クラッディング超塑性合金
本発明は、超塑性特性を有するクラッドシート物品の製造方法、および得られたクラッドシート物品を提供する。この製造方法は、好ましくは同時鋳造により、超塑性特性を有する金属より成るコアインゴットの少なくとも1つの圧延面にクラッド層を設けクラッドインゴットを形成する工程と、その後該クラッドインゴットを圧延してシート物品を形成する工程とを含む。コアインゴットは超塑性加工の温度でインゴットの内部から表面に拡散し、これによりインゴットの表面特性を悪化させる元素を含む。クラッド層は、コアの前記元素と反応し前記元素がクラッド層を通り拡散する能力を低減する元素(ドーパント)を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超塑性合金、とりわけ主にアルミニウムより造られた超塑性合金に関する。より詳細には、本発明はその表面特性を改善および改良するための超塑性合金のクラッド(またはクラッディング、cladding)に関する。
【背景技術】
【0002】
超塑性合金は、100%より小さい、結晶金属の通常の破断点をはるかに超えて変形することが可能な結晶金属であり、高温での引張り変形の際に、少なくとも200%しばしば1000%より大きく伸ばすことができる。時々、「向上した塑性(enhanced plasticity)」を有する金属について言及される。このような金属が通常、「超塑性」金属の領域の下限の変形特性を有しているが、しかし同様の従来の金属よりもさらに引き伸ばすことが可能である。本明細書の議論は超塑性および向上した塑性の両方を有する金属を含むことを理解すべきである。便宜上、以下において、両方の種類の金属を意味するのに用語「超塑性(superplastic)」のみを使用する。
【0003】
超塑性金属は張力下で引っ張ると破壊をもたらす「ネック」(即ち、局所的な狭窄)を形成するよりも、極めて均一に伸びて薄くなる。ネックを形成する代わりに、連続クラックが成長するまでゆっくりとした小さな内部ボイドの合体により、金属は最終的に破断する。このような金属は通常、結晶粒界をピンニングし、高温で微細粒組織を維持するよう機能する、熱的に安定な微細粒子の微細な分散を伴う、微細結晶粒組織(例えば10μmより小さい)を有している。「粒界すべり」として知られる特徴的な変形モードを起こさせるために微細粒サイズは不可欠である。この特性を示すアルミニウム合金は、総じてマグネシウム、高い濃度の銅または亜鉛のような合金元素を有している。一般的な例は、AA5083、AA7075およびカリフォルニア州リバーサイドのSuperform USA社により製造されるSupral(登録商標)合金(通常、Al、6重量%Cu、0.4重量%Zr)のような合金である。AA5000シリーズのMg含有合金は、自動車部品の製造用には最も普及している。AA7000シリーズ(より少ないMgを含み、例えば1.9重量%と低く、しかし高濃度のZn)の超塑性合金は、現状では航空宇宙用途ではより普及している材料である。
【0004】
超塑性合金は、ガスを用いまたはフォーミングツールにより、そしてしばしば金型の支援により、圧力を付与することにより複雑形状の物品を形成するのに用いることができる(例えば、高速塑性成形(quick plastic forming)(QPF)法により)。アルミニウムとチタンの部品は航空宇宙用にしばしば超塑性で形成され、自動車用途も増加している。
【0005】
超塑性状態は、高温、通常、用いる合金の絶対温度による融点の半分より高く、そしてアルミニウムベースの合金では、しばしば500℃付近(そして概して400℃より高い)で実現する。不運にも、市販のMg含有合金は、その高いMg含有量のために、このような工程および使用中もまた、(とりわけ)酸化および/または表面劣化し易くなる。これらの合金はまた、高温での加工(または成形、forming)工程の後、自動車用等の部品を構成するように一緒に接合することもまた、困難となりうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、このような問題を回避するように超塑性合金を改善または改良する要望がある。
【0007】
1983年10月25に発行されたRobert M. Johnsonの米国特許第4,411,962号は、超塑性特性を残しながら高い強度を達成するように、1以上の非超塑性材料の層と冶金学的な結合(metallurgical bond)した超塑性材料の1以上の層を含む金属ラミネートの形成を開示している。層の結合は、拡散接合(当該金属の融点よりも低い温度に加熱する)または圧延接合(複数のシートをその厚さを減少し、結合を促進するように一緒に圧延する)により実施する。
【0008】
1965年9月21日発行のGrover C. Robinsonの米国特許公報第3,206,808号は、アルミニウムおよびアルミニウム合金のインゴットの連続鋳造または半連続鋳造に関する。しかしながら、超塑性合金の処理を含んでいない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的な実施形態は、クラッドシート物品の製造方法を提供する。その製造方法は、超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に、好ましくは同時鋳造(または同時キャスティング、co-casting)により、クラッド層(またはクラッド、またはクラッディング、cladding)を設け、クラッドインゴットを形成する工程と、クラッドインゴットを圧延し、コア層と少なくとも1つのクラッド層(またはクラッディング層、cladding layer)とを有するシート物品を製造する工程とを含む。コアインゴットに用いる合金は物品の超塑性加工に必要な温度においてコア層の内部からコア層の外部に拡散し、物品の外面に存在する場合に表面劣化を起こす元素を含む。クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素のクラッド層内部の拡散を低減する元素を含むように選択される。
【0010】
本発明の別の例示的な実施形態は、超塑性特性を有する金属のコア層と、コア層の少なくとも1つの表面に設けられた、好ましくは同時鋳造による、金属のクラッド層とを含む、超塑性特性を有するクラッドシート物品であって、コア層が、超塑性加工(または超塑性成形、superplastic forming temperature)の温度でコア層の中心から表面に拡散しこれにより表面を劣化させる元素を含むクラッドシートを提供する。クラッド層はコア層の前記元素と反応して前記元素がクラッド層を通って拡散する能力を低減する元素を含む。
【0011】
本発明のさらに別の例示的な実施形態においては、クラッドインゴットの製造方法を提供する。この製造方法は、超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設けクラッドインゴットを形成する工程を含む製造方法であって、コアインゴットの合金は、圧延によりクラッドインゴットから物品を超塑性加工するのに必要な温度において、コア層の内部から表面に拡散し、物品の外面に存在すると表面劣化を引き起こす元素を含み、クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むように選択される。
【0012】
さらに別の例示的な実施形態においては、超塑性特性を有する金属のコアと、コアの少なくとも1つの面上の金属のクラッド層と含む超塑性特性を有するクラッドシート用インゴットであって、コアが、超塑性加工の温度でコアの内部から表面に拡散し、これによって圧延によりクラッドインゴットから製造するシート物品の表面特性を悪化させる元素を含み、前記クラッド層が、コアの前記元素と反応し前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むクラッドシート用インゴットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、高温で超塑性を示すコア層と、少なくとも1つの面上の異なる金属によるクラッド層であって、コア層からクラッド物品の表面への1以上の元素の拡散により生じる、得られた金属加工品の表面の問題または劣化を低減又はなくすクラッド層とを有するシート金属物品の製造を可能にする。
【0014】
超塑性金属の表面の問題または劣化は、概して、酸化若しくは他の反応を受け得る、または他の金属との付着が困難になり得る少なくとも1つの反応性の合金元素の金属の内部から表面への拡散の結果であることが見出されている。アルミニウム合金に用いるいくつかの合金元素は金属の中をゆっくりとのみ拡散するが、しかし他の合金元素(例えば、マグネシウムおよび亜鉛)は極めて速く拡散する。それは、概して速い拡散速度を有する金属であり、とりわけ、顕著に酸化され易く最終製品に表面問題をもたらす金属である。
【0015】
超塑性合金が高温での加工工程の際に、高速で拡散し迅速に表面に移動する元素を含む場合、コアから急速に拡散する元素は薄いコーティング層に迅速に浸透および拡散し、コーティングした物品の表面に到達し、またしても表面劣化および関連する問題を生じることから、異なる合金(反応性の低い)による超塑性合金の外面の単なるコーティングまたはクラッドはこれら問題を回避できない。
【0016】
高速で拡散する元素は溶媒金属の自己拡散より高速で拡散する元素と定義することが可能である。アルミニウム中のマグネシウムは、この一例であり、Si中のCuが他の例である。実用的な見地から、本発明の目的においては、高温での加工工程の際にクラッド層を通り表面に拡散可能な如何なる元素も「高速拡散」元素と考えることが可能である。以下の表1は、アルミ中の各種の化学種(species)について温度の関数として拡散率(または拡散性、diffusivity)を計算するのに必要なデータを提供する。
【0017】
【表1】
【0018】
表1のデータは、拡散に適用されるアレニウスの速度式:D(T)=D0exp(−Q/RT)のパラメータを示す。このデータは、MgおよびZnが、それらの指数パラメータ(Q)がAlのそれよりも小さく、従って十分に高い温度でAlよりも速く拡散する傾向があるであろう「高速拡散元素(拡散剤、diffuser)」である。Feは例外的に遅い拡散元素であることに留意すべきである。
【0019】
本発明において、コーティングまたはクラッド層が、超塑性コアからクラッド層の外面まで高速に拡散する元素の拡散を阻害する元素をドープ(すなわち含む)され、従って、コーティングまたはクラッド層が加工品のコアから表面への元素の拡散を阻止するまたは顕著に低減する場合、改善できることが見出されている。この阻止作用は、クラッド層のドーピング元素とコアの高速拡散元素との間の反応による、析出の形態(例えばS相粒子)の金属間化合物の形成の結果であろう。迅速に拡散する元素は、続いて、金属の加工および形成の間、非常にゆっくりと拡散するまたはその場に完全に固定して残る別の形態に変わる。
【0020】
一例として、自動車用に用いられる多くの超塑性アルミニウム合金は、超塑性金属の加工温度において金属コアおよび存在し得る任意の金属クラッド層を通り急速に拡散する比較的多くのマグネシウム(通常少なくとも約4重量%、およびしばしば4.0〜4.9重量%Mg)を含んでいる。マグネシウムは表面に存在する場合、非常に酸化され易い。しかしながら、シリコンおよび/または銅を含むクラッド層は、クラッド層を介した加工品の外面へのマグネシウムの拡散を阻止するのに非常に効果的で、従って向上した表面特性を備えた金属物品を提供できることが見出されている。シリコンはマグネシウムと反応してMg2Siを形成することから効果的であると考えられている。従って、マグネシウムはシリコンを含むクラッド層に拡散し、高マグネシウムコアに被覆されたクラッド層にMg2Siを形成する。クラッド層は、その後、元のクラッド層の特性と異なる特性を有することができる。銅をクラッド層のドーパントとして用いる場合、Al2CuMgおよびAl6CuMg4を形成し得ると考えられている。元々は固溶体中のMg原子が一旦、このような金属間化合物粒子中にトラップされると、クラッド層を通って外面にもはや拡散しなくなる。しかしながら、銅がより高い温度では固溶体に溶けることから、銅の阻止効果は加工品が約400℃より低い温度で超塑性により形成された場合のみ観察され得ることに留意すべきである。
【0021】
クラッド層に必要なシリコンおよび/または銅の量は少なくとも、Mgのマイグレーション(または移動、migration)を阻止する所望の効果を得る最少量である。実際上は、クラッド層は好ましくは、0.3重量%以上のSiおよび/または0.3重量%以上の銅を含むべきであることが見出されている。Siについて、好ましい範囲は0.5〜2.0重量%であり、より好ましい範囲は0.5〜1.0重量%である。銅については、好ましい範囲は0.3〜1.3重量%である。元素Siおよび/またはCuは、もちろん、多くのアルミニウム合金中に存在している。また本発明のアルミニウム合金は他の元素を含んでよいが、しかし急速に拡散し表面の問題を引き起こす元素は、当然ながら含まないまたは極めて少量のみ含むべきである。例えば、最小限の表面劣化しかもたらさないことから、物品表面のMg量は最大0.8重量%まで許容できるがしかし、最も好ましくは、Mg量は約0.5重量%以下であり、理想的にはゼロである。クラッド層の金属はこのことを考慮しく選択しなければならない。
【0022】
例えばAA7xxxシリーズの合金のように、主たる合金元素として顕著な量の亜鉛を含む超塑性合金の場合、亜鉛の高い酸化ポテンシャルに関わらず、表面にZnOを形成する亜鉛の酸化は、重大な問題でないことが見出されている。ZnはAlよりも陰極性であるが、これは概して、迅速にアルミニウムの上に形成する酸化物(Al2O3)の不動態効果により緩和される。それにもかかわらず、加工工程の際にAl2O3層の不動態化は、新表面の連続した露出のために減じられる。この場合、AlはZnに対して効果的に陽極性を維持する。高温での超塑性加工に一般的であるが、しかしながら別の現象が潜在的な悪影響、主に亜鉛の揮発性を有しうる。これは、合金の表面に存在する亜鉛が昇華または蒸発し得ることを意味する。これは、金属が高温で十分に長時間保持された場合、亜鉛の表面での欠乏をもたらす。この現象を考慮すると、クラッド層(必要によりZnのマイグレーションを防止するドーパントを含む)を超塑性7xxx合金に適用することは、昇華または蒸発による亜鉛の減少が高温での加工工程の際に有害な程度で起こる場合に、これを防止することで得られた物品に利点をもたらす。
【0023】
7xxx合金でのZnの存在に加えて、Mgもまた、適度な量(例えば少なくとも1.9重量%)存在することが可能で、強度向上に顕著に寄与するAl3Mg4Zn3金属間化合物を形成させる。例えば、超塑性挙動を示し得るAA7075合金は、2.1〜2.9重量%のMgを含む。このMg量は表面に形成したMgOが成形品に有害となるのに十分に多い量である。このことに基づいて、従って、クラッドを被覆し、MgOの形成を防止することは適切であり、また望ましい。
【0024】
任意の適切な手段により、クラッド層を超塑性合金コアに被覆してよいが、しかし最も好ましくは、超塑性金属合金より成るコアインゴットの表面にクラッドする金属を同時鋳造することにより被覆する。この方法は、Andersonらによる2005年1月20日発行の米国特許公開公報第2005/0011630号(この公開公報の開示は参照することにより明確に本明細書に含まれる。)に記載の同時鋳造方法および装置を用いて実施する場合、特に効果的である。この方法および装置は、コアインゴットおよび少なくとも1つのクラッド層を形成するように、および金属層の間に実質的に連続した冶金学的な結合を生じるように金属を同時鋳造することを可能にする。
【0025】
添付の図の図1の正面部分断面図は、Andersonらの公報記載の同時鋳造モールドアセンブリ(または集合体、assembly)と類似の同時鋳造モールドアセンブリである。これは、冷却水13の流れ出るウォータジャケット12の一部を形成するモールド壁11を有するモールドアセンブリ10を示す。
【0026】
モールドの入口部分は隔壁14(または仕切り壁、divider wall)(「チル」という)により2つのフィードチャンバー(または供給室)に分割されている。溶融金属供給ノズル15は、第1の合金を1つのフィードチャンバーに供給し、第2の金属供給ノズル16は、第2の合金を第2のフィードチャンバーに供給する。垂直に可動なボトムブロックユニット17は、鋳造の前に形成しモールド出口と適合しており、その後インゴットを形成するように下げられながら、複合インゴットを支持する。
【0027】
クラッド層を形成するように向けられたノズル16より供給される金属23の本体は、コアを形成するように向けられたノズル15より供給される金属20の本体よりもモールドの中で高いレベルに維持される(これは、高濃度に合金化したコア、及びより低濃度のクラッド合金に好ましい配置である。)。隔壁14は、(図示しない手段により)冷却され、クラッド層の金属は、コアの金属20と接触する前に、自立する(self-supporting)半凝固表面25を形成する。実際、より明確に図2に示すように、液体と固体との間の領域19(すなわち、金属の液相線と固相線との間で、しばしばマッシー領域(mushy zone)または半凝固領域と呼ばれる)は隔壁14直下の金属23に存在することができる。このマッシー領域または半凝固領域より下は、固体金属合金であり、液体金属はこのゾーンより上に存在する。コアのために供給される液体金属20もまた下に固体金属を上に液体金属を伴うマッシー領域22の構成を有する。
【0028】
先の特許出願に開示されているように、隔壁14の温度は、隔壁14の下端より下方の自立表面25の温度を制御する冷却された界面を形成するように所定の目標温度に維持されている。そして、第2のチャンバー内の金属20の上面は、好ましくは隔壁14の下端より下方の位置に維持され、同時に金属20の表面34が、表面25の温度が金属23の固相線温度と液相線温度の間となる位置で自立表面25と接触するように、自立表面25の温度は維持される。通常、表面34は隔壁14の下端より僅かに下方の位置、概して、下端より約2〜約20mm以内に維持される。従って、2つの合金の流れの間に形成される界面は、この位置で2つの金属合金の間に余分な合金の混合を生じることなく非常に強く、酸化物のない冶金学的な結合を形成する。
【0029】
本発明において、クラッド金属は、同時鋳造による超塑性合金より成る概して矩形のインゴットの1つ及び好ましくは両方の圧延面に鋳造される。コアの両面にクラッドする必要がある場合、図1の装置はモールドの両サイドに隔壁14を備えるように改良されるであろう。形成後、得られたクラッドインゴットは、通常の熱間および/または冷間圧延され、自動車部品のような所望の製品の製造に適したクラッドシートが造られる。
【0030】
圧延前(および圧延後)のクラッド層の超塑性コアに対する相対厚さ、および最終圧延シート物品のクラッド層の絶対厚さは、幾つかの或いは全てのコア/クラッド合金の組み合わせにとって重要であり得る。クラッドに用いる合金それ自身は通常超塑性を示さないことから、クラッド層をコアに対して非常に厚くして、得られた加工品の所望の超塑性特性が悪影響を受ける(または全く消失する)ことと、クラッド層を非常に薄くしてコアから急速に拡散する元素のマイグレーションを効果的に防止できないこととの間で必要とされるバランスがあるであろう。適切な厚さは異なる合金の組み合わせにより変わり得る。
【0031】
クラッド層は適切な厚さの範囲内にあれば、クラックの発生または付着の損失なしに、コアと同様に伸びるであろうがしかし、顕著により厚い層が用いられた場合には、このようにはならないであろう。少なくとも高Mg合金について、クラッド層全体の厚さが、クラッドインゴット全体の厚さまたは圧延シート物品全体の厚さの30%以上だと、クラッド層はコアが伸びるのと同じようには伸びないことが見出されている。コアの超塑性伸びに充分に追随するクラッド層から追随しないクラッド層への遷移は、おそらく徐々に(すなわち、必要となる伸びの程度に応じて)起こる。そして、クラッド加工品の全体厚さに対すクラッド層または両方のクラッド層の全体厚さが15〜25%、より好ましくは15〜20%であれば、適切な特性を示すと考えられている。概して、単数または複数のクラッド層の全体厚さが15%以下であれば、このクラッド層は充分に超塑性伸びに追従する。これは、1つのクラッド層のみを有するクラッド加工品については、クラッド層の厚さは、クラッド加工品全体の厚さの30%より薄く、好ましくは15〜25%の範囲の値より薄く、より好ましくは15〜25%の範囲の値より薄く、理想的には15%以下でなければならないことを意味する。2つのクラッド層(同じ厚さの)を有する加工品については、それぞれの層の厚さが、15%より薄く、好ましくは7.5〜12.5%の範囲の値より薄く、より好ましくは7.5〜10%の範囲の値より薄く、理想的には7.5%以下でなければならない(コアとクラッド層の合計厚さを基にして)。単一のクラッド層を有する加工品について、コアの厚さが925マイクロメートルの場合、クラッド層は理想的には約75マイクロメートルの厚さを有する。
【0032】
コアの元素の拡散を防止するのに必要な最小の厚さは、繰りかえすが、異なる合金の組み合わせ、およびコア層の可能な厚さの違いにより異なる。しかしながら、少なくとも高いレベルMgを含む超塑性合金、およびSiまたはCuを含むクラッド層については、最小の好ましい厚さは約50μm(それぞれのクラッド層について)であり、より好ましくは少なくとも75μmである。圧延クラッドシート物品が約250μmの時である。好ましい範囲は50〜500μmであり、より好ましくは75〜150μmである。クラッド層が厚くなる程、表面への拡散がより防止されるため、純粋な拡散の観点からは、上限は存在しない。
【0033】
好ましい寸法は、概略図(または、スケッチ)の形態で添付の図の図3に示す。この図は、圧延シート物品のコアBの両側にクラッド層AおよびCがある場合を示している。1つのクラッド層のみを有する圧延物品については、(A+B)に対するAの比率は30%以下である。
【0034】
クラッド層に用いる金属自身は超塑性特性を有してもよいが、しかし必須ではなく、実際通常は有していない。
【実施例】
【0035】
・実験1
本セクションではクラッド材の高温特性を評価するように実施した実験およびコンピュータシミュレーションの詳細を示す。引張り試験ならびに内部拡散実験およびシミュレーションを行った。機械的試験のための材料はAA5083コア上の低濃度AA3003クラッド層である。この材料を最終厚さ1.245mmまで商業的に冷間圧延し、また1.9mm中間厚さから付加的な試料を得た。試料を450℃〜525℃の温度範囲で引張りにより変形した。全ての温度で、両方の厚さのサンプルとも300%以上の伸びを示した。最大の伸びは500℃で観察された。
【0036】
拡散の研究(または調査)を行い、Mgがクラッド層を通り表面に拡散するのを抑制するようにSiまたはCuを用いることの実現可能性を評価した。すでに述べたように、SiはMg2Siの形成によりMgの拡散を遅くすることができ、一方Al2CuMgおよびAl6CuMg4の形成を促進することができる。この実現可能性をコアAA5083合金とAl−1重量%CuもしくはAl−0.5重量%Siのクラッド層より成るモデル材料を用いて実験的に調査した。同様の合金の組み合わせは、Thermo−Calc of Stockholm Technology Park,(Bjornnasvagen 21, SE-113 47 Stockholm Sweden)により製造されたDICTRAソフトウエアパッケージを用いて数学モデルにより研究した。実験およびコンピュータシミュレーションは、Si含有合金は575℃までの熱処理でMg2Siの形成によりMgの拡散を低減し、一方Cu含有クラッドは最高温度485℃までの場合のみ、より効果的であり得ることを示している。
【0037】
同時鋳造技術により容易に製造できるクラッド加工品(または製品、product)の提案されている用途の1つは、優れた表面品質を維持したままで優れた高温(〜500℃)加工性を示すアルミニウムシートである。理想的な表面品質は、滑らかなブライト表面(または光沢のある表面、bright surface)である。ブライト表面を得るように、表面でのMgOの形成を抑制しなければならない。自動車用途の高温加工性の標準合金はAA5083、とりわけその低Fe、高Mn改良品である。この種類の合金のMg量は通常4.75重量%である。このような高Mn含有合金の表面への素早いMgの拡散に起因する、表面のMgOの顕著な量の形成はよく知られた現象である。
【0038】
上述の同時鋳造技術は、高Mg含有合金を少量のMgを含むまたはMgを含まない合金によりクラッドすることを可能にし、従ってこれらのクラッド層は拡散の障壁として機能して、Mgが表面に到達して審美的に魅力のないMgOの形成を防止する。表面酸化物により生ずる美しくない外観に加え、酸化物は、より優れた接合および塗装特性を生ずるように、形成後に処理されなければならない。従って、MgOが表面で成長するのを防止することは自動車産業にとって製造コストを低減する。
【0039】
このセクションは2つの部分に分かれている。最初のセクションは、機械的性質およびこれら条件で成長した微細構造を説明している。第2セクションでは金属間化合物の生成を促進することによりMgの拡散を抑制するようにSiまたはCuを用いることの実現可能性を評価するために実施した実験およびコンピュータシミュレーションを示す。
【0040】
PART1 機械的性質
実験方法:
この研究に用いた材料は、商業用生産設備を用いて製造し、低濃度(または希薄)合金AA3003とAA5083規格内の改良材のコアとにより鋳造した。コア合金およびクラッド合金の化学組成を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
鋳造の場所から、インゴットを熱間圧延のために圧延工場に移動した。熱間圧延の前に525℃で33時間、予熱および加熱処理を行った。インゴットを厚さ6.5mmに熱間圧延した。熱間圧延第1パスでの入口温度は521℃であり、冷却時の最終温度は約300℃であった(コイルの温度は内側層と外側層で変わった。)。そして続いて、複数パスで1.245mmまで冷間圧延した。最終厚さおよび中間厚さ1.9mmでサンプルを得た。これら厚さの冷間での圧下率は、それぞれ81%および71%であった。
【0043】
付加的にAA5086の規格内に入る、従来のAA5083の改良材(または変更材、variant)の実験用圧延試料から付加的なサンプルを造った。このサンプルの化学組成は以下の図3に示されている。このサンプルは商業的に生産された厚さ0.5インチのプレートとして受け入れた。このサンプルは、開始温度450℃で厚さ3mmまでラボ(または実験用、laboratory)圧延した。熱間圧延の終わりでの試料温度は記録しなかった。室温に冷却後、冷間のトータルの圧下率が75%となる、0.75mmに冷間圧延した。
【0044】
このようにして得られたサンプルから、引張り軸が圧延方向と平行になるよう引張り試験試料を準備した。引張り試験試料は、ASTM E21−05「Standard Test Method for Elevated Temperature Tests of Metallic Materials(金属材料の高温引張り試験の標準試験方法)」に従って、CNC加工により作製した。
【0045】
これにより、ビデオ式伸び計によりモニターされる0.5インチ間隔の基準マークを試料表面に描くことができるように、引張り試験試料に0.75インチの機械加工されたゲージ長(または評点距離)を与える。
【0046】
本研究で用いる加熱方法は、試料チャンバーを所望の温度に予熱する必要があった。試料挿入時にこの炉において設定温度(±5℃以内)に戻るのに要した時間を記録した。試料を、この温度でさらに6時間再結晶した。そして、引張り試験を開始した。
【0047】
引張り試験は、450℃、475℃、500℃および525℃で行った。それぞれの温度で、商業的に生産した2組の材料について、3回引張り試験を行った。
【0048】
初期歪み速度が5×10−3/秒となるように、一定のクロスヘッド速度で引張り試験を行った。引張り試験は破断するまで行い、破断伸びを記録した。
【0049】
続いて、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡とを用いて、変形した試料の金属組織の調査を行った。
【0050】
結果:
図4は全ての試験温度での3つの材料の平均破断伸びを示す。しかしながら、厚さ1.245mm材料について、525℃で試験した試料の1つが引張り試料の肩部(shoulder)付近で早期に破断し、これは平均に含まれていない。
【0051】
破断伸びは全て300%を超えており、さらにデータは、冷間の圧下率の増加が破断伸びを改善することを示している。
【0052】
図5(a)と5(b)は、2つの1.245mm試料の破断面近傍から取った縦断面の光学顕微鏡写真である。一方は、450℃で変形した試料から(図5(a))であり、他方は525℃(図5(b))で変形した試料である。コア材料でのボイドの形成を示しており、さらにクラッド層はほとんど損傷がないことを示している。クラッド層は、界面直下でコアにボイドを有する部分でとりわけ薄くなっている。
【0053】
図6は、破断面から約1cmの部分で試料の縦方向の稜線(edge)を示すサンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)像でしわくちゃの(rumpled)表面を示している。この図は、またクラッド/コア界面直下のコア材料のボイドに起因するらしい、クラッド層が破損している部位の2つの例も示している。
【0054】
機械的特性の考察および結論:
AA3003低濃度合金クラッド層を備えたAA5083コアより成るクラッド材料は、高温で高い引張り伸びを示す。データはさらに、超塑性特性を有しないにも関わらず、変形の際にクラッド層が損傷せずに残存することを示している。商業的に製造した材料の伸びは、高温での伸びに関し、ラボ製造した従来のAA5083合金と好都合に匹敵する。
【0055】
PART2 拡散シミュレーションおよび実験
数学モデル:
DICTRAアプリケーションはThermoCalcソフトウエアパッケージの一部であり、各種の合金元素の拡散に基づいて、ユーザーが濃度プロファイルを計算できる。第2相粒子の形成をシミュレートする能力があり、その濃度プロファイルも予想することができる。
【0056】
コンピュータシミュレーションでは、同じAA5083合金コアを備えた両方のクラッド合金を研究した。両方の場合の温度は、350℃(623K)または500℃(773K)に設定し、コアの組成は4.75重量%Mg、0.2Siおよび0.05Cuに設定した。この化学組成は一般的なAA5083合金である。他の合金添加剤Cr、FeおよびMnは非常にゆっくり拡散する元素であり拡散の予測に影響しないことから、本研究でではこれら元素を省略したことに留意されたい。Cuを含有している場合、クラッド層の組成は1重量%のCuを含むAlに設定し、Al/Si合金のクラッドの場合は、組成はAl−0.5重量%Siであった。モデル化したクラッド層の厚さは0.1mmであり、コアのそれは1.0mmであった。
【0057】
Siを含有する場合には、シミュレーションは2回行った。1回は、第2相析出物の形成を可能にし、2回目のシミュレーションでは、第2相析出物の形成を不可とした。Cuを含有する場合には、シミュレーションは全て析出物の形成を可能として行った。両方の温度におけるシミュレーション時間は、5、10,15および30分であった。最後に、それぞれの焼鈍温度について、25℃までの時間が20分になるように、指数関数的に減衰する冷却曲線をシミュレートすることにより室温への冷却の際の析出物の更なる析出について評価した。この種類の関数の冷却曲線は、熱した物体の室温への冷却条件として物理的に最も理にかなったものである。
【0058】
実験手順:
研究した2つの異なるクラッド材料はクラッド圧延により準備した。コア合金AA5083は、ダイレクトチル鋳造により準備し、このインゴットから1.5インチの厚さの部分を除去した。このスラブの長さは、6インチで幅8インチであった。0.15インチ幅の溝を上面のスラブの「頭部」に近いコア合金にその幅全体に沿って機械加工した。この合金の組成はセクション「A」で示したのと同一であり、その組成は表3に示してある。
【0059】
【表3】
【0060】
クラッド合金は、ブックモールドで厚さ1インチに鋳造した。これらブックモールドインゴットを500℃に加熱し、所望の厚さ0.15インチに圧延した。幅8インチ、長さ5.5インチのピースがこれより切り出され、コア合金に切り込まれた溝に適合するように、一方の端部を90°曲がるまで折り畳んだ。クラッド層が最初の圧延パスの間、コアに取り付けられた状態を維持することを確実にするように、3つの小さい溶接ビードがクラッドとコア溝との最先端に沿って作られた。1つは、それぞれの端部、1つは中央部に。この構成を概略的に図7に示す。図7では、数字81が切り込まれた溝を備えたコア材料を示し、数字82が溝に挿入された曲げられた端部を備えたクラッド材料を示し、数字83がクラッド層をコアに錨止めする(または結合する、tacking)溶接ビードを示す。クラッド層は厚さ0.15インチであり、コア層は厚さが1.5インチ、幅8インチ、長さ6インチであることに留意すべきである。
【0061】
所謂アセンブル(または組み立て)されたクラッドパッケージは炉中で500℃、30分間加熱され、そして最終厚さ1mmまで圧延される。最初のパスは、クラッド合金とコア合金との間の優れた冶金学的な結合を実現するように、ほんの低い圧下率で行う。一旦、優れた結合が実現すれば、1パス当たり、より大きな圧下率を実現することができる。クラッド圧延(roll caldding)工程の間、温度制御は行わなかった。
【0062】
試料は、圧延したシートから切り出し、350℃で30分または500℃で2時間焼鈍した。縦断面を光学顕微鏡観察のため用意した。これら試料の光学顕微鏡観察を行い、第2相粒子の形成を見出し、さらに蛍光X線を用いることにより、走査型電子顕微鏡を用いて化学組成プロファイルを決定した。組成の測定は、クラッドの表面からコア材料の内部100マイクロメートルまで5マイクロメートル毎に行った。
【0063】
結果と考察:
Si含有クラッドパッケージのコンピュータシミュレーションを図8等に示す。
【0064】
図8は、500℃の等温焼鈍を15分およびその後の室温までの冷却について行ったシミュレーションの時間−温度プロファイルの例を示す。他のケースの温度プロファイルは同じ冷却曲線であるが、しかし異なる等温焼鈍時間を有する。
【0065】
図9は、500℃で異なる焼鈍時間での、析出を許さないシミュレーションにおけるMgの組成プロファイルを示す。すなわち、全ての合金元素は固溶体中に残存すると仮定されている。プロットしたプロファイルは、室温への冷却の終了時のものである。Mg量は固溶体中の量である。
【0066】
図10は、500℃で15分間の場合の組成プロファイルについて、室温までの冷却の前後での比較である。冷却完了時と500℃での等温焼鈍完了時を比べると組成プロファイルに僅かな差しかないことに留意されたい。
【0067】
図11(a)は、Mg2Siの形成を可能とするシミュレーションでの固溶体中のMgの組成プロファイルを含む。Mg濃度のコア合金での降下が界面からかなり離れていることに留意されたい。これは、AA5083合金のMgとSiとが反応し、固溶体中のMgとSi濃度が減少したことによる。さらに、クラッド層表面(x=0)のMg濃度が、上述の析出物を形成しない条件でシミュレートした場合と比べ顕著に低くなっていることを指摘できる。図11(b)はMg2Si含有量のプロファイルを示す。界面付近の鋭いピークは、多くの量のMg2Siを形成する、コアからの即時に利用可能なMgによるものである。さらに、クラッド層からコアへのいくらかのSiの拡散があり、これは、界面近傍のコア内でMg2Siに反映していることを指摘できる。
【0068】
図12は、500℃で15分間の場合の組成プロファイルについて、室温までの冷却の前後での比較である。図4にプロットした結果と対照的に、冷却はMgの固溶体中の含有量に影響を与えている。この違いは、温度が低下すると共にMgおよびSiの固溶度が減少し、Mg2Si粒子の形成が促進されることに起因する。
【0069】
図13(a)と13(b)とは、350℃で様々な時間について行ったシミュレーションの結果を含む。この温度でのより低い拡散性に起因して、500℃と比較して、Mgは、より短い範囲に拡散していることに留意されたい。Mg2Siの形成が可能なシミュレーションでのMgプロファイルは、再び減少した拡散距離を示している。
【0070】
Siを含有するクラッドパッケージの実験結果:
図14(a)、14(b)および14(c)は様々な条件のSi含有クラッド層を備えたクラッド圧延の実験系の顕微鏡写真を示す。図14(a)は、冷間圧延したままの状態のクラッド層とコアの界面領域近傍とを示す。図14(b)は、試料を350℃で30分間焼鈍した後の微細組織を示す。図14(c)は、500℃で2時間焼鈍した後の微細組織を示す。
【0071】
図14(a)から、界面に金属間化合物がないこと、およびクラッド圧延工程の際に優れた冶金学的な結合が生じていることを指摘できる。クラッド領域の小さい点(または染み、speck)はSi粒子である。350℃で30分後の微細組織は、界面からクラッド層に広がるMg2Si粒子を示している。Mg2Si粒子の幅は約1マイクロメートル以下であるが、しかしそれらの幾つかは界面からクラッド領域に数ミクロン延在している。500℃で2時間の焼鈍では、元の界面の近傍に非常に大きなMg2Siが形成される。さらに、クラッド/コア界面からクラッド層に約50マイクロメートル広がるSi欠乏領域が存在するようである。これは、粒子の列によりクラッド層の「上部」を区切っている。これは、DICTRAによる、界面から同程度の距離でのMg2Si含有量の「スパイク(または鋭いピーク、spike)」の予想と一致し得る。明確な欠乏領域は、視認できるSi粒子と対照的な、顕微鏡で見ることができない微細なMg2Si粒子を含むことができる。
【0072】
図15は、圧延のまま、350℃で30mm、500℃で2時間の場合における、SEMを用いたエネルギー分散型x線分光分析(EDXS)によるスポット分析により求めた、クラッド表面から距離に対するMg量のプロットである。Mgのプロファイルは、DICTRAを用いて計算した予測値とある程度一致する。Mg量の変化は、Mgを含んだ大きな粒子との相互作用に起因すると考えられる。すなわち、いくつかのスポット測定では、測定する体積が多くのMg2Si粒子を(部分的に)含んでおり、これにより平均Mg量を過大に評価している。さらに、EDXS法は固溶体中のMgとMg2Siのような金属間化合物中のMgを区別できない。
【0073】
Cuを含むクラッドパッケージのコンピュータシミュレーション:
ThermoCalcソフトウエアパッケージは、5重量%Mgおよび1重量%Cuを含む合金についてAl2CuMgのソルバス温度が485℃であり、一方Al6CuMg4のソルバス温度が238℃であることを示す。
【0074】
これらのシミュレーションに用いた時間−温度プロファイルはSi含有クラッド層のものと同一であった。図16(a)は、350℃で各種のシミュレートした時間後のMgプロファイルを比較している。これらのシミュレーションは金属間化合物粒子の形成を許容するソフトウエアーにより行われたことを思い出してほしい。冷却時のこれら粒子の形成に起因して、固溶体中のMgは、減少している。図16(b)は、350℃で30分後の予想される金属間化合物相の組成プロファイルを示す。
【0075】
Cuを含むクラッドパッケージの実験結果:
図17(a)、17(b)および17(c)は、様々な条件のSi含有クラッド層を備えたクラッド圧延の実験系の顕微鏡写真を示す。図17(a)は、冷間圧延したままの状態のクラッド層とコアの界面領域近傍とを示す。図17(b)は、試料を350℃で30分間焼鈍した後の微細組織を示す。図17(c)は、500℃で2時間焼鈍した後の微細組織を示す。
【0076】
Siを含有している場合と同様に、圧延のままの試料は、クラッド圧延工程で優れた冶金学的結合が実現されていることを示している。350℃で30mm焼鈍後は、クラッド合金とコア合金との間の界面に沿って形成している粒子が認められる。これは、Al−Cu−Mg金属間化合物を形成する反応が起こったことを示す。対照的に、500℃での焼鈍は第2相粒子を生じなかった。これは、この温度では1つの相(α−Al固溶体)のみが存在することを示す状態図から予測される。
【0077】
図18は、圧延のまま。350℃で30分および500℃で2時間の場合について、SEMを用いてEDXSスポット分析により求めた、クラッド表面距離に対するMg含有量のプロットを示す。Mgプロファイルは、DICTRAを用いて計算した予測値とある程度一致している。Mg量の差異(または変動、variation)は、Mgを含んだ大きな粒子との相互作用に起因すると考えられる。すなわち、いくつかのスポット測定では、測定する体積が多くの金属間化合物粒子を(部分的に)含んでおり、これにより平均Mg量を過大に評価している。さらに、EDXS法は固溶体中のMgとMg2SiまたはAl2CuMgのような金属間化合物中のMgを区別できない。
【0078】
結論:
Al中のMgのような高速拡散化学種と金属間化合物粒子を形成する合金添加剤のクラッド層での使用は、固溶体での高速拡散化学種の元素の濃度を減少させる。Al中のMgの場合、クラッド層中のSiまたはCuの存在は、クラッド表面での固溶体中のMg量を非常に低いレベルまで低減することが可能である。
【0079】
・実験2
この実験のレポートは、超塑性加工状態の間に、特定のコア/クラッド層合金において、MgOの形成を抑制するのに必要なクラッド層の最小厚さを評価するように、DICTRAソフトウエアパッケージを用いて、実施した拡散シミュレーションの結果を示す。
【0080】
シミュレーション条件:
この研究では2つのクラッドパッケージを考慮する。第1は4.8%Mgのコアを備えた純アルミニウムクラッド層を含む、第2はAl−0.6%Siのクラッド層とAl−4.8%Mgである同じ2元合金を含むコアとに特定する。これらは、AA5083のコアと、それぞれ0.6%のSiを含む3003低濃度合金クラッドまたは改良3xxx合金とを含むNovelisクラッドパッケージを近似する適切なモデル合金である。Mgの拡散を抑制する主たるメカニズムは余剰のSiであることから、このシミュレーションにおいて、他の全ての合金添加剤を排除するのは理にかなっている。FeおよびCrは主として、第2相中に「トラップされ」、MgまたはSiの拡散に顕著に貢献することはないであろう。
【0081】
シミュレーションは、表面でのMgO形成に対して、適切な保護を提供するクラッド層の最小厚さを決定するように構成した。このため。この合金の2つの組み合わせにおいて、クラッド層の厚さを変えて様々なシミュレーションを実施した。この研究のために選択したクラッド層の厚さは、10、25、50、75および100μmであった。システム(または系)の全体厚さは250μmに設定した。
【0082】
保護されているまたは保護されていないかを区別する基準は、表面での固溶体中のMg濃度が0.5重量%より少ない場合には、MgOは形成しないと仮定した。全てのシミュレーションは、500℃で15分の同じ時間および温度の条件とした。これは、加工品の超塑性加工の際に用いる条件に対する理にかなった上限である。
【0083】
結果および考察:
図19(a)および図19(b)は、(a)純粋アルミニウムクラッド層での距離(図19a)、および(b)Al−0.6重量%Siの場合の距離(図19(b))に対する固溶体中のMgのプロットを示す。プロットは、検討したそれぞれのクラッドの厚さにおける組成プロファイルを示す。
【0084】
図20は、検討した2つの材料におけるクラッドの厚さに対する表面での固溶体中のMgのプロットを示す。このプロットは、この問題についての設計基準(design criteria)であると考え得ることから、とりわけ有用である。表面で許容できる最少のMg量が0.5重量%であると定義されていることを前提に、点線は最小厚さについての設計基準を示す。このプロットより、純アルミニウムのクラッド層については、最小クラッド層厚さは66μmであり、一方、Siを含むクラッド層については54μmであると結論づけることができる。
【0085】
一見して、図19(b)と図11(a)の間に矛盾があるように見えるかもしれない。合金系が類似であるとしても、100μmのクラッド層を備え、500℃で15分焼鈍したシートを示すラインは、2つのプロットで顕著に異なっている。これは、図11(a)データは、焼鈍後室温まで冷却したシートについてのものであるのに対して、図19(b)のシートはまだ500℃であるからである。この曲線形状の違いを図12で強調した。そして、似ている部分同士を比較するとこれらの曲線は、実際、類似している。
【0086】
図20は、Siを含むクラッド層と含まないクラッド層とで、25〜50μmの領域でMg濃度の最大の差を示している。距離がこれらの値から上または下になる程、データ点は益々一転に集まる様である。これは、非常に厚さが薄いとMg2Siを形成するSiがそれ程多くなく、従ってMgの拡散挙動が両方の種類のクラッド層で類似するからである。非常に厚さが厚いと、何れの場合もクラッド層を横切る拡散距離が、Mgが表面に到達するのを防止する。
【0087】
・実験3
このセクションでは、超塑性コアの上にあり、高い伸びを生ずる非超塑性クラッド層の最大厚さを評価するように実施する実験について示す。結果は、調査した特定のコア/クラッドの合金の組み合わせにおいて許容できる最大クラッド比率は30%未満であることを意味している。
【0088】
緒言:
超塑性加工のためのクラッド加工品の使用についての以前の研究は、非超塑性層の許容できる含有量はかなり多く、複合体の全体組成の50%を超えることが示唆されている。実験は、これらの示唆の妥当性を評価するように実施した。
【0089】
実験手順:
本研究では2つの合金、主にAA5803の改良材および余分にSiを含むAA3003低濃度合金を調査した。これら2つの合金はブックモールドとして鋳造した。接合圧延(roll-bonding)によりクラッドパッケージを製造するのに用いる十分な材料を得るように、さらに高温で引張り特性を求めるように個々の合金を加工するように、それぞれについて、いくつかのブックモールドを鋳造した。ブックモールドは、それぞれ厚さ25.4mmで幅と長さが約150mm×約200mmであった。
【0090】
全てのブックモールドは、50℃/時間の加熱および冷却速度を用い、525℃で6時間均質化した。アセンブルした構造が熱間圧延の際の接合圧延によりクラッド材となるように、低濃度版であるAA3003合金の2つのフックモールドをAA5083改良材の1つのブックモールドに(それぞれの面に1つずつ)溶接した。所謂アセンブル構造は、従って厚さ76mm、幅と長さが150mm×200mmであった。
【0091】
そして、全てのサンプルを450℃に加熱し、5mmに圧延した。全てのサンプルが良好に圧延され、とりわけクラッドパッケージは最初のパスの際に極めて優れた結合を示し、この結合は熱間圧延を通じて維持されていた。複合材(クラッドパッケージ)での非超塑性合金の許容できる最大比率を評価するように、所望の割合のクラッド層を取り除けるようにクラッドパッケージのサンプルを皮剥ぎ(scalp)した。試料の幾ばくかの湾曲のため、皮剥ぎ工程は両側のクラッド層の厚さの良好なバランスを達成することはできなかった。図4は、最終厚さでの異なるサンプルのマイクロメートル単位でのクラッド層の厚さおよび全体に対する割合を示す、
【0092】
熱間圧延(および幾つかのクラッドサンプルにおいては皮剥ぎ)の後、全ての材料は、圧下率80%まで冷間圧延した。この程度の冷間圧延は、適当な合金では、再結晶の際に適切な結晶粒構造となり、超塑性挙動をもたらすことが広く知られている。AA5803の改良材、低濃度AA3003および皮剥をしないサンプルの最終厚さは、従って1mmであった。皮剥をした試料の最終厚さは取り除いたクラッド層の量に依存する、そしてその厚さを表4に示す。それぞれの材料の上面および下面のクラッド層の厚さをASTM B209「Standard Specification for Aluminum and Aluminum-Alloy Sheet and Plate」に記載の手順に従って顕微鏡中で測定した。
【0093】
最終厚さの材料から、ASTM E21−05「Standard Test Method for Elevated Temperature Tests of Metallic Materials(金属材料の高温引張り試験の標準試験方法)」に従って、圧延方向に平行に準備した。それぞれの最終厚さの材料から、3つの引張り試験試料を準備した。高温引張り試験は500℃で実施した。これは、超塑性AA5083改良合金が非常に高い伸びを得ることができる温度として知られている。試料は、高温で引張り試験機内におかれ、目標温度に戻るように12分間及び応力を負荷する前に完全に再結晶させるように幾ばくかの「均熱」時間放置した。引張り変形は、5×10−3/秒の初期歪速度で一定伸び速度で行った。これは、超塑性変形にとって適切な伸び速度であることが知られている。破断伸びは、破断後の試料の長さを測定することにより求めた。破断伸びは以下の式により計算する。
【0094】
【数1】
【0095】
ここでLは破断時の長さであり、lは元の長さである。
【0096】
結果及び考察:
表5は、全ての材料の破断伸びを示す。予想通りに、AA5803の改良材(または変更材、variant)は、伸びが300%を超える、超塑性挙動を示していることを指摘できる。低濃度(または希薄、dilute)AA3003材料は、100%より小さい伸びを示す。これは、この材料の室温テストで達することができる伸びより大きいが、この破断伸びは通常の超塑性挙動ということはできない。このことは、低濃度合金AA3003は、超塑性合金ではないことを示している。
【0097】
クラッド試料については、特別高い破断伸びを示す試料はない。実験は、許容できる成形挙動(または加工挙動)を示すには、圧延方向に少なくとも250%伸びを達成する必要があることを示しているという前提において、超塑性複合材として適切なクラッドパッケージはないと結論づけることができる。このことを基に、クラッド材料が超塑性合金ではない超塑性複合材を得るために許容できる最大クラッド比率は複合材全体の30%より小さいということができる。
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
伸びの値は、クラッド比が64〜30%の間で予想外に変化するが(すなわち、中間のクラッド厚さでの値は最も薄い厚さ(30%)より)、これは、この試験に用いたラボスケールの方法で一定のクラッド厚さを得ることの問題に起因するといえる(注:例えば、最も薄い厚さにおいて、上面側のクラッド層と下面側のクラッド層との間の差は0.54mm、これらの値は、それぞれの場合の3つの引張り試験サンプルについての平均ではあるが)。
【0101】
このセクションで研究したクラッド厚さは、非超塑性と超塑性挙動との間の遷移点を示すのには厚過ぎた。これらの結果は、これらの合金について、厚さが30%(すなわち、2つのクラッド層において、片側あたり15%)まで下がっても、非超塑性挙動が残存することを示している。以前のテストは、15%(片側あたり7.5%)の厚さで超塑性挙動を示すことを明らかにしており、従って遷移は、これら特性の間であり、加工品の厚さの15%〜25%または15%〜20%で起こり得て、加工品の厚さの20%〜25%の範囲でより起こり得る。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明の用いる同時鋳造装置の例を示す部分断面正面図である。
【図2】図2は、同時鋳造する材料間の接触面を示す、図1の装置の部分拡大図である。
【図3】図3、本発明の1つの可能な実施形態に係る圧延シート物品を示す概略図(スケッチ)である。
【図4】図4は、温度に対する引張り試験の平均伸びを示すグラフである。
【図5】図5(a)と5(b)は、実験により製造した金属加工品の縦断面の光学顕微鏡写真である(図5(a)は450℃で試験した1.245mmの試料の1つである。この顕微鏡写真は破断面から1cm離れた部分で撮影した。クラッドが損傷なく残っていることに留意されたい。図5(b)は525℃で試験した試料の1つである。コアの中のクラッド界面に近いボイドがクラッドの破壊を始動させているようである)。
【図6】図6は、「しわくちゃの(rumpled)」のテクスチャーを示すクラッド表面のSEM写真である。
【図7】図7は、圧延クラッド工程の前の実験的なクラッド集合体(clad assembly)の概略図である。
【図8】図8は、温度対時間および温度対%Mgのプロットである。
【図9】図9は、異なる時間での固溶体中のMg量のプロットである。
【図10】図10はMg量の距離に対するプロットである。
【図11】図11(a)および11(b)は、距離に対するMg量またはMg2Si量のプロットである。
【図12】図12は距離に対する固溶体中のMg量のプロットである。
【図13】図13(a)および13(b)は、Mg量またはMg2Si量と距離とのプロットである。
【図14】図14(a)、14(b)および14(c)は、Siを含有するクラッドパッケージの顕微鏡写真であり、(a)圧延のまま、(b)350℃で30分後、および(c)500℃で2時間後である。
【図15】図15は、クラッドの表面からの距離に対するMg量のプロットである。
【図16(a)】図16(a)および16(b)は、距離に対するMg濃度と金属間化合物濃度のプロットである。
【図16(b)】図16(a)および16(b)は、距離に対するMg濃度と金属間化合物濃度のプロットである。
【図17】図17(a)、17(b)および17(c)は、Cu含有クラッドパッケージの顕微鏡写真であり、(a)圧延のまま、(b)350℃で30分後、および(c)500℃で2時間後である。
【図18】図18は、各種温度を経た後のMg量のプロファイルである。
【図19】図19(a)および19(b)は、(a)純アルミクラッド層、および(b)Al−0.6重量%Siクラッド層の表面からの距離に対する溶体中のMg濃度のプロットである(プロットは、プロットに示す、調査したそれぞれのクラッドの厚さについてのシミュレーション結果を示す)。
【図20】図20は、クラッド層の厚さに対する、表面の溶体中のMg濃度のプロットであり純AlについてとAl−0.6重量%Si合金についての両方の結果を示す(Siを含むクラッドは、同じ許容できる最大Mg量を得るのにより薄くてよい)。
【技術分野】
【0001】
本発明は超塑性合金、とりわけ主にアルミニウムより造られた超塑性合金に関する。より詳細には、本発明はその表面特性を改善および改良するための超塑性合金のクラッド(またはクラッディング、cladding)に関する。
【背景技術】
【0002】
超塑性合金は、100%より小さい、結晶金属の通常の破断点をはるかに超えて変形することが可能な結晶金属であり、高温での引張り変形の際に、少なくとも200%しばしば1000%より大きく伸ばすことができる。時々、「向上した塑性(enhanced plasticity)」を有する金属について言及される。このような金属が通常、「超塑性」金属の領域の下限の変形特性を有しているが、しかし同様の従来の金属よりもさらに引き伸ばすことが可能である。本明細書の議論は超塑性および向上した塑性の両方を有する金属を含むことを理解すべきである。便宜上、以下において、両方の種類の金属を意味するのに用語「超塑性(superplastic)」のみを使用する。
【0003】
超塑性金属は張力下で引っ張ると破壊をもたらす「ネック」(即ち、局所的な狭窄)を形成するよりも、極めて均一に伸びて薄くなる。ネックを形成する代わりに、連続クラックが成長するまでゆっくりとした小さな内部ボイドの合体により、金属は最終的に破断する。このような金属は通常、結晶粒界をピンニングし、高温で微細粒組織を維持するよう機能する、熱的に安定な微細粒子の微細な分散を伴う、微細結晶粒組織(例えば10μmより小さい)を有している。「粒界すべり」として知られる特徴的な変形モードを起こさせるために微細粒サイズは不可欠である。この特性を示すアルミニウム合金は、総じてマグネシウム、高い濃度の銅または亜鉛のような合金元素を有している。一般的な例は、AA5083、AA7075およびカリフォルニア州リバーサイドのSuperform USA社により製造されるSupral(登録商標)合金(通常、Al、6重量%Cu、0.4重量%Zr)のような合金である。AA5000シリーズのMg含有合金は、自動車部品の製造用には最も普及している。AA7000シリーズ(より少ないMgを含み、例えば1.9重量%と低く、しかし高濃度のZn)の超塑性合金は、現状では航空宇宙用途ではより普及している材料である。
【0004】
超塑性合金は、ガスを用いまたはフォーミングツールにより、そしてしばしば金型の支援により、圧力を付与することにより複雑形状の物品を形成するのに用いることができる(例えば、高速塑性成形(quick plastic forming)(QPF)法により)。アルミニウムとチタンの部品は航空宇宙用にしばしば超塑性で形成され、自動車用途も増加している。
【0005】
超塑性状態は、高温、通常、用いる合金の絶対温度による融点の半分より高く、そしてアルミニウムベースの合金では、しばしば500℃付近(そして概して400℃より高い)で実現する。不運にも、市販のMg含有合金は、その高いMg含有量のために、このような工程および使用中もまた、(とりわけ)酸化および/または表面劣化し易くなる。これらの合金はまた、高温での加工(または成形、forming)工程の後、自動車用等の部品を構成するように一緒に接合することもまた、困難となりうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、このような問題を回避するように超塑性合金を改善または改良する要望がある。
【0007】
1983年10月25に発行されたRobert M. Johnsonの米国特許第4,411,962号は、超塑性特性を残しながら高い強度を達成するように、1以上の非超塑性材料の層と冶金学的な結合(metallurgical bond)した超塑性材料の1以上の層を含む金属ラミネートの形成を開示している。層の結合は、拡散接合(当該金属の融点よりも低い温度に加熱する)または圧延接合(複数のシートをその厚さを減少し、結合を促進するように一緒に圧延する)により実施する。
【0008】
1965年9月21日発行のGrover C. Robinsonの米国特許公報第3,206,808号は、アルミニウムおよびアルミニウム合金のインゴットの連続鋳造または半連続鋳造に関する。しかしながら、超塑性合金の処理を含んでいない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的な実施形態は、クラッドシート物品の製造方法を提供する。その製造方法は、超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に、好ましくは同時鋳造(または同時キャスティング、co-casting)により、クラッド層(またはクラッド、またはクラッディング、cladding)を設け、クラッドインゴットを形成する工程と、クラッドインゴットを圧延し、コア層と少なくとも1つのクラッド層(またはクラッディング層、cladding layer)とを有するシート物品を製造する工程とを含む。コアインゴットに用いる合金は物品の超塑性加工に必要な温度においてコア層の内部からコア層の外部に拡散し、物品の外面に存在する場合に表面劣化を起こす元素を含む。クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素のクラッド層内部の拡散を低減する元素を含むように選択される。
【0010】
本発明の別の例示的な実施形態は、超塑性特性を有する金属のコア層と、コア層の少なくとも1つの表面に設けられた、好ましくは同時鋳造による、金属のクラッド層とを含む、超塑性特性を有するクラッドシート物品であって、コア層が、超塑性加工(または超塑性成形、superplastic forming temperature)の温度でコア層の中心から表面に拡散しこれにより表面を劣化させる元素を含むクラッドシートを提供する。クラッド層はコア層の前記元素と反応して前記元素がクラッド層を通って拡散する能力を低減する元素を含む。
【0011】
本発明のさらに別の例示的な実施形態においては、クラッドインゴットの製造方法を提供する。この製造方法は、超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設けクラッドインゴットを形成する工程を含む製造方法であって、コアインゴットの合金は、圧延によりクラッドインゴットから物品を超塑性加工するのに必要な温度において、コア層の内部から表面に拡散し、物品の外面に存在すると表面劣化を引き起こす元素を含み、クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むように選択される。
【0012】
さらに別の例示的な実施形態においては、超塑性特性を有する金属のコアと、コアの少なくとも1つの面上の金属のクラッド層と含む超塑性特性を有するクラッドシート用インゴットであって、コアが、超塑性加工の温度でコアの内部から表面に拡散し、これによって圧延によりクラッドインゴットから製造するシート物品の表面特性を悪化させる元素を含み、前記クラッド層が、コアの前記元素と反応し前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むクラッドシート用インゴットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、高温で超塑性を示すコア層と、少なくとも1つの面上の異なる金属によるクラッド層であって、コア層からクラッド物品の表面への1以上の元素の拡散により生じる、得られた金属加工品の表面の問題または劣化を低減又はなくすクラッド層とを有するシート金属物品の製造を可能にする。
【0014】
超塑性金属の表面の問題または劣化は、概して、酸化若しくは他の反応を受け得る、または他の金属との付着が困難になり得る少なくとも1つの反応性の合金元素の金属の内部から表面への拡散の結果であることが見出されている。アルミニウム合金に用いるいくつかの合金元素は金属の中をゆっくりとのみ拡散するが、しかし他の合金元素(例えば、マグネシウムおよび亜鉛)は極めて速く拡散する。それは、概して速い拡散速度を有する金属であり、とりわけ、顕著に酸化され易く最終製品に表面問題をもたらす金属である。
【0015】
超塑性合金が高温での加工工程の際に、高速で拡散し迅速に表面に移動する元素を含む場合、コアから急速に拡散する元素は薄いコーティング層に迅速に浸透および拡散し、コーティングした物品の表面に到達し、またしても表面劣化および関連する問題を生じることから、異なる合金(反応性の低い)による超塑性合金の外面の単なるコーティングまたはクラッドはこれら問題を回避できない。
【0016】
高速で拡散する元素は溶媒金属の自己拡散より高速で拡散する元素と定義することが可能である。アルミニウム中のマグネシウムは、この一例であり、Si中のCuが他の例である。実用的な見地から、本発明の目的においては、高温での加工工程の際にクラッド層を通り表面に拡散可能な如何なる元素も「高速拡散」元素と考えることが可能である。以下の表1は、アルミ中の各種の化学種(species)について温度の関数として拡散率(または拡散性、diffusivity)を計算するのに必要なデータを提供する。
【0017】
【表1】
【0018】
表1のデータは、拡散に適用されるアレニウスの速度式:D(T)=D0exp(−Q/RT)のパラメータを示す。このデータは、MgおよびZnが、それらの指数パラメータ(Q)がAlのそれよりも小さく、従って十分に高い温度でAlよりも速く拡散する傾向があるであろう「高速拡散元素(拡散剤、diffuser)」である。Feは例外的に遅い拡散元素であることに留意すべきである。
【0019】
本発明において、コーティングまたはクラッド層が、超塑性コアからクラッド層の外面まで高速に拡散する元素の拡散を阻害する元素をドープ(すなわち含む)され、従って、コーティングまたはクラッド層が加工品のコアから表面への元素の拡散を阻止するまたは顕著に低減する場合、改善できることが見出されている。この阻止作用は、クラッド層のドーピング元素とコアの高速拡散元素との間の反応による、析出の形態(例えばS相粒子)の金属間化合物の形成の結果であろう。迅速に拡散する元素は、続いて、金属の加工および形成の間、非常にゆっくりと拡散するまたはその場に完全に固定して残る別の形態に変わる。
【0020】
一例として、自動車用に用いられる多くの超塑性アルミニウム合金は、超塑性金属の加工温度において金属コアおよび存在し得る任意の金属クラッド層を通り急速に拡散する比較的多くのマグネシウム(通常少なくとも約4重量%、およびしばしば4.0〜4.9重量%Mg)を含んでいる。マグネシウムは表面に存在する場合、非常に酸化され易い。しかしながら、シリコンおよび/または銅を含むクラッド層は、クラッド層を介した加工品の外面へのマグネシウムの拡散を阻止するのに非常に効果的で、従って向上した表面特性を備えた金属物品を提供できることが見出されている。シリコンはマグネシウムと反応してMg2Siを形成することから効果的であると考えられている。従って、マグネシウムはシリコンを含むクラッド層に拡散し、高マグネシウムコアに被覆されたクラッド層にMg2Siを形成する。クラッド層は、その後、元のクラッド層の特性と異なる特性を有することができる。銅をクラッド層のドーパントとして用いる場合、Al2CuMgおよびAl6CuMg4を形成し得ると考えられている。元々は固溶体中のMg原子が一旦、このような金属間化合物粒子中にトラップされると、クラッド層を通って外面にもはや拡散しなくなる。しかしながら、銅がより高い温度では固溶体に溶けることから、銅の阻止効果は加工品が約400℃より低い温度で超塑性により形成された場合のみ観察され得ることに留意すべきである。
【0021】
クラッド層に必要なシリコンおよび/または銅の量は少なくとも、Mgのマイグレーション(または移動、migration)を阻止する所望の効果を得る最少量である。実際上は、クラッド層は好ましくは、0.3重量%以上のSiおよび/または0.3重量%以上の銅を含むべきであることが見出されている。Siについて、好ましい範囲は0.5〜2.0重量%であり、より好ましい範囲は0.5〜1.0重量%である。銅については、好ましい範囲は0.3〜1.3重量%である。元素Siおよび/またはCuは、もちろん、多くのアルミニウム合金中に存在している。また本発明のアルミニウム合金は他の元素を含んでよいが、しかし急速に拡散し表面の問題を引き起こす元素は、当然ながら含まないまたは極めて少量のみ含むべきである。例えば、最小限の表面劣化しかもたらさないことから、物品表面のMg量は最大0.8重量%まで許容できるがしかし、最も好ましくは、Mg量は約0.5重量%以下であり、理想的にはゼロである。クラッド層の金属はこのことを考慮しく選択しなければならない。
【0022】
例えばAA7xxxシリーズの合金のように、主たる合金元素として顕著な量の亜鉛を含む超塑性合金の場合、亜鉛の高い酸化ポテンシャルに関わらず、表面にZnOを形成する亜鉛の酸化は、重大な問題でないことが見出されている。ZnはAlよりも陰極性であるが、これは概して、迅速にアルミニウムの上に形成する酸化物(Al2O3)の不動態効果により緩和される。それにもかかわらず、加工工程の際にAl2O3層の不動態化は、新表面の連続した露出のために減じられる。この場合、AlはZnに対して効果的に陽極性を維持する。高温での超塑性加工に一般的であるが、しかしながら別の現象が潜在的な悪影響、主に亜鉛の揮発性を有しうる。これは、合金の表面に存在する亜鉛が昇華または蒸発し得ることを意味する。これは、金属が高温で十分に長時間保持された場合、亜鉛の表面での欠乏をもたらす。この現象を考慮すると、クラッド層(必要によりZnのマイグレーションを防止するドーパントを含む)を超塑性7xxx合金に適用することは、昇華または蒸発による亜鉛の減少が高温での加工工程の際に有害な程度で起こる場合に、これを防止することで得られた物品に利点をもたらす。
【0023】
7xxx合金でのZnの存在に加えて、Mgもまた、適度な量(例えば少なくとも1.9重量%)存在することが可能で、強度向上に顕著に寄与するAl3Mg4Zn3金属間化合物を形成させる。例えば、超塑性挙動を示し得るAA7075合金は、2.1〜2.9重量%のMgを含む。このMg量は表面に形成したMgOが成形品に有害となるのに十分に多い量である。このことに基づいて、従って、クラッドを被覆し、MgOの形成を防止することは適切であり、また望ましい。
【0024】
任意の適切な手段により、クラッド層を超塑性合金コアに被覆してよいが、しかし最も好ましくは、超塑性金属合金より成るコアインゴットの表面にクラッドする金属を同時鋳造することにより被覆する。この方法は、Andersonらによる2005年1月20日発行の米国特許公開公報第2005/0011630号(この公開公報の開示は参照することにより明確に本明細書に含まれる。)に記載の同時鋳造方法および装置を用いて実施する場合、特に効果的である。この方法および装置は、コアインゴットおよび少なくとも1つのクラッド層を形成するように、および金属層の間に実質的に連続した冶金学的な結合を生じるように金属を同時鋳造することを可能にする。
【0025】
添付の図の図1の正面部分断面図は、Andersonらの公報記載の同時鋳造モールドアセンブリ(または集合体、assembly)と類似の同時鋳造モールドアセンブリである。これは、冷却水13の流れ出るウォータジャケット12の一部を形成するモールド壁11を有するモールドアセンブリ10を示す。
【0026】
モールドの入口部分は隔壁14(または仕切り壁、divider wall)(「チル」という)により2つのフィードチャンバー(または供給室)に分割されている。溶融金属供給ノズル15は、第1の合金を1つのフィードチャンバーに供給し、第2の金属供給ノズル16は、第2の合金を第2のフィードチャンバーに供給する。垂直に可動なボトムブロックユニット17は、鋳造の前に形成しモールド出口と適合しており、その後インゴットを形成するように下げられながら、複合インゴットを支持する。
【0027】
クラッド層を形成するように向けられたノズル16より供給される金属23の本体は、コアを形成するように向けられたノズル15より供給される金属20の本体よりもモールドの中で高いレベルに維持される(これは、高濃度に合金化したコア、及びより低濃度のクラッド合金に好ましい配置である。)。隔壁14は、(図示しない手段により)冷却され、クラッド層の金属は、コアの金属20と接触する前に、自立する(self-supporting)半凝固表面25を形成する。実際、より明確に図2に示すように、液体と固体との間の領域19(すなわち、金属の液相線と固相線との間で、しばしばマッシー領域(mushy zone)または半凝固領域と呼ばれる)は隔壁14直下の金属23に存在することができる。このマッシー領域または半凝固領域より下は、固体金属合金であり、液体金属はこのゾーンより上に存在する。コアのために供給される液体金属20もまた下に固体金属を上に液体金属を伴うマッシー領域22の構成を有する。
【0028】
先の特許出願に開示されているように、隔壁14の温度は、隔壁14の下端より下方の自立表面25の温度を制御する冷却された界面を形成するように所定の目標温度に維持されている。そして、第2のチャンバー内の金属20の上面は、好ましくは隔壁14の下端より下方の位置に維持され、同時に金属20の表面34が、表面25の温度が金属23の固相線温度と液相線温度の間となる位置で自立表面25と接触するように、自立表面25の温度は維持される。通常、表面34は隔壁14の下端より僅かに下方の位置、概して、下端より約2〜約20mm以内に維持される。従って、2つの合金の流れの間に形成される界面は、この位置で2つの金属合金の間に余分な合金の混合を生じることなく非常に強く、酸化物のない冶金学的な結合を形成する。
【0029】
本発明において、クラッド金属は、同時鋳造による超塑性合金より成る概して矩形のインゴットの1つ及び好ましくは両方の圧延面に鋳造される。コアの両面にクラッドする必要がある場合、図1の装置はモールドの両サイドに隔壁14を備えるように改良されるであろう。形成後、得られたクラッドインゴットは、通常の熱間および/または冷間圧延され、自動車部品のような所望の製品の製造に適したクラッドシートが造られる。
【0030】
圧延前(および圧延後)のクラッド層の超塑性コアに対する相対厚さ、および最終圧延シート物品のクラッド層の絶対厚さは、幾つかの或いは全てのコア/クラッド合金の組み合わせにとって重要であり得る。クラッドに用いる合金それ自身は通常超塑性を示さないことから、クラッド層をコアに対して非常に厚くして、得られた加工品の所望の超塑性特性が悪影響を受ける(または全く消失する)ことと、クラッド層を非常に薄くしてコアから急速に拡散する元素のマイグレーションを効果的に防止できないこととの間で必要とされるバランスがあるであろう。適切な厚さは異なる合金の組み合わせにより変わり得る。
【0031】
クラッド層は適切な厚さの範囲内にあれば、クラックの発生または付着の損失なしに、コアと同様に伸びるであろうがしかし、顕著により厚い層が用いられた場合には、このようにはならないであろう。少なくとも高Mg合金について、クラッド層全体の厚さが、クラッドインゴット全体の厚さまたは圧延シート物品全体の厚さの30%以上だと、クラッド層はコアが伸びるのと同じようには伸びないことが見出されている。コアの超塑性伸びに充分に追随するクラッド層から追随しないクラッド層への遷移は、おそらく徐々に(すなわち、必要となる伸びの程度に応じて)起こる。そして、クラッド加工品の全体厚さに対すクラッド層または両方のクラッド層の全体厚さが15〜25%、より好ましくは15〜20%であれば、適切な特性を示すと考えられている。概して、単数または複数のクラッド層の全体厚さが15%以下であれば、このクラッド層は充分に超塑性伸びに追従する。これは、1つのクラッド層のみを有するクラッド加工品については、クラッド層の厚さは、クラッド加工品全体の厚さの30%より薄く、好ましくは15〜25%の範囲の値より薄く、より好ましくは15〜25%の範囲の値より薄く、理想的には15%以下でなければならないことを意味する。2つのクラッド層(同じ厚さの)を有する加工品については、それぞれの層の厚さが、15%より薄く、好ましくは7.5〜12.5%の範囲の値より薄く、より好ましくは7.5〜10%の範囲の値より薄く、理想的には7.5%以下でなければならない(コアとクラッド層の合計厚さを基にして)。単一のクラッド層を有する加工品について、コアの厚さが925マイクロメートルの場合、クラッド層は理想的には約75マイクロメートルの厚さを有する。
【0032】
コアの元素の拡散を防止するのに必要な最小の厚さは、繰りかえすが、異なる合金の組み合わせ、およびコア層の可能な厚さの違いにより異なる。しかしながら、少なくとも高いレベルMgを含む超塑性合金、およびSiまたはCuを含むクラッド層については、最小の好ましい厚さは約50μm(それぞれのクラッド層について)であり、より好ましくは少なくとも75μmである。圧延クラッドシート物品が約250μmの時である。好ましい範囲は50〜500μmであり、より好ましくは75〜150μmである。クラッド層が厚くなる程、表面への拡散がより防止されるため、純粋な拡散の観点からは、上限は存在しない。
【0033】
好ましい寸法は、概略図(または、スケッチ)の形態で添付の図の図3に示す。この図は、圧延シート物品のコアBの両側にクラッド層AおよびCがある場合を示している。1つのクラッド層のみを有する圧延物品については、(A+B)に対するAの比率は30%以下である。
【0034】
クラッド層に用いる金属自身は超塑性特性を有してもよいが、しかし必須ではなく、実際通常は有していない。
【実施例】
【0035】
・実験1
本セクションではクラッド材の高温特性を評価するように実施した実験およびコンピュータシミュレーションの詳細を示す。引張り試験ならびに内部拡散実験およびシミュレーションを行った。機械的試験のための材料はAA5083コア上の低濃度AA3003クラッド層である。この材料を最終厚さ1.245mmまで商業的に冷間圧延し、また1.9mm中間厚さから付加的な試料を得た。試料を450℃〜525℃の温度範囲で引張りにより変形した。全ての温度で、両方の厚さのサンプルとも300%以上の伸びを示した。最大の伸びは500℃で観察された。
【0036】
拡散の研究(または調査)を行い、Mgがクラッド層を通り表面に拡散するのを抑制するようにSiまたはCuを用いることの実現可能性を評価した。すでに述べたように、SiはMg2Siの形成によりMgの拡散を遅くすることができ、一方Al2CuMgおよびAl6CuMg4の形成を促進することができる。この実現可能性をコアAA5083合金とAl−1重量%CuもしくはAl−0.5重量%Siのクラッド層より成るモデル材料を用いて実験的に調査した。同様の合金の組み合わせは、Thermo−Calc of Stockholm Technology Park,(Bjornnasvagen 21, SE-113 47 Stockholm Sweden)により製造されたDICTRAソフトウエアパッケージを用いて数学モデルにより研究した。実験およびコンピュータシミュレーションは、Si含有合金は575℃までの熱処理でMg2Siの形成によりMgの拡散を低減し、一方Cu含有クラッドは最高温度485℃までの場合のみ、より効果的であり得ることを示している。
【0037】
同時鋳造技術により容易に製造できるクラッド加工品(または製品、product)の提案されている用途の1つは、優れた表面品質を維持したままで優れた高温(〜500℃)加工性を示すアルミニウムシートである。理想的な表面品質は、滑らかなブライト表面(または光沢のある表面、bright surface)である。ブライト表面を得るように、表面でのMgOの形成を抑制しなければならない。自動車用途の高温加工性の標準合金はAA5083、とりわけその低Fe、高Mn改良品である。この種類の合金のMg量は通常4.75重量%である。このような高Mn含有合金の表面への素早いMgの拡散に起因する、表面のMgOの顕著な量の形成はよく知られた現象である。
【0038】
上述の同時鋳造技術は、高Mg含有合金を少量のMgを含むまたはMgを含まない合金によりクラッドすることを可能にし、従ってこれらのクラッド層は拡散の障壁として機能して、Mgが表面に到達して審美的に魅力のないMgOの形成を防止する。表面酸化物により生ずる美しくない外観に加え、酸化物は、より優れた接合および塗装特性を生ずるように、形成後に処理されなければならない。従って、MgOが表面で成長するのを防止することは自動車産業にとって製造コストを低減する。
【0039】
このセクションは2つの部分に分かれている。最初のセクションは、機械的性質およびこれら条件で成長した微細構造を説明している。第2セクションでは金属間化合物の生成を促進することによりMgの拡散を抑制するようにSiまたはCuを用いることの実現可能性を評価するために実施した実験およびコンピュータシミュレーションを示す。
【0040】
PART1 機械的性質
実験方法:
この研究に用いた材料は、商業用生産設備を用いて製造し、低濃度(または希薄)合金AA3003とAA5083規格内の改良材のコアとにより鋳造した。コア合金およびクラッド合金の化学組成を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
鋳造の場所から、インゴットを熱間圧延のために圧延工場に移動した。熱間圧延の前に525℃で33時間、予熱および加熱処理を行った。インゴットを厚さ6.5mmに熱間圧延した。熱間圧延第1パスでの入口温度は521℃であり、冷却時の最終温度は約300℃であった(コイルの温度は内側層と外側層で変わった。)。そして続いて、複数パスで1.245mmまで冷間圧延した。最終厚さおよび中間厚さ1.9mmでサンプルを得た。これら厚さの冷間での圧下率は、それぞれ81%および71%であった。
【0043】
付加的にAA5086の規格内に入る、従来のAA5083の改良材(または変更材、variant)の実験用圧延試料から付加的なサンプルを造った。このサンプルの化学組成は以下の図3に示されている。このサンプルは商業的に生産された厚さ0.5インチのプレートとして受け入れた。このサンプルは、開始温度450℃で厚さ3mmまでラボ(または実験用、laboratory)圧延した。熱間圧延の終わりでの試料温度は記録しなかった。室温に冷却後、冷間のトータルの圧下率が75%となる、0.75mmに冷間圧延した。
【0044】
このようにして得られたサンプルから、引張り軸が圧延方向と平行になるよう引張り試験試料を準備した。引張り試験試料は、ASTM E21−05「Standard Test Method for Elevated Temperature Tests of Metallic Materials(金属材料の高温引張り試験の標準試験方法)」に従って、CNC加工により作製した。
【0045】
これにより、ビデオ式伸び計によりモニターされる0.5インチ間隔の基準マークを試料表面に描くことができるように、引張り試験試料に0.75インチの機械加工されたゲージ長(または評点距離)を与える。
【0046】
本研究で用いる加熱方法は、試料チャンバーを所望の温度に予熱する必要があった。試料挿入時にこの炉において設定温度(±5℃以内)に戻るのに要した時間を記録した。試料を、この温度でさらに6時間再結晶した。そして、引張り試験を開始した。
【0047】
引張り試験は、450℃、475℃、500℃および525℃で行った。それぞれの温度で、商業的に生産した2組の材料について、3回引張り試験を行った。
【0048】
初期歪み速度が5×10−3/秒となるように、一定のクロスヘッド速度で引張り試験を行った。引張り試験は破断するまで行い、破断伸びを記録した。
【0049】
続いて、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡とを用いて、変形した試料の金属組織の調査を行った。
【0050】
結果:
図4は全ての試験温度での3つの材料の平均破断伸びを示す。しかしながら、厚さ1.245mm材料について、525℃で試験した試料の1つが引張り試料の肩部(shoulder)付近で早期に破断し、これは平均に含まれていない。
【0051】
破断伸びは全て300%を超えており、さらにデータは、冷間の圧下率の増加が破断伸びを改善することを示している。
【0052】
図5(a)と5(b)は、2つの1.245mm試料の破断面近傍から取った縦断面の光学顕微鏡写真である。一方は、450℃で変形した試料から(図5(a))であり、他方は525℃(図5(b))で変形した試料である。コア材料でのボイドの形成を示しており、さらにクラッド層はほとんど損傷がないことを示している。クラッド層は、界面直下でコアにボイドを有する部分でとりわけ薄くなっている。
【0053】
図6は、破断面から約1cmの部分で試料の縦方向の稜線(edge)を示すサンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)像でしわくちゃの(rumpled)表面を示している。この図は、またクラッド/コア界面直下のコア材料のボイドに起因するらしい、クラッド層が破損している部位の2つの例も示している。
【0054】
機械的特性の考察および結論:
AA3003低濃度合金クラッド層を備えたAA5083コアより成るクラッド材料は、高温で高い引張り伸びを示す。データはさらに、超塑性特性を有しないにも関わらず、変形の際にクラッド層が損傷せずに残存することを示している。商業的に製造した材料の伸びは、高温での伸びに関し、ラボ製造した従来のAA5083合金と好都合に匹敵する。
【0055】
PART2 拡散シミュレーションおよび実験
数学モデル:
DICTRAアプリケーションはThermoCalcソフトウエアパッケージの一部であり、各種の合金元素の拡散に基づいて、ユーザーが濃度プロファイルを計算できる。第2相粒子の形成をシミュレートする能力があり、その濃度プロファイルも予想することができる。
【0056】
コンピュータシミュレーションでは、同じAA5083合金コアを備えた両方のクラッド合金を研究した。両方の場合の温度は、350℃(623K)または500℃(773K)に設定し、コアの組成は4.75重量%Mg、0.2Siおよび0.05Cuに設定した。この化学組成は一般的なAA5083合金である。他の合金添加剤Cr、FeおよびMnは非常にゆっくり拡散する元素であり拡散の予測に影響しないことから、本研究でではこれら元素を省略したことに留意されたい。Cuを含有している場合、クラッド層の組成は1重量%のCuを含むAlに設定し、Al/Si合金のクラッドの場合は、組成はAl−0.5重量%Siであった。モデル化したクラッド層の厚さは0.1mmであり、コアのそれは1.0mmであった。
【0057】
Siを含有する場合には、シミュレーションは2回行った。1回は、第2相析出物の形成を可能にし、2回目のシミュレーションでは、第2相析出物の形成を不可とした。Cuを含有する場合には、シミュレーションは全て析出物の形成を可能として行った。両方の温度におけるシミュレーション時間は、5、10,15および30分であった。最後に、それぞれの焼鈍温度について、25℃までの時間が20分になるように、指数関数的に減衰する冷却曲線をシミュレートすることにより室温への冷却の際の析出物の更なる析出について評価した。この種類の関数の冷却曲線は、熱した物体の室温への冷却条件として物理的に最も理にかなったものである。
【0058】
実験手順:
研究した2つの異なるクラッド材料はクラッド圧延により準備した。コア合金AA5083は、ダイレクトチル鋳造により準備し、このインゴットから1.5インチの厚さの部分を除去した。このスラブの長さは、6インチで幅8インチであった。0.15インチ幅の溝を上面のスラブの「頭部」に近いコア合金にその幅全体に沿って機械加工した。この合金の組成はセクション「A」で示したのと同一であり、その組成は表3に示してある。
【0059】
【表3】
【0060】
クラッド合金は、ブックモールドで厚さ1インチに鋳造した。これらブックモールドインゴットを500℃に加熱し、所望の厚さ0.15インチに圧延した。幅8インチ、長さ5.5インチのピースがこれより切り出され、コア合金に切り込まれた溝に適合するように、一方の端部を90°曲がるまで折り畳んだ。クラッド層が最初の圧延パスの間、コアに取り付けられた状態を維持することを確実にするように、3つの小さい溶接ビードがクラッドとコア溝との最先端に沿って作られた。1つは、それぞれの端部、1つは中央部に。この構成を概略的に図7に示す。図7では、数字81が切り込まれた溝を備えたコア材料を示し、数字82が溝に挿入された曲げられた端部を備えたクラッド材料を示し、数字83がクラッド層をコアに錨止めする(または結合する、tacking)溶接ビードを示す。クラッド層は厚さ0.15インチであり、コア層は厚さが1.5インチ、幅8インチ、長さ6インチであることに留意すべきである。
【0061】
所謂アセンブル(または組み立て)されたクラッドパッケージは炉中で500℃、30分間加熱され、そして最終厚さ1mmまで圧延される。最初のパスは、クラッド合金とコア合金との間の優れた冶金学的な結合を実現するように、ほんの低い圧下率で行う。一旦、優れた結合が実現すれば、1パス当たり、より大きな圧下率を実現することができる。クラッド圧延(roll caldding)工程の間、温度制御は行わなかった。
【0062】
試料は、圧延したシートから切り出し、350℃で30分または500℃で2時間焼鈍した。縦断面を光学顕微鏡観察のため用意した。これら試料の光学顕微鏡観察を行い、第2相粒子の形成を見出し、さらに蛍光X線を用いることにより、走査型電子顕微鏡を用いて化学組成プロファイルを決定した。組成の測定は、クラッドの表面からコア材料の内部100マイクロメートルまで5マイクロメートル毎に行った。
【0063】
結果と考察:
Si含有クラッドパッケージのコンピュータシミュレーションを図8等に示す。
【0064】
図8は、500℃の等温焼鈍を15分およびその後の室温までの冷却について行ったシミュレーションの時間−温度プロファイルの例を示す。他のケースの温度プロファイルは同じ冷却曲線であるが、しかし異なる等温焼鈍時間を有する。
【0065】
図9は、500℃で異なる焼鈍時間での、析出を許さないシミュレーションにおけるMgの組成プロファイルを示す。すなわち、全ての合金元素は固溶体中に残存すると仮定されている。プロットしたプロファイルは、室温への冷却の終了時のものである。Mg量は固溶体中の量である。
【0066】
図10は、500℃で15分間の場合の組成プロファイルについて、室温までの冷却の前後での比較である。冷却完了時と500℃での等温焼鈍完了時を比べると組成プロファイルに僅かな差しかないことに留意されたい。
【0067】
図11(a)は、Mg2Siの形成を可能とするシミュレーションでの固溶体中のMgの組成プロファイルを含む。Mg濃度のコア合金での降下が界面からかなり離れていることに留意されたい。これは、AA5083合金のMgとSiとが反応し、固溶体中のMgとSi濃度が減少したことによる。さらに、クラッド層表面(x=0)のMg濃度が、上述の析出物を形成しない条件でシミュレートした場合と比べ顕著に低くなっていることを指摘できる。図11(b)はMg2Si含有量のプロファイルを示す。界面付近の鋭いピークは、多くの量のMg2Siを形成する、コアからの即時に利用可能なMgによるものである。さらに、クラッド層からコアへのいくらかのSiの拡散があり、これは、界面近傍のコア内でMg2Siに反映していることを指摘できる。
【0068】
図12は、500℃で15分間の場合の組成プロファイルについて、室温までの冷却の前後での比較である。図4にプロットした結果と対照的に、冷却はMgの固溶体中の含有量に影響を与えている。この違いは、温度が低下すると共にMgおよびSiの固溶度が減少し、Mg2Si粒子の形成が促進されることに起因する。
【0069】
図13(a)と13(b)とは、350℃で様々な時間について行ったシミュレーションの結果を含む。この温度でのより低い拡散性に起因して、500℃と比較して、Mgは、より短い範囲に拡散していることに留意されたい。Mg2Siの形成が可能なシミュレーションでのMgプロファイルは、再び減少した拡散距離を示している。
【0070】
Siを含有するクラッドパッケージの実験結果:
図14(a)、14(b)および14(c)は様々な条件のSi含有クラッド層を備えたクラッド圧延の実験系の顕微鏡写真を示す。図14(a)は、冷間圧延したままの状態のクラッド層とコアの界面領域近傍とを示す。図14(b)は、試料を350℃で30分間焼鈍した後の微細組織を示す。図14(c)は、500℃で2時間焼鈍した後の微細組織を示す。
【0071】
図14(a)から、界面に金属間化合物がないこと、およびクラッド圧延工程の際に優れた冶金学的な結合が生じていることを指摘できる。クラッド領域の小さい点(または染み、speck)はSi粒子である。350℃で30分後の微細組織は、界面からクラッド層に広がるMg2Si粒子を示している。Mg2Si粒子の幅は約1マイクロメートル以下であるが、しかしそれらの幾つかは界面からクラッド領域に数ミクロン延在している。500℃で2時間の焼鈍では、元の界面の近傍に非常に大きなMg2Siが形成される。さらに、クラッド/コア界面からクラッド層に約50マイクロメートル広がるSi欠乏領域が存在するようである。これは、粒子の列によりクラッド層の「上部」を区切っている。これは、DICTRAによる、界面から同程度の距離でのMg2Si含有量の「スパイク(または鋭いピーク、spike)」の予想と一致し得る。明確な欠乏領域は、視認できるSi粒子と対照的な、顕微鏡で見ることができない微細なMg2Si粒子を含むことができる。
【0072】
図15は、圧延のまま、350℃で30mm、500℃で2時間の場合における、SEMを用いたエネルギー分散型x線分光分析(EDXS)によるスポット分析により求めた、クラッド表面から距離に対するMg量のプロットである。Mgのプロファイルは、DICTRAを用いて計算した予測値とある程度一致する。Mg量の変化は、Mgを含んだ大きな粒子との相互作用に起因すると考えられる。すなわち、いくつかのスポット測定では、測定する体積が多くのMg2Si粒子を(部分的に)含んでおり、これにより平均Mg量を過大に評価している。さらに、EDXS法は固溶体中のMgとMg2Siのような金属間化合物中のMgを区別できない。
【0073】
Cuを含むクラッドパッケージのコンピュータシミュレーション:
ThermoCalcソフトウエアパッケージは、5重量%Mgおよび1重量%Cuを含む合金についてAl2CuMgのソルバス温度が485℃であり、一方Al6CuMg4のソルバス温度が238℃であることを示す。
【0074】
これらのシミュレーションに用いた時間−温度プロファイルはSi含有クラッド層のものと同一であった。図16(a)は、350℃で各種のシミュレートした時間後のMgプロファイルを比較している。これらのシミュレーションは金属間化合物粒子の形成を許容するソフトウエアーにより行われたことを思い出してほしい。冷却時のこれら粒子の形成に起因して、固溶体中のMgは、減少している。図16(b)は、350℃で30分後の予想される金属間化合物相の組成プロファイルを示す。
【0075】
Cuを含むクラッドパッケージの実験結果:
図17(a)、17(b)および17(c)は、様々な条件のSi含有クラッド層を備えたクラッド圧延の実験系の顕微鏡写真を示す。図17(a)は、冷間圧延したままの状態のクラッド層とコアの界面領域近傍とを示す。図17(b)は、試料を350℃で30分間焼鈍した後の微細組織を示す。図17(c)は、500℃で2時間焼鈍した後の微細組織を示す。
【0076】
Siを含有している場合と同様に、圧延のままの試料は、クラッド圧延工程で優れた冶金学的結合が実現されていることを示している。350℃で30mm焼鈍後は、クラッド合金とコア合金との間の界面に沿って形成している粒子が認められる。これは、Al−Cu−Mg金属間化合物を形成する反応が起こったことを示す。対照的に、500℃での焼鈍は第2相粒子を生じなかった。これは、この温度では1つの相(α−Al固溶体)のみが存在することを示す状態図から予測される。
【0077】
図18は、圧延のまま。350℃で30分および500℃で2時間の場合について、SEMを用いてEDXSスポット分析により求めた、クラッド表面距離に対するMg含有量のプロットを示す。Mgプロファイルは、DICTRAを用いて計算した予測値とある程度一致している。Mg量の差異(または変動、variation)は、Mgを含んだ大きな粒子との相互作用に起因すると考えられる。すなわち、いくつかのスポット測定では、測定する体積が多くの金属間化合物粒子を(部分的に)含んでおり、これにより平均Mg量を過大に評価している。さらに、EDXS法は固溶体中のMgとMg2SiまたはAl2CuMgのような金属間化合物中のMgを区別できない。
【0078】
結論:
Al中のMgのような高速拡散化学種と金属間化合物粒子を形成する合金添加剤のクラッド層での使用は、固溶体での高速拡散化学種の元素の濃度を減少させる。Al中のMgの場合、クラッド層中のSiまたはCuの存在は、クラッド表面での固溶体中のMg量を非常に低いレベルまで低減することが可能である。
【0079】
・実験2
この実験のレポートは、超塑性加工状態の間に、特定のコア/クラッド層合金において、MgOの形成を抑制するのに必要なクラッド層の最小厚さを評価するように、DICTRAソフトウエアパッケージを用いて、実施した拡散シミュレーションの結果を示す。
【0080】
シミュレーション条件:
この研究では2つのクラッドパッケージを考慮する。第1は4.8%Mgのコアを備えた純アルミニウムクラッド層を含む、第2はAl−0.6%Siのクラッド層とAl−4.8%Mgである同じ2元合金を含むコアとに特定する。これらは、AA5083のコアと、それぞれ0.6%のSiを含む3003低濃度合金クラッドまたは改良3xxx合金とを含むNovelisクラッドパッケージを近似する適切なモデル合金である。Mgの拡散を抑制する主たるメカニズムは余剰のSiであることから、このシミュレーションにおいて、他の全ての合金添加剤を排除するのは理にかなっている。FeおよびCrは主として、第2相中に「トラップされ」、MgまたはSiの拡散に顕著に貢献することはないであろう。
【0081】
シミュレーションは、表面でのMgO形成に対して、適切な保護を提供するクラッド層の最小厚さを決定するように構成した。このため。この合金の2つの組み合わせにおいて、クラッド層の厚さを変えて様々なシミュレーションを実施した。この研究のために選択したクラッド層の厚さは、10、25、50、75および100μmであった。システム(または系)の全体厚さは250μmに設定した。
【0082】
保護されているまたは保護されていないかを区別する基準は、表面での固溶体中のMg濃度が0.5重量%より少ない場合には、MgOは形成しないと仮定した。全てのシミュレーションは、500℃で15分の同じ時間および温度の条件とした。これは、加工品の超塑性加工の際に用いる条件に対する理にかなった上限である。
【0083】
結果および考察:
図19(a)および図19(b)は、(a)純粋アルミニウムクラッド層での距離(図19a)、および(b)Al−0.6重量%Siの場合の距離(図19(b))に対する固溶体中のMgのプロットを示す。プロットは、検討したそれぞれのクラッドの厚さにおける組成プロファイルを示す。
【0084】
図20は、検討した2つの材料におけるクラッドの厚さに対する表面での固溶体中のMgのプロットを示す。このプロットは、この問題についての設計基準(design criteria)であると考え得ることから、とりわけ有用である。表面で許容できる最少のMg量が0.5重量%であると定義されていることを前提に、点線は最小厚さについての設計基準を示す。このプロットより、純アルミニウムのクラッド層については、最小クラッド層厚さは66μmであり、一方、Siを含むクラッド層については54μmであると結論づけることができる。
【0085】
一見して、図19(b)と図11(a)の間に矛盾があるように見えるかもしれない。合金系が類似であるとしても、100μmのクラッド層を備え、500℃で15分焼鈍したシートを示すラインは、2つのプロットで顕著に異なっている。これは、図11(a)データは、焼鈍後室温まで冷却したシートについてのものであるのに対して、図19(b)のシートはまだ500℃であるからである。この曲線形状の違いを図12で強調した。そして、似ている部分同士を比較するとこれらの曲線は、実際、類似している。
【0086】
図20は、Siを含むクラッド層と含まないクラッド層とで、25〜50μmの領域でMg濃度の最大の差を示している。距離がこれらの値から上または下になる程、データ点は益々一転に集まる様である。これは、非常に厚さが薄いとMg2Siを形成するSiがそれ程多くなく、従ってMgの拡散挙動が両方の種類のクラッド層で類似するからである。非常に厚さが厚いと、何れの場合もクラッド層を横切る拡散距離が、Mgが表面に到達するのを防止する。
【0087】
・実験3
このセクションでは、超塑性コアの上にあり、高い伸びを生ずる非超塑性クラッド層の最大厚さを評価するように実施する実験について示す。結果は、調査した特定のコア/クラッドの合金の組み合わせにおいて許容できる最大クラッド比率は30%未満であることを意味している。
【0088】
緒言:
超塑性加工のためのクラッド加工品の使用についての以前の研究は、非超塑性層の許容できる含有量はかなり多く、複合体の全体組成の50%を超えることが示唆されている。実験は、これらの示唆の妥当性を評価するように実施した。
【0089】
実験手順:
本研究では2つの合金、主にAA5803の改良材および余分にSiを含むAA3003低濃度合金を調査した。これら2つの合金はブックモールドとして鋳造した。接合圧延(roll-bonding)によりクラッドパッケージを製造するのに用いる十分な材料を得るように、さらに高温で引張り特性を求めるように個々の合金を加工するように、それぞれについて、いくつかのブックモールドを鋳造した。ブックモールドは、それぞれ厚さ25.4mmで幅と長さが約150mm×約200mmであった。
【0090】
全てのブックモールドは、50℃/時間の加熱および冷却速度を用い、525℃で6時間均質化した。アセンブルした構造が熱間圧延の際の接合圧延によりクラッド材となるように、低濃度版であるAA3003合金の2つのフックモールドをAA5083改良材の1つのブックモールドに(それぞれの面に1つずつ)溶接した。所謂アセンブル構造は、従って厚さ76mm、幅と長さが150mm×200mmであった。
【0091】
そして、全てのサンプルを450℃に加熱し、5mmに圧延した。全てのサンプルが良好に圧延され、とりわけクラッドパッケージは最初のパスの際に極めて優れた結合を示し、この結合は熱間圧延を通じて維持されていた。複合材(クラッドパッケージ)での非超塑性合金の許容できる最大比率を評価するように、所望の割合のクラッド層を取り除けるようにクラッドパッケージのサンプルを皮剥ぎ(scalp)した。試料の幾ばくかの湾曲のため、皮剥ぎ工程は両側のクラッド層の厚さの良好なバランスを達成することはできなかった。図4は、最終厚さでの異なるサンプルのマイクロメートル単位でのクラッド層の厚さおよび全体に対する割合を示す、
【0092】
熱間圧延(および幾つかのクラッドサンプルにおいては皮剥ぎ)の後、全ての材料は、圧下率80%まで冷間圧延した。この程度の冷間圧延は、適当な合金では、再結晶の際に適切な結晶粒構造となり、超塑性挙動をもたらすことが広く知られている。AA5803の改良材、低濃度AA3003および皮剥をしないサンプルの最終厚さは、従って1mmであった。皮剥をした試料の最終厚さは取り除いたクラッド層の量に依存する、そしてその厚さを表4に示す。それぞれの材料の上面および下面のクラッド層の厚さをASTM B209「Standard Specification for Aluminum and Aluminum-Alloy Sheet and Plate」に記載の手順に従って顕微鏡中で測定した。
【0093】
最終厚さの材料から、ASTM E21−05「Standard Test Method for Elevated Temperature Tests of Metallic Materials(金属材料の高温引張り試験の標準試験方法)」に従って、圧延方向に平行に準備した。それぞれの最終厚さの材料から、3つの引張り試験試料を準備した。高温引張り試験は500℃で実施した。これは、超塑性AA5083改良合金が非常に高い伸びを得ることができる温度として知られている。試料は、高温で引張り試験機内におかれ、目標温度に戻るように12分間及び応力を負荷する前に完全に再結晶させるように幾ばくかの「均熱」時間放置した。引張り変形は、5×10−3/秒の初期歪速度で一定伸び速度で行った。これは、超塑性変形にとって適切な伸び速度であることが知られている。破断伸びは、破断後の試料の長さを測定することにより求めた。破断伸びは以下の式により計算する。
【0094】
【数1】
【0095】
ここでLは破断時の長さであり、lは元の長さである。
【0096】
結果及び考察:
表5は、全ての材料の破断伸びを示す。予想通りに、AA5803の改良材(または変更材、variant)は、伸びが300%を超える、超塑性挙動を示していることを指摘できる。低濃度(または希薄、dilute)AA3003材料は、100%より小さい伸びを示す。これは、この材料の室温テストで達することができる伸びより大きいが、この破断伸びは通常の超塑性挙動ということはできない。このことは、低濃度合金AA3003は、超塑性合金ではないことを示している。
【0097】
クラッド試料については、特別高い破断伸びを示す試料はない。実験は、許容できる成形挙動(または加工挙動)を示すには、圧延方向に少なくとも250%伸びを達成する必要があることを示しているという前提において、超塑性複合材として適切なクラッドパッケージはないと結論づけることができる。このことを基に、クラッド材料が超塑性合金ではない超塑性複合材を得るために許容できる最大クラッド比率は複合材全体の30%より小さいということができる。
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
伸びの値は、クラッド比が64〜30%の間で予想外に変化するが(すなわち、中間のクラッド厚さでの値は最も薄い厚さ(30%)より)、これは、この試験に用いたラボスケールの方法で一定のクラッド厚さを得ることの問題に起因するといえる(注:例えば、最も薄い厚さにおいて、上面側のクラッド層と下面側のクラッド層との間の差は0.54mm、これらの値は、それぞれの場合の3つの引張り試験サンプルについての平均ではあるが)。
【0101】
このセクションで研究したクラッド厚さは、非超塑性と超塑性挙動との間の遷移点を示すのには厚過ぎた。これらの結果は、これらの合金について、厚さが30%(すなわち、2つのクラッド層において、片側あたり15%)まで下がっても、非超塑性挙動が残存することを示している。以前のテストは、15%(片側あたり7.5%)の厚さで超塑性挙動を示すことを明らかにしており、従って遷移は、これら特性の間であり、加工品の厚さの15%〜25%または15%〜20%で起こり得て、加工品の厚さの20%〜25%の範囲でより起こり得る。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明の用いる同時鋳造装置の例を示す部分断面正面図である。
【図2】図2は、同時鋳造する材料間の接触面を示す、図1の装置の部分拡大図である。
【図3】図3、本発明の1つの可能な実施形態に係る圧延シート物品を示す概略図(スケッチ)である。
【図4】図4は、温度に対する引張り試験の平均伸びを示すグラフである。
【図5】図5(a)と5(b)は、実験により製造した金属加工品の縦断面の光学顕微鏡写真である(図5(a)は450℃で試験した1.245mmの試料の1つである。この顕微鏡写真は破断面から1cm離れた部分で撮影した。クラッドが損傷なく残っていることに留意されたい。図5(b)は525℃で試験した試料の1つである。コアの中のクラッド界面に近いボイドがクラッドの破壊を始動させているようである)。
【図6】図6は、「しわくちゃの(rumpled)」のテクスチャーを示すクラッド表面のSEM写真である。
【図7】図7は、圧延クラッド工程の前の実験的なクラッド集合体(clad assembly)の概略図である。
【図8】図8は、温度対時間および温度対%Mgのプロットである。
【図9】図9は、異なる時間での固溶体中のMg量のプロットである。
【図10】図10はMg量の距離に対するプロットである。
【図11】図11(a)および11(b)は、距離に対するMg量またはMg2Si量のプロットである。
【図12】図12は距離に対する固溶体中のMg量のプロットである。
【図13】図13(a)および13(b)は、Mg量またはMg2Si量と距離とのプロットである。
【図14】図14(a)、14(b)および14(c)は、Siを含有するクラッドパッケージの顕微鏡写真であり、(a)圧延のまま、(b)350℃で30分後、および(c)500℃で2時間後である。
【図15】図15は、クラッドの表面からの距離に対するMg量のプロットである。
【図16(a)】図16(a)および16(b)は、距離に対するMg濃度と金属間化合物濃度のプロットである。
【図16(b)】図16(a)および16(b)は、距離に対するMg濃度と金属間化合物濃度のプロットである。
【図17】図17(a)、17(b)および17(c)は、Cu含有クラッドパッケージの顕微鏡写真であり、(a)圧延のまま、(b)350℃で30分後、および(c)500℃で2時間後である。
【図18】図18は、各種温度を経た後のMg量のプロファイルである。
【図19】図19(a)および19(b)は、(a)純アルミクラッド層、および(b)Al−0.6重量%Siクラッド層の表面からの距離に対する溶体中のMg濃度のプロットである(プロットは、プロットに示す、調査したそれぞれのクラッドの厚さについてのシミュレーション結果を示す)。
【図20】図20は、クラッド層の厚さに対する、表面の溶体中のMg濃度のプロットであり純AlについてとAl−0.6重量%Si合金についての両方の結果を示す(Siを含むクラッドは、同じ許容できる最大Mg量を得るのにより薄くてよい)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設け、クラッドインゴットを形成する工程と、該クラッドインゴットを圧延し、コア層と少なくとも1つのクラッド層とを有するシート物品を製造する工程とを含む、クラッドシート物品の製造方法であって、
前記コアインゴットの前記合金は、前記物品の超塑性加工に必要な温度においてコア層の内部からコア層の外部に拡散し前記物品の外面に存在する場合に表面劣化を起こす元素を含み、前記クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素の前記クラッド層内部の拡散を低減する元素を含むように選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記コアの前記金属およびクラッド層の前記金属がアルミニウム合金から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記コアインゴットの前記元素がマグネシウムであり、前記クラッド層の前記元素がシリコンであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記シリコンが0.3重量%以上存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記シリコンが0.5〜2.0重量%存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記シリコンが0.5〜1.0重量%存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記コアに前記マグネシウムが少なくとも4重量%存在することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記コアが亜鉛を含み、該コアに前記マグネシウムが少なくとも1.9重量%存在することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが少なくとも50マイクロメートルであるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが75〜500マイクロメートルの範囲であるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが100〜150マイクロメートルの範囲であるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記同時鋳造工程が、クラッド層の金属がその固相線温度と液相線温度の間の温度にあるクラッド層の部分にコアインゴットを鋳造することにより為されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
コアインゴットの両方の圧延面に前記クラッド層を同時鋳造することを含む請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
超塑性特性を有する金属のコア層と、コア層の少なくとも1つの表面に同時鋳造された金属のクラッド層とを含む、超塑性特性を有するクラッドシート物品であって、
前記コア層が、超塑性加工の温度でコア層の中心から表面に拡散しこれにより前記物品の表面を劣化させる元素を含み、前記クラッド層は、コア層の前記元素と反応して前記元素がクラッド層を通って拡散する能力を低減する元素を含むことを特徴とするクラッドシート物品。
【請求項15】
前記クラッド層の前記金属と前記コアの前記金属とが前記クラッド層とコア層の同時鋳造による冶金学的結合を有することを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記クラッド層の前記金属と前記コア層の前記金属がアルミニウム合金であることを特徴とする請求項14または15に記載の物品。
【請求項17】
コア層の前記元素がマグネシウムであり、クラッド層の前記元素がシリコンであることを特徴とする請求項14、15または16に記載の物品。
【請求項18】
前記シリコンが0.3重量%以上存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記シリコンが0.5〜2.0重量%存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項20】
前記シリコンが0.5〜1.0重量%存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項21】
前記コアに前記マグネシウムが少なくとも4重量%存在することを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載の物品。
【請求項22】
前記コアが亜鉛を含み、該コアに前記マグネシウムが少なくとも1.9重量%存在することを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載の物品。
【請求項23】
前記クラッド層の厚さが少なくとも50マイクロメートルであることを特徴とする請求項14〜22記載の物品。
【請求項24】
前記物品は1つ面にクラッド層を有し、該クラッド層は前記物品の全体厚さの30%より薄い厚さであることを特徴とする請求項14〜23のいずれかに記載の物品。
【請求項25】
前記物品は前記コアの対向する2つの面にクラッド層を有することを特徴とする請求項14〜23のいずれかに記載の物品。
【請求項26】
前記クラッド層は前記物品の厚さの30%より薄い合計厚さであることを特徴とする請求項25に記載の物品。
【請求項27】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が少なくとも50マイクロメートルの厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項28】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が75〜500マイクロメートルの範囲の厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項29】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が100〜150マイクロメートルの範囲の厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項30】
マグネシウムを含む超塑性アルミニウム合金より成るシート物品の表面外観を改良する方法であって、その内部を通って前記マグネシウムが拡散するのを低減する量のシリコンを含むアルミニウム合金の層により前記超塑性合金の表面をクラッドする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設けクラッドインゴットを形成する工程を含むクラッドインゴットを製造方法であって、
コアインゴットの前記合金は、圧延によりク前記クラッドインゴットから物品を超塑性加工するのに必要な温度においてコア層の内部から表面に拡散し前記物品の外面に存在すると表面劣化を引き起こす元素を含み、前記クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素が前記クラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むように選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項32】
超塑性特性を有する金属のコアと、コアの少なくとも1つの面上の金属のクラッド層と含む超塑性特性を有するクラッドシート用インゴットであって、
前記コアが、超塑性加工の温度でコアの内部から表面に拡散しこれによって圧延により前記クラッドシート用インゴットから製造するシート物品の表面特性を悪化させる元素を含み、前記クラッド層が、コアの前記元素と反応し前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むことを特徴とするクラッドシート用インゴット。
【請求項1】
超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設け、クラッドインゴットを形成する工程と、該クラッドインゴットを圧延し、コア層と少なくとも1つのクラッド層とを有するシート物品を製造する工程とを含む、クラッドシート物品の製造方法であって、
前記コアインゴットの前記合金は、前記物品の超塑性加工に必要な温度においてコア層の内部からコア層の外部に拡散し前記物品の外面に存在する場合に表面劣化を起こす元素を含み、前記クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素の前記クラッド層内部の拡散を低減する元素を含むように選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記コアの前記金属およびクラッド層の前記金属がアルミニウム合金から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記コアインゴットの前記元素がマグネシウムであり、前記クラッド層の前記元素がシリコンであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記シリコンが0.3重量%以上存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記シリコンが0.5〜2.0重量%存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記シリコンが0.5〜1.0重量%存在することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記コアに前記マグネシウムが少なくとも4重量%存在することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記コアが亜鉛を含み、該コアに前記マグネシウムが少なくとも1.9重量%存在することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが少なくとも50マイクロメートルであるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが75〜500マイクロメートルの範囲であるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記圧延の後に前記シート物品の前記クラッド層の厚さが100〜150マイクロメートルの範囲であるように、前記圧延を行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記同時鋳造工程が、クラッド層の金属がその固相線温度と液相線温度の間の温度にあるクラッド層の部分にコアインゴットを鋳造することにより為されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
コアインゴットの両方の圧延面に前記クラッド層を同時鋳造することを含む請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
超塑性特性を有する金属のコア層と、コア層の少なくとも1つの表面に同時鋳造された金属のクラッド層とを含む、超塑性特性を有するクラッドシート物品であって、
前記コア層が、超塑性加工の温度でコア層の中心から表面に拡散しこれにより前記物品の表面を劣化させる元素を含み、前記クラッド層は、コア層の前記元素と反応して前記元素がクラッド層を通って拡散する能力を低減する元素を含むことを特徴とするクラッドシート物品。
【請求項15】
前記クラッド層の前記金属と前記コアの前記金属とが前記クラッド層とコア層の同時鋳造による冶金学的結合を有することを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記クラッド層の前記金属と前記コア層の前記金属がアルミニウム合金であることを特徴とする請求項14または15に記載の物品。
【請求項17】
コア層の前記元素がマグネシウムであり、クラッド層の前記元素がシリコンであることを特徴とする請求項14、15または16に記載の物品。
【請求項18】
前記シリコンが0.3重量%以上存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記シリコンが0.5〜2.0重量%存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項20】
前記シリコンが0.5〜1.0重量%存在することを特徴とする請求項17に記載の物品。
【請求項21】
前記コアに前記マグネシウムが少なくとも4重量%存在することを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載の物品。
【請求項22】
前記コアが亜鉛を含み、該コアに前記マグネシウムが少なくとも1.9重量%存在することを特徴とする請求項17〜20のいずれかに記載の物品。
【請求項23】
前記クラッド層の厚さが少なくとも50マイクロメートルであることを特徴とする請求項14〜22記載の物品。
【請求項24】
前記物品は1つ面にクラッド層を有し、該クラッド層は前記物品の全体厚さの30%より薄い厚さであることを特徴とする請求項14〜23のいずれかに記載の物品。
【請求項25】
前記物品は前記コアの対向する2つの面にクラッド層を有することを特徴とする請求項14〜23のいずれかに記載の物品。
【請求項26】
前記クラッド層は前記物品の厚さの30%より薄い合計厚さであることを特徴とする請求項25に記載の物品。
【請求項27】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が少なくとも50マイクロメートルの厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項28】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が75〜500マイクロメートルの範囲の厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項29】
前記クラッド層、または2つある場合はそれぞれのクラッド層が100〜150マイクロメートルの範囲の厚さであることを特徴とする請求項14〜26のいずれかに記載の物品。
【請求項30】
マグネシウムを含む超塑性アルミニウム合金より成るシート物品の表面外観を改良する方法であって、その内部を通って前記マグネシウムが拡散するのを低減する量のシリコンを含むアルミニウム合金の層により前記超塑性合金の表面をクラッドする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
超塑性特性を有する合金より成るコアインゴットの少なくとも1つの面に同時鋳造によりクラッド層を設けクラッドインゴットを形成する工程を含むクラッドインゴットを製造方法であって、
コアインゴットの前記合金は、圧延によりク前記クラッドインゴットから物品を超塑性加工するのに必要な温度においてコア層の内部から表面に拡散し前記物品の外面に存在すると表面劣化を引き起こす元素を含み、前記クラッド層は、コアの前記元素と相互作用しコアの前記元素が前記クラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むように選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項32】
超塑性特性を有する金属のコアと、コアの少なくとも1つの面上の金属のクラッド層と含む超塑性特性を有するクラッドシート用インゴットであって、
前記コアが、超塑性加工の温度でコアの内部から表面に拡散しこれによって圧延により前記クラッドシート用インゴットから製造するシート物品の表面特性を悪化させる元素を含み、前記クラッド層が、コアの前記元素と反応し前記元素がクラッド層を通って拡散するのを低減する元素を含むことを特徴とするクラッドシート用インゴット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14(a)】
【図14(b)】
【図14(c)】
【図15】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14(a)】
【図14(b)】
【図14(c)】
【図15】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図17(c)】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2009−533223(P2009−533223A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504539(P2009−504539)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000616
【国際公開番号】WO2007/118313
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000616
【国際公開番号】WO2007/118313
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】
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