説明

クロロゲン酸類組成物の製造方法

【課題】簡便な方法により、コーヒー豆抽出物から、クロロゲン酸類を選択的に、且つ効率良く回収し、安定性が優れ、カフェインが低減された高純度クロロゲン酸類組成物を提供する。
【解決手段】コーヒー豆抽出物のpHを0.5〜4.0に調整した後、固液分離した液を吸着剤に吸着させ、アルカリ性水溶液を通液して溶出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高度に精製されたクロロゲン酸類組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
狭心症、心筋梗塞、心不全などの心疾患あるいは脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などの脳血管疾患は、高血圧と非常に深い関係があり、日本人の死因のそれぞれ第二位と第三位を占める。また、厚生省国民生活基礎調査(平成10年度)によれば、高血圧症で通院する患者数は我が国で千人あたり64人であり、病因の第一位を占めている。高血圧の対策としては、利尿薬、交感神経抑制薬、血管拡張薬、アンジオテンシン交換酵素阻害薬などの血圧降下医薬品が挙げられ、これらは主として重症高血圧患者に適用される。それに対して、食事療法、運動療法、飲酒・喫煙の制限などの生活習慣改善を目的とした一般療法は、軽症者から重症者までの高血圧者に広く適用されることから、一般療法の重要性が認識されている。なかでも食習慣の改善は重要であるといわれ、伝承として血圧降下作用を有すると言われる食品は数多く存在する。また従来から食品由来の血圧降下素材の探索が盛んに行われ、血圧降下作用を有する有効成分の分離・同定が数多くなされている。
【0003】
特にコーヒー生豆中に約6〜9%含まれるクロロゲン酸類は優れた血圧降下作用を有する(特許文献1、2)。しかし、コーヒー生豆中にはカフェイン成分も通常1〜4%含まれており、過剰摂取による神経過敏、吐き気、不眠などの有害作用を引き起こす原因にもなるといわれている。このため、カフェインを含有するクロロゲン酸類組成物から、カフェインのみを選択的に除去する方法が検討されてきた。
【0004】
クロロゲン酸類を高濃度で含有し、カフェインを低減させたクロロゲン酸類組成物を高収率で得る方法として、コーヒー豆抽出液に合成吸着剤を接触させ、吸着脱離する方法が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。しかしながら、本技術では、脱離工程において、1.0質量%程度の強アルカリ濃度を用いており、且つ脱離工程の空塔速度(SV)が0.5〜1[hr−1]と遅い為、アルカリに弱いクロロゲン酸類が分解し、純度が低下するという問題があった。また、弱アルカリではクロロゲン酸類組成物の回収が困難であった。更に、特許文献3の方法では、アルカリ脱離液はアルカリ性であることから、クロロゲン酸類の分解を招きやすい為、脱離工程後に連続してイオン交換樹脂等による中和を行う必要があった。
尚、特許文献3では、吸着工程において、吸着量を向上させる方法として、塩析効果を利用した方法が好適であるとされているが、条件によっては効果が得られず、又塩類の添加量が非常に多い為、風味が悪くなる問題があった。
また、カフェインを除去する方法として、クロロゲン酸類組成物を一旦、合成吸着剤に吸着させた後、エタノールにより脱離した溶液をイオン交換することによりカフェインを除去する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。しかし、エタノール脱離溶液には金属が多く含まれており、イオン交換処理した後の液は、pHが著しく下がる為、風味が低下し、且つ回収率も低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2002−53464号公報
【特許文献2】特開2002−87977号公報
【特許文献3】特開平4−145049号公報
【特許文献4】特開2002−335911号公報
【特許文献5】特開平4−145048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、簡便な方法により、コーヒー豆抽出物から、クロロゲン酸類を選択的に、且つ効率良く回収し、安定性が優れ、カフェインが低減された高純度クロロゲン酸類組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コーヒー豆抽出物の吸着処理前に、所定のpHに調整し、固液分離により不溶物を除去した液を吸着剤に吸着させた後、低濃度の強アルカリ溶液を一定速度以上で通液することより、溶出液を中性にでき、中和工程の簡略化ができ、併せて、クロロゲン酸類組成物を高収率で製造できること、得られたクロロゲン酸類組成物は、安定性に優れ、高純度、且つカフェインが低減されていることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、コーヒー豆抽出物のpHを0.5〜4.0に調整した後、固液分離した液を吸着剤に吸着させ、アルカリ性水溶液を通液して溶出させるクロロゲン酸類組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便な方法により、安定性に優れ、高純度、且つカフェインが低減されたクロロゲン酸類組成物を高収率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるコーヒー豆から抽出したコーヒー豆抽出物中には、(A)モノカフェオイルキナ酸成分、(B)フェルラキナ酸成分及び(C)ジカフェオイルキナ酸成分の三種を含有する。成分(A)としては、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸が挙げられる。成分(B)としては、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸が挙げられる。成分(C)としては、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸が挙げられる。本願明細書では、(A)モノカフェオイルキナ酸成分、(B)フェルラキナ酸成分及び(C)ジカフェオイルキナ酸成分の三種をクロロゲン酸類といい、この合計量をクロロゲン酸類量という。
【0009】
本発明に用いる前記コーヒー豆抽出物は、常法に従いコーヒー生豆又は焙煎コーヒー豆及び/又はその粉砕物から水(冷水〜熱水のいずれであってもよい)で抽出することにより得られる。コーヒー豆からの抽出時の温度はクロロゲン酸類の抽出効率を高くする観点から70℃〜沸騰水が好ましく、さらに好ましくは80℃〜沸騰水である。コーヒー豆から抽出する際の水の量は、コーヒー豆に対して5〜60質量倍、特に5〜40質量倍が好ましい。コーヒー豆からの抽出時間は10〜120分が好ましく、より好ましくは20〜90分、さらに好ましくは30〜60分である。抽出時間は、短すぎるとクロロゲン酸類の溶出が不十分であり、長すぎると異臭が強くなる。
【0010】
コーヒー豆からのカフェイン及びクロロゲン酸類の抽出は、攪拌抽出又はドリップ抽出等の方法により行うことができる。抽出の際、水にあらかじめアスコルビン酸ナトリウム等の有機酸又は有機酸塩類を添加しても良い。また、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用しても良い。
【0011】
コーヒー豆から抽出する代わりに、コーヒー豆抽出物の濃縮物を水に溶解あるいは希釈して用いても、コーヒー豆からの抽出液とコーヒー豆抽出物の濃縮物とを併用しても良い。
ここで、コーヒー豆抽出物の濃縮物とは、コーヒー豆から熱水又は水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものであり、例えば、特開昭58−138347号公報、特開昭59−51763号公報、特開昭62−11671号公報、特開平5−236918号公報に記載されている方法により調製したものをいう。
【0012】
具体的には、コーヒー豆抽出物としては、長谷川香料(株)「フレーバーホルダーRC−30R」、オリザ油化(株)「生コーヒー豆エキスP」、東洋醗酵(株)「OXCH100」等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるコーヒー豆の種類は、特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ等が挙げられる。豆の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種が挙げられる。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。
【0014】
前記生コーヒー豆は乾燥物を使用することが可能であり、焙煎コーヒー豆は通常の焙煎方法で得られたものであれば使用可能である。通常、豆の焙煎度が高くなる程クロロゲン酸量が減少するため、L値25以上の軽度の焙煎が好ましく、さらに好ましくはL値30以上、特にL値35〜40が好ましい。
【0015】
該コーヒー豆抽出物のpHを0.5〜4.0に調整する手法としては、コーヒー豆抽出物に酸を添加したり、コーヒー豆抽出物を酸性水溶液へ溶解させたり、又はイオン交換樹脂へ通液させること等が挙げられる。ここで用いられる酸成分としては、たとえば、有機酸としてはクエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等、無機酸としては塩酸等が挙げられる。本発明で用いられるイオン交換樹脂としては、特に限定はないが、例えば、H型のカチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。カチオン交換樹脂としては、具体的には、オルガノ社(供給元:米国ローム&ハース社)のアンバーライト200CT、IR120B、IR124、IR118、三菱化学社製のダイヤイオンSK1B、SK1BH、SK102、PK208、PK212等を用いることができる。
コーヒー豆抽出物のpHは0.5〜4.0が好ましく、更に0.8〜3.5、特に1.0〜3.0にすることが、風味及び不要成分除去の点から好ましい。
【0016】
本発明では、上記の如くpHを調整したコーヒー豆抽出物を固液分離し、クロロゲン酸類組成物の清澄液を得る。その後、クロロゲン酸類組成物の清澄液を吸着剤が充填されたカラムに吸着させる。
固液分離の方法としては、遠心分離法、精密濾過膜、又は珪藻土濾過等の処理方法が、脱離集合液のpH、沈殿物除去、処理時間、又はクロロゲン酸類の歩留まりの点から好ましい。
【0017】
遠心分離に用いる遠心分離機としては、分離板型、円筒型、デカンター型などの一般的な機器が好ましい。遠心分離条件としては、析出した濁り成分の除去の点から、温度が5〜70℃、更に10〜40℃であるのが好ましく、回転数と時間は、例えば分離板型の場合、3,000〜10,000r/min、更に5,000〜9,000r/min、特に6,000〜8,000r/minで、0.2〜30分、更に0.3〜20分、特に0.4〜15分であるのが好ましい。
【0018】
精密濾過膜による処理条件としては、析出した濁り成分の除去の点から、一般的な濾過条件で処理することができ、孔径は、0.1〜30μmであるのが好ましい。
【0019】
珪藻土濾過による処理方法としては、析出した濁り成分の除去の点から、一珪藻土、セルロース及びこれらを組み合わせた一般的な濾過助剤及び濾過条件で処理することができる。
【0020】
本発明に用いる吸着剤としては、疎水性吸着剤が好ましく、さらにスチレン−ジビニルベンゼン系、修飾スチレン−ジビニルベンゼン系等のスチレン系合成吸着剤やメタクリル酸メチル系合成吸着剤等の合成吸着剤が好ましい。スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤の例としては、三菱化学社製の商品名ダイヤイオンHP−20、HP−21、セパビーズSP70、SP700、SP825、SP−825やオルガノ社(供給元:米国ローム&ハース社)のアンバーライトXAD4、XAD16HP、XAD1180、XAD2000、住友化学(供給元:米国ローム&ハース社)のデュオライトS874、S876等が挙げられる。
また、臭素原子を核置換して吸着力を強めた修飾スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤の例としては、三菱化学社製の商品名セパビーズSP205、SP206、SP207等が挙げられる。修飾スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤は、修飾されていない合成吸着剤に比べ吸着容量が高く、また高比重である為に精製プロセスの中でアップフロー通液が可能となって好ましい。
メタクリル酸メチル系の合成吸着剤の例としては、三菱化学社製のセパビーズHP1MG、HP2MGやオルガノ社のXAD7HP、住友化学のデュオライトS877等が挙げられる。メタクリル酸メチル系合成吸着剤は吸着量が少ないが、高極性有機物の吸着の点で有利である。
吸着剤が充填されたカラムは、予め空塔速度(SV)=0.5〜10[hr−1]、吸着剤に対する通液倍数(BV)=2〜10[v/v]の通液条件で95vol%エタノール水溶液による洗浄を行い、吸着剤の原料モノマーや原料モノマー中の不純物等を除去するのが好ましい。そして、その後SV=0.5〜10[hr−1]、BV=1〜60[v/v]の通液条件により水洗を行い、エタノールを除去して吸着剤の含液を水系に置換する方法によりクロロゲン酸類の吸着能が向上する。
【0021】
吸着条件としては、クロロゲン酸類組成物の清澄液を、空塔速度(SV)=1〜10[hr−1]、更に1.5〜5[hr−1]、吸着剤に対する通液倍数(BV)=1〜15[v/v]、更にBV=2〜10[v/v]の通液条件で処理することが、生産性及び製品組成の点から好ましい。
【0022】
吸着工程の後に、クロロゲン酸類組成物を吸着させた合成吸着剤を水で洗浄することが、クロロゲン酸類の純度向上及びクロロゲン酸類組成物の異味異臭除去の点から好ましい。
【0023】
クロロゲン酸類の溶出に用いるアルカリ性水溶液としては、ナトリウム又はカリウム系のアルカリ性水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム等を好適に用いることができる。また、アルカリ性水溶液のpHは7〜14の範囲が好ましい。クロロゲン酸類回収率の点から9〜13.8、特に10〜13.5が好ましい。pH7〜14のアルカリ性水溶液としては、2%以下の水酸化ナトリウム水溶液、1N−炭酸ナトリウム水溶液、2%以下の水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0024】
アルカリ水溶液の濃度は0.01〜2.0質量%であることが好ましく、更に0.05〜1.5、特に0.08〜0.8、殊更に0.1〜0.5にすることが、クロロゲン酸類の収率と純度の点から好ましい。
また、アルカリ水溶液の通液速度は、空塔速度(SV)=2〜15[hr−1]であることが好ましく、更に2.5〜10、特に3〜8にすることが、クロロゲン酸類の収率、純度と液量低減の点から好ましい。
また、アルカリ水溶液の液量は、吸着剤に対する通液倍数(BV)=1〜20[ml/ml]であることが好ましく、更に2〜15、特に3〜10にすることが、液量低減とクロロゲン酸類の収率、アルカリ溶出液のpH、純度の点から好ましい。
【0025】
本発明により得られるクロロゲン酸類組成物は、固形分中にクロロゲン酸類を40〜98質量%含有することが好ましく、更に50〜95質量%、特に60〜93質量%にすることが風味の点から好ましい。また、カフェイン/クロロゲン酸類質量比率が0〜0.1であることが好ましく、更に0.001〜0.08、特に0.002〜0.04にすることが、カフェインの呈味の影響の改善の観点から好ましい。
【0026】
本発明で得られたクロロゲン酸類組成物はそのままで使用しても良く、クロロゲン酸類組成物の安定性の観点から、溶出液のpHを2〜7以下に調整してもよい。クロロゲン酸類組成物溶出液の中和方法としては、具体的には酸による中和、電気透析によるアルカリ金属イオンの除去、又はイオン交換樹脂によるアルカリ金属イオンの除去が利用できる。イオン交換樹脂としては特にH型の強カチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。プロセスの簡便性からイオン交換樹脂によるpH調整が好ましい。カチオン交換樹脂としては、具体的には、アンバーライト200CT、IR120B、IR124、IR118、ダイヤイオンSK1B、SK1BH、SK102、PK208、PK212等を用いることができる。またクロロゲン酸類組成物の製品形態として粉体が望ましい場合は、噴霧乾燥や凍結乾燥等の方法により粉体化できる。この場合、生豆由来の異臭も同時に低減できる。
【0027】
また、本発明の製造方法により得られたクロロゲン酸類組成物は、活性炭による脱臭又は脱色処理によりコーヒー豆由来の異臭を除去又は色調を低減することができる。用いる活性炭としては、工業レベルで使用可能であれば特に制限されず、例えば、ZN−50、Y−10S、GS-1、GS-B(味の素ファインテクノ製)、クラレコールGLC、クラレコールPK−D、クラレコールPW−D、クラレコールGW、クラレコールGA、クラレコールGA-D、クラレコールRP−15(クラレケミカル社製)、白鷺AW50、白鷺A、白鷺P、白鷺KL、白鷺M、白鷺C、カルボラフィン、WH2C(日本エンバイロケミカルズ製)、GM130A、CW130A、CW130AR、CW350AR、GL130A、SG、SGA、SGP(フタムラ化学製)、ヤシコール、MAS印、梅蜂印、梅蜂F印(太平化学産業製)、CPG、CAL、S80A(三菱化学カルゴン製)等の市販品を用いることができる。
製品の色調を改善する点、活性炭の使用量を低減する点、回収率を向上する点から、活性炭としては以下のものが好ましい。細孔径は50〜1000nm(ナノメーター)、さらに、100〜900nm(ナノメーター)、特に200〜800nm(ナノメーター)のものが好ましい。細孔容積は0.01〜2mL/g、さらに0.1〜1.5mL/g、特に0.5〜1.2mL/gのものが好ましい。また、比表面積は800〜2000m/g、さらに900〜1600m/g、特に1000〜1500m/gの範囲のものが好ましい。なお、これらの物性値は窒素吸着法に基づく値である。
【0028】
活性炭は、本発明のクロロゲン酸類組成物100質量部に対して8〜80質量部、特に20〜60質量部添加するのが好ましい。活性炭の添加量が少なすぎると脱臭効果が十分でなく、多すぎるとクロロゲン酸類が活性炭に吸着されて好ましくない。
【0029】
本発明で得られたクロロゲン酸類組成物は容器詰飲料に配合できる。使用される容器は一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0030】
また上記の容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【0031】
本発明で得られるクロロゲン酸類組成物を配合した容器詰飲料としては、コーヒー飲料、茶系飲料、果汁又は野菜汁添加のジュース飲料、炭酸入り清涼飲料等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
(クロロゲン酸類、カフェインの測定法)
(分析機器)
HPLC(島津製作所(株))を使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通り。ディテクター:SPD−M10A、オーブン:CTO−10AC、ポンプ:LC−10AD、オートサンプラー:SIL−10AD、カラム:Inertsil ODS−2(内径4.6mm×長さ250mm)
【0033】
(分析条件)
サンプル注入量:10μL、流量:1.0mL/min、紫外線吸光光度計検出波長:325nm(クロロゲン酸類)、270nm(カフェイン)、溶離液A:0.05M酢酸3%アセトニトリル溶液、溶離液B:0.05M酢酸100%アセトニトリル溶液
【0034】
(濃度勾配条件)
時間 溶離液A 溶離液B
0分 100% 0%
20分 80% 20%
35分 80% 20%
45分 0% 100%
60分 0% 100%
70分 100% 0%
120分 100% 0%
【0035】
(クロロゲン酸類のリテンションタイム)
3−カフェオイルキナ酸(3−CQA):16.8min、
5−カフェオイルキナ酸(5−CQA):19.8min、
4−カフェオイルキナ酸(4−CQA):21.5min、
3−フェリルキナ酸(3−FQA):22.2min、
5−フェリルキナ酸(5−FQA):26.1min、
4−フェリルキナ酸(4−FQA):27.2min、
3,5−ジカフェイルキナ酸(3,5−diCQA):33.5min、
3,4ジカフェイルキナ酸(3,4−diCQA):33.8min、
4,5−ジカフェイルキナ酸(4,5−diCQA):36.0min
ここで求めたarea%から5−CQAを標準物質とし、質量%を求めた。
(カフェインのリテンションタイム)
19.4min
ここで求めたarea%から試薬カフェインを標準物質とし質量%を求めた。
【0036】
(評価項目と対象サンプル)
表1に示す値として、クロロゲン酸類量の収率は、アルカリ溶出液をカラム出口において、一定時間毎にサンプリングして即時中和し、その中和サンプルを上記分析法にて分析し、それらの分析値を積算することにより求めた。クロロゲン酸類組成物のpH、残存クロロゲン酸類量、クロロゲン酸類組成物の評価、組成は、アルカリ溶出集合液(通液開始から溶出終了までの間に、溶出した液を全量捕集し、その集合液を通液開始から室温、4時間放置した液)を分析又は評価することにより求めた。
【0037】
(残存クロロゲン酸類量)
残存クロロゲン酸類量は、クロロゲン酸類組成物(アルカリ溶出集合液)に含まれるクロロゲン酸類を、コーヒー豆抽出物に含まれるクロロゲン酸類で除することにより求めた。
【0038】
(クロロゲン酸類組成物の評価)
クロロゲン酸類組成物の評価は、クロロゲン酸類組成物(アルカリ溶出集合液)を、クロロゲン酸類量が180mg/100mLになるようにイオン交換水で希釈し、そのサンプルを用い外観の評価を目視で行った。
【0039】
(カフェイン/クロロゲン酸類量)
カフェイン/クロロゲン酸類量は、クロロゲン酸類組成物(アルカリ溶出集合液)に含まれるカフェイン量を、クロロゲン酸類組成物(アルカリ溶出集合液)に含まれるクロロゲン酸類量で除することにより求めた。
【0040】
(クロロゲン酸類量の純度)
クロロゲン酸類量の純度は、クロロゲン酸類組成物に含まれる質量(アルカリ溶出集合液)を、クロロゲン酸類組成物中の固形分質量(アルカリ溶出集合液)で除することにより求めた。
【0041】
(各成分の質量比率)
各成分の質量比率は、上記分析法により求めた、クロロゲン酸類組成物(アルカリ溶出集合液)に含まれるカフェオイルキナ酸(CQA)、フェリルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di−CQA)の各質量を、クロロゲン酸類量の質量でそれぞれ除することにより求めた。
(コーヒー豆抽出物の製造方法)
ベトナム産ロブスタ種G−1生豆500gを5Lの98℃の熱水で4時間攪拌・抽出した。冷却後、固液分離を行い、抽出液を固形分濃度が20w/w%になるまで40℃にて減圧濃縮を行い、その後噴霧乾燥にて粗クロロゲン酸製剤を得た。得られたコーヒー豆抽出物のクロロゲン酸類量は、カフェオイルキナ酸(CQA)26.3質量%、フェリルキナ酸(FQA)5.1質量%、ジカフェオイルキナ酸(di−CQA)6.65質量%、カフェイン含有量9.97質量%である。
【0042】
実施例1
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後、溶解液824.8gに2規定の塩酸を50.3g添加し、溶液のpHを1.3に調整した後、遠心分離により固液分離を行い上層部分818.8gを採取した。その後、採取した上層液269.5gを合成吸着剤(三菱化学社製、商品名セパビーズSP207)38.5mlの充填されたカラムにSV=1[hr−1]で通液させた。その時、透過液中にはクロロゲン酸類は検出されなかった。その後、アルカリ溶液(NaOH:0.1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=5[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が良好で、pHは8.2であった。
【0043】
実施例2
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後、溶解液824.8gに2規定の塩酸を50.3g添加し、溶液のpHを1.3に調整した後、遠心分離により固液分離を行い上層部分818.8gを採取した。その後、採取した上層液385.0gを合成吸着剤(三菱化学社製、商品名セパビーズSP207)38.5mlの充填されたカラムにSV=1[hr−1]で通液させた。その後、アルカリ溶液(NaOH:0.1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=5[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が良好で、pHは7.5であった。
【0044】
比較例1
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後(pH=5.5)、溶解液80gを合成吸着剤(SP207)38.5mlの充填されたカラムに空塔速度(SV)=1[hr−1]で通液させた。その時、透過液中にはクロロゲン酸類は検出されなかった。その後、アルカリ溶液(NaOH:0.1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=5[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が悪く沈殿が発生し、クロロゲン酸類の分解も見られ、pHは12であった。
【0045】
比較例2
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後、溶解液462.3gに2規定の塩酸を29.1g添加し、溶液のpHを1.4に調整した。その後、pH調整した溶液231gを合成吸着剤(SP207)38.5mlの充填されたカラムにSV=1[hr−1]で通液させた。その時、透過液中にはクロロゲン酸類は検出されなかった。その後、アルカリ溶液(NaOH:0.1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=5[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が悪く沈殿が発生し、クロロゲン酸類の分解も見られ、pHは12であった。
【0046】
比較例3
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後(pH=5.5)、溶解液80gを合成吸着剤(SP207)38.5mlの充填されたカラムに空塔速度(SV)=1[hr−1]で通液させた。その時、透過液中にはクロロゲン酸類は検出されなかった。その後、アルカリ溶液(NaOH:1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=1[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が悪く沈殿が発生し、クロロゲン酸類の分解も見られ、pHは13であった。
【0047】
比較例4
上記コーヒー豆抽出物を1質量%クロロゲン酸類溶液になるようにイオン交換水で溶解させた後、溶解液462.3gに2規定の塩酸を29.1g添加し、溶液のpHを1.3に調整した。その後、pH調整した溶液231gを合成吸着剤(SP207)38.5mlの充填されたカラムにSV=1[hr−1]で通液させた。その時、透過液中にはクロロゲン酸類は検出されなかった。その後、アルカリ溶液(NaOH:1質量%溶液)577.5gをカラムにSV=5[hr−1]で通液させ、クロロゲン酸類組成物を得た。得られたクロロゲン酸類組成物は色調が悪く沈殿が発生し、クロロゲン酸類の分解も見られ、pHは13であった。
これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明のクロロゲン酸類組成物は、何れもクロロゲン酸類の回収率が良く、カフェインが低減され、純度が高く、クロロゲン酸類組成物のpHが中性である為、クロロゲン酸類の分解が無く、目視による評価も良好であった。一方、吸着前処理を行わない場合は、吸着量が少なく、クロロゲン酸類組成物のpHがアルカリ性である為、クロロゲン酸類の分解が見られ、目視による評価は不良であった(比較例1)。吸着前にpH調製のみを行った場合は、クロロゲン酸類組成物のpHがアルカリ性である為、クロロゲン酸類の分解が見られ、目視による評価は不良であった(比較例2)。吸着前処理を行わず、脱離条件が高濃度アルカリ且つ低流量である場合は、吸着量が少なく、クロロゲン酸類の回収率が悪く、クロロゲン酸類組成物のpHがアルカリ性であり、通液/保存時にクロロゲン酸類の分解が見られ、目視による評価は不良であった(比較例3)。吸着前にpH調製を行い、脱離条件が高濃度アルカリ且つ高流量である場合は、クロロゲン酸類組成物のpHがアルカリ性であり、通液/保存時にクロロゲン酸類の分解が見られ、目視による評価は不良であった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆抽出物のpHを0.5〜4.0に調整した後、固液分離した液を吸着剤に吸着させ、アルカリ性水溶液を通液して溶出させるクロロゲン酸類組成物の製造方法。
【請求項2】
固液分離方法が、遠心分離法、精密濾過膜、又は珪藻土濾過による請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
pH調整方法が酸添加又は酸性水溶液への溶解、又はイオン交換樹脂への通液による請求項1又は2項記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法で製造されたクロロゲン酸類組成物であって、固形分中にクロロゲン酸類を40〜98質量%含有し、カフェイン/クロロゲン酸類質量比率が0〜0.1であるクロロゲン酸類組成物。

【公開番号】特開2008−94758(P2008−94758A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278495(P2006−278495)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】