クラック検出装置及びクラック検出プログラム
【課題】クラックでない線状の領域の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出する。
【解決手段】クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理部4と、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理部5と、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理部6とを設け、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示する。
【解決手段】クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理部4と、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理部5と、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理部6とを設け、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、道路や地下鉄などのトンネルにおけるコンクリート壁面がデジタルカメラ等によって撮影されたデジタル画像を解析して、そのコンクリート壁面に生じているクラックを検出するクラック検出装置及びクラック検出プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート壁面が撮影されているデジタル画像に対して、線形の空間フィルタを適用することで、そのコンクリート壁面に生じているクラック(ひび割れ)を検出するクラック検出装置は、以下の特許文献1,2に開示されている。
特許文献1,2に開示されているクラック検出装置では、コンクリート壁面に生じているクラックを検出することが可能であるが、線形の空間フィルタを用いる場合、デジタル画像を構成している複数の画素の中から、周辺に比べて暗い線状の領域に含まれる画素が取り出されるので、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)をクラックと誤って検出することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−281595号公報(段落番号[0006])
【特許文献2】特開2002−310920号公報(段落番号[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のクラック検出装置は以上のように構成されているので、デジタル画像を構成している複数の画素の中から、周辺に比べて暗い線状の領域に含まれる画素が取り出される。このため、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)をクラックと誤って検出することがある課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、クラックでない線状の領域の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができるクラック検出装置及びクラック検出プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るクラック検出装置は、クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段とを設け、折れ線表示手段が、折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段とを設け、折れ線表示手段が、折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示するように構成したので、クラックでない線状の領域の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1によるクラック検出装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるクラック検出装置が計算機で構成されている場合の構成図である。
【図3】撮影機器1により撮影された160×240ピクセルのコンクリート壁面のデジタル画像の一例を示す説明図である。
【図4】画素選別処理部4により用いられる非線形の空間フィルタ(クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタ)の一例を示す説明図である。
【図5】クラック造影モデルを示す説明図である。
【図6】135度の非線形空間フィルタを用いて、評価値を計算している例を示す説明図である。
【図7】図3のデジタル画像に対してフィルタ処理を施した場合の画素の選別結果を示す説明図である。
【図8】閾値E1thを“0.4”として、クラックの一部を構成している線分が判別された結果を示す説明図である。
【図9】折れ線判別処理部6により形成された折れ線の例を示す説明図である。
【図10】閾値E2thを“0.5”として、クラックに相当する折れ線が判別された結果を示す説明図である。
【図11】評価値E2と表示色の対応関係を示す説明図である。
【図12】折れ線表示処理部7による折れ線の表示例を示す説明図である。
【図13】縦方向・横方向が対称となるように構成された空間フィルタの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるクラック検出装置を示す構成図である。
図1では、クラックの検出対象面が、道路や地下鉄などのトンネルにおけるコンクリート壁面である例を説明する。
ただし、クラックの検出対象面は、コンクリート壁面に限るものではなく、例えば、道路のアスファルト面など、クラックが生じ得る面であれば該当する。
【0010】
図1において、撮影機器1は例えば車両に搭載されて移動しながら、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面を撮影するデジタルカメラなどの機器である。
ここでは、撮影機器1が移動しながらコンクリート壁面を撮影するとしているが、止まっている状態でコンクリート壁面を撮影してもよいことは言うまでもない。
デジタル画像入力部2は撮影機器1により撮影されたデジタル画像を取り込む入力インタフェースである。
クラック検出装置が撮影機器1と例えばLANなどのネットワークを介して接続される場合、デジタル画像入力部2はLANカードなどのネットワークI/F機器等から構成され、クラック検出装置が撮影機器1と例えばUSB接続される場合、USBインタフェース等から構成される。
【0011】
デジタル画像格納用メモリ3はデジタル画像入力部2により取り込まれたデジタル画像を格納するRAMなどの記録媒体である。
画素選別処理部4は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、デジタル画像格納用メモリ3により格納されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する処理を実施する。なお、画素選別処理部4は画素選別手段を構成している。
【0012】
線分判別処理部5は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する処理を実施する。なお、線分判別処理部5は線分判別手段を構成している。
【0013】
折れ線判別処理部6は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成する処理を実施する。
また、折れ線判別処理部6は当該折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値を算出し、その評価値を所定の閾値と比較することで、当該折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する処理を実施する。
なお、折れ線判別処理部6は折れ線判別手段を構成している。
【0014】
折れ線表示処理部7は例えばGPU(Graphics Processing Unit)などから構成されており、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する処理を実施する。
折れ線表示処理部7は折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する際、折れ線判別処理部6により算出された評価値に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示する。
ディスプレイ8は例えば液晶パネルなどの表示機器である。
なお、折れ線表示処理部7及びディスプレイ8から折れ線表示手段が構成されている。
【0015】
図1では、撮影機器1がクラック検出装置の外部に設けられている例を示しているが、クラック検出装置が撮影機器1を実装していてもよい。
また、クラック検出装置がディスプレイ8を実装している例を示しているが、ディスプレイ8がクラック検出装置の外部に設けられていてもよい。
【0016】
図1では、クラック検出装置の構成要素である画素選別処理部4、線分判別処理部5、折れ線判別処理部6及び折れ線表示処理部7のそれぞれが専用のハードウェアで構成されている例を想定しているが、クラック検出装置がコンピュータ(計算機)で構成される場合、画素選別処理部4、線分判別処理部5、折れ線判別処理部6及び折れ線表示処理部7の処理内容を記述しているプログラム(画素選別プログラム、線分判別プログラム、折れ線判別プログラム、折れ線表示プログラム)をコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにしてもよい。
【0017】
図2はこの発明の実施の形態1によるクラック検出装置が計算機で構成されている場合の構成図である。
図2において、ハードディスク11は画素選別処理部4の処理内容を記述している画素選別プログラム21、線分判別処理部5の処理内容を記述している線分判別プログラム22、折れ線判別処理部6の処理内容を記述している折れ線判別プログラム23及び折れ線表示処理部7の処理内容を記述している折れ線表示プログラム24を格納している計算機の記録媒体である。
CPU12はハードディスク11により格納されている画素選別プログラム21、線分判別プログラム22、折れ線判別プログラム23及び折れ線表示プログラム24を順次実行する計算機の中央演算装置である。
【0018】
次に動作について説明する。
撮影機器1は、例えば車両に搭載されており、移動している状態で、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面を撮影し、その撮影結果であるデジタル画像をクラック検出装置に出力する。
図3は撮影機器1により撮影された160×240ピクセルのコンクリート壁面のデジタル画像の一例を示す説明図である。
図3(a)のデジタル画像は、撮影後に画像処理が施されていないオリジナルの画像であり、図3(b)のデジタル画像は、(a)のデジタル画像に対してコントラストを4倍している画像である。
図3の例では、左上から右下にかけて延びている折れ線のクラックが発生している。
【0019】
クラック検出装置のデジタル画像入力部2は、撮影機器1により撮影されたデジタル画像を取り込み、そのデジタル画像をデジタル画像格納用メモリ3に格納する。
画素選別処理部4は、デジタル画像入力部2がデジタル画像をデジタル画像格納用メモリ3に格納すると、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、デジタル画像格納用メモリ3により格納されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する。
【0020】
ここで、図4は画素選別処理部4により用いられる非線形の空間フィルタ(クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタ)の一例を示す説明図である。
図4の例では、水平方向を0度として、クラックの走る方向を0度、22.5度、45度、67.5度、90度、112.5度、135度、157.5度の8パタンの何れかに分類することとして、13種類の空間フィルタを定義している。
【0021】
図5はクラック造影モデルを示す説明図である。
図5では、コンクリート壁面がほぼ一定速度で右から左に移動する車両に搭載された撮影機器1により撮影されると仮定し、撮影機器1のシャッタースピードが1/5000秒、車速が36km/h、デジタル画像の解像度が1ピクセル1mmである条件下では、シャッターが開いている間に、撮影機器1が移動する距離が2mmとなるので、縦方向に走っている幅1mm以下のクラックは、2ピクセル分の画素として記録される。
一方、クラックは、壁面の一部が二つ以上に分割された状態であるので、クラックの形状は線状となる。
また、クラック自体から撮影機器1に入ってくる光は無い(色は黒)と見做してよいが、1mm未満のクラックの場合は、そのままピクセルとしては記録されず、クラック周辺の壁の反射光を減衰させた形で画像に記録される。
つまり、1mm未満のクラックの濃淡値は、クラックの周辺の壁の濃淡値に依存する。
【0022】
以上のことから、撮影機器1の投影面上のクラック像は、次のような特徴を有することになる。
(1)強方向性
局所的に観察すると、上下・左右・斜めの何れかの方向に線状に存在する。
(2)局所一様性
クラックおよびその周辺の画素は、それぞれ類似した濃淡値を有する。
(3)局所対称性
クラック周辺の画素の濃淡値は、クラックを中心に対称性を有する。
以上より、図4に例示したような非線形の空間フィルタを設計することができる。
【0023】
以下、画素選別処理部4による画素の選別処理を具体的に説明する。
まず、画素選別処理部4は、例えば、図4に示す13種類の非線形空間フィルタの中から、任意の非線形空間フィルタを選択する。
次に、画素選別処理部4は、その選択した非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像を構成している画素毎に、当該画素がクラックを構成する確からしさを示す評価値Vを計算する。
【0024】
例えば、図6に示すように、135度の非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像の中心画素(図中、濃淡値が“173”の画素)の評価値を計算する場合、下記の式(1)〜(6)に濃淡値を代入することで、評価値Vを計算する。
強方向性 : V1=(e+f+g)−(a+b+c) (1)
V2=(h+i+j)−(a+b+c) (2)
局所一様性: V3=−(|a−b|+|b−c|+|c−a|) (3)
V4=−(|e−f|+|f−g|+|g−e|) (4)
V5=−(|h−i|+|i−j|+|j−h|) (5)
局所対称性: V6=−(|(e+f+g)−(h+i+j)|) (6)
V=V1+V2+V3+V4+V5+V6 (7)
【0025】
ただし、135度の非線形空間フィルタを用いる場合、図6のデジタル画像では、a,b,c,e,f,g,h,i,jの濃淡値が下記の値であるため、評価値Vは“2”になる。
a=171、b=173、c=170
e=172、f=177、g=176
h=177、i=179、j=177
V=V1+V2+V3+V4+V5+V6
=11+19−6−10−4−8
=2
【0026】
画素選別処理部4は、デジタル画像を構成している画素毎に、当該画素の評価値Vを計算すると、当該画素の評価値Vと所定の閾値Vth(例えば、Vth=0)を比較し、その評価値Vが閾値Vthより大きければ(V>Vth)、当該画素は、クラックの領域を映している可能性がある画素として選別する。
例えば、Vth=0であれば、図6のデジタル画像の中心画素(図中、濃淡値が“173”の画素)は、フィルタ結果である評価値がV=2であるため、クラックの領域を映している可能性がある画素として選別される。
図7は図3のデジタル画像に対してフィルタ処理を施した場合の画素の選別結果を示す説明図である。
図7において、画像上に黒色で示した画素が選別された画素である。
【0027】
線分判別処理部5は、画素選別処理部4がクラックの領域を映している可能性がある画素を選別すると、選別した画素の中で、隣り合っている画素を繋ぎ合わせることで、線状の画像領域を形成する。
線分判別処理部5は、線状の画像領域を形成すると、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する。
【0028】
即ち、線分判別処理部5は、線状の画像領域が、クラックを構成している確からしさを示す評価値E1を算出する。
例えば、線状の画像領域を構成する画素から1次近似式を求め、その1次近似式を求めた場合の相関係数をCとして(画素から1次近似式を求める処理や、相関係数Cを求める処理自体は公知の技術であるため詳細な説明を省略する)、その1次近似式を画像領域で切り取ることによって定義される線分の長さをL(単位はピクセル)とする。
このとき、線分の長さLが、ある程度の長さ以上でなければ、クラックである可能性は低いので、線分の長さLと所定の閾値Lth(例えば、Lth=10)を比較し、線分の長さLが閾値Lth以上であれば、相関係数Cを評価値E1とする。
一方、線分の長さLが閾値Lth未満であれば、評価値E1の値を“0”とする。
・L≧Lthの場合
E1=C
・L<Lthの場合
E1=0
【0029】
線分判別処理部5は、線状の画像領域の評価値E1を算出すると、その評価値E1と所定の閾値E1th(例えば、E1th=0.4)を比較し、その評価値E1が閾値E1thより大きければ(E1>E1th)、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であると判別する。
図8は閾値E1thを“0.4”として、クラックの一部を構成している線分が判別された結果を示す説明図である。
図8において、黒の実線がクラックの一部を構成していると判別された線分である。
【0030】
折れ線判別処理部6は、線分判別処理部5がクラックの一部を構成している線分を判別すると、1以上の線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成する。図9は折れ線判別処理部6により形成された折れ線の例を示す説明図である。
折れ線判別処理部6は、1以上の線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成すると、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する。
【0031】
即ち、折れ線判別処理部6は、1以上の線分を繋ぎ合わせて形成した折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値E2を算出する。
例えば、折れ線を構成する線素の相関係数(=線分判別処理部5により判別された線分の評価値E1)の平均値E1aveを算出し、その折れ線の全長Sが、ある程度の長さ以上でなければ、クラックである可能性は低いので、折れ線の全長Sと所定の閾値Sth(例えば、Sth=50)を比較し、折れ線の全長Sが閾値Sth以上であれば、折れ線を構成する線素の相関係数の平均値E1aveを評価値E2とする。
一方、折れ線の全長Sが閾値Sth未満であれば、評価値E2の値を“0”とする。
・S≧Sthの場合
E2=E1ave
・S<Sthの場合
E2=0
【0032】
折れ線判別処理部6は、折れ線の評価値E2を算出すると、その評価値E2と所定の閾値E2th(例えば、E2th=0.5)を比較し、その評価値E2が閾値E2thより大きければ(E2>E2th)、その折れ線がクラックに相当する折れ線であると判別する。
図10は閾値E2thを“0.5”として、クラックに相当する折れ線が判別された結果を示す説明図である。
図10において、黒の実線がクラックに相当すると判別された折れ線である。
【0033】
折れ線表示処理部7は、折れ線判別処理部6がクラックに相当する折れ線を判別すると、折れ線判別処理部6により算出された評価値E2に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示する。
図11は評価値E2と表示色の対応関係を示す説明図である。
図11の対応関係に従う場合、折れ線判別処理部6により算出された折れ線の評価値E2が“0.7”以上であれば、その折れ線を赤色で表示し、その折れ線の評価値E2が“0.6”以上“0.7”未満であれば、その折れ線を緑色で表示する。
また、その折れ線の評価値E2が“0.6”未満であれば、その折れ線を青色で表示する。
図12は折れ線表示処理部7による折れ線の表示例を示す説明図である。
【0034】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面が撮影されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理部4と、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理部5と、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理部6とを設け、折れ線表示処理部7が、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示するように構成したので、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができる効果を奏する。
【0035】
また、この実施の形態1によれば、折れ線表示処理部7が、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する際、折れ線判別処理部6により算出された評価値E2に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示するように構成したので、ディスプレイ8に表示されている折れ線が、クラックである確度をユーザが感覚的に把握することができる効果を奏する。
【0036】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、画素選別処理部4が、クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタを用いるものを示したが、このような空間フィルタに限るものではなく、例えば、ハイパスフィルタやローパスフィルタのような線形のフィルタを用いるようにしてもよい。
【0037】
上記実施の形態1では、コンクリート壁面を撮影する撮影機器1が移動する車両に搭載されていることを前提にしてクラック造影モデルを構成し、そのクラック造影モデルに基づいて設計された非線形空間フィルタを用いて、画素選別処理部4が画素の選別処理を実施するものを示したが、撮影機器1が被写体に対して固定されていることを前提にしてクラック造影モデルを構成し、そのクラック造影モデルに基づいて設計された非線形空間フィルタを用いて、画素選別処理部4が画素の選別処理を実施するようにしてもよい。
例えば、上記実施の形態1では、撮影機器1の移動を考慮して、縦方向に走るクラック像の幅が広がるように空間フィルタを構成しているが、図13に示すように、縦方向・横方向が対称となるように空間フィルタを構成してもよい。
【0038】
上記実施の形態1では、画素選別処理部4が、非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像を構成している画素毎に評価値Vを計算し、その評価値Vを閾値Vthと比較して、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するものを示したが、他の方法で、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するようにしてもよい。
例えば、評価値Vを正規分布する標本値とみなして、その評価値Vの平均と標準偏差を計算し、その平均値に対して標準偏差の定数倍を加えた値を閾値として、評価値Vと比較することで、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するようにしてもよい。
【0039】
上記実施の形態1では、線分判別処理部5が、1次近似式との相関係数C及び長さLを予め設定された各々の閾値E1th,Lthと比較することで、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するものを示したが、他の方法で、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するようにしてもよい。
例えば、空間フィルタによって画素毎に与えられる評価値の合計値・平均値・標準偏差などの統計量を利用して、線分の評価値を算出し、その評価値を所定の閾値と比較することで、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するようにしてもよい。
【0040】
上記実施の形態1では、折れ線判別処理部6が、線分判別処理部5により判別された線分の評価値E1の平均値E1aveと折れ線の全長Sを評価値として、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別するものを示したが、例えば、折れ線を構成する複数の画素に与えられている評価値Vの合計値・平均値・標準偏差などの統計量を利用して、その折れ線の評価値E2を計算するようにしてもよい。
【0041】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 撮影機器、2 デジタル画像入力部、3 デジタル画像格納用メモリ、4 画素選別処理部(画素選別手段)、5 線分判別処理部(線分判別手段)、6 折れ線判別処理部(折れ線判別手段)、7 折れ線表示処理部(折れ線表示手段)、8 ディスプレイ(折れ線表示手段)、11 ハードディスク、12 CPU、21 画素選別プログラム、22 線分判別プログラム、23 折れ線判別プログラム、24 折れ線表示プログラム。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、道路や地下鉄などのトンネルにおけるコンクリート壁面がデジタルカメラ等によって撮影されたデジタル画像を解析して、そのコンクリート壁面に生じているクラックを検出するクラック検出装置及びクラック検出プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート壁面が撮影されているデジタル画像に対して、線形の空間フィルタを適用することで、そのコンクリート壁面に生じているクラック(ひび割れ)を検出するクラック検出装置は、以下の特許文献1,2に開示されている。
特許文献1,2に開示されているクラック検出装置では、コンクリート壁面に生じているクラックを検出することが可能であるが、線形の空間フィルタを用いる場合、デジタル画像を構成している複数の画素の中から、周辺に比べて暗い線状の領域に含まれる画素が取り出されるので、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)をクラックと誤って検出することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−281595号公報(段落番号[0006])
【特許文献2】特開2002−310920号公報(段落番号[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のクラック検出装置は以上のように構成されているので、デジタル画像を構成している複数の画素の中から、周辺に比べて暗い線状の領域に含まれる画素が取り出される。このため、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)をクラックと誤って検出することがある課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、クラックでない線状の領域の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができるクラック検出装置及びクラック検出プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るクラック検出装置は、クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段とを設け、折れ線表示手段が、折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段とを設け、折れ線表示手段が、折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示するように構成したので、クラックでない線状の領域の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1によるクラック検出装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるクラック検出装置が計算機で構成されている場合の構成図である。
【図3】撮影機器1により撮影された160×240ピクセルのコンクリート壁面のデジタル画像の一例を示す説明図である。
【図4】画素選別処理部4により用いられる非線形の空間フィルタ(クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタ)の一例を示す説明図である。
【図5】クラック造影モデルを示す説明図である。
【図6】135度の非線形空間フィルタを用いて、評価値を計算している例を示す説明図である。
【図7】図3のデジタル画像に対してフィルタ処理を施した場合の画素の選別結果を示す説明図である。
【図8】閾値E1thを“0.4”として、クラックの一部を構成している線分が判別された結果を示す説明図である。
【図9】折れ線判別処理部6により形成された折れ線の例を示す説明図である。
【図10】閾値E2thを“0.5”として、クラックに相当する折れ線が判別された結果を示す説明図である。
【図11】評価値E2と表示色の対応関係を示す説明図である。
【図12】折れ線表示処理部7による折れ線の表示例を示す説明図である。
【図13】縦方向・横方向が対称となるように構成された空間フィルタの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるクラック検出装置を示す構成図である。
図1では、クラックの検出対象面が、道路や地下鉄などのトンネルにおけるコンクリート壁面である例を説明する。
ただし、クラックの検出対象面は、コンクリート壁面に限るものではなく、例えば、道路のアスファルト面など、クラックが生じ得る面であれば該当する。
【0010】
図1において、撮影機器1は例えば車両に搭載されて移動しながら、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面を撮影するデジタルカメラなどの機器である。
ここでは、撮影機器1が移動しながらコンクリート壁面を撮影するとしているが、止まっている状態でコンクリート壁面を撮影してもよいことは言うまでもない。
デジタル画像入力部2は撮影機器1により撮影されたデジタル画像を取り込む入力インタフェースである。
クラック検出装置が撮影機器1と例えばLANなどのネットワークを介して接続される場合、デジタル画像入力部2はLANカードなどのネットワークI/F機器等から構成され、クラック検出装置が撮影機器1と例えばUSB接続される場合、USBインタフェース等から構成される。
【0011】
デジタル画像格納用メモリ3はデジタル画像入力部2により取り込まれたデジタル画像を格納するRAMなどの記録媒体である。
画素選別処理部4は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、デジタル画像格納用メモリ3により格納されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する処理を実施する。なお、画素選別処理部4は画素選別手段を構成している。
【0012】
線分判別処理部5は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する処理を実施する。なお、線分判別処理部5は線分判別手段を構成している。
【0013】
折れ線判別処理部6は例えばCPUなどが搭載されている半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成する処理を実施する。
また、折れ線判別処理部6は当該折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値を算出し、その評価値を所定の閾値と比較することで、当該折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する処理を実施する。
なお、折れ線判別処理部6は折れ線判別手段を構成している。
【0014】
折れ線表示処理部7は例えばGPU(Graphics Processing Unit)などから構成されており、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する処理を実施する。
折れ線表示処理部7は折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する際、折れ線判別処理部6により算出された評価値に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示する。
ディスプレイ8は例えば液晶パネルなどの表示機器である。
なお、折れ線表示処理部7及びディスプレイ8から折れ線表示手段が構成されている。
【0015】
図1では、撮影機器1がクラック検出装置の外部に設けられている例を示しているが、クラック検出装置が撮影機器1を実装していてもよい。
また、クラック検出装置がディスプレイ8を実装している例を示しているが、ディスプレイ8がクラック検出装置の外部に設けられていてもよい。
【0016】
図1では、クラック検出装置の構成要素である画素選別処理部4、線分判別処理部5、折れ線判別処理部6及び折れ線表示処理部7のそれぞれが専用のハードウェアで構成されている例を想定しているが、クラック検出装置がコンピュータ(計算機)で構成される場合、画素選別処理部4、線分判別処理部5、折れ線判別処理部6及び折れ線表示処理部7の処理内容を記述しているプログラム(画素選別プログラム、線分判別プログラム、折れ線判別プログラム、折れ線表示プログラム)をコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにしてもよい。
【0017】
図2はこの発明の実施の形態1によるクラック検出装置が計算機で構成されている場合の構成図である。
図2において、ハードディスク11は画素選別処理部4の処理内容を記述している画素選別プログラム21、線分判別処理部5の処理内容を記述している線分判別プログラム22、折れ線判別処理部6の処理内容を記述している折れ線判別プログラム23及び折れ線表示処理部7の処理内容を記述している折れ線表示プログラム24を格納している計算機の記録媒体である。
CPU12はハードディスク11により格納されている画素選別プログラム21、線分判別プログラム22、折れ線判別プログラム23及び折れ線表示プログラム24を順次実行する計算機の中央演算装置である。
【0018】
次に動作について説明する。
撮影機器1は、例えば車両に搭載されており、移動している状態で、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面を撮影し、その撮影結果であるデジタル画像をクラック検出装置に出力する。
図3は撮影機器1により撮影された160×240ピクセルのコンクリート壁面のデジタル画像の一例を示す説明図である。
図3(a)のデジタル画像は、撮影後に画像処理が施されていないオリジナルの画像であり、図3(b)のデジタル画像は、(a)のデジタル画像に対してコントラストを4倍している画像である。
図3の例では、左上から右下にかけて延びている折れ線のクラックが発生している。
【0019】
クラック検出装置のデジタル画像入力部2は、撮影機器1により撮影されたデジタル画像を取り込み、そのデジタル画像をデジタル画像格納用メモリ3に格納する。
画素選別処理部4は、デジタル画像入力部2がデジタル画像をデジタル画像格納用メモリ3に格納すると、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、デジタル画像格納用メモリ3により格納されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する。
【0020】
ここで、図4は画素選別処理部4により用いられる非線形の空間フィルタ(クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタ)の一例を示す説明図である。
図4の例では、水平方向を0度として、クラックの走る方向を0度、22.5度、45度、67.5度、90度、112.5度、135度、157.5度の8パタンの何れかに分類することとして、13種類の空間フィルタを定義している。
【0021】
図5はクラック造影モデルを示す説明図である。
図5では、コンクリート壁面がほぼ一定速度で右から左に移動する車両に搭載された撮影機器1により撮影されると仮定し、撮影機器1のシャッタースピードが1/5000秒、車速が36km/h、デジタル画像の解像度が1ピクセル1mmである条件下では、シャッターが開いている間に、撮影機器1が移動する距離が2mmとなるので、縦方向に走っている幅1mm以下のクラックは、2ピクセル分の画素として記録される。
一方、クラックは、壁面の一部が二つ以上に分割された状態であるので、クラックの形状は線状となる。
また、クラック自体から撮影機器1に入ってくる光は無い(色は黒)と見做してよいが、1mm未満のクラックの場合は、そのままピクセルとしては記録されず、クラック周辺の壁の反射光を減衰させた形で画像に記録される。
つまり、1mm未満のクラックの濃淡値は、クラックの周辺の壁の濃淡値に依存する。
【0022】
以上のことから、撮影機器1の投影面上のクラック像は、次のような特徴を有することになる。
(1)強方向性
局所的に観察すると、上下・左右・斜めの何れかの方向に線状に存在する。
(2)局所一様性
クラックおよびその周辺の画素は、それぞれ類似した濃淡値を有する。
(3)局所対称性
クラック周辺の画素の濃淡値は、クラックを中心に対称性を有する。
以上より、図4に例示したような非線形の空間フィルタを設計することができる。
【0023】
以下、画素選別処理部4による画素の選別処理を具体的に説明する。
まず、画素選別処理部4は、例えば、図4に示す13種類の非線形空間フィルタの中から、任意の非線形空間フィルタを選択する。
次に、画素選別処理部4は、その選択した非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像を構成している画素毎に、当該画素がクラックを構成する確からしさを示す評価値Vを計算する。
【0024】
例えば、図6に示すように、135度の非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像の中心画素(図中、濃淡値が“173”の画素)の評価値を計算する場合、下記の式(1)〜(6)に濃淡値を代入することで、評価値Vを計算する。
強方向性 : V1=(e+f+g)−(a+b+c) (1)
V2=(h+i+j)−(a+b+c) (2)
局所一様性: V3=−(|a−b|+|b−c|+|c−a|) (3)
V4=−(|e−f|+|f−g|+|g−e|) (4)
V5=−(|h−i|+|i−j|+|j−h|) (5)
局所対称性: V6=−(|(e+f+g)−(h+i+j)|) (6)
V=V1+V2+V3+V4+V5+V6 (7)
【0025】
ただし、135度の非線形空間フィルタを用いる場合、図6のデジタル画像では、a,b,c,e,f,g,h,i,jの濃淡値が下記の値であるため、評価値Vは“2”になる。
a=171、b=173、c=170
e=172、f=177、g=176
h=177、i=179、j=177
V=V1+V2+V3+V4+V5+V6
=11+19−6−10−4−8
=2
【0026】
画素選別処理部4は、デジタル画像を構成している画素毎に、当該画素の評価値Vを計算すると、当該画素の評価値Vと所定の閾値Vth(例えば、Vth=0)を比較し、その評価値Vが閾値Vthより大きければ(V>Vth)、当該画素は、クラックの領域を映している可能性がある画素として選別する。
例えば、Vth=0であれば、図6のデジタル画像の中心画素(図中、濃淡値が“173”の画素)は、フィルタ結果である評価値がV=2であるため、クラックの領域を映している可能性がある画素として選別される。
図7は図3のデジタル画像に対してフィルタ処理を施した場合の画素の選別結果を示す説明図である。
図7において、画像上に黒色で示した画素が選別された画素である。
【0027】
線分判別処理部5は、画素選別処理部4がクラックの領域を映している可能性がある画素を選別すると、選別した画素の中で、隣り合っている画素を繋ぎ合わせることで、線状の画像領域を形成する。
線分判別処理部5は、線状の画像領域を形成すると、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する。
【0028】
即ち、線分判別処理部5は、線状の画像領域が、クラックを構成している確からしさを示す評価値E1を算出する。
例えば、線状の画像領域を構成する画素から1次近似式を求め、その1次近似式を求めた場合の相関係数をCとして(画素から1次近似式を求める処理や、相関係数Cを求める処理自体は公知の技術であるため詳細な説明を省略する)、その1次近似式を画像領域で切り取ることによって定義される線分の長さをL(単位はピクセル)とする。
このとき、線分の長さLが、ある程度の長さ以上でなければ、クラックである可能性は低いので、線分の長さLと所定の閾値Lth(例えば、Lth=10)を比較し、線分の長さLが閾値Lth以上であれば、相関係数Cを評価値E1とする。
一方、線分の長さLが閾値Lth未満であれば、評価値E1の値を“0”とする。
・L≧Lthの場合
E1=C
・L<Lthの場合
E1=0
【0029】
線分判別処理部5は、線状の画像領域の評価値E1を算出すると、その評価値E1と所定の閾値E1th(例えば、E1th=0.4)を比較し、その評価値E1が閾値E1thより大きければ(E1>E1th)、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であると判別する。
図8は閾値E1thを“0.4”として、クラックの一部を構成している線分が判別された結果を示す説明図である。
図8において、黒の実線がクラックの一部を構成していると判別された線分である。
【0030】
折れ線判別処理部6は、線分判別処理部5がクラックの一部を構成している線分を判別すると、1以上の線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成する。図9は折れ線判別処理部6により形成された折れ線の例を示す説明図である。
折れ線判別処理部6は、1以上の線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成すると、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する。
【0031】
即ち、折れ線判別処理部6は、1以上の線分を繋ぎ合わせて形成した折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値E2を算出する。
例えば、折れ線を構成する線素の相関係数(=線分判別処理部5により判別された線分の評価値E1)の平均値E1aveを算出し、その折れ線の全長Sが、ある程度の長さ以上でなければ、クラックである可能性は低いので、折れ線の全長Sと所定の閾値Sth(例えば、Sth=50)を比較し、折れ線の全長Sが閾値Sth以上であれば、折れ線を構成する線素の相関係数の平均値E1aveを評価値E2とする。
一方、折れ線の全長Sが閾値Sth未満であれば、評価値E2の値を“0”とする。
・S≧Sthの場合
E2=E1ave
・S<Sthの場合
E2=0
【0032】
折れ線判別処理部6は、折れ線の評価値E2を算出すると、その評価値E2と所定の閾値E2th(例えば、E2th=0.5)を比較し、その評価値E2が閾値E2thより大きければ(E2>E2th)、その折れ線がクラックに相当する折れ線であると判別する。
図10は閾値E2thを“0.5”として、クラックに相当する折れ線が判別された結果を示す説明図である。
図10において、黒の実線がクラックに相当すると判別された折れ線である。
【0033】
折れ線表示処理部7は、折れ線判別処理部6がクラックに相当する折れ線を判別すると、折れ線判別処理部6により算出された評価値E2に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示する。
図11は評価値E2と表示色の対応関係を示す説明図である。
図11の対応関係に従う場合、折れ線判別処理部6により算出された折れ線の評価値E2が“0.7”以上であれば、その折れ線を赤色で表示し、その折れ線の評価値E2が“0.6”以上“0.7”未満であれば、その折れ線を緑色で表示する。
また、その折れ線の評価値E2が“0.6”未満であれば、その折れ線を青色で表示する。
図12は折れ線表示処理部7による折れ線の表示例を示す説明図である。
【0034】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、クラックの検出対象面であるコンクリート壁面が撮影されているデジタル画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理部4と、画素選別処理部4により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、その画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理部5と、線分判別処理部5によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理部6とを設け、折れ線表示処理部7が、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示するように構成したので、クラックでない線状の領域(例えば、コンクリートの塗り斑によって形成された凹凸や、雨垂れなどによるコンクリートの変色領域など)の誤検出を招くことなく、高精度にクラックを検出することができる効果を奏する。
【0035】
また、この実施の形態1によれば、折れ線表示処理部7が、折れ線判別処理部6によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイ8に表示する際、折れ線判別処理部6により算出された評価値E2に対応する色で当該折れ線をディスプレイ8に表示するように構成したので、ディスプレイ8に表示されている折れ線が、クラックである確度をユーザが感覚的に把握することができる効果を奏する。
【0036】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、画素選別処理部4が、クラック造影モデルに基づいて設計された画像処理用の非線形空間フィルタを用いるものを示したが、このような空間フィルタに限るものではなく、例えば、ハイパスフィルタやローパスフィルタのような線形のフィルタを用いるようにしてもよい。
【0037】
上記実施の形態1では、コンクリート壁面を撮影する撮影機器1が移動する車両に搭載されていることを前提にしてクラック造影モデルを構成し、そのクラック造影モデルに基づいて設計された非線形空間フィルタを用いて、画素選別処理部4が画素の選別処理を実施するものを示したが、撮影機器1が被写体に対して固定されていることを前提にしてクラック造影モデルを構成し、そのクラック造影モデルに基づいて設計された非線形空間フィルタを用いて、画素選別処理部4が画素の選別処理を実施するようにしてもよい。
例えば、上記実施の形態1では、撮影機器1の移動を考慮して、縦方向に走るクラック像の幅が広がるように空間フィルタを構成しているが、図13に示すように、縦方向・横方向が対称となるように空間フィルタを構成してもよい。
【0038】
上記実施の形態1では、画素選別処理部4が、非線形空間フィルタを用いて、デジタル画像を構成している画素毎に評価値Vを計算し、その評価値Vを閾値Vthと比較して、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するものを示したが、他の方法で、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するようにしてもよい。
例えば、評価値Vを正規分布する標本値とみなして、その評価値Vの平均と標準偏差を計算し、その平均値に対して標準偏差の定数倍を加えた値を閾値として、評価値Vと比較することで、当該画素がクラックの領域を映している可能性がある画素であるか否かを判別するようにしてもよい。
【0039】
上記実施の形態1では、線分判別処理部5が、1次近似式との相関係数C及び長さLを予め設定された各々の閾値E1th,Lthと比較することで、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するものを示したが、他の方法で、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するようにしてもよい。
例えば、空間フィルタによって画素毎に与えられる評価値の合計値・平均値・標準偏差などの統計量を利用して、線分の評価値を算出し、その評価値を所定の閾値と比較することで、クラックの一部を構成している線分であるか否かを判別するようにしてもよい。
【0040】
上記実施の形態1では、折れ線判別処理部6が、線分判別処理部5により判別された線分の評価値E1の平均値E1aveと折れ線の全長Sを評価値として、その折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別するものを示したが、例えば、折れ線を構成する複数の画素に与えられている評価値Vの合計値・平均値・標準偏差などの統計量を利用して、その折れ線の評価値E2を計算するようにしてもよい。
【0041】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 撮影機器、2 デジタル画像入力部、3 デジタル画像格納用メモリ、4 画素選別処理部(画素選別手段)、5 線分判別処理部(線分判別手段)、6 折れ線判別処理部(折れ線判別手段)、7 折れ線表示処理部(折れ線表示手段)、8 ディスプレイ(折れ線表示手段)、11 ハードディスク、12 CPU、21 画素選別プログラム、22 線分判別プログラム、23 折れ線判別プログラム、24 折れ線表示プログラム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、上記画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、上記画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、上記線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、上記折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段と、上記折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示する折れ線表示手段とを備えたクラック検出装置。
【請求項2】
画素選別手段は、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別することを特徴とする請求項1記載のクラック検出装置。
【請求項3】
折れ線判別手段は、クラックに相当する折れ線であるか否かを判別する際、当該折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値を算出し、
折れ線表示手段は、上記折れ線判別手段によりクラックに相当していると判別された折れ線を表示する際、上記折れ線判別手段により算出された評価値に対応する色で当該折れ線を表示することを特徴とする請求項1または請求項2記載のクラック検出装置。
【請求項4】
クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理手順と、上記画素選別処理手順により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、上記画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理手順と、上記線分判別処理手順によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、上記折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理手順と、上記折れ線判別処理手順によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイに表示する折れ線表示処理手順とをコンピュータに実行させるためのクラック検出プログラム。
【請求項1】
クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別手段と、上記画素選別手段により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、上記画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別手段と、上記線分判別手段によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、上記折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別手段と、上記折れ線判別手段によりクラックに相当すると判別された折れ線を表示する折れ線表示手段とを備えたクラック検出装置。
【請求項2】
画素選別手段は、クラックの領域を映している画素の周辺の濃淡値パタンを考慮して設計された非線形の空間フィルタを用いて、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別することを特徴とする請求項1記載のクラック検出装置。
【請求項3】
折れ線判別手段は、クラックに相当する折れ線であるか否かを判別する際、当該折れ線がクラックに相当する折れ線である確からしさを示す評価値を算出し、
折れ線表示手段は、上記折れ線判別手段によりクラックに相当していると判別された折れ線を表示する際、上記折れ線判別手段により算出された評価値に対応する色で当該折れ線を表示することを特徴とする請求項1または請求項2記載のクラック検出装置。
【請求項4】
クラックの検出対象面が撮影されている画像を構成している複数の画素の中から、クラックの領域を映している可能性がある画素を選別する画素選別処理手順と、上記画素選別処理手順により選別された画素を繋ぎ合わせて線状の画像領域を形成し、上記画像領域がクラックの一部を構成している線分であるか否かを判別する線分判別処理手順と、上記線分判別処理手順によりクラックの一部を構成していると判別された線分を繋ぎ合わせて折れ線を形成し、上記折れ線がクラックに相当する折れ線であるか否かを判別する折れ線判別処理手順と、上記折れ線判別処理手順によりクラックに相当すると判別された折れ線をディスプレイに表示する折れ線表示処理手順とをコンピュータに実行させるためのクラック検出プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−98045(P2012−98045A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243350(P2010−243350)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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