説明

ギアポンプ

【課題】粘度の低い作動流体を用いる場合にあっても摩耗の発生を抑制する。
【解決手段】互いに噛み合った状態でケーシングに収納される駆動ロータ7及び従動ロータ9を備え、両ロータ7、9には、駆動ロータ7の歯7bが従動ロータ9の歯9bと互いに離間した二位置エ、オで接触する初期噛合姿勢と、この初期噛合姿勢から回転した姿勢であって、二位置エ、オが回転に伴って移動した二位置カ、キに加えて、それらよりも回転方向上流側の一位置クで更に駆動ロータ7の歯7bが従動ロータ9の歯9bと接触する三点噛合姿勢とがあり、三点噛合姿勢において、回転方向下流側の二位置カ、キ間である下流側空間Bの圧力が回転方向上流側の二位置キ、ク間である上流側空間Aの圧力よりも高いものであり、かつ、回転方向下流側の二位置カ、キを結ぶ線分の垂直二等分線が、従動ロータ9に回転方向のモーメントを生じさせるように、従動ロータ9の軸心9cからずれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバイナリ発電装置などで循環使用される媒体等の作動流体を送り出すためのギアポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、工場等の各種設備から排出される、いわゆる排熱を回収し、その回収された排熱に含まれるエネルギーを利用して発電を行う発電装置の必要性が高まっている。
【0003】
上記発電装置として、バイナリ発電装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。このバイナリ発電装置は、熱源流体の熱により媒体を蒸発させる蒸発器と、その媒体の蒸気を膨張させて発電機を駆動させるスクリュータービンと、スクリュータービンから排出された媒体の蒸気を凝縮させる凝縮器と、媒体を循環させる循環ポンプと、これらが直列に接続されて閉ループとなった循環流路とを備え、上記スクリュータービンで上記発電機を駆動させて発電を行う構成となっている。
【0004】
上記循環ポンプとしては、種々の形式のものが適用可能であるものの、いわゆるギアポンプが一般的に用いられる。
【0005】
ギアポンプとしては、例えば図10及び図11に示す構成のものが知られている(例えば特許文献2参照)。このギアポンプは、ハウジング101の内部の空洞の対向部分に一対のサイドプレート112を嵌め合わせてギア室114が区画され、そのギア室114の内部に、共に平歯車からなる一対のギア103、104が互いに噛み合う状態で収容され、更に、各ギア103、104の支軸130、140が、対応するサイドプレート112に形成した支持孔131、141によって嵌合支持されるとともに、上記ギア室114の内部に、両ギア103、104の噛み合い位置を挟んで、媒体の吸込室105及び吐出室106が形成された構成とされる。
【0006】
そして、ハウジング101やサイドプレート112には、加工性の向上化及び軽量化のためにアルミニウム合金が使用される一方、各ギア103、104には耐摩耗性が要求されるので、鋳鉄等の鉄系の材料が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−103023号公報
【特許文献2】特開平10−141246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような構成のギアポンプで送出する液体が、例えば粘度が32cSt程度の粘性が高い油であれば、潤滑性が良く、各ギアに前述の鋳鉄等を用いることで十分に摩耗を抑制することができる。
【0009】
しかしながら、ギアポンプで送出する作動液体が、例えばバイナリ発電装置などに用いられるR245fa等の媒体であるとき、その粘度は上記の粘性が32cSt程度の油に比して格段に低くなるため、潤滑性も上記の粘性が32cSt程度の油に比して格段に低下する。そのため、各ギアに鋳鉄等のものを用いるだけでは、その摩耗を十分に防止することができない虞があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、粘度の低い作動流体を用いる場合にあっても摩耗の発生を抑制することが可能なギアポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のギアポンプは、互いに噛み合った状態でケーシングに収納される駆動ロータ及び従動ロータを備えたギアポンプであって、前記駆動ロータ及び前記従動ロータには、前記駆動ロータの歯が前記従動ロータの歯と互いに離間した二位置で接触する初期噛合姿勢と、この初期噛合姿勢から回転した姿勢であって、前記二位置が回転に伴って移動した二位置に加えて、それら移動後の二位置よりも回転方向上流側の一位置で更に前記駆動ロータの歯が前記従動ロータの歯と接触する三点噛合姿勢とがあり、前記三点噛合姿勢において、回転方向下流側の二位置間である下流側空間の圧力が回転方向上流側の二位置間である上流側空間の圧力よりも高いものであり、かつ、前記回転方向下流側の二位置を結ぶ線分の垂直二等分線が、前記従動ロータに回転方向のモーメントを生じさせるように、前記従動ロータの軸心からずれているものである。
【0012】
この発明による場合には、三点噛合姿勢のとき、回転方向下流側の二位置間である下流側空間の圧力が回転方向上流側の二位置間である上流側空間の圧力よりも高いものであるので、上流側空間の圧力が従動ロータの回転方向に影響をあまり及ぼさず、しかも、従動ロータに回転方向のモーメントを生じさせるように、回転方向下流側の二位置を結ぶ線分の垂直二等分線が従動ロータの軸心からずれている。このため、三点噛合姿勢のときに、従動ロータを空回り状態で回転させることが可能になる。それにより、粘度の低い作動流体を用いる場合にあっても摩耗の発生を抑制することが可能になる。
【0013】
この構成のギアポンプにおいて、前記上流側空間は、前記初期噛合姿勢から前記三点噛合姿勢へ変化する際に、容積が零から形成されたものであるようにすることが好ましい。このようにした場合には、従動ロータの回転に対し全く影響が及ばないようにすることができるので、三点噛合姿勢のときに従動ロータをより確実に空回り状態で回転させ得る。
【0014】
この構成のギアポンプにおいて、上記駆動ロータの歯の形状が、その歯先を挟んで回転方向側歯面(X)と、反回転方向側歯面(Y)とで2つの異なる形状を有し、上記回転方向側歯面(X)を第1関数(H)と定義すると、それに対向する従動ロータの歯面は駆動ロータが反回転方向に回転したときにおける前記第1関数(H)の創成関数である第2関数(h)にて定義され、上記反回転方向側歯面(Y)では、その反回転方向側歯面(Y)における歯先側の部位を第3関数(F)と定義すると、従動ロータの歯面は駆動ロータが反回転方向に回転したときにおける前記第3関数(F)の創成関数である第4関数(f)にて定義されるとともに、その第4関数(f)の歯形領域が従動ロータのピッチ円内の所定の位置までであり、この第4関数(f)に接続される第5関数(g)にて従動ロータの歯先までが定義され、駆動ロータを回転方向に回転した場合における前記第5関数(g)の創成関数である第6関数(G)が前記第3関数(F)にて定義された部分に続く状態で上記反回転方向側歯面(Y)が定義される構成とすることができる。この場合には、駆動ロータの歯の形状が第1関数(H)、第3関数(F)および第6関数(G)により定義され、一方の従動ロータの歯の形状が第2関数(h)、第4関数(f)および第5関数(g)により定義されることで、駆動ロータと従動ロータとが前記三点噛合姿勢で噛み合うように駆動ロータ及び従動ロータの歯の形状が設計される。
【0015】
この構成のギアポンプにおいて、前記ケーシング内には、作動流体の吐出室が設けられ、上記駆動ロータおよび上記従動ロータの少なくとも一方のロータ端面には上記下流側空間に連通する第1溝が形成され、上記第1溝を有するロータ端面に対向するケーシングの面には、前記三点噛合姿勢のときに上記第1溝と上記吐出室とを連通させる第2溝が形成されている構成にすることができる。この構成による場合には、下流側空間が形成された後に、その下流側空間の容積が徐々に小さくなっても、その下流側空間には第1溝及び第2溝を介して吐出室が連通しているため、下流側空間に収容された作動流体を吐出室に逃がすことができ、これによりギアポンプの破損を防止できる。
【0016】
この構成のギアポンプにおいて、上記駆動ロータの各歯および従動ロータの各歯がそれぞれのロータ軸心に対して捩れており、その捩れにより上記下流側空間が上記吐出室に繋がる構成にしてもよい。このようにした場合には、駆動ロータおよび従動ロータの各歯がそれぞれのロータ軸心に対して捩れることで、駆動ロータの歯と従動ロータの歯との噛み合う位置が回転に伴って各ロータの軸心方向へ移動していき、この噛み合う位置の移動により下流側空間に収容された作動流体が移動して作動流体を吐出室に逃がすことができ、これによってもギアポンプの破損を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による場合には、三点噛合姿勢のときに、従動ロータを空回り状態で回転させることが可能になるので、粘度の低い作動流体を用いる場合にあっても摩耗の発生を抑制することが可能なギアポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るギアポンプを示す平面図である。
【図2】図1のギアポンプを構成する駆動ロータと従動ロータとを示す左側面図である。
【図3】(a)は駆動ロータと従動ロータとが第1姿勢で噛み合った状態を示し、(b)は同じく第2姿勢で噛み合った状態を示し、(c)は同じく第3姿勢で噛み合った状態を示す。
【図4】本発明で用いる駆動ロータおよび従動ロータの歯面形状を設計するための説明図である。
【図5】三点噛合姿勢のときにおいて接触位置カと接触位置キとの線分の垂直二等分線の方向を示す図である。
【図6】ロータ回転角(横軸)とトルク(縦軸)との関係を示す図である。
【図7】上流側空間の形成過程の説明図である。
【図8】本発明の駆動ロータおよび従動ロータの歯の捩れの説明図である。
【図9】本発明で用いる第1溝及び第2溝の関係を説明するための図である。
【図10】従来のギアポンプを示す正面図である。
【図11】図10のギアポンプの側面図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0020】
図1は本実施形態に係るギアポンプを示す平面図であり、図2はそのギアポンプを構成する駆動ロータと従動ロータとを示す左側面図である。
【0021】
このギアポンプ1は、ケーシング3の内部に設けた収納室5に、駆動ロータ7及び従動ロータ9が互いに噛み合った状態で収納されている。ケーシング3は、収納室5を一端側に有する第1ケーシング3aと、第1ケーシング3aの一端に突き合わされる第2ケーシング3bと、第1ケーシング3aの他端に突き合わされる第1蓋部3cと、第2ケーシング3bの第1ケーシング3aを突き合わせる端面とは反対側の端面に突き合わされる第2蓋部3dとを有する。なお、第1蓋部3c及び第2蓋部3dは、駆動ロータ7及び従動ロータ9の各軸に対応して2分割構造となっている。
【0022】
駆動ロータ7の軸部7aは図示しないモータに接続されていて、そのモータにより回転駆動され、その回転が従動ロータ9に伝達されるようになっている。また、ケーシング3の内部には、駆動ロータ7及び従動ロータ9が互いに噛み合う箇所を挟んで一方側に吸込室15が、他方側に吐出室17が設けられており、これら吸込室15及び吐出室17は収納室5に連通している。なお、図1中の9aは、従動ロータ9の軸部である。
【0023】
駆動ロータ7は外周に複数、図示例では10個の歯7bを有し、一方、従動ロータ9は外周に複数、図示例では12個の歯9bを有する。歯7bの形状は、駆動ロータ7のピッチ円7pの外側において外方へ膨らんだ形状となっており、また、その歯7bの根元部分の形状は、前記根元部分の凹状底部が駆動ロータ7のピッチ円7pの内側に位置する窪み形状となっている。そして、一方の歯9bの形状は従動ロータ9のピッチ円9pの内側において、歯7bにおけるピッチ円7pの外側部分に応じた形状、すなわち駆動ロータ7が回転するときに創成する形状となっている。駆動ロータ7の各歯7bは駆動ロータ7の軸心7cに対して捩れており、従動ロータ9の各歯9bは従動ロータ9の軸心9cに対して捩れている。歯7bの捩れ方向及び歯9bの捩れ方向は、第1蓋部3c側に位置する歯7b、9bの端部が、第2蓋部3d側に位置する歯7b、9bの端部よりも回転方向下流側に位置するように設定されている。この捩れ角度については、後で詳述する。
【0024】
従動ロータ9における第2蓋部3d側のロータ端面9dには、各歯9b毎に第1溝11が形成されており、また第2ケーシング3bのロータ端面9dと向かい合う面3eには、第2溝13が形成されている。これら第1溝11及び第2溝13については、後で詳述する。
【0025】
上記駆動ロータ7の歯7b及び従動ロータ9の歯9bの歯面形状は、以下の3つの姿勢が得られるように設計している。
【0026】
第1姿勢:図3(a)に示すように駆動ロータ7の歯7bが従動ロータ9の歯9bと一
位置アで接触する姿勢(両歯7b、9bの間に閉じた空間が形成されていない)
【0027】
第2姿勢:図3(b)に示すように駆動ロータ7の歯7bが従動ロータ9の歯9bと互
いに離間した二位置エ、オで接触する姿勢(初期噛合姿勢)
【0028】
第3姿勢:図3(c)に示すように初期噛合姿勢から回転した姿勢であって、前記二位
置エ、オが回転に伴って移動した二位置カ、キに加えて、それら移動後の二位置カ、キよりも回転方向上流側の一位置クで更に駆動ロータ7の歯7bが従動ロータ9の歯9bと接触する姿勢(三点噛合姿勢)
【0029】
駆動ロータ7に発生するトルクTmの方向は、第1姿勢、第2姿勢及び第3姿勢のいずれにあっても、駆動ロータ7の回転方向と逆方向のモーメントを駆動ロータ7に生じさせる方向になる。具体的には、図3(a)に示す第1姿勢における駆動ロータ7に発生するトルクTmの方向は、歯7b及び歯9bの接触位置アと、歯7b及びケーシング3の接触位置イとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向であり、図3(b)に示す第2姿勢における駆動ロータ7に発生するトルクTmの方向は、歯7b及び歯9bの接触位置エと、同じく歯7b及び歯9bの接触位置オとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向であり、図3(c)に示す第3姿勢における駆動ロータ7に発生するトルクTmの方向は、歯7b及び歯9bの接触位置カと、同じく歯7b及び歯9bの接触位置キとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向で表される。
【0030】
一方、従動ロータ9に発生するトルクTfの方向は、図3(a)に示す第1姿勢にあっては、前記接触位置アと歯9b及びケーシング3の接触位置ウとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向であって、従動ロータ9の回転方向と逆方向のモーメントを従動ロータ9に生じさせる方向になり、図3(b)に示す第2姿勢にあっては、前記接触位置エと前記接触位置オとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向であって従動ロータ9の軸心9c方向になり、図3(c)に示す第3姿勢にあっては前記接触位置カと前記接触位置キとを結ぶ線分の垂直二等分線の方向であって、従動ロータ9の回転方向と同方向のモーメントを従動ロータ9に生じさせる方向になる。
【0031】
ここで、従動ロータ9の回転方向と同方向のモーメントを従動ロータ9に生じさせる場合のトルクTfは、回転を助けるように働くときを負の値と考え、逆に回転を妨げるように働くときを正の値と考える。
【0032】
このとき、従動ロータ9に発生するトルクTfは、第1姿勢では正の値、第2姿勢では0、第3姿勢では負の値になる。そして、従動ロータ9は、回転に伴って第1姿勢、第2姿勢及び第3姿勢とこの順に変化するので、第1姿勢から第3姿勢までのトルクの合計値を0に近づくようにすることが可能になる。
【0033】
このような構成の駆動ロータ7及び従動ロータ9の歯面の設計は、図4に基づき、以下にように行われる。
【0034】
駆動ロータ7の歯7bの形状が、その歯先を挟んで回転方向側歯面(X)と、反回転方向側歯面(Y)とで2つの異なる形状を有し、上記回転方向側歯面(X)を第1関数(H)と定義すると、それに対向する従動ロータ9の歯面は相手側の駆動ロータ7が反回転方向に回転したときにおける第1関数(H)の創成関数である第2関数(h)にて定義される。その回転に際して、互いのピッチ円7p、9pが滑らないように回転させる。上記反回転方向側歯面(Y)では、その反回転方向側歯面(Y)における歯先側の部位を第3関数(F)と定義すると、従動ロータ9の歯面は相手側の駆動ロータ7が反回転方向に回転したときにおける第3関数(F)の創成関数である第4関数(f)にて定義され、その第4関数(f)の歯形領域は従動ロータ9のピッチ円9p内の所定の位置までであり、この所定の位置において第4関数(f)になめらかに接続される第5関数(g)にて従動ロータ9の歯先までが定義され、駆動ロータ7を回転方向に回転した場合における第5関数(g)の創成関数である第6関数(G)が前記第3関数(F)にて定義された部分に続く状態で上記反回転方向側歯面(Y)が定義されるように行われる。この場合の回転についても、前同様に、互いのピッチ円7p、9pが滑らないように回転させる。
【0035】
これにより、第3姿勢において、図4および図5に示すように、第1関数(H)と第2関数(h)との接触位置カと、第3関数(F)と第4関数(f)との接触位置キと、第5関数(g)と第6関数(G)との接触位置クとが形成される。
【0036】
ところで、第3姿勢にあっては接触位置カと接触位置キとで囲まれた下流側空間Bの他に、接触位置キと接触位置クとで囲まれた上流側空間Aが存在する。
【0037】
この状態において、駆動ロータ7に作用するトルクTmは、下記1式で表され、
Tm=L×Km×Z×(Pd−Ps) ・・・(式1)
但し、L:接触位置カと接触位置キを結ぶ線分長さ
Km:上記2位置カとキを結ぶ線分の垂直二等分線と駆動ロータ7の軸心7cとの距離
Z:駆動ロータ7の軸方向の長さ
Pd:下流側空間Bの圧力
Ps:上流側空間Aの圧力

同じ状態において、従動ロータ9に作用するトルクTfは、前述したように従動ロータ9の回転方向と同じ方向に作用して回転を助けるため、下記2式のように負の値で表される。
【0038】

Tf=−L×Kf×Z×(Pd−Ps) ・・・(式2)
但し、Kf:上記2位置カとキを結ぶ線分の垂直二等分線と従動ロータ9の軸心9cとの距離

図6は、横軸にロータ回転角(deg)を、縦軸にトルクをとって、駆動ロータのトルク(実線)と従動ロータのトルク(破線)との一例を示すグラフである。
【0039】
この図6から理解されるように駆動ロータ7に発生するトルクTmは常時正の値になる。つまり、上述したように駆動ロータ7に発生するトルクTmの方向が、第1姿勢、第2姿勢及び第3姿勢のいずれにあっても、駆動ロータ7の軸心7cからずれて、駆動ロータ7の回転方向と逆方向のモーメントを駆動ロータ7に生じさせる方向になる。一方、従動ロータ9に発生するトルクTfは、正の値から0になった後に負の値になる。つまり、上述したように従動ロータ9に発生するトルクTfの方向は、第1姿勢にあっては、接触位置アと接触位置ウとの線分の垂直二等分線の方向であって、従動ロータ9の回転方向と逆方向のモーメントを従動ロータ9に生じさせる方向になり、正の値となる。そして、第2姿勢にあっては、接触位置エと接触位置オとの線分の垂直二等分線の方向であって従動ロータ9の軸心9c方向になって、従動ロータ9に発生するトルクは0になり、第3姿勢にあっては、接触位置カと接触位置キとの線分の垂直二等分線の方向であって、従動ロータ9の回転方向と同方向のモーメントを従動ロータ9に生じさせる方向になり、従動ロータ9に発生するトルクTfは負の値になる。
【0040】
したがって、上記第3姿勢にあっては、従動ロータ9に発生するトルクTfを負の値にできるので、従動ロータ9を空回りさせることが可能となり、この空回りにより両ロータ7、9の摩耗を減らし得る。そして、その空回り状態となるときのトルクを負側で大きくすることが望ましく、そのために上記2式に基づきPdの値に対してPsの値を小さくさせようにする。
【0041】
そこで、本実施形態では、上流側空間Aの形成に関し、図7(a)に示すように第2姿勢(初期噛合姿勢)になった時点では、接触位置キのみが存在し、図7(b)に示す次の時点(僅かに回転した時点)では2つの接触位置キ、クが形成されるようになし、その後、接触位置キ、クの間隔、つまり上流側空間Aの容積が大きくなるように設計している。つまり、上流側空間Aが容積0から大きくなるようにすることで、Psの値を小さく、好ましくは0に近づくように設計している。
【0042】
このように構成された本実施形態に係るギアポンプ1にあっては、第3姿勢(三点噛合姿勢)のとき、回転方向下流側の二位置カ、キの間である下流側空間Bの圧力が回転方向上流側の二位置キ、クの間である上流側空間Aの圧力よりも高いものであるので、上流側空間Aの圧力が従動ロータ9の回転に影響をあまり及ぼさず、しかも、従動ロータ9に回転方向のモーメントを生じさせるよう、回転方向下流側の二位置カ、キを結ぶ線分の垂直二等分線が従動ロータ9の軸心9cからずれている。このため、三点噛合姿勢のときに、従動ロータ9を空回り状態で回転させることが可能になる。それにより、粘度の低い作動流体を用いる場合にあっても、両ロータ7、9の摩耗の発生を抑制することが可能になる。
【0043】
また、本実施形態において、第2姿勢(初期噛合姿勢)から第3姿勢(三点噛合姿勢)へ変化する際に、上流側空間Aが容積零から形成されるようになっているので、従動ロータ9の回転方向に対し全く影響が及ばないようにすることができ、第3姿勢のときに、従動ロータ9をより確実に空回り状態で回転させ得る。
【0044】
更に、本実施形態では、前述したように駆動ロータ7及び従動ロータ9に、各ロータの歯7b、歯9bが各ロータの軸心7c、9cに対して捩れたものを用いているので、下流側空間Bに入っている液体を吐出室17へ逃がすようにすることが可能になる。このことを図8に基づき説明する。
【0045】
図8は駆動ロータ7及び従動ロータ9が噛み合って回転する状態を示し、図8(m)、図8(o)、図8(q)、図8(s)及び図8(u)は第1蓋部3c側のロータ端面を示し、図8(n)、図8(p)、図8(r)、図8(t)及び図8(v)は第2蓋部3d側のロータ端面を示す。また、図8(m)及び図8(n)は回転角度が0度のとき、図8(o)及び図8(p)は回転角度が7.2度のとき、図8(q)及び図8(r)は回転角度が14.4度のとき、図8(s)及び図8(t)は回転角度が21.6度のとき、図8(u)及び図8(v)は回転角度が28.8度のときである。なお、図中のサ、シ、スおよびセは、各ロータの一端と他端とが繋がることを示すためのもので、例えば図8(o)及び図8(p)において、図8(o)中のセと図8(p)中のセとが繋がる部分を表し、同じく図8(o)中のスと図8(p)中のスとが繋がる部分を表す。他の図においても同様である。
【0046】
この図8から、回転角度が14.4度、21.6度、28.8度のときに、図8(q)、図8(s)及び図8(u)に示すセと、図8(r)、図8(t)及び図8(v)に示すセとの位置関係から下流側空間Bが吐出室17に繋がっていることが理解される。なお、前述した駆動ロータ7及び従動ロータ9の捩れ角度は、下流側空間Bが形成されているときに、その下流側空間Bが吐出室17に繋がる角度範囲に設定される。
【0047】
この駆動ロータ7及び従動ロータ9の捩れにより、歯7bと歯9bとの噛み合い位置が移動し、これにより下流側空間Bに入っている液体を吐出室17へ逃がすことが可能になり、ギアポンプの破損を防止することができる。
【0048】
更に、本実施形態では、上述したように従動ロータ9のロータ端面9dに第1溝11が形成され、またケーシング3に第2溝13が形成されているので、第3姿勢において下流側空間Bの容積がロータ回転に伴って減少して下流側空間Bの圧力が高くなっても、その下流側空間Bに入っている液体を吐出室17へ逃がしてギアポンプの破損を防止することができる。そして、これを可能とすべく、図2に示したように、第1溝11は第3姿勢のときに従動ロータ9におけるロータ端面9dの下流側空間Bが形成される部分であって各歯9b毎に形成され、一方、第2溝13はケーシング3のロータ端面9dと向かい合う面3eに、駆動ロータ7の歯7bと噛み合っている従動ロータ9の歯9bに設けた第1溝11と吐出室17とを第3姿勢にあるときに連通するように形成されている。この第1溝11と吐出室17との連通により、前記下流側空間Bの圧力が吐出室17の圧力と等しくなる。
【0049】
なお、第2溝13は、一端が吐出室17に連通するように設けられるが、他端については、図9に示すように、吐出室17から下流側空間Bへ前記液体が逆流を起こす直前で、第1溝11との連通が解除される位置に配設される。一方、第1溝11は、一端が下流側空間Bの形成される部分に設けられ、他端が前記逆流を起こす直前で第2溝13との連通が解除される位置に配設される。また、第1溝11及び第2溝13は、図2、9等に示す直線状であっても、図示を省略するものの曲線状であってもよい。
【0050】
なお、上述した実施形態では歯が10個の駆動ロータと、歯が12個の従動ロータとを用いているが、本発明はこれに限らない。例えば、歯が4個の駆動ロータ及び歯が6個の従動ロータを用いたり、他の歯数の駆動ロータ及び従動ロータを用いたりしてもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では第1溝11と第2溝13とを用いることで下流側空間Bの圧力を吐出室17の圧力にし、加えて、下流側空間Bと吐出室17とが連通するように各ロータの歯7b、歯9bが各ロータの軸心7c、9cに対して捩れた駆動ロータ7及び従動ロータ9を用いることで下流側空間Bの圧力を吐出室17の圧力にする構成としているが、本発明はこれに限らない。例えば、第1溝11と第2溝13とを用いることのみで、下流側空間Bの圧力を吐出室17の圧力にしてもよい。或いは、下流側空間Bと吐出室17とが連通するように各ロータの歯7b、歯9bが各ロータの軸心7c、9cに対して捩れた駆動ロータ7及び従動ロータ9を用いることで、下流側空間Bの圧力と吐出室17の圧力とが同じ圧力になる構成としてもよい。但し、前者のように第1溝11と第2溝13とを用いることのみで、下流側空間Bの圧力を吐出室17の圧力に一致させる場合にあっては、下流側空間Bと吐出室17とが連通するように各ロータの軸心7c、9cに対する各ロータの歯7b、9bの捩れ角度にする必要はないものの、その捩れ角度よりも小さい角度の捩れとすることにより下流側空間B内の液体を第1溝11側へ移動させるように構成することが好ましい。
【0052】
更に、上述した実施形態では従動ロータに第1溝を形成しているが、本発明はこれに限らず、駆動ロータに第1溝を形成してもよく、或いは、従動ロータと駆動ロータの両方に
第1溝を形成してもよい。この場合、第2溝は第1溝に対応するケーシングの位置に設けられる。
【符号の説明】
【0053】
1 ギアポンプ
3 ケーシング
7 駆動ロータ
9 従動ロータ
7b、9b 歯
7c、9c 軸心
11 第1溝
13 第2溝
15 吸込室
17 吐出室
B 下流側空間
A 上流側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合った状態でケーシングに収納される駆動ロータ及び従動ロータを備えたギアポンプであって、
前記駆動ロータ及び前記従動ロータには、前記駆動ロータの歯が前記従動ロータの歯と互いに離間した二位置で接触する初期噛合姿勢と、この初期噛合姿勢から回転した姿勢であって、前記二位置が回転に伴って移動した二位置に加えて、それら移動後の二位置よりも回転方向上流側の一位置で更に前記駆動ロータの歯が前記従動ロータの歯と接触する三点噛合姿勢とがあり、
前記三点噛合姿勢において、回転方向下流側の二位置間である下流側空間の圧力が回転方向上流側の二位置間である上流側空間の圧力よりも高いものであり、かつ、前記回転方向下流側の二位置を結ぶ線分の垂直二等分線が、前記従動ロータに回転方向のモーメントを生じさせるように、前記従動ロータの軸心からずれているギアポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のギアポンプにおいて、
前記上流側空間は、前記初期噛合姿勢から前記三点噛合姿勢へ変化する際に、容積が零から形成されたものであることを特徴とするギアポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のギアポンプにおいて、
前記ケーシング内には、作動流体の吐出室が設けられ、
上記駆動ロータおよび上記従動ロータの少なくとも一方のロータ端面には上記下流側空間に連通する第1溝が形成され、上記第1溝を有するロータ端面に対向するケーシングの面には、前記三点噛合姿勢のときに上記第1溝と上記吐出室とを連通させる第2溝が形成されていることを特徴とするギアポンプ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のギアポンプにおいて、
前記ケーシング内には、作動流体の吐出室が設けられ、
上記駆動ロータの各歯および従動ロータの各歯がそれぞれのロータ軸心に対して捩れており、その捩れにより上記下流側空間が上記吐出室に繋がる構成になっていることを特徴とするギアポンプ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のギアポンプにおいて、
前記ケーシング内には、作動流体の吐出室が設けられ、
上記駆動ロータおよび上記従動ロータの少なくとも一方のロータ端面には上記下流側空間に連通する第1溝が形成され、上記第1溝を有するロータ端面に対向するケーシングの面には、前記三点噛合姿勢のときに上記第1溝と上記吐出室とを連通させる第2溝が形成され、
かつ、上記駆動ロータの各歯および従動ロータの各歯がそれぞれのロータ軸心に対して捩れており、その捩れにより上記下流側空間が上記吐出室に繋がる構成になっていることを特徴とするギアポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のギアポンプにおいて、
上記駆動ロータの歯の形状が、その歯先を挟んで回転方向側歯面(X)と、反回転方向側歯面(Y)とで2つの異なる形状を有し、上記回転方向側歯面(X)を第1関数(H)と定義すると、それに対向する従動ロータの歯面は駆動ロータが反回転方向に回転したときにおける前記第1関数(H)の創成関数である第2関数(h)にて定義され、上記反回転方向側歯面(Y)では、その反回転方向側歯面(Y)における歯先側を第3関数(F)と定義すると、従動ロータの歯面は駆動ロータが反回転方向に回転したときにおける前記第3関数(F)の創成関数である第4関数(f)にて定義されるとともに、その第4関数(f)の歯形領域が従動ロータのピッチ円内の所定の位置までであり、この第4関数(f)に接続される第5関数(g)にて従動ロータの歯先までが定義され、駆動ロータを回転方向に回転した場合における前記第5関数(g)の創成関数である第6関数(G)が前記第3関数(F)にて定義された部分に続く状態で上記反回転方向側歯面(Y)が定義される構成となっていることを特徴とするギアポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−24192(P2013−24192A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161867(P2011−161867)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】