説明

クロスローラ有限直動案内ユニット

【課題】このクロスローラ有限直動案内ユニットは,軌道台間のローラを保持する保持板の長手方向の撓みや曲がりを小さくし,保持板の窓孔にローラ保持手段を設けてローラ間の配設ピッチを小さくし,所定長さでのローラの個数を増大させる。
【解決手段】保持板4は,ピニオン7を嵌挿するホルダ部6を一体構造に合成樹脂製で成形する。保持板4には,ローラ9が軸心を長手方向に直交し,主面17に45°傾斜して挿入される窓孔18が形成されている。ローラ9の端面25に対向する窓孔18の窓壁面27の部分には,ローラ9の端面25の部分を覆う抱持部31に形成されている。保持板4の両側の側端部には,長手方向に沿って延び且つ主面17から突出して成る撓みを小さくするための鍔部23が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,摺動方向である長手方向に沿って延びる一対の軌道台,及び該軌道台間に配設された保持器に交互にクロスして保持された複数の転動体であるローラを備え,一対の軌道台がローラを介して予め決められた所定の距離を互いに相対摺動することから成るクロスローラ有限直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットは,半導体製造装置,工作機械,各種組立装置,各種ロボットなどの摺動部に使用されており,益々,電子機器などの小型化,高機能化が促進されるのに伴って,小形でコンパクトで高精度であって,高負荷容量で高速・高加減速に適用可能なものが要望されている。特に,クロスローラ有限直動案内ユニットについては,小形で高負荷容量化であって高速・高加減速に対応でき,組立容易性等が要望されている。
【0003】
従来,有限直動案内ユニットは,互いに相対摺動する一対の軌道台を備えており,軌道台間に配設された保持器によって転動体である複数のローラが所定間隔に保持されており,保持器を構成する保持板は,相対移動する軌道台のストローク長さに対して半分のストローク長さで相対移動するように構成されている。また,有限直動案内ユニットは,負荷変動,軌道台に形成された軌道溝の加工精度,立て軸仕様,高速・高加減速等の条件により,保持器と軌道台との所定位置が僅かずつ位置ずれが生じており,そこで,有限直動案内ユニットには,軌道台に対する保持器のずれを防止するために種々の保持器のずれ防止機構が設けられている。このような保持器のずれ防止機構は,保持器にピニオンを設け,それぞれの軌道台の軌道溝にラックを配設し,一対のラックとピニオンとを噛み合わせることによって保持板の相対位置が矯正されて保持器のずれを防止するラック&ピニオン機構に構成されている。
【0004】
本出願人は,有限直動案内ユニットとして,高負荷条件に対応するために,保持器において転動体であるローラ間の配設ピッチを極力小さくして所定長さに対するローラの本数を増やして構成し,軌道台においてV字状の軌道溝の深さを深くしてローラに対して軌道面の接触幅,即ち有効軌道面幅を大きくして高負荷容量に構成されている。上記有限直動案内ユニットには,高加減速運動に対応するために,ラック&ピニオン機構による保持器のずれ防止機構が設けられ,ピニオン&ホルダ組立体が軌道路の断面積の範囲内に収まる大きさに形成され,ピニオン&ホルダ組立体が保持板の嵌着孔に装着されて構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−236604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1に開示されている有限直動案内ユニットは,図2に示されるように,軌道溝の深さを深くして,ローラに対して軌道面の接触幅を大きくするために,保持板の厚みを極力薄くして,帯板状の保持板に配設されたローラを配置する楕円形孔の窓部にはローラを保持するための手段が無く,有限直動案内ユニットの組立時には,保持器の保持板からローラが脱落する構造になっており,組立等の取り扱いが難しかった。また,上記有限直動案内ユニットは,保持板の嵌着孔にピニオン&ホルダ組立体を装着する構造に構成されているので,部品点数が多いものに成っており,構造が複雑化していた。
【0007】
また,本出願人が先に特許出願した特願2010−159315の有限直動案内ユニットでは,上記特許文献1の課題を解決すべく,保持器の保持板にローラを保持する構造が提供されているが,保持板の板厚が薄肉のために保持器が撓み易く,ローラが脱落し易い構造になっており,軌道台へローラを配設された保持板を組み立てるという組立等の取り扱いが難しいという課題を有している。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決するものであり,合成樹脂製の成形体の保持板にあって,撓み即ち曲がり難く,組立等の取扱いをし易くするために,軌道台の対向する面取り部間のスペースを有効に利用して,保持板の両側端部に形成した補強目的の鍔部を配設するという改良を施すことに至ったものであり,高速・高加減速に対応する機構として,ラック&ピニオン機構の保持器ずれ防止装置を備えており,保持器の保持板にピニオンを保持するためのホルダ部を一体成形して一体構造に構成し,ラック&ピニオン機構が小形であっても,保持器が簡素化され,保持板の撓みが少なくなるように是正され,軌道台間への組立容易性を改善したものであり,高負荷条件に対応可能で高加減速運動にも対応可能な特許文献1の構成を踏襲して,保持板を合成樹脂製の成形体で構成し,ローラを装着可能に窓孔の窓壁面部分にローラの端面部分を覆う抱持部を形成して保持板自体にローラ保持機能を持たせて製造時や組立時の部品の取扱いを容易にし,保持板の両側の側端部に軌道台の両側の面取り部間に配設する大きさの鍔部を形成して保持板の撓みを小さくし,更に,保持板にピニオンを嵌挿可能にするホルダ部を一体構造に構成して部品点数を少なくし,より一層単純な構造でコンパクトに安価な構成にしたことを特徴とするクロスローラ有限直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,互いに対向する長手方向の壁面に断面V字形状の軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記一対の軌道台の前記軌道溝に形成された互いに対向する軌道面間に配設され且つ前記軌道面を転動する複数の転動体であるローラ,及び前記軌道台の前記壁面間に配設されて前記ローラを所定間隔で交互に直交して支持する前記長手方向に延びた保持板を備えた保持器から構成されているクロスローラ有限直動案内ユニットにおいて,
前記保持板は,前記軌道台の前記壁面に近接した表面と裏面とから成る互いに平行に延びる主面を有し,前記ローラが軸心を前記長手方向に直交し且つ前記主面に対して45°傾斜して挿入される複数の窓孔が形成された合成樹脂製の成形体で構成され,前記窓孔の前記ローラの端面に対向するそれぞれの窓壁面部分は前記ローラの端面部分を覆う抱持部に形成され,前記保持板の両側の側端部には前記長手方向に沿ってそれぞれの前記主面から突出して前記保持板の撓みを小さくするための鍔部が形成されていることを特徴とするクロスローラ有限直動案内ユニットに関する。
【0010】
また,前記保持板の前記窓孔の幅方向両端部に形成された前記窓壁面部分は,前記主面間の半分の厚さで形成された前記抱持部,及び前記抱持部に対向する残り部分が開口凹部から形成されているものである。
【0011】
また,前記保持板は前記軌道台の幅よりも小さい幅に形成され,前記保持板の前記側端部に形成された前記鍔部は,前記軌道台から突出することなく前記長手方向全長に延びて,各々の前記軌道台の両側に形成された対向する面取り部のスペースに配設される大きさに突出して断面三角形状に形成されているものである。
【0012】
また,前記保持板の前記主面は,前記窓孔の両側にわたって平らな面に形成され,前記窓孔は,前記ローラを回転可能に遊嵌して支持可能な幅方向を長円とする楕円形状に形成されているものである。
【0013】
また,前記保持器は,前記軌道台間に配置された前記保持板のそれぞれの前記主面から突出して一体構造に成形され且つ嵌挿孔が形成されたホルダ部を備えており,前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔には,前記保持板が前記軌道台に対して予め決められた所定の相対位置からずれるのを防止する保持器ずれ防止機構のラック&ピニオン機構を構成するピニオンが着脱可能に嵌挿されており,前記軌道台の前記軌道面間の逃げ溝には,前記ラック&ピニオン機構を構成するラックがそれぞれ配設されている。
【0014】
更に,前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔は,前記ピニオンの円板部と該円板部の周方向に隔置して設けられた複数の歯部とを配設するピニオン嵌挿孔と,前記ピニオン嵌挿孔に直交して延び且つ前記ピニオンの軸部を回転可能に軸支する軸受部とから構成されている。また,前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔における前記軸受部には,前記ピニオンの前記円板部の中心に垂直に延びて設けられた前記軸部を回転自在に把持する複数の突起が設けられている。
【発明の効果】
【0015】
この発明によるクロスローラ有限直動案内ユニットは,上記のように,高負荷条件にも適用可能に,軌道台間に配設された保持器の保持板に長手方向に可及的に近接してローラを保持する窓孔を多数形成し,特に,薄板の保持板の板厚の範囲内で,ローラの保持機能を持たせた抱持部を形成して脱落を阻止することで,ローラ間の配設ピッチを極力小さくして所定長さに対するローラの個数を増大させると共に,軌道台に形成された断面V字状の軌道溝の深さを深くして,ローラに対して軌道面の接触幅である有効軌道面幅を大きく形成して構成されている。更に,このクロスローラ有限直動案内ユニットは,保持板の両側の側端部の全長にわたって鍔部を形成して保持板の撓みを小さくする形状に構成し,製造時や組立時の部品の取扱いを容易にし,また,保持板にピニオンを嵌挿可能にするホルダ部を一体構造に成形構成して,ラック&ピニオン機構のピニオンを嵌着するホルダ部の部品点数を少なく,より単純な構造でコンパクトに,小形化,組立容易性が促進されたものになっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明によるクロスローラ有限直動案内ユニットの一実施例を示し,要部を断面部分を含んだ状態で示す斜視図である。
【図2】このクロスローラ有限直動案内ユニットにおける図1のローラの位置A−Aで軌道台の取付け用孔を一致させて,長手方向に直交して断面した状態を示す断面図である。
【図3】図1のクロスローラ有限直動案内ユニットにおける保持器を示す斜視図である。
【図4】図3の保持器のB−B位置でローラを断面し,保持器を部分拡大した状態を示す部分斜視図である。
【図5】図4の保持器からローラを除いた状態の保持板を示す部分斜視図である。
【図6】図5の保持板における窓孔にローラを組み込む状態を説明する説明図である。
【図7】図3の保持器におけるローラとピニオンとを組み込んでいない保持板を示す平面図である。
【図8】図7の保持板のC−C断面を示す断面図である。
【図9】図7の保持板のD−D断面を拡大して示す断面図である。
【図10】図7の保持板のE−E断面を拡大して示す断面図である。
【図11】図3の保持器におけるピニオンを示す平面図である。
【図12】図11のピニオンを示す側面図である。
【図13】図2の断面図に相当する従来例の有限直動案内ユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照して,この発明によるクロスローラ有限直動案内ユニットを説明する。このクロスローラ有限直動案内ユニットは,図1〜図3に示すように,長尺状でなる一対の軌道台1,2が壁面間距離Sだけ隔置して複数の転動体であるローラ9を介して予め決められた所定距離を互いに相対摺動するものであり,軌道台1,2間に各ローラ9を所定間隔に保持する保持器3を備えている。また,このクロスローラ有限直動案内ユニットは,保持器3の保持板4に一体構造に成形されたホルダ部6にピニオン7を回転自在に支持し,軌道台1,2の互いに対向した軌道面10,11間の逃げ溝16に設置されたラック8を設けており,ラック8とピニオン7とを噛み合わせることによって所定位置の相対位置からの保持器3のずれが矯正されてなるラック&ピニオンによる保持器のずれ防止機構を備えている。このクロスローラ有限直動案内ユニットにおいて,軌道台1(第1軌道台)と軌道台2(第2軌道台)は,断面略矩形状に形成されており,対向面である壁面19にその長手方向に沿って断面V字状の軌道溝が形成されており,該軌道溝は一対の軌道面10,11で構成されている。軌道台1,2には,軌道溝の軌道面10,11間に逃げ溝16が設けられ,逃げ溝16の奥の底部に長手方向に沿ってラック8が装着されており,軌道台1,2の両端部に取り付けられた端部ねじ12でラック8が軌道台1,2に固定されている。
【0018】
ローラ9は,長さが直径より若干小さい略1:1の円筒ころで構成されており,一対の軌道台1,2の軌道面10,11間に形成される軌道路に長手方向に沿って隣り合うローラ9の軸心が直交して交互に配設されている。一方向に傾斜するローラ9は,その転動面24が軌道溝の一方の軌道面10と対向する軌道面11とに当接し,ローラ9の端面25が他方の軌道面10と対向する軌道面11とに摺接し,クロス方向に傾斜するローラ9は,転動面24が軌道溝の他方の軌道面10と対向する軌道面11とに当接し,ローラ9の端面25が一方の軌道面10と対向する軌道面11に摺接して,軌道台1,2間においてローラ9の転動面24が対向する軌道面10と対向する軌道面11とを転走する。ローラ9は,軌道面10,11の長手方向に対して軸心が直交し,軌道台1,2の壁面19に対して軸心が45°に傾斜している。また,保持器3は,一対の軌道台1,2の対向する壁面19間に挟まる状態で配設された板状の保持板4,保持板4の中央部に一体構造に成形して形成されたホルダ部6に軸支されたピニオン7,及びホルダ部6の両側に保持板4の幅の中央の長手方向に沿って所定間隔を持って保持されて配設された複数の転動体であるローラ9から構成されている。ラック8は,例えば,本願出願人に係る特許3950683号明細書に開示された梯子状のラックで構成することができる。また,軌道台1,2には,一対の軌道面10,11から成る軌道溝が形成された壁面19と直交する壁面に所定間隔で形成された取付け用孔13が設けられている。取付け用孔13には,ザグリ孔30及びねじ孔29が形成されている。軌道台1,2には,他の部材,機器,ベース等に取り付けるための取付面22が反対向面とねじ孔29側の面とに設けられている。
【0019】
次に,図1〜図10を参照して,この発明によるクロスローラ有限直動案内ユニットの特徴とする構成を一実施例として説明する。このクロスローラ有限直動案内ユニットは,保持器3における保持板4を合成樹脂製の成形体で構成することによって種々の課題を解決可能にする形状に多くの特徴を有するものに成っている。このクロスローラ有限直動案内ユニットは,高負荷で,高加減速運動での使用環境に適用可能に構成されており,保持器3は,窓孔18に配設されるローラ9の配設ピッチPを小さく構成して,保持板4に多数のローラ9が配設されることによって高負荷容量に適用できるように構成され,先に本出願人が開発した特願2010−159315号の有限直動案内ユニットにおける保持板と同様に,保持板4に各ローラ9を保持可能に構成されている。
【0020】
更に,このクロスローラ有限直動案内ユニットは,保持器3を軌道台1,2に組み立てる時に,保持器3は,多数のローラ9を保持することによって,ローラ9の重みで保持器3が大きく撓んで,曲がってしまうことにならないように,この点を是正するために,保持板4の両側の側端部に鍔部23を形成し,撓みや曲がりの小さい構造即ち形状に構成され,更に,クロスローラ有限直動案内ユニットの組立性を向上させている。保持板4に鍔部23を形成したことによって,組立時及び使用時にあって,保持板4の強度が大きくなり,破損し難いものに成っている。更に,本願発明は,ピニオン7を嵌着するためのホルダ部6を合成樹脂製の成形体の保持板4と同時成形して保持板4に一体構造に構成され,保持器3が簡素化されている。ホルダ部6は,図8及び図9に示すように,主面17から両側が外形斜面34で延びる略台形状にそれぞれ突出している。更に,保持器3は,成形された後の保持板4にローラ9及びピニオン7を組込み可能な構造に構成されている。保持器3を構成する保持板4は,簡単な樹脂成形型で成形可能に構成されている。
【0021】
このクロスローラ有限直動案内ユニットは,図2に示すように,一対の軌道台1,2が,上記特許文献1の軌道台を利用するようにして,図13に示す従来例のクロスローラ有限直動案内ユニットと比較して,断面V字状でなる軌道溝の深さが深く形成され,ローラ9と軌道面10,11とが接触する軌道面10,11の幅Lが大きく形成されて高負荷をを受けることができるように高負荷容量に構成されている。例えば,ローラ9の直径Daは,4mmであって,従来例が有効軌道面幅L1が1.88mmであるのに対して,本願発明のクロスローラ有限直動案内ユニットでは,有効軌道面幅Lが2.73mmに形成され,負荷容量が1.45倍に大きく構成されている。
【0022】
軌道台1,2には,互いに対向する壁面19の両側に面取り部21が形成されている。保持板4は,一対の軌道台1,2の互いに対向する壁面19間に挟まれ,保持板4の表裏面に成る互いに平行な主面17が軌道台1,2の壁面19に近接した状態に薄板厚の平らな板状に形成されている。保持板4には,保持板4の幅方向の両端部に長手方向の全長に沿って延びる鍔部23が形成されている。鍔部23は,保持板3の全長の剛性を高め,保持板3の撓みや曲がりを小さくし,ローラ9の脱落を阻止する機能を有している。保持板4は,主面17に対してローラ9の軸心が45°傾斜状態のローラ9を保持している。保持板4は,保持板4の幅Bが,摺動時に障害にならないように,それぞれの軌道台1,2の幅(Bk1,Bk2)からはみ出ることなく,軌道台1,2の幅よりも小さく形成されると共に,保持板4の両側の側端部にそれぞれの主面17から突出する鍔部23が形成されている。鍔部23は,互いに対向する一対の軌道台1,2の面取り部21に嵌入する大きさに突出して断面三角形状に形成されている。例えば,断面三角形状の鍔部23により,保持器3の撓みが35%程度少なくなって改善されるものになる。また,鍔部23は,この実施例の他に,軌道台1,2に面取り部21よりも大きな凹部を形成して,その軌道台1,2の凹部に嵌入するように,さらに大きく形成することも可能である。更に,鍔部23は,軌道台1,2に形成されている互いに対向する面取り部21で形成されるスペース38を有効に利用するようにスペース38に位置しており,しかも,軌道台1,2間のスペース38からのゴミの侵入を防止する防塵機能を果たすことができる。
【0023】
保持器3は,図3に示すように,保持板4の中央部に一体構造に成形されたホルダ部6にピニオン7を嵌挿して回転自在に軸支して構成されており,ホルダ部6の両側に保持板4の幅Bの中央の長手方向に沿って転動体である多数のローラ9が配設されている。各ローラ9間は,所定間隔即ちピッチPを持って配設され,それぞれのローラ9の軸心が長手方向に直交し且つ隣り合うローラ9の軸心が直交して,それぞれのローラ9が保持板4の主面17に対してローラ9の軸心が45°傾斜状態にして保持板4に回転可能に保持されて構成されている。保持板4の両側の側端部には,長手方向に沿って,それぞれの主面17から突出する断面三角形状の鍔部23が形成されている。鍔部23は,保持板4の長手方向に延びる両端面即ち側面14を形成している。保持器3は,ローラ9間の配設ピッチPが極力小さく形成され,所定長さに対するローラ9の本数が多く配設されて構成されている。例えば,ローラ9の直径をDa(=4mm)とし,ローラ9間の配設ピッチをPとすると,配設ピッチPは,P=1.2Daの関係に形成されている。
【0024】
保持板4は,図4及び図5に示すように,ローラ9の軸心が長手方向と直交して保持板4の主面17に対して45°傾斜したローラ9を回転可能に遊嵌する窓孔18が形成されており,窓孔18は,図7に示すように,傾斜したローラ9の転動面24に沿うように,窓孔長さがWaの短孔部と,窓孔幅がWbの長孔部とで構成される略楕円形状に形成されている。更に,本願発明の特徴構成としては,窓孔18の楕円形の長軸側のそれぞれにおいて,挿入されたローラ9の端面25に対向する窓壁面27の部分にローラ9の端面25の部分を覆う抱持部31が形成され,一対の抱持部31でローラ9の端面部分をそれぞれ回転可能に支持している。抱持部31は,ローラ9の端面部分に対向する部分である内側がローラ9の端面25に沿った斜面に成る支持面32に形成され,外側が主面17と同一平面に形成されて成る。本発明のローラ9を保持する支持面32を備えた抱持部31は,図13に示すような従来例の有限直動案内ユニットにおける軌道台41,42間に介在した保持器40が,保持板40のそれぞれの主面から外側へ突出してローラ44を保持するために設けた突出部即ち爪部43とは,互いに構成及び機能が全く異なっている。
【0025】
このクロスローラ有限直動案内ユニットにおける保持板4に形成された抱持部31は,窓孔18の楕円形の長軸側部分の両側にあって,互いに直交したローラ9に従って,一つの窓孔18では,一方側の抱持部31は一方の主面17側に形成され,他方側の抱持部31は他方の主面17側に形成されて成り,隣り合う窓孔18では,一方側の抱持部31は他方の主面17側に形成され,他方側の抱持部31は一方の主面17側に形成されていると共に,隣接する窓孔18について互いに交互に異なって形成されている。ローラ9は,保持板4の窓孔18のそれぞれの抱持部31において,ローラ9の端面25の部分が支持面32に当接して抱持部31で支持され,ローラ9の端面25の部分に隣接するローラ9の転動面24の部分が窓孔18の縁部分に引っ掛かって窓孔18内に保持されることになる。ローラ9の端面25の部分に隣接するローラ9の転動面24の部分の窓孔18は,ローラ9の直径Daより小さい窓孔幅Wcに形成されているので,ローラ9の転動面24の部分は,窓孔18の縁部分に保持されることに成る。
【0026】
本願発明の保持板4は,図8にも示すように,一対の主面17が両側の鍔部23を除き窓孔18の両側に渡り平面状に形成され,それぞれの窓孔18にあって,抱持部31は,主面17間に成る板厚tの半分の肉厚(1/2)×tに形成され,残る半分の肉厚部分である抱持部31に対向する部分は開口凹部28に形成されている。開口凹部28は,抱持部31を成形するために抱持部31が形成された主面17と反対側の主面17から当該抱持部31の成形金型を主面17に対して垂直に挿入するスペースに構成されている。保持板4は,開口凹部28を形成することにより,シンプルな形状の成形金型を容易に着脱することができ,合成樹脂製の成形体を簡単に成形することができるようになる。
【0027】
本願発明は,合成樹脂製の成形体に成形された保持板4の窓孔18に対して,ローラ9が組み込める構造に構成されている。一例では,図6に示すように,窓孔18にローラ9を挿入し,二点鎖線に示すローラ9のように,一方の抱持部31の支持面32にローラ9の一方の端面25の部分を当接して,ローラ9の他方の端面25を矢印Fの方向に押圧して一方の抱持部31を弾性変形するようにして,他方の抱持部31を潜らせれば,実線で示すローラ9のように,窓孔18に嵌着できる構造になっている。このように,保持板4は,ローラ9を容易に着脱自在になるように構成されている。
【0028】
本願発明の合成樹脂製の成形体の保持板4には,図7〜図10に示すように,中央部にピニオン7を嵌挿するためのホルダ部6が保持板4と一体成形して一体構造に構成されている。なお,ホルダ部6は,使用状況によって,保持板4の中央部でなくてもよいものである。ホルダ部6は,軌道台1,2の軌道面10,11間の軌道路内に収納される大きさに形成され,図8に示すように,長手方向に見て,それぞれの主面17から突出した山形形状にして長手方向にピニオン7の外周が収まる長さに形成されている。ホルダ部6は,保持板4の表裏のそれぞれの主面17から突出して山形形状の頂面に平面で見て十字形状の嵌挿孔33が形成されており,ピニオン7は,嵌挿孔33に回転自在に嵌挿可能に構成されている。ホルダ部6に形成された嵌挿孔33は,軌道台1,2の摺動方向である長手方向に延びるピニオン7の円板部26と歯部20とが嵌挿するピニオン嵌挿部39と,ピニオン嵌挿部39の両側で長手方向に直交する嵌挿孔33の中心部分にピニオン7の軸部15を軸支可能にする軸受部35とから構成されている。具体的には,ピニオン嵌挿部39は,ホルダ部6の幅方向中央部で長手方向に延びて形成された互いに平行に対向する側壁37によって形成され,また,軸受部35は,ホルダ部6の長手方向中央部で幅方向に延びて形成されている。
【0029】
また,嵌挿孔33の軸受部35のそれぞれの壁面には,壁面から僅かに突出した一対の突起36が形成されており,ピニオン7の軸部15が回転可能に軸支され係着可能に構成されている。一対の突起36は,嵌挿孔33に僅かな力でピニオン7を着脱可能にする大きさに形成されている。ピニオン7は,図11及び図12に示すように,軌道台1,2の軌道溝の軌道面10,10間及び軌道面11,11間に形成された逃げ溝16の底面に嵌入したラック8と噛み合うことができる円弧状の歯部20を備えており,ピニオン7の歯部20は,板状に成る円板部26から円周方向に等分に突出して形成されている。ピニオン7の中心には,円板部26の両側の中心から突出して成る軸部15が形成されている。ピニオン7は,回転軸の軸部15がホルダ部6内に長手方向に直交する状態に収納され,保持板4に回転自在に支持される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明によるクロスローラ有限直動案内ユニットは,半導体製造装置,工作機械,各種組立装置,各種ロボットなどの摺動部に使用されるものである。
【符号の説明】
【0031】
1,2 軌道台
3 保持器
4 保持板
6 ホルダ部
7 ピニオン
8 ラック
9 ローラ(転動体)
10,11 軌道面
15 軸部
16 逃げ溝
17 主面
18 窓孔
19 壁面
20 歯部
21 面取り部
23 鍔部
24 転動面
25 端面
26 円板部
27 窓壁面
28 開口凹部
31 抱持部
32 支持面
33 嵌挿孔
35 軸受部
36 突起
38 スペース
39 ピニオン嵌挿孔
t 板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する長手方向の壁面に断面V字形状の軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記一対の軌道台の前記軌道溝に形成された互いに対向する軌道面間に配設され且つ前記軌道面を転動する複数の転動体であるローラ,及び前記軌道台の前記壁面間に配設されて前記ローラを所定間隔で交互に直交して支持する前記長手方向に延びた保持板を備えた保持器から構成されているクロスローラ有限直動案内ユニットにおいて, 前記保持板は,前記軌道台の前記壁面に近接した表面と裏面とから成る互いに平行に延びる主面を有し,前記ローラが軸心を前記長手方向に直交し且つ前記主面に対して45°傾斜して挿入される複数の窓孔が形成された合成樹脂製の成形体で構成され,前記窓孔の前記ローラの端面に対向するそれぞれの窓壁面部分は前記ローラの端面部分を覆う抱持部に形成され,前記保持板の両側の側端部には前記長手方向に沿ってそれぞれの前記主面から突出して前記保持板の撓みを小さくするための鍔部が形成されていることを特徴とするクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項2】
前記保持板の前記窓孔の幅方向両端部に形成された前記窓壁面部分は,前記主面間の半分の厚さで形成された前記抱持部,及び前記抱持部に対向する残り部分が開口凹部から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項3】
前記保持板は前記軌道台の幅よりも小さい幅に形成され,前記保持板の前記側端部に形成された前記鍔部は,前記軌道台から突出することなく前記長手方向全長に延びて,各々の前記軌道台の両側に形成された対向する面取り部のスペースに配設される大きさに突出して断面三角形状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項4】
前記保持板の前記主面は,前記窓孔の両側にわたって平らな面に形成され,前記窓孔は,前記ローラを回転可能に遊嵌して支持可能な幅方向を長円とする楕円形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項5】
前記保持器は,前記軌道台間に配置された前記保持板のそれぞれの前記主面から突出して一体構造に成形され且つ嵌挿孔が形成されたホルダ部を備えており,前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔には,前記保持板が前記軌道台に対して予め決められた所定の相対位置からずれるのを防止する保持器ずれ防止機構のラック&ピニオン機構を構成するピニオンが着脱可能に嵌挿されており,前記軌道台の前記軌道面間の逃げ溝には,前記ラック&ピニオン機構を構成するラックがそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項6】
前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔は,前記ピニオンの円板部と該円板部の周方向に隔置して設けられた複数の歯部とを配設するピニオン嵌挿孔と,前記ピニオン嵌挿孔に直交して延び且つ前記ピニオンの軸部を回転可能に軸支する軸受部とから構成されていることを特徴とする請求項5に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。
【請求項7】
前記ホルダ部に形成された前記嵌挿孔における前記軸受部には,前記ピニオンの前記円板部の中心に垂直に延びて設けられた前記軸部を回転自在に把持する複数の突起が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のクロスローラ有限直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−202458(P2012−202458A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66428(P2011−66428)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】