説明

クリップ及び結合構造

【課題】クリップによって結合すべき2部材のクリップ取付部に相対的な位置ずれがあっても、2部材を正規の位置関係で結合することができるクリップを、従来のものより少ない部品点数によって構成し、併せて組付作業性を改善すること。
【解決手段】ピン部材20とグロメット部材50とをスライド可能な状態で抜け止め係合する構造とし、そのスライド移動を許容してピン部材20とグロメット部材50との挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制する回転規制係合部(38、64)をピン部材20とグロメット部材50とに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリップ及び結合構造に関し、特に、クリップによって結合すべき2部材のクリップ取付部に相対的な心ずれがあっても2部材を結合することができるクリップ及び結合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車内パネルに天井ランプのような内装品を取り付けるためのクリップとして、雌側嵌合部を有して車内パネルと内装品の何れか一方に取り付けられる雌取付部材と、他方に取り付けられるピン部材と、前記ピン部材がピン軸方向と直交する方向(径方向)に対してスライド可能に嵌合する雄側嵌合部を有して雌側嵌合部に回転可能に嵌合する雄取付部材の3部品からなるクリップが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このクリップによれば、雌取付部材と雄取付部材との相対的な回転変位と、ピン部材と雄取付部との相対的な径方向変位との組み合わせによって、ピン部材を雌取付部材に対してピン部材の中心軸線周りのあらゆる向きの径方向にもオフセット配置でき、車内パネルと内装品に形成されている雌取付部材の取付部とピン部材の取付部とに相対的な位置ずれ(心ずれ)があっても、車内パネルの正規の位置に内装品を取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のクリップは、雌取付部材とピン部材と雄取付部材の3部品を必要とし、部品点数が多い。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、車内パネルに内装品を取り付ける等、クリップによって結合すべき2部材のクリップ取付部に相対的な位置ずれがあっても、2部材を正規の位置関係で結合することができるクリップを、従来のものより少ない部品点数によって構成し、併せて組付作業性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるクリップは、第1の部材(1)と第2の部材(2)とを結合するクリップ(10)であって、ピン部材(20)と、グロメット部材(50)とにより構成され、前記ピン部材(20)は、フランジ部(22)と、前記フランジ部(22)の一方の側に一体形成され、前記第2の部材(2)に結合されるべきピン係合部(24)と、前記フランジ部(22)の他方の側に一体形成されたピン本体部(32)とを有し、前記グロメット部材(50)は、前記第1の部材(1)に結合されるべきグロメット係合部(54)と、前記ピン本体部(32)を挿入されることにより、前記ピン本体部(32)が当該ピン本体部(32)の挿入方向とは異なる第1の方向に所定のストロークに亘ってスライド可能な状態で抜け止め係合するピン係合孔(60)を画定するグロメット本体部(54)とを一体に有し、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)とが挿入方向に沿う軸線周りの所定の相対回転位置にて互いに係合し、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との前記第1の方向の相対的なスライド移動を許容して前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制する回転規制係合部(38、64)が前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)とに形成されている。
【0008】
この構成によれば、回転規制係合部(38、64)の係合によって、結合状態のピン部材(20)とグロメット部材(50)との挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制することができ、組み付け前のピン部材(20)とグロメット部材(50)との相対位置関係が一義的に決まり、クリップ(10)の第1の部材(1)、第2の部材(2)に対する組付作業性が改善される。
【0009】
本発明によるクリップは、好ましい一つの実施形態として、前記ピン本体部(32)は先端に係合頭部(36)を有し、前記ピン本体部(32)が前記ピン係合孔(60)に挿入されて前記挿入方向に沿う軸線周りに所定回転角度だけ回転変位することにより、前記係合頭部(36)が前記ピン係合孔(60)の開口縁部(60A)に係合し、前記ピン本体部(32)と前記ピン係合孔(60)との抜け止め係合をロックし、当該ロック状態で、前記回転規制係合部(38、64)により前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位が規制される。
【0010】
この構成によれば、ピン本体部(32)とピン係合孔(60)との抜け止め係合をロックしてその抜け止め係合を強固なものにすることができた上で、組み付け前のピン部材(20)とグロメット部材(50)との相対位置関係が一義的に決まり、クリップ(10)の第1の部材(1)、第2の部材(2)に対する組付作業性が改善される。
【0011】
本発明によるクリップは、好ましい一つの実施形態として、前記回転規制係合部は、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との何れか一方に形成された矩形形状の先端が自由端である片持ちの弾性係合片(38)と、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との何れか他方に形成されて前記弾性係合片(38)が係合する係合凹部(60)とにより構成され、前記係合凹部(60)は、前記第1の方向に長い矩形をなしていて、前記弾性係合片(38)が前記係合凹部(60)に当該係合凹部(60)の長手方向にスライド可能に嵌り込むことにより、前記回転変位を規制し、且つ前記スライド移動を許容する。
【0012】
この構成によれば、回転規制係合部を簡単に構成することができる。
【0013】
本発明によるクリップは、好ましい一つの実施形態として、前記弾性係合片(38)は、対称配置で対をなし、各々、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との対向面より相手側に対して所定の傾斜角をもって立ち上がり、前記係合凹部(60)に長手方向の両端から当該係合凹部(60)の端縁に押し付けられた状態で先端側が前記係合凹部(60)に嵌り込んでいる。
【0014】
この構成によれば、ピン部材(20)とグロメット部材(50)とが第1の方向にずれると、片側の弾性係合片(38)の弾性変形が大きくなることにより、弾性係合片(38)の反力が増し、ずれをなくすセンタリング作用が得られる。
【0015】
本発明によるクリップは、好ましい一つの実施形態として、前記ピン係合孔(60)は、第1の方向に長い長孔であり、当該ピン係合孔(60)の側部の第1の方向の中央部に、前記ピン本体部(32)がクリックストップ式に係合する凹部(62)を有する。
【0016】
この構成によれば、ピン本体部(32)が凹部(62)にクリックストップ式に係合することにより、ピン部材(20)とグロメット部材(50)との第1の方向の相対的な初期位置を設定することができ、クリップ(10)の第1の部材(1)、第2の部材(2)に対する組付作業性を更に改善することができる。
【0017】
本発明によるクリップは、好ましい一つの実施形態として、前記グロメット係合部(54))と前記ピン係合部(24)との何れか一方が、前記第1の部材(1)と前記第2の部材(2)の対応するものに対して、前記挿入方向及び前記第1の方向のいずれとも異なる第2の方向にスライド可能な状態で抜け止め係合するスライド可能係合部として構成されている。
【0018】
この構成によれば、第1の部材(1)に形成されているグロメット取付孔(3)と第2の部材(2)に形成されているピン取付孔(4)とに、製作上の相対的な位置ずれが2方向にあっても、、ピン部材20とグロメット部材(50)の2部品によるクリップによって、第1の部材(1)と第2の部材(2)とを正規の位置関係で結合させることができる。
【0019】
本発明による結合構造は、第1の部材(1)と第2の部材(2)とを結合する結合構造であって、ピン部材(20)と、グロメット部材(50)とにより構成されたクリップ(10)を具備し、前記第1の部材(1)にはグロメット取付孔(3)が形成され、前記第2の部材(2)にはピン取付孔(4)が形成され、前記ピン部材(20)は、フランジ部(22)と、前記フランジ部(22)の一方の側に一体形成され、前記ピン取付孔(4)に挿入されて前記第2の部材(2)に抜け止め係合するピン係合部(20)と、前記フランジ部(22)の他方の側に一体形成されたピン本体部(32)とを有し、前記グロメット部材(50)は、前記第1の部材(1)に結合されるべきグロメット係合部(54)と、前記ピン本体部(34)を挿入されることにより、前記ピン本体部(34)が当該ピン本体部(34)の挿入方向とは異なる第1の方向に所定のストロークに亘ってスライド可能な状態で抜け止め係合するピン係合孔(60)を画定するグロメット本体部(54)とを一体に有し、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)とが挿入方向に沿う軸線周りの所定の相対回転位置にて互いに係合し、前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との前記第1の方向の相対的なスライド移動を許容して前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(50)との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制する回転規制係合部(38、60)が前記ピン部材(20)と前記グロメット部材(60)とに形成され、前記グロメット取付孔(3)と前記ピン取付孔(4)との何れか一方は、前記グロメット係合部(54)あるいは前記ピン係合部24)を前記挿入方向及び前記第1の方向のいずれとも異なる第2の方向に移動可能に受け入れ、前記グロメット係合部(54)と前記ピン係合部(24)との何れか一方が、前記第1の部材(1)と前記第2の部材(2)に対応するものに対して前記第2の方向にスライド可能な状態で抜け止め係合するスライド可能係合部として構成されている。
【0020】
この結合構造によれば、第1の部材(1)に形成されているグロメット取付孔(3)と第2の部材(2)に形成されているピン取付孔(4)とに、製作上の相対的な位置ずれがあっても、ピン部材(20)とグロメット部材(50)との第1の方向のスライド移動と、グロメット部材(50)と第2の部材(2)との第2の方向のスライド移動あるいはピン部材(20)と第1の部材(1)との第2の方向のスライド移動により、ピン部材(20)とグロメット部材(50)との2部品によるクリップ(10)によって、第1の部材(1)と第2の部材(2)とを正規の位置関係で結合させることができる。さらに、回転規制係合部(38、64)の係合によって、結合状態のピン部材(20)とグロメット部材(50)との挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制することができ、組み付け前のピン部材(20)とグロメット部材(50)との相対位置関係が一義的に決まり、クリップ(10)の第1の部材(1)、第2の部材(2)に対する組付作業性が改善される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるクリップは、回転規制係合部の係合によって、結合状態のピン部材とグロメット部材との挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制することができ、組み付け前のピン部材とグロメット部材との相対位置関係が一義的に決まり、クリップの第1の部材、第2の部材に対する組付作業性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるクリップ及び結合構造の一つの実施形態を示す分解斜視図。
【図2】本実施形態によるクリップに用いられるピン部材の斜視図。
【図3】本実施形態によるクリップに用いられるグロメット部材の上下反転の斜視図。
【図4】本実施形態によるクリップの端面図。
【図5】本実施形態によるクリップの正面図。
【図6】本実施形態によるクリップの平面図。
【図7】本実施形態によるクリップの結合過程を示す分解斜視図。
【図8】図6のA−A断面図。
【図9】ピン部材とグロメット部材とがX方向にずれた状態での図6のA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明によるクリップ及び結合構造の一つの実施例を、図1〜図11を参照して説明する。尚、以下の各図において、左右方向(第1の方向)をX方向、前後方向(第2の方向)をY方向と定義する。
【0024】
図1に示されているように、クリップ10は、互いに結合可能なピン部材20とグロメット部材50とにより構成され、車体パネルのような第1の部材1と、内装部品のような第2の部材2とを結合するために用いられる。換言すると、クリップ10は、第1の部材1に第2の部材2を取り付けるために用いられる。
【0025】
第1の部材1には、グロメット部材50の取り付けのために、四角孔によるグロメット取付孔3が貫通形成されている。第2の部材2には、ピン部材20の取り付けのために、丸孔によるピン取付孔4が貫通形成されている。
【0026】
ピン部材20とグロメット部材50とは、各々、ポリアセタール(POM)やポリアミド(PA)等の適当なプラスチックによる射出成形品である。
【0027】
まず、ピン部材20の構造を、図2、図4、図5を参照して説明する。ピン部材20は、平らな四角形板状のフランジ部22と、フランジ部22の一方の側(下側)の中央部に突出形成されたピン係合部24と、フランジ部22の他方の側(上側)の中央部に突出形成されたピン本体部32とを一体に有する。
【0028】
ピン係合部24は、第2の部材2のピン取付孔4(図1参照)に挿入されることにより、ピン部材20を第2の部材2に固定装着するためのものであり、ピン取付孔4の内径に等しいか、或いは少し小さい外径による略円筒状をなしている。
【0029】
本実施形態では、ピン係合部24の外周部にはキー状の廻り止め突条26がピン係合部24の母線方向に沿って突出形成されている。廻り止め突条26はピン係合部24の中心軸線周りに互いに180度回転変位した2箇所に各々設けられている。このことを受けて、第2の部材2のピン取付孔4は、廻り止め突条26が係合する廻り止め凹部5を拡大形成されている(図1参照)。
【0030】
ピン係合部24には当該ピン係合部24に貫通形成された門形スリット28によって外郭をなす弾性爪片部30が形成されている。弾性爪片部30は、ピン係合部24の中心軸線周りに互いに180度回転変位し、且つ廻り止め突条26とは90度回転変位した2箇所に形成されており、各々、ピン係合部24の軸線方向で見てフランジ部22の側が遊端になるばね片をなし、径方向外方に突出した傾斜部30Aと段差部30Bとによる逆止形状をしている。
【0031】
ピン本体部32は、横断面形状が十字形のピン柱部34と、ピン柱部34の先端に形成された長円形状の係合頭部36とを一体に有する。係合頭部36は、短幅寸法(X方向の横幅寸法)がピン柱部34の外郭寸法(十字形の最大長寸法)に等しいか、それより小さく、長手方向寸法(Y方向寸法)がピン柱部34の外郭寸法より大きい寸法になっており、ピン柱部34のY方向の両側においてピン柱部34よりY方向外方に張り出した張出部36Aを有する。
【0032】
フランジ部22のY方向の両辺部には、各々、弾性係合片38が一対ずつ互いに平行に形成されている。弾性係合片38は、ピン部材20側の回転規制係合部であり、X方向に長い矩形形状をしていて、一端(基端)38Aのみをフランジ部22に連結され、先端(他端)38Bが自由端の片持ち片である。
【0033】
弾性係合片38は、フランジ部22のY方向の各辺部において対をなすもの同士で、X方向の中央位置の両側に対称配置で、各々、X方向の外側に位置する基端38AをY方向に延在するヒンジ軸とする弾性ヒンジとして傾斜度を増減する方向に弾性変形可能になっており、自由状態(外部より荷重をかけられていない状態)では、図2に示されているように、フランジ部22の上面(グロメット部材50との対向面)より上方に所定の傾斜角をもって立ち上がり、Y方向から見て対をなすもの同士で山形をなしている。
【0034】
つぎに、グロメット部材50の構造を、図3〜図6を参照して説明する。なお、図3は上下反転の斜視図である。グロメット部材50は、四角形板状のフランジ部52と、フランジ部52の一方の側(上側)に一体形成された中空箱形のグロメット本体部54とを有する。
【0035】
グロメット本体部54は、X方向に長い中空の長方体形状をして、第1の部材1のグロメット取付孔3(図1参照)に挿入されることにより、グロメット部材50を第1の部材1に取り付けるグロメット係合部を兼ねている。
【0036】
グロメット本体部54のX方向の両端壁54A、54Bには、各々、端壁54A、54Bに貫通形成された門形スリット56によって外郭をなす弾性爪片部58が形成されている。弾性爪片部58は、各々、フランジ部52の側が遊端になっていて、外方に突出した傾斜部58Aと段差部58Bとによる逆止形状をしている。弾性爪片部58を有するグロメット本体部(グロメット係合部)54は、グロメット取付孔3のX方向の両開口縁部に、ピン挿入方向及び第1の方向(X方向)のいずれとも異なる第2の方向、本実施形態では、同一平面においてX方向と直交するY方向にスライド可能に抜け止め係合するスライド可能係合部をなしている。なお、弾性爪片部58は、良好なスライド性を確保するために、Y方向に幅を有する幅広爪で、段差部58BはX方向とY方向に延在する平面をなしている。
【0037】
図1に示されているように、第1の部材1に形成されているグロメット取付孔3のX方向寸法は、グロメット本体部54のX方向の両端壁54Aと54Bとの外側間隔に等しいか、或いはそれより少し大きい寸法に設定されている。グロメット取付孔3のY方向寸法Lhは、グロメット本体部54のY方向の前後壁54Cと54Dとの外側間隔Lgより十分大きい寸法に設定されている。
【0038】
フランジ部52がグロメット本体部54の底部をなす部分には、X方向に長い矩形のピン係合孔60が貫通形成されている。なお、本実施形態では、フランジ部52の一部がグロメット本体部54の底部をなしていることから、フランジ部52がグロメット本体部54の底部をなす部分はグロメット本体部54の一部であるとする。
【0039】
ピン係合孔60のY方向の横幅寸法は、ピン柱部34の外郭寸法にほぼ等しいか、それより少し大きい。ピン係合孔60のY方向の両側部のX方向中央部にはクリックストップ用凹部62が形成されている。これにより、ピン係合孔60はX方向中央部が他の部分より幅広になっている。
【0040】
フランジ部52のY方向の両辺近傍部には、X方向に長い矩形の回転規制用係合孔64が互いに平行に貫通形成されている。回転規制用係合孔64は、グロメット部材50側の回転規制係合部であり、X方向に所定の寸法を有し、Y方向の横幅寸法は弾性係合片38のY方向の横幅寸法に等しいか、それより少し大きい。回転規制用係合孔64には、ピン部材20とグロメット部材50とが結合されることにより、弾性係合片38がX方向にスライド可能に係合する。
【0041】
つぎに、上述の構成によるクリップ10を用いて第1の部材1に第2の部材2を取り付ける手順の一例について、図1〜図7を参照して説明する。
【0042】
まず、図7に示されているように、ピン部材20とグロメット部材50とのピン挿入方向に沿う軸線廻りの相対回転位置を、ピン本体部32の張出部36Aがピン係合孔60の長手方向に沿う相対回転位置、つまり、ピン部材20とグロメット部材50との正規の結合状態での相対回転位置(図1参照)より前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りに90度回転変位させた相対回転位置であって、係合頭部36の短幅方向がピン係合孔60の横幅方向に合致し、係合頭部36がピン係合孔60を通過し得る相対回転位置とし、ピン本体部32をフランジ部52の側からピン係合孔60に挿入する。
【0043】
係合頭部36がピン係合孔60を通過した後、この挿入可能な相対回転位置(図7参照)よりピン部材20とグロメット部材50との前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りに90度回転変位させる(図1参照)。これにより、図4、図6に示されているように、張出部36Aがピン係合孔60の両側の開口縁部60Aに係合し、ピン本体部32とピン係合孔60との抜け止め係合がロックされ、ピン部材20とグロメット部材50とが、ピン係合孔60の長手方向の寸法によって決まるストロークに亘って互いにX方向に相対変位可能に結合される。
【0044】
ピン本体部32をフランジ部52の側からピン係合孔60に挿入する過程では、弾性係合片38がグロメット部材50のフランジ部52の底面に押し付けられてフランジ部22よりの立ち上がりをなくす方向に弾性変形し、フランジ部22よりの立ち上がりをなくすことにより、弾性係合片38がピン部材20とグロメット部材50との前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りの回転変位を阻害することはない。
【0045】
挿入可能な相対回転位置(図7参照)よりピン部材20とグロメット部材50との90度回転変位させた相対回転位置(図1参照)では、図8に示されているように、弾性係合片38の先端側が自身の復元力によって回転規制用係合孔64にX方向(回転規制用係合孔64の長手方向)にスライド可能に嵌り込む。
【0046】
これにより、ピン本体部32とピン係合孔60との抜け止め係合がロックされた状態で、ピン部材20とグロメット部材50とのX方向の相対的なスライド移動を許容して、ピン部材20とグロメット部材50との前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りの回動変位が規制される。つまり、所定値以上の力が加わらないと、ピン部材20とグロメット部材50とが前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りに回動変位せず、ピン部材20とグロメット部材50とが図1に示されているような正規の結合状態での相対回転位置に安定維持される。
【0047】
この結合状態では、図8に示されているように、弾性係合片38は、回転規制用係合孔64の長手方向の両端から当該回転規制用係合孔64の端縁に弾性変形を伴って押し付けられた状態で先端側が回転規制用係合孔64に嵌り込むことにより、ピン部材20とグロメット部材50とが結合状態で、ピン挿入方向にがた付くことが回避される。
【0048】
また、ピン本体部32のピン柱部34がクリックストップ用凹部62に係合することにより、ピン本体部32がピン係合孔60のX方向中央部に位置している事を、作業者の指先に与えられる節度感、つまり、クリックストップ作用によって作業者に的確に知らせることができる。
【0049】
このようにして、第1の部材1と第2の部材2に対する組み付け前の結合状態のピン部材20とグロメット部材50との相対的な位置関係を、前記ピン挿入方向に沿う軸線廻りの相対回転位置とX方向の相対スライド位置の双方について、標準的な位置関係に的確に設定することができる。
【0050】
上述のように、グロメット部材50とピン部材20とが結合された状態では、弾性片部56は、ピン部材20のフランジ部22に弾性変形を伴って押し付けられる。この押し付けの反力によって先端側突起部34が突部61に、抜け出し方向に突部61を乗り越えない程度の押圧力をもって押し付けられ、ピン部材20とグロメット部材50とがピン挿入方向にがた付くことが回避される。
【0051】
つぎに、上述のように結合されたクリップ10のピン部材20のピン係合部24を、廻り止め突条26が第2の部材2の廻り止め凹部5に整合する回転位置関係をもって、第2の部材2のピン取付孔4に、弾性爪片部30を径方向内側に弾性変形させつつ挿入する。弾性爪片部30がピン取付孔4を通過して挿入が完了すると、弾性爪片部30の段差部30Bがピン取付孔3の開口縁部に当接し、抜け止めされる。
【0052】
この組み付けにおいて、廻り止め突条26が廻り止め凹部5に係合することにより、ピン部材20が廻り止め状態で第2の部材2に所定の回転位置関係をもって固定される。これに伴いピン部材20に廻り止め結合しているグロメット部材50も第2の部材2に対して所定の回転位置関係をもって配置される。
【0053】
つぎに、クリップ10を取り付けられた第2の部材2を第1の部材1に近付け、グロメット部材50のグロメット本体部54を第1の部材1のグロメット取付孔3に、弾性爪片部58を内側に弾性変形させつつ挿入する。
【0054】
この挿入作業は、弾性係合片38と回転規制用係合孔64との係合によってグロメット部材50がピン部材20に対して廻り止めされた一義的に決まる回転位置にあることにより、グロメット本体部54とグロメット取付孔3とのピン挿入方向に沿う軸線廻りの回転位置関係が互いに整合する適正な位置関係に保たれるので、グロメット取付孔3に対するグロメット本体部54の挿入作業が、簡単に作業性よく行われ得るようになる。
【0055】
弾性爪片部58がグロメット取付孔3を通過して挿入が完了すると、弾性爪片部58の段差部58Bがグロメット取付孔3の開口縁部に当接する。これにより、グロメット部材50が第1の部材1に対してY方向に、寸法差La−Lbにより決まるストロークに亘ってスライド可能な状態で、抜け止め係合する。
【0056】
ピン部材20とグロメット部材50とは、同一平面(水平面)においてY方向と直交するX方向に、グロメット本体部58のピン係合孔60のX方向寸法によっ決まるストロークに亘ってスライド可能に抜け止め係合しているから、XY平面において、ピン取付孔4とグロメット取付孔43に、製作上の相対的な位置ずれが何れの方向にあっても、ピン部材20とグロメット部材50とのX方向のスライド移動と、グロメット部材50と第1の部材1とのY方向のスライド移動によって、第2の部材2を第1の部材1の正規の位置に位置させることができる。
【0057】
なお、グロメット部材50の第1の部材1に対するY方向のスライド移動は、フランジ部22の全体でなく、フランジ部22の上面に形成された突条部52Aが第1の部材1の下底面に摺接して行われるので、大きい摺動抵抗を伴うことなく滑らかに行われる。
【0058】
第1の部材1と第2の部材2との相対位置がY方向に大きくずれた場合には、図9に示されているように、片側の弾性爪片部58が大きく弾性変形し、大きいばね反力を生じることになる。このばね反力によって第1の部材1と第2の部材2とがY方向のずれをなくす方向に相対変位するセンタリング作用が生じる。これにより、第1の部材1と第2の部材2とがY方向に大きくずれた状態になることが回避される。
【0059】
このようにして、車内パネルに内装品を取り付ける等、クリップによって結合すべき2部材のクリップ取付部に相対的な位置ずれがあっても、2部材を正規の位置関係で結合することができるクリップを、ピン部材20とグロメット部材50の最小部品点数によって構成し、併せて組付作業性を改善することができる。
【0060】
なお、上述の実施例では、グロメット部材50が第1の部材1に対してY方向にスライド移動可能になっているが、スライド可能係合部をピン部材20に設けることにより、ピン部材20が第1の部材1に対してY方向にスライド移動可能になっていてもよい。回転規制係合部については、弾性係合片38がグロメット部材50に形成され、回転規制用係合孔64がピン部材20に形成される逆構成にすることも可能である。回転規制用係合孔64は、必ずしも貫通孔である必要なく、凹溝であってもよい。
【0061】
また、ピン部材20の廻り止め取り付けは、ピン係合部24に形成された廻り止め突条26とピン取付孔4の廻り止め凹部5との係合に限られることなく、ピン係合部24が、楕円、二面取り形状、四角等の非円形の横断面形状に形成され、ピン取付孔4がピン係合部24の横断面形状の補形をなすように形成されることによっても達成される。
【0062】
また、回転規制係合部を有する本発明によるクリップは、上述の実施形態のように、ピン本体部32がピン係合孔60に挿入されて挿入方向に沿う軸線周りに90度だけ回転変位することにより、係合頭部36がピン係合孔60の開口縁部60Aに係合し、ピン本体部32とピン係合孔60との抜け止め係合をロックする構造のものに限られることはなく、ピン本体部32がピン係合孔60に挿入されるだけで、ピン部材20とグロメット部材50とが結合される型式のクリップにも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 第1の部材
2 第2の部材
3 グロメット取付孔
4 ピン取付孔
5 廻り止め凹部
20 ピン部材
22 フランジ部
24 ピン係合部
26 廻り止め突条
30 弾性爪片部
32 ピン本体部
36 係合頭部
38 弾性係合片
50 グロメット部材
52 フランジ部
54 グロメット本体部
58 弾性爪片部
60 ピン係合孔
62 クリックストップ用凹部
64 回転規制用係合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材と第2の部材とを結合するクリップであって、
ピン部材と、グロメット部材とにより構成され、
前記ピン部材は、フランジ部と、前記フランジ部の一方の側に一体形成され、前記第2の部材に結合されるべきピン係合部と、前記フランジ部の他方の側に一体形成されたピン本体部とを有し、
前記グロメット部材は、前記第1の部材に結合されるべきグロメット係合部と、前記ピン本体部を挿入されることにより、前記ピン本体部が当該ピン本体部の挿入方向とは異なる第1の方向に所定のストロークに亘ってスライド可能な状態で抜け止め係合するピン係合孔を画定するグロメット本体部とを一体に有し、
前記ピン部材と前記グロメット部材とが挿入方向に沿う軸線周りの所定の相対回転位置にて互いに係合し、前記ピン部材と前記グロメット部材との前記第1の方向の相対的なスライド移動を許容して前記ピン部材と前記グロメット部材との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制する回転規制係合部が前記ピン部材と前記グロメット部材とに形成されているクリップ。
【請求項2】
前記ピン本体部は先端に係合頭部を有し、前記ピン本体部が前記ピン係合孔に挿入されて前記挿入方向に沿う軸線周りに所定回転角度だけ回転変位することにより、前記係合頭部が前記ピン係合孔の開口縁部に係合し、前記ピン本体部と前記ピン係合孔との抜け止め係合をロックし、当該ロック状態で、前記回転規制係合部により前記ピン部材と前記グロメット部材との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位が規制される請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記回転規制係合部は、
前記ピン部材と前記グロメット部材との何れか一方に形成された矩形形状の先端が自由端である片持ちの弾性係合片と、
前記ピン部材と前記グロメット部材との何れか他方に形成されて前記弾性係合片が係合する係合凹部とにより構成され、前記係合凹部は、前記第1の方向に長い矩形をなしていて、前記弾性係合片が前記係合凹部に当該係合凹部の長手方向にスライド可能に嵌り込むことにより、前記回転変位を規制し、且つ前記スライド移動を許容する請求項1または2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記弾性係合片は、対称配置で対をなし、各々、前記ピン部材と前記グロメット部材との対向面より相手側に対して所定の傾斜角をもって立ち上がり、前記係合凹部に長手方向の両端から当該係合凹部の端縁に押し付けられた状態で先端側が前記係合凹部に嵌り込んでいる請求項3に記載のクリップ。
【請求項5】
前記ピン係合孔は、第1の方向に長い長孔であり、当該ピン係合孔の側部の第1の方向の中央部に、前記ピン本体部がクリックストップ式に係合する凹部を有する請求項1から4の何れか一項に記載のクリップ。
【請求項6】
前記グロメット係合部と前記ピン係合部との何れか一方が、前記第1の部材と前記第2の部材の対応するものに対して、前記挿入方向及び前記第1の方向のいずれとも異なる第2の方向にスライド可能な状態で抜け止め係合するスライド可能係合部として構成されている請求項1から5の何れか一項に記載のクリップ。
【請求項7】
第1の部材と第2の部材とを結合する結合構造であって、
グロメット部材と、ピン部材とにより構成されたクリップを具備し、
前記第1の部材にはグロメット取付孔が形成され、前記第2の部材にはピン取付孔が形成され、
前記ピン部材は、フランジ部と、前記フランジ部の一方の側に一体形成され、前記ピン取付孔に挿入されて前記第2の部材に抜け止め係合するピン係合部と、前記フランジ部の他方の側に一体形成されたピン本体部とを有し、
前記グロメット部材は、前記第1の部材に結合されるべきグロメット係合部と、前記ピン本体部を挿入されることにより、前記ピン本体部が当該ピン本体部の挿入方向とは異なる第1の方向に所定のストロークに亘ってスライド可能な状態で抜け止め係合するピン係合孔を画定するグロメット本体部とを一体に有し、
前記ピン部材と前記グロメット部材とが挿入方向に沿う軸線周りの所定の相対回転位置にて互いに係合し、前記ピン部材と前記グロメット部材との前記第1の方向の相対的なスライド移動を許容して前記ピン部材と前記グロメット部材との前記挿入方向に沿う軸線周りの回転変位を規制する回転規制係合部が前記ピン部材と前記グロメット部材とに形成され、 前記グロメット取付孔と前記ピン取付孔との何れか一方は、前記グロメット係合部あるいは前記ピン係合部を前記挿入方向及び前記第1の方向のいずれとも異なる第2の方向に移動可能に受け入れ、前記グロメット係合部と前記ピン係合部との何れか一方が、前記第1の部材と前記第2の部材に対応するものに対して前記第2の方向にスライド可能な状態で抜け止め係合するスライド可能係合部として構成されている結合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167692(P2012−167692A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26839(P2011−26839)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】