説明

グラビア塗工装置

【課題】被塗工材より幅の狭いグラビアロールによる帯状の塗工を行う場合でも,簡便な調整によって塗工層の耳立ちを防止することができるグラビア塗工装置を提供すること。
【解決手段】本発明のグラビア塗工装置は,グラビアロール11から余分な塗工液を掻き取るドクターブレード12を有し,ドクターブレード12は,樹脂製のブレード板31と,ブレード板31におけるグラビアロールを摺擦する摺擦部が,グラビアロール11の軸方向に平行となるように,ブレード板31を保持するホルダ32とを有し,ブレード板31は,グラビアロール11の両側のロール端面26に対向する箇所に,それぞれ切り込み37が形成されており,切り込み37の間の部分がグラビアロールのロール面25に,グラビアロール11の回転に倣って接触するとともに,切り込み37の外側の切断面がグラビアロールの端面26に接触するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,グラビアロールとドクターブレードとを有し,被塗工材に塗工液を塗工するためのグラビア塗工装置に関する。さらに詳細には,ロール面全体に刻印面が形成されたグラビアロールを用いて,グラビアロールの軸方向長さより幅広の被塗工材に対して,帯状に塗工液を塗工するグラビア塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,グラビアロールに塗工液を保持させ,そのグラビアロールと被塗工材の表面とを接触させて,被塗工材に塗工液を塗布するグラビア塗工装置が使用されている。グラビアロールの表面には,塗工液を保持するための刻印面が形成されている。このようなグラビアロールを塗工液を収容した容器中で回転させることにより,その表面に塗工液が付着した状態とすることができる。その後,被塗工材への塗工を行う前に通常,グラビアロールの表面にドクターブレードを押し当て,塗工液の付着量を適切に調整するようにされている。
【0003】
例えば,二次電池用の電極板の製造過程では,金属箔などの被塗工材に対して,幅方向の一部分のみに帯状に塗工する場合がある。そのために,塗工幅と同幅で被塗工材より幅の狭いグラビアロールの全面を刻印面として塗工するとともに,その塗工厚の調整は,グラビアロールより幅広のドクターブレードによって行っている。このようなものでは,塗工幅の端部で塗工厚が大きくなる,いわゆる耳立ちといわれる現象が発生するという問題点があった。これは,ドクターブレードによる掻き取りの後で,グラビアロールの両端面に付着した塗工液が,刻印面の端部に流れ込むためであると考えられる。このような状態となると,塗工後の被塗工材をロール等にきれいに巻き取ることができない。その上,巻き取り時に耳部分に重なった箇所において,被塗工材が破損するおそれがあるという問題点があった。
【0004】
これに対して例えば特許文献1には,凹部を有する形状のブレードを備え,その中にグラビアロールを抱き込むような構成とした装置が開示されている。この文献によれば,ブレードの先端部によってグラビアロールの端面に溢れた塗工液を掻き取ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−178687号公報(段落[0090]〜[0103],図11〜16)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,前記した従来の装置では,ブレードがあらかじめグラビアロールを抱き込む形状に形成されているので,グラビアロールとブレードとの軸方向における位置合わせをかなり厳密に行う必要がある。これらの間にもし隙間があれば,塗工液を掻き取ることができないからである。しかし,グラビアロールのロール軸方向の配置は,被塗工材等の他の部材との位置関係をも考慮して調整される必要があるため,この位置合わせは煩雑なものであった。
【0007】
本発明は,前記した従来のグラビア塗工装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,被塗工材より幅の狭いグラビアロールによる帯状の塗工を行う場合でも,簡便な調整によって塗工層の耳立ちを防止することができるグラビア塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のグラビア塗工装置は,グラビアロールと,グラビアロールを塗工位置に対して上流側で摺擦することにより余分な塗工液を掻き取るドクターブレードとを有するグラビア塗工装置であって,ドクターブレードは,樹脂製のブレード板と,ブレード板におけるグラビアロールを摺擦する摺擦部が,グラビアロールの軸方向に平行となるように,ブレード板を保持するホルダとを有し,ブレード板は,グラビアロールの両側のロール端面に対向する箇所に,それぞれ切り込みが形成されており,切り込みの間の部分がグラビアロールのロール面に,グラビアロールの回転に倣って接触するとともに,切り込みの外側の切断面がグラビアロールの端面に接触するものである。
【0009】
本発明のグラビア塗工装置によれば,ブレード板のうち,グラビアロールの両側のロール端面に対向する箇所に,それぞれ切り込みが形成されているので,その外側の箇所によってロール端面を摺擦することが出来る。また,切り込みの間の部分によってロール面は適切に摺擦されるので,グラビアロールに適量の塗工液が保持された状態で被塗工材に塗工することができる。従って,被塗工材より幅の狭いグラビアロールによる帯状の塗工を行う場合でも,塗工層の耳立ちを防止することができる。さらに,このようなドクターブレードは,例えば,グラビアロールの軸方向長さより大きいブレード板をグラビアロールの両側へはみ出すように装着して,グラビアロールの両端面の位置に合わせて切り込みを入れることにより形成することができる。このように,樹脂製のブレード板に切り込みを入れるだけであれば,現場で合わせることも容易である。従って,ブレード板の簡便な調整によって塗工層の耳立ちを防止することができるものとなっている。
【0010】
さらに本発明では,切り込みは,ホルダから遠い側(すなわちグラビアロールに接する側)からホルダに近い側に向かって切り込まれて形成されており,その切り込みの深さは2〜3mmの範囲内であることが望ましい。
このようなものであれば,ブレード板の切り込みの箇所が大きく開きすぎることはない。従って,グラビアロールの端面を掻き取った後に,塗工液が再び端面に付着するおそれはなく,適切に耳立ちを防止できる。
【0011】
さらに本発明では,ブレード板は,ホルダから遠い側であってグラビアロールに接する先端部の厚さが,ホルダに近い側であってグラビアロールに接しない基部の厚さに比較して薄く形成された段付き形状のものであり,切り込みは,先端部の幅全体にわたって形成されていることが望ましい。
このようになっていれば,先端部はロール面に倣って容易に撓む。その一方で基部は比較的剛性が大きく,ホルダによって適切な配置に保持できるものとすることができる。そして,切り込みが先端側から少なくとも先端部と基部との境目まで,先端部の幅全体にわたって形成されていれば,ブレード板のうち切り込みの間の部分はグラビアロールのロール面に適切に倣い,かつ,切り込みの外側の部分はグラビアロールの端面を適切に掻き取ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラビア塗工装置によれば,被塗工材より幅の狭いグラビアロールによる帯状の塗工を行う場合でも,簡便な調整によって塗工層の耳立ちを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本形態のグラビア塗工機の主要部分を示す説明図である。
【図2】グラビアロールとドクターブレードとの関係を示す説明図である。
【図3】グラビアロールとドクターブレードとの当接角度を示す説明図である。
【図4】ストライプ塗工ロールの例を示す説明図である。
【図5】ストライプ塗工ロールによる塗工処理を示す説明図である。
【図6】ブレード板の切り込みが大きすぎる場合の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,例えば二次電池の電極板の製造に用いられるグラビア塗工機である。
【0015】
本形態のグラビア塗工機10は,図1に示すように,グラビアロール11,ドクターブレード12,塗工液容器13,ポンプ14,フィルタ15を有している。塗工液容器13には,塗工液17が収容されている。この図は,塗工動作中の状態を示すものであり,被塗工材である金属箔21は,2つのニアロール23の回転によって送りだされている。そして,金属箔21は,2つのニアロール23の間の位置で,グラビアロール11の表面に押し付けられている。なお塗工動作中には,塗工液17は,ポンプ14によって送り出され,塗工液容器13内に適宜補充されている。その径路上には,塗工液17から不純物を除くフィルタ15が配置されている。
【0016】
本形態で使用しているグラビアロール11は,図2に簡略化して示すように,そのロール面25の全体に一様に刻印パターンが形成された,べた塗り用のものである。このグラビアロール11は,回転軸27が設けられており,塗工動作中には図中に矢印で示すように回転される。この回転方向は,金属箔21との接触箇所で,金属箔21の進行方向に対して逆向きに進行する方向(リバース塗工)である。また,塗工動作中には,グラビアロール11の下部は,図1に示すように,塗工液容器13内に配置され,塗工液17に部分的に浸漬される。これにより,ロール面25の刻印パターンの凹部に塗工液17を保持することができる。
【0017】
ドクターブレード12は,図1に示すように,ブレード板31がホルダ32に挟みつけられているものである。塗工動作中には,その先端部34がグラビアロール11の表面に接するように,グラビアロール11に平行に固定して配置されている。ブレード板31とグラビアロール11のロール面25との間での摩擦等によって,ブレード板31の先端部34は次第に摩耗する。この先端部34が,グラビアロール11のロール面25を摺擦する摺擦部に相当している。
【0018】
すなわち,ドクターブレード12のブレード板31は消耗品であり,適宜交換可能に取り付けられている。そのために,ドクターブレード12のホルダ32は,グラビアロール11の軸に対して垂直な向きに移動できるとともに,ブレード板31を挟み付けている箇所32b,32bが開くようになっている。そして,ブレード板31をグラビアロール11から離隔させることが出来るとともに,ホルダ32からブレード板31を取り外すことができるようになっている。
【0019】
本形態では,図2に示すように,ブレード板31として,グラビアロール11の軸方向について,ロール面25の長さより長いものを用いている。さらに,ブレード板31は,ホルダ32から遠い側の先端部34は薄く,それよりホルダ32側の基部35は先端部34より厚く形成された段付き形状の板材である。グラビアロール11に接する面の裏面に段が形成されている。
【0020】
さらに,図2に示すように,ロール面25の軸方向の両端面26の位置に合わせて,ブレード板31には,2箇所に切り込み37,37が設けられている。この切り込み37,37は,薄厚の先端部34を横断して形成されており,基部35にまで多少切り込まれていてもよい。あるいは,切り込み37,37は,先端部34の幅全体にわたって形成されていてもよい。または,先端部34の幅の一部に形成されたものでもよい。ここでの幅とは,グラビアロール11の軸方向ではなく,ブレード板31の先端部34から基部35へ向かう方向を意味している。
【0021】
本形態では,ブレード板31は,可撓性を有する樹脂製のものである。例えば,PET,ポリアセタール,ポリプロピレン,ポリエチレン等が適している。樹脂製であるので,容易に撓む。また,金属粉等の導電性の異物を発生させて塗工液17に混入させるおそれはない。このブレード板31は,図1に示すように,グラビアロール11の回転方向に倣うように配置され,使用時にはグラビアロール11に押し付けられる。そのため,図1や図2に示すように,先端部34がやや撓んだ形状となる。ただし,ブレード板31には切り込み37,37が設けられているため,そこを境として中央部と両端部では先端部34の撓みかたの程度が異なる。
【0022】
すなわち,図2に示すように,両側の切り込み37同士の間の範囲34Rは,グラビアロール11のロール面25に押し当てられているため比較的大きく撓む。この範囲34Rによって,グラビアロール11のロール面25に付着した塗工液の一部を掻き取ることができる。このときのロール面25と範囲34Rとの当接の方向は,図3に示すように,回転方向に倣う方向であり,その当接角度θは,15°<θ<70°の範囲内であることが好ましい。ここで,θは,当接箇所におけるグラビアロール11の接線のうちグラビアロール11の回転方向について上流側のものと,ブレード板31の基部35とのなす角度である。なお,θ<90°の範囲であれば倣う方向,θ>90°の範囲であれば逆らう方向と呼ぶ。
【0023】
一方,それより外側の範囲34Sは,グラビアロール11のロール面25に当接しないため,基部35に対して真っ直ぐに近い位置となり,あまり撓まない。従って,グラビアロール11に押し付けられた状態でのブレード板31は,図2に示すように,外側の範囲34Sが内側の範囲34Rよりもグラビアロール11の回転方向についてわずかに上流側に配置されている状態となっている。ただし,範囲34Sと範囲34Rとの間の開きの程度は,グラビアロール11のロール面25上に隙間(図6参照)ができるほどではない。そして,切り込み37の断面のうち範囲34Sの側の断面37Sは,グラビアロール11の端面26に擦り合わされる。
【0024】
次に,この切り込み37,37の形成方法について説明する。切り込み37,37は,新品のブレード板31を装着する際に形成する。用意する新品のブレード板31は,切り込み37,37の形成されていない板状のものである。ただし,先端部34と基部35との間の段差はあらかじめ形成しておく。なお,本形態では,基部35の厚さが約3mm,先端部34の厚さが約1mmのものを使用している。
【0025】
本形態においてドクターブレード12のブレード板31を交換する場合には,ホルダ32を一旦グラビアロール11から離れた位置へ移動させて開く。そして,消耗したブレード板31を外して,新品のブレード板31をホルダ32に取り付ける。さらに,ホルダ32を移動させ,ブレード板31とグラビアロール11とがわずかに接触する程度まで近づける。その位置でグラビアロール11の両端面26の位置に合わせて,はさみまたはカミソリ等の刃物でブレード板31の先端部34に切り込み37,37を形成する。すなわち,切り込み37,37は,現場合わせで形成する。
【0026】
その後,グラビアロール11の軸方向に垂直な方向へ,予め決めた位置までさらにホルダ32を移動させ,図2に示すように,ブレード板31がグラビアロール11に押し当てられるようにする。この図に示す配置が,ブレード板31をグラビアロール11に対して最も近接させた位置である。上述のように形成しているので,ホルダ32をグラビアロール11の軸方向に垂直な方向へ移動させるだけで,切り込み37,37はグラビアロール11の両端面26の位置に配置される。なお,ホルダ32の移動は,ブレード板31がグラビアロール11に対して適切に接離されるようになっていれば良く,例えば直線移動や揺動移動とすることができる。
【0027】
このようにすることにより,他の部材との厳密な位置合わせが必要なグラビアロール11の配置をまず確保しておき,それに合わせて切り込み37,37を配置することができる。しかも,ホルダ32をグラビアロール11の軸方向へ動かす必要はない。従って,ホルダ32としては,グラビアロール11の軸方向に垂直な方向(図1中の矢印Aの方向)への移動とブレード板31を挟んでいる箇所32b,32bの開閉とが可能なものであればよい。また,新品のブレード板31をホルダ32へ取り付ける際の,グラビアロール11の軸方向の位置合わせは,さほど厳密に行う必要はない。少なくともグラビアロール11の軸方向の両端がカバーされる位置にブレード板31が配置されていれば,グラビアロール11の両端面26の位置に合わせた切り込み37,37を容易に形成することができる。
【0028】
なお,あらかじめ切り込みを入れたブレード板31をホルダ32に取り付けるようにしても良い。その場合には,切り込みの位置がグラビアロール11の両端面26の位置と一致するように,位置合わせを行う必要がある。
【0029】
次に,本形態のグラビア塗工機10による塗工動作について説明する。グラビア塗工を行う際には,図1に示すように,塗工液容器13に塗工液17を収容し,そこにグラビアロール11を中程まで浸漬する。そして,回転軸27を回転駆動して,グラビアロール11を図中に矢印で示すように図中反時計回りに回転させる。従って,グラビアロール11は,ロール面25のうち図中で右側の部分によって,塗工液17を保持しつつ持ち上げる。
【0030】
ドクターブレード12は,図1に示すように,グラビアロール11と金属箔21との接触箇所よりも,グラビアロール11の回転方向について上流側において,グラビアロール11のロール面25に接触して配置される。さらに,図2に示すように,ブレード板31に切り込み37が形成されているので,先端部34のうち内側の範囲34Rはグラビアロール11のロール面25を摺擦するとともに,同時に外側の範囲34Sの端面はグラビアロール11の両端面26を摺擦する。
【0031】
ロール面25には一様な刻印パターンが形成されているので,図2に示すように,ブレード板31の範囲34Rによって摺擦されることにより,凸部に付着した塗工液17の一部が掻き落とされる。そして,主に凹部に溜まった塗工液17を保持した状態となる。このときの塗工液17の保持量が適切な量となるように,刻印パターンの形状やドクターブレード12の押し当て力等が選択されている。一方,グラビアロール11の両端面26のうち,少なくともロール面25の近傍に付着した塗工液17は,ブレード板31の範囲34Sによって掻き落とされる。
【0032】
一方,被塗工材である金属箔21は,図1に示すように,供給ロール等から巻き出され,2つのニアロール23,23に順に巻き掛けられる。各ニアロール23,23は,その最下部がグラビアロール11の最上部よりやや下になるように配置され,これにより金属箔21に適切なテンションを掛けた状態としている。そして,ニアロール23は,図中に矢印で示すように図中で反時計回りに回転され,金属箔21を送り出す。2つのニアロール23間の位置で,グラビアロール11と金属箔21とが接触され,ロール面25に保持されている塗工液17が金属箔21に塗工される。これにより,金属箔21上に塗工層39が形成される。
【0033】
上述したように,両端面26と範囲34Sとの接触箇所は,ロール面25と範囲34Rとの接触箇所よりやや上流側であるので,両端面26に付着した塗工液17が先に掻き落とされる。従って,両端面26からロール面25へ塗工液17が流れ込むことは防止されている。従って,ロール面25に適切な量の塗工液17が保持されるとともに,塗工層39の耳立ちは防止されている。
【0034】
さらに本形態では,新しいブレード板31を取り付ける際にグラビアロール11に合わせて切り込み37を形成し,その後は少なくともグラビアロール11の軸方向へはホルダ32を移動しない。このようにすることにより,グラビアロール11の両端面26と切り込み37との位置がずれることはない。従って,図2に示したように,ブレード板31の範囲34Sによって,グラビアロール11の両端面26を確実に摺擦することが出来る。これにより,両端面26に付着した塗工液17が適切に除去されるので,塗工層39の耳立ちが確実に防止されている。さらに,ロール面25の範囲外に塗工液17が付着するおそれもない。
【0035】
なお,本形態のグラビア塗工機10は,図1に示すように,金属箔21とグラビアロール11とがその接触箇所では互いに逆向きに移動される,いわゆるリバース塗工を行うものである。このように塗工することにより,刻印面のパターンはつぶれ,全面べた塗り状の塗工層39を形成することができる。また,本形態で使用している金属箔21は,塗工層39の幅(グラビアロール11の軸方向の長さ)より幅広の帯状のものである。そして,金属箔21の両脇に未塗工箇所を残して,その中央付近に帯状の塗工層39を形成する。
【0036】
電極板の製造工程では,1枚の金属箔21に対し,幅方向に複数本の帯状の塗工部を形成したい場合がある。そのような場合には,例えば図4に示すように,1本の回転軸27に対して,塗工箇所の幅や間隔に合わせた複数のグラビアロール11を連結した形状のストライプ塗工ロール40を利用する。この図では,等幅の3本のグラビアロール11を等間隔に連結したものを示した。このストライプ塗工ロール40を使用して,上記と同様の塗工処理を行うと,図5に示すように,金属箔21に帯状の3箇所の塗工部41を同時に形成することができる。
【0037】
このストライプ塗工ロール40によるグラビア塗工に本発明を適用する場合には,図5に示すように,6箇所に切り込み37を形成したブレード板43とすればよい。各切り込み37は,すべて,各グラビアロール11の各端面26に合わせて形成されている。このようなものでも,新品のブレード板43を装着する際に,各グラビアロール11の配置に合わせて切断することにより,各切り込み37を適切な配置とすることができる。そのため,ブレード板43のホルダ32への取り付け位置はさほど厳密に調整する必要はない。また,各グラビアロール11が同一長さのものでなくても,それぞれに合わせた位置に切り込み37を形成することは容易である。
【0038】
電極板の製造工程では,例えば金属箔21としてアルミ箔や銅箔を用い,これに活物質層を帯状に塗工する。このように複数の塗工部41を形成した金属箔21を,その長手方向に沿って帯状に切断することにより,複数枚の電極板を同時に製造するのである。また,活物質の塗工に限らず,活物質層に先駆けて塗工する下地層,または活物質層の上に重ねて塗工する薄膜保護層等の塗工工程においても,ストライプ塗工ロール40によるグラビア塗工技術を利用することができる。これらの工程においても,本形態のドクターブレードを用いることで,耳立ちを防止したグラビア塗工を行うことができる。
【0039】
さらに,発明者は,本発明の有効性を確認するための実験を行った。本実験では,以下の実施例,比較例1,比較例2の3種類のブレード板を使用し,比較した。いずれもPET製で,同形状(先端部34の厚さが1mm,基部35の厚さが3mm,先端部34の幅が5mm)の新品のブレード板を用意し,実施例と比較例2ではこれに以下のような切り込みを形成した。
【0040】
実施例は,新品のブレード板31に図5に示すような切り込み37を形成したものである。各切り込みの深さは,2mmとした。すなわち,先端部34の幅とほぼ同等である。これに対し,比較例1は,切り込みを形成しない新品のブレード板をそのまま使用したものである。また,比較例2は,図5に示すものと同じ配置で深さ10mmの切り込みを形成したブレードを使用したものである。
【0041】
本実験では,ロール面25に斜めクロス状の刻印パターンを全面に形成したグラビアロール11を3本連結したストライプ塗工ロール40を使用した。また,ホルダ32にそれぞれのブレード板を装着して,いずれも同じ位置まで押し当てた。そして,通常のグラビア塗工を行い,塗工層に耳立ちが発生したかどうかを目視で確認した。
【0042】
【表1】

【0043】
この実験の結果は,表1に示した通りであった。実施例では耳立ちは発生しなかった。すなわち,2mm程度の切り込み37を形成することで,グラビアロール11の両端面26に付着した塗工液17が効果的に掻き落とされることが確認できた。
【0044】
一方,比較例1,比較例2ではいずれも耳立ちの発生が見られた。比較例1では,切り込みを形成していないので,塗工材がグラビアロール11の両端面26に付着したままとなり,被塗工材へと転写されたものと考えられる。また,比較例2では,切り込みが大きすぎるためにその切り込みの間が開きすぎて,図6に斜線で示すように,隙間51ができてしまう。そのため,両端面26に付着した塗工液17を切り込みの外側の範囲52で掻き取っても,その直後に隙間51から塗工液17が漏れてきて,結局両端面26に付着してしまう。その結果,耳立ちを適切に防止することができなかったと考えられる。従って,本形態のように,ブレード板31の先端から2〜3mmの範囲内まで切り込みを形成することが有効であると確認できた。なお,この実験では,先端部34の幅が5mmのものを使用したが,2〜3mm程度のものであっても構わない。
【0045】
以上詳細に説明したように本形態のグラビア塗工機10は,ロール面25の全面に刻印パターンが形成されたグラビアロール11と,グラビアロール11に摺擦して余分な塗工液17を掻き落とすドクターブレード12とを有している。そして,ドクターブレード12のブレード板31には,グラビアロール11の端面に相当する位置に切り込み37が形成されている。従って,切り込み37の断面によってグラビアロール11の端面に付着した塗工液17をも掻き取ることができるので,塗工層の耳立ちを効果的に防止できるものとなっている。さらに,本形態のブレード板31は,樹脂製なので,金属異物を発生させない。また,単に刃物によって切断するだけでよく,切り込み加工時にブレード板31が変形することもない。
【0046】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,ブレード板31の厚さや段差の大きさ等の数値はいずれも例示であり,これに限るものではない。また例えば,切り込みを形成する方法は,はさみ等による切断に代えて,グラビアロール11の端面26に切断刃を一時的に装着して回転させることによる切断とすることもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 グラビア塗工機
11 グラビアロール
12 ドクターブレード
17 塗工液
25 ロール面
26 端面
31 ブレード板
32 ホルダ
34 先端部
37 切り込み
37S 断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビアロールと,前記グラビアロールを塗工位置に対して上流側で摺擦することにより余分な塗工液を掻き取るドクターブレードとを有するグラビア塗工装置において,
前記ドクターブレードは,
樹脂製のブレード板と,
前記ブレード板における前記グラビアロールを摺擦する摺擦部が,前記グラビアロールの軸方向に平行となるように,前記ブレード板を保持するホルダとを有し,
前記ブレード板は,
前記グラビアロールの両側のロール端面に対向する箇所に,それぞれ切り込みが形成されており,
前記切り込みの間の部分が前記グラビアロールのロール面に,前記グラビアロールの回転に倣って接触するとともに,前記切り込みの外側の切断面が前記グラビアロールの端面に接触するものであることを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア塗工装置において,
前記切り込みは,
前記ホルダから遠い側から前記ホルダに近い側に向かって切り込まれて形成されており,
その切り込みの深さは2〜3mmの範囲内であることを特徴とするグラビア塗工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグラビア塗工装置において,
前記ブレード板は,
前記ホルダから遠い側であって前記グラビアロールに接する先端部の厚さが,前記ホルダに近い側であって前記グラビアロールに接しない基部の厚さに比較して薄く形成された段付き形状のものであり,
前記切り込みは,前記先端部の幅全体にわたって形成されていることを特徴とするグラビア塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−131126(P2011−131126A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290730(P2009−290730)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】