説明

グリコサミノグリカンを拮抗するMCP−1突然変異体およびその使用方法

野生型単球走化性タンパク質1(MCP−1)に対して、増加したグリコサミノグリカン(GAG)結合アフィニティーおよびノックアウトされたかまたは減少したGPCR活性を有する、新規ヒトMCP−1突然変異体およびその炎症性疾患の治療のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生型のMCP−1と比較して、増加したグリコサミノグリカン(GAG)結合アフィニティー及びノックアウトされた又は減少したGPCR活性を有するヒト単球走化性タンパク質1(MCP−1)の新規突然変異体、並びに炎症性疾患の治療のためのそれらの使用に関する。
【0002】
全てのケモカインは、C及びCX3Cケモカインサブファミリーの一部であるリンホタクチン及びフラクタリン/ニューロタクチンを除いて、それぞれ、逆位置で4つのシステインを有し、かつそれぞれN末端内での2つのシステイン間のアミノ酸の存在又は不在に基づいて、CXC又はα−ケモカイン、及びCC又はβ−ケモカインサブファミリーに分類することができる。ケモカインは、細胞間メッセンジャーとして機能して、血管の内腔から組織中への、特定の型の白血球の活性化及び遊走を調整する小さな分泌されたタンパク質である(Baggiolini M., J. Int. Med. 250,91-104 (2001))。このことは、ケモカインと、標的細胞の表面上の7つの膜内外Gタンパク質結合レセプター(GPCRs)との相互作用によって介在される。かかる相互作用は、流動条件下で、生体内で生じる。従って、局所の濃度勾配の確立が、ケモカインと細胞表面のグリコサミノグリカン(GAGs)との相互作用によって要求され、かつ保証される。ケモカインは、それらのレセプターと相互作用する2つの主要な部位を有し、1つはトリガー領域として機能するN末端領域にあり、かつ他方はドッキング領域として機能する第二のシステインの後のさらされたループ内にある(Gupta S.K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 92, (17), 7799-7803 (1995))。ケモカインのGAG結合部位は、空間的に明確な塩基性アミノ酸のクラスターを含む(Alis S., et al., Biochem. J. 358, 737-745 (2001))。いくつかのケモカイン、例えばRANTESは、主要なGAG結合部位として40sループにおけるBBXBモチーフを有し、IL−8は、C末端のα−ヘリックスを介するGAGと、隣接するNループにおけるLys20とを相互作用する。他のケモカイン、例えばMCP−1は、レセプター結合部位及びGAG結合部位を含有する残基間の著しい重複を示す(Lau E. K. et al., J. Biol. Chem., 279 (21), 22294-22305 (2004))。
【0003】
サイトカインのケモカイン−βファミリーの内容において、単球走化性タンパク質−1(MCP−1)は、単球に富む炎症成分、例えばアテローム硬化(Nelken NAら, J. Clin. Invest. 88, 1121-1127(1991); YIa-Herttuala, S., Proc. Natl. Acad. Sci USA88, 5252-5256(1991))、リウマチ様関節炎(Koch A. E.ら, J. Clin.Invest. 90, 772-779(1992); Hosaka S.ら, Clin. Exp. Immunol. 97(3), 451-457 (1994), Robinson E.ら, Clin. Exp. Immunol. 101 (3), 398-407 (1995))、炎症性腸疾患(MacDermott RP.ら, J. Clin. Immunol. 19, 266-272 (1999))及び鬱血性心不全(Aukrust P.ら, Circulation 97, 1136-1143 (1998), Hohensinner PJ.ら, FEBS Letters 580, 3532-3538 (2006))を特徴する種々の疾患において見出される、単球及び白血球に特異的な化学遊走物質並びに活性化剤である。決定的に、MCP−1又はそのレセプターCCR2を欠くノックアウトマウスは、炎症性病変に単球及びT細胞を補充することができない(Grewal I, S.ら, J. Immunol. 159(1), 401-408 (1997), Boring L.ら, J.Biol. Chem. 271 (13), 7551-7558 (1996), Kuziel W.A.ら., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(22), 12053-8 (1997), Luss.ら, J. Exp. Med. 187 (4), 601-8 (1998));さらに、MCP−1中和抗体又は他の生物学的アンタゴニストでの治療は、いくつかの動物モデルにおいて炎症を低減することができる(Lukacs N. W.ら, J. Immunol., 158 (9), 4398-4404(1997), Flory CM.ら, 1. Lab. Invest. 69(4), 396-404(1993), Gong J. H.ら, J. Exp. Med. 186 (1), 131-7 (1997), Zisman D.A.ら, J.Clin. Invest. 99(12), 2382-6 (1997))。最終的に、LDL−レセプター/MCP−1欠損マウス及びapoB−遺伝子導入/MCP−1欠損マウスは、WT MCP−1株と比較してそれらの大動脈全体にわたって、著しく少ない脂質沈着及びマクロファージ蓄積を示す(Alcami A.ら, J. Immunol. 160(2), 624-33 (1998), Gosling J.ら., J. Clin. Invest. 103 (6), 773-8 (1999))。
【0004】
Potzingerら(Biochemical Society Transactions, 34, 2006, 435-437)は、炎症状態におけるタンパク質ベースのGAGアンタゴニストとして、改質化されたIL−8タンパク質の生成を記載する。
【0005】
Piccininiらは、増大したグリコサミノグリカン結合上で制限された数の部位特異的MCP−1突然変異体の効果を示している(J Biol Chem.2010 Jan 22.[刊行に先駆けてのEpub])。
【0006】
Proudfootら( Proc.Natl.Acad.Sci., 100, 4, 2003, 1885-1890)は、ケモカイン、特にMCP−1の他のものGAG結合部位中の突然変異の効果を試験した。
【0007】
US2003/0162737は、肺性高血圧症の治療のための拮抗的MCP−1突然変異タンパク質を開示している。前記MCP−1突然変異タンパク質は、タンパク質のN−末端でN−末端アミノ酸1〜10または2〜8の欠失までいくつかの欠失を含む。さらに突然変異タンパク質はアミノ酸22位または24位での変異を含んでいてもよい。
【0008】
Steitz S ら(FEBS Letters, 430, 3, 1998, 158-164)は、レセプター結合上のN−末端改質化の役割を試験した。アミノ酸13位および18位の置換を含むMCP−1突然変異体が開示された。Y13Aは、THP−1化学走化性を誘導するための機能において劇的な喪失を示した。
【0009】
Lubkowski J.ら(Nature Structural Biology, 4, 1, 1997, 64.69)は、組換えヒトMCP−1のX−線結晶構造を試験した。タンパク質のN−末端を改質化させ、かつその活性における効果を測定した。特に10位および13位の改質化は、MCP−1の活性を低下させ、かつダイマー安定化における効果を有していた。突然変異体の損なわれた化学走化性活性は、Tyr28、Arg29、Arg30およびAsp68について、機能的有意性を示唆した。これは、電荷アミノ酸(Arg、Asp)が交互のダイマーを脱安定化し、かつ非電荷残基の導入は安定性を顕著に増加させることができることを強調した。
【0010】
第1のケモカインおよびそのレセプターが同定されたことから、通常および疾病の生理におけるその役割を正確に理解することの重要性がより高まっている。従来の薬剤のものとは異なる作用様式を有する新規抗炎剤のための一定の要求は、新規タンパク質ベースのGAG拮抗物質の開発およびその炎症状態における使用を支持する。
【0011】
昨年、MCP−1とCCR2との相互作用およびGAGSが分子ベースでより詳細に研究され、MCP−1の生物学的作用の効果的なアンタゴニストとすべく、ケモカインの標的化された設計が実現可能となる。
【0012】
この目的のために、グリコサミノグリカン結合に関するその野生型相補的部位と競合し、かつ、白血球の低減されたまたはノックアウトされた活性化を示す、いくつかの組換えMCP−1突然変異体が製造された。
【0013】
したがって、本発明の一の課題は、特に炎症またはアレルギーの過程における、GAG相互作用をMCP−1ベースの突然変異タンパク質で拮抗することによって、白血球、特に単球およびT細胞の遊走を抑制することである。
【0014】
野生型GAG結合領域の改質化または新規GAG結合領域のMCP1タンパク質への導入によって、かつ同時に、そのGPCR活性、特にケモカインのCCR2活性をノックアウトまたは減少させることによる、より高いGAG結合アフィニティーを有するMCP−1突然変異体が、W02009/015884A1中に記載されている。W02009/015884A1では、MCP−1タンパク質の領域に塩基性および/または電子供与性アミノ酸を導入するか、あるいは天然のアミノ酸と塩基性および/または電子供与性アミノ酸を置き換えることによって、かつ場合によってはさらに前記MCP−1タンパク質のN−末端領域をアミノ酸の付加、欠失および/または置換することによって、場合によってはN−末端メチオニン(M)を突然変異MCP−1タンパク質に付加することによって、化学走化活性の部分的または完全な喪失を生じるMCP−1タンパク質が開示されている。前記MCP−1突然変異体は、特に、標準的なGAGs(ヘパリンまたはへパラン硫酸)に対して少なくとも5倍の改善されたKdを示しうるものであって、かつこれらは、標準化された単球細胞構造におけるカルシウム放出の誘導が欠失または減少している。
【0015】
本発明によれば、さらに増加したGAG結合アフィニティーを有する新規MCP−1突然変異体が、標準的なGAGS(ヘパリンまたはへパラン硫酸)に対して、野生型と比較して少なくとも6倍の改善されたKdを示すように開発された。これは、野生型タンパク質の17位および/または34位のアミノ酸を特異的に改質化することによって達成される。本発明の特別な実施態様によれば、さらにMCP−1突然変異体は、アミノ酸21位の改質化を含む。
【0016】
本発明による突然変異体MCP−1タンパク質はさらに、突然変異体MCP−1タンパク質またはMCP−1突然変異タンパク質をコードするポリ核酸分子、MCP−1突然変異タンパク質をコードする単離されたDNA分子を含むベクターならびに製薬学的許容性のキャリアーを含む医薬組成物として配合されていてもよい。
【0017】
前記MCP−1突然変異タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含有するベクターは、それぞれの野生型タンパク質の生物学的活性を阻害または抑制するために使用することができる。
【0018】
本発明によるMCP−1突然変異タンパク質は、本発明によれば、慢性または急性の炎症性疾患またはアレルギー症状を治療するための医薬品を製造する方法において使用することができる。好ましくは、この疾患は、リウマチ様関節炎、ブドウ膜炎、炎症性腸炎、心筋梗塞、鬱血性心不全、糖尿病性合併症(たとえば網膜疾患、壊疽等)、多発性漿膜炎または虚血再灌流障害を含む群から選択される。
【0019】
増加したGAG結合アフィニティーは、GAG結合領域中の塩基性および/または電子供与性アミノ酸の相対量を増加させることによって導入することができ(さらに、本願発明において参考のためにのみ記載するWO05/054285中で記載されている)、これによって中性のGAG結合タンパク質との競合剤として作用する改質化タンパク質を導く。これは、特にインターロイキン−8に関して示された。GAG結合領域の特異的位置および少なくとも2個の塩基性/電子供与性アミノ酸を選択的に導入することによるその改質化は、MCP−1タンパク質に関して開示されていない。
【0020】
さらに、MCP−1のアミノ末端は、そのGCGレセプターCCR2を介してのケモカインシグナルのための本質的な要素として見出された。MCP−1ベースのCCR2アンタゴニストを製造するために、他に、GAG結合を完全にノックアウトし、かつCCR2結合を無損傷のまま維持する方法で、MCP−1を製造した(W003084993A1)。この理由から、好中球上のCCR2レセプターを遮断することによってMCP−1−介在型シグナリングを遮断し、かつGAG鎖を介して内皮上の付着を防止することが意図された。したがって、内皮上のGAG鎖を遮断することによってこのアプローチを確実にすること(より高いGAG結合アフィニティーを製造することによって)、およびMCP−1のCCR2結合をノックアウトすることについては明確にされていない。
【0021】
本発明は、野生型MCP−1タンパク質と比較して増加したGAG結合アフィニティーおよび減少したGPCR活性を有する、新規MCP1突然変異タンパク質を提供し、この場合、このタンパク質は、MCP−1タンパク質を構造保存的に少なくとも2個のアミノ酸を塩基性および/または電子供与性アミノ酸により置換することによって改質化することを特徴とし、その際、17位または34位の少なくとも1個のアミノ酸を置換し、かつ場合によっては21位、23位または47位の少なくとも1個のアミノ酸を置換する。好ましくは、突然変異体は、17位および34位の双方における改質化を含む。より好ましくは、突然変異体は、21位でのさらなる改質化を含む。
【0022】
代替的に、突然変異体は、17位または34位での改質化を、21位での改質化との組合せで含む。
【0023】
17位および/または34位でのアミノ酸の置換によって、GAG結合アフィニティーは、公知のMCP−1突然変異タンパク質と比較して>1.5倍、好ましくは>2倍潜在的にさらに増加させることができる。前記位置は、驚くべきことに、GAG結合アフィニティーの点で高く関連することが見出され、それというのも、2個の硫酸イオンが公知MCP−1結晶構造の一つにおけるこれらの残基付近において発見されたためである。潜在的第2結合部位は、GAGsのためのMCP−1の範囲内において良好にシミュレーションされた。したがって、提案された方法による前記位置へのさらなる塩基性アミノ酸の導入は、より高いGAG結合アフィニティーのための可能性のみならず、さらに、これら突然変異体の作用様式を治療的場面に拡大しうる。
【0024】
特別な実施態様によれば、改質化されたMCP−1タンパク質はさらに、前記MCP−1タンパク質のN−末端領域の最初の1〜10個のアミノ酸の少なくとも1個のアミノ酸のさらなる改質化を、少なくとも1個のアミノ酸残基の付加、欠失および/または置換により含む。
【0025】
塩基性または電子供与性アミノ酸によって置換される天然のアミノ酸が塩基性アミノ酸である場合には、置換されているアミノ酸は、より塩基性のアミノ酸でなければならないか、あるいは、天然のアミノ酸残基と比較して、異なる構造的フレキシビリティーを含むものでなければならない。本発明による構造的フレキシビリティーは、GAGリガンド結合の結果として導入物の適合度合いによって定められる。
【0026】
本発明の特別な実施態様によれば、塩基性および/または電子供与性アミノ酸によって置換された天然のアミノ酸は、非塩基性アミノ酸である。
【0027】
本出願において使用されている定義によれば、さらに、用語MCP−1突然変異タンパク質はなおもケモキシン様のフォールドを示すが、単球またはT細胞化学走化性およびCa放出のようなケモキシン活性に影響を与えるかあるいはノックアウトするこれらの任意の部分またはフラグメントを含むものであってもよい。
【0028】
本発明によって定義された用語「付近」は、GAG結合部位の配座的近傍の範囲内に局在するが、GAG結合部位には位置しないアミノ酸残基を含む。配座的近傍は、タンパク質のアミノ酸配列のGAG結合アミノ酸残基に隣接して局在するアミノ酸残基であるか、あるいはタンパク質の3次元構造またはフォールディングにより配座的に隣接するアミノ酸として定義することができる。
【0029】
本発明による用語「隣接」は、20nmを上回ることなく、好ましくは15nm、好ましくは10nm、好ましくは5nmの改質化すべき各アミノ酸のカットオフ半径の範囲内に存在するものとして定義される。
【0030】
その生物学的機能を実施することが可能であるために、タンパク質は、数多くの非共有相互作用、たとえば水素結合、イオン相互作用、ファンデルワールス力及び疎水性パッキングによってもたらされる1個またはそれ以上の特異的な空間的な配座にフォールディングされる。三次元構造は、公知方法、たとえばX線−結晶構造解析またはNMR-分光分析によって測定することができる。
【0031】
天然のGAG結合部位の同定は、突然変異誘発試験によって測定することができる。タンパク質のGAG結合部位は、タンパク質表面上に局在する塩基性残基によって特徴付けられる。これら領域がGAG結合部位を定めるかどうかを試験するために、これらの塩基性アミノ酸残基は突然変異誘発され、かつヘパリン結合アフィニティーの減少を測定することができる。これは、技術水準から公知の任意のアフィニティー測定技術によって実施することができる。
【0032】
塩基性または電子供与性アミノ酸の導入または置換による合理的にデザインされた突然変異は、天然のGAG結合部位付近において、外来アミノ酸を導入するために実施することができ、かつGAG結合アフィニティーの増加を生じさせる。この大きさは、MCP−1タンパク質に導入された少なくとも1個の付加的なアミノ酸によって、特に少なくとも2個のアミノ酸、とりわけ少なくとも3個のアミノ酸を導入することによって増加させることができる。
【0033】
遠紫外線−CD分光分析によって測定された改質化された構造の、野生型MCP−1構造からの30%未満、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満の偏差は、本発明による構造保存的改質化として定義される。
【0034】
代替的な実施態様によれば、構造保存的改質は、MCP−1タンパク質のN末端の範囲内に局在するものではない。
【0035】
wtMCP−1のGAG結合領域に関する重要な残基はN17、S21、Q23、S34および/またはV47である。17位または34位の少なくとも1個のアミノ酸および場合によっては21位、23位または47位の少なくとも1個のアミノ酸は、塩基性および/または電子供与性アミノ酸の挿入によって改質化されなければならない。17位および34位において、場合によっては少なくとも1個の付加的な改質化との組合せにおいて改質化される場合には、GAG結合アフィニティーはさらにこれら位置における単一の改質と比較してさらに増加する。
【0036】
本発明によるMCP−1タンパク質は、N17、S21、S34および/またはV47のアミノ酸改質の任意の組みあわせを有していてもよく、これによって、wtMCP−1に対して増加したGAG結合を有するMCP−1突然変異タンパク質を生じる。
【0037】
特に、17位、21位、23位、34位および47位におけるすべてのアミノ酸は、本発明にしたがって改質化することができる。
【0038】
改質化は、たとえば、少なくとも2個の塩基性または電子供与性アミノ酸による置換または交換であってもよい。電子供与性アミノ酸は、電子または水素原子を供与するこれらのアミノ酸である(Droenstedt定義)。特に、これらのアミノ酸は、NまたはQであってもよい。塩基性アミノ酸は、R、KおよびHの群から選択することができる。
【0039】
本発明の他の実施態様によれば、アミノ酸18位におけるRは、Kによって改質化されていてもよいか、および/または19位でのKは、Rによって改質化されていてもよいか、および/またはP8は、少なくとも部分的に減少した改質化されたMCP−1のレセプター結合を受け入れるために任意のアミノ酸置換基によって改質されていてもよい。
【0040】
代替的に、本発明のMCP−1突然変異タンパク質は、13位におけるYがさらに任意のアミノ酸残基、好ましくはAによって置換されていることを特徴とする。
【0041】
Y13およびR18は、さらにシグナリングのための重要な残基であると示されており、かつこれら残基の他のアミノ酸残基での置換は、化学走化性を誘導することのできないタンパク質を生じさせる。MCP−1変異体の欠失及び置換の双方において報告された二次元の1H−15N HSQCは、これらの突然変異体が、ミスフォールドタンパク質を生じさせないことを示す(Chad D. Paavola et al., J. Biol. Chem., 273 (50), 33157-33165(1998))。
【0042】
さらに、N−末端メチオニンは、THP−1細胞上のCCR2に関するMCP−1の結合アフィニティーを減少させ (Hemmerich S. et al, Biochemistry 38 (40), 13013-13025 (1999))、その結果、[Met]−MCP−1の潜在的化学走化性は、野生型よりもおおよそ300倍低い(Jarnagin K. et al., Biochemistry 38, 16167-16177 (1999))。これは、化学走化性を誘発しないがレセプターに対して高いアフィニティーで結合する潜在的レセプターアゴニスト[Met]−RANTESとは対照的である。
【0043】
したがって、本発明の代替的実施態様によれば、MCP−1突然変異タンパク質は、N−末端Metを含有していてもよい。N−末端メチオニンを有するMCP−1変異体は、ヘパリンに対して明らかに増加したアフィニティーを有することが明白となる(Lau E.K. et al., J. Biol. Chem. 279(21), 22294-22305(2004))。
【0044】
本発明によれば、改質がなされてもよい野生型MCP−1領域のN−末端領域は、最初の1〜10のN−末端アミノ酸を含有する。さらに本発明によるMCP−1突然変異タンパク質は、N−末端アミノ酸残基2〜8が欠失していてもよい。残基2〜8の切断([1 +9-76]hMCP-1)は、化学走化性を誘発することができないタンパク質を生じる。
【0045】
GPCR活性をノックアウトすると同時に、GAGsのアフィニティーを改善するために、改質化の数を可能な限り最小限にし、部位特異的MCP−1−突然変異を、生物情報的手段及び生物構造的手段を用いてデザインした。これは、wtMCP−1の構造が知られていることから、突然変異体が合理的にデザインされたことを意味する。これは、より高いGAG結合アフィニティーを獲得するために、より多くのGAG結合部位が、すでに存在するGAG結合領域中に、GAG結合に直接含まれず、構造的にあまり重要ではなく、かつ塩基性アミノ酸、たとえばKまたはRの付近にさらされる溶剤であるアミノ酸を交換することによって導入されることを意味する。このように実施することにより、MCP−1の特異的GAG相互作用部位を保存するために特別な注意が払われ、すなわち、これらのアミノ酸は、GAGリガンドとの水素結合およびファンデルワールス接触と同時に、MCP−1の表面中に含まれるタンパク質−タンパク質相互作用に基づくケモカインネットワークに強い影響を及ぼすケモナインの能力を保存するための、ケモカインのすべてのフォールディングに関して重要な役割を示す。
【0046】
改質化されたMCP−1分子のアミノ酸配列は、一般式によって記載することができる:
一般式:

[式中、
Z1はPおよびA、G、Lからなる群から選択され、好ましくはAであり、
Z2はRおよびKからなる群から選択され、
Z3は、KおよびRからなる群から選択され、
X1はYおよび/またはAからなる群から選択され、好ましくはAであり、
X2はN、R、K、H、NまたはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X3はS、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X4はR、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKまたはRであり、
X5はS、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X6はV、R、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
かつ、nおよび/またはmは0または1であってよく、
かつ、アミノ酸X1〜X6の少なくとも2つは改質化されているが、但し、X2またはX5位の少なくとも1つおよび場合によってはX1位、X3位またはX4位の少なくとも1つが改質化されていることを条件とする]
のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、MCP−1突然変異タンパク質。
【0047】
特に、本発明によるMCP−1突然変異タンパク質は、

の群から選択することができる。
【0048】
本発明の他の態様は、前記に示すような本発明によるタンパク質をコードする単離されたポリ核酸分子である。
【0049】
ポリ核酸はDNAまたはRNAであってもよい。これに関して、本発明によるMCP−1突然変異タンパク質を導く改質化は、DNAまたはRNAレベルにおいて実施される。本発明により単離されたポリ核酸分子は、診断方法と同時に遺伝子治療のために適しており、かつ本発明によるMCP−1突然変異タンパク質のラージスケールでの製造に適している。
【0050】
他の態様は、前記に示すような本発明による単離されたDNA分子を含むベクターに関する。ベクターは、効果的なトランスフェクションと同時にタンパク質の効果的な発現に必要なすべての調節要素を含有する。このようなベクターは従来知られており、かつ任意の適したベクターは、この目的のために選択することができる。
【0051】
本発明の他の態様は、前記に示すような本発明によるベクターでトランスフェクトされた組換え細胞、特に非ヒト細胞に関する。細胞のトランスフェクションおよび組換え細胞の培養は、公知技術と同様に実施することができる。このような組換え細胞ならびにこの細胞由来の任意の子孫細胞は前記ベクターを含む。このため、連続的にまたは活性時にベクターに依存してMCP−1突然変異タンパク質を発現する細胞系を提供する。
【0052】
本発明の他の態様は、前記に示すような本発明によるMCP−1突然変異タンパク質、ポリ核酸またはベクターおよび製薬学的認容性のキャリアーを含む、医薬組成物に関する。当然のことながら、医薬組成物はさらに、医薬組成物中に通常存在する付加的な物質、たとえば塩、緩衝液、乳化剤、着色剤等を含有していてもよい。
【0053】
医薬組成物は、従来公知の任意の経路により投与することができ、特に経口、皮下、静脈内、筋肉内投与であるか、あるいは吸入による。
【0054】
本発明の他の態様は、前記に示すような本発明によるMCP−1タンパク質、ポリ核酸またはベクターを、それぞれの野生型タンパク質の生物学的活性をinvivoまたはinvitroで阻害または抑制するための方法における使用に関する。前記に示すように、本発明によるMCP−1突然変異タンパク質はアンタゴニストとして作用することができ、これにより、公知の組換えタンパク質において生じる副作用は、本発明によるMCP−1−突然変異タンパク質を用いた場合には生じえない。この場合において、副作用とは特に炎症性反応を招く生物学的活性であってもよい。
【0055】
したがって、前記に示す本発明によるMCP−1タンパク質、ポリ核酸またはベクターの他の使用は、炎症状態の治療のための医薬品を製造するための方法における使用である。特に、副作用を生じることなく、あるいは減少した副作用でアンタゴニストとして作用し、かつ特に、慢性または急性の炎症性疾患または症状の治療のために特に適している。したがって、本発明の他の態様は、炎症性疾患またはアレルギー症状の治療のための方法であり、その際、本発明によるMCP−1突然変異タンパク質、本発明による単離されたポリ核酸分子またはベクターまたは本発明による医薬製剤が、患者に投与される。
【0056】
より詳述すれば、炎症疾患又アレルギー状態は、呼吸性アレルギー疾患、例えば喘息、アレルギー性鼻炎、COPD、過敏性肺疾患、過敏性肺臓炎、間質性肺疾患、(例えば、特発性肺線維症、又は自己免疫疾患に関連する)、アナフィラキシーもしくは過敏症反応、薬物アレルギー及び虫刺されアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎;脊椎関節症、強皮症;乾癬及び炎症性皮膚症、例えば皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、蕁麻疹;脈管炎;炎症性成分を含む病因論での自己免疫疾患、例えば関節炎(例えばリウマチ様関節炎、慢性プログレジエンテ(progrediente)関節炎、乾癬性関節炎及び変形性関節炎)、並びに骨欠如、炎症性疼痛、過敏症(気道過敏症及び皮膚過敏症の双方を含む)及びアレルギーを含む炎症状態及びリウマチ疾患を含むリウマチ疾患である。特定の自己免疫疾患は、自己免疫の血液学的疾患(例えば溶血性貧血、再生不良性貧血、真正赤血球性貧血及び突発性血小板減少症を含む)、全身性エリテマトーデス、多発性軟骨症、ヴェグナー肉芽腫症、真菌性皮膚疾患、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、乾癬、スティーブン−ジョンソン症候群、自己免疫性炎症性腸疾患(例えば潰瘍性大腸、クローン病及び過敏性腸症候群を含む)、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス、多発性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、若年性糖尿病(I型糖尿病)、ブドウ膜炎(前部及び後部)、乾性角結膜炎及び春に起こる角結膜炎、間質性肺線維症、並びに腎炎(例えば突発性ネフローゼ症候群又は微小病変症を含む、ネフローゼ症候群を有する及び有さない);同種移植片拒絶もしくは異種移植片拒絶又は移植片対宿主疾患、及び臓器移植に関連する動脈硬化を含む移植片拒絶(例えば、心臓、肺、心臓−肺の混合型、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚、又は角膜移植を含む移植において);アテローム性動脈硬化;皮膚又は臓器の白血球浸潤を伴う癌;血管の介入から生じる狭窄又は再狭窄を含む、血管系、特に動脈、例えば冠動脈の狭窄又は再狭窄、及び新生内膜増殖;並びに虚血再灌流障害、造血器腫瘍、サイトカイン誘導毒性(例えば敗血症性ショック又は内毒素性ショック)、多発性筋炎、皮膚筋炎、及びサルコイドーシスを含む肉芽腫疾患を含む炎症性反応を含む疾患又は状態である。
【0057】
好ましくは、前記の炎症性疾患は、リウマチ様関節炎、ブドウ膜炎、炎症性腸疾患、心筋梗塞、鬱血性心不全又は虚血再灌流障害を含む群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】MCP−1突然変異体の配列を示す図(野生型ケモトキシンに対する突然変異には下線を付す)
【図2】天然のグリコサミドグリカンリガンドであるへパラン硫酸に対するMCP−1およびMCP−1突然変異体のアフィニティーを示すグラフ図(解離定数Kdとして表す)
【図3】未分画へパラン硫酸に対するwtMCP−1/CCL2、Met−MCP−1(Y13AS21K)およびMet−MCP−1(Y13AS21KQ23R)の表面プラズモン共鳴分析−結合を示すグラフ図
【0059】
以下の実施例は、本発明の内容を制限することなしに本発明を詳細に記載する。
【0060】
実施例
突然変異体について、以下の試験をおこなう。
【0061】
− 等温蛍光滴定法(IFTs)により、グリコサミノグリカンリガンド、たとえばへパラン硫酸に対する増加した結合アフィニティーを調べる。この方法が、非固定化リガンドを基礎とすることから、この結果は、以下に概略を示すSPR法に対して相補的である。
【0062】
− 表面プラズモン共鳴(SPR)試験により、野生型タンパク質に対するその改善された結合アフィニティーならびにその改善された結合動態を、野生型タンパク質に対して調べる。この目的のために、潜在的GAGリガンド(へパラン硫酸またはコンドロイチン硫酸)は、SPRチップ上に固定化され、かつ定流試験において干渉を定量化する。
【0063】
− 蛍光標識されたwtMCP−1ならびにさらなるケモカインを使用する競合試験において、新規MCP−1突然変異体のすでに存在するMCP−1突然変異体および野生型に対する競合的利点を調べる。
【0064】
実施例1
WT MCP−1のための遺伝子は、E.Coli中での発現のために最適なコドン使用量を含む標準化された遺伝子合成技術により構築され、かつpJExpess411ベクター(1)中にクローニングした。ベクターの特徴は、高いレベルのT7プロモーター、E.Coli中の遺伝子のIPTG−誘導型発現およびE.Coliの選択のためのカナマイシン耐性マーカーを含むことである。それぞれの突然変異体は、デノボ合成により、相当する遺伝子中に導入され、かつpJExpess411ベクター中に再度組み込まれた。このコンストラクトは、タンパク質発現前にDNAシークエンシングによってチェックされた。MCP−1突然変異遺伝子を含有するpJExpess411プラスミドは、E.Coli菌株BL21−DE3中に形質転換された。出発培養物が調製され、かつタンパク質発現のために使用された。培養物は、3Lの三角フラスコ中で、37℃で、30μg/mLのカナマイシンを含有するLBブロス中で振とうしながら、OD600が0.8になるまで培養した。タンパク質発現は、1.0mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドの添加によって導いた。細胞は、さらに3〜4時間に亘って振とうしながらインキュベートし、かつ10〜15分に亘って6000×gで遠心分離によりハーベストした。それぞれ湿った細胞ペレット1gを、10mMのKHPO(pH7.5)を含有する4mlの溶液バッファーに再懸濁し、かつ、氷上で超音波により分断した。ライセートを、20分に亘って20000×gで4℃での遠心分離によって洗浄した。封入体ペレットを、湿った細胞1gあたり10mMのKHPO(pH7.5)、6Mのグアニジン塩酸塩を含有する10mlの溶液バッファー中で、3時間に亘って室温で攪拌しながら溶解した。20分に亘って20000×gで4℃での遠心分離後に、上清を10mMのKHPO(pH7.5)に対して4℃で透析した。沈殿物をスピンダウンさせ、かつ溶液をSP−セファロース高性能カラム(Amerscham Bioscience)上に装填した。突然変異体を10mMのKHPO(pH7.5)から10mMのKHPO(pH7.5)、1MのNaClからなる線形勾配で75分に亘って2ml/分の流速で溶出し、MCP−1突然変異体を0.6〜0.8MのNaClで溶出した。ピーク画分をプールし、かつ逆相HPLCによりC18カラム上で精製した。突然変異体を、非線形勾配で溶出した:10%〜40%のアセトニトリル(0.1%TFA)で5分、40%〜60%のアセトニトリル(0.1%TFA)で20分および60〜90%のアセトニトリル(0.1%のTFA)で5分、その際、流速は10ml/分であった。タンパク質は48±5%のアセトニトリルを溶出し、かつ前記に示すようにSP−セファロース高性能カラム上にこれらを装填することによって再生した。ピーク画分を、PBSに対して透析し、かつ1ml/mlに濃縮した。MCP−1突然変異体の純度および同定を、銀染色SDS−PAGEおよびナノ−HPLCESI−MS/MSでそれぞれ確認した。
【0065】
蛍光分光分析法−定常状態の蛍光測定を、Jasco FP6500 spectrofluorimeter(Japan)LS50B蛍光計上で実施し、かつprogram Origin(Microcal Inc., Northampton, MA)を用いて分析した。温度を、すべての試験中で外部の水浴と連結させることによって20℃に維持した。
【0066】
等温蛍光滴定試験(IFT)−PBS中のそれぞれの突然変異体1μMの溶液の発光スペクトルを300〜400nmの範囲で、282nmの励起上で記録した。励起および発光スリット幅を、それぞれ3nmおよび5nmに設定した。スペクトルを500nm/分の速度で記録した。GAGアリコートを添加し、引き続いて、次のスペクトルが記録される前に1分の平衡化時間を置いた。バックグランドを減じた後にスペクトルを積算し、かつ3個の独立した試験から得られた蛍光強度中の正規化平均変化率(normalized mean changes)(−ΔF/F)を相加平均し、かつ添加したリガンドの容積修正濃度に対してプロットした。得られる結合等温線を、その他の文献でも示すような二分子反応を示す反応式に対して、非線形回帰により分析した。
【0067】
結果は図2に示す。
【0068】
実施例2
表面プラズモン共鳴分析−未分画へパラン硫酸に対するwtMCP−1/CCL2および本発明によるMCP−1突然変異体の結合を、BlAcore X100装置(BlAcore AB, Uppsala, Sweden)上で試験した。ビオチン化ヘパリンのストレプトアビジン被覆されたSAセンサチップ上への固定化を、近年確立されたプロトコールに従って実施した。正味の結合相互作用を25℃で、0.05%(v/v)Tweem20サーファクタント(BlAcore AB)を含有するPBST(pH7.4)中で記録した。異なるタンパク質濃度の15分のインジェクションを30μl/分の流速で60s〜120sの接触時間で実施し、引き続いて、緩衝液中で60s〜120sの解離時間で、かつ1Mの塩化ナトリウムのパルスで完全な再生に導いた。それぞれのセンサーグラムのプラトーに相当する、GAG表面に対するタンパク質結合の最大の応答シグナルは、スカッチャードプロット分析及び平衡解離定数の算定のために使用した。試験はすべて、1nM〜1.5μMの範囲のタンパク質濃度で実施した。BIA評価ソフトウエアを用いて、1:1の定常状態相互作用モデルにしたがっての解離段階を別個にフィッティングすることにより解離速度定数(koffs)を算定した。
【0069】
結果を図3に示す。
【0070】
実施例3
チオグリコレート誘発腹膜炎モデルにおける炎症性単球浸潤上でのMCP−1突然変異体の抑制効果
マウスにおけるチオグリコレート(TG)誘発腹膜炎モデルは、急性炎症モデルであって、TG注入後約16〜24時間をピークとする、単球/マクロファージ浸潤により特徴付けられる。
【0071】
したがって、in vivoでの抗単球遊走活性を評価するためにこのモデルを選択することができる。
【0072】
滅菌済みチオグリコレート培地(4%)の1mLを、1μgまたは50μg/マウスのMCP−1突然変異タンパク質の存在下また不在下で、腹腔内(i.p.)注入し、かつ洗浄液を16時間後にハーベストし、かつフローサイトメトリーで分析した。
【0073】
実施例4
MCP−1突然変異体による試験的自動免疫ブドウ膜炎の改善
ブドウ膜炎は、眼内部の炎症性自動免疫疾患であり、工業国における失明の主要原因の一つである。ブドウ膜炎の動物モデルはヒトの疾患と多くの特徴を共有し、したがって、ブドウ膜炎の病理を理解するための助けとなり、かつ、新規治療方法および処方の評価および導入を可能にする。
【0074】
ルイスラットにおける試験的自動免疫ブドウ膜炎(EAU)は、網膜抗原に対して特異的なCD4+T細胞によって介在される。これらは目に入るやいなやサイトカインおよびケモカインを分泌し、眼に白血球を引き寄せる。これらの炎症性浸潤、主に単球/マクロファージが、細胞間組織の損傷の原因となる。
【0075】
したがって、MCP−1突然変異体の効果は、自動免疫ブドウ膜炎の試験ラットモデルにおいて試験される。急性炎症は、フロイント完全アジュバント(FCA)中で双方の後ろ足に、胎児網膜S−抗原由来のブドウ膜炎性ペプチドPDSAgの適用されることによって達成され、かつ、マイクバクテリウムツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)菌株H37RAで強化される。これは引き続いて眼に遊走し、かつ浸潤するT細胞の最初の活性化を導く。この現象は、免疫化後8日前後に生じはじめる。5個体のルイスラット群を、MCP−1突然変異体で、PBS中に溶解された100μg/動物の用量で、あるいはPBSのみで、能動免疫後第1日から第22日まで毎日IP注射することにより処理した。疾患の時間的経過は、オプタルモスコープ(ophthalmoscope)を用いて動物を日々試験し、かつブドウ膜炎は、両眼/動物群/日の平均臨床的スコアとして臨床的に等級付けした。
【0076】
実施例5
MCP突然変異体によるapoE-/-マウスの再狭窄のパラメータの改善
心筋梗塞の臨床的症状発現を伴うアテローム性動脈硬化症は、ほとんど世界的な死亡原因である。アテローム性動脈硬化症は、動脈壁の慢性炎症性疾患であり、そのレクリートメントおよび活性化を増強させるサイトカインおよびケモカインを放出する、単核細胞の流入によって特徴付けられる。したがって、欠陥のある単球レクリートメントは、将来的臨床的アプローチのための重要な治療ターゲットを示しうる。
【0077】
apoE-/-マウスにおけるアテローム性動脈硬化症のすべての徴候に強い影響を与える、MCP−1突然変異体の能力について試験する。
【0078】
アテローム発生食におけるマウスについて、総頸動脈の針金損傷モデルにし、かつ内皮露出は、血管に沿っての3回のパスによって達成することができる。このマウスを、PBS中に溶解された10μgのMCP−1突然変異体またはビヒクル(PBS)で、腹腔内(i.p.)処理し、損傷の一日前およびその後3週間に亘って毎日処理をした。3週間後に頸動脈を、4%パラホルムアルデヒドでのinsitu灌流固定後に切断し、かつ、パラフィン包埋を行う。
【0079】
同時に、頸動脈を異なる動物において露出後24時間、シリンジポンプを用いて、MOPS緩衝生理学的食塩溶液でex vivo灌流するために単離した。単球MonoMac6細胞(500,000/mL)を、カルセイン−AM(分子プローブ)で標識化し、かつ1μg/ml、5μg/mlおよび10μg/mlのMCP−1突然変異体タンパクで頸動脈をプレインキュベーションした後に5μL/分で灌流した。損傷した血管壁(拘束、圧延)に対するMonoMac6付着性相互作用は、ストロボ式エピフルオレセンス照明を用いて記録する。
【0080】
実施例6
MCP−1突然変異体による心筋梗塞のパラメータの改善
心筋梗塞(MI)のマウスモデルにおけるMCP−1突然変異タンパク質活性についてのさらなる試験をおこなった。さらに心筋梗塞は、サイトカインおよびケモカイン増加によって特徴付けられる複雑な炎症反応を導き、これは、虚血部位での単球レクリートメントを招く。欠陥のある単球浸潤を有する動物モデルにおける研究は、心筋梗塞の試験的誘発後の新生内膜形成の減少および保存された心機能を示す。
【0081】
MIは、マウスの対照群およびMCP−1突然変異タンパク質処理群で、左側前大腿部下行動脈(left anterior descending artery)の近位の30分の結紮により誘発する。10、5および1μgの用量での突然変異体MCP−1を、IP10分および術後2時間で提供し、かつ7日間に亘る毎日の処理によって実施することができる(群の大きさ:n=5)。
【0082】
実施例7
多発性硬化症の動物モデルにおけるMCP−1突然変異体の効果
多発性硬化症(MS)は、ヒト中枢神経系(CNS)の最も一般的な炎症性脱髄疾患である。MS病理は、血液−脳関門(BBB)の分断によって特徴付けられ、CNSへのマクロファージおよびTリンパ球の浸潤を伴う。これら細胞のCNS柔組織への遊走は、ケモカインにより少なくとも部分的に調整されているようであり、特に、MCP−1は主要な役割を示すものと考えられる。
【0083】
MSにおけるMCP−1およびCCR2の発現および細胞局在化は、3個のコンパートメント中で示された:脳、脳脊髄液および血液
特に重要であるのは、活性化された脱髄ならびに慢性の活性化されたMS病変において、反応性の肥厚性神経膠星状細胞が、MCP−1に関して強力に免疫活性的であるという報告された観察であり、これは、レクリートメントにおけるMCP−1の顕著な役割及びミエリン崩壊マクロファージの活性化を示唆し、かつそれによってMSの発生に寄与する。同様の研究において、脈管周囲のマクロファージおよび実質内泡沫状マクロファージは、MCP−1タンパク質を発現しない。泡沫状マクロファージは、抗炎症性M2マクロファージと類似の表現型を示し、これは同様に炎症の消散に寄与し、したがってさらなる病変発生の抑制および病変修復の促進のための重要な役割を有しうる。したがって、MCP−1を標的とする治療的アプローチは炎症性M1に特異的であっても、抗炎症性/修復M2マクロファージに悪影響を及ぼすものではない。
【0084】
MCP−1突然変異タンパク質は、C57BL/6雌マウス中でラット−MOG35−55誘発慢性EAEを試験することができる。腹腔内経路による40、200および400μg/kgでの処理(約1、5および10μg/マウス)は、免疫後第7日目において開始し、病理における臨床的徴候は存在しないが、しかしながら循環する1種または複数種のケモカイン(JEを含む:マウスMCP−1)の増加がすでに報告された場合には21日間に亘って継続させる。突然変異体MCP−1と同様の投与経路および処方で投与されたデキサメタゾン1mg/kgは、参考化合物として使用することができる。
【0085】
体重および臨床スコアは、動物が良好に生存しており、かつ疾病の経過の程度を評価するために毎日モニタリングする。脊髄および脳を捕集し、臨床スコア(TBA)上でのポジティブな効果に基づく炎症性浸潤および脱髄における治療効果を評価するために、組織学的分析を行う。追試は、再発緩解EZEモデル中で保存的/減少した再発率および重症度におけるMCP−1突然変異体の活性を評価するために実施することができる。この目的のために、MCP−1突然変異タンパク質は、PLP−SJLマウス再発緩解EAEモデルにおいて毎日投与することができる。毎日の読出しおよび終点は前試験と同様であるが、しかしながら再発および緩解の数および期間をさらに算定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型MCP−1タンパク質に対して増加したGAG結合アフィニティーおよび減少したGPCR活性を有するMCP−1突然変異タンパク質において、MCP−1タンパク質が、少なくとも2個のアミノ酸を塩基性および/または電子供与性アミノ酸で置換することによって構造保存的に改質化され、その際、17位または34位の少なくとも1個のアミノ酸および場合によっては21位、23位または47位の少なくとも1個のアミノ酸(番号付けは配列番号1に従う)が改質化されていることを特徴とする、前記MCP−1突然変異タンパク質。
【請求項2】
17位および34位のアミノ酸が改質化されている、請求項1に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項3】
21位のアミノ酸および17位または34位のアミノ酸が改質化されている、請求項1に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項4】
野生型MCP−1タンパク質のN−末端領域の最初の1〜10アミノ酸の少なくとも1個のアミノ酸が、少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失および/または置換によって改質化されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項5】
構造保存的な改質化が、野生型MCP1構造からの30%未満、好ましくは20%未満の構造の偏差である(遠紫外線CD分光分析計による測定による)、請求項1から4までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項6】
塩基性アミノ酸がR、K、Hからなる群から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項7】
電子供与性アミノ酸が、NまたはQからなる群から選択されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項8】
13位でのYがAによって置換されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項9】
N−末端Metを含む、請求項1から8までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項10】
N−末端アミノ酸残基2〜8が欠失している、請求項1から9までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質。
【請求項11】
一般式:

[式中、
Z1はPおよびA、G、Lからなる群から選択され、好ましくはAであり、
Z2はRおよびKからなる群から選択され、
Z3は、KおよびRからなる群から選択され、
X1は、Yおよび/またはAからなる群から選択され、好ましくはAであり、
X2は、N、R、K、H、NまたはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X3は、S、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X4は、R、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKまたはRであり、
X5は、S、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
X6は、V、R、K、H、Nおよび/またはQからなる群から選択され、好ましくはKであり、
かつ、nおよび/またはmは0または1であってよく、
かつ、アミノ酸X1〜X6の少なくとも2つは改質化されているが、但し、X2位またはX5位の少なくとも1つおよび場合によってはX1位、X3位またはX4位の少なくとも1つが改質化されていることを条件とする]のアミノ酸配列を含む、MCP−1突然変異タンパク質。
【請求項12】

からなる群から選択される、MCP−1突然変異タンパク質。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のタンパク質をコードする、単離されたポリ核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の単離されたDNA分子を含む、ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載のベクターでトランスフェクトされた、非ヒト組換え細胞。
【請求項16】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のタンパク質、または請求項13に記載のポリ核酸分子、または請求項14に記載のベクターおよび製薬学的に認容性のキャリアーを含む、医薬組成物。
【請求項17】
個々の野生型タンパク質の生物学的活性をin vitro阻害または抑制するための方法における、請求項1から12までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質、または請求項13に記載のポリ核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項18】
慢性または急性の炎症性疾患または自動免疫状態の治療のための医薬品を製造する方法における、請求項1から12までのいずれか1項に記載のMCP−1突然変異タンパク質、または請求項13に記載のポリ核酸分子、または請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項19】
炎症性疾患が、リウマチ様関節炎、ブドウ膜炎、炎症性腸疾患、心筋梗塞、鬱血性心不全又は虚血再灌流障害、多発性硬化症およびアテローム性動脈硬化症を含む群から選択される、請求項18に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−516143(P2012−516143A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546862(P2011−546862)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051128
【国際公開番号】WO2010/086426
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(505471923)プロットアフィン ビオテヒノロギー アクチエンゲゼルシャフト (4)
【住所又は居所原語表記】Impulszentrum Graz−West,Reininghausstrasse 13a,8020 Graz,Austria
【Fターム(参考)】