説明

クランクシャフトの油路構造

【課題】ジャーナル部に供給する潤滑油の圧力変動を抑制するとともに、ジャーナル部の周囲の油膜厚さの変動を抑制することが可能なクランクシャフトの油路構造を提供する。
【解決手段】オイルポンプ11により圧送される潤滑油をクランクピン72の外周部に供給するための油路がクランクシャフト7内に設けられたクランクシャフト油路構造であって、油路は、ジャーナル部71を径方向に貫通する第1油路75と、この第1油路75とクランクピン72の外周部とを連通する第2油路76及び第3油路77と、を備え、第1油路75の開口部75aは、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、軸受メタル5同士の合わせ部55に対向する位置と、ジャーナル部71に爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのクランクピンに潤滑油を供給するための油路の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の動力源として用いられるエンジンは、シリンダ内におけるピストンの降下運動を、コンロッドを介してクランクシャフトに伝達することにより、回転運動に変換している。
クランクシャフト101は、一般に、図7に示すように、軸受メタル111を介してシリンダブロック120に軸支されて主回転軸を構成するジャーナル部102と、ジャーナル部102から径方向に偏芯して配置され、コンロッド122の下端部が軸着されるクランクピン103と、ジャーナル部102とクランクピン103とを連結するクランクアーム(図示省略)と、バランスウェイト(図示省略)と、を有している。
コンロッド122の上端部はピストン125に軸着されており、燃焼室における混合気の爆発によってピストン125がシリンダ124内を降下すると、ピストン125に連結されたコンロッド122がクランクピン103を押し下げ、これによってクランクシャフト101がジャーナル部102を主回転軸として回転する。
【0003】
ここで、クランクシャフト101は極めて高速で回転するため、摺動部の焼き付けを防止すべく、ジャーナル部102と軸受メタル111の間、及び、クランクピン103とコンロッド122の間に、オイル(潤滑油)を供給する必要がある。
そこで、ジャーナル部102を軸支する軸受メタル111の内面にオイル溝112を設けるとともに、このオイル溝112に対してオイル供給通路(以下、「メインギャラリ」という場合がある。)114を開口してオイルを供給し、かつ、ジャーナル部102の外周面とクランクピン103の外周面とを連通する連通路115をクランクシャフト101に形成し、この連通路115を介してクランクピン103の外周面にオイルを供給している(例えば、特許文献1参照)。
なお、連通路115は、ジャーナル部102を径方向に貫通する第1油路115aと、クランクピン103を径方向に貫通する第2油路115bと、第1油路115aの中間部と第2油路115bの中間部とを連通する第3油路115cと、から構成されており、その形状からH穴方式と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−264115号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のクランクシャフトの油路構造には、次のような問題があった。
(1)クランクシャフト101のジャーナル部102を軸支する軸受メタル111は、半円弧状の上側メタル111Aと下側メタル111Bとを、環状に組み合わせて構成されている。上側メタル111Aと下側メタル111Bの合わせ部119は、クラッシュリリーフと呼ばれている。合わせ部119は、合わせ部119のずれによるクランクシャフト101との接触防止や、オイル溝112内のオイルや異物の効率的な排出などを目的として、軸受メタル111の他の部分に比べて、ジャーナル部102とのクリアランスが数十μm程度大きく形成されている。そのため、連通路115のジャーナル部102側の開口部115dが、合わせ部119付近に位置しているときに、オイルリークによってメインギャラリ114の油圧が低下する傾向がある。
【0006】
(2)また、直列4気筒エンジンのクランクシャフト101は、クランクピン103を同一平面上に配置したいわゆるシングルプレーン式を採用していることが多いので、ピストンの上死点TDCあるいは下死点BDCにおいてクランクシャフトの回転速度が低下する。そして、エンジンの各部にオイルを供給するオイルポンプがクランクシャフト101によって駆動されている場合には、クランクシャフト101の回転に同期して、ピストンの上死点TDCあるいは下死点BDCにおいてオイルポンプの圧力が低下する傾向がある。
【0007】
(3)このため、図7に示すように、ピストンが上死点TDCあるいは下死点BDCにあるときに、連通路115のジャーナル部102側の開口部115dが、合わせ部119付近に位置していると、上記(1)、(2)の要因が重なり合い、メインギャラリ114の油圧低下が増大してしまうという問題があった。
【0008】
(4)また、燃焼室における混合気の爆発によってピストン125が押し下げられる際に、ジャーナル部102の外周面の所定範囲に、爆発荷重が強く作用する。このとき、この所定範囲に連通路115のジャーナル部102側の開口部115dが位置していると、ジャーナル部102と軸受メタル111との間に油膜を形成しているオイルが開口部115d内に逃げ込み、油膜の厚さが小さくなり、摺動抵抗が増大したり、十分な潤滑がなされないおそれがある。
【0009】
本発明は、これらの問題に鑑みて創案されたものであり、ジャーナル部に供給する潤滑油の圧力変動を抑制するとともに、ジャーナル部の周囲の油膜厚さの変動を抑制することが可能なクランクシャフトの油路構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シングルプレーン式のクランクシャフトにより駆動されるオイルポンプが設けられ、該オイルポンプにより圧送される潤滑油がメインギャラリを介してクランクシャフトのジャーナル部の周囲に送られ、前記ジャーナル部は2つ割の軸受メタルによって周囲を覆われてエンジン本体に軸支され、前記ジャーナル部の周囲に送られた潤滑油をクランクピンの外周部に供給するための油路が前記クランクシャフト内に設けられたクランクシャフト油路構造であって、前記油路は、前記ジャーナル部を径方向に貫通する上流側油路と、この上流側油路と前記クランクピンの外周部とを連通する下流側油路と、を備え、前記上流側油路の開口部は、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、前記軸受メタル同士の合わせ部に対向する位置と、前記ジャーナル部に爆発荷重が作用する際に、前記ジャーナル部の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、ジャーナル部を径方向に貫通する上流側油路の開口部は、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、前記軸受メタル同士の合わせ部に対向する位置を避けた範囲に位置しているので、オイルポンプの油圧が低下するときに、上流側油路の開口部が、軸受メタル同士の合わせ部に対向する位置に存在することがない。そのため、軸受メタル同士の合わせ部によるメインギャラリの油圧低下と、オイルポンプの周期的な油圧低下と、が重なり合うことがなく、ジャーナル部に供給する潤滑油の圧力変動を抑制することができる。
これに加えて、上流側油路の開口部は、ジャーナル部に爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置を避けた範囲に位置しているので、油膜を形成しているオイルが開口部内に逃げ込むことがない。そのため、ジャーナル部と軸受メタルとの間の油膜の厚さが小さくなることがなく、十分な潤滑を確保して、摺動抵抗の増大を防止することができる。
【0012】
また、前記軸受メタルの合わせ部は、ジャーナル部の回転中心を通り且つシリンダボアの軸線と平行な直線から、±90°の位置に配置され、前記上流側油路の開口部は、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、下式(1)を満たす範囲に位置するように構成するのが好ましい。
10°≦θ≦50° ・・・ 式(1)
ここで、θは、ジャーナル部の回転中心を通り且つシリンダボアの軸線と平行な直線と上流側油路の軸心を通る直線とが進角方向に成す角度である。
【0013】
上流側油路の開口部が式(1)に示す範囲にあれば、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、前記軸受メタル同士の合わせ部に対向する位置と、ジャーナル部に爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、に当該開口部が位置することを確実に避けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャーナル部に供給する潤滑油の圧力変動を抑制するとともに、ジャーナル部の周囲の油膜厚さの変動を抑制することが可能なクランクシャフトの油路構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンジンの斜視図である。
【図2】エンジンの分解斜視図である。
【図3】クランクシャフトの側面図である。
【図4】図3のI−I矢視断面図である。
【図5】(a)は従来のクランクシャフトの回転角度とメインギャラリの油圧の関係を示すグラフであり、(b)は本実施形態のクランクシャフトの回転角度とメインギャラリの油圧の関係を示すグラフである。
【図6】変形例に係るクランクシャフトの油路構造を示す断面図である。
【図7】従来のクランクシャフトの油路構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態においては、直列4気筒エンジンのクランクシャフトを例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。以下の説明では、各図に示す前後左右上下に基づいて方向を説明する。
【0017】
図1は、エンジンの斜視図であり、図2はエンジンの分解斜視図である。
図1に示すように、エンジン1は、SOHC(シングルオーバヘッドカムシャフト)型の直列4気筒エンジンであり、シリンダブロック2の上端にはシリンダヘッド3、シリンダヘッドカバー31が順次接合され、シリンダブロック2の下端にはオイルパン4が接合される。そして、このエンジン1の一端部には、チェーンケース6がシリンダブロック2とシリンダヘッド3とに跨って装着される。
【0018】
図2に示すように、シリンダブロック2は、1列に配列された4個のシリンダボア21を有し、各シリンダボア21にはクランクシャフト7にコンロッド8を介して連結されたピストン9(一つのみ図示)がそれぞれ摺動自在に嵌挿される。そして、クランクシャフト7は、シリンダブロック2の下部にベアリングキャップ10を介して回転自在に取り付けられる。このクランクシャフト7のシリンダブロック2から突出する一端部にはオイルポンプ11、クランクスプロケット12及びクランクプーリ13(図1参照)が取り付けられている。
ちなみに、オイルポンプ11は、オイルパン4内のオイルを汲み上げて後記するメインギャラリ22に供給する装置であり、クランクシャフト7の回転を動力源として駆動している。なお、本実施形態では、オイルポンプ11をクランクシャフト7に直接連結したが、これに限定されるものではなく、例えばチェーンやギアを介してオイルポンプ11とクランクシャフト7を連結してもよい。
【0019】
前記シリンダヘッドカバー31で覆われるシリンダヘッド3の上部空間には、カムシャフト14が回転自在に支持されて収容される。このカムシャフト14の一端部はシリンダヘッド3の一端部から突出し、その一端部にはカムスプロケット15が固定される。そして、このカムシャフト14の一端部のカムスプロケット15と、クランクシャフト7の一端部のクランクスプロケット12との間には、図1に示すようにタイミングチェーン16が巻回されており、これらでクランクシャフト7からカムシャフト14への伝動機構が構成されている。なお、図1に示すようにエンジン1には、クランクプーリ13によりベルト17を介して駆動されるエアコン装置用のコンプレッサ18及びACジェネレータ19が付設されている。
【0020】
図3は、クランクシャフトの側面図であり、図4は、図3のI−I矢視断面図である。
図3に示すように、クランクシャフト7は、クランクシャフトの主回転軸を構成する5つのジャーナル部71と、コンロッド8の下端部が軸着される4つのクランクピン72と、各ジャーナル部71と各クランクピン72とを連結するクランクアーム73と、クランクアーム73に連続して形成されたバランスウェイト74と、を有している。
なお、本実施形態では、図4に示すように、シリンダボア21の軸心CLがジャーナル部71の回転中心を通る場合を例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
ジャーナル部71とクランクピン72とは、クランクシャフト7の軸方向に交互に配置されている。また、両端の2つのクランクピン72は、ジャーナル部71に対して径方向の一方側(例えば図3の上方向)にずれて配置されており、中間部の2つのクランクピン72は、ジャーナル部71に対して、両端の2つのクランクピン72と180°反対の方向(例えば図3の下方向)にずれて配置されている。つまり、ジャーナル部71の軸線位置と、クランクピン72の軸線位置は、同一平面上に配置されており、いわゆるシングルプレーン式のクランクシャフトを構成している。
そのため、両端の2つのクランクピン72にコンロッド8を介して連結されたピストン9が上死点に位置しているときに、中間部の2つのクランクピン72にコンロッド8を介して連結されたピストン9は、下死点に位置していることとなる。
【0022】
図3及び図4に示すように、クランクシャフト7の各ジャーナル部71は、軸受メタル5に回転自在に支持されている。
軸受メタル5は、いわゆる滑り軸受であり、半円弧状に形成された上側メタル51と下側メタル52の2部材を環状に組み合わせて構成されている。上側メタル51はシリンダブロック2に支持されており、下側メタル52はベアリングキャップ10に支持されている。
上側メタル51の内周面には、オイル溝53が形成されている。オイル溝53は、上側メタル51に形成された貫通孔54を介して、シリンダブロック2のメインギャラリ22に連通している。下側メタル52の内周面にはオイル溝が形成されておらず、平坦な滑り面を構成している。つまり、オイル溝53は、軸受メタル5の内周面のうち、180°の範囲に形成されている。
【0023】
上側メタル51と下側メタル52の合わせ部55は、ジャーナル部71の回転中心を通るシリンダボア21の軸線CL(より正確には、ジャーナル部71の回転中心を通り、かつ、シリンダボア21の軸線CLと平行な直線CL(図6参照))から、進角方向(時計回り)及び遅角方向(反時計回り)に90°(すなわち±90°)の位置に配置されている。
ちなみに、軸受メタル5の合わせ部55付近におけるジャーナル部71とのクリアランスは、上側メタル51及び下側メタル52の他の部分におけるジャーナル部71とのクリアランスよりも数十μmだけ大きくなっている。これは、例えば、合わせ部55のずれによるクランクシャフトとの接触を防止したり、オイル溝53内のオイルや異物を効率的に排出するためである。
【0024】
図3及び図4に示すように、クランクシャフト7は、ジャーナル部71を径方向に貫通する第1油路75と、クランクピン72を径方向に貫通する第2油路76と、クランクアーム73を貫通して第1油路75の中央部と第2油路76の中央部とを連通する第3油路77と、を有している。
この「第1油路75」が、特許請求の範囲にいう「上流側油路」に相当し、「第2油路76」及び「第3油路77」が、特許請求の範囲にいう「下流側油路」に相当する。
第1油路75の開口部75a,75aは、互いに180°反対の位置に形成されているので、ジャーナル部71がどの向きに回転したとしても、少なくともどちらか一方の開口部75aが、オイル溝53に開口して、潤滑油の供給を受けることができる。
【0025】
メインギャラリ22は、シリンダブロック2に形成された油路である。メインギャラリ22の上流側は、オイルポンプ11に接続されており、メインギャラリ22の下流側は、上側メタル51の貫通孔54に接続されている。これにより、潤滑油は、メインギャラリ22から順に、貫通孔54、オイル溝53、第1油路75、第3油路77、第2油路76、を通って、クランクピン72の外周部とコンロッド8(より詳しくはコンロッド8に支持された不図示の軸受メタル)との摺動面に供給されるようになっている。
なお、メインギャラリ22内の潤滑油の油圧は、オイルポンプ11の駆動力の変動(つまり、クランクシャフト7の回転速度の変動)に伴って変動している。
【0026】
第1油路75の開口部75a,75aは、図4に示すように、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、合わせ部55に対向する位置と、ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置している。
【0027】
ここで、「合わせ部55に対向する位置」とは、軸受メタル5とジャーナル部71とのクリアランスが大きくなっている範囲であり、例えば、ジャーナル部71の回転中心を通るシリンダボア21の軸線CLから、進角方向(時計回り)におよそ80°〜100°の範囲X(換言すれば、合わせ部55を中心におよそ±10°の範囲)をいう。
【0028】
また、「ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置」とは、ピストン9の降下に伴って、ジャーナル部71が軸受メタル5に強く押し付けられる際に、ジャーナル部71と軸受メタル5の間を潤滑する油膜の油膜圧力が増加する範囲であり、例えば、ジャーナル部71の回転中心を通るシリンダボア21の軸線CLから、進角方向(時計回り)におよそ95°〜185°の範囲Yをいう。
また、「ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際」とは、燃焼室で爆発が生じてから、クランクピン72が進角方向におよそ40°進むまでの間(図4に示す範囲Z)のことをいう。
【0029】
なお、第1油路75の開口部75aは、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、下式(1)を満たす範囲に位置しているのが好ましい。
10°≦θ≦50° ・・・ 式(1)
ここで、θは、ジャーナル部71の回転中心を通るシリンダボア21の軸線CLと第1油路75の軸心を通る直線CMとが進角方向に成す角度である。なお、本実施形態では、角度θ=30°に設定している。
このように、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、角度θが式(1)の範囲内にあれば、第1油路75の開口部75a,75aが、合わせ部55に対向する位置と、ジャーナル部71に爆発荷重が加わる位置と、に配置されることを確実に避けることができる。
【0030】
図5(a)は従来のクランクシャフトの回転角度とメインギャラリの油圧の関係を示すグラフであり、(b)は本実施形態のクランクシャフトの回転角度とメインギャラリの油圧の関係を示すグラフである。
従来のクランクシャフトの油路構造の場合は、図7に示すように、ピストン125が上死点及び下死点に位置しているとき、すなわち、クランクシャフト101の回転角度が0°及び180°のときに、ジャーナル部102の第1油路115aの開口部115dが、軸受メタル111の合わせ部119に対向する位置に配置されているので、図5(a)に示すように、クラッシュリリーフ分の圧力A’が低下している。
また、ピストン125が上死点及び下死点に位置しているときは、クランクシャフト101の回転速度が遅くなるので、オイルポンプ11の吐出量が低下する。そのため、メインギャラリ22におけるクランクシャフト101の回転変動分の圧力B’も低下する。
このように、両者のピークとボトムが同期するので、クラッシュリリーフ分の圧力A’と回転変動分の圧力B’を合計したメインギャラリ114全体の圧力C’の変動幅D’が大きくなる。
【0031】
これに対して、本実施形態に係るクランクシャフトの油路構造は、図4に示すように、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、角度θ=30°となるように第1油路75の向きをずらしたので、図5(b)に示すように、クランクシャフト7の回転角度が60°になったときに(すなわちθ=90°となったときに)、第1油路75の開口部75aが軸受メタル5の合わせ部55に対抗する位置に配置されて、クラッシュリリーフ分の圧力Aが低下している。
一方、クランクシャフト7の回転変動分の圧力Bは、従来と変化していない。
そのため、両者のピークとボトムがずれるので、クラッシュリリーフ分の圧力Aと回転変動分の圧力Bを合計したメインギャラリ全体の圧力Cの変動幅Dが、従来に比較して小さくなる。
【0032】
このように、本実施形態に係るクランクシャフトの油路構造によれば、クラッシュリリーフ分の圧力Aとクランクシャフト7の回転変動分の圧力Bのピークとボトムの位置をずらすことができるので、メインギャラリ22の油圧変動を抑制することができる。そのため、オイルポンプ11などの油圧デバイスの動作の信頼性、安定性が向上するとともに、ジャーナル部71やクランクピン72などの潤滑部の信頼性、安定性が向上する。
【0033】
さらに、本実施形態に係るクランクシャフトの油路構造は、ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置を避けた範囲に位置しているので、ジャーナル部71と軸受メタル5との間に油膜を形成しているオイルが開口部75a内に逃げ込むことがない。そのため、ジャーナル部71と軸受メタル5との間の油膜の厚さが小さくなることがなく、十分な潤滑を確保して、摺動抵抗の増大を防止することができる。
また、本実施形態に係るクランクシャフトの油路構造によれば、オイルポンプ11の容量を軽減できるとともに、燃費の向上を図ることができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0035】
例えば、本実施形態では、いわゆるH形油路を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1油路75とクランクピン72の外周面とを直線的に連通するように下流側油路を形成してもよい。
【0036】
また、本実施形態では、直列4気筒エンジンを例にとって説明したが、シングルプレーン式のクランクシャフトを採用する内燃機関であれば、気筒の配列や数はどのようなものであってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、シリンダボア21の軸線がジャーナル部71の回転中心を通る場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下に、図6を参照して、シリンダボア21の軸線とジャーナル部71の回転中心OJとがオフセットしている場合について説明する。なお、変形例の説明において、前記した実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0038】
図6は、変形例に係るクランクシャフトの断面図である。
図6に示すように、シリンダボア21の軸線CLは、ジャーナル部71の回転中心OJに対して、進角方向にオフセットしている。
この場合でも、第1油路75の開口部75a,75aは、図6に示すように、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、合わせ部55に対向する位置と、ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置している。
【0039】
つまり、変形例における「合わせ部55に対向する位置」とは、軸受メタル5とジャーナル部71とのクリアランスが大きくなっている範囲であり、例えば、ジャーナル部71の回転中心を通り、かつ、シリンダボア21の軸線CLと平行な直線CLから、進角方向(時計回り)におよそ80°〜100°の範囲X(換言すれば、合わせ部55を中心におよそ±10°の範囲)をいう。
【0040】
また、変形例における「ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置」とは、ピストン9の降下に伴って、ジャーナル部71が軸受メタル5に強く押し付けられる際に、ジャーナル部71と軸受メタル5の間を潤滑する油膜の油膜圧力が増加する範囲であり、例えば、ジャーナル部71の回転中心を通り、かつ、シリンダボア21の軸線CLと平行な直線CLから、進角方向(時計回り)におよそ95°〜185°の範囲Yをいう。
【0041】
なお、変形例においては、クランクピン72の中心軸OPが、シリンダボア21の軸心CLに重なったときに、燃焼室において爆発が生じるように、燃焼タイミングが調整されている。
そのため、ジャーナル部71の回転中心OJとクランクピン72の軸心OPとを結んだ直線JPと、直線CL2との成す角度をδとすると、変形例においては、「ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際」とは、δ≦δ≦δ+40°(図6に示す範囲Z)と定義することができる。
ここで、角度δは、軸心OPが直線CL2と重なったときの角度δである。
【0042】
また、第1油路75の開口部75aは、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、下式(1)を満たす範囲に位置しているのが好ましい。
10°≦θ≦50° ・・・ 式(1)
ここで、θは、ジャーナル部71の回転中心OJを通り、かつ、シリンダボア21の軸線CLと平行な直線CLと、第1油路75の軸心を通る直線CMとが進角方向に成す角度である。
【0043】
変形例に係るクランクシャフト7によれば、第1油路75の開口部75a,75aは、図6に示すように、ピストン9が上死点及び下死点に位置する際に、合わせ部55に対向する位置と、ジャーナル部71にピストン9の爆発荷重が作用する際に、ジャーナル部71の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置しているので、ジャーナル部71に供給する潤滑油の圧力変動を抑制するとともに、ジャーナル部71の周囲の油膜厚さの変動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 エンジン
2 シリンダブロック
22 メインギャラリ
5 軸受メタル
51 上側メタル
52 下側メタル
53 オイル溝
54 貫通孔
55 合わせ部
7 クランクシャフト
71 ジャーナル部
72 クランクピン
73 クランクアーム
74 バランスウェイト
75 第1油路(上流側油路)
75a 開口部
76 第2油路(下流側油路)
77 第3油路(下流側油路)
8 コンロッド
9 ピストン
10 ベアリングキャップ
11 オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルプレーン式のクランクシャフトにより駆動されるオイルポンプが設けられ、該オイルポンプにより圧送される潤滑油がメインギャラリを介してクランクシャフトのジャーナル部の周囲に送られ、前記ジャーナル部は2つ割の軸受メタルによって周囲を覆われてエンジン本体に軸支され、前記ジャーナル部の周囲に送られた潤滑油をクランクピンの外周部に供給するための油路が前記クランクシャフト内に設けられたクランクシャフト油路構造であって、
前記油路は、前記ジャーナル部を径方向に貫通する上流側油路と、この上流側油路と前記クランクピンの外周部とを連通する下流側油路と、を備え、
前記上流側油路の開口部は、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、前記軸受メタル同士の合わせ部に対向する位置と、前記ジャーナル部に爆発荷重が作用する際に、前記ジャーナル部の周囲の油膜の油膜圧力が増加する位置と、を避けた範囲に位置することを特徴とするクランクシャフト油路構造。
【請求項2】
前記軸受メタルの合わせ部は、ジャーナル部の回転中心を通り且つシリンダボアの軸線と平行な直線から、±90°の位置に配置され、
前記上流側油路の開口部は、ピストンが上死点及び下死点に位置する際に、下式(1)を満たす範囲に位置することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの油路構造。
10°≦θ≦50° ・・・ 式(1)
θ:ジャーナル部の回転中心を通り且つシリンダボアの軸線と平行な直線と上流側油路の軸心を通る直線とが進角方向に成す角度

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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