説明

クリップによる取付構造

【課題】被取付部材に取付部材を着脱可能に装着するためのクリップによる取付構造において、衝撃荷重を受けたときに外れにくいクリップによる取付構造を提供する。
【解決手段】樹脂製のクリップ本体10は、内側に形成される、座面部材32を挟持する一対の座面係合部片14と、外側に形成される、被取付部材40の取付孔42に係止する係り斜面24とその上部のストレート面26を外方に突起形成し拡開方向に弾発力を付与された一対の取付係止片20とを有し、クリップ構造体12を被取付部品40の取付孔42に挿入して取付けた状態で、クリップ構造体12が取付孔42から抜ける方向に衝撃荷重を受けたとき、取付係止片20の係り斜面24に続くストレート面26がクリップ構造体12の取付孔42からの外れを遅延させるため該クリップ構造体12が取付孔42から抜けにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材に取付部材を着脱可能に装着するためのクリップによる取付構造に関する。具体的には、例えば、自動車のインストルメントパネルにセンタクラスターなどを着脱可能に装着するためのクリップによる取付構造において、衝撃荷重を受けたときに外れにくいクリップによる取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、自動車のインストルメントパネルにセンタクラスターなどを着脱可能に装着するためのクリップについては、例えば特開2001−271811(特許文献1)に開示されているクリップが公知である。
特許文献1に開示されているクリップは、取付部材であるセンタクラスターに突設状態で配設される座面部材に取付けた樹脂製のクリップ本体を、被取付部材であるインストルメントパネルに形成された取付孔の表面側から挿入することで取付部材を被取付部材に係止させ、取付部材を被取付部材に着脱可能に取付けるために用いられるクリップである。
【0003】
図15に、前記特許文献1に開示されているクリップとほぼ同じクリップを用いて取付部材を被取付部材に取付けた状態の部分断面図を示す。樹脂製のクリップ本体50は、取付部材66に形成された座面部材68の係合孔70に対して、座面係合部片52の先端に形成された係合突部54を係合させることにより取付部材66に取付けられる。そして、取付部材66に係合した樹脂製のクリップ本体50が、被取付部材72に形成された取付孔74に対して表面側76から挿入され、クリップ本体50の取付係止片58の係止肩60の下部に形成された係り斜面61が被取付部材72の裏面側78に係止することにより、取付部材66が被取付部材72に取付けられる。
取付部材66を被取付部材72から取り外す必要が生じた場合は、取付部材66を被取付部材72から引き離す方向へ引っ張ることにより、クリップ本体50の取付係止片58が互いに接近する方向へ弾性変形して、係止肩60の下部の係り斜面61が被取付部材72の裏面側78から外れることで、取付部材66をクリップ本体50と一体で被取付部材72から取り外すことができる。
なお、クリップ本体50は座面係合部片52の先端の係合突部54が座面部材68に形成された係合孔70に係合して取付部材66に取付けられているので、座面係合部片52が弾性変形して係合突部54が係合孔70から外れることで、クリップ本体50を被取付部材72に残して、取付部材66のみを被取付部材72から取り外すこともできる。
【特許文献1】特開2001−271811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図15に示したクリップ本体50により、所定の保持荷重で、取付部材66を被取付部材72に取付けることができる。保持荷重を変更する必要が生じたときは、クリップ本体50の係合突部54の係合面56の角度や面積を変更する、あるいは一対の取付係止片58の両係止肩60の間隔や係り斜面61の傾斜角度を変更する、もしくはクリップ本体50の材質を変更する等の対応が必要となる。ここで、一般には係合突部54による保持荷重の方が係り斜面61による保持荷重よりも高く設定されており、クリップ本体50による保持荷重は両係止肩60の間隔や係り斜面61の角度により決まることとなる。
ところで、従来のこの種のクリップでは、取付部材66によりクリップ本体50に被取付部材72から外れる方向に力が加わった場合、被取付部材72の裏面側78が係り斜面61に係止する位置が、係り斜面61に沿って上方に移動するのに従い、一対の取付係止片58が互いに接近する方向に曲げられ、その反発力が抵抗力となる。そして被取付部材72の裏面側78が係り斜面61に係止する位置が係止肩60に達するときに取付係止片58の反発力により保持荷重に相当する抗力を生じ、それ以降は、係り斜面61による裏面側78への係止による抗力はなくなり、係止肩60の取付孔74への摩擦力が抗力となるため、クリップ本体50による抜け方向の抗力は速やかに減少する。
そこで、従来のクリップでは、保持加重に相当する抗力を生じるまでのストロークが短く、保持荷重に相当する抗力を生した後は速やかに抗力が減少するため、衝撃荷重が加わったときの衝撃エネルギーの吸収力が弱く、所定の保持加重を超える衝撃荷重が加わったとき、クリップ本体50が被取付部材72から外れやすいという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するものとして提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、衝撃荷重を受けた場合にも外れにくいクリップによる取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るクリップによる取付構造は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明に係るクリップによる取付構造は、被取付部材に装着される取付部材に突設状態で配設される座面部材に樹脂製のクリップ本体を取付けたクリップ構造体を、被取付部材に形成された取付孔に該被取付部材の挿入方向表面側から裏面側に向けて挿入して、取付部材を被取付部材に着脱可能に取付けるクリップによる取付構造であって、
前記樹脂製のクリップ本体は、内側に形成される、前記座面部材を挟持する一対の座面係合部片と、外側に形成される、前記被取付部材の取付孔に係止する係り斜面とその上部のストレート面を外方に突起形成し拡開方向に弾発力を付与された一対の取付係止片とを有し、前記一対の座面係合部片には前記座面部材との間に該両者間の相対的抜き方向の作用力に対して該両者を抜き方向に一体化する一体化手段が設けられており、前記一対の取付係止片には挿入方向後方に向けて脚片が延設形成されており、該延設形成された脚片の挿入方向後端は前記座面係合部片の挿入方向後端より後方位置となる構成に形成されており、
前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、該クリップ構造体が前記取付孔から抜ける方向に衝撃荷重を受けたとき、前記取付係止片の係り斜面に続くストレート面がクリップ構造体の前記取付孔からの外れを遅延させるため該クリップ構造体が取付孔から抜けにくいことを特徴とする。
【0007】
この第1の発明によれば、クリップ構造体を被取付部品の取付孔に挿入して取付けた状態で、クリップ構造体が取付孔から抜ける方向に衝撃荷重を受けたとき、前記取付係止片の係り斜面に続くストレート面がクリップ構造体の前記取付孔からの外れを遅延させるため該クリップ構造体が取付孔から抜けにくい。
これは、衝撃荷重によって、被取付部材の裏面側への係止位置が係り斜面を越えても、一対の係り斜面の上端部の間隔が取付孔の幅に押し縮められた結果、それに続くストレート面の下端が互いに接近する方向に引き寄せられるため、ストレート面が下端から上端に向かって外側に張り出す新たな係止斜面となり被取付部材の裏面側に係止することによる。
ここで、保持荷重に相当する抗力を生じるのはストレート面の上端が取付孔の裏面側に係止したときであり、保持荷重に相当する抗力が生じるまでのストロークが長くなるため、衝撃荷重を受けたときのエネルギー吸収力が高まる。
なお、クリップ本体の座面係合部片には座面部材との間に両者間の相対的抜き方向の作用力に対して両者を抜き方向に一体化する一体化手段が設けられており、クリップ本体の取付部材に対する保持荷重の方がクリップ本体の被取付部材に対する保持荷重よりも大きくなるように設定されているので、取付部材からクリップ本体が外れることは考慮する必要がない。
【0008】
次に本発明の第2の発明は、上記第1の発明のクリップによる取付け構造であって、
前記座面係合部片と前記座面部材との間の該両者を抜き方向に一体化する一体化手段は、前記座面部材に形成された係合孔と、該係合孔に係合する前記座面係合部片に設けられた係合突部であることを特徴とする。
この第2の発明によれば、座面係合部片と座面部材との間の両者を抜き方向に一体化する一体化手段は、座面部材に形成された係合孔に座面係合部片に設けられた係合突部を挿入して係止させることによるため、簡易な構造により一体化を実現することができる。
【0009】
次に本発明の第3の発明は、上記第1の発明又は第2の発明のクリップによる取付け構造であって、
前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、座面部材は前記取付係止片の脚片が当該座面部材に当接する厚みとされており、前記座面部材の前記クリップ本体の座面係合部片に挟持される部分の厚みよりもそれ以降の挿入方向後方位置の厚みが厚いことを特徴とする。
この第3の発明によれば、クリップ構造体を取付孔に挿入して取付けた状態で座面部材に取付係止片の脚片が当接している。そこで、取付部材を被取付部材から取り外すためには、クリップ本体の取付係止片を係り斜面及びそれに続くストレート面が被取付部材の裏面側に係止する箇所と脚片が座面部材に当接する箇所で逆方向に曲げて、係り斜面及びストレート面の係止孔への係止を外すことが必要となる。
一方、脚片が座面部材に当接していなければ、取付部材を被取付部材から取り外すときに脚片の変形による抗力は生じないので、取付部材を被取付部材から取り外すためには、取付係止片をその付け根を支点として撓ませて係り斜面及びストレート面の係止孔への係止を外すだけで済む。よって、脚片が座面部材に当接していなければ、座面部材に脚片が当接している場合よりも取り外しに必要な力は少なくて済む。これは、言い換えれば、座面部材に取付係止片の脚片を当接させることにより、当接させない場合に比べて、取り外しにより大きな力が必要となるため、クリップ構造体の保持荷重を高めることができるということである。
【0010】
次に本発明の第4の発明は、上記第1の発明又は第2の発明のクリップによる取付け構造であって、
前記座面部材は前記クリップ本体の座面係合部片に挟持される部分の厚みは同じであるがそれ以降の挿入方向後方位置の厚みが異なる第1の座面部材と第2の座面部材とを備え、該挿入方向後方位置の厚みが、前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、第1の座面部材が前記取付係止片の脚片が当該第1の座面部材に当接しない厚みとされるときは、第2の座面部材は前記取付係止片の脚片が当該第2の座面部材に当接する厚みとされており、第1の座面部材が前記取付係止片の脚片が当該第1の座面部材に当接する厚みとされるときは、第2の座面部材は前記取付係止片の脚片が当該第2の座面部材に対し前記第1の座面部材に当接するよりもより強く当接する厚みとされており、
前記クリップ本体を該第1の座面部材あるいは第2の座面部材を選択して取付けることにより、取付部材の被取付部材に対する取付け状態の保持荷重を異ならせることができることを特徴とする。
この第4の発明によれば、第1の座面部材を用いた場合にはクリップ本体の脚片が第1の座面部材に当接せず、第2の座面部材を用いた場合にはクリップ本体の脚片が第2の座面部材に当接する第1の構成と、第1の座面部材を用いた場合も第2の座面部材を用いた場合もクリップ本体の脚片が座面部材に当接するが、第1の座面部材を用いた場合に比べて第2の座面部材を用いた場合の方が脚片がより強く座面部材に当接する第2の構成を採ることができる。
この第1の構成によれば、第1の座面部材を用いて取付部材を被取付部材に取付けた状態では、クリップ本体の脚片が座面部材に当接していない。この場合の取付部材の被取付部材に対する保持荷重は、取付係止片をその付け根を支点として撓ませて係り斜面及びこれに続くストレート面を取付孔から外すために必要な力に相当する。一方、第2の座面部材を用いて取付部材を被取付部材に取付けた状態では、クリップ本体の脚片が座面部材に当接している。この場合の取付部材の被取付部材に対する保持荷重は、取付係止片を係り斜面又はストレート面が被取付部材の裏面側で被取付部材に係止する箇所と脚片が座面部材に当接する箇所で逆方向に曲げて係り斜面及びストレート面を取付孔から外すために必要な力に相当する。
取付係止片をその付け根を支点として撓ませて係り斜面及びストレート面を取付孔から外す場合に比べて、取付係止片を係り斜面又はストレート面が被取付部材の裏面側で被取付部材に係止する箇所と脚片が座面部材に当接する箇所で逆方向に曲げて係り斜面及びストレート面を取付孔から外すためには、より大きな力が必要となる。
よって、座面部材として第2の座面部材を用いた場合の方が、座面部材として第1の座面部材を用いた場合よりも保持荷重は大きくなり、座面部材の選択により、取付部材の被取付部材に対する取付け状態の保持荷重を異ならせることができる。
この第2の構成によれば、第1の取付部材を用いた場合も第2の座面部材を用いた場合もクリップ本体の脚片が座面部材に当接している。この場合の取付部材の被取付部材に対する保持荷重は、いずれも、取付係止片を係り斜面又はストレート面が被取付部材の裏面側で被取付部材に係止する箇所と脚片が座面部材に当接する箇所で逆方向に曲げて係り斜面及びストレート面を取付孔から外すために必要な力に相当する。ここで、第2の取付部材を用いた場合の方が第1の取付部材を用いた場合に比べて脚片がより強く座面部材に当接しているので、第2の座面部材を用いた場合の方が保持荷重が大きい。よって、第2の構成によっても、座面部材の選択により、取付部材の被取付部材に対する取付け状態の保持荷重を異ならせることができる。
【0011】
次に本発明の第5の発明は、上記第3の発明又は第4の発明のクリップによる取付け構造であって、
前記座面部材(前記第1の座面部材及び前記第2の座面部材を含む)の挿入方向後方位置の厚みはリブ形状又は面形状により形成されていることを特徴とする。
この第5の発明によれば、上記第3の発明においては、座面部材の挿入方向後方位置にリブを付加するか又は面形状の厚みを厚くするという簡易な構成により、保持荷重を高めることができる。また、上記第4の発明においては、第1の座面部材と第2の座面部材の差異はリブの有無又は座面部材の挿入方向後方位置の面形状の厚みの差異とすることができるので、座面部材の僅かの変更で保持荷重を異ならせることができる。
【0012】
次に本発明の第6の発明は、上記第1〜5のいずれかの発明のクリップによる取付構造であって、
前記衝撃荷重を受けた後、前記係止脚の弾性により前記クリップ構造体が当初の取付状態の位置に戻ることを特徴とする。
衝撃荷重を受けた時、クリップ構造体が取付孔から外れていなければ、取付係止片は概ねストレート面が被取付部材の裏側面に係止する。そして、取付係止片はストレート面が被取付部材の裏面側で被取付部材に係止する箇所で両ストレート部が互いに接近する方向に曲げられており、衝撃荷重を受ける前の係止位置に戻ろうとする弾発力を有する。そこで、衝撃荷重が去った後は、取付係止片の弾発力により被取付部材の裏側面への係止位置が係り斜面に戻り、クリップ構造体が当初の取付状態の位置に戻ることとなる。
この第6の発明によれば、衝撃荷重を受けた後で、クリップ構造体が自律的に取付位置に戻るので、衝撃荷重を受けた後の復旧作業の負荷が軽減される。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の各発明によれば、次の効果が得られる。
まず、上述した第1の発明によれば、前記取付係止片の係り斜面に続くストレート面がクリップ構造体の前記取付孔からの外れを遅延させるため該クリップ構造体が取付孔から抜けにくい。
次に上述の第2の発明によれば、簡易な構造でクリップと座面部材を一体化させることができる。
次に上述の第3の発明によれば、座面部材の厚みを脚片が当接する厚みとすることで、保持荷重を高めることができる。
次に上述の第4の発明によれば、座面部材の選択により、使用するクリップは同一でも、取付部材の被取付部材に対する取付け状態での保持荷重を異ならせることができる。
次に上述の第5の発明によれば、座面部材の僅かの変更で保持荷重の変更を実現することができる。
次に上述の第6の発明によれば、衝撃荷重を受けた後で、クリップ構造体が自律的に取付位置に戻るので、衝撃荷重を受けた後の復旧作業の負荷が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の第一実施例であるクリップによる取付構造で使用するクリップ本体10の自由状態での正面図である。
クリップ本体10は、内側に形成される一対の座面係合部片14と、外側に形成される一対の取付係止片20を有し、取付係止片20は取付状態では互いに接近した状態とされて、拡開方向に弾発力が付与される。座面係合部片14の先端には係合突部16が設けられ、取付係止片20には係り斜面24及びその上部に連なるストレート面26が外側に突起形成されている。ストレート面26はクリップ本体10が自由状態ではほぼ垂直方向に延びている。係り斜面24の下部には脚片28が延設形成されている。
クリップ本体10は脚片28を互いに接近させる方向に力が加えられると、取付係止片20が係止片基部22を基点として撓む。
図2にクリップ本体10の外観を、図3に第一実施例における座面部材32の外観を示す。座面部材32は取付部材30と一体で形成されており、中央部に係合孔34が設けられ、下方にはリブ36が設けられている。
図4は本発明の第一実施例における、クリップ本体10を取付部材30に突設状態で配設された座面部材32に取付けた状態のクリップ構造体12の部分断面図である。クリップ本体10は一対の座面係合部片14の間に座面部材32を挟持して座面部材32の先端部に取付けられる。そして、座面係合部片14の先端に形成された係合突部16を座面部材32に形成された係合孔34に係合させ、座面係合部片14と座面部材32の相対的抜き方向の作用力に対して両者を抜き方向に一体化している。
【0015】
図5に第一実施例においてクリップ構造体12を被取付部材40に取付けた状態の部分断面図を示す。前述のクリップ構造体12のクリップ本体10を、被取付部材40の表面側44から取付孔42に挿入して、取付部材30が被取付部材40に取付けられる。
図5に示すとおり、取付係止片20の係り斜面24が被取付部材40の裏面側46に係止しており、取付係止片20の脚片28が座面部材32のリブ36に当接している。そのため取付部材30を被取付部材40から取り外すためには、取付係止片20が被取付部材40の裏面側46に係止する箇所と、座面部材32のリブ36に当接する箇所で、取付係止片20を逆方向に曲げて取付係止片20を取付孔42から外すことが必要となる。
【0016】
図6に第一実施例においてクリップ構造体12の被取付部材40の裏面側46への係止が終了する直前の状態を示す。抜去が進み係り斜面24の被取付部材40の裏面側46への係止が終了すると引き続きストレート面26が被取付部材40の裏面側46に掛かる。ここで、取付係止片20は、係り斜面24の上端の間隔が取付孔42の幅に押し縮められて、係止片基部22を基点に内側へ曲げられているため、自由状態でほぼ垂直方向のストレート面26は、下方が内側を向いて係止斜面となる。そこでストレート面26が新たに被取付部材40の裏面側46に係止する。そして、図6に示したストレート面26の上端が被取付部材40の裏面側46に係るときに保持荷重に相当する抗力が生じる。このようにクリップ本体10の係り斜面24に続けてストレート面26を設けたことで、被取付部材40の裏面側46への係止による抗力が生じるストロークを長くすることができる。
【0017】
ところで、脚片28が座面部材32に当接しなければ、取付部材30を被取付部材40から取り外すためには、取付係止片20を係止片基部22を基点として撓ませることで足りる。このために必要な力に比べて、前述の取付係止片20を係り斜面24及びストレート面26が被取付部材40の裏面側46に係止する箇所と脚片28が座面部材32のリブ36に当接する箇所で取付係止片20を逆方向に曲げるために必要な力の方が大きい。すなわち、第一実施例では、座面部材32に取付係止片20の脚片28を当接させることより、脚片28が座面部材32に当接しない場合に比べて保持荷重を高くすることができる。
【0018】
図7は第一実施例において衝撃荷重を受けた直後の取付状態を表す。第一実施例ではストレート面26の存在により被取付部材40の裏面側46への係止による効力が生じるストロークが長くなっており、クリップ構造体12の被取付部材40からの外れを遅延させる。そのため、保持荷重を越える衝撃荷重を受けたときに、図7に示すように、クリップ構造体12はストレート面26が係止斜面となって被取付部材40の裏面側46に係止した状態で、とどまることができる。
そして、取付係止片20はストレート面26が被取付部材40の裏面側46で被取付部材40に係止する箇所と脚片28が座面部材32のリブ36に当接する箇所で逆方向に曲げられており、衝撃荷重を受ける前の係止位置及び当接位置に戻ろうとする弾発力を有する。そこで、衝撃荷重が去った後は、取付係止片20の弾発力により被取付部材40の裏側面46への係止位置が係り斜面24に戻り、クリップ構造体12が当初の取付状態の位置に戻ることとなる。
【0019】
図8は第一実施例の比較例として実施した、ストレート面26の無いクリップ本体10bを使用したクリップ構造体12bを被取付部材40に取付けた状態の部分断面図である。比較例では、クリップ構造体12bに被取付部材40から外れる方向に力が加わった場合、被取付部材40の裏面側46が係り斜面24に係止する位置が、係り斜面24に沿って上方に移動するのに従い、取付係止片20が互いに近接する方向に曲げられ、その反発力が抗力となる。そして被取付部材40の裏面側46が係り斜面24に係止する位置が係止肩25に達するとき取付係止片20の反発力により保持荷重相当の抗力を生じ、それ以降は係り斜面24による取付孔42への係止による抗力は無くなり、係止肩25の取付孔42への摩擦力が抗力となるため、クリップ本体10bによる抜け方向の抗力は速やかに減少する。すなわち、ストレート面26の無いクリップ本体10bでは保持加重に相当する抗力を生じるまでのストロークは短い。
図9に、第一実施例と比較例における荷重とストロークの関係を示す。図9に示すとおり、第一実施例では、比較例に比べて保持荷重が最大となるまでのストロークが長い。ここで、荷重とストロークの積は抜去に必要なエネルギーを表すが、第一実施例は比較例に比べて加重とストロークの積(荷重曲線の下の面積)が大きく、抜去に必要なエネルギーが大きい。よって、第一実施例の取付構造は、比較例の取付構造に比べて、衝撃荷重に対して、取付部材30が被取付部材40から外れにくいという特徴を有する。
なお、第一実施例で保持荷重が最大になった後、荷重の低下が比較例に比べてなだらかとなっているのは、ストレート面26の被取付部材40の裏面側46への係止が失われた後も、ストレート面26の上方に続く取付係止片20の上部がほぼ垂直な状態となり取付係止片20の上部が取付孔42に対して一定の幅で面で接することによる摩擦力が生じるためである。
【0020】
次に、本発明の第二実施例について説明する。図10は本発明の第二実施例における座面部材32bの外観図である。第一実施例の座面部材32と比べて,下部のリブが省略されている。クリップ本体10は第一実施例と同じものを使用している。
図11に第二実施例においてクリップ構造体を被取付部品に取付けた状態の部分断面図を示す。クリップ本体10は、取付係止片20の係り斜面24が被取付部材40の裏面側46に係止しており、取付係止片20の脚片28は座面部材32には当接してない。そのため取付部材30を被取付部材40から取り外すためには、取付係止片20を係止片基部22を基点として撓ませて係り斜面24及びストレート面26を取付孔42外すことで足りる。
【0021】
図12に第二実施例においてクリップ構造体12bの被取付部材40の裏面側46への係止が終了する直前の状態を示す。抜去が進み係り斜面24の被取付部材40の裏面側46への係止が終了すると引き続きストレート面26が被取付部材40の裏面側46に掛かる。この時の抜け方向に対する抗力はほほ保持荷重に相当する。ここで、取付係止片20は、係り斜面24の上端部の間隔が取付孔42の幅に押し縮められて、係止片基部22を基点に内側へ曲げられているため、自由状態でほほ垂直方向のストレート面26は、下方が内側を向いて傾止斜面となる。そこでストレート面26が新たに被取付部材40の裏面側46に係止する。そして、図12に示したストレート面26の上端が被取付部材40の裏面側46に係るときに保持荷重に相当する抗力が生じる。このようにクリップ本体10の係り斜面24に続けてストレート面26を設けたことで、被取付部材40の裏面側46への係止による抗力が生じるストロークを長くすることができる。
【0022】
第二実施例においては、クリップ構造体12bが被取付部材40から外れる直前に、脚片28の先端が取付部材32bに当接する。そのため、実際の保持荷重は取付係止片20を係止片基部22を支点として撓ませて係り係り斜面24及びストレート面26を取付孔42から外すために必要な力より若干増加している。
ここで、第一実施例と第二実施例を比較すると、第二実施例の方が保持荷重は小さい。そして、第一実施例と第二実施例では使用しているクリップ本体10は同じものである。そこで、第一実施例と第二実施例を併用することで、座面の取付部材の形状を変えることで、同じクリップ本体10を用いて保持荷重を異ならせることができることとなる。
ここでは第二実施例の座面部材としてリブのない座面部材32bを使用したが、リブのある座面部材でリブの厚みが第一実施例より薄く、かつ、取付状態でクリップ本体10の脚片28が座面部材のリブに当接するものを用いることによっても、第一実施例と併用することで、同じクリップ本体10を用いて保持荷重を異ならせることもできる。
【0023】
図13は第二実施例において衝撃荷重を受けた直後の取付状態を表す。第二実施例においても、ストレート面26の存在により、被取付部材40の裏面側46への係止による抗力が生じるストロークが長くなっており、クリップ構造体12の被取付部材40からの外れを遅延させるため、保持荷重を越える衝撃荷重を受けたとき、図13に示すように、クリップ構造体12bはストレート面26が被取付部材40の裏面側46に係止した状態で、とどまることができる。
そして、取付係止片20はストレート面26が被取付部材40の裏面側46で被取付部材40に係止するように変形されているため、衝撃荷重を受ける前の係止位置に戻ろうとする弾発力を有する。そこで、衝撃荷重が去った後は、取付係止片20の弾発力により被取付部材40の裏側面46への係止位置が係り斜面24に戻り、クリップ構造体12が当初の取付状態の位置に戻ることとなる。
【0024】
図14に本発明の第一実施例の変形例である座面部材32cの外観図を示す。第一実施例との違いは、座面部材の下部の厚みをリブの付加ではなく、座面部材自体の厚みを面として厚くしたことである。なお、第一実施例及びこの変形例では、座面部材の下部全体を厚くしているが、厚みを厚くする範囲を脚片が当接する部分に限定することもできる。
その他、本発明はその発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一実施例におけるクリップ本体の自由状態での正面図である。
【図2】第一実施例におけるクリップ本体の自由状態での外観図である。
【図3】第一実施例における座面部材の外観図である。
【図4】第一実施例におけるクリップ構造体の部分断面図である。
【図5】第一実施例においてクリップ構造体を被取付部品に取付けた状態の部分断面図である。
【図6】第一実施例においてストレート面の被取付部材への係止が終了する直前の状態を示す部分断面図である。
【図7】第一実施例において衝撃荷重を受けた直後の取付状態を示す図である。
【図8】ストレート面の無いクリップを使用した取付状態の部分断面図である。
【図9】ストローク比較表である。
【図10】第二実施例における座面部材の外観図である。
【図11】第二実施例においてクリップ構造体を被取付部品に取付けた状態の部分断面図である。
【図12】第二実施例においてストレート面の被取付部材への係止が終了する直前の状態を示す部分断面図である。
【図13】第二実施例において衝撃荷重を受けた直後の取付状態を示す図である。
【図14】変形実施例における座面部材の外観図である。
【図15】従来のクリップによる取付構造を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10 クリップ本体
10b クリップ本体
12 クリップ構造体
12b クリップ構造体
14 座面係合部片
16 係合突部
20 取付係止片
22 係止片基部
24 係り斜面
25 係止肩
26 ストレート面
28 脚片
30 取付部材
32 座面部材
32b 座面部材
32c 座面部材
34 係合孔
36 リブ
38 板厚部
40 被取付部材
42 取付孔
44 表面側
46 裏面側


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材に装着される取付部材に突設状態で配設される座面部材に樹脂製のクリップ本体を取付けたクリップ構造体を、被取付部材に形成された取付孔に該被取付部材の挿入方向表面側から裏面側に向けて挿入して、取付部材を被取付部材に着脱可能に取付けるクリップによる取付構造であって、
前記樹脂製のクリップ本体は、内側に形成される、前記座面部材を挟持する一対の座面係合部片と、外側に形成される、前記被取付部材の取付孔に係止する係り斜面とその上部のストレート面を外方に突起形成し拡開方向に弾発力を付与された一対の取付係止片とを有し、前記一対の座面係合部片には前記座面部材との間に該両者間の相対的抜き方向の作用力に対して該両者を抜き方向に一体化する一体化手段が設けられており、前記一対の取付係止片には挿入方向後方に向けて脚片が延設形成されており、該延設形成された脚片の挿入方向後端は前記座面係合部片の挿入方向後端より後方位置となる構成に形成されており、
前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、該クリップ構造体が前記取付孔から抜ける方向に衝撃荷重を受けたとき、前記取付係止片の係り斜面に続くストレート面がクリップ構造体の前記取付孔からの外れを遅延させるため該クリップ構造体が取付孔から抜けにくいことを特徴とするクリップによる取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載のクリップによる取付け構造であって、
前記座面係合部片と前記座面部材との間の該両者を抜き方向に一体化する一体化手段は、前記座面部材に形成された係合孔と、該係合孔に係合する前記座面係合部片に設けられた係合突部であることを特徴とするクリップによる取付構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のクリップによる取付構造であって、
前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、座面部材は前記取付係止片の脚片が当該座面部材に当接する厚みとされており、前記座面部材の前記クリップ本体の座面係合部片に挟持される部分の厚みよりもそれ以降の挿入方向後方位置の厚みが厚いことを特徴とするクリップによる取付構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のクリップによる取付構造であって、
前記座面部材は前記クリップ本体の座面係合部片に挟持される部分の厚みは同じであるがそれ以降の挿入方向後方位置の厚みが異なる第1の座面部材と第2の座面部材とを備え、該挿入方向後方位置の厚みが、前記クリップ構造体を前記取付孔に挿入して取付けた状態で、第1の座面部材が前記取付係止片の脚片が当該第1の座面部材に当接しない厚みとされるときは、第2の座面部材は前記取付係止片の脚片が当該第2の座面部材に当接する厚みとされており、第1の座面部材が前記取付係止片の脚片が当該第1の座面部材に当接する厚みとされるときは、第2の座面部材は前記取付係止片の脚片が当該第2の座面部材に対し前記第1の座面部材に当接するよりもより強く当接する厚みとされており、
前記クリップ本体を該第1の座面部材あるいは第2の座面部材を選択して取付けることにより、取付部材の被取付部材に対する取付け状態の保持荷重を異ならせることができることを特徴とするクリップによる取付構造。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のクリップによる取付構造であって、
前記座面部材(前記第1の座面部材及び前記第2の座面部材を含む)の挿入方向後方位置の厚みはリブ形状又は面形状により形成されていることを特徴とするクリップによる取付構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの請求項に記載のクリップによる取付構造であって、
前記衝撃荷重を受けた後、前記係止脚の弾性により前記クリップ構造体が当初の取付状態の位置に戻ることを特徴とするクリップによる取付構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−8138(P2009−8138A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168913(P2007−168913)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000208293)大和化成工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】