説明

クリーンストッカ

【課題】本発明によれば、コンパクトなストッカ庫内で収納物の種類にかかわらず、該収納物を確実に清浄に保管できるようにしたクリーンストッカを提供することができる。
【解決手段】外気導入部13からの外気導入量を調整して実質的に陽圧の密閉空間となるように閉鎖された空間内に、加工前もしくは加工後の精密加工材料である保管物45を収納する収納部を有するクリーンストッカ10であって、送風手段と、該送風手段により送られる空気により形成される循環風路と、該循環風路中に配置される前記収納部21と、塵埃除去フィルタおよび化学物質除去フィルタを含む汚染除去部とを備えており、前記化学物質除去フィルタの汚染除去効率が高い範囲で、前記送風手段34により生成される風速がもっとも高くなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルフィルタを内蔵したクリーンストッカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体やLCDパネル等の製造プロセスにおいては、微粒子や化学物質の除去を行うための清浄装置が広く使用されている。
このような清浄空間(クリーンルーム)内において、たとえば、半導体、例えば鏡面ウェハから高集積4〜16G(ギガ)DRAMチップを製造するまでに至る半導体製造ラインは約200程度の工程がある。同様に液晶パネルの製造ラインにおいても80行程程度のステップがあり、これらの製造ラインにおいて,ウェハやガラス基板について、全行程を連続的に全て一度に実行することは難しい。
そこで、途中の行程まで加工が済んだ半製品は、後工程に移送されるまでに数時間〜数十時間を保管庫(クリーンストッカ)内にて,清浄装置雰囲気に曝しながら待機させている。
【0003】
このような保管庫として、従来から利用されているものの一例として、特許文献1に記載のものがある。
このウエハストッカは、循環風路が送風手段を有しつつ、実質的に密閉状態とされるか又は一部が外気すなわち、ストッカ設置環境空気と置換されるものであり、外部への気体の排出量が少ないため、クリーンルーム内に置かれた場合に、その内部の気流を乱して、外部に悪影響を与えることが少ない。また、循環気体中の微粒子を除去する微粒子除去部と、循環気体中の化学汚染物質を除去する化学汚染物質除去部とが介在する循環風路にウェハの収納部を設けてあるため、微粒子除去と化学汚染物質除去とを行うことができるというものである。
【0004】
特に、特許文献1のウエハストッカは、小容積の実質的に密封とされた空間内に循環風路を形成したものであることから、循環風量を小さくして(循環風速を従来クリーンルーム内のHEPA、ULPAフィルタの標準である0.5m/sに対し0.2m/s以下)として、フィルタとの接触時間を長くすることを特徴としており、このため、汚染物の除去効果は極めて大きいものとされている。
さらに、外気と庫内空気との置換を、制限された容量だけにとどめ、循環路内の冷却装置により循環気体の温度上昇を抑制する温度維持機構を備えるため、活性炭フィルタに対する有機物の吸着能力は安定する。このことにより、吸着除去能力に低下をきたすことがない。その結果、クリーンルーム内の気流の乱れが少なく、しかも、内部の化学汚染を有効に防止して、製品のデバイス特性を良好にすることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−238787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体製品や液晶等の高密度化、高精度化に伴い、その製造プロセスにおいて、いままでの粒子状汚染物質や金属イオン物質の他に、ガス状(分子状)汚染物質の制御管理が重要となってきた。
とりわけ、ガス状(分子状)汚染物質の汚染に関しては、外気に混入しているものだけでなく、特に、ストッカ庫内の保管物に由来するものが特に問題とされる。
【0007】
すなわち、ストッカ内に収納保管するものの種類によって、様々な化学物質が庫内に発生し、これを効率的に除去する必要がある。
たとえば、レチクルを収納保管する場合レチクル単体保存と搬送システムと連動したレチクル専用の保存容器(RSP:Reticle SMIF Pod)を収納する方法があり、現在は大半が後者のRSPを用いている。RSPは樹脂成形したものであり、庫内に入れるとRSP自体から有機系ガス成分が生成され、これらの濃縮化で内部ガス状(分子状)汚染の弊害がある。その他、ウエハキャリア又はキャリアボックス等を収納する場合においても、レチクルの場合と同様に自らの構成物から有機系等のガス成分が生成され、ガス状(分子状)汚染の弊害が生じる。
【0008】
この場合、特許文献1のように化学物質汚染除去部を設けて、ケミカルフィルタを配置しても、導入空気の汚染を除去するのと異なり、庫内にて発生する化学物質を除去しなければならないため、従来構造では効率よく除去して、収納物を清浄に保持することが難しい。
【0009】
本発明は、コンパクトなストッカ庫内に収納した保管物の種類にかかわらず、該収納物を確実に清浄に保管できるようにしたクリーンストッカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、外気導入部からの外気導入量を調整して実質的に陽圧の密閉空間となるように閉鎖された空間内に、加工前もしくは加工後の精密加工材料である保管物を収納する収納部を有するクリーンストッカであって、送風手段と、該送風手段により送られる空気により形成される循環風路と、該循環風路中に配置される前記収納部と、塵埃除去フィルタおよび化学物質除去フィルタを含む汚染除去部とを備えており、前記化学物質除去フィルタの汚染除去効率が高い範囲で、前記送風手段により生成される風速がもっとも高くなるように構成したことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、空間内(庫内)を陽圧に維持しているので、外部の汚染された空気の侵入を防止できる。
収納部に保管されたレチクル等の精密加工材料は、塵埃除去フィルタを通って細かいチリや埃が除かれるだけでなく、化学物質除去フィルタによって、汚染源となる化学物質も除去される。
しかも庫内で循環風路を形成する前記送風手段は、前記化学物質除去フィルタの汚染除去効率が高い範囲で、風速がもっとも高くなるようにされているので、単位時間当たり多数の循環回数で庫内空気がフィルタを通過することになる。この点が本発明の最も大きな特徴であり、通常は風速(面風速=空間速度=Line Velocity=LV=単位:m/s)を下げるほど、空気のフィルタに対する接触時間が長くなり、汚染物の除去量が多くなると考えられる。
しかしながら、本発明者らの知見によれば、保管収容物自体が化学物質の汚染源となる場合には、風速が遅いと、庫内における新たに生成された汚染物の除去が間に合わなくなり、一方、化学物質除去用フィルタにおいては、所定の面風速を超えると汚染物の除去効率が目立って向上しなくなることが見出された。このことから、庫内に収容保管物質自体から汚染源となる化学物質が生成される場合には、むしろ、フィルタの汚染部除去効率が極端に低くならない程度であれば、できだけ速い面風速となるように循環風路の風速を決定すべきであるという従来の常識(上記特許文献1の記載参照)を覆す手法を見出すことができたものである。
すなわち、風速を早くして、これにより、庫内で新しく生成される化学物質は、生成されると同時にフィルタにより除去されるようにして庫内を清浄に保つことが実現される。
ここで、言うまでもなく、保管される物の種類により生成される化学物質は異なるし、使用されるフィルタの組成や厚みにより除去効率と面風速の関係が変化するのは当然であるから、使用フィルタ等の条件に適合させて面風速を決定する。要するに、フィルタの除去効率の許容範囲で、従来の常識に反して、速い面風速を選択して、循環風路におけるフィルタ通過回数を多くするようにすることが重要である。
【0012】
好ましくは、前記送風手段の最大風速が秒速0.2mを超え、0.7m未満となるように構成したことを特徴とする。
上記構成によれば、最大風速を秒速0.2m以下としても、ほとんどの化学物質除去フィルタにおいて、除去効率は目立って向上しないことが見出されている。一方、風速をそれより早くして、循環風路における循環回数を増やす構成とすることで、保管物自体から化学物質が生成される場合には、循環風路を通る空気を繰り返し清浄化できるから好ましい。ただし、所定の化学物質除去フィルタでは、風速が0.7m/sを下回ると、フィルタの汚染物除去効率が極端に悪化して好ましく無く、またフィルタ圧力損失も増大して上手な使い方ではない。
【0013】
好ましくは、前記循環風路の循環回数が、毎時50回ないし60回となるように構成したことを特徴とする。
上記構成によれば、循環回数が毎時50回より少ないと、保管物の種類によっては、庫内の化学物質による汚染が十分に防止できない。循環回数が毎時60回を超えると、送風ファンの回転数増加に伴う熱の発生により保管物の種類によっては悪影響がある。
【0014】
好ましくは、前記外気導入部における外気導入量は、庫内圧力が2.5ないし4.5Pa(パスカル)を維持するように調整されることを特徴とする。
上記構成によれば、庫内圧力を2.5Paより小さくすると、外気の進入による汚染を十分に防げない。庫内圧力を4.5Paより高くすると汚染された外気の取込量が増え、ストッカ内のケミカルフィルタの負荷が増えたり、ストッカ内の清浄度維持ができないという不都合がある。
【0015】
好ましくは、前記外気導入部における外気導入量は、庫内温度が外気温より高くなってもその差が1.4ないし2.0度(摂氏)以下となるように調整されることを特徴とする。
上記構成によれば、送風ファンの回転数増加に伴う熱の発生により庫内温度が外気温より高くなるが、温度上昇が1.4ないし2.0度を超えると、保管物の種類によっては悪影響がある。
【0016】
好ましくは、前記送風手段が、インバータ制御の送風ファンであることを特徴とする。
上記構成によれば、通常の商用交流電源を用いても省電力で自由な回転数制御を実現することができる。
【0017】
好ましくは、前記汚染除去部には、酸性、アルカリ性、有機系のガス成分を除去するそれぞれ専用の化学物質除去フィルタを複数多段積層配置したことを特徴とする。
上記構成によれば、多種類のもしくは汚染度の高い化学物質汚染に対応することができる。
【0018】
好ましくは、前記外気導入部には、プレフィルタが設置され、該プレフィルタとして複数の多段積層化学物質除去フィルタを配置したことを特徴とする。
上記構成によれば、外気に多種類の化学物質が存在しても庫内の汚染を有効に防止することができる。
【0019】
好ましくは、前記収納部には、前記保管物として板状の部品を上下に開口したオープン棚板により保持する構成としたことを特徴とする。
上記構成によれば、収納されている前記精密加工材料の大部分の表面積に清浄空気を接触させて、より清浄に保持することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、コンパクトなストッカ庫内に収納した保管物の種類にかかわらず、該収納物を確実に清浄に保管できるようにしたクリーンストッカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るクリーンストッカの一構成例の概略正面図。
【図2】図1のクリーンストッカの概略縦断面図。
【図3】図2のクリーンストッカの下部の構成を示す概略部分断面図。
【図4】図2のクリーンストッカの収容部の収容棚の構成例を示す部分拡大図。
【図5】図2のクリーンストッカに用いるフィルタの濾材の一部を破断してその構造を示す説明図。
【図6】図2のクリーンストッカに用いる化学物質除去フィルタの濾過効率と面風速の関係を示すグラフ。
【図7】図2のクリーンストッカにおける循環風路の循環回数と庫内清浄度の関係を示すグラフ。
【図8】図2のクリーンストッカにおける外気導入量と庫内温度上昇との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0023】
図1および図2は、本発明の実施形態に係るクリーンストッカ(以下、「ストッカ」とい)を示しており、図1はその概略正面図、図2はその内部を示す概略断面図である。
図1に示すように、ストッカ10は、例えば、全体として縦長の直方体をなす箱状の収納庫であって、本体11は、例えばステンレス鋼板等によりきわめて高い気密性をそなえるように形成されている。図示されているように、正面には、たとえば観音開きの大きな扉12,12により口述する収納部を開閉できるようにされており、その下部には外気を取り込むための外気導入口13が設けられている。
【0024】
外気導入口13には複数のスリット型開口が形成されており、可動シャッタにより開口面積を調整できるようになっている。扉12,12の情報には、庫内の空気を排出ための空気排出口27が設けられており、可動シャッタにて排出量を調整できるようにされている。
なお、扉12,12は耐震扉とされおり、振動検知センサ(図示せず)により一定の揺れを検知すると、ロックされ開くことがないようにされており、地震発生などにより本体11が激しく振動し、その結果扉12,12が開いて、収納部の保管物が外部に落ちることがないようにされている。
また、扉12,12は図1のように大扉とせずに、収納時に扉12を開けることにより設置環境のクリーンルームの汚染空気が混入しないように複数または多数に分割された収納部を、例えば棚ごとに個別に開閉する扉としてもよい。
【0025】
図2に示すように本体11の四隅には支持脚14,14が設けられており、キャスター15と組合わされた自在可変重量キャスターとされている。
また、本体11の内部である庫内には矢印に示すように縦方向に送られ、横方向には広範囲で扉12の方向へ流れる循環風路が形成されている。
この循環風路は、本体11の下部に形成した空間である下部循環部23の奥側に配置された送風ファン34により形成されるようになっている。すなわち、実質的に閉鎖空間とされた気密の空間である本体11の内部において、その下部から送風口を上方に向けて、送風ファン34が配置されている。送風ファンは、インバータ制御されるものが好ましくは、循環風路の風速がフィルタを通過するときに所定の面風速となるように制御されるものである。送風ファン34をインバータ形式にすることにより、電源である通常の商用交流電源からの交流電流を、いわゆるVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御、すなわち可変電圧可変周波数制御して利用することができる。例えば、本体11の外部電源から導かれた交流電流をトランスで電圧変換(昇圧)し、交流―直流変換し、さらに、直流―交流変換の際に、所定の回転数に適合した三相交流電流を生成して送風ファンの三相モータ(図示せず)に与えることができる(図示せず)。
【0026】
送風ファン34の上方には、本体11の背面部に相当する空間を形成することで背面循環部24が設けられている。送風ファン34から送られる空気は、ストッカ10の内側背面壁の壁面に沿って背面循環部24を上昇し(背面流)ながら、矢印Aに示すように、ストッカ10の扉の方向(前面の方向)へ広範囲に送られる。
ストッカ10の内部にはその背面に近接して、汚染除去部としてのフィルタ部33が設けられており、矢印Aに示す空気は、このフィルタ部33に送られる。フィルタ部33は、塵埃除去フィルタ31と、ケミカルフィルタ(化学物質除去フィルタ)部32とを含んでいる。
【0027】
このストッカ10では、微細な塵や埃だけでなく循環風路において、化学汚染物質を効率的に除去することを特徴としており、フィルタ部33では、例えば、1段の塵埃除去フィルタ31と、例えば酸性、アルカリ性、有機系の3種の化学物質除去フィルタ32a,32b,32cを組み合わせて形成されている。また、庫内の清浄度の要求度に応じて、例えば同種ケミカルフィルタの複数を使用することも可能である。この実施形態では、フィルタ部33が上下に二組設けられている。
ここで、化学物質除去フィルタは、例えば、酸系ガス除去フィルタ32a、アルカリ性ガス除去フィルタ32b、有機系ガス除去フィルタ32cの3種類のケミカルフィルタを組み合わせることができる。
図5はケミカルフィルタ32aの構成を詳しく示すもので、後述する材質でなる濾材を構成するための濾紙または不織布等をジグザグ状に折り曲げて、限られた空間内でフィルタを通過する空気ができるだけ広い面積の濾材を通過するようにされている。
【0028】
空間25はフィルタ部の出口付近に形成される循環部である。フィルタ部33を通過して浄化された空気は、この空間25に出る際にフィルタ部33の出口全体に対応して配置されたイオナイザ(徐電器)29により電荷を調整される。このようにして、塵埃及び化学物質が除去され、電荷が除去された清浄空気は収納部21に送られ、該収納部に保管されている保管物を表面を通ることで微細な塵や埃の付着が無いようになされ、かつ、保管物から生成される化学物質も除去されることになる。
【0029】
この収納部21は、図1で説明した扉12,12に臨んで配置されており、本実施形態では、例えば、縦方向に多段とされた収納棚が設けられている。
収納部21は、例えば、図4に拡大して示すような収納棚41を多段配置している。この収納棚41は、図示するように、上向き段部41aと、上下に抜ける貫通孔ないし開口41bとを有するオープン棚板構成となっている。これにより、図示するような保管物45である全体として板状の、もしくは少なくとも下面または基部が板状の精密加工部品を上記上向き段部41aに載置して保持できるようになっている。
これにより、保管物45は、収納棚41に保持されながら、その外面の大部分を図2の矢印Bに示す清浄空気の気流にさらされる。この際に、空気Bは、保管物45の露出面である外表面の大部分を占める面積に接触し、その表面に塵埃が存在すれば、これを除去するだけでなく、該保管物に自体から生成される化学物質を除去する点が本実施形態の大きな特徴のひとつである。
【0030】
次に空気はストッカ10の前面循環部26の空間に導かれる。その気流は扉12に当たって下向きの循環流となる。すなわち、送風ファン34の吸込み側の負圧に引かれて、矢印Cに示すように、扉12の内面に沿って下向きの循環流となる。ここで、ストッカ10の上部では、前面循環部26に到達した一部の空気が空気排出口からの排出空気C1として外部に排出される。
【0031】
図3は、ストッカの本体11の下部の内部構造を拡大して示している。
前面循環部26から導かれて下降する空気Cは、循環風量制御部51により風量を制御された空気Dとして、下部循環部23に導かれる。
この際、本実施形態では、循環風量制御部51は、例えば、3枚の閉止板51a,51b,51cを全面循環部26と下部循環部23の間の開口55に並列的に載置して構成することができ、該開口55について、これら閉止板の1枚または複数枚を加除することで、開口55の面積を変更することができるようになっている。
【0032】
図3に示すように、下部左端には、外気導入口13が設けられており、既に説明したように、外気導入口13には複数のスリット型開口が形成されており、可動シャッタ(図示せず)により開口面積を調整できるようになっている。このようにして、循環空気に外気を導入量を調整して導くことにより、送風ファン34の駆動による温度上昇を防止することができる。
外気導入口13の内側にはプレフィルタ35が配置されている。プレフィルタ35は好ましくは薄型の化学物質除去フィルタを複数層、この実施形態では3種3層配置して構成されている。
【0033】
以上の構成に基づいて、送風ファン34を以下のように回転制御するように構成した点に本実施形態の特徴がある。
ここで、図6は、送風ファン34の回転数に基づく循環風路において、空気がフィルタ部33を通過する際の面風速LVと、該フィルタ、特に化学物質除去フィルタ32が汚染物を除去する除去効率について示すグラフである。
図示されているように、面風速LVが遅いほど、通過空気がフィルタに触れている時間が長く、このため除去効率が高くなると考えられている。
このため、ストッカ10においても、送風ファンの回転速度を低くして、できるだけ遅い面風速LVとして循環風路を形成するとよいと考えられていた。
【0034】
このことは、上記特許文献1の明細書段落0013に、次のように述べられていることからもわかる。
「・・・しかも、循環風路が小容積の独立空間であるために、循環風量を小さくして接触時間を大きくすることができ、前記の除去効果は極めて大きいものとなる。例えば、循環風速を従来クリーンルーム内のHEPA、ULPAフィルタの標準である0.5m/sに対し0.2m/s以下であるために、上述の化学汚染物質を対象としたフィルタに対する気体の接触時間は倍以上とすることができる。更に、循環気体の温度上昇を抑制する温度維持機構を備えるため、活性炭フィルタに対する有機物の吸着能力は安定する。このことに40より、吸着除去能力に低下をきたすことがない。その結果、クリーンルーム内の気流の乱れが少なく、しかも、内部の化学物質による汚染を有効に防止して、製品のデバイス特性を良好にすることができるウェハストッカを提供することができた。」
しかしながら、本発明者らの知見によれば、同様に、実質的に密閉空間としながらも、保管中に保管物自体から化学物質を生成するものを対象とすることを考慮すると、このような従前の常識を適用することは好ましくない。
例えば、ストッカ10に半導体製造用のフォトマスクに用いるレチクルを保管する場合、保管物であるレチクル保存容器からは有機系ガス成分等の化学物質が放出される。同様にウエハの場合には、ウエハキャリア等を保管する場合には有機系ガス成分等が放出され循環風路を汚染する。
【0035】
したがって、例えば、通風路中にフィルタを設置し、該フィルタを一度だけ通して空気を浄化する場合には、面風速LVは遅くてよいが、本実施形態のストッカ10のように、フィルタ部33を通過した後の空気が、保管物45自体から生成される化学物質に汚染されることを考えると、面風速LVが遅いほど循環風路の空気にこのような汚染の度合いが強くなる。
他方、図6のケミカルフィルタ、具体的には、例えば、酸系ガス処理フィルタのフィルタ汚染除去効率は、たしかに面風速LVが遅い程向上するが、面風速LVが0.2m/sを下回るとフィルタ効率のそれ以上の向上は殆ど望めない。この現象は、アルカリ性、有機系ガス除去フィルタの場合も同様の傾向を示す。
【0036】
面風速LVが0.2m/sから0.7m/sまでの間は、フィルタ効率の減少率はほぼ一定であるが、面風速LVが0.7m/sを超えると、急激にフィルタ効率は悪化する。
このことから、フィルタ効率の比較的良い範囲、すなわち、面風速LV0.20m/sを超えて、0.7m/sの範囲(aの範囲)になるように、送風ファン34を制御することにより、循環風路が繰り返しフィルタ部33を通過し、保管物45から新たに生じる化学物質を除去することが可能となり、フィルタ効率も上記ワンパス(一回通過、もしくは一回接触)と比べて、接触回数の積としてフィルタ効率の向上を実現できるものである。ここで、接触回数と通過回数は同義である。
そして、保管物による新たな化学物質生成量が比較的少ない場合には、bの範囲、すなわち、面風速LVが0.2m/sを超え0.35m/sの範囲を、保管物による新たな化学物質の生成量が比較的多い場合には、Cの範囲、すなわち、面風速LVが0.35m/sを超え0.7m/sの範囲を選択することが好ましい。
なお、図6の面風速LV数値0.35m/sの意義については以下で説明する。
【0037】
庫内の化学物質による汚染を抑制し、清浄度を向上させるためには、面風速LVを速くして接触回数を増加すればよいが、面風速LVを速くするために送風ファン34の回転を上げるとその分、モータの回転数増加に起因して、庫内温度が高くなる。送風ファン34の回転を高めても、庫内温度の過度な上昇を防止するためには、外気を導入する必要がある。外気導入は、庫内を陽圧に保持するためにも必要である。
そこで、図7、図8を用いてこれらの関係を説明し、適切な面風速、接触回数を検討する。
【0038】
なお、ここでは、化学汚染の原因となるガス成分として、酸性、アルカリ性、有機系の各ガス成分が考えられるが。本実施形態では、このうちの有機系ガス成分によるストッカ庫内汚染を対象として庫内総有機系ガス量=TOC(単位:μg/m)を用いるものとする。
図7のグラフはストッカ設置方法や内部発ガスが比較的高いケースの場合にて算出した例で、左縦軸に上記したTOC、右縦軸にフィルタユニット面風速LV、横軸に接触(通過)回数(回/時間)と、それに対応した風量(m/分)を表したもので、一点鎖線が(最大)除去効率90パーセントのフィルタを用いた場合、△の曲線が(最大)除去効率70パーセントのフィルタを用いた場合、直線Wは面風速(LV)を示している。図示されているように、面風速LVの増加に比例して接触回数も増加していることが理解される。
図8は左縦軸に温度上昇、すなわち温度差(摂氏)を、右縦軸に庫内圧力(単位:Pa=パスカル)を表し、横軸は外気導入量(m/分)示したものである。
【0039】
ここで、庫内総有機系ガス量=TOC(単位:μg/m)(以下、「TОC」という)の許容レベルを約1000ないし2000程度に設定する。
勿論、面風速LVを早くして、接触回数を多くした方がその分清浄度は減少するが、後述するようにその分だけ庫内温度上昇の問題があるだけでなく、フィルタの寿命が早くなり、頻繁な交換が必要となってしまう。
【0040】
これらを考慮すると、図7はでは、面風速LVは、図6で説明した0.2m/sよりも遅いだけでなく、好ましくは、0.3m/s程度を下限とする(S1)。この条件で、フォルタとの接触回数を、毎時50ないし60回(プラスマイナス1,2回程度)であると、この場合、(最大)除去効率90パーセントのフィルタを用いた場合(K2)に、TОCは約1000程度ときわめて低く、たとえば(最大)除去効率70パーセントのフィルタを用いた場合(K1)にもTОCは、約2000程度と十分に低い値を確保できる。
そして、面風速LV0.3m/sで、(最大)除去効率90パーセントフィルタの用いた場合(K2)には、TОCは1000をやや超えた程度と低くなる。
なお、接触回数の50ないし60回/時間は、この技術の性質上、1回ないし2回程度の相違が、作用効果との相関に直接影響を及ぼすものではないことは常識的に理解されるものである。
【0041】
また、面風速LVを可能な範囲で理想的に低くした値としては、0.35m/s程度である(S2)。この時、(最大)除去効率70パーセントのフィルタを用いた場合(K1)で、TОCは1500をやや上回る程度である。(最大)除去効率90パーセントのフィルタ(K2)では、TОCが1000未満と、きわめて清浄な庫内環境を実現することができる。
【0042】
図8に示すように、外気導入による庫内温度上昇Tと庫内圧力Qについては、逆の相関がある。つまり、外気導入量が増加するほど、庫内温度は低下するが、圧力は上昇する。
ここで、外気導入量は、外気導入口13からの外部空気導入量AI−空気排出口27の空気排出量AOにより求められる(図2参照)。
図8において、外気導入量が2,0(m/分)程度から、2.7(m/分)程度に調整される範囲ARで、庫内温度上昇Tは、2.0度(T1)から1.4度程度(T2)まで変化し、同時に、庫内圧力Qは、2.5Pa程度(Q1)から4,5Pa(Q2)程度まで変化する。
【0043】
したがって、ストッカ10においては、保管物等の種類により、あるいは選定できるフィルタの種類(最大除去効率)等について図6ないし図8で明らかにされた原理に基づいて、接触回数その他の条件を選定することにより、当該ストッカ10の最適保管条件を選定することができる。
【0044】
次に、本発明を実施するための最良の一形態ついて使用材料を説明する。本発明は、使用材料に特徴があるわけではないので、記載していないものでも使用することができる。
化学物質除去フィルタ、すなわち、ケミカルフィルタは、活性炭粒状、活性炭素繊維などの物理吸着による有機系ガス除去フィルタ、添着活性炭粒状、強酸性陽イオン交換樹脂の粒状、繊維状などの化学吸着による酸性ガス除去フィルタ、添着活性炭粒状、弱塩基性陰イオン交換樹脂の粒状、繊維状などの化学吸着によるアルカリ性ガス除去フィルタの一種あるいはその複数を積層したり、平面分割したりした組合せで使用することができる。
【0045】
特に、薄型低圧損という観点からすると、活性炭粒状あるいはイオン交換樹脂を不織布でサンドイッチした構造の濾材をジグザグ状に折り畳んだものが好ましい。
プレフィルタは、活性炭粒状、活性炭素繊維などの物理吸着による有機系ガス除去フィルタ、添着活性炭粒状・添着樹脂粒状、強酸性陽イオン交換樹脂の粒状、繊維状などの化学吸着による酸性ガス除去フィルタ、添着活性炭粒状・添着樹脂粒状、弱塩基性陰イオン交換樹脂の粒状、繊維状などの化学吸着によるアルカリ性ガス除去フィルタの一種あるいはその複数を積層したり、平面分割したりした組合せで使用することができる。
【0046】
特に、薄型低圧損という観点からすると、活性炭粒状あるいは第4級アンモニウム基添着ポリスチレン樹脂、スルホン酸基添着ポリスチレン樹脂を不織布でサンドイッチした構造の濾材をジグザグ状に折り畳んだものが好ましい。
塵埃除去フィルタは、ガラス繊維不織布、エレクトレット不織布、PTFE膜等からなる濾材をジグザグ状に折り畳み、セパレータあるいは樹脂リボンで間隔保持したフィルタパックをフィルタ枠にウレタン樹脂等のシール剤でシール固化した高性能フィルタを使用することができる。
特に、ボロン、有機ガス等の発生が少ない低発ガスのという観点からするとボロンガス発生の少ないローボロンガラス繊維からなる濾材をリンガスの発生の少ないウレタン樹脂しシール固化した低発ガスフィルタが好ましい。
ファンは、軸流ファン、斜流ファン、遠心ファン、シロッコファンなどを使用することができる。
特に、上記したように、インバータ制御できる観点からすると、シロッコファンが好ましい。
【0047】
フィルタを配置する際などに使用するガスケット(図示せず)は、クロロプレン樹脂、EPDM樹脂などを使用することができる。特に、発ガス性、などの観点からすると、EPDM樹脂が好ましい。
本体11のケーシングは、ステンレス鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ガルバ鋼板などを使用することができる。
特に、耐食性、耐薬品性、価格などの観点からすると、上述したステンレス鋼板が好ましい。
【0048】
ところで本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
実施形態で説明した各構成はその一部を省略することができるし、さらに、説明しない他の構成と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・クリーンストッカ、11・・・本体、13・・・外気導入部、21・・・収納部、23・・・株循環部、24・・・背面循環部、26・・・前面循環部、27・・・空気排出部、33・・・フィルタ部、34・・・送風ファン、45・・・保管物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気導入部からの外気導入量を調整して実質的に陽圧の密閉空間となるように閉鎖された空間内に、加工前もしくは加工後の精密加工材料である保管物を収納する収納部を有するクリーンストッカであって、
送風手段と、
該送風手段により送られる空気により形成される循環風路と、
該循環風路中に配置される前記収納部と、塵埃除去フィルタおよび化学物質除去フィルタを含む汚染除去部と
を備えており、
前記化学物質除去フィルタの汚染除去効率が高い範囲で、前記送風手段により生成される風速がもっとも高くなるように構成した
ことを特徴とするクリーンストッカ。
【請求項2】
前記送風手段の最大風速が秒速0.2mを超え、0.7m未満となるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のクリーンストッカ。
【請求項3】
前記前記循環風路の循環回数が、毎時50回ないし60回程度となるように構成したことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のクリーンストッカ。
【請求項4】
前記外気導入部における外気導入量は、庫内圧力が2.5ないし4.5Pa(パスカル)を維持するように調整されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のクリーンストッカ。
【請求項5】
前記外気導入部における外気導入量は、庫内温度が外気温より高くなってもその差が1.4ないし2.0度(摂氏)以下となるように調整されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のクリーンストッカ。
【請求項6】
前記送風手段が、インバータ制御の送風ファンであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のクリーンストッカ。
【請求項7】
前記汚染除去部には、複数の多段積層された化学物質除去フィルタを配置したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のクリーンストッカ。
【請求項8】
前記収納部には、前記保管物として板状の部品を上下に開口したオープン棚板により保持する構成としたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のクリーンストッカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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