説明

グラファイトとキャリア金属の接合部の製造法、並びに複合部材

本発明は、キャリア金属層(1)とグラファイト層(3)との間の接合部(5)の製造法に関する。本発明によれば、該方法は以下の工程を有する:キャリア金属層(1)を準備する工程;該キャリア金属層と接合されるグラファイト層(3)を準備する工程;少なくとも1種の金属(4)を含有する接着層(2)を、該キャリア金属層(1)と該グラファイト層(3)との間に配置する工程;該キャリア金属層(1)を該グラファイト層(3)と接合する工程、その際、該接合工程は拡散工程を包含し、該拡散工程において金属(4)は、少なくとも部分的に該グラファイト層(3)及び/又は該キャリア金属層(1)の中に導入されるよう促され、その際、該金属は本質的に固相のままである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア金属層とグラファイト層との間の接合部の製造法、並びにグラファイト及びキャリア金属層を包含する複合部材に関する。
【0002】
グラファイトは、多数の適用にとって良好な機械的、熱的、電気的及び化学的な特性を有しており、低コストであり、かつ環境に優しい。それゆえ、例えば、グラファイトは、高温処理を経る容器の表面加工のために使用される。グラファイトは、プラスチックと比べて、それが化学的に安定であり、かつ処理に対して、殊に比較的高い温度でも中立に振る舞うという利点を有する。その可塑特性のゆえに、グラファイトはシール材として高温プラント及び高圧プラントにおいて使用される。導電性に基づき、グラファイトはチップへと形作られるか又は高電場を生成するためのチップ電極の覆いとして使用されることができる。同様に、グラファイトは電池における平面電極として使用される。
【0003】
以降、"グラファイト"もしくは"グラファイト層"との名称は、例えば膨張グラファイトの圧縮成形(Verpressen)によって得られるグラファイト成形体、例えばグラファイトフォイル、各々の非晶質又は結晶性の構造における炭素層、炭素の微小細管又はフラーレン及び、蒸着、スパッタリング又は相応する方法によって製造された各々の構造の炭素層といった、炭素をベースとする各々の物質もしくは層と理解されるべきである。
【0004】
屈曲力及び引張力に対するグラファイト層の耐荷力を改善するために、該グラファイト層はこれまで片面又は両面が金属キャリアと接合されている。これらの接合部によって、機械的、熱的、電気的及び化学的なグラファイト層の特性が悪化しないことが望まれている。従来技術においては、形状接合の外に、グラファイトのこれらの特性が金属キャリア上への固定後に保持されうる接合は公知ではない。
【0005】
グラファイト層と金属キャリアとの間の接着接合部(Haftverbindung)を機械的に固定することによって及び貼り合わせることによって製造することが公知である。グラファイト層の機械的な固定は、金属キャリアとのかみ合わせによって行うことができ、該かみ合わせは、網状の又は粗いキャリア金属表面と圧縮成形することによって生じる。粘着接合の場合、グラファイト層はキャリア金属と有機粘着剤又は無機粘着剤によって粘着して接合される。
【0006】
欠点は、金属キャリア上でグラファイト層を機械的に固定した場合にグラファイト層が損傷することである。表面粗さのために存在する金属チップは、グラファイト層中で局所的な破損を生じさせることがあることから、これらの箇所では、例えば、熱的に絶縁する、又は導電性のあるいはむしろシール特性が悪化される。そのうえ、グラファイトを金属キャリア上で圧縮成形する場合、該グラファイトは、それが、例えばもはやシール材料として使用することができなくなるぐらい強く圧縮される。グラファイトからの微小電極又はその他の小型部材を圧縮成形によって機械的に固定する場合、力を行使した際にその形状が変化する。
【0007】
粘着結合部も欠点を有する。この場合、金属キャリアとグラファイト層との間の接着剤層は、一般に少なくとも数マイクロメーターの厚みを持つ。この付加的な粘着層は、グラファイト層の本来の使用のために、要求される化学的、熱的、電気的及び機械的な条件を満たさないことが多く、ひいては接着されたグラファイトの使用範囲を制限する。接着剤は、殊に真空中での使用に際してガスとして発生し、そしてこれをガス発生によって汚染するか、もしくは他の構成部材上で再び沈殿し、ひいてはその表面特性を変化させることがある。高い温度では、接着剤は分解する可能性があり、そしてその成分が処理ガスもしくは処理液体に達し、ひいては処理シーケンスに影響を及ぼす可能性がある。圧力シールとしてグラファイト層が使用される場合、接着剤及びグラファイト層の種々の機械的な挙動に基づき漏出問題が起こりうる。さらに加えて、接着剤の分解及び溶解に際して、シールするフランジ間の接触力が低下し、それによりシール作用が低下する。粘着部が、過度に高められた温度によって軟らかくなるか又は溶解すると、グラファイト層は位置が変わるか又は完全に剥がれる可能性がある。個々に固定された微小電極の場合には、それゆえ構造一式が破壊されるものと考えられる。
【0008】
いくつかの適用においては、金属キャリアとグラファイト層との間のコンタクトが保証されていなければならないことから、高いコストと結び付く導電性の接着剤が使用されなければならない。
【0009】
いくつかの方法においては、接着剤で覆われた層(金属キャリア及びグラファイト)は、非常に高い圧力及び非常に高い温度で、例えば数時間にわたるような、長い時間にわたって、互いに圧縮成形されなければならない。例えばこれは、必要とされるプレスの設計が相応して煩雑であるがゆえに、高い製造コストをもたらす。
【0010】
そのうえ、真空はんだ付けによるグラファイトと金属の接合が公知である。この方法は真空条件下で実施されなければならず、それゆえ費用が掛かる。真空はんだ付けを炭化処理と組み合わせる方法の場合、金属粉末が撒き散らされ、かつ非常に高い温度で溶融され、このことは方法をずっと煩雑なものにする。
【0011】
本発明の課題は、グラファイトとキャリア金属との間の接合部の製造法、並びにグラファイト層及びキャリア金属層を包含する複合部材を提供することであり、その際、該接合部は、熱的及び機械的な負荷の下でグラファイトの固有強度より強いことが望ましい。グラファイトとキャリア金属との間の接合部は、良好な電気伝導率及び熱伝導率を有し、並びに化学的に安定であるべきである。その弾性・塑性挙動は、グラファイト層の該挙動と比較して無視できるぐらいに小さいことが望ましい。
【0012】
該課題は、請求項1に従った方法により解決される。
【0013】
本発明による方法によれば、キャリア金属層とグラファイト層との間の接合部は、以下の工程:
− キャリア金属層を準備する工程
− 該キャリア金属層と接合されるグラファイト層を準備する工程
− 少なくとも1種の金属を含有する接着層を、該キャリア金属層と該グラファイト層との間に配置する工程
− 該キャリア金属層をグラファイト層と接合する工程
によって製造され、その際、該接合工程は拡散工程を包含し、該拡散工程において該接着層の少なくとも1種の金属は、少なくとも部分的にグラファイト層及び/又はキャリア金属層の中に導入されるよう促され、その際、該金属は本質的に固相のままである。
【0014】
それによって、本発明によれば、粘着剤を要する粘着接合なしに、高い強度、高い電気的及び熱的な伝導率及び化学的安定性の接合部が得られる。本発明は、グラファイト層が、粗い又は特に構造化されたキャリア金属表面において圧縮成形によってかみ合わせられる機械的な接合なしでも済まされ、その際、しかしながら、本発明によれば、かかる機械的な接合が拡散工程による接合に加えて存在していてもよい。他の接合方法とは異なり、金属は、その際、本質的に溶融せず、固相のままである。好ましくは、金属は、方法全体を通して完全に固相のままである。
【0015】
"グラファイト層"との用語は、自立式の又は施与された薄いフィルム、フォイルかあるいは厚いプレート又は任意の形状の又は厚さのボディを包含する。代替的に、"グラファイト成形体"との用語も使用してよい。層との用語は、グラファイトの及びキャリア金属の表面近接領域が互いに接合されることができることを明確に示すものである。殊にこれは、他の平面領域と接合されるべき平面領域であってよい。キャリア金属層は、本発明の枠内ではキャリア金属成形体とも呼ばれることがあり、かつ相応する形状及び厚さを有していてよい。
【0016】
本発明による方法の好ましい実施態様及び発展形態は、下位の従属請求項に示されている。
【0017】
好ましくは、接着層は金属として銀(Ag)を含有するか、又は接着層はAgから成る。
【0018】
この実施形態の場合、接着作用とは、Ag原子を接着層から、双方の面で隣接している、接合されるべきキャリア金属層とグラファイト層に入り込むことを基礎としている。2つの材料中では、金属原子の格子サイト又は中間格子サイトが占有しており、かつ有利にはそこの原子と結合する。グラファイトへのAgの結合は、層状になったグラファイトの格子構造によって説明することができる。グラファイトの層面内では、炭素原子(C)間で、sp2混成結合の形成に基づく強い共有σ結合が作用する。この場合、px軌道及びpy軌道はトリゴナル構造で配向している。隣接したC原子間の間隔は、グラファイト面において0.142nmである。px軌道の3個目の電子は、この層面に対して垂直に向いており、かつファンデルワールス力に基づく弱いπ結合をもたらす。該面間の原子間隔は、0.335nmで該面内の間隔より明らかに大きい。pz軌道の電子には1個だけの外殻s電子を有するAg原子が付加すると推測され、それゆえに強く結合されることができる。他方で、グラファイト面間の比較的大きな間隔は、Ag原子の付加を、0.306nmのその大きな直径にも関わらず可能とし、グラファイト層内に深く組み込まれた原子と、かつグラファイト層の表面により近接してあるAg原子間のより良好な結合をもたらし、このことはグラファイトに対する接着層の安定した結合を生み出す。他方で、Ag結晶における0.41nmの比較的大きい格子定数も、中間格子サイトへのC原子の組み込みを可能にし、このことは双方の2つの層のかみ合わせに寄与しうる。この結合プロセスに基づき、好ましくは、すでに数原子の層のみから成るAg層だけで、グラファイト及びキャリア金属の安定した接合部の製造には十分でありうる。
【0019】
有利な実施形態によれば、キャリア金属層は、鉄、鋼、特殊鋼、金、パラジウム、チタン、銅、青銅、黄銅、クロム、ニッケル、亜鉛、スズ、インジウム、マンガン、アルミニウム、鉛及びカドミウムから成る群からの少なくとも1種のキャリア金属又はキャリア金属合金又はこれらの金属又はそれらからの金属合金の少なくとも1種を有する合金を含有する。電池における適用のために、鉛及びカドミウム以外にその他の全ての公知の電池材料が適しうる。
【0020】
特殊鋼キャリアへの接着層からの銀の結合は、Agとクロム(Cr)及びニッケル(Ni)との合金性に基づくと推測され、これと合金化し難い鉄(Fe)との結合ではない。特殊鋼は十分な割合のCr及びNiを持っているので、特殊鋼キャリアの表面近接におけるAgの結合が可能である。特殊鋼における格子間隔は0.3nmの範囲にあり、それにより中間格子サイトへのAg原子の組み込みも可能にすることが推測される。相応することが、上記の有利なその他のキャリア金属もしくはキャリア金属合金に当てはめられる。その際、記載された金属は合金の主成分を形成している必要はなく、単に10質量%まで、殊に5質量%までの範囲又はずっと低い含有率、例えば0.1〜3質量%の範囲で存在していてよい。
【0021】
接着層における金属として銀を使用する代わりに又は加えて、金属は、その結合挙動及び/又は拡散挙動に関してキャリア金属層及び/又はグラファイト層に対して銀と同じように挙動する金属である。同じような挙動とは、本発明の枠内で、金属がグラファイト層及び/又はキャリア金属層の中に拡散しえ、かつ、例えば電子結合といった、銀原子について上で述べた結合関係及び挿入関係を少なくとも部分的に結ぶことと解される。接着層の有利な金属又は合金成分は、例えば、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、インジウム(In)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び鉛(Pb)であってよい。Au及びCuは、Agのように完全に原子殻が満たされており、かつ外側の自由電子をs殻に1個だけ持っており、該自由電子はグラファイトのsp軌道と結合しうる。例えばAg22及びCu22の結合が公知である。Cr及びMoも同様に、外側のs電子及び満たされたもしくは半分満たされた殻を持っているため、これらも銀と同様の挙動を示す。周期律表の第4族の元素としてのSi、Ge、Sn及びPbは、p電子と混成軌道を形成することによってグラファイトに結合することができる。これらの元素は、グラファイト面のC原子を、その原子直径が大きすぎない場合には、部分的に置き換えることができる。同様に、硫黄化合物、例えばAg22によって結合することもできる。硫黄は、頻繁に不純物として、例えば炭素中で生じる。
【0022】
有利には、拡散工程はプレス工程及び/又は加熱工程を包含する。圧力又は高められた温度の下で、接着層の少なくとも1種の金属が、グラファイト層及び/又はキャリア金属層に拡散するよう促される。その際、必要な圧力及び/又は必要な温度は、接着層の金属とキャリア金属層の少なくとも1種のキャリア金属に依存する。
【0023】
好ましくは、接着層は拡散工程の前に、1nm〜100nm、殊に2〜80nm、有利には5〜50nmの厚みを有する。層厚が小さくなればなるほど、それだけ一層、例えばコーティングすることによる、接着層を準備するために必要な時間と材料に費やす労力も小さくなる。このように薄い層は、対応するせん断応力のいわゆる法則に基づき、せん断応力に鈍感に反応する。せん断応力は、ずれ応力によって引き起こされ、例えば巻き取る場合のような、曲げ負荷がかかった場合に発生する。それゆえ、曲がったサンドイッチ構造は、接合面でせん断応力を受けず、該せん断応力は、比喩的に言えば、接合された層を上下に押し動かそうとするものであり、これは接着層の剥離につながりうる。接着層が薄ければ薄いほど、それだけ一層、剥離に対する機械的な抵抗力は高い。これに対して、より大きい厚みは、好ましくは、グラファイト層及び/又はキャリア金属層においてより幅を持った中間層を作り出すことを可能にし、該層内には接着層からの金属が拡散し、得られる接合部の機械的な強度を高めることができる。
【0024】
好ましくは、炭素と化学的に結合する金属が適している。これにより、好ましくは、接着層に対するグラファイト層の接合がなお高められる。
【0025】
1つ目の代替法によれば、接着層は拡散工程前に、接合される双方の層(グラファイト層、キャリア金属層)の少なくとも1つに施与されているか又は施与される。これにより、殊に、特に薄いナノメーター範囲での接着層の配置が可能となる。
【0026】
好ましくは、接着層は、物理気相蒸着法(PVD)及び/又は化学気相蒸着法(CVD)によって、接合される双方の層の少なくとも1つに施与される。このようなコーティング法は、従来通りの方法で、すでに数原子層〜数百ナノメーターまでの厚みで均質かつ高価な層を施与することが可能である。CVD及びPVDは、例えば、熱蒸着、スパッタリング法(カソードスパッタリングとも呼ばれる)、イオンプレーティング、クラスタービーム技術である。CVD法及びPVD法によって、接着層の金属は、接合される双方の層の少なくとも1つの元素とすでに密接に結合される。それによって、金属をさらに拡散導入させるために必要な活性エネルギーはより僅かになる。従って、本発明の接合メカニズムは、従来のはんだ付け法又はその他の従来の接合技術とは区別される。
【0027】
コーティング法として、その他の公知のコーティング法、例えば電気めっきも、殊に、マイクロメーター範囲までのより厚い層が接着層として所望されている場合は考慮に入れられる。公知のはんだ付け法とは異なり、しかし、より厚みのある層の場合でも、本発明の枠内では、液相が発生することはない。
【0028】
2つ目の代替法によれば、接着層として、金属を含有する自立式のフォイル、例えば金属フォイルが使用される。それによって、コーティング工程が回避され、このことは、例えば、コーティング装置が使用可能ではない場合に好ましくありうる。
【0029】
好ましくは、プレス工程のプレス時間は、60分まで、殊に5〜50分の間、殊に10〜40分の間である。該時間は、例えば1分間だけであってもよい。従って、比較的短い時間で金属の拡散導入を行うことができる。接合を可能な限り低い温度負荷の下で行うために、低い温度と結び付けられる長いプレス時間が好ましくありうる。高い温度は、安定な接合部を製造するために不可欠なプレス時間をより短いものにする。
【0030】
好ましくは、加熱工程の加熱温度は、接着層の金属の融点の3分の1と金属の融点を下回る温度の間にある。それによって、接着層もしくは接着層内の金属の液化が回避され、しかしながら、その際、金属は、拡散工程が起こりうる程度の強さで刺激される。特に有利には、加熱温度は、融点(℃)の半分と融点より5K低い、殊に、融点より20K、殊に50K下回る温度の間にある。
【0031】
殊に、接着層中の金属としてAgが使用される場合、300℃を上回る加熱温度、400℃を上回る、殊に500℃を上回る加熱温度が好ましい。低融点金属が使用される場合、相応する、より低い加熱温度も好ましくありえ、より高い融点の金属の場合は、より高い加熱温度も好ましくありうる。550℃から、殊に600℃からの温度ではグラファイトが温度の影響を受けやすいため、該方法は、好ましくは真空下で実施してよい。
【0032】
接着層を部分領域的に又は面全体でグラファイト層上に及び/又は金属キャリア層上に施与することが好ましくありうる。殊に、接着層は、例えば点状又は切片状といったように、構造化してグラファイト層上に及び/又はキャリア金属層上に施与してもよい。これは、例えば、局所的な応力を調整するために好ましくありうる。部分領域的に施与することは、すでに存在している隙間を閉じないためにも好ましくありうる。これは、例えば燃料電池用のフィルター又は膜の場合にも好ましくありうる。
【0033】
さらに、キャリア金属層は、例えば島又は点の形態のように構造化されて存在していてよい。
【0034】
キャリア金属層を接着層上にコーティング法によって施与することが好ましくありうる。
【0035】
コーティング法によって、キャリア金属層は特に良好に構造化され、並びに均等な厚さで施与されうる。
【0036】
好ましくは、キャリア金属層は、物理的及び/又は化学的な気相蒸着法によって接着層上に施与され、殊に、接着層の施与に関してすでに上で記載した堆積法によって施与される。好ましくは、ここでは、エピタキシャル法であってもよい。好ましくは、それによりキャリア金属層をナノメーター範囲又はナノメーター以下の範囲の寸法で製造することができるか、あるいはまた1μmまでのより厚みのある層も製造することができる。このような厚みの層は、殊に厚みに関して非常に均質な層が所望されている場合に好ましくありうる。層面方向における導電性の均一性に関しても、このような厚みの層は好ましくありうる。
【0037】
好ましくは、少なくとも1種のグラファイト層は、少なくとも部分的に圧縮膨張されたグラファイトを包含するグラファイトフォイルを包含する。グラファイトフォイルは、特に可撓性であり、かつ好ましくは、平らでないキャリア金属層とも、得られる複合部材が機械的な応力下になく接合されることができる。
【0038】
好ましくは、プレス工程はカレンダー処理工程を包含する。カレンダー処理によって、好ましくは、個々の層間での空気侵入が回避され、並びに大面積の接合部が製造されうる。それにカレンダー処理によって連続的な製造プロセスを実施することができる。あるいは、空気侵入の回避のために、好ましくはまた真空下で実施することができるその他のプレス法も好ましくありうる。
【0039】
課題はさらに、請求項21記載の複合部材により解決される。本発明による複合部材は、殊に本発明による方法に従って、接着層によって接合されているグラファイト層及びキャリア金属層を包含し、その際、該接着層は少なくとも1種の金属を包含し、該金属は、拡散工程によって促進されて、少なくとも部分的にグラファイト層及び/又はキャリア金属層に組み込まれる。
【0040】
該複合部材の好ましい実施形態は、従属請求項に示されている。
【0041】
好ましくは、接着層の金属は少なくとも本質的に完全にグラファイト層及び/又はキャリア金属層に拡散導入されていることから、該接着層は少なくとも本質的に中間層によってのみ形成されており、該中間層は、金属とキャリア金属からの混合物及び/又は金属とグラファイトからの混合物から本質的に成る。
【0042】
複合部材は、好ましくはシール部材用に使用される。良好な接着、高い化学的安定性及び温度安定性は、シール部材にとって大きな利点である。
【0043】
さらなる好ましい実施態様及び発展形態は、実施例に記載されており、該実施例は、本発明による方法に従って製造された本発明による複合部材の断面を概略的に示す唯一の図面を基にして説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明による方法に従って製造された本発明による複合部材の断面を概略的に示す図
【0045】
キャリア金属層1としての特殊鋼板を、慣例の方法により洗浄して、油脂、塵埃等を取り除く。PVDマグネトロンスパッタリングにより、相応する真空条件下で室温にて、10nmの薄さのAg層を接着層2としてキャリア金属層1に施与する。その後、グラファイトフォイルをグラファイト層3として、適度な温度条件及び圧力条件下で、Ag接着層が塗布されたキャリア金属層1の側に押圧する。グラファイト層3の押圧は空気下で行う。押圧のために、従来の加熱可能なプレス装置(非図示)を使用する。押圧及び加熱によって拡散工程を引き起こし、その際、金属4が接着層からグラファイト層3にのみならず特殊鋼板にも拡散し、このことは矢印8によって表示されている。それによって、接着層と境をなすグラファイト層及びキャリア金属層1の領域中でそのつど中間層7が生じ、該中間層7には接着層からの金属4が拡散導入された状態で存在する。
【0046】
接合部5、もしくは、0.8mmの厚みの2つのグラファイト層の間に敷設される、両面がAgでコーティングされた50μmの厚みの特殊鋼フォイルからの複合部材6を製造する。436℃の加熱温度、5.4×106Paの押圧力及び10〜30分間の押圧時間の場合、機械的に安定な接合部ひいては複合部材が得られる。剥離試験によって、該接着接合部がグラファイトの固有強度より強いことが証明される。最適化処理のために考慮すべきことは、層への金属の侵入深さに関して、時間tは

でのみ示され、一方で、温度は指数的に示される。さらなる試験では、押圧時間は5.4×106の一定圧力及び436℃の一定温度で段階的に短縮されている。5分の押圧時間の場合ですらなお十分な接着結果を得ることができた。2.4×106Pa及び436℃の加熱温度の場合、十分な接着のための最小プレス時間は10分であった。
【0047】
接合部の機械的な強度は、引裂試験において測定される。非常に良好に接着している場合、グラファイト層は固有に引き剥がれ、その一方で、キャリア金属層は完全に、その上に接着しているグラファイトで被覆されている。接着がより不十分な場合、炭素によるキャリア金属層の被覆率は100%より低い。さらなる試験より、上記のせん断力より大きい場合でも、接合された層の非常に良好な接着が存在することがわかった。
【0048】
本発明による方法の利点は多岐にわたる。Ag接着層は、上述の実施例のように、グラファイト層上に施与するか、又は金属キャリア上に施与してよい。その僅かな層厚の結果として、接着層の収縮、変性又は流動が排除されている。これは、その層厚が0.2μm〜数マイクロメーターであり、それにより接着層の有利な厚みより10倍〜1000倍厚い典型的な粘着層の挙動に比べて大きな利点を持つ。それと同時に、本発明による方法によって相当量の材料を節約することができる。それにも関わらず、実施例の変形例では、より厚みのある接着層も使用することができる。この変形例の場合も、せん断力が加わった場合に、グラファイト層は固有に引き剥がれ、このことは、キャリア金属層への非常に良好なグラファイト層の接着を裏付ける。
【0049】
キャリア金属へのグラファイト層の押圧は、従来の方法より明らかに低い圧力により行われる。従って、本発明による方法を用いて、比較的強力には設計されていないマシーンも使用することができる。シール材料としての使用のために、その際、さらなる利点が生じ、それというのも、グラファイト層自体は、好ましくは硬化されないか又はほんの僅かにしか硬化されず、そのため、さらにその弾性・塑性挙動を保持するからである。
【0050】
実施例の変形例においては、高真空蒸着によって25μmの厚みの銀層が施与される。さらなる変形例においては、Agのスパッタリング前に20nmの厚みのCr層が施与される。これは好ましくは接着促進剤として引き続き施与される接着層のために役立ちうる。それ自体がクロムを含有しない非合金鋼の場合、クロムは特に良好に接着促進剤として役立ちうる。層厚は、全ての公知のCVD法及びPVD法により正確にナノメーター範囲で、しかし、所望される場合には、数100nmの範囲で調整することができる。
【0051】
Ag接着層は、916℃である銀の融点近くまで熱的に安定である。それにより、Ag接着層は、通常の粘着接合部をずっと凌駕している。典型的な粘着接合部の典型的な限界温度は200℃を下回る。それゆえ、本発明により接合された系のグラファイト/キャリア金属は、これまで通常であった450℃の上限までの温度より明らかに高い温度で使用することができる。この境界は、450℃を上回る温度ではグラファイトの酸化傾向が強まることから結論される。この上限は、Agの高い融点に基づき損なわれない。
【0052】
通常の接着剤とは異なり、Ag接着層は真空中でガス発生せず、従って構成部材をコーティングするか又は化学的なプロセスに関与する。
【0053】
銀は化学的に非常に安定であるので、Ag接着層は通常の粘着接合部より化学的にずっと安定である。従って、例えば本発明による方法によって製造されたシールは、これまで可能ではなかった浸食性の化学的なプロセスに際しても使用することができる。
【0054】
金属としてのAgは導電性の接着接合を作り出すので、系のグラファイト/金属キャリアは全体で導電性である。
【0055】
実施例に従って得られる複合部材は、シール部材の変形例に従って使用される。良好な接着、高い化学的安定性及び温度安定性は、シール部材にとって大きな利点である。殊に、シールは多層で構成されており、その際、有利には2つのグラファイト層が多層構造の外側の2つの層を形成する。
【0056】
接着層の施与法は比較的簡単である。スパッタリング又は蒸着技術により、大面積のキャリア金属も被覆可能である。このために必要なのは後処理を含まない唯一の作業工程のみである。酸素に対する保護又は真空下での加工は必要ではない。個々の成分は、空気中でより長い時間、中間貯蔵することができる。グラファイトの圧縮成形は、空気雰囲気下でも可能である。そのため、高価な真空処理装置、例えば真空はんだ付け法の必要性がなくなる。その他の従来のはんだ付け法、又は、殊に接合する金属の液相が生じるその他の方法と比べても、本発明による方法は、明らかに少ない労力で実施可能である。
【0057】
金属キャリアへのグラファイト層の押圧時間は、この本発明による方法の場合、他の粘着法の場合の時間単位の範囲での押圧時間と比べて、5〜30分と比較的短く、そのため非常に経済的である。
【0058】
本発明は、具体的に記載された実施形態に制限されるのではなく、明細書、実施例及び請求項に挙げられた特徴からの全ての考えられる組み合わせを、これらが技術的に意義を持つ場合に限って包含する。
【0059】
殊に本発明は、詳細には挙げられていないが、しかし、接着層のそのつどの金属を用いて最適な接合部を作り出すことができる圧力、温度及び方法時間も包含する。
【符号の説明】
【0060】
1 キャリア金属層、 2 接着層、 3 グラファイト層、 4 金属、 5 接合部、 6 複合部材、 7 中間層、 8 金属の拡散を示す矢印


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア金属層(1)とグラファイト層(3)との間の接合部(5)の製造法において、
− キャリア金属層(1)を準備する工程
− 該キャリア金属層と接合されるグラファイト層(3)を準備する工程
− 少なくとも1種の金属(4)を含有する接着層(2)を、該キャリア金属層(1)と該グラファイト層(3)との間に配置する工程
− 該キャリア金属層(1)を該グラファイト層(3)と接合する工程
を有し、その際、該接合工程は拡散工程を包含し、該拡散工程において該金属(4)は、少なくとも部分的にグラファイト層(3)及び/又はキャリア金属層(1)の中に導入されるよう促され、その際、該金属は本質的に固相のままであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記接着層(2)が金属(4)として銀を含有するか又は銀から成ることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記キャリア金属層(1)が、鉄、鋼、特殊鋼、金、パラジウム、チタン、銅、青銅、黄銅、クロム、ニッケル、亜鉛、スズ、インジウム、マンガン、アルミニウムから成る群からの少なくとも1種のキャリア金属又はキャリア金属合金、あるいはこれらのキャリア金属又はそれらからのキャリア金属合金の少なくとも1種との合金を含有することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記金属(4)が、その結合挙動及び/又は拡散挙動に関してキャリア金属層(1)及び/又はグラファイト層(2)に対して銀と同じように挙動する金属(4)であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の金属(4)が、金、銅、白金、インジウム、クロム、モリブデン、ケイ素、ゲルマニウム、スズ及び鉛から成る群からの金属又はそれらからの合金であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記拡散工程が、プレス工程及び/又は加熱工程を包含することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記接着層(2)が、前記拡散工程の前に、1nm〜100nm、殊に2〜80nm、殊に5〜50nmの厚みを有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記金属(4)が、炭素と化学結合するのに適していることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記接着層(2)が、前記拡散工程の前に、前記接着される2つの層(1、3)の少なくとも1つに施与されているか又は施与されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記接着層(2)が、物理気相蒸着法及び/又は化学気相蒸着法によって、前記接合される2つの層(1、3)の少なくとも1つに施与されているか又は施与されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項11】
接着層(2)として、前記金属(4)を含有する自立式のフォイル、例えば金属フォイルを使用することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記プレス工程のプレス時間が、60分まで、殊に5〜50分、殊に10〜40分であることを特徴とする、請求項2から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記加熱工程の加熱温度が、前記接着層(2)の前記金属の融点の3分の1と前記金属(4)の融点より低い温度との間に、殊に前記融点の半分と前記融点を5K下回る温度との間にあることを特徴とする、請求項2から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記温度が、300℃を上回る、殊に400℃を上回る、殊に500℃を上回ることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記接着層(2)が、部分領域的に、例えば構造化されて、又は全面がグラファイト層(3)に及び/又は金属キャリア層(1)に施与されているか又は施与されることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記キャリア金属層(1)が、例えば島又は点の形態のように、構造化されて存在することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記キャリア金属層(1)が、前記接着層(2)にコーティング法によって施与されることを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記キャリア金属層(1)が、物理気相蒸着法及び/又は化学気相蒸着法によって接着層(2)に施与されることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記プレス工程がカレンダー処理工程を包含することを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1種のグラファイト層(3)及び少なくとも1種のキャリア金属層からの複合部材(6)を、少なくとも1種のキャリア金属層(1)及び少なとも1種のグラファイト層(3)の交互の順序で製造し、その際、前記複合部材の外側の層としてグラファイト層(3)及び/又はキャリア金属層(1)を使用することを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
殊に請求項1から20までのいずれか1項記載の方法に従う、接着層(2)によって接合されている、少なくとも1種のグラファイト層(3)及び少なくとも1種のキャリア金属層(1)を包含する複合部材(6)において、前記接着層(2)が、拡散工程によって、少なくとも部分的にグラファイト層(3)及び/又はキャリア金属層(1)に導入されるよう促されている少なくとも1種の金属(4)を包含することを特徴とする、複合部材(6)。
【請求項22】
前記接着層(2)の前記金属(4)が少なくとも本質的に完全にグラファイト層(3)及び/又はキャリア金属層(1)に拡散導入されており、その結果、前記接着層(2)は少なくとも本質的に中間層(7)によってのみ形成されており、該中間層は、前記金属(4)と前記キャリア金属からの混合物及び/又は前記金属(4)とグラファイトからの混合物から本質的に成ることを特徴とする、請求項21記載の複合部材(6)。
【請求項23】
前記少なくとも1種のグラファイト層(3)が、少なくとも部分的に圧縮膨張されたグラファイトフォイルを包含することを特徴とする、請求項21又は22記載の複合部材(6)。
【請求項24】
請求項21から23までのいずれか1項記載の複合部材(6)を含有することを特徴とする、シール部材。

【公表番号】特表2012−521954(P2012−521954A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502623(P2012−502623)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054129
【国際公開番号】WO2010/112468
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(501090803)エスゲーエル カーボン ソシエタス ヨーロピア (47)
【氏名又は名称原語表記】SGL CARBON SE
【住所又は居所原語表記】Rheingaustrasse 182, D−65203 Wiesbaden, Germany
【Fターム(参考)】