説明

クリーニングシ―ト、及びこれを用いた基板処理装置のクリーニング方法

【課題】 本発明は、例えば、半導体、フラットパネルディスプレイ、プリント基板などの製造装置や検査装置など、異物を嫌う基板処理装置のクリーニングシート及びクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 クリーニング層が、電石(エレクトレット)化された物質からなる、又は/及びクリーニング層の表面電位が、0.1〜10KVの範囲であるクリーニングシートである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種の基板処理装置をクリーニングするシート、及びこれを用いた基板処理装置のクリーニング方法に関し、例えば、半導体、フラットパネルディスプレイ、プリント基板などの製造装置や検査装置など、異物を嫌う基板処理装置のクリーニングシート及びクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】各種基板処理装置は、各搬送系と基板とを物理的に接触させながら搬送する。その際、基板や搬送系に異物が付着していると、後続の基板を次々に汚染することになり、定期的に装置を停止させ、洗浄処理をする必要があった。このため、稼働率低下や多大な労力が必要になるという問題があった。これらの問題を解決するため、粘着性の物質を固着した基板を搬送することにより基板処理装置内の付着した異物をクリーニング除去する方法(特開平10−154686号)や板状部材を搬送することにより基板裏面に付着する異物を除去する方法(特開平11−87458号)が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】粘着性の物質を固着した基板を搬送することにより基板処理装置内の付着した異物をクリーニング除去する方法は、前述の課題を克服する有効な方法である。しかしこの方法では粘着性物質と装置接触部とが強く吸着しすぎて剥れない恐れがあり、基板を確実に搬送できなくなる恐れがあった。 特に、基板のチャックテーブルに減圧吸着機構が使われている場合は、その恐れが大である。また、板状部材を搬送することにより異物を除去する方法は、搬送は支障なくできるが、肝心の除塵性に劣るという問題がある。本発明は、このような事情に照らし、基板処理装置内に基板を確実に搬送できると共に、装置内に付着している異物を簡便かつ確実に除去できるクリーニングシートを提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、クリーニングあるいはこのシートを固着した基板等の搬送部材を搬送することにより、基板処理装置内の付着した異物をクリーニング除去するにあたり、クリーニング層として電石(エレクトレット)化された物質を用いることにより、もしくはクリーニング層の表面電位を特定範囲内にすることにより、前記問題を生じることなく、さらに異物を簡便かつ確実に剥離除去できることを見出し、本発明を完成するに至つた。
【0005】即ち、本発明は、クリーニング層が、電石(エレクトレット)化された物質からなるクリーニングシート(請求項1)、クリーニング層の表面電位が、0.1〜10KVの範囲であるクリーニングシート(請求項2)、さらにクリーニング層が、実質的に粘着性を有しないクリーニングシート(請求項3)、クリーニング層の引張り強さが1〜3000MPaであるクリーニングシート(請求項4)などに係るものである。
【0006】
【発明の実施の形態】第一の本発明のクリーニングシートにおいて、クリーニング層(以下、クリーニングシート単体、積層シート、もしくは支持体との積層シートなどの形態としてを含む)を電石化(以下、エレクトレット化という)する方法は、結果的にクリーニング層をエレクトレット化できる限り特に限定されないが、例えば、熱エレクトレット化法、常温コロナ法、置換コロナ法、熱コロナ法、EB法、メカノ法などを用いることができ、特に表面電位保持率の点からは、熱エレクトレット化法が好ましい。本発明においては、クリーニング層がエレクトレット化されているため、後述のようにクリーニング層が実質的に粘着性を有しない場合であっても、そのエレクトレット化によりクリーニング層が常に電気分極を保持し、周囲に電界を形成し、そのため強力な吸着力を持ち、その吸着力に起因して除塵効果が得られると考えられる。
【0007】かかるエレクトレット化される物質は、エレクトレット化できるものである限りその材料などは限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ弗化ビニリデン、弗化ビニリデン、三弗化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリマーや、後述の紫外線や熱などの活性エネルギー源により架橋反応や硬化が促進された硬化型感圧性接着剤組成物などが挙げられる。
【0008】また第二の本発明のクリーニング層(第一の本発明と同様に、クリーニングシート単体、積層シート、もしくは支持体との積層シートなどの形態としてを含む)は、その表面電位が0.10〜10KV、好ましくは0.14〜1KVである。 本発明においては、クリーニング層がかかる特定範囲の表面電位を有するため、後述のようにクリーニング層が実質的に粘着性を有しない場合であっても、周囲に電界を形成し、そのため強力な吸着力を持ち、その吸着力に起因して除塵効果が得られると考えられる。かかる表面電位を維持する方法は、特に限定されないが、例えば上述の如く、各種ポリマーをエレクトレット化したり、表面抵抗率を大きくするなどの方法が挙げられる。
【0009】また第一及び第二の本発明のクリーニング層は、さらに実質的に粘着性を有しないことが好ましい。 ここで実質的に粘着性を有しないとは、粘着の本質を滑りに対する抵抗である摩擦としたとき、粘着性の機能を代表する感圧性タックがないことを意味する。 この感圧性タックは、例えばDahlquistの基準にしたがうと、粘着性物質の弾性率が1MPaまでの範囲で発現する。 従って本発明においては、クリーニング層の弾性率が1MPaより大きくなるように、その引張り強さを特定範囲、すなわち1〜3000MPa、好ましくは100〜2000MPaの範囲内に設計することにより、搬送トラブルを発生することなく、異物を除去することができる。 ここで引張り強さは、試験法 JIS K7127に準じて測定したものである。
【0010】かかるクリーニング層は、紫外線や熱などの活性エネルギー源により架橋反応や硬化が促進されて、その引張り強さを大きくできるものが好ましい。 さらに、装置内の被クリーニング部とぬれにくいほうが好ましい。 ぬれやすいと搬送時にクリーニングシートが被クリーニング部に密着して、搬送トラブルとなる恐れがある。 またクリーニング層の厚さは特に限定されないが、通常5〜100μm程度である。
【0011】かかるクリーニング層の具体例としては、例えば感圧接着性ポリマーに分子内に不飽和二重結合を1個以上有する化合物と重合開始剤を少なくとも含有させたものを、活性エネルギーにより重合硬化反応させて粘着性が実質的に消失されてなるものが挙げられる。 かかる感圧接着性ポリマーとしては、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルから選ばれる(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルを主モノマーとしたアクリル系ポリマーが挙げられる。このアクリル系ポリマーの合成にあたり、共重合モノマーとして分子内に不飽和二重結合を2個以上有する化合物を用いるか、あるいは合成後のアクリル系ポリマーに分子内に不飽和二重結合を有する化合物を官能基間の反応で化学結合させるなどして、アクリル系ポリマーの分子内に不飽和二重結合を導入しておくことにより、このポリマー自体も活性エネルギーにより重合硬化反応に関与させるようにすることもできる。
【0012】ここで、分子内に不飽和二重結合を1個以上有する化合物(以下、重合性不飽和化合物という)としては、不揮発性でかつ重量平均分子量が10000以下の低分子量体であるのがよく、特に硬化時のクリーニング層の三次元網状化が効率よくなされるように、5000以下の分子量を有しているのが好ましい。
【0013】また、クリーニング層に添加される重合開始剤は、特に限定されず公知のものを使用でき、例えば活性エネルギー源に熱を用いる場合は、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの熱重合開始剤、また光を用いる場合は、ベンゾイル、ベンゾインエチルエーテル、シベンジル、イソプロピルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトンクロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、アセトフェノンジエチルケタール、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドルキシシクロヒキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシジメチルフェニルプロパン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどの光重合開始剤が挙げられる。
【0014】本発明は、上記の特定のクリーニング層の片面に、粘着性層が設けられたクリーニングシート(請求項5)、また支持体の片面に、上記の特定のクリーニング層が設けられ、他面に粘着性層が設けられたクリーニングシート(請求項7)も提供する。 この粘着性層は、粘着機能を満たす限りその材質などは特に限定されず、通常の粘着剤(例えばアクリル系、ゴム系など)を用いることができる。かかる構成とすることにより、クリーニングシートをこの粘着性層により各種基板や他のテープ・シートなどの搬送部材に貼り付けて、クリーニング機能付き搬送部材(請求項8)として装置内に搬送して、被洗浄部位に接触させてクリーニングすること(請求項9)ができる。
【0015】本発明において上記の基板などの搬送部材を再利用するために、クリーニング後に基板をかかる粘着性層から剥がす場合は、かかる粘着性層の粘着力は、シリコンウエハ(ミラー面)に対する180°引き剥がし粘着力が0.20〜0.98N/10mm、特に0.40〜0.98N/10mm程度であれば、搬送中に剥離することなく、かつクリーニング後に容易に再剥離できるので好ましい。
【0016】またクリーニング層が支持体の少なくとも片面に設けられたクリーニングシート(請求項6、7)の支持体としては、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカルボジイミドなどのプラスチックフィルムなどが挙げられる。 その厚みは通常10〜100μm程度である。
【0017】またクリーニングシートが貼り付けられる搬送部材としては特に限定されないが、例えば半導体ウエハ、LCD、PDPなどのフラットパネルディスプレイ用基板、その他コンパクトディスク、MRヘッドなどの基板などが挙げられる。
【0018】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、以下、部とあるのは重量部を意味するものとする。
実施例1幅250mm、厚さ70μmのポリエチレンテレフタレートを、熱エレクトレット法を用い、大気下にて電極間に挿入し、100℃で電圧を1KV印加した後、電圧をかけたまま40℃まで冷却した後、電圧印加を終了してエレクトレット化させた。 25℃、55%RHの条件下で表面電位計(Trek社製 Model 344 ESVM)にて、電極−試料間隔2mmで表面電位を測定したところ、158.8Vであった。 また試験法 JIS K7127に準じて測定した引張り強さは、250MPaであった。
【0019】一方、アクリル酸−2−エチルヘキシル75部、アクリル酸メチル20部、及びアクリル酸5部からなるモノマ―混合液から得たアクリル系ポリマー(重量平均分子量70万)100部に対して、ジペンタエリストロールヘキサアクリレート(日本合成化学社製:商品名UV1700B)を150部、及びジフエニルメタンジイソシアネ―ト3部を均一に混合し、粘着剤溶液とした。
【0020】クリーニング層としての前述のエレクトレット化したポリエチレンテレフタレートの片面に、上述の粘着剤溶液を乾燥後の厚みが10μmになるように塗布して通常の粘着性層を設け、その表面に厚さ38μmのポリエステル系剥離フィルムを貼り、本発明のクリーニングシートAを得た。また、他面側の通常の粘着性層をシリコンウエハのミラー面に幅10mmで貼り付け、JIS Z0237に準じてシリコンウエハに対する180°引き剥がし粘着力を測定した結果、0.25N/10mmであった。
【0021】実施例2アクリル酸−2−エチルヘキシル75部、アクリル酸メチル20部、及びアクリル酸5部からなるモノマ―混合液から得たアクリル系ポリマー(重量平均分子量70万)100部に対して、ジペンタエリストロールヘキサアクリレート(日本合成化学社製:商品名UV1700B)を150部、ベンジルジメチルケタール5部、及びジフエニルメタンジイソシアネ―ト3部を均一に混合し、紫外線硬化型の粘着剤溶液とした。
【0022】支持体としてエレクトレット化していないポリエチレンテレフタレート(幅250mm、厚さ70μm)の片面に、実施例1の粘着剤溶液を乾燥後の厚みが10μmになるように塗布して通常の粘着性層を設け、その表面に厚さ38μmのポリエステル系剥離フィルムを貼った。 支持体の他面側に、前記の紫外線硬化型粘着剤溶液を乾燥後の厚みが40μmになるように塗布してクリーニング層を設け、その表面に同様の剥離フィルムを貼った。このシートに中心波長365nmの紫外線を積算光量2000mJ/cm2照射した後、クリーニング層側の剥離フィルムを剥がし、実施例1と同様の方法でクリーニング層をエレクトレット化して本発明のクリーニングシートBを得た。このクリーニング層の表面電位は145.9Vであった。 また、クリーニング層の表面は実質的に粘着性は有しておらず、クリーニング層の紫外線硬化後の引張り強さは1980MPaであった。また、他面側の通常の粘着性層をシリコンウエハのミラー面に幅10mmで貼り付け、JIS Z0237に準じてシリコンウエハに対する180°引き剥がし粘着力を測定した結果、0.25N/10mmであった。
【0023】得られたクリーニングシートA及びBの通常の粘着性層側の剥離フィルムを剥がし、8inchのシリコンウエハの裏面(ミラー面)にハンドローラで貼り付け、クリーニング機能付き搬送用クリーニングウエハA及びBを作製した。
【0024】一方、レーザー式異物測定装置で、新品の8inchシリコンウエハ5枚のミラー面の0.2μm以上の異物を測定したところ、表1の如くであった。 これらのウエハを別々の静電吸着機構を有する基板処理装置にミラー面を下側に向けて搬送した後、レーザー式異物測定装置でミラー面を測定したところ、8inchウエハサイズのエリア内でそれぞれ表1の如くであった。
【0025】
【表1】


【0026】次いで前記で得た搬送用クリーニングウエハA、Bのクリーニング層側の剥離フィルムを剥がし、上記のそれぞれの個数の異物が付着していたウエハステージを持つ基板処理装置内に搬送したところ、支障なく搬送できた。 その後に0.2μm以上の異物がそれぞれの個数のっていた新品の8inchシリコンウエハをミラー面を下側に向けて搬送し、レーザー式異物測定装置で0.2μm以上の異物を測定した。 この処理を5回実施し、その結果を表2に示した。
【0027】比較例1実施例1において、クリーニング層としてエレクトレット化されていないポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして、クリーニングシートCを得た。 実施例1と同様にして測定したクリーニング層の表面電位は69V、引張り強さは250MPaであった。
【0028】比較例2実施例2において、クリーニング層をエレクトレット化しない以外は実施例2と同様にしてクリーニングシートDを得た。 このクリーニング層の表面電位は70V、またクリーニング層の紫外線硬化後の引張り強さは1980MPaであった。
【0029】比較例3実施例2において、クリーニング層をエレクトレット化せずに導電機能を有する4級アンモニウム塩を側鎖に持つ添加剤(三菱化学社製 品名V−SQ−S6)を20部加えた以外は実施例2と同様にしてクリーニングシートEを得た。このクリーニング層の紫外線硬化後の表面電位は39.3V、引張り強さは1720MPaであった。これらのクリーニングシートから実施例と同じ方法で作製した搬送用クリーニングウエハC,D,Eを、表1に示したそれぞれの個数の異物が付着しているウエハステージを持つ基板処理装置内を各々搬送し、5回実施した結果を、表2に示した。
【0030】
【表2】


【0031】
【発明の効果】以上のように本発明のクリーニングシートによれば、基板処理装置内を確実に搬送できると共に、装置内に付着している異物を簡便かつ確実に除去できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クリーニング層が、電石(エレクトレット)化された物質からなるクリーニングシート。
【請求項2】 クリーニング層の表面電位が、0.1〜10KVの範囲であるクリーニングシート。
【請求項3】 クリーニング層が、実質的に粘着性を有しないことを特徴とする請求項1又は2記載のクリーニングシート。
【請求項4】 クリーニング層の引張り強さが1〜3000MPaであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のクリーニングシート。
【請求項5】 クリーニング層の片面に、粘着性層が設けられてなる請求項1〜4いずれか記載のクリーニングシート。
【請求項6】 支持体の少なくとも片面に、クリーニング層が設けられてなる請求項1〜4いずれか記載のクリーニングシート。
【請求項7】 支持体の片面にクリーニング層が設けられ、他面に粘着性層が設けられてなる請求項1〜4いずれか記載のクリーニングシート。
【請求項8】 請求項5又は7記載のクリーニングシートが、粘着性層を介して搬送部材に設けられてなるクリーニング機能付き搬送部材。
【請求項9】 請求項1〜4、6いずれか記載のクリーニングシート又は請求項8記載の搬送部材を、基板処理装置内に搬送することを特徴とする基板処理装置のクリーニング方法。

【公開番号】特開2002−28594(P2002−28594A)
【公開日】平成14年1月29日(2002.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−212843(P2000−212843)
【出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】