説明

グラビア塗布装置

【課題】基材フィルムが汚損するのを防止し、製品品質の向上と共に、グラビア塗布装置の清掃時間の削減を図ることにより生産性を向上させるグラビア塗布装置を提供する。
【解決手段】少なくとも版胴1と、ファニッシャーロール2とを有するグラビア塗布装置10において、版胴1のロール幅の長さに比べて、ファニッシャーロール2のロール幅の長さが同一または短く、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近する箇所に形成されたインキ溜まり近傍に、堰き止め機能部12と補助ドクター機能部14とを兼ね備えてなるL字型部材3又はU字型部材を配設する。L字型部材3又はU字型部材が、ファニッシャーロール2の幅方向にスライド移動できるように、スライドレール4に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ飛沫の飛散防止を図ったグラビア塗布装置に関する。さらに詳細には、ファニッシャーロールの両端からのインキ飛沫が、グラビア版胴の側面及び架台に付着して基材フィルムを汚損するのを防止し、製品品質の向上、及びグラビア塗布装置の清掃時間の削減を図ることにより生産性を向上させるグラビア塗布装置に関するものである。
【0002】
なお、本明細書において記載されているグラビアインキ(単に、インキと呼ぶ場合もある。)とは、グラビア塗布装置を使用して基材フィルムに塗布される、広義の意味でのインキを総称するものである。具体的には、色素または顔料を樹脂組成物に混ぜ合わせた塗料、溶剤に溶解させた粘着剤組成物からなる塗料、接着剤組成物からなる塗料、合成樹脂組成物からなる塗料、金属酸化物化合物を樹脂組成物に混ぜ合わせた塗料などを総称して、本明細書においては、グラビアインキまたはインキと呼ぶ。
また、本明細書において記載されている基材フィルムとは、材質が木材製薄板、紙製基材、プラスチック製シート、金属薄板、及びそれらの積層材などからなる可撓性を有する帯状のものを指している。
【背景技術】
【0003】
従来のグラビア塗布装置では、ファニッシャーロールの両端にファニッシャーロール径よりも大きな堰き止め用の治具を使用してグラビアインキの飛散を防止している(特許文献1を参照)。
また、ドクターの下側に、小型の補助ドクターを配設したグラビア印刷ユニットも知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−190856号公報
【特許文献2】特開2001−058393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1には、版胴及びファニッシャーロール端部から横方向にインキが飛び散るのを防止することを目的として、版胴とそれに接近するように設けられたファニッシャーロールを有する輪転式の塗布装置において、前記ファニッシャーロールの両サイドにファニッシャーロールより大きな円盤形状の堰き止め用の治具を設けたグラビア塗布装置が開示されている。
しかし、特許文献1に記載の塗布装置では、円盤形状の堰き止めの内面が、版胴の端部と接触することが必要であり、版胴のロール幅の長さとファニッシャーロールのロール幅の長さとが完全に同一か、版胴のロール幅の長さに比べてファニッシャーロールのロール幅の長さが僅かに短い程度でなければ、円盤形状の堰き止め用の治具を取付けられないという物理的な制約条件があった。
【0006】
また、円盤形状の堰き止め用の治具と、ファニッシャーロールの間に溝部を有するため、ファニッシャーロールで汲み上げられたグラビアインキは、その溝部の表面に付着し、高速回転した際に、その溝部の表面に付着したインキが遠心力ではじき飛ばされ、インキ飛沫が周囲に飛散するという問題があった。
また、乾燥速度の速いグラビアインキを使用している場合には、ファニッシャーロールの溝部にグラビアインキが溜まりを形成し、容易に掻き落とせなくなるという問題があった。
【0007】
特許文献2には、インキパンに貯蔵されたグラビアインキに、胴版が直に接触して、グラビアインキが胴版に塗布されるグラビア印刷ユニットが開示されている。特許文献2に記載の方法では、胴版の側面へグラビアインキが付着するのを防止することができず、また、胴版の遠心方向へのインキ飛沫の飛散を防止することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ファニッシャーロールの両端からのインキ飛沫がグラビア版胴の側面及び架台に付着して、基材フィルムが汚損するのを防止し、製品品質の向上と共に、グラビア塗布装置の清掃時間の削減を図ることにより生産性を向上させるグラビア塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、版胴とファニッシャーロールのロール幅の長さにおける物理的な制約条件を緩和して、版胴のロール幅の長さに比べて、ファニッシャーロールのロール幅の長さが、同一または大幅に短くても良いように、ファニッシャーロールのインキ溜まり近傍に、堰き止め機能と補助ドクター機能とを兼ね備えてなるL字型部材又はU字型部材を配設することを技術思想としている。
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、少なくとも版胴と、ファニッシャーロールとを有するグラビア塗布装置において、前記版胴のロール幅の長さに比べて、前記ファニッシャーロールのロール幅の長さが同一または短く、前記版胴と前記ファニッシャーロールとが最も接近する箇所に形成されたインキ溜まり近傍に、堰き止め機能と補助ドクター機能とを兼ね備えたL字型又はU字型に折り曲げられてなる折曲げ板状部材を配設したことを特徴とするグラビア塗布装置を提供する。
【0011】
前記折曲げ板状部材が、前記ファニッシャーロールの幅方向にスライド移動できるように、スライドレールに取り付けられてなることが好ましい。
インキパンに貯蔵されたインキに、ファニッシャーロールが浸漬されてなることが好ましい。
版胴とファニッシャーロールとが最も接近する箇所に、インキ供給ノズルからグラビアインキが供給されることが好ましい。
前記折曲げ板状部材は、略矩形状の板状部材の長辺に入れた一対の切れ込みから垂直に折り曲げた部分を前記ファニッシャーロールの側面に接触させて堰き止め機能部とし、前記切り込みの片方を、前記版胴と前記ファニッシャーロールとが最も接近する箇所から前記版胴の回転方向の後方で前記版胴の表面に接触させて補助ドクター機能部としたことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラビア塗布装置によれば、ファニッシャーロールの両端からのインキ飛沫がグラビア版胴の側面及び架台に付着して、基材フィルムを汚損するのを防止し、製品品質が向上する。また、グラビア版胴の両側面、架台、及びファニッシャーロールの両端の、インキ付着の汚れを落とすためのグラビア塗布装置の清掃時間が削減され生産性が向上する。
また、本発明によれば、版胴のロール幅の長さとファニッシャーロールのロール幅の長さとを同じに調整したファニッシャーロールを版胴とのセットで購入する必要がなく、設備投資を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるグラビア塗布装置の概略斜視図である。
【図2】図2(a)は、L字型部材の一例を示した概略斜視図である。図2(b)及び図2(c)は、L字型部材の別の例を示した概略斜視図である。
【図3】インキパンに貯蔵されたインキに、ファニッシャーロールが浸漬された状態を示す概略側面図である。
【図4】版胴とファニッシャーロールとが最も接近する箇所に、インキ供給ノズルからグラビアインキが供給されることを示す概略側面図である。
【図5】版胴とファニッシャーロールとによるインキ溜まりの近傍を示す図3及び図4の部分拡大図である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、L字型部材の別の例を示した概略斜視図である。
【図7】図6のL字型部材をグラビア塗布装置に取り付けた状態を示す概略側面図である。
【図8】版胴とファニッシャーロールとによるインキ溜まりの近傍を示す図7の部分拡大図である。
【図9】図9(a)は、U字型部材の一例を示した概略斜視図である。図9(b)は、U字型部材の別の例を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明によるグラビア塗布装置10において、版胴1とファニッシャーロール2及びL字型部材3との相対位置関係を示した概略斜視図である。版胴1とファニッシャーロール2との回転に合わせて、グラビアインキが版胴1に塗布され、最終的に製品となる基材フィルム(図示を省略)に転写される。
L字型部材3は、ファニッシャーロール2の両端側面2aにそれぞれ、1箇所ずつ取り付けられている(図1では、片側側面2aのみを図示している)。
なお、本明細書において、「回転方向の後方」とは、胴又はロールの回転によって将来到達する箇所の存在する方向、すなわち、回転方向に沿った搬送方向の下流側をいう。例えば回転方向が左回りの場合、左回りの方向が「回転方向の後方」である。
【0015】
図2に示したL字型部材3は、一部分がL字型に折り曲げられた形状としており、折り曲げた一方の面12が、ファニッシャーロール2の側面2aに接触していて、グラビアインキの飛沫がファニッシャーロール2の両端側面2aから飛散するのを防止する堰き止め機能を有している。
また、図2に示したL字型に折り曲げられたL字型部材3の他方の面11の一部分である補助ドクター機能部14が、版胴1に接触しており、補助ドクター機能を有している。
また、図1において、L字型部材3は、ファニッシャーロール2の中心軸2bと平行に配設されたスライドレール4に、L字型部材の固定具5により取り付けられている。スライドレール4のグラビア塗布装置10への固定方法の図示は省略するが、例えば、スライドレール4の両端(図示せず)を、版胴1の中心軸1b及びファニッシャーロール2の中心軸2bを回転可能に支持するフレーム(図示せず)に固定する方法が挙げられる。
L字型部材3は、ファニッシャーロール2のロール幅の長さに応じて、ロール幅の方向にスライド移動して位置が調整できるように、スライドレール4に取り付けられている。L字型部材3は、スライドレール4に沿ってロール幅の方向に移動可能な固定具5に固定されることで、ロール幅が変わっても、当て板12がファニッシャーロール2の側面2aに接触する位置に容易に調整することができる。L字型部材3は、図3に示すように固定具5に直接固定してもよく、図4に示すように、支持板11の上端に設けた固定棒13を介して固定具5に取り付けてもよい。L字型部材3を固定具5や固定棒13に取り付ける方法は特に限定されず、例えば粘着テープなどで貼り付けてもよい。
【0016】
L字型部材3は、図2(a)、図2(b)及び図2(c)に示したように、支持板11の一部分12がL字型に折り曲げられた形状をしていて、支持板11の一部分である補助ドクター機能部14が版胴1に接して、余剰に付着しているグラビアインキを掻き落とす機能を有する。L字型部材3の作製は、略矩形状の板状部材の長辺の一つに一対の切れ込みを入れ、これらの切れ込みから垂直に(断面がL字型となるよう)折り曲げた部分12をファニッシャーロール2の側面2aに接触させる堰き止め機能部12とし、切り込みの片方を、補助ドクター機能部14とすることで、容易に作製することができる。図2(a)では、堰き止め機能部12の長さAが2箇所の切れ込みの間隔Bと同程度である。図2(b)では、堰き止め機能部12の長さAが2箇所の切れ込みの間隔Bより短くされている。また、図2(c)では、補助ドクター機能部14が堰き止め機能部12より、深くまで切り込まれ形成されているので、ファニッシャーロール2の端部から離れた位置まで版胴1の表面に付着したインキを掻き落とすことができる。
【0017】
図3及び図4において、補助ドクター機能部14は、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近する箇所Pから版胴1の回転方向(左廻り)の真横あるいは、後方で版胴1の表面に接触している。堰き止め機能部12をファニッシャーロール2の側面2aに接触させたとき、補助ドクター機能部14は、ファニッシャーロール2の両端から内側に入り込むので、版胴1の表面にインキが供給される幅(ファニッシャーロール2のロール幅)のうち、両端近傍の特にインキが余剰に付着しやすい箇所でインキを掻き落とす。
特許文献2に記載の補助ドクターは版胴よりも長くする必要があるのに対して、本発明では、補助ドクターは版胴よりも長くする必要がなく、さらに本発明の補助ドクター機能部14は、ファニッシャーロール2のロール幅の両端部に対応するインキを版胴1上で掻き取ることにより、グラビア版の幅方向両側に溢れた余分なインキを除去することができ、横方向へのインキの飛散防止に寄与する。
補助ドクター機能部14からさらに回転方向の後方には、少なくともグラビア版の幅以上の長さを有するドクターブレード6が設けられている。ドクターブレード6で版胴1の版面上の余分なインキが掻き落とされ、さらに回転方向の後方で圧胴により搬送された印刷基材(図示せず)にインキが転写される。
【0018】
堰き止め機能と補助ドクター機能とを兼ね備えた折曲げ板状部材である、L字型部材3及びU字型部材30の材質は、特に制限はなく、木材製薄板、紙製基材、プラスチック製シート、金属薄板、及びそれらの積層材などが使用できる。また、L字型部材3及びU字型部材30は、水性のグラビアインキの場合に水分に接触しても腐食しないように耐食性を有するものであることが好ましい。また、L字型部材3及びU字型部材30は、帯電してゴミ、ダストなどが付着しないように、及び可燃性インキの場合に帯電によるスパークにより発火しないように導電性を有するものであることが好ましい。
また、L字型部材3及びU字型部材30が、導電性を有しない材質である場合には、例えば、L字型部材3及びU字型部材30の表面に金属箔を積層しても良く、あるいは、金属メッキ層を積層しても良い。
【0019】
L字型部材3及びU字型部材30の材質は、具体的には、機械的な強度と耐食性の観点から、ステンレス、アルミニウム、ニッケルなどの金属薄板、鉄鋼などの金属薄板にニッケルメッキ、クロムメッキ、ニッケル−クロムなどの耐食性の金属メッキ層を積層したものであることが好ましい。本発明では、L字型部材3及びU字型部材30の材質として、薄紙に金属箔を積層したものが、好適に使用できる。また、L字型部材3及びU字型部材30の縦横の寸法は、版胴1及びファニッシャーロール2の外径寸法に応じて適宜、決定することが好ましい。また、L字型部材3及びU字型部材30に、金属薄板を使用した場合の厚みは、金属板の材質によって機械的な強度を考慮して決める必要があるが、一般的な厚みは、0.1mm〜5mm程度である。また、L字型部材3及びU字型部材30の内、版胴1に接触する補助ドクター機能部14は、補助ドクターの機能をより効果的に発揮させるために、ドクターブレード6のように先端を研摩して鋭角にしても良い。
【0020】
図3は、インキパン8に貯蔵されたインキ9に、ファニッシャーロール2が浸漬された状態を示す概略側面図である。図5は、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近した位置に形成されたインキ溜まり17の近傍を示す図3の部分拡大図である。版胴1とファニッシャーロール2の中心軸を結ぶ直線Cが、版胴1及びファニッシャーロール2の外周とそれぞれ交わる点P1,P2(図示は省略)を結ぶ線が、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近している箇所Pである。インキパン8に貯蔵されたインキ9は、ファニッシャーロール2の回転に伴って、ファニッシャーロール2の外周表面に付着した状態で汲み上げられ、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近している箇所Pまで移動して、インキ溜まり17を形成する。図5は、ファニッシャーロール2端部からはみ出たインキ溜まり17内に貯蔵されているインキを補助ドクター機能部14により掻き落としている状態を示している。
図3において、支持板11の上下端は、版胴1とファニッシャーロール2の外周面より形成される2つの円に接する2つの接線T及びTより、おのおの外側にあることが必要である。すなわち、支持板11の上端は、最接近箇所Pより回転方向の前方にある接線Tよりも上方にあり、支持板11の下端は、最接近箇所Pより回転方向の後方にある接線Tよりも下方にある。また、当て板12の端部が、ファニッシャーロール2の側端部2aに接触している必要がある。
さらに、図3に示すように、支持板11の下端16がインキパン8に貯蔵されたインキ9内に挿入されている場合、インキが当て板12の上下から支持板11の外方15に回り込んでも、該インキに支持板11を伝わせてインキパン8に回収することができる。
【0021】
図4は、版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近する箇所に対して、インキ供給ノズル7からグラビアインキが供給される状態を示す概略側面図である。この場合のインキパン18は、ドクターブレード6で版胴1の余分なインキを掻き落とし、そのインキ19を受け取る受け皿の役割を果たしている。インキ供給ノズル7は、パイプに複数のノズルが配設されており、図4に示していないインキの貯蔵タンク及び移送ポンプによりインキが供給される。図3のようにインキパン8に貯蔵したインキ9をファニッシャーロール2で汲み上げる方法では、例えば15〜20kg程度の重量があるインキパン8を交換する作業が大変であるが、それに比べて、インキ供給ノズル7からインキを供給する方法は、残存廃棄されるインキ19の量が削減できると共に、インキパン18毎の交換作業が不要となり、労力が大幅に軽減されるので便利である。
【0022】
インキ供給ノズル7から噴出したインキは、図5に示すように版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近している箇所にインキ溜まり17を形成する。ファニッシャーロール2端部からはみ出たインキ溜まり17内に貯蔵されているインキは補助ドクター機能部14により掻き落とされる。
図4において、支持板11の上下端は、版胴1とファニッシャーロール2の外周面から形成される2つの円に接する2つの接線T及びTより、おのおの外側にあることが必要である。すなわち、支持板11の上端は、最接近箇所Pより回転方向の前方にある接線Tよりも上方にあり、支持板11の下端は、最接近箇所Pより回転方向の後方にある接線Tよりも下方にある。また、当て板12の端部が、ファニッシャーロール2の端部2aに接触している必要がある。
さらに、図4に示すように、支持板11の下端16がインキパン18に貯蔵されたインキ19内に挿入されている場合、インキが当て板12の上下から支持板11の外方15に回り込んでも、該インキに支持板11を伝わせてインキパン18に回収することができる。
【0023】
図6(a)及び、図6(b)に示すL字型に折り曲げられてなる折曲げ板状部材23は、略矩形状の板状部材の長辺に入れた一対の切れ込みから垂直に折り曲げた部分22からなる堰き止め機能部22と、切り込みの片方が堰き止め機能部22の反対側に折り曲げた部分27の先端に補助ドクター機能部24を有し、図6(b)の折り曲げた部分27は、補助ドクター機能部24で掻き取られたインキが、版胴1の端部方向に向かうように、版面の軸方向に対し斜めに折り曲げられている。図7に示すように、堰き止め機能部22をファニッシャーロール2の側面2aに接触させ、補助ドクター機能部24を版胴1とファニッシャーロール2とが最も接近する箇所Pから版胴1の回転方向の後方で版胴1に接触させる。堰き止め機能部22がインキ溜まりの真横でその両側を覆うように配置すると、最接近箇所Pの下方では、支持板21が版胴1から離れてしまうが、この場合でも、その反対側に折り曲げた部分27が版胴1に向かって突出するので、補助ドクター機能部24を版胴1に対して確実に接触させることができる。
図8は、インキ溜まり17内に貯蔵されているインキが、ファニッシャーロール2の両端から飛散しないように、図6(a)及び図6(b)に示したL字型部材23を用いて、当て板22にて塞いでいる状態を示している。
図8において、支持板21の上下端は、版胴1とファニッシャーロール2の外周面から形成される2つの円に接する2つの接線T及びTより、おのおの外側にあることが必要である。すなわち、支持板21の上端は、最接近箇所Pより回転方向の前方にある接線Tよりも上方にあり、支持板21の下端は、最接近箇所Pより回転方向の後方にある接線Tよりも下方にある。また、当て板22の端部が、ファニッシャーロール2の端部2aに接触している必要がある。
また、図6(a)及び図6(b)に示したL字型部材23は、補助ドクター機能部24が堰き止め機能部22より、版胴1側に突き出ているので、版胴1とファニッシャーロール2の外周面から形成される最も接近している箇所Pからより離れた位置において版胴1の表面に付着したインキを掻き落とすことができる。
さらに、図7に示すように、支持板21の下端26がインキパン8に貯蔵されたインキ9内に挿入されている場合、インキが当て板22の上下から支持板21の外方25に回り込んでも、該インキに支持板21を伝わせてインキパン8に回収することができる。
【0024】
図9(a)及び図9(b)は、板状部材をU字型に折り曲げてなるU字型部材の例を示す。これらのU字型部材30は、略矩形状の板状部材11の長辺の両方にそれぞれ一対の切れ込みを入れ、これらの切れ込みから垂直に(断面がU字型となるよう)折り曲げて作製することができる。U字型部材30の場合、U字型に折り曲げた2枚のうち1枚をファニッシャーロール2の側面2aに接触させる第1の堰き止め機能部12とし、その外側に平行に並ぶもう一枚を、第1の堰き止め機能部12の外側に溢れたインキを堰き止める第2の堰き止め機能部20とする。この場合、堰き止め効果に加えて部材の機械的耐久性が向上し、好ましい。
さらに、U字型部材30の場合には、2個の同一形状のU字型部材30を用意すれば、図1に示した本発明によるグラビア塗布装置10において、ファニッシャーロール2の両端側面2aにそれぞれ、U字型部材30の左右の位置関係を区別しないで1箇所ずつ取り付けられるため便利である。
【0025】
(版胴)
版胴1の表面には、微細線パターンの型溝が形成されたグラビア版が設けられている。微細線パターンは、文字、記号、図形、及びそれらの組み合わせなどであって、用途に応じて特定のパターンが用いられる。
グラビア版は鉄製のシリンダーからできており、表面に銅メッキを施し、このメッキ銅の表面に目的のデザインパターンをダイヤモンドシングルヘッドの電子彫刻機で型溝を形成する。また、ドクターブレード6の刃(図示は省略)が版胴1の表面に配設されたグラビア版に押し当てられており、グラビア版の表面に形成された型溝の中にグラビアインキが圧入される。グラビアインキは、図3に示すようにインキパン8に貯蔵されたインキ9をファニッシャーロール2の表面に付着させて汲み上げることにより供給しても良く、あるいは、図4に示すように、インキ供給ノズル7を通して供給しても良い。
グラビア版は、版胴1の表面に形成されており、該グラビア版の型溝は、基材フィルムに転写される微細線パターンに対応したパターンにて形成されている。
型溝に圧入されたグラビアインキは、基材フィルムと接触した際に基材フィルムへ転写される。
【0026】
(ファニッシャーロール)
グラビア印刷等においては、版胴の表面に、インキパン(インキ溜め)内のインキを供給するためにファニッシャーロール2が用いられる。ファニッシャーロール2は、図3に示すように、該ロール表面の一部をインキパン内のインキに漬け、該ロール表面の他の一部を版胴1に接触させた状態で使用される。また、図4に示すように、該ロール表面の一部にインキ供給ノズル7からインキ9を供給し、該ロール表面の他の一部を版胴1に接触させた状態で使用される。印刷色の変更などにより、インキを変更する際には、ファニッシャーロール2はグラビア塗布装置10から取り外され、溶剤によって洗浄される。
ファニッシャーロール2の洗浄は、その表面が平滑である場合には極めて容易に行うことができる。しかし、版胴1へのインキの供給を円滑にするために、ファニッシャーロール2の表面に微細な凹凸が形成されている場合には、洗浄作業に長時間を要する。
ファニッシャーロール2の材質としては、軟質なゴムで製作することが、版胴のグラビア版の表面を損傷させるのを防止する観点から好ましい。
【0027】
(グラビアインキ)
本明細書において記載されているグラビアインキ又はインキとは、グラビア塗布装置を使用して基材に塗布(コーティング)される、広義の意味での塗料(インキ)を総称するものである。具体的には、色素または顔料を樹脂組成物に混ぜ合わせた塗料、溶剤に溶解させた粘着剤組成物からなる塗料、接着剤組成物からなる塗料、合成樹脂組成物からなる塗料、金属酸化物化合物を樹脂組成物に混ぜ合わせた塗料など、各種用途に使用される様々な塗料を総称して、本明細書においては、グラビアインキまたはインキと呼ぶ。
例えば、基材フィルムの表面に導電性回路を形成するために、グラビアインキとして導電性ペーストを用いる場合は、通常は導電性フィラーをバインダーとなる樹脂成分に混ぜ込んだ導電性ペーストが塗料として用いられる。導電性ペーストとしては、導電性金属粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーからなる導電性フィラー群の中から選択された1つ以上が含有されているものが好ましい。導電性金属粒子としては、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉が用いられるが、導電性、価格の点から銅または銀の微粉末を用いるのが好ましい。また、導電性を有するカーボンナノ粒子であるカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、少なくとも版胴と、ファニッシャーロールとを有するグラビア塗布装置において、前記版胴のロール幅の長さに比べて、前記ファニッシャーロールのロール幅の長さが大幅に短い場合においても、ファニッシャーロールの両端からのインキ飛沫がグラビア版胴の側面及び架台に付着して、基材フィルムを汚損するのを防止し、製品品質の向上と共に、グラビア塗布装置の清掃時間の削減を図ることにより生産性が向上したグラビア塗布装置が提供される。
本発明によれば、版胴のロール幅の長さとファニッシャーロールのロール幅の長さとを同じに調整したファニッシャーロールを版胴とのセットで購入する必要がなく、設備投資の低減に貢献できるので産業上に益するところが大である。
【符号の説明】
【0029】
1…版胴、2…ファニッシャーロール、3,23…L字型部材(折曲げ板状部材)、4…スライドレール、5…L字型部材の固定具、6…ドクターブレード、7…インキ供給ノズル、8,18…インキパン、9,19…グラビアインキ(インキ)、10…グラビア塗布装置、11,21…支持板、12,22…当て板(堰き止め機能部)、13…固定棒、14,24…補助ドクター機能部、30…U字型部材(折曲げ板状部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも版胴と、ファニッシャーロールとを有するグラビア塗布装置において、
前記版胴のロール幅の長さに比べて、前記ファニッシャーロールのロール幅の長さが同一または短く、前記版胴と前記ファニッシャーロールとが最も接近する箇所に形成されたインキ溜まり近傍に、堰き止め機能と補助ドクター機能とを兼ね備えたL字型又はU字型に折り曲げられてなる折曲げ板状部材を配設したことを特徴とするグラビア塗布装置。
【請求項2】
前記折曲げ板状部材が、前記ファニッシャーロールの幅方向にスライド移動できるように、スライドレールに取り付けられてなることを特徴とする請求項1に記載のグラビア塗布装置。
【請求項3】
インキパンに貯蔵されたインキに、ファニッシャーロールが浸漬されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のグラビア塗布装置。
【請求項4】
版胴とファニッシャーロールとが最も接近する箇所に、インキ供給ノズルからグラビアインキが供給されることを特徴とする請求項1または2に記載のグラビア塗布装置。
【請求項5】
前記折曲げ板状部材は、略矩形状の板状部材の長辺に入れた一対の切れ込みから垂直に折り曲げた部分を前記ファニッシャーロールの側面に接触させて堰き止め機能部とし、前記切り込みの片方を、前記版胴と前記ファニッシャーロールとが最も接近する箇所から前記版胴の回転方向の後方で前記版胴の表面に接触させて補助ドクター機能部としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のグラビア塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−170903(P2012−170903A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36077(P2011−36077)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(000110930)フジモリプラケミカル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】