説明

クレーンの過負荷防止装置

【課題】フックロープのシーブへの巻き掛け数に対応した定格荷重特性に固定することができるクレーンの過負荷防止装置を提供する。
【解決手段】フックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器22Aと、前記第1の掛け数設定器22Aの第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器22Cとを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、前記第1の掛け数設定器22A及び第2の掛け数設定器22Cの各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部20Aと、この記憶部20Aに記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部20Bとを有する制御手段20と、前記制御手段20と前記第1の掛け数設定器22Cとの連通状態を固定するスイッチ23とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの過負荷防止装置に係り、更に詳しくは、フックロープのシーブへの巻き掛け数に対応した定格荷重特性に設定固定することができるクレーンの過負荷防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーンには、クレーンの転倒を防止するための過負荷防止装置(モーメントリミッタ)が装設されている。この過負荷防止装置には、ワイヤの巻き掛け数を設定するワイヤ掛数設定スイッチと、このワイヤ掛数設定スイッチによって設定したワイヤ掛数により、吊り荷の制限を変更する制限吊り荷重変更手段とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−165392号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の過負荷防止装置を備えたクレーンにおいては、フックロープのフックシーブへの巻き掛け数を例えば4本掛けとして荷役荷重が大きい荷役と、フックロープのフックシーブへの巻き掛け数を例えば2本掛けとして地下等への荷役とが可能なように構成されているものがある。
これらの荷役作業の安全性を確保するために、フックロープの4本掛け数を過負荷防止装置に入力する第1の掛け数設定器と、フックロープの2本掛け数を過負荷防止装置に入力する第2の掛け数設定器とを備えている。
【0005】
一方、クレーンをレンタルする場合、その借用希望者は、予めフックロープのシーブへの巻き掛け数を指定してくることがある。しかしながら、前述したように、クレーンが、定格荷重での荷役作業(例えばフックロープのシーブへの巻き掛け数が4本掛け)と、地下等への荷役作業のように荷役の揚程を大きくしたい荷役作業(例えばフックロープのシーブへの巻き掛け数が2本掛け)との2種類の機能を有していると、仮にロープが希望作業の構成になっていても、掛け数設定器の設定忘れにより、適正なモードが選択されていないと、過負荷の際にも警報が働かない恐れがある。
【0006】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、フックロープのシーブへの巻き掛け数に対応した定格荷重特性を確実にすることができるクレーンの過負荷防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、前記制御手段と前記第1の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチとを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、前記制御手段と前記第2の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチとを備えたことを特徴とする。
【0009】
更に、第3の発明は、フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、前記制御手段と前記第1の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチと、前記制御手段と前記第2の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチとを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記スイッチは、前記前記制御手段を組み込んだ過負荷防止装置枠体の背面に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フックロープのシーブへの巻き掛け数に対応した定格荷重特性に過負荷防止装置を設定固定して、貸与することができるので、借用者側での過負荷防止装置における巻き掛け数の変更確認作業が不要になる。その結果、荷役作業の効率が向上し、その生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のクレーンの過負荷防止装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1及び図2は、本発明のクレーンの過負荷防止装置の一実施の形態を備えたクレーンの一例を示すもので、図1は側面図、図2はクレーンのブームの上部を省略した正面図である。これらの図において、1はクレーンの走行体、2は走行体1の上部に旋回可能に搭載した旋回体、3は旋回体2の後部に設けた原動機、4は旋回体3の前方右側に設けた運転室である。
【0013】
5は旋回体2の前部に俯仰動可能に設けた多段(この例では5段)の伸縮ブームで、この多段伸縮ブーム5はブーム俯仰用シリンダ6によって俯仰動されるとともに、多段伸縮ブーム5内に設けた伸縮用シリンダ(図示せず)によって伸縮動される。
【0014】
7は荷吊り用のフックで、このフック7は多段伸縮ブーム5における先端ブーム5Aの先端から垂下される。8はフック7の上部に設けたフックシーブブラケット、9はフックシーブブラケット8に回転可能に設けた複数のフックシーブで、この例では4本掛けが可能なように3つのフックシーブ9を有している。10は多段伸縮ブーム5における先端ブーム5Aの先端のブラケット、11はブラケット10に回転可能に並設されたけた先端シーブで、この例では2つの先端シーブ11が設けられている。
【0015】
12は多段伸縮ブーム5における基端ブーム5Bの上面に設けた巻上ウインチ、13は巻上ウインチ12に巻き付けたフックロープで、このフックロープ13の一端は先端シーブ11とフックシーブ9とに巻き掛けられたのち、先端ブーム5Aの下面に固定されている。このフックロープ13は、通常、即ち定格総荷重の荷役を可能とするために、フックシーブ9に4本掛け数(第1の掛け数)に掛け渡されている。
【0016】
多段伸縮ブーム5における基端ブーム5B側には、多段伸縮ブーム5の伸縮長さを検出するブーム長さ検出器14と、多段伸縮ブーム5の俯仰角度を検出するブーム角度検出器15とが設けられている。また、ブーム俯仰用シリンダ6のピストンロッド側室と反ピストンロッド側室とには、その内圧をそれぞれ検出するための圧力検出器16,17(図示せず)が設けられている。
【0017】
前述した検出器14乃至17は、後述する過負荷検出装置19に接続されている。過負荷検出装置19は、運転室4内に装備されている。この過負荷検出装置19の構成を図3を用いて説明する。この図3において、図1の符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明を省略する。
図2において、過負荷検出装置19は、圧力検出器16,17からの信号により吊り荷重や、ブーム長さ検出器14、ブーム角度検出器15からの信号により作業半径等の情報を演算し、これらが予め設定された値よりも大きくなったときに警報情報を出力する制御手段20と、この制御手段20で演算されたクレーンの姿勢等の状態量に関する数値を表示する表示部21と、この表示部21と一体的に設けた設定のためのスイッチ部22とで構成されている。この表示部21と、この表示部21と一体的に設けた設定のためのスイッチ部22とは、運転室4内の見易く、操作し易い位置に設置されている。
【0018】
前述した制御手段20は、フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)のときのブーム長さとその先端の水平方向の作業半径に基づいて設定される第1の定格荷重特性、及びフックロープ13の第2の掛け数(例えば、掛け数2本)のときのブーム長さとその先端の水平方向の作業半径に基づいて設定される第2の定格荷重特性を記憶する記憶部20Aと、前記圧力検出器16,17からの信号により吊り荷重や、ブーム長さ検出器14、ブーム角度検出器15からの信号により作業半径等の情報を演算し、これらが記憶部20Aに予め設定された値よりも大きくなったときに警報情報を出力する演算部20Bとを備えている。
【0019】
前述した表示部21は、クレーンの模擬図21Aと、この模擬図22Aに対応して設けた吊り上げ荷重値表示部21Bと、定格荷重値表示部21Cと、最大揚程値表示部21Dと、ブーム長さ表示部21Eと、ブーム角度表示部21Fと、作業半径表示部21Gと、負荷率表示部21Hと、巻過警報表示灯21Iとを備えている。これらの表示部は、制御手段20で演算された演算値及び検出器で検出された検出値に応動してそれぞれ表示される。
【0020】
前述したスイッチ部22には、フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)の設定器である切替スイッチ22Aとその作動表示ランプ22Bと、フックロープ13の第2の掛け数(例えば、掛け数2本)の設定器である切替スイッチ22Cとその作動表示ランプ22Dとの他に、例えば点検スイッチ22E、巻過警報解除スイッチ22F、走行吊り切替スイッチ22G、最大ブーム角制限スイッチ22H、最小ブーム角制限スイッチ22I、最大作業半径制限スイッチ22J、最大揚程制限スイッチ22K等が設けられている。
【0021】
フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)切替スイッチ22Aを投入すると、その作動表示ランプ22Bが点灯するとともに、その投入信号により、制御手段20における記憶部20Aに記憶された第1の定格荷重特性が選択され、また、フックロープ13の第2の掛け数(例えば、掛け数2本)切替スイッチ22Cを投入すると、その作動表示ランプ22Dが点灯するとともに、その投入信号により、制御手段20における記憶部20Aに記憶された第2の定格荷重特性が選択される。
【0022】
この例では、フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)切替スイッチ22Cと制御手段20との連通状態を固定するように、制御手段20に信号を出力する不作動用のスイッチ23を備えている。この不作動用のスイッチ23は、例えば、表示部21、制御手段20を組み込んだ過負荷防止装置枠体の背面に設けられている。
【0023】
次に、上述した本発明のクレーンの過負荷防止装置の一実施の形態の動作を説明する。 クレーンによる荷役作業は、その吊荷の最大荷重を有効に利用するために、フックロープ13の巻掛け数は、その最大巻掛け数で使用される。この例では、4本掛けで使用される。
【0024】
この場合、第1の掛け数(例えば、掛け数4本)切替スイッチ22Aを投入して、制御手段20における記憶部20Aに記憶された第1の定格荷重特性を選択する。その投入状態は、その作動表示ランプ22Bの点灯で確認することができる。第1の定格荷重特性の選択により、制御手段20は、圧力検出器16,17からの信号により吊り荷重や、ブーム長さ検出器14、ブーム角度検出器15からの信号により作業半径等の情報を演算し、これらが予め設定した第1の定格荷重特性よりも大きくなったときに、警報情報を表示部21に出力する。
【0025】
上記の第1の定格荷重特性を選択した状態において、例えば、地下作業に適するようにフック7の揚程を大きくしたい場合がある。この荷役作業においては、フックロープ13の巻掛け数を、最大の第1の巻掛け数からこれより少ない第2の巻掛け数、例えば4本掛けから2本掛けに変更して使用する。この巻掛け数の変更は、フックロープ13の一端側を先端ブーム5Aから取り外し、3つのフックシーブ9の内の真ん中のフックシーブ9に掛けることにより、行われる。
【0026】
顧客の指定により、フックロープ13の巻掛け数を、最大の第1の巻掛け数でのみしか使用しない場合には、不作動用のスイッチ23を投入することにより、制御手段20はこの信号を受けて、フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)切替スイッチ22Cと制御手段20との連通状態を固定する。
【0027】
これにより、制御手段20における演算部20Bは、圧力検出器16,17からの信号により吊り荷重や、ブーム長さ検出器14、ブーム角度検出器15からの信号により作業半径等の情報を演算し、これらが第1の巻掛け数に対応した第1の定格荷重特性よりも大きくなったときに、警報情報を表示部21に出力する。
【0028】
その結果、作業者は、表示部22における第2の掛け数切替スイッチ22Cの投入解除等の操作を意識することなく、荷役作業を行うことができ、その作業性を向上させることができる。また、その後の作業の安全性も確保することができる。
【0029】
なお、上述の実施の形態においては、フックロープ13の第1の掛け数(例えば、掛け数4本)切替スイッチ22Cと制御手段20との連通状態を固定する場合について説明したが、フック7の揚程を大きくして使用したい場合には、フックロープ13の第2の掛け数(例えば、掛け数2本)切替スイッチ22Cと制御手段20との間に、これらを連通状態に固定する信号を出力する不作動用のスイッチを設ければ良い。
【0030】
更に、第2の掛け数切替スイッチ22Cと制御手段20、及び第1の掛け数切替スイッチ22Cと制御手段20との間に、これらの連通状態を固定する不作動用のスイッチをそれぞれ設けることも可能である。この実施の形態においては、第1の掛け数切替スイッチ若しくは第2の掛け数切替スイッチの不作動設定を、スイッチによって行うことができるので、要求された荷役内容のクレーンを速やか提供することができる。
【0031】
また、上述の実施の形態においては、多段伸縮ブームを例にしたが、1段ブームの場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の過負荷検出装置の一実施の形態を備えたクレーンの一例を示す側面図である。
【図2】図1に示す本発明の過負荷検出装置の一実施の形態を備えたクレーンの一例を一部省略して示す正面図である。
【図3】本発明の過負荷検出装置の一実施の形態を構成する制御手段の構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 走行体
2 旋回体
3 原動機
4 運転室
5 多段伸縮ブーム
6 ブーム俯仰用シリンダ
7 荷吊り用のフック
8 フックシーブブラケット
9 フックシーブ
11 先端シーブ
12 巻上ウインチ
13 フックロープ
14 ブーム長さ検出器
15 ブーム角度検出器
16 圧力検出器
17 圧力検出器
19 過負荷検出装置
20 制御手段
21 表示部
22 スイッチ部
22A 第1の掛け数設定器である切替スイッチ
22C 第2の掛け数設定器である切替スイッチ
23 不作動用のスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、
前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、
前記制御手段と前記第1の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチと
を備えたことを特徴とするクレーンの過負荷防止装置。
【請求項2】
フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、
前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、
前記制御手段と前記第2の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチと
を備えたことを特徴とするクレーンの過負荷防止装置。
【請求項3】
フックシーブへのフックロープの第1の掛け数を設定する第1の掛け数設定器と、前記第1の掛け数設定器の第1の掛け数よりも少ない第2の掛け数を設定する第2の掛け数設定器とを備えたクレーンの過負荷防止装置であって、
前記第1の掛け数設定器及び第2の掛け数設定器の各掛け数に対応した各定格荷重特性を記憶した記憶部と、この記憶部に記憶した特性に基づいて作業限界を演算する演算部とを有する制御手段と、
前記制御手段と前記第1の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチと、
前記制御手段と前記第2の掛け数設定器との連通状態を固定するスイッチと、
を備えたことを特徴とするクレーンの過負荷防止装置。
【請求項4】
前記スイッチは、前記制御手段を組み込んだ過負荷防止装置枠体の背面に設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のクレーンの過負荷防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−204266(P2007−204266A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28610(P2006−28610)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】