.5重量部の前記マスキング剤が添加されるように、前記第一容器または前記第二容器からの滴下数を調節する。前記第一薬液および前記第二薬液の添加順序は、とくに限定されず、両者を同時に添加することもできる。
【0052】
ここにおいて、前記金属指示薬の添加量が0.0001重量部未満の場合、試料水の着色が薄く、滴定操作の終点付近における色相変化を識別することが困難になる。一方、前記金属指示薬の添加量が0.003重量部を超える場合、試料水被滴定液の着色が濃く、滴定操作の終点付近における色相変化を識別することが困難になる。
【0053】
また、前記還元剤の添加量が0.001重量部未満の場合、試料水に含まれる第二鉄イオンの全てを還元できなくなる可能性がある。一方、前記還元剤の添加量が0.5重量部を超える場合、超過分の前記還元剤が第二鉄イオンの還元に寄与しなくなるため、不経済となるおそれがある。
【0054】
また、試料水のpHが6を超える場合は、前記金属指示薬が所定の色相を示さなくなるおそれがある。
【0055】
さらに、前記マスキング剤の添加量が0.005重量部未満の場合、試料水に含まれる第一鉄イオンおよび銅イオンの全てを封止できず、正確な定量値が得られなくなる可能性がある。一方、前記マスキング剤の添加量が0.5重量部を超える場合、超過分の前記マスキング剤が第一鉄イオンおよび銅イオンの封止に寄与しなくなるため、不経済となるおそれがある。
【0056】
前記第一薬液を添加する工程において、前記第一薬液が前記還元剤を含有しないように構成されている場合、通常、前記第一薬液を添加する直前に、試料水へ前記第四容器から粉末状の前記還元剤を添加し、均一に混合する。このときの前記還元剤の添加量は、前記還元剤を前記第一薬液に含有させた場合と同様に、試料水100重量部に対して0.001〜0.5重量部になるように操作する。
【0057】
試料水へ前記還元剤を含有する前記第一薬液が添加され,あるいは粉末状の前記還元剤が添加されると、試料水中の第二鉄イオンは、第一鉄イオンへ還元される。そして、この第一鉄イオンは、前記マスキング剤と優先的に錯体を形成する。このため、前記金属指示薬,たとえばキシレノールオレンジが第二鉄イオンと錯体を形成して変色することが防止
され、試料水の正常な色相が確保される。
【0058】
つぎに、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記第三容器から前記第三薬液を滴下し、試料水が変色するまでの滴下数を計数する。このとき、試料水と前記第三薬液とが均一に混合されるように、前記ビーカーを振り混ぜながら前記第三薬液を滴下する。
【0059】
前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤が前記特定金属イオンと優先的に錯体を形成する。そして、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと錯体を形成すると、前記金属指示薬が余剰の前記特定金属イオンと錯体を形成し、試料水が変色する。たとえば、前記キレート剤がEDTAおよびそのアルカリ金属塩である場合、前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記第三薬液を滴下していくと、EDTAがビスマスイオンと優先的に錯体を形成する。そして、EDTAの全量がビスマスイオンと錯体を形成すると、キシレノールオレンジが余剰のビスマスイオンと錯体を形成し、試料水が黄色(第一鉄イオンと結合したo−フェナントロリンが共存するときは、橙色)から赤色へ変色する。
【0060】
また、前記マスキング剤の存在下で前記第三薬液を滴下していくと、前記キレート剤と錯化している第一鉄イオンや銅イオンは、前記マスキング剤と優先的に錯体を形成する。このため、前記キレート剤の全量が前記特定金属イオンと速やかに錯体を形成し、試料水が変色するまでの反応時間が短縮される。
【0061】
つぎに、滴定操作の終点までに要した前記第三薬液の滴下数に基づいて、試料水中の前記キレート剤の濃度を特定する。前記したように、前記第三薬液は、1滴に含まれる前記金属塩が所定量の前記キレート剤と反応するように調製されているため、前記第三薬液1滴あたりの前記キレート剤の相当量,前記第三薬液の滴下数および試料水の分取量から、試料水中の前記キレート剤の濃度を算出することができる。
【0062】
ところで、前記熱機器内において、前記キレート剤は、遊離の状態または硬度分などと錯体を形成した状態で水中に溶解している。前記熱機器の内部に貯留されている水は、通常、所定の濃縮倍率を維持するように、間欠的に外部へブローされ,あるいは定期的に補給水が供給されるため、前記キレート剤が溶解度を超えて水中で結晶化したり、伝熱面に析出する可能性がない。このため、前記熱機器内における前記キレート剤の濃度は、水処理剤濃度と相関があり、前記キレート剤の濃度および前記水処理剤における前記キレート剤の配合割合から、水処理剤濃度が容易に特定される。したがって、この水処理剤濃度に基づいて、前記水処理剤の供給量の適否を判断することが可能になる。
【0063】
以上説明したように、この発明の実施の形態によれば、熱機器の設置された現場において、水処理剤濃度を簡単に知ることができる。この結果、熱機器への水処理剤供給量の適否を現場で判断することが可能になり、水処理に係る保守管理を効率化することができる。
【実施例】
【0064】
(第一薬液の調製)
金属指示薬としてキシレノールオレンジ,マスキング剤としてo−フェナントロリン,溶媒として蒸留水およびエタノールを用い、これらの各成分を表1に示す含有量で混合して第一薬液を調製した。調製後、この第一薬液は、ポリエチレン製のノズル付き滴下瓶(容量100ミリリットル;以下、「第一容器」と云う。)に充填した。前記第一容器を用いた前記第一薬液の1滴あたりの滴下量は、0.035グラム(平均値)であった。
【0065】
【表1】

【0066】
(第二薬液の調製)
pH調整剤として10%硝酸水溶液を用い、第二薬液とした。この第二薬液は、ポリエチレン製のノズル付き滴下瓶(容量100ミリリットル;以下、「第二容器」と云う。)に充填した。前記第二容器を用いた前記第二薬液の1滴あたりの滴下量は、0.035グラム(平均値)であった。
【0067】
(第三薬液の調製)
金属塩として硝酸ビスマス五水和物,溶媒として0.5モル/リットル硝酸水溶液を用い、これらの各成分を表2に示す含有量で混合して第三薬液を調製した。調製後、この第三薬液は、ポリエチレン製のノズル付き滴下瓶(容量100ミリリットル;以下、「第二容器」と云う。)に充填した。前記第三容器を用いた前記第三薬液の1滴あたりの滴下量は、0.035グラム(平均値)であり、前記第三薬液は、その1滴がEDTA−2Naの0.05mgに相当する。
【0068】
【表2】

【0069】
(試料水の採取)
スケール抑制剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA−2Na)が配合された水処理剤を供給している貫流ボイラのうち、全国から67台を無作為に抽出し、運転中に連続ブロー装置から試料水を採取した。前記水処理剤には、EDTA−2Naともに、腐食抑制剤としてアルカリ金属の水酸化物が配合されており、採取された試料水のpHは、10.5〜12の範囲であった。各試料水は、室温まで冷却したのち、メスシリンダを用いて10ミリリットルをビーカーへそれぞれ分取し、67検体分の第一分取試料水を準備した。また、各試料水からは、メスシリンダを用いて5ミリリットルをビーカーへそれぞれ分取し、67検体分の第二分取試料水を準備した。
【0070】
(簡易滴定法によるEDTAの測定)
第一分取試料水へ還元剤として粉末状のアスコルビン酸を20mg添加し、均一に溶解した。前記還元剤が添加された第一分取試料水へは、前記第一容器から前記第一薬液を1滴添加し、続いて前記第二容器から前記第二薬液を5滴添加して均一に混合することによって被滴定水を作成した。つぎに、被滴定水へ前記第三容器から前記第三薬液を滴下し、被滴定水が橙色から赤色へ変化するまでの滴下数を計数した。そして、前記第三薬液1滴あたりのEDTA−2Naの相当量,前記第三薬液の滴下数および試料水の分取量から、試料水中のEDTA−2Naの濃度を算出した。以上の操作において、1検体あたりの測定に要した時間は、1〜3分であった。
【0071】
(高速液体クロマトグラフィー法によるEDTAの測定)
簡易滴定法によるEDTAの定量値と対比するため、第二分取試料水に対し、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)によるEDTAの測定を実施した。まず、市販されている0.01モル/リットルのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA−2Na)水溶液を蒸留水で希釈し、0mg/リットル,10mg/リットル,20mg/リットル,40mg/リットルおよび80mg/リットルの標準溶液をそれぞれ調製した。また、塩化第二鉄六水和物0.27gを0.01Nの塩酸に溶解して全量を100ミリリットルとし、0.01モル/リットルの塩化第二鉄溶液を調製した。
【0072】
各標準溶液5ミリリットルへ0.01モル/リットルの塩化第二鉄溶液5ミリリットルをそれぞれ添加し、0.2μmのメンブレンフィルタでろ過したのち、各溶液10マイクロリットルについて高速液体クロマトグラフィーを行った。そして、得られたそれぞれの
ピーク高さと濃度から検量線を作成した。ここにおいて、高速液体クロマトグラフィーの条件は、以下のとおりである。
【0073】
◎カラムサイズ:内径4.6mm,長さ150mm
◎固定相:全多孔性シリカゲルにオクタデシル基を化学修飾したもの
◎移動相:0.01モル/リットルのテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシド溶液に酢酸を加えてpH3.0に調整したもの
◎移動相流速:1.0ミリリットル/分
◎検出器の選択波長:255nm
【0074】
つぎに、第二分取試料水へ0.01モル/リットルの塩化第二鉄溶液5ミリリットルを添加し、0.2μmのメンブレンフィルタでろ過したのち、各溶液10マイクロリットルについて標準溶液と同じ条件にて高速液体クロマトグラフィーを行い、ピーク高さを計測した。そして、予め作成した検量線に基づいて、試料水中のEDTA−2Naの濃度を算出した。以上の操作において、1検体あたりの測定に要した時間は、25分であった。
【0075】
(評価)
各試料水について、HPLC法による定量値に対して簡易滴定法による定量値をプロットしたグラフを図1に示す。図1によると、簡易滴定法による定量値は、HPLC法の定量値に対して、プラス側へ5mg/リットル程度の差を生じる場合がある。これは、簡易滴定法における定量値の分解能が5mg/リットルに設定されていることによる。簡易滴定法の定量値は、HPLC法の定量値とほぼ直線的な相関を示しており、信頼性が高いことが分かる。また、簡易滴定法は、特殊な機器を用いることなく,かつ短時間での測定が可能であることから、現場での測定に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】HPLC法によるEDTA−2Naの定量値と簡易滴定法によるEDTA−2Naの定量値との相関を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水中のキレート剤の濃度を定量するキレート剤の測定方法であって、
試料水を採取する工程と、
採取された試料水へ金属指示薬を含有する第一薬液およびpH調整剤を含有する第二薬液をそれぞれ添加する工程と、
前記第一薬液および前記第二薬液が添加された試料水へ前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液を滴下し、試料水が変色するまでの滴下数を計数する工程と、
前記第三薬液の滴下数に基づいて、試料水中のキレート剤の濃度を特定する工程とを含むことを特徴とするキレート剤の測定方法。
【請求項2】
前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸およびその塩であり、
前記金属指示薬,前記pH調整剤および前記金属塩がそれぞれキシレノールオレンジ,硝酸および硝酸ビスマスであることを特徴とする請求項1に記載のキレート剤の測定方法。
【請求項3】
採取された試料水へさらにマスキング剤を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキレート剤の測定方法。
【請求項4】
前記マスキング剤がo−フェナントロリンであることを特徴とする請求項3に記載のキレート剤の測定方法
【請求項5】
採取された試料水へさらに還元剤を添加する工程を含むことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のキレート剤の測定方法。
【請求項6】
前記還元剤がアスコルビン酸およびそのアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項5に記載のキレート剤の測定方法。
【請求項7】
試料水中のキレート剤の濃度を定量するキレート剤の測定キットであって、
金属指示薬含有する第一薬液が収容された第一容器と、
pH調整剤を含有する第二薬液が収容された第二容器と、
前記金属指示薬を変色させる金属塩を含有する第三薬液が収容された第三容器とを備えることを特徴とするキレート剤の測定キット。
【請求項8】
前記第一薬液または前記第二薬液がさらにマスキング剤を含有することを特徴とする請求項7に記載のキレート剤測定キット。
【請求項9】
前記第一薬液がさらに還元剤を含有することを特徴とする請求項8に記載のキレート剤の測定キット。
【請求項10】
粉末状の還元剤が収容された第四容器を備えることを特徴とする請求項8に記載のキレート剤の測定キット。

【図1】
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【公開番号】特開2007−263632(P2007−263632A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86834(P2006−86834)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】