説明

クレアチニン定量用一体型多層分析要素

【課題】 試料中に低分子アミンが含まれていたとしても、クレアチニンの測定値の望まれない高値化が抑制されるクレアチニン定量用一体型多層分析要素を提供すること。
【解決手段】 テトラフェニルホウ酸ナトリウムのような、アミンと不溶性の塩を生じる物質を含むこと特徴とするクレアチニン定量用一体型多層分析要素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニン定量用一体型多層分析要素に関するものであり、詳しくは、例えば血液、尿等の液体試料中のクレアチニンを分析するためのクレアチニン定量用一体型多層分析要素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体液中の尿素窒素の測定法として、測定の簡易化、迅速化をはかり測定者の個人差をなくすために乾式法(ドライケミストリ)と呼ばれる方法が種々提案されている。その典型的なものは、ウレアーゼとアルカリ性緩衝剤を含有する試薬層と、ガス状アンモニアを検出する指示薬層とを備え、両者の間にガス状アンモニアのみを選択的に透過させるような選択透過層をはさんで一体化した一体型多層分析要素を使用するものである。たとえば特許文献1(特開昭52−3488号公報)には、基本的に上記多層構造を有する一体型分析要素が開示されている。この分析要素ではアンモニアガスの選択透過層として疎水性ポリマー薄層が使用されている。
【0003】
特許文献2(特開昭58−77661号)には、透明支持体上に、ガス状アンモニア用の指示薬層、液体遮断層、アルカリ性緩衝剤を含有し必要により基質と反応してアンモニアを生成することの出来る試薬を有する試薬層、および展開層がこの順に一体に接着積層された、液体試料中のアンモニア又はアンモニア生成基質分析用一体型多層分析材料において、液体遮断層が、多孔性物質より成り、使用条件下に液体試料を実質的に遮断しかつガス状アンモニアを透過させる空気孔を構成する事を特徴とする液体試料中のアンモニア又はアンモニア生成基質分析用一体型多層分析材料が開示されている。この多層分析材料においては、選択透過層としてメンブランフィルターを使用して、指示薬層との接着性を改善し、かつ高感度化をはかった一体型多層分析要素が開示されている。
【0004】
そのほか、特許文献3(特開平4−157363号公報)には、支持体の下塗層にアンモニア及びアンモニウムイオンを実質的に含まないポリビニルアルキルエーテル等を用い、あるいは指示薬層のバインダーにポリビニルアルキルエーテルを用いて、発色光学濃度がより高く、バックグラウンドの発色光学濃度が低く、測定精度のより高いアンモニアまたはアンモニア生成物質分析用一体型多層分析要素が開示されている。また、特許文献4(特開平4−157364号公報)には、多孔性展開層にポリ(N−ビニルピロリドン)を含有させ、アンモニア生成反応試薬層にアンモニアを実質的に含まずかつpH約9.0以上でアンモニアを発生せずバインダー性能も変化しないバインダーを用いて、発色光学濃度がより高く、バックグラウンドの発色光学濃度が低く、測定精度のより高いアンモニアまたはアンモニア生成物質分析用一体型多層分析要素が開示されている。さらに、特許文献5(特開2002−122585号公報)には、透明支持体の上に、ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬を含む指示薬層、ガス状アンモニアを通過させる液体遮断層、アルカリ性緩衝剤を含有し必要により基質と反応してアンモニアを生成することのできる試薬を有する試薬層、及び展開層がこの順に一体に接着積層された分析要素において、該液体遮断層が少なくとも2層以上の多孔膜からなることを特徴とする液体試料中のアンモニアまたはアンモニア生成物質分析用一体型多層分析要素が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭52−3488号公報
【特許文献2】特開昭58−77661号
【特許文献3】特開平4−157363号公報
【特許文献4】特開平4−157364号公報
【特許文献5】特開2002−122585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来技術の分析要素を用いてクレアチニンを定量しようとすると、試料中に含まれる低分子アミン、例えばメチルアミンが分析要素中でガス化して気体となり、これがガス状アンモニアとともに指示薬に検知可能な変化を与え、クレアチニンの測定値の望まれない高値化を引き起こすことが、本発明者らの検討により明らかとなった。なお、例えば健常者の血液検体中には、それほど低分子アミンは含まれていないが、腎臓疾患などの特定の病態患者の血液検体中には、無視できない量の低分子アミンが含まれ、改善が求められる。
【0007】
したがって本発明の目的は、試料中に低分子アミンが含まれていたとしても、クレアチニンの測定値の望まれない高値化が抑制されるクレアチニン定量用一体型多層分析要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決することができる。
1)アミンと不溶性の塩を生じる物質を含むこと特徴とするクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
2)前記クレアチニン定量用一体型多層分析要素が、透明支持体の上に、少なくとも、ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬を含む指示薬層、ガス状アンモニアを通過させる液体遮断層、アルカリ性緩衝剤を含有しクレアチニンと反応してアンモニアを生成することのできる試薬層、及び展開層がこの順に一体に積層された分析要素であることを特徴とする上記1)に記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
3)前記アミンと不溶性の塩を生じる物質が、前記展開層に含まれることを特徴とする上記2)に記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
4)前記アミンと不溶性の塩を生じる物質が、テトラフェニルホウ酸塩、またはテトラフェニルホウ酸塩誘導体であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクレアチニン定量用一体型多層分析要素は、アミンと不溶性の塩を生じる物質を含有させたことにより、試料中に低分子アミンが含まれていたとしても、クレアチニンの測定値の望まれない高値化が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のクレアチニン定量用一体型多層分析要素の層構成は、アミンと不溶性の塩を生じる物質を含有していれば、従来のクレアチニン定量用一体型多層分析要素のそれと同じであることができ、とくに制限されないが、透明支持体の上に、少なくとも、ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬を含む指示薬層、ガス状アンモニアを通過させる液体遮断層、アルカリ性緩衝剤を含有し必要により基質と反応してアンモニアを生成することのできる試薬層、及び展開層がこの順に一体に積層された分析要素であることが好ましい。
また、透明支持体−指示薬層間、指示薬層−液体遮断層間、液体遮断層−試薬層間、試薬層−展開層間、展開層上の任意の箇所に、所望の機能を発現する層を1層以上設けることもできる。
以下、各層について説明する。
【0011】
(透明支持体)
透明支持体としては、このような分析要素において一般的に用いられているような疎水性の透明支持体、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニル化合物のようなポリマーからなる透明支持体が使用される。透明支持体の厚さは50〜1000μm程度、通常80〜300μm程度である。
【0012】
(指示薬層)
指示薬層は、ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬を少なくとも含む。ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬とは、ガス状アンモニアと反応乃至相互作用の結果、構造が変化し、それに伴って吸収波長等の分光学的特性に変化を生じるような物質を意味する。ここで、構造の変化としては、化学構造、例えば、原子組成の変化、共有結合、水素結合等の結合関係の変化、立体構造の変化等が包含される。
ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬としては、例えばガス状アンモニアと反応して吸収波長に変化を生じるような化合物(以下、発色前駆体という)が好適である。本発明の分析要素に使用可能な発色前駆体としては、たとえば、ロイコシアニン染料、ニトロ置換ロイコ染料及びロイコフタレイン染料のようなロイコ染料(特開昭52−3488号、米国特許 RE 30 267号に記載);ブロムフェノールブルー、ブロムクレゾールグリーン、ブロムチモールブルー、キノリンブルー及びロゾール酸のようなpH指示薬(共立出版、化学大辞典、10巻63〜65頁に記載);トリアリールメタン系染料前駆体;ロイコベンジリデン色素(特開昭56−145273号に記載);ジアゾニウム塩とアゾ染料カプラー;塩基漂白可能染料等が挙げられる。
【0013】
これらの発色前駆体の少なくとも1種をバインダーポリマーと混合し、透明支持体上に塗布すれば、指示薬層を形成することができる。バインダーポリマーとしては、接着性ポリマー及び水不溶性ビニルポリマーを含有することが好ましい。該接着性ポリマーとしては、Tgが0℃以下(更に好ましくは−150〜−5℃、特に好ましくは−100〜−10℃)であることが好ましい。また、接着性ポリマーは、質量平均分子量が1万〜100万(更に好ましくは1万〜50万、特に好ましくは2万〜20万)であることが好ましい。
接着性ポリマーとしては、ポリビニルアルキルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等)、天然ゴム、クロロプレン、スチレンブタジエンゴム、炭素数2〜16の脂肪族アルコールのアクリルエステルを主体とし、これにアクリル酸、アクリルアミド等の極性基を有するモノマーを少量共重合させることにより得られるポリマー、シリコンゴムとシリコン樹脂の組み合わせによって構成されるシリコーン系粘着剤、スチレン・イソプレン・スチレンブロックポリマーを主体とした粘着剤、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、水添石油樹脂、ポリイソブチレン、インデン、ダンマー、コーパル、クマロン、ピコペール、アルキド樹脂、セルロースエステル、ネオプレンが挙げられる。中でもポリビニルアルキルエーテルが好ましい。
接着性ポリマーの添加量は、指示薬層の指示薬量に対し、1〜500倍、好ましくは3〜300倍、さらに好ましくは5〜100倍である。
【0014】
水不溶性ビニルポリマーは、水に不溶であることが必要であるが、指示薬層形成用塗布溶媒には可溶であることが好ましく、接着性ポリマー、更には併用し得る他のポリマーと相溶性であることが好ましい。ここで本明細書において、水に不溶であるとは、20℃の水100gへの溶解度1g以下であることを意味する。指示薬層塗布溶媒は、有機溶媒または有機溶媒と水との混合溶媒が一般的である。水不溶性ビニルポリマーは、アルコールに可溶であることが好ましく、特にエタノール可溶性であることが好ましい。
また、水不溶性ビニルポリマーとしては、Tgが10℃以上(更に好ましくは20〜150℃、特に好ましくは30〜120℃)であることが好ましい。また、水不溶性ビニルポリマーは、平均重合度が30〜5000(更に好ましくは50〜3000、特に好ましくは100〜2500)であることが好ましい。
水不溶性ビニルポリマーはアセタール基を有することが好ましい。アセタール基としては、ブチラール基、アセタール基、ホルマール基等が挙げられ、水不溶性ビニルポリマーがポリビニルブチラールであることがとくに好ましい。
水不溶性ビニルポリマーの添加量は、前記接着性ポリマーに対し、1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%である。
【0015】
また、上記で例示したもの以外のポリマーをバインダーポリマーとして使用することもできる。その他のバインダーポリマーとしては、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチン、脱イオンゼラチン等のゼラチン;セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル類;メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース類;等が用いられる。
【0016】
バインダーポリマーの質量に対して、発色前駆体の使用量は0.1〜50質量%程度、好ましくは0.5質量%〜20質量%程度が適当である。また、感度を調整する目的で各種緩衝剤、有機酸、無機酸等を加えてpHを調整することができる。緩衝剤は後述するもののなかから選択することができ、有機酸、無機酸としては、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、グルタル酸、コハク酸、グルタコン酸、酒石酸、ピメリン酸、マロン酸、リンゴ酸、3,3−ジメチルグルタル酸、クエン酸、P−トルエンスルホン酸、過塩素酸、塩酸等を使用できる。さらに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ等を指示薬層中に加えることもできる。塗布液を形成するのに用いる溶媒は、アセトン、2−メトキシエタノール、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール等の有機溶剤あるいは水、またはこれらの混合溶媒が適当であり、これらの溶剤に発色前駆体、バインダーポリマー等を固形分濃度が1〜30質量%程度、好ましくは3〜20質量%程度となるように加えて塗布液とする。これを乾燥膜厚1〜30μm程度、好ましくは2〜20μmとなるように透明支持体上に塗布、乾燥して指示薬層を形成する。
【0017】
指示薬層の上に設けられる液体遮断層は、多層分析要素の製造時及び/又は分析操作時において、塗布液、試料液等の液体及びこれらの液体に溶解含有されている妨害成分(例えば、アルカリ性成分等)が実質的に透過せずかつガス状アンモニアを通過させる貫通空気孔を有する微多孔性物質で構成されているのが好ましい。
【0018】
本発明における液体遮断層は、1層または2層以上の多孔膜からなる。2層以上の多孔膜の場合は、後述の試薬層と接する最上層の多孔膜の孔径がその直下の多孔膜の孔径と同じかそれより小さいことが好ましい。具体的には、最上層の多孔膜の孔径は0.01〜1μm、好ましくは0.04〜0.2μmであり、その直下の多孔膜の孔径は0.2〜20μm、好ましくは0.5〜10μmであって、最上層の多孔膜の平均孔径/その直下の多孔膜の孔径の比が0.001〜1.0、好ましくは0.01〜0.5である。なお、本明細書における孔径は特に記載がなければ平均孔径である。多孔膜の材質は特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の弗素含有ポリマー、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリアミド(ナイロン類)、またはこれらの混合物等が挙げられる。好ましいものはポリエチレン多孔膜とポリプロピレン多孔膜の組み合わせである。各多孔膜は厚さが3〜40μm、好ましくは5〜20μmであり、これらを2層以上、通常は2〜3層を組み合わせて液体遮断層が形成される。この液体遮断層全体の空隙率は25〜90%、好ましくは35%〜90、全層厚は10〜150μm、好ましくは10〜50μmが適当である。
【0019】
上記の液体遮断層は前述した指示薬層に実用的な強度をもって接着する。接着は、指示薬層表面をウェット状態にして貼り付け乾燥すればよい。ここにウェット状態とは、バインダーを溶解している溶媒が残っているか、あるいは乾燥した膜が可溶性溶媒で濡らされてバインダーが膨潤状態、分散状態又は溶液状態にあることを意味する。
【0020】
多孔膜間の接着は、熱圧着またはホットメルト等の接着剤を用いて点接触状に接着する等の物理的および/または化学的手段により行う。これらは、順次積層しても先に多孔膜同士を積層化後、指示薬層に接着してもよい。
【0021】
液体遮断層の上には、試薬層を設けることができる。試薬層は、例えばクレアチニンと反応してアンモニアを生成させる試薬(一般には酵素又は酵素を含有する試薬)、反応により生成したアンモニアをガス状アンモニアとして効率よく遊離させるためのアルカリ性緩衝剤及びフィルム形成能を有する親水性ポリマーバインダーを通常含有する層である。アンモニアを生成させる試薬としては、クレアチニンデイミナーゼ、例えば、クレアチニンイミノヒドラーゼ(EC3.5.4.21)が挙げられる。
【0022】
試薬層に用いることができるアルカリ性緩衝剤としては、pH7.0から10.5、好ましくは7.5から10.0の範囲の緩衝剤を用いることができる。緩衝剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、燐酸塩緩衝剤、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−ヒドロキシプロパン−3−スルホン酸(HEPPSO)、N−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)等のGoodの緩衝剤、硼酸塩緩衝剤等を挙げることができる。
【0023】
試薬層に用いることができるフィルム形成能を有する親水性ポリマーバインダーとしては、ゼラチン、アガロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0024】
試薬層には、前記成分以外にも必要に応じて、湿潤剤、バインダー架橋剤(硬化剤)、安定剤、重金属イオントラップ剤(錯化剤)等を含有させることができる。
【0025】
試薬層は、クレアチニンと反応してアンモニアを生成させる試薬、アルカリ性緩衝剤及び必要に応じて加えられる上記試薬類を、フィルム形成能を有するゼラチン等の親水性ポリマーバインダーと混合して塗布液とし、液体遮断層の上に塗布、乾燥することにより形成することができる。
【0026】
試薬層に含まれるクレアチニンと反応してアンモニアを生成させる試薬の量は、バインダーの質量に対して通常約0.1〜約50質量%、好ましくは約0.2〜約20%の範囲内である。アルカリ性緩衝剤の量はバインダーの質量に対して約0.1〜約60質量%の範囲内であるのが適当である。この試薬層の乾燥膜厚は通常約1〜約40μm、好ましくは約2〜約20μmの範囲内である。
【0027】
試薬層の上には展開層を設ける。展開層としては、特開昭55−164356号公報(対応米国特許 4 292 272)、特開昭57−66359号公報(対応米国特許 4 783 315)等に記載の織物布地展開層(例、ブロード、ポプリン等の平編物布地)、特開昭60−222769号公報(対応EP特許 0 162 302A)等に記載の編物布地展開層(例、トリコット編物布地、ダブルトリコット編物布地、ミラニーズ編物布地)、特開昭57−148250号公報に記載の有機ポリマー繊維パルプ含有抄造紙展開層、特開昭57−125847号公報等に記載の繊維と親水性ポリマーの分散液を塗布して形成した展開層等の繊維質微多孔性展開層;特公昭53−21677号公報(対応米国特許 3 992 158)等に記載のメンブランフィルター層(ブラッシュポリマー層)、ポリマーミクロビーズ等の微粒子が親水性ポリマーバインダーで点接触状に接着されてなる連続微空隙含有等方的微多孔性展開層、特開昭55−90859号公報(対応米国特許 4 258 001)等に記載のポリマーミクロビーズが水で膨潤しないポリマー接着剤で点接触状に接着されてなる連続微空隙含有等方的微多孔性層(三次元格子状粒状構造物層)展開層等の非繊維等方的微多孔性展開層;特開昭61−4959(対応米国特許5 019 347)、特開昭62−138756、特開昭62−138757、特開昭62−138758号(対応EP特許 0 226 465A)の各公報等に記載の複数の微多孔性層(例、織物布地又は編物布地とメンブランフィルターの2層、織物布地又は編物布地とメンブランフィルターと織物布地又は編物布地の3層)をそれらの表面で微細な不連続点状又は島状(印刷分野における網点状)の接着剤で積層接着した血球分離能力の優れた展開層がある。
【0028】
展開層に用いられる織物生地又は編物生地は特開昭57−66359号公報に記載のグロー放電処理又はコロナ放電処理に代表される物理的活性化処理を布生地の少なくとも片面に施すか、又は特開昭55−164356号公報、特開昭57−66359号公報等に記載の水洗脱脂処理、親水性ポリマー含浸等親水化処理、又はこれらの処理工程を適宜に組み合せて逐次実施することにより布生地を親水化し、下側(支持体に近い側)の層との接着力を増大させることができる。また、特開昭59−171864、特開昭60−222769、特開昭60−222770号の各公報等に記載のように、展開層の上からポリマー含有水溶液又はポリマー含有水−有機溶媒混合溶液を塗布して液体試料の展開面積又は広がりを制御することができる。
【0029】
また、本発明の分析要素には、試薬層と展開層との間に、アンモニア拡散防止層、内因性アンモニア補足層をこの順で設けることもできる。アンモニア拡散防止層及び内因性アンモニア補足層は、例えば特開平4−157364号公報等に記載され、公知であるが、例えばアンモニア拡散防止層は、アンモニアの補足およびアンモニア生成反応が実質的に行われない層であり、ヒドロキシプロピルセルロースのような親水性ポリマーを用いて形成することができる。アンモニア拡散防止層の厚さは、例えば2〜50μmである。内因性アンモニア補足層は、液体試料中にすでに存在する内因性アンモニアに作用してこれを実質的に試薬層に到達しえない状態に変化させる試薬を含む層である。試薬としては、アンモニアを基質として他の物質に変化させる触媒能を有する酵素を含む組成物が挙げられる。該組成物の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロースのような親水性ポリマーをバインダーポリマーとし、α−ケトグルタル酸、NADPH、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを含む組成物である。内因性アンモニア補足層の厚さは、例えば1〜30μmである。
【0030】
さらに試薬層と展開層との間には、色遮蔽層又は光反射層を設けることができる。色遮蔽層又は光反射層は光遮蔽性又は光遮蔽性と光反射性を兼ね備えた二酸化チタン微粒子、硫酸バリウム微粒子等の白色微粒子がゼラチン等の親水性ポリマーバインダー中にほぼ一様に分散されている乾燥時の厚さ約2μmから約20μmの範囲の層である。
【0031】
さらに試薬層、アンモニア拡散防止層、内因性アンモニア補足層、色遮蔽層又は光反射層の上には展開層を強固に接着一体化する目的で親水性ポリマーからなる公知の接着層を設けることができる。接着層の乾燥時の厚さは約0.5μmから約5μmの範囲である。
【0032】
試薬層、アンモニア拡散防止層、内因性アンモニア補足層、色遮蔽層又は光反射層、接着層、展開層等には界面活性剤を含有させることができる。その例としてノニオン性界面活性剤がある。ノニオン性界面活性剤の具体例として、p−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、p−ノニルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、p−ノニルフェノキシポリグリシドール、オクチルグルコシド等がある。ノニオン性界面活性剤を展開層に含有させることにより水性液体試料の展開作用(メータリング作用)がより良好になる。ノニオン性界面活性剤を試薬層、アンモニア拡散防止層、内因性アンモニア補足層、色遮蔽層又は光反射層、接着層などに含有させることにより分析操作時に水性液体試料中の水が試薬層に実質的に一様に吸収されやすくなり、また展開層との液体接触が迅速にかつ実質的に一様になる。
【0033】
本発明のクレアチニン定量用一体型多層分析要素は、前述のように、アミンと不溶性の塩を生じる物質を含むこと特徴としている。当該物質は、アミンと不溶性の塩を生じる物質であればとくに制限されないが、テトラフェニルホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩誘導体等が挙げられ、中でもテトラフェニルホウ酸塩(例えばテトラフェニルホウ酸ナトリウム)、テトラフェニルホウ酸塩誘導体(例えば、テトラキス(4−クロロフェニルホウ酸カリウム)、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ酸ナトリウム・3水和物、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム・2水和物、テトラキス(4−フルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム・2水和物)が好ましい。また、試料(例えば血液検体)に含まれるアミンとしては低分子アミン、例えばメチルアミン等である。
【0034】
アミンと不溶性の塩を生じる物質は、例えば、前記のアンモニア拡散防止層、内因性アンモニア補足層、展開層等に含有させることができるが、展開層にアミンと不溶性の塩を生じる物質を含有させるのが好ましい。展開層にアミンと不溶性の塩を生じる物質を導入するには、形成した展開層上に、アミンと不溶性の塩を生じる物質を含む塗布液(オーバーコート液)を塗布し、乾燥すればよい。またその他の層に展開層にアミンと不溶性の塩を生じる物質を導入するには、その他の層を形成する塗布液中にアミンと不溶性の塩を生じる物質を含有させ、塗布すればよい。
アミンと不溶性の塩を生じる物質の塗布量は、例えば0.1〜10g/m、好ましくは0.5〜8.0g/m、さらに好ましくは1.0〜6.0g/mである。
【0035】
該オーバーコート液は、アミンと不溶性の塩を生じる物質と、ポリマーとその溶媒とを含有し、分析素子を完成させ、検体を点着したときの展開層のpHがpH2〜9、好ましくはpH3〜7になるように塩酸等の酸を添加することが好ましい。該ポリマーとしては、例えばポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられ、質量平均分子量は5000〜200万が好ましい。溶媒としては、エタノール、2−メトキシエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、水またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0036】
本発明の分析要素を用いて試料中のクレアチニンを測定するには、展開層の上に3〜30μL、好ましくは6〜15μLの範囲の全血、血漿、血清、尿等の水性液体試料滴を点着し、1〜10分の範囲で、約20〜40℃の範囲の実質的に一定の温度でインキュベーションを行った後、透明支持体側から指示薬層の色変化(発色又は退色)の程度を反射測光するか、標準色と視覚的に比較すればよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
[実施例1]
厚さ180μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に下記の被覆量となるように指示薬層をエタノール溶液により塗布・乾燥した。
指示薬層
ブロムフェノールブルー 110mg/m
ポリビニルエチルエーテル 1.8g/m 質量平均分子量:約4万
ポリビニルブチラール 0.18g/m 平均重合度:約300
水酸化ナトリウム 6.8mg/m
【0038】
次いで、指示薬層の上に平均孔径0.2μm、空隙率75%、厚さ100μmのポリエチレン製メンブレンフィルターを均一に圧着して液体遮断層を設けた。この液体遮断層の上に試薬層を下記の被覆量となるように試薬層を水溶液から塗布・乾燥した。
【0039】
試薬層(pH9.0)
ヒドロキシエチルセルロース 3.0g/m
平均分子量:約4万
ヒドロキシエチル基平均置換度:DS=1.0〜1.3
平均値モル数:MS=1.8〜2.5
四ホウ酸ナトリウム 1g/m
クレアチニンイミノヒドラーゼ 1800U/m
(EC 3.5.4.21)
【0040】
さらに、試薬層の上に、下記の被覆量となるように、アンモニア拡散防止層を塗布し、乾燥した。
アンモニア拡散防止層
ヒドロキシプロピルセルロース 20.0g/m
メトキシ基28〜30%
ヒドロキシプロポキシ基7〜12%
2%水溶液の20℃での粘度0.05Pa.s(50cps)
【0041】
さらに、アンモニア拡散防止層の上に、下記の被覆量となるように、内因性アンモニア補足層を塗布し、乾燥した。
内因性アンモニア補足層(pH8.2)
ヒドロキシエチルセルロース 5g/m
アンフォライト 1.2g/m
α−ケトグルタル酸 1.2g/m
NADPH 0.4g/m
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ 10000U/m
(EC 1.4.1.4)
【0042】
上記内因性アンモニア補足層を0.2%P−ノニルフェノキシポリグリシドール水溶液でほぼ均一に湿潤させ、直ちにポリエステル編布(ゲージ数40)を均一に圧着した。さらにこの積層物に、下記の被覆量となるようにポリビニルピロリドンのエタノール溶液(オーバーコート液)を含浸塗布・乾燥し、12mm幅にスリットしてクレアチニン定量用一体型多層分析要素を調製した。
【0043】
オーバーコート液
ポリビニルピロリドン 7.5g/m
平均分子量:約120万
1N塩酸 0.04g/m
テトラフェニルホウ酸ナトリウム 1.5g/m
【0044】
[比較例1]
オーバーコート液からテトラフェニルホウ酸ナトリウムを抜いた以外は、実施例1と同様にクレアチニン定量用一体型多層分析要素を調製した。
【0045】
上記で得られたクレアチニン定量用一体型多層分析要素を用い、溶媒を水とした0.58mMの濃度のクレアチニンを展開層上に10μl点着させ、600nmの測定波長における5分後の発色光学濃度(OD)を調べた。これとは別に、上記で得られたクレアチニン定量用一体型多層分析要素を用い、溶媒を水とした0.58mMの濃度のメチルアミンを展開層上に10μl点着させ、600nmの測定波長における5分後の発色光学濃度(OD)を調べた。結果を下記表に示す。なお、下記表の結果において、ΔOD(メチルアミン)/ΔOD(クレアチニン)とは、メチルアミンのODおよびクレアチニンのODからそれぞれ水のODを差し引き、前者と後者の比(前者/後者)を表したものである。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から、実施例1の分析要素では、テトラフェニルホウ酸ナトリウムを使用していない従来の分析要素(比較例1)に比べて、メチルアミンによるOD増加が約4割抑制できていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンと不溶性の塩を生じる物質を含むこと特徴とするクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
【請求項2】
前記クレアチニン定量用一体型多層分析要素が、透明支持体の上に、少なくとも、ガス状アンモニアにより検知可能な変化を生じる指示薬を含む指示薬層、ガス状アンモニアを通過させる液体遮断層、アルカリ性緩衝剤を含有しクレアチニンと反応してアンモニアを生成することのできる試薬層、及び展開層がこの順に一体に積層された分析要素であることを特徴とする請求項1に記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
【請求項3】
前記アミンと不溶性の塩を生じる物質が、前記展開層に含まれることを特徴とする請求項2に記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。
【請求項4】
前記アミンと不溶性の塩を生じる物質が、テトラフェニルホウ酸塩、またはテトラフェニルホウ酸塩誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクレアチニン定量用一体型多層分析要素。

【公開番号】特開2006−258560(P2006−258560A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75384(P2005−75384)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】